魔王は勇者が来るのを待ち続ける
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「魔王はこれまでの事を話す」

 

 

 

 

 

 魔王城にある書斎。その部屋は人間のメイド達が掃除して管理している。そのため毎日清潔さを保っていた。ただ一箇所を除いて。

 それは魔王の机上だ。そこは山のように羊皮紙から竹簡まで多種多様な書き物が山積みにされていた。それも雑多にだ。

 それを恨めしそうに眺めるモノがいる。宰相だ。彼、または彼女は小さい成りをしている。それ故に上目遣いになるように睨みつけているのだが、その顔立ちは白い頭巾を深く被っている事でわからないままだ。

「そろそろどれか捨てても良いのでは?」

「ならん」

 魔王は素早く強い語気で言う。彼にとってはそれはとても大切なモノである。しかし宰相にとっては忌むべきもの。

「魔王が勇者を呼び寄せるなんて感心しませんよ」

「宿泊地はやはりこの城がいいのだろうか? どう思う宰相」

「聞けよ!」

 魔王はどこ吹く風という様子。

 魔王による専制政治による統治が始まって60年になろうとしていた。揺るがぬ善政により国は豊かになり、列強国の1つとして名を連ねるほどとなっている。一重にそれはエメリアユニティとの戦争に勝利しただけではない。その後の彼の政治的駆け引きの上手さによるものだ。

「そろそろリリーシャ殿が復帰のご挨拶に参ります」

「おお、そうか」

「そっちは聞くのかよ」

 宰相はぶつぶつ小言を言うが、魔王はそれを聞かず筆を走らせる。そこへ扉の叩く音が室内に響く。魔王は短く「入れ」と言う。視線は未だ眼下の羊皮紙。女性が1人入室する。黒絹を思わせる長い髪。アメジストの瞳。確かな足取りで魔王の前までやってきた。

「失礼します。リリーシャ・マイヤーズただいま帰還しました」

 魔王は短く「ん」と答えて彼女と視線を交わす。

「よく帰還してくれた。早速だけどやってもらいたいことがある」

「その前に質問をよろしいでしょうか?」

 リリーシャは魔王を見据える。

「なんだ?」

「長期期間中に帰郷してはいましたが、詳しいことは知りません。今何が起きているのですか?」

「戦争だよ」

 魔王は間髪入れずに、顔を嫌そうに歪める。宰相も少しだけ顔をうつむかせた。

「なぜ?」

「それは追々話す。色々と関係がありすぎてね。とりあえず三年前の海上都市の事は知っているかね?」

 リリーシャは「いえ」と答える。

「まずはそこから話そう。ソラの師匠、ラガンが三年前海上都市で亡くなった。殺されたのだ。彼は我が国にとっての英雄というのは知っておいて欲しい」

「そうなんですか?」

「霊将故に、公式な記録として残して欲しくないと言われててな。それで君ら世代には馴染みのない名前だろう。まあ彼が死んだ後は好きにしていいと当時言われていたので、今の教科書には載っているがな」

 その時ラガンを殺した人物が今回の戦争の根幹にある。なんとか落ち延びた彼は列強国であるヴァーズンに逃げ込んだ。

「ヴァーズン……確か積極的に侵略戦争を行っている国……ですね。リュミエールの学園にも貴族がいました」

 最後のほうの言葉には嫌悪を含ませていた。

「実はそこには、私が統治する前の国王達も落ち延びていてな。その血族とカインが結託して、ヴァーズンの帝王に吹き込んだらしい。それで我が国は絶賛戦争中ってわけだ」

「それはわかりました。もう一つ、エメリアユニティとどうやって同盟を結んだのですか?」

「おー、そうか。君はあの戦争の後すぐに解任したんだったな」

「はい」

 リリーシャは当時リュミエールの学園に入学が決まっていた。戦争終了と同時に軍師を解任。彼女は転居の準備などに追われ、詳しい国政の事は知らされていない。長期休暇があるとはいえ、軍を離れていたので話は触りぐらいしか知らないのである。

「奪ったメアドロイドがあるだろう? エルニージュに配備する奴と、我が国で研究する奴以外は持て余してな。それをエメリアユニティに売りに行ったんだよ」

「エメリアユニティに?」

 リリーシャは素っ頓狂な声を出す。

「ああ。買わないと君らの国以外に格安で売ってしまうよ? ってね」

「聞くだけでは、同盟を結べそうになさそうですが?」

「無理難題な値段を提示してな。同盟を結んでくれたら安く譲るよってのと、魔界にある資源を少しばかり優先的に回すと言ったら、喜んで結んでくれたよ」

 エメリアユニティと戦争する事は避けられたと。戦争したことによる国民感情の悪化はなく。むしろカンクリアンをスケープゴートすることによって国同士は上手くやっていけている状態だ。

「共同戦線張れるまで、関係を深められたのは?」

「向こうもついでに潰すって言われたんだよ。それでね。ヴァーズンは国土を広げることで、成り立っている国というのは君も知っているだろう? 戦争する理由があれば喜んで戦争し、なくても戦争するような野蛮な国だ」

「なるほど。それで落とし所はどのように考えておられるのですか?」

 戦争が始まってすでに半年は経過していた。前線はエメリアユニティとエルニージュの隣国であるロウス国土である。ロウスも侵略戦争に巻き込まれた国だ。絶壁が並び立つ荒野と深い樹海が入り乱れた戦場。土地を上手く利用して防戦はしているが、旗色が悪い。圧倒的軍事力の差だ。

「今回は和睦なんて甘い道はない。向こうが止めるまで……だが、それは望み薄だ。だから、ヴァーズンの王都を攻略する。王都を潰せば後は自然と瓦解するだろう」

 魔王は言う。力で国を成り立たせている国だ。だから、頭を潰せば後は自然と内乱で、国は崩壊するだろうと。それがエメリアユニティとロウスとの共通の見解だ。

「それで私のやることは?」

「ソラと以下数名を引き連れて遊撃部隊の隊長として動いてもらう」

「え?」

 リリーシャは目を点にした。

「ん? どうかしたのか?」

「え? ソラはこちらにいるのですか?」

「ああ。君より先にここに来てな。今は専用機の慣らしに出ているよ」

 リリーシャは嬉しそうに顔を綻ばせる。魔王は意地悪そうに笑う。

「そうか君もソラの虜か」

「なっ? い、いえ。そ、そういうことではなく――」

 彼女は顔を真赤にして否定する。

「三年間色々あっただろうしねー。モテモテだそうじゃない彼」

「なぜソレを」

「ゼヴァラギの王が――娘がどこぞの馬の骨かわからない男を愛してしまった――と嘆いていてな。聞けば他の国の姫や貴族にも惚れられているらしいじゃない」

「はい……だから、平民の出の私は少し自信が――って違う!」

 魔王と宰相は笑う。

「応援しているよ」

「にゃー!?」

 リリーシャの悲鳴にも似た叫び声は、城中に響いたそうな。

 

 

 

 

 

〜続く〜

 

説明
魔王はー勇者をー待ち望んでいるのかどうかよくわからないお話
次か次で終わるよ

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