スフィーと聖なる花の都の工房 〜王立アカデミーのはぐれ綴導術士〜<1>【3章-2】
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「知らね。そういえばお前って<アカデミー>生なんだよな……だったら昼間の顔≠フ方がお前には向いてるのかもな。今度紹介してやるよ。でも今はコッチだ。向かいのコッチの店」

 言われて振り返る先にあった店≠見て、スフィールリアは「おっ」と声を上げた。

「この看板の出し方、フィルラールンのオヤジさんのお店とそっくりだ! なつかしいなぁー、わぁー!」

「看板の出し方?」

「うん。キーアのお父さんのお店とそっくりなんだ。見て見て。こうやって、((鋳細工|ちゅうざいく))の替わりに本物の武器をぶら下げておくの。刃先を潰してあるところまでおんなじ!」

 あぁ、とアイバは気のない返事をした。

「そういえば、ほかの武器屋じゃ見たことないやり方だな。常連になってっからもう気にしてもなかったけどな。てかキーアって人間だったのか」

 そう言って扉をくぐってゆく。

 あとを追い、またスフィールリアは驚いた。

「おっ――オヤジ、さんっ!?」

「あら、いらっしゃい――まぁ!」

 削り出しのような無骨な石製のカウンターの内側の席で、退屈そうにタブロイドを開いていた禿げ頭の店主。

「まぁ、まぁ、まぁ〜〜!」

 アイバとスフィールリアの姿をちらり見やると、顔を輝かせて近寄ってきた。

 全身を、クネクネとさせながら。

「なんてかわいらしいお客さん。お人形さんみたい! なに、なに、なに? どうしちゃったのよロイ! どこで引っかけてきたのかしら。貴族様? ギャクタマの輿? どこのお姫様?」

「ち、ちっっげぇぇぇんだよ! なんでドイツもコイツも面白がりやがってまったく……俺とコイツはそんなんじゃねぇ……!」

「んふ。照れちゃってかわいらしいんだから。ね、ロイはこう言ってるけど、どうなの実際っ」

 そんなことを言ってバチコンと片目を瞑ってくる店主。

 だがスフィールリアはそれどころではない。

 大口を開け、顔を真っ青に、ガタガタと震えながら、店主を指差していた。

「ど、どどどど、どうなのてオヤジさん、あわわ、あが……オヤジさんがどうしちゃったんですかっ!? ていうかなんでこんなところに!? キーアは!?」

 そう。

 禿げ上がった頭皮。筋骨隆々とした上半身に耐火エプロンという風体。肩に入った((刺青|いれずみ))の柄。

 この武器屋の店主、フィルラールンで彼女も散々と世話になってきた、幼馴染の父親とうりふたつなのである!

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 というかもはや同じ顔であった。だというのにこの女のような物腰……。

 スフィールリアが恐怖するのも無理のないことであった。

「? だれよキーアって?」

 しかし店主はとことん訝しげに首をかしげるだけだった。

「オヤジさんじゃ……な、い?」

 ようやくスフィールリアも平静を取り戻し始めていた。

 よくよく見れば、相違した点はいくらでも見つけられた。

 まずオヤジさん≠ヘ口紅など塗ってはいない。口ひげの形もくるんとしている点が違うし、刺青の柄は同じだがこれも左右の位置が違う……。

 なにより、筋肉の量が違った。オヤジさんはもっと大爆発しているような『筋肉っぷり』であるが、こちらはより細く鋭く、引き絞られた印象があった。ドラゴン殺しの大剣と、刺突用のレイピアのような違いだった。

 要するに、全然、まったくの別人だった。

「……すんませんっっしたぁ! 超勘違いでしたァ!」

「んまっ! なんて勇ましいのかしら。ホレちゃいそう。んふ、いいのよ」

 再び、バチコンとウインクをかましてくる。

「あ、あはは……どうも」

「いろいろ誤解は解けたか? ……コイツの武器を((見繕|みつくろ))いたいんだ。女の身長でも扱えるヤツで、上等なヤツ」

「なぁんだ、例の試験のハナシぃ? ようやくその気になったというなら――いいわよ。ウチはまさにそんな向き≠ノピッタリのお店なんだからん。んふ。たっぷりねっとりじっくりと眺めて、魅了されていっておしまい!」

 なぜか最後は脅迫めいた文言で、シュバンッというかシャランッというか、とにかくそんな感じで店主が鋭く店内へ手を向けた。

「……おぉ」

 そこには、金、銀、赤、青……宝石店と見紛うような((煌|きら))びやかな商品が、壁に棚に狭しと陳列されていた。

「タダの装飾剣たちだなんて思わないでね。ウチは特殊加工が専門なの。自分で最初から打ち出すこともないことはないけどね。というわけだからこのコたちはほとんど全部、マジック・フォームド・アームズ――いわゆる魔導具というわけ」

「つってもオッサンのこだわりは本物でさ。素材になる武具にも妥協しねーんだ。仕入れの目利きもたしかだから、知ってるヤツはみんなここにく――」

 どこから取り出して、いつ、どのタイミングで振ったのか。首元に現れていた、丸ごと宝石から削り出したような深い蒼色の宝剣に――アイバの言葉が止まる。

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「そいつはどうも。でもダメよロイ――お姉さん=B乙女の怒りはこの世のどんな武器よりも鋭いということを知り……たくは、ないでしょう?」

「……はい。お姉さま。本日もご機嫌麗しゅうございますハイ」

「かわいらしいお嬢さんも、念のため。いいこと?」

「うぃーーーーっす! 了解しゃーしたァ! チッス、オッス! 姐さん!」

「けっこう。いいコじゃない。んふ」

 溶けるように退き、((翻|ひるがえ))した手首にはめられた金の腕輪の飾り鎖へ戻ると、打ち合ってチャリンと音を立てる蒼の宝石たち。相当の上級武具であるのは、間違いがなかった。

「……ちなみに姐さんの名前はオルガス・ゲハルンディスっていうんだ。呼び方に困った時は名前を呼んでやれ」

「どうして呼び方に困るのかはさっぱりだけれど、そうね。好きに呼んでくれればいいわよ。親しい連中はアタシのこと、シェリー≠チて呼ぶわ。ピッタリでしょ、んふ」

 どこにシェリー≠フ要素があるというのか。……については百年研究しても解明不可能そうだったので、そういうものとして納得することにしておいた。

 それはそれとして、スフィールリアは別の方面でも安堵していた。オヤジさん∴皷ニの姓はゲハルンディスなどではない。やはり、無関係だったのだ。

「……。そういうわけだからさ、一番イイものを四割引でくれよ。予算はあと10アルンだ」

「んまぁーーーッなんてこと言うのかしらねこのトーヘンボクは! 四割引って言ったらもうほとんど半額じゃない! ていうか10アルンだったら9割9分9厘引きでも利かないわよ。……ねぇアナタやめときなさいよこんな金も持ってない場末でくすぶってるような甲斐性ナシなんかは。若いウチっていうのはそういうのが気になっちゃうのは分かるわよ。アタシがそうだったから。でもそういうのってたいていはオンナを不幸にしかしないって、初めから分かってる通りなんだからね」

「は、はぁ」

「オイだからオイ……!」

「でもアナタはそういうタマでもなさそうよね。……こんなのはどうかしら? 分割払いでも別にオッケィよ。身元をはっきりさしてくれればね」

「聞けよ……」

 差し出された宝剣は、これまた金や白金で煌びやかに装飾された、上級品と分かる品だった。

 金や白金などの貴金属は、((綴導術|ていどうじゅつ))の観点から考えても魔導性≠ェ非常に高いマテリアルである。綴導術の概念において魔(つまりマジック=j≠ニいう表現はかつて世界を崩壊させた魔術師たちを連想させるので、公式として好んで使われるものではないが。

 見た目だけでなく、付与された効果も一級品ということだ。

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 値段も一応は予算をかんがみてくれたようで、ついている値札は10アルンぴったりだ。

 ただし『頭金:10アルン』である。

 ちなみに1アルン(金貨)は、一枚あれば、王都のふもとあたりの区画に宿を取ってそこそこにいいものを食べながら一月半はすごせる貨幣だ。

「……え〜と。ここまでの品じゃなくってもあたしは別に。向かう場所もモンスターはほとんど出ないらしいですし」

「あらそう? でも護身の武器もしっかりしといた方がいいわよ?」

「ほっとけほっとけ。相手してたらキリねーぞ。じゃあお前はソッチから見て回って、よさそうだと思ったもん持ってきてくれよ。俺は反対から回るから」

「もう。イケズね」

 一応はうなづいて品の物色を始めるスフィールリアだが、店主はどうしても彼女が気になるらしかった。むしろ、気に入られたようだった。

「あら。なかなかイイ目利きをしてるのね。イッパツでそのコ手に取るなんて。刃物は詳しいの?」

「あ、はい。田舎でオヤジさ……シェリー姐さんのことじゃないっすからねっ? 包丁屋のオジさんが打ったり研いだりしてるのをよく見てたから。光り方で、なんとなく」

「ふぅん? この波紋を目に焼きつけられるくらい安定して引き出せるんならなかなかのモンよね。セカイは広いし絶無とは言わないけど、アタシはアタシ以外ならふたりしか知らないわ。ひとりはお師匠様。イイオトコだったわよ。んふ」

「は、はは……ウチの師匠はスゴ腕だったけどロクデナシでした」

「あらん。イイことじゃない。ワルいオトコを知っていれば、イイオトコを選べるオンナになれるのよ。イイオトコを選べるオンナは、幸せになる権利を持っているの。だからあなたみたいなかわいらしい女の子は、身を護るトゲもしっかり持っていなくちゃダメ。やっぱりイイものを選ぶべきだわ」

「え? えへへ、商売上手っすね」

「あら――ソレもイイものだわ――ってそっちじゃなくてね。商売なんて関係なく言ってるのよ? 田舎から出てきたんですって? それなら自分の価値に気づいていないのもうなづけるけれど……あなたきっと、ここにくるまでの間もオトコを何人も振り向かせてるわよ。でもそのウチの何人かが、いつか後ろからついてこないだなんて保証はありはしないのよ」

「そ、そうっすかねっ? えへへ、へ……」

「そうよ。今度注意して見てごらんなさい。だから、商売とかじゃないの。これは同じオンナとしての忠告。だって――」

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 そして。

 ポンと肩に手を置いてささやかれた、そのひと言に――

「――アナタ、アタシの若いころ≠ノソックリなの」

「!!」

 

 バタン!!

「ししししししっし、失礼しましたァ!!」

「きゃ」

 スフィールリアはショックのあまりその場にいられなくなって、大慌てで店の外までまろび出てきていた。

 胸をなで下ろすも、心臓は、まだ暴れ回り続けていた。

「そっくり……若いころ……そっくりって。まさかね、ハハ、ハ……いやしかしまさかということは……」

 なので、人を突き飛ばしていたことにも気がついていなかった。

 膝に手をついて息を整える視線の先で、尻餅をついていた女と目が合い――

「え――あ…………! すすす、すみませんあたしってば。大丈夫ですかっ!?」

「ええ。ところで、あなた」

「はい?」

 なんだか小一時間ほど前にも同じことがあったような既視感に身構えかけるが――女はスフィールリアの差し出した手を取って、普通に立ち上がっただけだった。

 端的に言って、恐ろしいくらいの美女だった。

 不思議な青色の髪の毛は陽の光を吸い込んでうっすらと輝くように、美しく、肩口まで。すらりとした両足。引き締まった腰。豊満なバスト。

 それら完成されたプロポーションを白のシャツと紫の上着、タイト・タイプのスカートに包み、洒落た飾り鎖つきのメガネもかけ……見事と理知的な雰囲気を演出している。

 ただしそのグラスの奥にある、少女の瑞々しさと完成された女の老練さを併せ持つ芸術品のような相貌は、どこか呆れたような、あるいは怒っているような表情である。

 それはそうだろう。いきなり道の横からタックルかました上に気づいた素振りもなくひとりで勝手に慌てていれば……。

 とにかくもう一度謝ろうと勢いよく頭を下げかけたところで、女は、彼女の次の行動が分かっていたかのような機先を制したタイミングで片手を出して差し止めてきた。

「謝罪はけっこう。すでに受け取ったわ? ――それよりあなた、またこんな道に入ってきて」

「……はい?」

「ダメだと言ったでしょう。今が昼時とは言え、危険がないことはないんですからね? それとも、ほかにどなたか頼れる知人でも連れているのかしら?」

「……えぇと、その? ……あっ、ハイ、いますいます! 一応そこらのヤツよりは強い……はず…………ですが……」

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「……。強いのかしら? 弱いのかしら?」

「強いっス! オス!」

 メガネの奥の目が釣り上がりそうになるのを見て、彼女は本能的に疑問を無視して断言していた。女がふっと息を抜いて微笑むので、スフィールリアも安心してにへらと笑う。

「それならばけっこう。仲間作りも順調なようね――あらいけない」

 女は唐突に腕時計に目をやり、本当に慌てたような声を出した。両目を見開いたとたんに、少女と言われてもおかしくないほどのあどけなさが見え隠れするのだから、本当に美人さんだな〜などとスフィールリアは見とれてしまう。

「えと?」

「ごめんなさいね。今日はこの時間のうちだけでしか完遂できない個人的な取引があって――と言ってもすぐに別の用事もあるのだけれどね。いいこと? 連れがいるといってもくれぐれも油断しないよう。王都は一歩裏≠ヨ踏み込めば((魔窟|まくつ))。ここ≠烽サの入り口のひとつであることを忘れないように」

「ハイっ。了解っす姐さん」

「姐さん? まぁいいでしょう。はぁ、忙しい忙しい――」

 などとこぼしながら<猫とドラゴン亭>の入り口へと消えゆく……。

「……。知り合い?」

 ちょいと首をかしげ――ポンと手を打った。

 自分は先日、この<猫とドラゴン亭>で飲んだくれていた。飲んだくれて、そこそこに打ち解けていたらしい。

 おそらくその中にいたひとりなんだろう。自分の飲みっぷりと潰れっぷりを見て心配してくれていたのだ。それならすべてのつじつまは合う。

「王都は魔窟……その裏≠フ顔を駆け抜ける美女かぁ。う〜ん。ミステリアスかつ、カッコいいなぁ」

「なんだ? 三文小説か?」

「うわっアイバ。なによっ、あんたは小説なんて読むっていうのっ?」

「いや読まないけど。なんだよ勝手に出てってふんぞり返りやがって。せっかく人が一生懸命値切り倒して用意してやったってのに――見ろ、コレを!」

「おぉ!」

 アイバが手渡してきたそれは、スフィールリアの目から見ても上級の品物だった。質も値も、両方だ。といってもあの店はどれもこれも上級な品ばかりのようだったが。

 大きさは、彼女の肘から手首あたりまで。つまり短刀。剣を振り回すことに慣れているわけではないスフィールリアからすれば、金属製ということもあり、こんなものでようやく体格との釣り合いも取れる――そういう視点からも選んでくれていることが分かる。

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「まぁ、見た目なカンジじゃあの店のほかのもんに比べたらちょっと貧相だけどよ。で、でもよ、10アルンにしちゃ上等だろ?」

「……」

「だ、ダメだったか?」

 スフィールリアは目を瞠ったまま顔を上げ、かぶりを振った。

「とんでもないよ。これ、たぶん、すごくいいものだよ。こんなものが10アルンってウソでしょう?」

「えっ、あぁいや。お前が綴導術師だって言ったら、じゃあコレがいいだろうってオヤッ、姐さんがよ。……分かるのか?」

「うん……」

 スフィールリアは鞘から刀身を抜き出した。

 アイバの言葉の通り、見た目の華美さはほかの品に比べれば控えめだ。

 鞘は白艶のまばゆい石製(おそらく特別な材料を混ぜ込んだ陶磁器の表面に特殊ガラスでコーティングをかけたものだ)に、柄元から剣先にかけてまで少々の金銀縁取りの装飾が施されているていど。刀身も、一級の腕前で研ぎ澄まされてはいるが、不思議な力を宿した宝石がはめられているでもない。綴導術師が特別な術式を掘り込んでいるわけでもない。

 だけど、だからこそ、綴導術師たるスフィールリアには分かった。

 陶製の白い鞘は所有者のタペストリ♀g散を防ぐ素材。貴金属の装飾はタペストリ=\―すなわち術式(あるいは魔力そのものを指すこともある)≠伝達してスムーズに刀身全体へゆき渡らせる簡易魔導回路。コート材のガラスの内側には、目に見えない細かさで汎用タイプの術式記述回路が立体で刻まれている。

 刀身は、ナノクラスの技術でパイのように数百層にたたみ込まれた、極細密のタペストリ保存領域だ。

 余計な術式や、付与効果は必要ないのだ。

 これは、綴導術師や綴導術に通じる者(つまり己のタペストリ領域の扱い方を心得ている者)が持って意味をなす。――使用者自身が効果や術式を編み込んで力を発揮させるための武器なのだ。

 スフィールリアはじっとりとした眼差しをアイバに送った。

「結局、姐さんが選んでくれたんじゃない。かなり無理言ったんじゃないの」

「うぐ、そ、それは」

 そこまで看破されるとは思っていなかったアイバはうろたえて一歩後ずさる。

『はぁん。アンタ、結局あのコのこと気になってんでしょ。いいわよ。ダメもとでいいトコ見せてきてみなさいよ。んふ』

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 数分前までのやり取りが脳裏をよぎり――

 アイバはかぶりを振った。そう。つまり彼女の指摘は半分が正解で、半分が不正解なのだ。

 だから、真相は言わないでおくことにした。

「い、いやいや。すっぱり快諾してくれたんだよ……お前のこと気に入ったからって。な?」

 ちなみに彼女≠ニは、スフィールリアと店主、両方のことである。

「……そういうことなら」

 スフィールリアは短剣を鞘に収め、腰のポーチの中に差し込んだ。

「ほっ」

「今度お礼言わなきゃね。あたしのこと気に入って融通してもらえたっていうんなら、なおさら」

「あ、あぁ。使い込むほど刀身が磨り減ってくらしいから――よく分かんねっけど。メンテが必要だって言ってたしな。またくるだろ」

「アイバも。ありがとね。うれしかったよっ」

「っ……!」

「……なによ?」

「……なんでもねぇなんでも! …………さ、これで準備は整ったな。明日の出発に備えてたっぷり寝ダメしておくぜ! お前も、頼むぜ!」

「えー。<猫とドラゴン亭>は? 今日はおつっした景気づけに一杯! とかは?」

「お前……マジで……頼むから…………」

「つ、潰れたりしないってぇー、やだなーもー!」

「マジ……でよ……」

「え、ちょっ……泣くの? 泣くわけなんで? そ、そんなにひどかったあたしっ?」

 アイバがついに石畳の上にくずおれてしまうので、スフィールリアもそれ以上の追及をかけることはできなかった。ついでに、思えばさっきの美女と鉢合わせでもしたらまた怒られるかもしれないと考えついたので、とりあえずこの日のうちはおとなしく帰っておくということで妥協を得たのだった。

 そして、出発の日がやってくる。

 

 

「ドキドキして眠れなかった」

「子供かっ。おいおい、遠足じゃないんだぞ。頼むぜ」

 早朝の<国立総合戦技練兵課>正門前。

 白み始めた空の淡い光を吸い込んで煙る薄もやの中、試験に挑む訓練生たちが集合していた。

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 その一団の隅で落ち合い、スフィールリアたちは、自分の分の荷の再自主点検を開始したのだった。

「おいおいアイバぁ。なんだよその荷物の量はよぉ。山篭りでもする気かよ?」

 投げられた野次に多数の含み笑いが呼応する。アイバに対する視線に悪意こそないが、呆れ半分・険が半分といった調子なのは、おおむね、スフィールリアがその場にいるためだった。

 この訓練生らの半数ほどが、彼女から痛い目を見させられた哀れな被害者たちなのだ。

「うっせ。俺らはコレでいいんだよコレで」

「つうけどよぉ。本試験期間は三日だぞ? そんなムダな重装備じゃフットワーク利かねぇだろ」

「ソイツになんか吹き込まれたのか? あとがないのに、大丈夫かよ?」

 たしかに、スフィールリアたちが用意したキャンプ用品はほかの訓練生と比べても、明らかに合理性を超えた量をしていると言えた。ひとりあたま分で、担げば胴回りが三倍には膨れ上がってしまうようなサイズの荷だったのだ。

 テントや寝袋や湯沸し用のポットはもちろんだが、そのほか、コンパスだとかザイルだとか、およそ彼らがあらかじめ授業で学んだ霧の杜≠ナは、使い道のないようなものまでもがふんだんに詰め込んであったからである。

 しかしアイバは肩をすくめて浅はかな同期生たちを受け流した。

「いーの。俺らはコレでな」

 アイバのうしろからスフィールリアが「グルルル」と臨戦態勢の猫のような唸り声を上げると、訓練生たちは一斉に目を逸らした。

「お前もそういうことするなよっ」

「ふん。トーシローどもに理屈は必要ないのよ。黙らせればなんだって」

 そこに今回の引率を担当する戦技教官が到着する。周囲を見回し、喝を入れるように声をかけた。

「そろっているな! 荷の自主点検は済んだか。そろっていなくても済んでいなくても、ついてこられない者は置いてゆくぞ」

 さすがの訓練生たちからもだれた空気は払拭され、きびきびとした声で返事が唱和される。

「……アイバ。その荷の量はなんだ。それでよいのか?」

 ふと見咎めたように尋ねてくる教官に、アイバも一旦は緊張の面持ちを見せるも、

「……」

 スフィールリアがうなづいてくるのを見てから、まっすぐに答えた。

「はい。これで問題ねーっス」

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 教官はスフィールリアを一瞥して、面白そうな笑みでうなづいたのだった。

「よいだろう。では出発する。各自騎乗! 事前に組んだローテーションの通りに指揮役を交代しつつ、目的地を目指す。かかれ!」

 

 備品や予備人員を積んだ輸送装甲馬車の一台の中で、スフィールリアはうとうとと船を漕いでいた。

 揺れのおかげで元から眠りは深くはなく、ふと目を開けると、小さな窓から差し込む日差しはすでに昼にかかろうとしているようだった。

 外では、今も黙々と進み続ける騎馬部隊の姿が見受けられる。班編成された小隊ごとに部隊指揮役と哨戒役、そのほか役割をローテーション交代し、途中でモンスターや往来を妨げる障害物などがあれば訓練の通りに対応を行ない、目的地を目指してゆく。そういった連隊的実地訓練もかねた試験項目なのだそうだった。

「眠れたかね」

 対面の椅子から声をかけてきた教官に、スフィールリアはやや恐縮気味に答えた。

「あ……すいませんあたしってば。真面目な訓練なのに、馬車に乗っけてもらった上に眠っちゃうだなんて」

「構わんよ。君は元々から客人講師として扱うことになっているのだからね。兵役も積んでいない者をいきなり隊に放り込んで軍事的行動を行なわせるというのも、おかしな話だろう?」

「え、えへへ。ですよね。ありがたいです」

「もっとも、わたしとしては君ならばあの中に放り込んだところでなんら問題はないとも、思ってはいるがね」

「えっ? いやえっとそれはめんどくさ――じゃなくってその、光栄でありますっ。はは……」

「素直でけっこうだな」

「えへへへ……」

 とスフィールリアは出発からこっち、始終恐縮しっぱなしだった。

 というのもこの厳めしい顔つきをした壮年の戦技教官、<アカデミー>入学式の日に大暴れした際、彼女を取り押さえにかかったその人なのである。

 突如として現れた強敵を相手に、彼女は奥の手のひとつを使い、彼に手傷を負わせてしまった……。

 しかしどういったことか、彼はスフィールリアに一目を置いている節があるようなのだった。

 思わぬ使い手にめぐり合えたことが好ましいとか、そんなところだろう。スフィールリアとしては今いち釈然としないものを覚えるしかないのだが。

「密室だからってリベンジマッチかましてノしちまうなよ?」

 彼女の背後にある開いていた小窓からアイバが顔を覗かせて、からかうままの声をかけてくる。

「うっさいなー。そんなことしないってば。あの時は先生さんだって気がつかなかっただけで」

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「ははは。わたしはかまわんよ。むしろもう一度あの技を見せてもらいたいところだ。あの日以来ずっと、アレをどう返すかを組み立てていたくらいだ」

「えっ? えへへ、やだな〜」

 と、そのアイバのさらに後ろの方から別の野次が飛んできて、

「アイバぁ。まぁ〜たその女と絡んでんのかよ。どぉ〜しちまったんだ」

「やめとけやめとけ、そんな顔だけの性格暴れゴリラなんざぁ!」

「うるせえな! コイツはな、そんなんじゃねぇよ! 俺が認めた真の漢≠ネんだからな」

 と怒鳴り返し、窓から離れてゆく。

 スフィールリアは表情の落ち抜けた顔で、窓の方を肩越しに指差した。

「アイツにならあの技かけてもいいですかね?」

「かまわないよ。わたしも観戦させてもらおう」

「うっし。おし。まずは人気のないところにおびき出して……それから動きを……」

 そんな算段をぶつくさと組み立て始める彼女を、少しの間、見つめてきていた教官。

「……彼をどう思う。勝てそうかね?」

 ふと真面目な面持ちで、そう聞いてきた。

「え。はい? えぇまぁ、ガチでやりあったら相当手ごわいと思いますけど」

「やはり、そう思うかね」

「……あの?」

「正直な話をしよう。わたしは、君に期待しているんだ」

「あたしに……?」

 教官は、自分の隣にある窓の外を見ていた。

 そこにいる、未来ある若者たちの姿を。

「ヤツの素性は知っているね? あれは天才だ。――紛れもなく、かつての勇者≠フ才を余すところなく受け継いでいる。わたし自身が『世界樹の騎士』その本人を見ていなかったとしても、そうだと分かるくらいに。

 人はよく才能≠ニいう言葉を簡単に口にする。わたしも『才能ある若者』というものを何人も見送ってきたつもりだ。だが……彼らはみながしょせん、『有望な若者』にすぎなかったのだということに気がつかされたよ……ロイヤードという若者を見た、その日にね」

「そこまで、ですか?」

「そう。あれが、あれこそが才能≠ニいうものだよ」

 教官は間を置かずにうなづいた。それ自体はまったく特別ではない、当たり前のことなのだとでも言うように。

 教官の静かで真剣な面差しに、もうスフィールリアからも、ふざけたり茶化したりするような気は失せていた。

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「あれが本当にその気になってわたしの下につけば、まず三年もかけずにわたしは追い抜かれるだろう。そして、さらにその先≠ヨ――聖騎士団のみならず、あの聖騎士長の白竜皇≠竅A当代薔薇の剣聖≠ヨ並ぶまでに、その力を及ぼすに違いないと。わたしもそれを期待していた。だが……その才≠ェゆえに、ヤツは落ちこぼれかけた」

 再び向き直ってきた時の教官の顔には、寂しげな笑みが浮かべられていた。それが自嘲の表情だと分かったので、スフィールリアは自分のつま先を見るように顔を伏せて、滔々と告白した。

「……アイバは、言ってました。この国にはすごく強い人がいっぱいいる。でもその人たちが強いのは、強さを求める理由を知ってるからなんだって。自分には、それがないから、って」

「そうだろう。知っているよ」

 顔を上げると、戦技教官の優しい微笑があった。それから、うなづいてくる。

「わたしも正直に、告白しようか。見ていれば、あんな小僧がどのようなことで悩みくすぶっているのかくらいは分かる。だからこそ――わたしはヤツがその段階でつまづきかけ、その悩みを抱え込んだことを、うれしく思ったのだ。なぜだか、分かるかね?」

「アイバ自身のため、とか……ですか?」

「おおむねそんなところだ。あれだけの才能を持っていれば、なにも考えず、だれにもつかずがむしゃらに剣を振るっているだけでも、常人には及びも着けない場所にまで到達できるはずだ。だがそれは――非常に危険なことだ。自覚なき力はただの猛悪と化すだろう。それは多くの人を意味なく傷つけ、また自身をも食らい潰すに違いない。だが、そんなことはまだまだ表面上の『ましな部分』にすぎない」

「まし……?」

「分かるかね? 力≠フ真に恐ろしいところは、それ自体はまさに無人格にすぎないという点だ。どのようなものにでも従ってしまう。一番恐ろしいのは、中途半端に己の力≠理解し、己の中の希求を理解したつもりで、そのままに力≠振るってしまうことだ。

 もしもヤツが特に悩みも恐れもせずスムーズに自分の使命感なんぞというものに目覚めた『つもり』になって力≠伸ばし始めていたなら、わたしはその時にこそ真の恐怖と焦りを覚えていただろうと思う。そうなれば、ヤツは、自分でも気がつかぬままに多くの人間を救い、屠り続ける道へと飛び込んでいただろう。わたしにも止められぬままに、だよ」

 一番、恐ろしいこと。

 それは、『正しい』と信じてしまうこと。

 この道で『よい』と『決めて』しまうこと。疑問を抱かなくなること――

「……あたしの師匠も昔、あたしに似たようなことを言ってたことが、あります」

「そうか。ならば君にその言葉を贈った師は、心の底から君のことを想ってくれていたのだろうよ」「はい」

 スフィールリアは素直にうなづいた。

 師のその点にだけは偽りがないと信じていることもあるし、なにより、この教官の語ることの本質が、彼女には分かったからだ。

 それは彼女たち綴導術師≠スちこそが根底に抱え込んだ問題にして、理念に通ずることにほかならなかったからだ。

「――そうなった時、力≠フ大小は単なる見かけ上の問題にすぎなくなる。

力≠竍正しいこと≠追い求める心というのは、しょせんが欲求≠ノすぎない。ではその欲求≠ノ対してどこまでも素直になった時、信じきって疑わなくなった時、どうなる? ――答えは簡単だ。その直線の範囲からこぼれた者が皆殺しになるまでのこと。

 そうなれば、そこらの裏町で幅を利かせるギャングだろうが、街角で国の未来を討論する学生だろうが、国を傾かせる暴君だろうが、救世の勇者でも――同じことだ。

 自覚がないのならば、いつかその者自身もがまっすぐだと思い込んでいた覇道からこぼれ落ちないという保障はない。その時は自分自身の力≠ノ……それまでの業の巨大さに押し潰されるだけだろう」

「はい」

「人は迷いのないさまを美しいと評する。まっすぐに貫き渡される正義をありがたいと奉ずる。だがわたしはそうは思わない。

 力や正義を求める心が欲求だと言うのならば、それを常に自問し続ける迷い≠ニいうのは、自身の力から自身を守るための盾≠ネのだ。決して綺麗ごとなどではない。

 だから歴史に名を残すような偉人たちは、時に人から天才がゆえの異常だ奇行だと呆れられるような言動や思考回路を以ってしてでも、その自らの力を御そうとしていたのだとわたしは思う。彼らはその力の大きさに飲み込まれまいと必死にあがいて、結果として他人から見て突飛であったり、飛び抜けた思想や判断を持つに至ったのだと。

 それそのものは才能ではない。むしろ逆で、凡庸な生物が持つ当然な本能としての防衛行動、その歴史にすぎないのだとね。では真に重要なのは、その一枚裏にある理由≠ネのだと……思わないかね?」

「教官さんは、その歴史を、アイバ自身に作ってほしいってことですか?」

 そうさと教官はうれしそうにうなづく。

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「迷い続け、疑い続け――常に作り直し≠フ打診をかけるということは、常にギャンブルをしているようなものだ。迷い続けた先でそれこそ気がつかぬうちに道を違えてしまうこともあるかもしれない――それでいいのだ。

 迷い続け、疑い続けてこそ、それまで不定形無人格であった力≠ヘ、力≠持つ者と同じ形状を獲得するのだとわたしは考えている。それが等身大というものだ。あがき続けるうちは、力≠ヘその等身大を超えすぎた範囲に拡散して力≠及ぼすことはできなくなる。

 迷いとは、そのままに、迷宮≠フことなのだ。

 迷宮とは外からの侵入者を排斥するためのものではない。なにものの接触をも拒むのなら、扉も作らず、埋め尽くしてしまえばよいのだからな。

 迷宮とは、内部にあるものを封じ込めることにその真の存在意義があるのだ。

力≠持つ者は、自然と、自身の中にそれを収め込むための迷宮≠も抱え込むべきなのだ」

「……ワイズ・シーラー≠ナすね」

 彼女がそれを言うのを待っていたように教官は「そう、それのことだよ」と指さえ向けて破顔してきた。

 ワイズ・シーラーとは、彼女たち綴導術師の間でまことしやかにささやかれる、ちょっとした概念≠フことだった。

 今では綴導術師たちが自らを律するための戒律≠フことをも言う。

 ――かつて世界を破滅へと至らしめた魔術師たちと、その栄華の頂点を極めた文明群。綴導術師たちは、その力≠フ継承者だ。

 綴導術師たちは<アーキ・スフィア>から引き出した記憶によりその文明の構造を多く把握しているし、また回収が不可能であった部分についても、同じ力とより発展した理論を以ってすれば、研究の末に再現は可能であろう。

 だが彼らとまったく同じ文明を作り上げることは、綴導術の理念に根本から反する。それは綴導術ではなく魔術だからだ。

 だから、綴導術師らは自らが作り上げる物質文明≠ノ上限というフタをかけることにした。

 ゆきすぎた技術の開発や流布に歯止めをかけようとしたのである。

 だれかが唐突に思いついて提案したというものではない。

 すべての綴導術師が綴導術の理念を理解し、そして無意識のうちから自発的に実践し始めていたことを、少しずつ自覚していった概念≠セった。

 現在では各国間において、この概念をより具体的に明文化した協定を作り上げる動きもある。

『文明の形相そのものに直の影響を与える技術≠ニ体制≠フ確立』を抑制する制限――具体的には、動力などを始めとした新技術・新エネルギー、それらを量産可能とする施設の開発である。

 綴導術師は特別なマテリアルを作る。特殊な効果を持った品を建造し、それらの生産を可能とする技術≠ニ施設≠も構築する。

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 これが過度にゆき渡り、容易に世界へと定着してゆけば、文明発展のブレイク・スルー≠ヘ恐ろしい速度で進んでいってしまうだろう。それが人類の存続に対して正しいプロセスであったのかを、人類自身が自覚する暇もないほどに。

 どこかの国が欲望と野心のままとがむしゃらに綴導術師たちの発展を促し、特別な兵器や動力を普及させれば、たやすく周辺の国々は滅ぼされることになる。一旦無制限に拡散された技術を駆逐することは不可能である。その後は際限なく争いが繰り返されることになるだろう。

 綴導術とは、それほどのポテンシャルを秘めた力≠ネのだ。

 ゆえに彼らを擁し、彼らに依存する各国家も、この概念の必要性への理解は早かったのだ。

「偉そうに長々と語ってしまったが――なんてことはない。かつてわたしが護衛に同行していた綴導術師からの、受け売りにすぎないんだ。これはなにも、君たちのような素晴らしい秘術使いに限った話ではないのではないか、そんなことを考えるようになったのさ」

 教官は帽子を取り、恥ずかしそうに芝のような角刈りの頭をなでさすった。

 スフィールリアも自然と顔がほころぶ気がしていた。こんなに強くて聡明な人でも、そんな時代があったのだなと思ったのだ。

 どんな、旅をしていたんだろうか。

「えへへ。よくご理解されてると思いますよ。あたしなんかよりも」

「教導の立場になってから急にこんなことばかりを考え出すようになってね。君たちの聡明さに、日々敬服をしてゆくばかりだよ」

 そして気を取り直し――今度はいく分か柔らかい面差しで、続けた。

「ヤツは自分の力≠フ大きさを知り、臆した。そして、迷宮に迷い込んだ。わたしは今日、ヤツがこの試験に出向いてくるかどうかは五分だと思っていた。だがヤツはきた。――君のおかげだと思っている」

「あ、あたしが、ですか?」

「あぁ。わたしが君を<アカデミー>に連れていったあと、君がどうなったのかということを聞かれてね。ちょっと発破をかけてやったところだったので<アカデミー>生に頼るだろうとは思っていたんだが」

「あ、あはは。そういうことだったんですね」

「君は、どうやらヤツの迷宮を完成≠ウせてくれた」

「……」

「さっきはああ言ったが……やはり迷宮には出口≠ェ必要だ。外界の光差す出口があって、初めて力≠持つ者は、その一筋の光明を目指して前進することができる。己のみの暗闇に完全に閉ざされて、召しいたままに己が前に進めないことを知っていながら迷ってしまうのであれば、それは前に進むのを止めてしまっているのと同じだ。それではいつか自分自身だけを餌食にしてしまうだろう。自分の尾を食らうヘビのようにね。

 君がその光をヤツに差してくれたのではないかと、わたしは思っているよ。よければ今後とも、ヤツにはよくしてやってほしい」

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 そう締めくくり、教官は正面のスフィールリアに、深く頭を下げた。

 むずがゆくてしばらくなにも言えずにいたスフィールリアだが、やがて我慢ができなくなって、さっきまでの教官のように自分の後ろ頭をなでくり回した。

「あ、あたしなんかはそんな大したモンなんかじゃないと思うんですけど。戦いだったらアイツの方が強いに決まってるし……まいったなぁ〜えへへ」

「なに。素材の調達にでもなんでも、気が向いたらこき使ってやってくれればいい。ヤツが進むべき道とは、なにも聖騎士団のみというわけでもないのだ」

「えっと。それって、綴導術師や工房の護衛役ってことですか?」

「そう、それだよ。<国立総合戦技練兵課>はそうした人材の輩出をも目的の一端としている。まぁ、ウチに所属している間の者が護衛役を引き受けるには、まずさらにいくつかの試験を合格して王室から資格を賜る必要はあって……なおかつ時間の空いている時という風には、限られるのだがね。それでも、見習いの扱いなので雇用費も格安だよ」

 と、茶目っ気ありげにつけ足してくる。

 工房つきの専属戦士はキシェリカの騎士≠ネどと呼ばれたりする。

 キシェリカとは、スターチスと同じ花でこの場合は特に白い花を咲かせるものを指す。約束≠示すまっすぐに伸びるこの花の白さは、結婚を示唆する花言葉と同時に、命を賭して護ると決めた工房と綴導術師へささげたる清廉なる誓いの絆の象徴でもあるのだ。

 時には聖騎士が中途で道を変えてキシェリカの騎士≠ノなることもあるし、キシェリカの騎士≠ェ有事の際には聖騎士団に編入して、護るべき工房のある国を防衛するために戦うことだってあり得る。

 なぜそのような業種と聖騎士団候補とがいっしょくたの場所で訓練されているかというと、それだけ、キシェリカの騎士≠フ存在が重要視されているためにほかならない。

 噛み砕いて言えば、ある観点から、騎士もキシェリカの騎士≠焜fィングレイズ国にとっては同じ存在なのである――『一線級の戦力』というのを育てるための機関なのだ。

 各項目の教練ごとに、彼ら訓練生にそう安くない支度金が支給されるのも、このことが関係しているのだそうだった。

 聖騎士と言えば国内においてもひとかどの存在である。功績によっては爵位を預かることもあるし、そうなれば貴族としては最下位だとしても、いっぱしの『家名』を持つことになる。身分に限らず総合的な待遇面・資産面から地位≠ニいうものを考えれば、それはキシェリカの騎士≠燗ッじだ。

 将来の彼らに必要とされる一般人では手も出しづらい装備や設備の数々を支給する目的と同時、今のうちからそういった『取引』も自分で行なって商会や流通路とのつながりも持っておくという、『家を背負ってゆく者としての≠ミとり立ち』へとつながってゆく立派な訓練のひとつでもあるのだ。

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 それだけ将来の彼らから得られる見返りが高いと王室が期待している証明でもあるし、それを考えればこれらは至れり尽くせりにもほど遠い、最低限の投資項目にすぎないのだと、スフィールリアは目の前の教官から教えてもらった。

「う〜〜〜ん、ロマンチックな感じだなぁ〜。アイツの柄じゃないですけどね」

「ははは、まったくその通りだよ。まぁいくら持ち上げたところで操気術≠ウえろくに心得てないのだからアレはまだまだ半端未満のヒヨッコだがね。対人に限らない外部での有機的な行動では、君の方がよほどマシに動けるだろうが、勘弁してやってくれ」

「操気術=H ですか?」

「このようなものを言う」

 と言って教官はおもむろに腰から短剣(これも綴導術師らが作った特別製のようだった)を抜き出して、スフィールリアの目の前に差し出して見せた。

 その刀身がまばゆく赤色に輝き、高出力のバーナーのように、噴き出した光を刃の延長としている。

「君たちに言わせるところのタペストリ展開≠ニ、ほぼ同じものだよ。いくら特別な武器防具を持ったからといって、それを扱う術がないのでは話にならない。それで太刀打ちができるのは、せいぜいが初級のモンスター止まりだ」

「なるほどぉ……」

 初めて見る自分以外の分野での同質の力の使い方に関心してうなづき、スフィールリアは自分の短剣も抜き出してみた。

「こういう感じですかね?」

 しゅお、と沸き立つ音を立て、純銀色の刀身に緑色の光芒が宿った。教官は満足顔でうなづいた。

「さすがは、綴導術師だ。タペストリ領域の扱いにかけては、やはり君たちの方が何倍も長けている。と言っても君は君の同期生よりも何十歩も先をいっているようだね。ホールでわたしと衝突した時も君は操気術≠使っていただろう? ああいう、慣れというのが大事なんだ」

 実際、新入生の多く(特に一般生)は通い出した教室にてようやく最基礎項目である水晶水作成の手ほどきを受け始めた段階で、そのための自分のタペストリ領域の使い方に四苦八苦しているころだ。魔導具としての武具を自在に操るなどというのは、雲もかすむような領域の話だろう。

「えへへ……それでも戦闘関連なら、アイツとあたしとじゃ、すぐにアイツが追い越してっちゃいそうですけどね」

「教官」

 教官が面白そうに「ふむ?」とあごに手をやった時、スフィールリアの背後の窓がノックされて、厳しい顔つきのアイバが顔を覗かせた。

 同時に彼女らを乗せた輸送馬車が停車し、周囲のどよめき声が物々しい気配を伝えてきた。

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「どうした?」

 報告は、簡潔だった。

「状況F――敵≠ナす」

 教官もまた簡素にうなづき返すと、スフィールリアに向けて、面白そうな笑みを送ってきたのだった。

「さっそく、証明≠ェできそうではないかね?」

 

「道、開けろぉ! 輸送団は一旦後退する! 六班と七班が護衛!」

「回り込め! 三班と四班が上から偵察! 早くしろよー!」

「各班装備確認と報告!」

 などなど……。

 臨時の作戦展開基地となった道の半ばで、スフィールリアは所在なさげに立ち尽くしていた。

「状況は?」

 彼女の隣の教官がだれにともなくつぶやくと、すぐさま駆け寄ってきたアイバが手で促しつつも説明を開始した。教官が歩み出すので、スフィールリアもなんとなくついてゆくことになった。

「五十メートル先の地点にてモンスターの一団を発見。道を完全に塞いだ状態にて停留しており、地形の条件もあるために誘導が不可能です。撃破の必要性ありと判断され、戦闘想定区域から馬と輸送団は遠ざけました」

 地形。スフィールリアは周囲を見回した。

 彼女たちが今いる地形とは、簡単に言えば、崖に両端を挟まれた一本道の状況であった。

 茶褐色の岩盤の高さは、まばらではあるものの平均して十メートルほど。崖の上には起伏の多いでこぼこな草原が広がっており、かつての地形変動かなにかで開かれたこの大地の道は、都合がよかったので人間に舗装されてそのまま街道のひとつとして使われているというわけである。

 しかし人間とモンスター、双方にとって退路や復路のない地形である。誘導が不可能というのはそういうことだろう。

「悪くない判断だとは言えるが、モンスターのランクを抜きにした話だな? いくら道を塞ぐほどの数量だとしても、ランクFのモンスターごときに大げさではないか? いつからお前たちは腰抜けになった。ぶら提げた剣が重すぎたのなら、今すぐに田舎まで尻尾を振って逃げ帰ってもいいのだぞ? はなむけにケツくらいは蹴り飛ばしてやる」

「えぇ、まぁ、それも悪いハナシじゃねぇかなっとは思うんスけども――ごらんください」

 そこそこに早足だったので、このていどの会話でも、もうたどり着いていた。

 アイバが指し示すそこに、敵――モンスターたちがいた。

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「――ほう」

 今まで歩いてきた道よりも、少しだけ開けた、広間のような空間だった。

 その道の上に、青、赤、緑、黄色に紫と……宝石のような岩が、散りばめられたかのようにゴロゴロと転がっている。

 いや、宝石と言うには、もう少し安っぽく、薄い色をしている。ちょうどそう、ゼリーを固めたような、あるいはアメ玉のような明るい色合いである。

 この、モンスター。

 見た目の通り、名を『ドロップ』と言う。

 大きさはまちまちだが、目の前に散らばっているのはどれもスフィールリアの体格で一抱えていど。『ドロップ』にしてはそこそこの大きさだ。

 青、赤、緑……という色合いから連想される通り、この『ドロップ』というモンスターは土地を巡る蒼導脈≠ェ結晶化して核となり、地道に転がりながら土や砂などの物質を取り込んで少しずつ成長してゆくという、通常の生物とはややおもむきの異なるモンスターである。

 剥がれやすい積層構造をしており、体表面の剥離層を破裂させて転がるように移動する。外敵に対しても、自分を弾けさせておどかしたり、至近距離であれば体当たりをすることで対応する。

 周辺環境の蒼導脈≠フ影響も受けて色を変化させたり、取り込んだ物質の色合いが反映されたりと、綴導術の基礎三原色以外の色にもなり得る。とある綴導術師がとある土地に居座り続けるとある『ドロップ』の上にそっと『みかん』を置いて一晩待ってみたところ、『みかん色になっていた』などという逸話もあるが、真偽のほどは定かではない。

 しかし特殊な生物と言ってもしょせんは『欠けやすい岩』にすぎない。

 町から町を巡る冒険者の敵などではないし、それどころか、そこらの村のちょっと元気な子供の遊び道具にされたり、犬猫の爪とぎ牙とぎの餌食にまでされてしまうことも珍しくない、ちょっとかわいそうな生き物である。

 さて、そんな一見すればちょっと綺麗なだけの岩っころたちが――感情も危機感もまるで見受けられない無機質そのままの状態で、広場を埋め尽くし転がっている。のみならず、広場の上部にテラスのように拓いた無数の空洞の席へまで、転がっているのが分かる。

「『ドロップ』だ……」

 スフィールリアは顔をさっと青ざめさせていた。

「まぁこのような状況でして。戦闘による撃破のほかに、手作業による撤去も悪くないかもなと議論が分かれてまして。と言っても臆病なモンスターなんで、撤去まではできたとしてもその後の車両通行の振動で弾けさして馬にでも当たったら面倒だなと」

 報告の締めくくりを行ないつつ、アイバは彼女の顔色を見て、「なんだこのていどのモンスターで怯えるなんてかわいいところもあるんじゃねーか」などと暢気なことを考えていた。

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 次に、違和感に気がついた。

(怯える? コイツが、『ドロップ』なんかに? なんでだ?)

「なるほどな。しかしそいつはお前たちが自分で判断することだ。わたしはそれを見て評価を下すだけだ。それならば今の無駄話に使った分の時間で、わたしとこちらのレディに、茶のひとつくらいはこしらえることもできたな? 評点のチャンスをふいにしたな。くだらん」

 ちょうどその折で、戦闘準備を終えた後続班たちがやる気のない様子で合流してきた。

「ぅぐぬっ――う、うぃっす。おいお前らぁ、好きにしていいとよ。どうする!」

「めんどくせぇからさっさと片づけちまおうぜぇ、リーダー!」

「戦闘態勢! テキトーに倒す! 早いもん勝ち!」

 現在の指揮班リーダーが抜剣してそう決断したので、有無もなく戦闘の向きになった。

 とそこでアイバは教官を見て、またも違和感を覚えた。

「よし! その判断で間違いないんだな! では各班各自の戦績を見て評価につけ加えてやる! 相手がFランクだからと言って腑抜けた戦いぶりを見せたなら容赦なく減点対象にしてやるから覚悟しておけ」

「そりゃ逆に難しいですって……こんなん相手にどう気張って戦えってんだか〜」

 そんなことを言いながら広場へと進出を始める部隊の背後で、ちょうど生えていた野太い枯れ木の陰に、サッと隠れてしまったのだ。

 これは、おかしなことだった。いつもの教官ならば指示や野次を飛ばす時、かならず自分たちの真正面か真横か真後ろに陣取るのが普通なのだ。その方が声がキンキンとよく通るし、こちらへのプレッシャーになると分かっているからだ。

 だが今の教官の位置では、ななめ後ろだ。これは道理に適っていない。

 さらに、そんな彼の元へとトテトテ駆け寄ったスフィールリアが、

「あの、教官さん。あたしは別行動でいいんですよね?」

「ああ、もちろんかまわんよ。好きな場所から観戦してやってくれたまえ」

「あ、ありがとうございます!」

 そんなやり取りののち、すたこらさっさといった風な足取りで、広場入り口付近にあったちょっと大きめな岩場の影へと入り込み……。

「……」

 膝を折りたたんで座ると、両腕でしっかりと、頭を抱え込んだのだった。

 完全な、防御姿勢である。

 ふと目が合うと彼女、「頑張ってっ」なんて小声とともに親指を立ててくる。

「――」

 アイバはその顛末を、無言で見届け――

「ロイ、俺らもいこうぜ。早いもん勝ちだってよ。点数稼いどこうぜ」

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 すでに抜剣して肩を叩いてくる班員たちを振り返った。この班のリーダーは、アイバだ。

 だから、判断を伝えた。

「隠れるぞ。今すぐ。最優先」

「……はぁ?」

「リーダーとしての判断は伝えたぞ。あとは好きにしろ。俺は隠れる!」

「って、おいおい!」

 言うなりアイバは身を翻すと、スフィールリアのいる岩場の影へと入り隣に座り込んだ。

 突然のことにうろたえながらも、班メンバーの三分の二ほどが、追従して続々と体育座りを決め込んでくる。

「ちょっ……なに! 狭い狭いやめて!」

「そう言うなって、なっ、相棒!」

「へへへ……師匠今日も素敵だぁ……はぁはぁ」

「な、なんなんだよアイバァ。ついてきちまったけど、知らねぇぞぉ?」

「おいおいロイ班なんだぁ! 怖気づいちゃったのかよぉ、ははっははぁ!」

「あとがないんだろぉ〜?」

「うるっせ! 本試験で絶対合格すっから譲ってやってんの! 俺っていいヤツだよな〜……がんばれよー!」

 岩場から後ろ手だけを出して振ってやっているアイバに、スフィールリアは鋭い叱責を飛ばした。

「もっと頭を低くしてっ。ホラみんなも!」

「お、おぅ」

「わ、分かったよ」

 彼女の指示の通りとさらに窮屈に身体を折り曲げるアイバ班面々のうしろで、今、大陸最弱級モンスター『ドロップ』の掃討作戦が開始されようとしていた。

「たくよぉ、トーシローの女ひとりに振り回されるなんて焼きが回ってんだよなぁ」

「そんじゃま、ありがたくポイントいただいて、」

「おきますか――っとぉ!」

 剣を持った戦士たちが、各々のスタイルで上級の刃を打ち下ろした。

 ガツッ――と鈍い音を立て『ドロップ』たちの表面が幾層にも渡って砕け散る。

 そのまん丸い身体が、反撃の兆候にブルブルと震え出して――

「――ん?」

 そして、それが始まった。

 

「っっっぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 戦士たちの絶叫が響き渡った。

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「痛てて! 痛て!? 痛でででででだだだ!?」

「ぐはっ……おぼごっ……ぐえっ…………ぐっほぁ…………!?」

「痛っってええええええええええ!?」

「だれか……助け、あがっ…………あぎゃあああああああああああああああ!?」

 しかし、そんなものすら小さく聞こえるほどの、騒音と振動の嵐だった。

「あわわわ……予想以上だった」

 頭を抱えたスフィールリアは、膝の内側でガタガタと声を震わせていた。

 騒ぎの原因は、言わずもがな『ドロップ』だった。

 平和に転がっていたところを突如として自分よりもはるかに硬い剣なんかで叩かれたドロップが、びっくりして、反撃のために跳ね飛んだのだ。

 そしてその『ドロップ』たちが別の『ドロップ』たちに勢いよく衝突して……ぶつかられた『ドロップ』たちがまたさらにおどろいて弾け飛んで……仲間にぶつかり……壁を跳ね返ってまた仲間にぶつかり……さらに空中で衝突なんかもして…………。

 あとはもう、加速度的に弾けてゆくだけだった。

 今、彼女たちの背後の広場は砲弾の嵐だった。

 バチゴン! とすぐ後ろの岩場を『ドロップ』が跳ね返っていって、一同は身をすくめた。

「ななな、なんだこの勢いと威力! 『ドロップ』てこんなすさまじいモンスターだったっけ!?」

「当たり前じゃない! こんな密閉された空間であんなにいっぱいの『ドロップ』を弾けさせたら、そりゃこうなるよ! ひ〜〜〜ん……!」

 壁面が砕けて、ばらばらと、ちょっと冗談ではない大きさの破片までが降り注いでくる。ゾッとしてアイバは上空にかぶさる崖の天蓋を見上げた。

「これ、崩れるんじゃないのか……いつ収まるんだ!? 大丈夫なのかっ!?」

 スフィールリアはとにかく耳元と頭頂部をギュッと覆ったまま叫び返した。

「知らないよ! こうなったら収まるのを待つしかないもん、祈るしかないよ!」

 そのまま、最弱モンスターの奏でる狂宴は、十分間ほど続いたのだった……。

 

 その、十分後……。

「……」

 騒ぎを免れたメンバーたちは岩場へ登り、静まり返った広場を呆然と見下ろしていた。

 そこら中に落ち転がった瓦礫や『ドロップ』たちの生き残りで広場は埋め尽くされている。そんな隙間隙間で、プロテクト・アーマーから露出した顔面や腕部を真っ赤に腫れ上がらせて、何人もの屈強な男どもがぴくぴくと痙攣している。

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 死屍累々である。

「……ひとつ思い当たったことがあるんだけどね、コレ、繁殖期だわ」

 なんとなく対応を思いつけないままでいたメンバーたちが、これまたなんとなく、スフィールリアに顔を向けた。

「繁殖期?」

「『ドロップ』って、繁殖じゃなくって増殖するんじゃなかったっけ」

 うん、とスフィールリアは広場に顔を向けたままうなづく。

「増殖には違いないんだけど、その前に、お互いの持ってる情報≠交換するの。まったく自分と同じ情報≠株分けするんなら単なるコピーだけど、そういうことするから、『ドロップ』って単純細胞生物≠ノは分類されないんだ」

「マジかよ……」

「でね、あるていど大っきくなって情報蓄積が飽和に近くなって、繁殖期――増殖期でもいいけど――になった『ドロップ』は、近くにいる個体を探して、根気よく弾けて近寄っていって、うまく接触したら情報≠通信して交換するの。今まで取り込んできた物質とか、今までいた土地の蒼導脈≠フ情報とかをね。

 それで複数体の固体から株分け≠ウれて増殖した新しい個体は、今までの固体がいたことのある中で一番いい蒼導脈≠フある土地や、その条件を知れるの。だから蒼導脈≠ェ豊富だったり、流れの穏やかな土地には『ドロップ』がたくさんいるんだ。

 それはともかく、だから増殖期の『ドロップ』って、普段の臆病に輪をかけて、すっごく気が張り詰めてるの。目とか鼻とか耳がなくって、仲間の位置や地形を知るために蒼導脈≠フ波動を探るしかないから、敏感になってるんだ。

 ついでに、情報……蒼導脈≠燒O和に近い状態になってるから弾ける時の力も普段よりずっと強いんだよ。エントロピー・キーで貯蓄≠エネルギーに変換してるの」

「その通りだ」

 スフィールリアが簡単に解説を終えると、木の陰から出てきた教官が岩場の前に立ち、愛想のない顔で無知な訓練生たちを見上げてきた。ついでにその途中で、何人かの情けない訓練生たちを踏みつけたりもしていた。

「……」

「こんな密閉した場所に、普段無活動に近いはずの、これだけの数の『ドロップ』が密集していることを少しも不自然に思わなかったのか? 彼らにとって都合がよかったから、仲間を待ち伏せするために、自然と集まってきていたのだ。このような場所なら仲間さえ存在すれば、適当に弾けているうちに接触ができるからな。

 あとはこちらの綴導術師のお嬢さんの言う通りだ。このように、たとえ最弱のモンスターであろうとも、数とその他の条件がそろいさえすれば、百戦錬磨の戦士の手にも負えない力を発揮することもある。地形が崩れて生き埋めにならなかったのはとことん運がよかったな?

 大変に有意義な講義を耳にできたことにもだ。彼女には感謝するといい」

「……」

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 一同が、やはり呆然とスフィールリアと顔を見合わせ……。

「で、でもですよ教官? それにしたってこの威力は……どうなんです。聞いたことないですよ、いくらなんでも『ドロップ』がここまでの破壊をもたらしたなんて話は」

 教官はつまらなさそうに鼻を鳴らしただけだった。

「だからそれは、お前たちが無知で浅はかであるというだけのことだろう。だが挽回のチャンスはやろう。ここに倒れているバカどものダメージ量と状況を見て、その理由に思い当たる者はだれかいるか。……いないのか。では申しわけないがお嬢さん、すべて分かっているらしいあなたから、このバカどもに今一度状況の真相をご教示賜れないだろうか?」

 このバカどもの『バ』のあたりにやたらと強いイントネーションをかけられたアイバたちが身をすくめるのを横目に、スフィールリアは考えを整理しながら、つらつらと語り始めた。

「……。え〜と、まず、『速度合成の法則』っていうのがありまして……」

「ほう」

 と相槌したのは教官である。

「異なる運動をする物体同士であっても、その運動量が合流する場合には、その速度……つまり運動エネルギーを合算≠オて考えることができるっていうものです。え〜と、簡単に言うと『速度の足し算引き算』ができるわけです。

 たとえば、時速30Kmで弾け飛んでいる『ドロップ』同士が真正面から衝突した場合、30+30で、衝突時のエネルギーは時速60Km相当に数えられるっていうことです。

 で、『ドロップ』は普段から自分の足で動くってことがあんまりできない生き物だから、できるだけ使うエネルギーは節約したいわけです。脅威のレベルに合わせて自分が弾けるのに使うエネルギーも決めるので、加わる衝撃が強いほど、ソイツもより強く弾けようとするわけです。あとは、加速の連鎖になるわけです」

「すばらしい」

 教官がこれみよがしに拍手を送り、ほかメンバーたちも慌てて追従する。

 教官の視線にうなづき、スフィールリアは講義≠続けた。

「えー、さらに『ドロップ』は蒼導脈≠ゥら発生した、蒼導脈≠由来にする生き物なので、生き物としてはなんにもできないように思われてますが、内部での情報¢作には非常に長けた生物だと言われています。言ってみれば『小っちゃな綴導術師』です。かなり限定的ですけど……。

 綴導術の概念においてエネルギーと情報は等価です。エントロピー・キーっていうんですけど……とにかく、なので、『ドロップ』は自分にかけられたエネルギーを、内部でそのまま『自分の情報』に変換することができるってことです。

 要するに、時速60Km相当の衝撃が加わった場合、そのエネルギーをそのまんま『破裂力』に変換して放出することができるってわけです。腕っぷしの強い戦士さんでも『ドロップ』に当たれば痛い、ケガをしたりすることもあるっていうのはこれが理由です。相手が一匹だけなら大したことにはならないだろうけどね。

 さらについでに、蒼導脈≠由来にしているということは、三原色≠色濃く残している固体の場合はその色の蒼導脈≠フ性質もまだまだ残していることがあるっていうのも、え〜と、大きいと思います。

 あの中にも緑色の固体がいたので、その場合、反発のエネルギーも増幅されてしまい、」

「……」

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「こんなことになっちゃったのかなって。以上です。かなっ。えへ」

 アイバ班の生き残り全員が、ぽかんとした顔で彼女を凝視して……。

 パチ……パチ……パチパチ。

 教官の大味な拍手に釣られ始め……やがて、各々の心の底から湧き立つ旋律となり、広場に唱和されていった。

「え、えへへ、えへ……照れるなぁ」

 しかし、面々の彼女を見る視線の熱は本物であった。

 ぱん、と打ち鳴らされた教官の手に、一同が向き直る。

「これが、大陸最弱モンスターと名高い『ドロップ』の恐るべき概要だ。この中のひとりでも、この『ドロップ』に関してこれだけの知識を有している者、または一度でも思いを馳せたことのある者はいるか?」

 全員が、無言で否定をしていた。

「では、お前たちにとってこの『ドロップ』たちはしょせん『大陸最弱のモンスター』以上のものでも以下のものでもなかったということだ――結果がこれだ! お前たちはなんだ! お前たちは聖ディングレイズ王国の未来を担う<国立総合戦技練兵課>の訓練兵か。違う! もはやお前たちはただのランクF『ドロップ』未満の最軟弱腰抜け男にすぎない!

 ――これが知≠セ! 我が王国旗の剣がなぜ英知の書≠護っているのかをよく考えることだ。

 考えることをやめるな。人間を霊長の頂へと歩ませてきたのは力≠ナはなく知≠ナあるということを忘れるな。腕っぷしに自信があるつもりだからといって、脳みそまでを筋肉の塊にすることはないぞ! 帰ったらその筋張って凝り固まった犬の食用にもならない脳みそをとことん叩きほぐして柔らかくしてやるのでそのつもりでいろ、いいなァッ!」

『ハイィッ!!』

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 全員がその場に立ち上がっていた。思った以上の声量に驚いて見上げると、崖の上に張り込んでいた偵察班たちも直立で声を張り上げていた。そういえば拍手のリズムもやたら多かったような気がしていたのだが、崖上からも聞いてきていたのかもしれない。

「では、今回お前たちだけは減点を免れてやる。ありがたさをかみ締めたらこのバカタレどもをさっさと叩き起こして残存『ドロップ』と瓦礫の撤去作業に移るがいい! 試験日程に到着が間に合わなかった場合は無条件で不合格だぞ! 忘れるな! かかれっ!」

 

 その後の旅路は快適だった。

「姐さんお茶をご用意しましたどうぞ」

「いやいやコッチはとっておきの保存食用ビスケットが。なんとあの<パルッツェンド>謹製だからコッチをどうぞどうぞ」

「ほ、ほらよ、花だ……名前は知らねぇけど、似合うんじゃないかってよ……」

「スフィールリア殿っ、手合わせをしてくれ、頼む!」

 こんな感じで態度を反転させた一団の半数ほどにことあるごとに世話を焼かれたから……というわけではなく、特にトラブルもなく進めていたためである。

「お前らなぁ、休憩のたんびにソイツんところに乗り込んでんじゃねーよ。ソイツは今回な、俺の相・棒なんだぞ、俺の。手のひら返しすぎだろ」

「あーはいはい、今回は、だろ」

「スフィールリアさん、あんな、あなたを漢だなんて呼ばわる失礼な強化戦闘ゴリラは忘れてください。今度、あなたのための最高の王都巡りへご案内いたす機会をわたくしめに」

「あっ、シメは3-4番ウォールストリートっ?」

「なっっ……ぜっ、それ、を……!?」

「くはぁーーっははぁ! ざまみろ! ソイツに俺らの手の内すべては通用しねぇ!」

「ぐぅううううおおのれえぇぇい」

「あははっ! デートは断るけどリフレッシュの運動とか護衛のお仕事ならお願いしてもいっかなー」

 焚き火を囲み、挙手した訓練兵たちにまた一斉に詰め寄られて、賑やかに夜をすごす。

「わぁ、大っきな湖……! 王都のよりも大きい!」

「あぁ、あれは<クファラリス精霊邸湖>だ。特定採取指定保護地域としても保護されているから、君たちにとっても馴染み深い場所なのではないかな」

「うわぁ、採取地なんですか! あんなキレイな場所なんだぁ……いいなぁ……」

「さらに先には<クファラリスの森>もあるが、そちらは少々危険だな。Cランク以上のモンスターの巣窟だから、護衛と装備はよく吟味した方がいい――」

 新しい採取地を知ることもできた。

 落ち着いたら絶対にこよう、フィリアルディたちにも教えてあげようなんてことを考えながら――見たことのない新しい景色に魅せられながら――

-26ページ-

 五日ほどの旅程が、消化されていった。

「準備は、大丈夫かね?」

 スフィールリアとアイバは、互いに顔を見合わせ――ふたりで同時に、教官へとうなづいた。

「では試験No.第04メンバー、アイバ・ロイヤード。随行外部アドバイザー、スフィールリア・アーテルロウン。現時刻より試験開始とする。幸運を」

 冷え込んだ朝もやの中に自分の呼気を混ぜ込みながら、アイバは、見果てるように目を細めていた。

 地平線も、そこへ続く空も見えない。いっぱいにあごを上げてようやく、うっすらした青空が見えるていどだ。

 青空と、曇天にも似た寂寥の色との、境界が。

 ――霧の杜=B

 まったく、なんの脈絡もなく。まるで天空にある雲が、そのままの密度で地上に居座ってしまったかのように。

 揺らめきたゆたう静寂の領域は、そこに、あった。

「アイバ。なにしてるの」

 はっとして顔を下ろせば、防寒着を着込み荷を背負ったスフィールリアが、すでに境界≠フ入り口へと片足をかけている。

 なんのことはない、大地に延々と打ち込まれた木製の柵。それがぽっかりと途切れただけの、扉もなにもない入り口だった。縁にかけられた、簡素な看板。

『霧の杜″送ァロゥグバルド監視公園・第三封印階層・ゲート63』

 そこにいる彼女の、揺らめく霧≠ノ身体の半分をぼやけさせた姿の儚さに。

 その表情の透明さと、声音の静けさに。

「――」

 アイバは、言いようのない不安を覚えてしまった。

「早くいこう」

 ふい、と翻り、歩き出してしまう。彼女の姿が見えなくなる前に、

「ま、待てって――」

 アイバもまた慌ててどたどたと駆けて、大きな荷を背負う姿が、消えていった。

 彼らの挙動にも、霧≠ヘその揺らめきの一切を、変調させることはなかった。

 

「なぁ」

 声をかけても、返事はない。

 スフィールリアはうしろ頭も隠れてしまうくらい大きな荷を背負っているというのに、黙々と、どんどん進んでいってしまっている。

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霧≠ノぼやけた後姿が、やがてどこかに消え去ってしまうのではないか。

 そんな不安を拭えず、アイバは強めの声を出して彼女を引き止めていた。

「なぁ、おいってば」

 ようやくスフィールリアが振り返ってくれたので、彼はほっとして小走りで彼女の隣まで駆け寄った。

「お前な、飛ばしすぎるなよ。体力保たないぞ」

 しかし彼女はといえば、やはり変わらずに淡々とした表情を向けてきて、

「アイバが遅いんだよ。歩速がいつもの半分もないよ。いつもはあたしが早足にしなくちゃいけないのに」

「……そ、そうか?」

 思わぬ指摘にどもってしまったのは、自分がそれほど臆していたのかという事実と、普段彼女にそういった苦労をかけていたという事実、半分ずつだ。

 特に焦りを覚えたのは、なぜだか後者の方だった。彼女がそういったフィジカル面とでも言うのか、肉体面で自分に後れを取るなんてことは考えもしていなかったのだ。しかし考えてみれば体格の差というのは厳然としてある。歩幅が違うのだから、物理法則として彼女が早足をしなければならないのは当たり前のことだった。

 だがしかしアイバの胸中にはそんなことが、なぜか少なくない衝撃として、静かに波及していっているのだった。

 これはなんだろう。罪悪感? 少し違う。危機感? 近いがこれも違う。手ごわいモンスターに囲まれ、救援も見込めないとなった時の胸の圧迫感には似ていたが……

 実際、手ごわそうな印象ではあった。これを解消するには。

「それに、霧の杜≠ノ入ったあとのだいたいの手順は、あらかじめ打ち合わせしておいたじゃない。

 試験期間は三日。その間に指定されたなんらかの『目標物』を発見して脱出すること――この期間から逆算した半分の目測距離を進んで、目印になる遺跡物を探して探索基準点にする。

 そこまでの間も目印は可能な限り残しておく。それからは拠点を基準に円範囲で探索を広げてゆく。……アイバも目印残せそうなもの、探してよ」

「お、おぅ。そうだった……よな。悪いな」

「あたしも、ごめん。気をつけるね」

 また、ふたり。黙々と歩く時間が続いた。

 白く揺らめく世界。

 揺らめいて――渦巻き、流れてゆく。

 どこまでも、淡くかすむ。

 白く結晶化した呼気もまた冷気とともに白紗の中へと紛れて、自らの行方を見失うようにして消えていった。わずかな温もりの滞在も、許されないかのように。まばゆくもあり、ほの暗くもあった。

 濃霧の中にいるにも似ていたが、水の結晶が光を拡散しているのとは、少し違うのではないかと思えた。水ではないのだから実際に違うのだが。霧≠フ隙間を縫って光線が届くでも、濃度の偏差によって明度が変わるでもないのだ。

霧≠ェ濃い場所、重なっている場所。そしてずっと遠方を見渡そうとしても、ただ『真っ白』になるだけ。むらもなく、最終的に、すべてが均一になってしまう。――太陽の位置も分からない。距離感も狂いそうだ。

 いつまでも黙っていれば、時間がどれくらい経ったのかすらも見失ってしまいそうだった。

 逆を言えば、ただそれだけの場所でしかなかった。

 離れすぎてしまえば互いの位置を見失ってしまいそうではあったが、数十メートル範囲にいるていどなら問題はない。足元だってしっかり見えているし、地面も、たまに見える木立も、外≠フ様子と比べてなにが変わっているでもないのだ。

 もっと恐ろしい雰囲気の――地面があわ立っていたり、怪植物がのたくって怪生物が跋扈しているような類の魔境なのかと思っていたのだが(練兵課の授業をまじめに聞いていなかったのだ)。嵐が吹き荒れているでもない。ただただ、静謐だけに満たされている。

 アイバは多少は安心していた。これなら、目標物の探索もさほど苦労をせずに完遂できるだろう。

 だから、残る心配事は、ひとつのみとなっていた。

「これが、霧の杜≠ネんだな」

「そうね」

「これならなんとかなりそうじゃないか?」

「そう?」

「慣れてみりゃキレイなとこな気もしてくるしよ」

「……」

「……あ、ビスケット、食うか? ほれ」

 封を開けたスティックタイプの固形食糧を口元に持っていってやると、ハエにでも突かれたみたいにスフィールリアがほほを逸らして、振り仰いできた。

 ちょっと、顔がしかめられていた。

「いらないってば。ちゃんと探してるの」

「さ、探してるって。お前がさ、ほら、なんか元気ないみたいだったから――ていうか元気ねーぞ。どうしたんだよ」

 アイバの心配事がそれだった。

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 スフィールリア。霧の杜≠ノ入ってから、ずっと、この調子なのだ。この土地へ近づくほど、だんだんと静かになっていってはいたのだが……。

 返事は常にひと言ふた言。笑いもしないし飛んだり跳ねたり走ったりもしない。

 視線はいつもどこか遠くを見通しているようで。どこまでも平坦で、透明で、真っ白な表情は――まるで故郷≠ナも探しているかのような。生まれ育った場所とか、そういう類ではない。

 もっと生物として根源的ななにか≠見据えているようにも思えたのだ。そう――

 まるで、生命の還り着く場所を捜し求めているかのような――

そこ≠見つけた時、彼女は帰ってこないのじゃないか。そんな気にさせられて。

 それが、アイバには不安だったのだ。

 しかしそんなアイバの胸中を知らず、スフィールリアは「あぁ、そっか」と気だるそうな納得声を返してくるだけだった。

「ごめん。あたし、好きじゃないんだよね。霧の杜≠チて。……気が滅入っちゃうの」

「ん。まぁそりゃ、好きってヤツもいねーとは思うけどよ」

 まぁねとそっけなくうなづき、彼女は再び周囲の探索を開始している。

「アイバには話したんだっけ。フィルラールンにも霧≠フ区画って、あってさ。だから小さな時から、師匠と一緒に霧の杜≠ノも入って、お手伝いしてたの。いろいろ、素材が取れることがあるから」

「あ……そうなのか」

「うん。霧≠ノ消される前に、存在情報が劣化したり特殊な変性をしたりする場合があるんだけど、そういう特殊な物質は綴導術でも作り出せないものもあるから。貴重だったり高級だったりするものもあるの。師匠はよくいろんなものを霧≠フ中に置き去りにして、そういう素材の養殖≠してたの」

「そんなことできるのか。大儲けできるんじゃないか?」

「簡単なことじゃないよ。あれは師匠だからできたことだし……それでも失敗率の方が高かったの。だからなおさら――思い出しちゃうんだよね」

「……なにをだ?」

「……嫌な思い出、とか」

 アイバは顔にひたすら疑問符を浮かべていたが、スフィールリアの方は、特に具体的な言及をしてくるでもなかった。

 それは『運が悪ければ』自然と思い知る羽目になるであろうことだったし、スフィールリア自身が、こんなことを考えていたためだった。

(あたしが帰還者≠セって知ったら、コイツも、もう遊んでくれたりしなくなっちゃうのかもしれないんだよね)

 

 

説明
◆既存投稿ページを再利用したまとめ投稿です。最新投稿分からの続編になります。(2015/06月)
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