ALO〜妖精郷の黄昏〜 第35話 整合騎士団VS元老長
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第35話 整合騎士団VS元老長

 

 

 

 

 

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キリトSide

 

戦った俺が言うのも難だが、ベルクーリはかなり重傷だ。

しかしこのまま放っておく気はないし、彼にも真実を知ってもらいこちらに協力してもらわなければならないからな。

 

「信用してもらえるかは知らないが、薬だ…飲めるか?」

「信用は、するさ……もらおうか…」

 

ベルクーリは重傷でありながらも言葉に対応し、

俺が懐のポケットから取り出した薬の小瓶を取り出し、彼の口元に運び呑ませた。

やはり彼もその味に思うところがあったようで顔を顰めたが傷が癒え、疲労感が無くなっていくことに気が付いたようだ。

 

「こいつはたまげたな……礼を言うぜ」

「気にするな、俺が付けた傷だからな。それにこれから協力してもらうことにもなるし」

「それもそうか。よっと…!」

 

傷が癒えたことを確認するようにベルクーリは立ち上がり、体を軽く動かした。

その様子を見ていたユージオとアリスが近づいてくる。

 

「小父様、お怪我の方は…」

「おぉアリス嬢ちゃん。見ての通り、もらった薬のお陰で全快だ。すげぇもんだよ」

 

アリスから聞いたところ、彼女にとってベルクーリは師であり、最も尊敬する人物だそうだ。

彼のことを心配していたようだが、自身も世話になった薬の効果を信じていたらしく、ホッとした様子を見せている。

 

「さて、さっきアリス嬢ちゃんが言っていた俺たちの真実ってやつを聞こうと思うんだが、その前に1ついいか?」

「なんだ?」

「いやな、そっちの坊主とアリス嬢ちゃんの様子が気になってな」

「それはそうだろうな」

 

彼の問いかけには俺も同意する。

なぜかと言うと、俺たちの視線の先でユージオとアリスは手を繋いでいるからだ。

そのため俺もベルクーリもニヤニヤとその様子を眺める。

 

「な、なにを仰るのですか小父様///! こ、これは、冷気が冷たかったので仕方がなく…///!」

「アリス、落ち着きなよ」

「貴方は貴方で何故落ち着いているのですか///!?」

 

俺たちの反応に動揺するアリス、一方でユージオは笑いながらアリスを宥めており、彼女は彼の反応にツッコミを入れている。

やっぱなんだかんで息ピッタリだな。

 

「冗談はここまでにしてだ……お前さんたちの話し、聞かせてもらえるか?」

「驚くよりも心構えの方を頼むぞ。それじゃあ整合騎士の正体について、話そうか」

 

俺たちは気持ちを切り替えて話しをすることにした。

幸いにもベルクーリはいままでの整合騎士とは違い、元々話しは聴いてくれる姿勢だったからな。

まぁ戦ったのは剣士としての意地みたいなものだし。

 

「まぁ俺もユージオもそこまで詳しいことを知っているわけじゃないんだが…。

 ベルクーリ、アンタはノーランガルス北帝国北方の辺境地にあるユージオとアリスの故郷、

 ルーリッドの村を開拓した人間の1人だ」

「開拓民の中で剣士であると同時に冒険家でもあったそうです。

 貴方の事は本にも残っていて、僕は『ベルクーリと北の白い竜』という物語が好きで、

 小さい頃はよくその本を読んでいました」

「俺が、元は人間だった、と…?」

 

俺とユージオの言葉に困惑と信じられないという表情を浮かべるベルクーリだが、

その表情に何処か納得の部分が混じっている感じがする。

やはり彼も自身の記憶に思うところがあるのだろう。

 

「貴方だけじゃない。エルドリエさんも、デュソルバートさんも、

 ファナティオさんも、他の騎士の人たちも、そしてここに居るアリスも…。

 みんな、最高司祭のアドミニストレータに記憶を封じられて、公理教会への忠誠を埋め込まれています」

「嬢ちゃんが右眼の封じを破れたのは、どういう理由で…?」

「私は、整合騎士になる前の“アリス”の過去を聞き、家族に会いたくなったのです…。

 それが例え教会や最高司祭猊下の敵になることだとしても、騎士にあるまじき行いだとしても…。

 私自身が強く、そう望んだら、右眼の封じが解けたのです」

「整合騎士に2つの封じがあるんだ。1つは額に埋め込まれている記憶を封じるための『((敬神|パイエティ))モジュール』。

 もう1つがアンタも知る右眼の封じ、これは教会を裏切らないようにするためのものなんだ」

「そういうことだったわけか…」

 

ユージオの話に疑問を持ったがそれにはアリスと俺が答えた。

アリスという存在のお陰でもあるだろうが、勝負の結果も受け止めているのか聞き入れてくれている。

さらに、アリスやエルドリエたちにも話したものと同じ内容のアドミニストレータが行ってきたことを説明した。

話しを聞いたベルクーリの反応を見ると怪訝な表情をしていたが、俺たちに対してのものではないらしい。

 

「天界から召喚された神の騎士、それに関しちゃ前々から納得いかねぇとこがあったんだ。

 なるほど、正否を考えなくともそれなら納得がいくわけだ」

 

怪訝な表情はアドミニストレータに対してのものだったようだ。

だが俺としても整合騎士のトップである騎士長が最高司祭や元老長に対し疑念を持っていることに少しばかり驚きを感じた。

『敬神モジュール』や右眼の封じを考えるにアドミニストレータの術も完璧ではないということが窺える。

勝機はアリ、だな。

 

「記憶の方はいいが、右眼の封じはどうすりゃ解ける?」

「とにかく教会に対して反抗することを考えればいい。

 少なくともアリスたちはそれで解けたみたいだからな。まぁ封じを破れば右眼も吹き飛ぶが…」

「右眼がねぇ…ま、それしかねぇだろうな」

 

そういうとベルクーリは俺たちから少し離れ、何かを考え始めた。

すると、彼の表情に変化が訪れた…苦悶が窺える。

 

「ただ教会に反抗する気持ちを持つんじゃない。

 自分自身を取り戻したいと強く願って、そのために教会も、元老長も、最高司祭も、切り捨てる覚悟を持て。

 整合騎士としてではなく、1人の人間として生きることを思え。整合騎士としての己を捨てろ!」

「ぐぅ…!」

 

苦しみながらも右眼を押さえ、その眼は赤く染まり文字が浮かび上がっている。

一歩、あともう一歩というところなのだろうが…。

 

「小父様! 小父様ならば乗り越えられます!

 私でさえ破ることの出来た封じ、小父様ならば出来るはずです! だから、頑張ってください!」

「貴方は僕が小さい頃から憧れてきた英雄です。

 そんな貴方が、欲に塗れている最高司祭の操り人形なんて、あっていいはずがない!」

 

ベルクーリから教えを受けて尊敬しているアリスと幼い頃より彼に憧れてきたユージオ、

2人の思いが篭った言葉に表情が揺れながらも強いものを感じる。なら、俺も声を掛けるべきだよな。

 

「俺とあそこまでやりあえておいて、まさか片目が吹き飛ぶことに臆しているわけじゃないよな?

 俺がまた戦いたいのは操り人形のお前じゃなくて、1人の人間としてのベルクーリと戦いたいんだよ」

 

「はっ……尊敬、される、大人ってのは、大変だな…。

 そう、だな…若いお前さんらが、出来るって、のに……俺が、この…体たらくは、駄目だよなぁ…!」

 

俺が皮肉も込めて言い放てば、ベルクーリはその顔に笑みを浮かべながら一層強い表情を浮かべた。

そこには最早、迷いはない。

 

「おおおぉぉぉぉぉ!」

 

雄叫びのち、彼の右眼は吹き飛び、そこから血飛沫が上がった。

 

 

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『敬神モジュール』は取り除いていないものの、見事に右眼の封じを打ち破ったベルクーリ。

アリスが治癒術の中でも高位にある神聖術を行使し、彼の右眼に治癒を施した。

 

「はっはっはっ、まさかあんな風に右眼が飛ぶとは、驚いたぜ。まぁなんにせよ、礼を言わせてもらうぞ。

 キリトとユージオ、だったな? 俺も付いていかせてもらうぞ?」

「あぁ。アンタほどの人なら心強いよ」

「よろしくお願いします、ベルクーリさん」

「小父様がご一緒なのですから、見苦しいところはお見せできませんね」

 

陽気というか明朗というか、ともかく少々自由な風貌があるところが、

ベルクーリという人間の持ち味だということが言葉で分かった。

しかし彼が同行してくれるというのは俺だけではなく、ユージオやアリスとしても有り難いものだろう。

 

ただ俺は1つだけ懸念がある…それはアリスとベルクーリに施されている術の完全な解術だ。

エルドリエやデュソルバートは俺たちが出撃した後にカーディナルが解術を行うと言っていたのでもう心配はないだろう。

リネルとフィゼルはどうか分からないが、少なくともファナティオと『四旋剣』の4人は解術されていると予想できる。

だがアリスは俺たちとの戦闘以来そのまま同行し、ベルクーリもつい今しがた戦闘を終えたばかりだ。

解術は完璧とはいえないため、注意や警戒は一層必要かもしれない。

 

と、その時だった。俺はふと嫌な気配を感じ、上層へと続く階段のある方に視線を向けた。

少々軽快に階段を下りる音が聞こえ、俺以外の3人もそちらに視線をむける。

 

「俺より上の階層に整合騎士はいねぇはずだ…」

「小父様、もしや…!」

 

ベルクーリとアリスが警戒と嫌悪感を露わにして話しをしている。

最高司祭は最上層の100階から降りることはない、ならば元老院の誰かということか…。

俺はユージオに『青薔薇の剣』を返却し、俺たちは各々の剣を構える。

 

「ホッホォォォー、これはこれは、どォいう状況ですかねェ?」

「元老長、チェデルキン…!」

 

忌々しげに、そして憎々しげに姿を現した者の名を呼んだアリス。

 

その姿は一言に人とは言えないものだ。

胴体は球体と言っても差し支えないほど丸く、

冗談のように短い手足がついており、首は存在しないで肩に直接丸い頭が乗っているだけ。

着ている服は極彩色で右側が赤、左側が青でどちらも光沢があり、

金色のボタンによって辛うじて腹を押さえており、ズボンと靴までも服と同じカラーリングだ。

しかも禿だ、禿……その頭にはカーディナルが被っている帽子と同形の物を被っているが、大変悪趣味である。

肌は異様に白く、丸い鼻に弛んだ頬、やけに紅い唇に半月形に細長い眼、気味が悪いとしか言えない。

 

奴が元老長のチェデルキン、奴を一言で表すならば“道化師”がピッタリだろう。

 

「騎士長殿、それに30号〜。剣を向けるべき相手は、そっちの反逆者の小僧どもですよォ」

「私を番号で呼ぶな! 私はアリス、そして最早((30号|サーティ))ではない!」

「俺が聞いた話じゃ『ダークテリトリー』からの侵入者のはずだったが、どうみても人間だろうが。

 それに、俺たちに術を掛けて操り人形にしていた代は、高くつくぞ!」

「な、なな、なぜ、ソイツらを斬らない!? そそ、それに、なぜそのことを知っているゥ!?」

 

俺を非常にイラつかせるムカつく声だが、アリスとベルクーリの言葉に動揺を隠せないようだ。

どうやら隠し事が出来ないタイプ、しかも自分で話すタイプでもあるな。

 

「『シンセサイズの秘儀』によって記憶を封印し、教会への忠誠心を埋め込み、

 天界から召喚された騎士などと信じ込ませる、そういうやり口でしたね。

 私も微かにですが覚えていますよ……広間の中央に怯える少女を縛り上げ、

 元老たちの三日三晩に及ぶ多重術式で心の壁を無理矢理こじ開け、シンセサイズを施す」

「よく覚えていましたねェ〜……幼く、無垢で、可愛らしいお前が、ポロポロと涙を流し、懇願する様…。

 『お願い、忘れさせないで……私の大切な人たちを忘れさせないで…』でしたね〜、ホォホッホォォォ〜!」

 

確認か、はたまた自制するためか、アリスは確認するように奴に対して投げかけた。

それに応えた奴の言葉は不快で耳障りで、彼女を苛ませていることに俺のイラつきが増した。

さらにそれに追い打ちをかけるように再び口を開きやがる。

 

「アタシャいまでもあの光景を酒の肴にできますとも!

 糞田舎から連れられてきたお前は、修道女見習いとして2年間育てられた……生活規則の穴を見つけてお出かけするほどお転婆で。

 一生懸命勉強すればいつかは故郷に帰られると信じて、頑張って……そんなわけがあるはずねェんですよぉ!

 力が上がったところで強制シンセサァァイズ!

 二度とお家に帰れないと知った時の泣き声、そそる泣き顔、そのまま石にしてお部屋に飾りたいほどでしたよォ!

 ホォ、ホォホ、ホッホォ!」

 

コイツもか……コイツも、救いようのない屑か…? コイツは下種郷の時以来の屑だ…。

『((笑う棺桶|ラフィン・コフィン))』のように自分が死ぬことすらも厭わない奴らとも違い、

ただ生者を冒涜することしか能が無い。

 

そんな奴を前にして俺の怒りははち切れんばかりだが、アリスは唇を噛み締めて己の怒りを自制している。

ベルクーリもそんな彼女を見ているからこそ、今すぐ斬り掛からない……だが、もう1人は違う。

俺はそれに気付いて彼を見たが、彼の殺意と怒りは最早止めることができないほどに膨れ上がっていた。

止めようと声を掛け、手を伸ばそうとしたが、チェデルキンが言葉を続けた瞬間、一気に距離を詰めていた。

 

「ホッホォギャアアアッ!?」

「殺す!」

 

叫び声を上げる元老長。アリスもベルクーリも何が起こったのかを理解できておらず、

奴も自身の身に何が起こったのか瞬時に理解はできなかっただろう、指を斬り飛ばされた事以外は。

逆に俺には彼が、ユージオがなにをしたのかを理解できたし、見ることができた。

 

アイツは《神霆流歩法術・零間》を行い、一瞬で元老長との距離を詰めてそのまま斬り掛かったのだ。

俺は『神霆流』の術技をユージオには教えていない…つまり、

俺が使っているのを見て覚えたか、無意識の内に使ったかのどちらかだ。

俺はそれに驚愕と共に歓びも覚えた……仮に無意識だとしても、

精度が俺たちに劣っていようとも、俺たちに近づきつつあるということだ。

友が俺たちの居る高みに近づく、それは俺と戦えるだけの実力を身に付けつつあるということだからだ。

 

しかし、同時にこのままではユージオが奴を殺してしまうことになる。

それだけは避けたい、そういうのは彼が背負うべきじゃない……少なくとも、怒りのままに斬ってはならない。

だからこそ俺はユージオを止めるべく駆け出そうとしたが、異変が起こった。

 

「フゥゥゥォォォオオオッ!」

「うぐっ!?」

 

チェデルキンの体が風船のように弾け飛んだ。しかし血液は飛ばず、真っ赤な気体が噴き出てきた。

それを吸ったからかユージオは苦しそうな表情を浮かべている、アレは毒なのか?

気体に包まれたことで俺たちは手で口を覆い、その間に気配が離れていくことに気付いた。

音からして階段を登っていったのだろう。煙が晴れ掛かると今度はユージオが奴の後を追いかけていく、あの馬鹿!

 

「アリス、ベルクーリ!ユージオを追いかけるぞ、アイツ頭に血が昇ってやがる!」

 

俺はすぐにユージオを追いかけ、そのあとを2人も続いてくる。間に合うといいが…!

 

 

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階段を移動することほんの数分、チェデルキンにも少し前を行くユージオにも追いつけず、

俺たちは95階である『暁星の望楼』まで辿り着いた。

ユージオが扉を開き中へと足を踏み入れ、俺たちもすぐに中へと続いた。

しかし、次の瞬間に爆音が響き渡り、衝撃から身を守るように腕を前にした。

 

「がっ…」

「ユージオ!」

「待て、アリス!」

 

かなりの規模の爆発によりユージオが吹き飛ばされ、その体が焼かれていた…高位の爆発系神聖術を放たれたようだ。

アリスはすぐさま彼の元へ駆け寄り、俺は止めようとしたが遅かった。

ユージオの傍に着き彼を抱き締めたアリスの側にチェデルキンが姿を現し、口から言葉を紡いだ。

直後、アリスの側で爆発が起こり、ユージオ共々吹き飛ばされた。

 

「ユージオ!」

「嬢ちゃん!」

 

吹き飛ばされた2人だが、外傷は明らかにユージオの方が酷い。

爆発の瞬間、ユージオがアリスを庇うように体を動かしたのに俺は気付いたから。

くそっ、不意を突かれたせいで状況が不味い。

さらにチェデルキンは再び発動句を唱えようとし、

俺とベルクーリは2人の盾になろうと動こうとした瞬間……一条の光が駆け抜けた。

 

「ぐぎょっ!?」

 

再び聞こえた悲鳴にも取れない蛙のような声、奴の体に丸く黒い穴が開いている。

俺は声が聞こえた方を向き、心強い応援に思わず心が喜ぶ。

 

「元老長チェデルキン…騎士ではない貴様の戦いに卑怯とは言わない。

 だがその行いは全て自身に返ってくることを覚えた方がいい」

「お、お前、2号ッ!? なぜ、お前まで、アタシにィっ!?」

「ファナティオ…」

 

そこに居たのは扉の前に立つ整合騎士の副騎士長であるファナティオだった。

その顔は兜を付けておらず、凛々しい女性としての顔を曝け出している。

そんな彼女を見て驚いているのはチェデルキンだけでなく、ベルクーリもだ。

 

「私まで、か……ふっ、生憎と私だけではないぞ?」

「どぉいう意味でほっあぁっ!?」

 

ファナティオがそう言うと彼女の後ろから今度は炎の矢が駆け抜けていき、奴の足元で燃え上がった。

悠然と歩きながらも弓を射続け、元老長は後退せざるを得なくなっていく。

真紅の弓で射る者、デュソルバートだ。

 

さらに2人を飛び越えるように1人の人物が飛び上がり、1つの長い物がチェデルキンを嬲った。

人影は着地をすると連続で得物を振るう……鞭を持つエルドリエか。

加えてファナティオとデュソルバートの左右から2人ずつ駆け抜け、

その手に持つ大剣を振るうのは『四旋剣』のダキラ、ジェイス、ホーブレン、ジーロだろう。

 

「な、なな、7号に、31号、それに22号たちまで……いったい、なんだというんでェすかぁぁぁっ!?」

 

混乱、いや錯乱しながらも攻撃を躱すチェデルキン。

まぁそれも当然か、自分たちの操り人形になっていると思いきや歯向かってきたんだからな。

カーディナルが上手くやってくれたんだろう。

 

「キリト、ここは我ら整合騎士に任されよ」

「我らを弄んだ報い、いまここで晴らそうと思う」

「私たちもまた、戦うべきだからね」

 

デュソルバートとファナティオ、エルドリエはそう言ってきた。

四旋剣たちも大剣を構えているが、その内の1人は女性らしい……彼女がダキラのはずだ。

 

「本当に俺やアリス嬢ちゃんだけじゃなかったわけか……キリト、ここは俺たちに任せちゃくれねぇか?」

「分かった。アリス、キミはどうする?」

「戦います……ユージオは、私を思い怒ってくれた…。ならば私も、ここで元老と決着をつけます!」

 

ベルクーリの提案に応じ、アリスに聞いてみると彼女も戦意を示した。

つまり、整合騎士団対元老長という構図になるわけだ。

ここは彼らに任せ、俺はユージオに治癒を施そうとしたが、エルドリエに止められた。

 

「カーディナル様から言伝がある。『96階にて合流』と、彼は私たちに任せて先を急ぐのだ」

「キリ、ト……僕は、構わない、から……先へ、最高司祭、を…」

「っ…分かった」

 

カーディナルからの伝言を受け、負傷しているユージオに促されるままに上階へと続く階段に突き進む。

 

「逃がしゃあしませんよぉぉぉおぉっ!?」

「行かせると思うか?」

 

俺に向けて神聖術を放とうとしたチェデルキンだが、ファナティオが『天旋剣』から光線を放ち、奴の動きを止めてくれた。

俺はそのまま階段を駆け上がる。

 

キリトSide Out

 

 

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No Side

 

キリトを逃してしまったチェデルキン。彼を整合騎士たちが囲み、ユージオは既に扉の外に避難させられている。

 

「どォいつもこォいつも、裏切る気かぁぁぁ糞騎士風情がァァァァァっ!」

「先に俺たちを裏切ったのは手前ぇらだろうが……行くぞ!」

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 

怒声を上げるチェデルキンに対し、怒りを心に秘めながら同胞の騎士たちに号令をかけるベルクーリ。

騎士たちもそれに応え、行動を起こす。

 

まずは四旋剣の4人が動き出す。

ダキラが大剣を横薙ぎにし、それを回避したチェデルキンに対してジェイスが反対側から横薙ぎを行い、

それも回避してみせたがホーブレンが前方より大剣の上段斬りで斬り掛かり、

バランスを崩しながらも避けたところを背後からのジーロによる大剣の薙ぎ払いでチェデルキンの背中が裂かれた。

 

「フォッギョオォォォっ!? フグゥっ、オマエらァァァ、これでも喰らいなさぁぁぁいィ!」

 

かなり長めの詠唱を高速で行い、瞬時に詠唱術を展開する元老長。

雷鳴が轟き、雷の塊がデュソルバートに向けて放たれたが、

彼はそれを《武装完全支配術》状態の『熾焔弓』の炎の矢で応戦し、強い意思を乗せて雷を相殺した。

 

爆風が吹き荒れる中、新たな神聖術を唱えようとしたチェデルキンに向けて長剣が振り下ろされた。

ベルクーリが煙の中を突き進み、斬り掛かったのだ。

 

「ベルクゥリィィィ! 神聖術だけだと思わないことですよォォォっ!」

「ぬぉっ!? さっきのやつか!」

「ホッホォォォ! さぁ次は「させん!」ぎゃんっ!?」

 

ベルクーリの剣を受けた瞬間にユージオの時同様、真っ赤な煙が辺りを満たした。

その隙を突いてチェデルキンは神聖術を発動しようとしたが己の体を幾つもの光条が貫き、激痛の余りに続けることは出来なかった。

ファナティオが天穿剣の《武装完全支配術》を行使し、奴の身体を狙い撃ったのだ。

 

未だに煙が辺りを満たしているがベルクーリが距離を開けた時、7本の鞭がかなりの勢いで空間を引き裂いた。

その横薙ぎの七撃はチェデルキンごと煙を吹き飛ばし、奴を壁に叩きつけた。

エルドリエの《武装完全支配術》による鞭の攻撃だ。

 

「ほぐぇっ!? お、お前たちぃぃぃ、もう許しませェェェんよォっ! 死になさぁぁぁいっ!」

 

高速詠唱によって『光素』が収束した後、大規模な爆発が起こった。

それは広間全体を埋め尽くすほどのエネルギーである。

しかし、光のエネルギー爆発が終わった直後、爆風が晴れた空間を黄金がチェデルキンを囲むように存在していた。

 

「光素系最強の神聖術ですか……しかし、私と『金木犀の剣』の前には力が足りないようですね」

「さ、30号〜!」

 

アリスが発動した金木犀の剣の《武装完全支配術》による数多の黄金の花弁。

それにより爆発は巨人の一撃を幾重にも合わせている花弁たちによって阻まれたのだ。

よって騎士たちを守り、チェデルキンは忌々しげにアリスを睨みつけた。

 

「余所見とは余裕だな!」

「喰らえぇい!」

「「リリース・リコレクション!」」

 

ファナティオとデュソルバートが自身の武器を持ちながら高らかに叫び、武器の力を解放した。

天穿剣からは数多の光条が駆け抜け、熾焔弓はその身が炎を纏う猛禽の鳥となり、チェデルキンへと向かっていった。

 

「ぶぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」

「まだだ、リリース・リコレクション!」

 

巨大な岩石を溶かす光と火山に居た伝説の不死鳥、どちらも超熱を放っていることもあり、

命からがら避けたチェデルキンだがその身の半分を焼かれることになった。

さらに追撃を掛けるべくエルドリエが《記憶解放》を行い、彼の鞭が沼のヌシである白蛇になり、

奴の体に噛みつき、地面に叩き付けた。

 

「ふっざけるなよぉぉぉぉぉっ! 猊下ぁっ! 最高司祭様ぁっ! アドミニストレータ様ぁ! アタクシにお力をォォォっ!」

 

狂ったかのように叫びだすチェデルキンはいままでとは比べられない速さで高速詠唱を行い、神聖術を発動した。

最大数であるはずの20を超える『凍素』を生み出して投げ飛ばし、それを全てアリスが黄金の花弁で吹き飛ばした。

 

「ホッヒィィィッ! お出でなさいぃ、アタシの魔人よぉっ!」

 

再び最大数20を超える『炎素』を生み出したチェデルキンは炎の道化師を複数作り出した。

ファナティオとアリスの《武装完全支配術》による攻撃が行われたが、炎の魔人たちは即座に再生した。

これには騎士たちも術の担い手であるチェデルキン本人を倒すしかないと考えたが、

それは思いもよらない援護で為すことが出来るようになった。

 

「リ…リリース、リコレクション!」

 

《記憶解放》の発動句、それは扉の外に居たユージオから発せられていた。

辺り一面が氷に埋め尽くされていき、炎の魔人すらも凍てつかせた。

己の重傷を押しながらも逆転の一撃を放ったユージオ、彼に応えるべく動き出したのは騎士長であるベルクーリだ。

 

「うおぉぉぉっ!」

「むごぉっ!?」

 

《連続剣》の連撃、ベルクーリが『時穿剣』で放った斬撃はチェデルキンの体を斬り裂き、

さらに“未来を斬る”斬撃も直後に加わることで一層に斬り裂いた。

体中を斬られた元老長は既に満身創痍であり、最早動くことも神聖術を行使することも出来ないだろう。

 

そんな奴の首筋にベルクーリは剣を当てた。

 

「これまでだな、チェデルキン。言い残すことはあるか?」

「ホヒィ、ヒッヒィ、ボッフォッ! アドミニズドレーダざまぁ、ばんざぁぁぁいぃっ!」

「くっ………リリース・リコレクション、《裏斬り》」

 

一閃、最強の一撃必殺の元、その言葉を残して元老長チェデルキンは過去を斬られ、消滅した。

それは魂ある人間を自身の操り人形にした報いか、整合騎士たちによって討ち取られた。

 

元老長チェデルキンとの戦いは整合騎士団の勝利で幕を閉じた。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

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あとがき

 

今回はベルクーリ戦が終わって割とすぐに元老長であるチェデルキンとの戦いになりました。

 

アリシゼーション編でもきってのウザさを持つチェデルキンを整合騎士一同でタコ殴りですw

 

神聖術に関してはアドミニストレータやカーディナルを除けば最強ですからね、かなりやりますし。

 

一方でリネルとフィゼルはお留守番です、なにせ彼女らは戦闘には不向きですからね。

 

内容が急ぎ足になってしまいましたが、アリシゼ編はあと2,3話で終わらせる予定ですからこれくらいでいいかと判断。

 

次回はついにアドミニストレータ戦になります!

 

ではまた・・・。

 

 

 

 

説明
第35話になります。
今回の話は整合騎士たちが元老長と戦います。
まぁサブタイトル負けした話しになっていそうな気もしますが。

どうぞ・・・。
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コメント
雨音 奏様へ 言ってしまうのも下種郷のせいなんですww(本郷 刃)
キリトさん、もう下種郷って言っちゃってますねwww(雨音 奏)
アサシン様へ ユーアリの初心ラブもいいですが騎士無双はもっとやりたかったのでww(本郷 刃)
アサシン『初心LOVEシーンと騎士無双一丁入りました〜♪風船ピエロざまぁです♪wwwwwww』(アサシン)
ディーン様へ アスナ「わ、2人とも一杯食べてる〜」 キリト「魔法少女か、アスナにも着せるか…?」 ユイ「一体どこに行くんでしょうか〜?」 刃「ハクヤはリズでファッションショーですかw 評価はAAAです」(本郷 刃)
これから映像を送ります、内容は「クラインとカノンがわんこそばを食べている」と「シノンが魔法少女の格好をしている所をハジメに見られる」と「ルナリオと翠さんがリーファに目隠しをさせてどこかに連れて行く」と「ハクヤがリズの新しい服と水着を着させて観賞している」の4作品です、評価お願いします。(ディーン)
ディーン様へ ケイタ「ホントにペンギンだ…」 クーハ「アハハハ…」 サチ「や〜ん、可愛い〜♪」 リンク「ですよね♪」 キリト「コレをこ〜して…」 ユイ「アレをあ〜して…」 ピナ「きゅ〜?」 ヴァル「すぅ〜…」 シリカ「(ぱしゃっ!)あ、ちょっと///!?」 シャイン「今度はどうしようか…」 ティア「そうですね…」(本郷 刃)
今から写真を送ります、内容は「ケイタとサチがクーハとリンクが連れて来たペンギンと散歩している」と「キリトとユイちゃんとピナがアスナに内緒で何かをしている」と「ヴァルがシリカを抱き枕状態している所をシリカの両親に撮られている」と「シャインとティアが今度の新商品の開発を企画している」の4枚以上です。(ディーン)
ボルックス様へ ストレス発散になれてよかったですw(本郷 刃)
こういう屑な悪役がフルボッコにされるとストレスが発散されていいw 次回も楽しみです!(ボルックス)
弥凪・ストーム様へ こういうウザキャラのフルボッコは良いですよねw(本郷 刃)
観珪様へ 実際のところはチェデルキンも決して弱くはないですからね、ただ数と質において騎士たちの方が上だったというww(本郷 刃)
なんというチュデルキンフルボッコ!物凄く良いですね♪(弥凪・ストーム)
登場の仕方がはんぱないかませ臭のわりに強かったww ユージオくんのような温和な子が怒りに我を忘れる。 それと似たようなことを他の騎士にも施していたわけですし、これはタコ殴りにされても仕方がないww(神余 雛)
イバ・ヨシアキ様へ カノン「大型犬かしらね・・・子供、ね、何人でも、ね/// えっと、あなた…///」 クライン「お、おおぅ///」 刃「照れるクラインw」(本郷 刃)
クラインさんありがとうございます。では、カノンさんに質問です。「クラインさんを動物に例えたら?」「将来子どもは何人欲しいですか?」「クラインさんに(アナタ)と、一言どうぞ」 (イバ・ヨシアキ)
影図書様へ ウチのキリトが強すぎるだけで整合騎士たちも相当な実力者たちですから(本郷 刃)
整合騎士強いですね。 次話のキリトの活躍が楽しみですよ〜(影図書)
やぎすけ様へ 真面目に一人一人が一騎当千の実力ですからね(本郷 刃)
さすがは整合騎士、人界最強の名は伊達じゃない!(やぎすけ)
タナトス様へ まったくもってその通りでw(本郷 刃)
しらたき様へ こういう奴が相手だとフルボッコするとスッキリしますよねw(本郷 刃)
ディーン様へ 次回はついにボス戦ですからね・・・キリトにも頑張ってもらいますよ(本郷 刃)
下衆郷並のうざさだなw(タナトス)
みんなでフルボッコは最高ですね。相手が相手なだけにww(しらたき)
しぶとい老人こそ早く死ぬをどこかで聞いた、ユージオとアリス達は頑張っていましたね、そして、次回は、大ボスとの対決ですか、まぁ、キリトなら、勝てると思っています。(ディーン)
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