快傑ネコシエーター12
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56、慧快と大和龍之介

 

慧快も60の齢を超え現役の国際S級エクスタミネーターでは最長老になり現場よりも

養成所の指導教官としての役割の方が多くなった。

60代と言っても四捨五入すれば70代になる年齢で今までの酷使が祟ってか杖や

車椅子も使うことを考えないといけない様な体となってしまった。

朝日を浴びて超常的な力を発揮することもできない位衰えてしまった。

そんな慧快の体の衰えを心配して竜造寺銀などはもうそろそろ隠居した方がいいと

奨めるぐらいであった。

亜人、ライカンスロープのような寿命の長い不死に近い体を持つものが正直羨ましかった。

そんな慧快の元に弟子にしてほしいという若い弱冠22歳の猫又が現れた。

その名を大和龍之介といい小野派一刀流免許皆伝の腕前だった。

慧快は自分の命が尽きる日も近いと思い龍之介に自分の全てを教えた。

ただ、自分の若い頃の無謀なやり方は避け、確実に相手を仕留め、無傷で生還することを

第一とした。

「龍之介とにかく生きて帰ってくることが一番じゃ。」

「わしの体中の向う傷は若さゆえの過ちじゃ、決してまねてはならない。」

龍之介は素直に天狗になることなく慧快の言葉を忠実に守った。

龍之介は銀と違いまだ若い猫又でそれほど器用ではなかった。

ただ、慎重で用心深いのでデミバンパイア退治のような大きな仕事を任せようと

慧快は思った。

夜のデミバンパイアはとても危険で慧快自身も命を落としかけたので真昼に

デミバンパイアを奇襲するやり方を教えた。

武器は龍之介自身が作った竹鉄砲を使い一撃で仕留めるか聖別された銀の鎖で拘束し

生け捕りにした。

この即席師弟はスコアをどんどん伸ばしデミバンパイアによる犯罪を未然に防ぎ、

市民の安全を守り、裏社会のデミバンパイアの勢いを止めるまでになった。

この師弟コンビの活躍をよく思わぬものが居て裏社会の高位のデミバンパイアに夜の

奇襲を唆したものが居た。

 

「師匠は若い頃はデミバンパイアに無謀な戦いを仕掛けたそうですがそんなことが

可能だったのですか。」

「そう全ては仏の加護に頼り異国の怪物デミバンパイアを退治したものだった。」

「こうして命があるのも全て仏の加護とわしの悪運の強さじゃ。」

「その悪運も年貢の納め時だな。」

暗がりより影が濃くなり血生臭い空気と共に高位のデミバンパイアが現れた。

「我が同胞を昼間の奇襲で屠って来たツケを払ってもらおうか。」

龍之介は師匠を庇い、竹鉄砲を構えた。

「龍之介、待て、良いものを見せてやる。」

慧快は日輪の十字架を出し、デミバンパイアの胸を渾身の力で串刺しにした。

日輪の十字架の大日如来の梵字が眩しく閃き、デミバンパイアは指先から塵に

変わっていった。

「龍之介すまんが立たせてくれるか腰をやってしまった。」

「こいつを持っていることは内緒じゃ、行基様からこれの存在は隠しておくよう言われて

のう、こいつはバンパイアを一撃で葬れる日輪の十字架じゃ。」

慧快は龍之介におんぶされてエクスタミネーター養成所にむかった。

 

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57、慧快の墓

 

ふつうの人間でありながら国際S級エクスタミネーターだった密教僧の慧快は68歳で

波乱に満ちた生涯閉じた。

65歳という年齢で夜の高位デミバンパイアを葬ったという驚異的な記録を残したが

その時痛めたのは腰だけではなく全身を痛めていた。

以後3年間はほとんど床に就いていた。弟子の龍之介が頻繁に訪れたほかは、たまに

竜造寺銀がやって来て、早く隠居してればこんなことにはならなかったのにと憎まれ口

を叩きながら、高価な漢方薬を煎じて延命をはかっていた。

そんな慧快の最晩年の頃、大谷行基がやって来た。

「慧快さん、体の塩梅は如何だい、もともと体の頑丈な慧快さんだから床上げもすぐだね。」

「大検校もういけません、体中が悲鳴を上げているようです。」

「こんな時に申し訳ないが日輪の十字架はもう作れないのかい。」

「残念ですがあれ一本でお仕舞です。」

「あれに英国の真祖バンパイアが興味を持っていてね、もしかしたら真祖バンパイアも

滅ぼす力があるんじゃないかと。」

「理屈の上では可能なはずです。」

「ただ実際に可能なら大検校の心配された通りのことが起きるはずです。」

「見つからぬところにあれば問題はない。」

「いつかあれが必要な時が来るはずだからな。」

「表向きはお前さんが墓の中へ持って行ってしまったことにする。」

「やがて、存在したことすら伝説になって忘れるだろう。」

大検校は窓を開け大きく息を吸った。

 

やがて、密教僧の慧快は息を引き取り、ひっそりと密葬が行われた。

慧快の墓はごく一部の者にしか場所を知らされなかった。

慧快の盟友、竜造寺銀と慧快の弟子、大和龍之介もその場所を知らされていない。

その小さな五輪塔は大谷行基の屋敷の敷地の中に隠されるように立っている。

 

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58、大谷行基

 

この国生え抜きの真祖バンパイアは大検校と呼ばれ尊敬されていて、またの名を

髑髏検校と揶揄される大谷行基ただ一人であった。

その見た目は年齢不詳の僧形で青白い肌、白い眉毛の異形であり、何時の時代

からか政治の中心に居ながらその存在は全く知られていない影のような存在だった。

何処から来たのか全く分からず、一説には大陸から渡来したともいわれていた。

大谷行基は英国の高位の真祖バンパイアスレート大侯爵の実子バンパイアハーフの

四方野井雅に強く興味を持っていた。

エルクス・エルメキウスのハイジャック事件、右京門陸軍中将の事件等のもみ消しは

全てこの人物の仕業であった。

四方野井雅が封印されていたはずの日輪の十字架を自分のものとしていたのは驚きで

あったが、同時に好都合でもあった。

四方野井雅のバックに英国の高位の真祖バンパイアスレート大侯爵がついているため

いかなる政治勢力も干渉できないためである。

行基の盟友ともいえるガード伯爵にとっても都合のいいことであった。

エルクス・エルメキウスのハイジャック事件では実際に真祖バンパイアに対して

日輪の十字架が有効であることが証明されたことも大きな収穫であった。

エルクス・エルメキウスは元駐在英国大使であったため口封じとしても都合

が好かった、秘密を知るものは少ない方がいいからである。

ハイジャック事件でエルクス・エルメキウスに直接手を下したのが、ガード伯爵の

肝煎りで特別待遇をしているエカチェリーナ・キャラダイン少佐ことエリカで、

四方野井雅と盟友であることは秘密を隠蔽するうえで都合がよかった。

さらに高位のライカンスロープの要注意人物と親しい関係にあることも興味深かった。

慧快の盟友、竜造寺銀と慧快の弟子、大和龍之介と日輪の十字架の実在を知っている

2人がお互いの関係を知らずに四方野井雅を通して親しいというのも興味深かった。

しかし、大谷行基自身はあくまで四方野井雅との直接の接触を避けたかった。

事件のもみ消しを行っている張本人であるため、そのことを知られたくはなかった。

最近、英国の高位の真祖バンパイアスレート大侯爵、ガード伯爵の渡来及びガ−ド伯爵

との秘密会議と行基の周りもあわただしくなってきた。

行基は魔力を隠蔽して、高位のライカンスロープに注意して中央公園のベンチに座り

道行く人を眺めていた。

「みやちゃん、お腹空いた。」

「ネコ、家に着くまで我慢しろ、そうでなくても最近、間食が多くてカロリー計算が

難しいんだから。」

行基は目の前を少女と共に通り過ぎた雅を見て心の中で呟いた。

「あれが四方野井雅か、想像していたより地味な感じだがバンパイアハーフとしての

スペックは流石にスレート大侯爵譲りの大器ではあるな。」

「一緒にいる少女は竜造寺の一族のようだが合いの子の割にスペックが高いようだな。」

「今はいい、好きなように泳がせておいてやろう、いずれこの儂のために働いてもらおう。」

行基はベンチから立ち上がると公園の外に待たせていた車に乗って屋敷の方へ向かって行った。

「大谷行基、あの怪物一体この辺りに何の用かしら、厭な奴。」

行基は気づいて居なかった、白猫銀こと竜造寺銀がその様子を見ていたことを。

 

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59、50年目の命日

 

「みやちゃんの持っている日輪の十字架を作ったのは俺の指導教官って話はしたっけ。」

大和警部補はふと思い出したようにいった。

「いいえ、愛用の武器とは聞いていましたが、指導教官本人が作ったとは聞いていませんが。」

雅は大和警部補の話を正確に覚えていた。

「実は指導教官というより師匠と言った方がいいんだが、古宮慧快と言ってこの国で

初めての国際S級エクスタミネーターで普通の人間で密教僧だったんだ。」

その場にいた銀は内心驚いていた、自分の盟友の古宮慧快の弟子が大和警部補だったとは

小野派一刀流免許皆伝の若い猫又が弟子入りしていて床に就いてからも一生懸命面倒を

見てくれると慧快が嬉しそうに話していたのを思い出していた。

「師匠は若い頃かなり無茶して怪我して当時の相棒によく手当をしてもらったって

恥かしそうに話していたよ、その相棒というのが女の猫又だそうで身軽さ器用さを武器に

太刀でライカンスロープを一度に15体も倒したそうで、

なんか今の美猫ちゃんみたいだな。」

「デミバンパイアを昼間襲撃するのは師匠の教えで生きて帰ってくることが一番だと

教えられたんだ。」

「師匠の体中の向う傷は若さゆえの過ちだから、決してまねてはならないとも言っていた。」

「多分師匠が生きていたらみやちゃんが羨ましいっていうと思うよ。」

「ただ、みやちゃんのは無茶じゃなくて普通に熟しているだけだからなあ。」

「みやちゃん、無茶をしている様に見える割に無傷で帰ってくるしなあ。」

雅は大和警部補の師匠のその後に興味を持ち聞いてみた。

「で、そのお師匠様はどうされているのですか。」

大和警部補は寂しそうに語った。

「いや当時65歳であれから53年経ったら普通の人間は生きていないぞ」

「でも、最後に日輪の十字架を使ったのが悪かったのかそれから床に就いて

3年後になくなったよ、今日がその命日だよ。」

「すみません、嫌なことを思い出させて。」

雅は大和警部補の寂しそうな顔を見て済まなそうに言った。

「いいんだよ、みやちゃん、気にしないでくれ。」

「それより実は師匠の墓の場所がわからないんだよ」

「えっなぜですか。」

「髑髏検校がどっかに隠しちまったんだ。」

大和警部補は苦々しげに言った。

「師匠の大恩人かもしれないが身寄りのない師匠の墓を自分の敷地に葬ったって話だ。」

「髑髏検校なんて言っているのがばれたら大変ですよ。」

銀が慌てて大和警部補を止めた。

「それは、いったい何者ですか。」

「大谷行基と言って大検校と呼ばれる怪物のことよ。」

「銀さんも言うじゃないか怪物とは言いえて妙だよ。」

「大和さん、私も大和さんの気持ちがよく分かりますが相手が悪すぎますよ。」

「大谷行基はこの国唯一の生え抜きの真祖バンパイアで政界の黒幕と呼ばれているの。」

雅が大和警部補に同情していった。

「でもお師匠様の墓参りが出来ないのは気の毒ですね。」

「お骨が無くても代わりになるものを命日に供養すればいいと思いますよ。」

「ちょっと待っていていただけますか。」

雅は自宅に戻って、日輪の十字架を持ってきた。

「これなら、お師匠様のお骨の代わりに供養できますよ。」

「なるほど、これは師匠の手作りで若い頃に念を込めて作ったって聞いている。」

「それにこの旗の梵字は大日如来を示しています、これはお師匠様の直筆ですよ。」

「お経は般若心経をとなえればいいんじゃないでしょうか。」

「私も一緒にお経を読んでもいいですかこれも縁ですから。」

雅、大和警部補、銀の3人は古宮慧快を偲んで日輪の十字架に向かってお経を

読み上げ50年ぶりの供養をした。

 

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60、美猫と大和龍之介

 

「大和さん小野派一刀流免許皆伝って本当?」

「いや、魔剣の使い方が日本刀の使い方でそれもかなりの凄腕だし。」

「この間、狒々の左右の耳を削いで、鼻を削いで、首を一刀で打落としたから

かなりの剣術の心得があるのかなと思ってね。」

「いつもは銃に拘っているようで刀を持つと活き活きとしているし。」

美猫は興味津々に大和警部補に聞いた。

「美猫ちゃんは鋭いねえ、実は恥ずかしながらその通りなんだ。」

「53年も前のことなんで、すっかり腕が錆びついているけど。」

大和警部補は剣術を封印した理由を美猫にうちわけた。

「実は俺の師匠からデミパンパイアを討つのに剣術を使うなと命令されたんだよ。」

「普通の剣では絶対デミバンパイアは倒せないからという理由で竹鉄砲を作ったんだ。」

「ライカンスロープ、例えば狒々なんかは剣の方が楽に討ち取れるかな。」

「そういえば美猫ちゃんも太刀筋がいいけど誰に教わったの。」

大和警部補は美猫の剣術の師匠はかなりの腕前とみて聞いてみた。

「銀ねぇだよ。」

「えっ銀さんなの。」

まさか銀が剣術に長けているとは思わなかったので驚いた。

「昔は、氷の刃の通り名を持つ凄腕のエクスタミネーターだったらしいし。」

「美猫ちゃん誰にその話を聞いたの。」

「提灯屋の源さんだよ。」

大和警部補は内心驚いていた、師匠慧快から盟友は通り名を氷の刃という女猫又

と聞いていたのだ。

しかも源さんの話なら間違いなく本当のことにちがいないからだ。

「でも内緒だよ。」

「えっ。」

「この話をした後、銀ねぇ源さんを徹底的にいたぶっていたから余程知られたくない話

みたいだよ。」

「銀ねぇ、年齢のことを気にしているようだけど、本当は昔の稼業を知られたくないんだと思うよ。」

「大和さん、約束だよ。」

「わかった、俺は何も聞いていないし、何も知らない。」

「ありがとう大和さん。」

美猫はにっこりと微笑んだ。

 

説明
56、慧快と大和龍之介
57、慧快の墓
58、大谷行基
59、50年目の命日
60、美猫と大和龍之介
あらすじ世界観は快傑ネコシエーター参照
キャラクター紹介一部エピソード裏設定は快傑ネコシエーター2参照
魔力の強弱は快傑ネコシエーター3参照
キャラクター紹介一部エピソード裏設定2は快傑ネコシエーター4参照
キャラクター紹介一部エピソード裏設定3は快傑ネコシエーター5参照
キャラクター紹介一部エピソード裏設定4は快傑ネコシエーター6参照
キャラクター紹介一部エピソード裏設定5は快傑ネコシエーター8参照
キャラクター紹介一部エピソード裏設定6は快傑ネコシエーター9参照
キャラクター紹介一部エピソード裏設定7は快傑ネコシエーター10参照
キャラクター紹介一部エピソード裏設定8は快傑ネコシエーター11参照


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