真・恋姫†無双 拠点・曹仁1
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 その言葉を聞いた瞬間、曹仁は息を呑んだ。

 歓喜や感動、そういった類の驚きから……ではない。

 自身の傍らにいて一緒にその発言を聞いた従姉である栄華は露骨に顔を歪めてその場を立ち去った。

 「……まったく。不愉快、ですわよ」

 その一言を場に残して。

 

 眼を白黒させたまま、こぼれかけた息を呑みこむ。

 驚きの原因は廊下のはるか先で独り言をつぶやいた男の言葉。

 その言葉によって曹仁――華侖の時は止まる。彼、北郷一刀の呟いた一言は、彼女の心を傷をつける事に十分な威力を持っていたのだ。

 

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 「兄ぃー?兄ぃーー?一刀っちー?」

 華侖は一刀を探していた。

 両手をぶらぶらさせて歩く姿はとても曹操四天王に名を連ねる猛将とは考えられない。

 

 曹仁子考。彼女は際どい服装に身を包んでいる。その際どさたるや、少し飛び跳ねるだけで双つの果実が零れそうな程だった。合戦の際には必ず彼女のまわりに男が集まり、眼が乾燥してヒビが入る程にその動きを観察し続けた者がいたという。

 彼は後にこう語った。

 

 「私の目が見えなくなる事は怖くない。怖いのはいつ死ぬか分からぬ乱世でこの好機を逃してしまう事だ」

 

 彼女を一言で表すならば、((阿呆|あほ))。後先考えずに実行する行動派で、行動の九割以上が裏目に出るという残念な武将である。

 「なぁ華侖。お前のその肩から下げてる紐ってどうなってるんだ?」

 という一刀の素朴な疑問に対して、

 「こうなってるっすよ?」

 と、人々が往来する街中で服をはだけさせる程の残念さである。幸いにもその姿を見たのは一刀と一緒に町に来ていた三羽鳥たちだけであったが。

 弁明しておくと、彼女にとって何より大事な事は一刀の疑問に答える事だった。

 彼女は露出狂ではない。自分の乳房を晒す事はもちろん恥ずかしい事だと感じている。しかし、それ以上に一刀の疑問に答えたいという感情が勝った結果の行動だったのだ。

 

 

 「あ、兄ぃ見なかったっすか?」

 「兄ぃ……?あぁ、あの男のことですか?知りませんわ」

 廊下にいたのは栄華。一仕事を終わらせて帰ってきたのであろう。服のところどころが汚れていた。

 「それよりも!何なんですのその格好は!貴女も曹一族。地が良いのだからもっと身だしなみを気をつけなさい。ほら、胸の花が曲がっていましてよ?」

 そう言って花の位置を直す。少し離れてじっと見つめ、よし。と満足そうにうなずいた。

 「それと、元気なのはよろしいですが、品位を持ちなさい。良い女にはなれませんわよ?」

 「知らねーっす!だって兄ぃは元気でいいって褒めてくれたっすよ?」

 唇を尖らせて反発する。そんな姿を見て栄華はため息を一つついた。

 「……兄ぃはやめなさい。いいですこと?『兄』はやめなさい」

 「えー。兄ぃがいいなー。一刀っちでもいいっすけど、兄ぃも捨てがたいっす」

 

 しばらく呼び方について話し合っていると唐突に栄華が話題を変えてきた。

 「それで、どうしてあの男を探していたんですの?」

 「聞いた話なんっすけど、蜀と呉にはなんと正義の変態仮面が出るっす。だから、一緒に探そうって誘いに来たっすよ!」

 「……どうして変態に関わりたいと思うのか理解できませんわ」

 「だって変態で仮面っすよ!?仮面の時点でもう変態なのにさらに変態って会ってみたいじゃ――あ、兄ぃ!」

 見れば、一刀は華琳の部屋から出てくるところだった。顎に手をあて、むむむむむと何事か考えながら自室の方向へ歩いていく。

 「ななな何ですの!?何であの男がお姉様のお部屋から!?考えたくありませんわ。もう一日も終わるというのに、最後に嫌な光景を見る事になるなんて……」

 「兄ぃー!待って欲しいっすー!あーにーぃー!」

 バタバタと走って行く姿は元気であるが、やはり品位に欠けていた。そんな姿を見ながら栄華は従妹を追いかける。

 「ちょっと待ちなさいな!走る時にガニ股はお止めなさい!」

 「兄ぃー!あに――

 

 「うーむ……栄華と仲良くなるにはどうしたらいいんだろうか」

 

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 「はぁ〜……」

 

 “……もしかして、兄ぃが一番好きな人って”

 

 嫌な考えが抜けずに、一人ポツンと塀の上で寝ころび、月を見る。

 華侖は悩み事や、嫌な事があった時はこうして天を仰ぐ。

 最初に見上げた時はただの好奇心だった。一刀が天の御遣いだと聞いて、いつか一刀が住んでいた天の国が見えるのではないかと期待して見上げた。

 それが習慣となり、今では悩む事があれば天を仰ぐ。そうすると、一刀に会えない時でもなんだか傍にいるような気がして、元気を貰う事が出来るのだ。

 

“……今日は元気、貰えねっす”

 

 「はぁ〜、あたい。嫌な奴っす」

 「ほう?いつからお前は嫌な奴になったんだ?」

 いつのまにか、顔を覗き込むように春蘭が腰を屈めていた。

 「お前の元気が無いと栄華から聞いてな。なら、お前が来る所はここしかないと思って来たら、案の定というやつだな!」

 「惇姉ぇ……あたい、嫌な奴っす」

 「だから。いつからそうなったんだ。私の知っているお前は、馬鹿だが悪い奴ではないぞ」

 「馬鹿じゃねっす」

 「なら話してみろ。理由を聞いているのに話さないのは馬鹿だからだ。馬鹿じゃないんだろ?」

 

 「――じ、実は。さっき兄ぃの独り言を聞いたっす」

 「一刀のか?あいつは私と違って馬鹿だからな。独り言も漏れるのだろう」

 「え。惇姉も結構独り言……」

 「な、何!?言ってるか!?い、いや。それはまた後で聞こう。それで?」

 「その……『洪姉ぇと仲良くなるにはどうしたらいいんだろう』って、い、言ってたっす」

 「あいつは嫌われてるからな」

 「あ、あたいはそれを聞いて、やっぱり女らしい方が兄ぃは好きなんだなーって、そ、それと」

 「それと?」

 「……栄華姉ぇが羨ましいって。なんであたいじゃなくて、洪姉ぇなんだって……嫉妬してるっす」

 涙が頬をつたう。月の光を反射した大粒の涙は、まるで宝物のようにぽろぽろと零れ落ちていく。

 「嫉妬か。それが、お前が嫌な奴になったって事か?」

 「そうっす。あたい……嫌な奴になっちゃったっす!」

 

 叫ぶ。好きな男の一番の愛が向けられているのが自分ではなく、他の人間である事を受け入れて叫ぶ。苦しさを、悲しさを訴えるように。

 助けて欲しくて叫ぶ。けれど、どうしようもない事実を受け入れてしまった。だから、その幸せを壊したくないから、愛を向けられた栄華にその叫びをぶつける事は出来なかった。

 

 「あたいよりもっ……兄ぃに!一刀っちに好かれてる洪姉ぇに、お、思われてる洪姉ぇに、嫌な気持ち持ってるっす!」

 もう春蘭の姿を見る事は出来ない。止めどなく溢れる涙によって視界は霞んでいるからだ。声はかすれ、いつもの元気を見る事は無い。

 

 「そうか……うん。やはりお前は馬鹿だな」

 「……馬鹿ってなんすか」

 「いいか?一刀は愛情に順番などつける事は出来ない。あいつはそんな男じゃないからな。華琳様の物だが、愛は全員に平等だ。……この私が言うのだぞ?信じろ」

 「でも……いくら惇姉ぇの言う事でも……」

 「よし。なら、お前に心の底から納得させてやろう」

 「え?」

 「はっはっは。私に任せておけ!」

 春蘭はそう言い残すと塀の上から飛び降りる。

 

 「今日はもう寝ろ。明日、またお前に会いに行く」

説明
初めましての方は初めまして。
拠点・曹仁を書かせていただきます。
10月は少しの間家にいないので、PCに触れる事が出来ないのですが時間指定投稿という機能に気付いた為、投稿させていただきます。
いない間は書きためていたものを数日ごとのペースでアップさせていただきます。

純粋な女の子というのは難しいものです。
皆さんは恋愛に悩んだ経験はおありでしょうか?好きな相手の事をずっと考える。そんな女の子の物語です
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コメント
kazoさん。コメントありがとうございます。時間指定は便利なのですが、本文の編集が出来ない所は少し厳しいですね笑 春蘭が何をするのか。間違いなく待っているものは混乱ですが…? 服がはだけた瞬間、凪の一撃が一刀を襲った事は省略させていただきました笑(ぽむぼん)
あと、曹仁が胸をはだけて頂点がこんにちわする瞬間、三羽烏の拳が一刀の意識を狩ったのは言うまでもないですよね?(kazo)
お早い投稿嬉しい限りっす♪元気っ娘が恋に思い悩む姿がいじらしくてイイですね。キャラ描写もかなりあってると思います!おバカ春姉ぇが何するつもりなのか・・・混乱必至(笑)(kazo)
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