サイとスグリの話
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じゅじゅ。とスグリがマッチがたき火に火をつけると、ウィスキーで湿らせた、落ち葉と木材から、少しずつ炎が燃え広がった。

夜。暗い夜。と、もう一人の少女。サイがいう。

「暖かい火。ずっと火は怖いと思っていた、でも炎って暖かいんだわ」

スグリはにこにこ。

「ふふふ」月を見る。二人はしばらく沈黙。火の暖かさを味わう。身体で。

「ねえ、聞いてくれる」とサイ。

「なんでしょう」とスグリ。二人が出会ったのは、たまたま。

「わたしは、ずっと傷つくのも、傷つけるのも嫌だった。でもそういったのって、ほんとはみんなもっと傷つく。

うん。うまくいえないけれど・・・きっと、みんな傷ついているのに、自分だけ、傷ついていないふりをして、

そして、うん、そうなんだ。それでそれは「言葉」には出さなかった。そうかも」とサイ。行き詰っていたもの。言葉が炎で照らされる。「不可視なる可視」でも、自分は分からない。

ぽんぽんと、スグリは、サイの肩を叩く。おそるおそる、サイはスグリの手のひらをにぎる。

そう。それだけでいいかも。とサイは思う。

月はいつもより、優しく照らしていた。

 

わたしの持論、いいですか?とスグリがいつもよりも小声でいう。

「なにかしら?」と盲目の少女、サイが、すっかりと打ち解けた様子で、いう。

「言葉というものは、待っていれば出てくるんです」とスグリ。優しい小枝。

「そうよね。その通りだと思う」

「でも、あなたは、本当はそうは思っていなかった?」スグリが質問。

「分からないわ。昨日のわたしと今日のわたしは別。ううん、ごめん。違う。傷つくって、そういうことじゃない。

傷つくって、昨日のわたしと今日のわたしは同じになる。ということかも」

「ですから。待つことって必要なんでしょうね」とスグリとぽつぽつという。ウィスキーを飲む。

「暖かい。これがお酒の美味しさね」サイ。グラスが空っぽになる。案外といける口らしい。

「わたしの村の自慢の名品です」とスグリ。にこにことした気配が、伝わってくる。

「ありがとう。あなたの名前は・・・スグリですよね?」

「そうです。そして、あなたの名前はサイ」二人の少女が笑った。

たき火がじゅじゅと燃える。

 

そうだ。

 

とスグリが新しいお酒を取り出した。スピリット、蒸留酒だ。

「これはいかがでしょう」とくとくと注がれる。サイはそれを口につける。

「美味しい。うん。これは、美味しいよ」

サイがうれしそうにいう。

 

ああ、全くスグリは!

お人よしにも度があるぞ。

だが、それが人間というものだ。

人間は馬鹿だ。だが、それでも人間はいいやつなんだ。

傷つくのも嫌だし、傷つけるのも嫌だ。

と、サイは思ったのだ。

 

と、夜の中、鳥の声。フクロウだ。

 

二人は少しずつ、話をする。夜の気配が優しくつつむ。

 

バーボンウィスキーを飲むか。と二人はくすくすと笑う。そうなのだ! たまたま出会った、二人がすっかり意気投合したのだ! それぐらいには、人間の存在は固い。つまり、存在というものは、融合する。ということだよ。これは、キャラクターに語らせる。ということの本来の意味だ。

じゅじゅ。とたき火が燃える。ふたりのからだはぽかぽかとする。

「温かい」とサイ。

「それはオヒサマです」くすくすと笑い声が響いた。フクロウが鳴いた。鳥がなく。

すべては、二人につつまれて。

 

説明
不可視なる可視サイとスグリが出会った話です。
たき火のまわりで、いったいなにを話すのでしょうか?
(ユニフス)
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スグリ サイ たき火  

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