戦国†恋姫〜新田七刀斎・戦国絵巻〜 第24幕
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 第24話 小谷の夜襲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高濃度の氣を纏わせた二刀を平行に袈裟に振り下ろす――

七刀斎が放った((斧嶽|ふがく))は、真琴の突き出した刀と交差し、2人の間に銀色の雨を降らせた。

 

「――なっ・・・!?」

 

驚いたのは真琴。

斧嶽とまともにぶつかった彼女の持つ訓練用の刀はその刀身を見事に砕け散らせていたのだ。

 

しかもそのせいで体勢を崩した真琴は隙だらけだ。

だが、七刀斎が追撃を行うことはなかった。

何故ならば――

 

「あ、こっちもか」

 

七刀斎の持っていた真琴と同じ訓練用の刀も2本とも砕けていたからである。

これに思わず剣丞からも声が上がる。

 

『おいこっちの刀もオシャカじゃねぇか!』

「やっべ、そういやこの技あの刀じゃないとこうなるんだった」

『あの刀?』

「お前が元々持ってた奴だよ」

 

曰く、北郷流二刀は剣丞が住んでいた屋敷の倉で見つけた刀でないとその技に刀の強度が耐えられないとのことだった。

 

『ていうか、その技名・・・北郷って・・・』

「それについてはお前の方が詳しいだろ」

 

七刀斎は剣丞をあしらうと、真琴に近づいていった。

 

「まぁお互い武器が壊れちまったし、今日の所はこれで終わりにしようや」

 

まだ砕けた刀に目を見開いている真琴の肩をポンポンと叩く七刀斎。

それにより彼女もハッとなって頭を下げてきた。

 

「お、お付き合いいただきありがとうございました!」

「はいはい、ありがとね〜」

 

七刀斎は持っていた刀をその辺に放ると、久遠達の所へ戻っていった。

が、その背中に声がかかる。真琴だ。

 

「あ、あの!今のは・・・?」

「訓練刀とはいえちゃんと手入れはしないといけないな。今みたいに簡単にぶっ壊れちまうぜ」

 

振り返らずヒラヒラと手を振ると、真琴はそれ以上の追及をすることはなかった。

 

 

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「・・・・・・引き分けか。思いのほか早く終わってしまったな」

「ええぇー俺まだ休みたいんだけど・・・」

 

竹筒の水を飲みながら織田の剣丞は今の七刀斎の技を考えていた。

 

(何をしたのかはわからなかったけど、アレは氣だったよな・・・?)

 

氣を扱う姉達に鍛えられてきた織田の剣丞には見えた、圧倒的に力強い氣。

 

おそらく真琴も薄々は気付いているのだろうが、彼女の性格上突っ込んで聞けないのだろう。

 

(アレもお家流ってやつなのか?新田家の?)

 

後で聞いておこう。

そうこう考えている間に、久遠から背中を叩かれる。

 

「さぁ剣丞!次は金柑との仕合だぞ!」

「わかってるよ・・・いっちょやりますかね」

 

織田の剣丞が勢いよく縁側から立ち上がったその時、聞こえたのは縁側からの剣丞隊の激励の声ではなく、壁や塀の向こうから響く人ならざる声だった。

 

 

 

「「「「「グオオオオォォォォォォーーーー!!!!」」」」」

 

「「「ッ!?」」」

 

聞いたことのある咆哮に身構える一同。

真っ先に動いたのは先程まで唖然としていた真琴であった。

 

「誰かある!」

「「「ハッ!!」」」

 

鋭い声に瞬時に反応する伝令。

 

「赤尾と海北を城の守りに、磯野と藤堂は大手門に集合と伝えろ!」

「「「ハッ!!」」」

 

伝令達はすぐさま城内へと入っていった。

 

「久遠姉さまは?」

「構わん、ここにいる。変に移動するよりここなら迎撃もしやすいだろう」

 

剣丞隊にせわしなく指示を出す織田の剣丞とは正反対に、どっしりと構える久遠。

それほど剣丞隊を信用しているのだろうと踏んだ真琴は次に市に声をかけた。

 

「市はここでお兄ちゃん達と戦うよ!」

「市!でも・・・!」

「大丈夫!市はここを守るから、まこっちゃんは小谷を守って!」

「・・・・・・わかった!」

 

真琴は久遠に「お願いします」と頭を下げると兵全体の指揮をとるべく中庭を離れていった。

 

そんな中七刀斎はひとり満月を見上げ呟いた。

 

「――ったくあのガキ・・・急にやりやがる」

 

 

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 小谷城を臨む丘

 

満月の月明かりが照らすその場所で、彼女は岩の上に座っていた。

 

「いいじゃない、別に」

 

周りには無数の鬼。

人間とは程遠い外見を持つ鬼ではあるが、今回は少しだけ違う。

 

「せっかく越前くんだりまで行ってきたんだから披露したって、ねぇ?」

 

彼女が従えるどの鬼にも、甲冑や刀、弓と言ったまるで足軽のような武装が見られる。

それはまるで人がそのまま鬼になったようで――

 

「さ、行きましょうか。痛めつけられるのも好きだけど、痛めつけるのも楽しいものねぇ」

 

金色の髪をなびかせながら、彼女はゆっくりと歩みを進めていった。

 

 

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 小谷城 中庭

 

塀を乗り越え、無数の武装した鬼達が乗り込んでくる。

今まで自らの牙や爪を武器としてきた鬼と違うことに、織田の剣丞も驚いていた。

 

「鬼が武装を!?」

「あの紋・・・」

「はい、三つ盛木瓜・・・おそらくは朝倉家の――」

 

久遠と詩乃が苦虫を噛み潰したような顔をしたところでエーリカが驚いた様子でこぼす。

 

「まさか、ザビエルが越前を・・・!?」

「越前の武士たちが鬼に変えられたというのか!」

 

エーリカと久遠の言葉に市が顔を歪める。

 

「そんな・・・まこっちゃんと仲良かった朝倉のお姉ちゃんが?嘘・・・」

 

元々浅井は独立時から朝倉の世話になっていた。市も真琴と共に何度か越前へと行っていたため、当主の朝倉義景とは面識があったのだ。

 

そんな恩人とも言える人物が鬼に負けたとなっては浅井内部のショックはその場にいる誰もが感じていた。

 

織田の剣丞はひよところに久遠と詩乃の護衛を頼むと自らは刀を抜いて鬼と対峙した。

その横にエーリカ、市と並ぶ。

 

「悪いね、仕合はまた今度になりそうだ」

「構いませんよ。今はこの悪魔達を倒しましょう」

「市も戦う!多分まこっちゃんも今頃驚いてるだろうけど・・・そんなので皆を見殺しにはできないよ!」

 

鬼との戦いに始まりの合図は要らない。

3人は思い思いのタイミングで鬼に向かっていった。

 

 

 

七刀斎はというと、体を剣丞に返すことなく刀をホルスターに着けている最中だった。

 

『朝倉の鬼・・・まさか、ローラの奴』

「なるほどな、全部鬼にしちまえば交渉や脅しなんか使わずとも戦力アップになるし、鬼討伐を掲げる織田家が越前を攻める理由になる・・・金ヶ崎待ったなしってか」

『だからって、越前の人間全部鬼にしたってのかよ!?そんなことして――』

「剣丞よぉ・・・」

 

七刀斎はうんざりしたように肩を竦めた。

 

「お前があのパツキン女の側につくと決めた時点でこんなのは覚悟の上だったんだろ?」

『そう、だけどよ・・・』

「いい加減その甘さは捨てろ。いつか痛い目を見るぞ――」

 

まだなにか言おうとしていた七刀斎だったが、珍しく言い切らずホルスターを着け終えていた。

 

そのまま中庭から離れようとする途中に、空がこちらを見ているのがわかった。

 

「あっちには行かないんですか?」

「この場はアイツらでなんとかなるだろ。オレは他を当たるとするぜ」

「あの・・・えと、頑張ってください!」

「おう、オメェはあの小娘共に護られながら見てな」

「はい・・・えっ?」

 

いつもとは違う『剣丞でない誰か』に一瞬停止する空。

 

「まぁ、オレもまだ働いてやるよ――」

 

返事を待たずして歩き出す七刀斎。

空はその背を黙って見送ることしかできなかった。

 

 

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攻め込んできた鬼の数はおよそ千といったところか。

 

既に小谷城の至る所で鬼との戦いが始まっている。

人間の数倍の体と力を持つ鬼がまだ城内への侵入が中庭だけというのも、『江北武者』と名高い浅井の兵の力によるものだろう。

それに加えて小谷城は山城なので、他に中々侵入口が見つからず正面からかかってくるしかないというのもある。

 

彼らは鬼に屈することなく、むしろ押しているところまであった。

 

「城内は無事で、場外にも部隊が展開してて攻め込むには難しい・・・だと残った狙い場所は――」

 

既にローラが行くであろう場所の予想はついている。

今回の夜襲――朝倉が鬼の手に落ちたことを知らしめるためでもあったのだが、ローラ自ら行う『狙い』は別にあった。

 

「剣丞、今日は出血大サービスだ」

 

七刀斎は廊下を歩きながら真琴が陣頭指揮をとっているであろう大手門の方向を向いた。

 

「七刀斎の七刀流、見せてやるよ」

 

 

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 大手門

 

既に真琴は手勢を連れて正面から来る鬼達と戦っていた。

 

「敵は強い!確実に倒せるように3人1組で当たれ!組頭はなんとしても統率を乱すな!」

 

真琴の指示は的確で、あの鬼と正面衝突しているというのにとても劣勢には見えない。

しかし最も鬼が押し寄せてきているのはこの大手門だ。

 

ここを突破されればあとは順に本丸まで攻め込まれることになる。

 

それだけはなんとしても阻止したいところだった。

 

「殿!磯野どのの隊、3割が死傷したと!」

「何!急にそんなことが・・・!?」

 

現在大手門を守っているのは鬼に当たっている順に磯野、藤堂、真琴だ。

場所的に磯野の隊が攻撃を受けるというのはわかっていたが、いくらなんでも早すぎる消耗に真琴も眉間に皺を寄せた。

 

「伝令!磯野どのは一旦退き、藤堂どのが代わりに当たるとのことです!」

「わかった。十分に気を付けろと伝えろ」

 

伝令役を下がらせてから真琴は頭を抱える。

通常、大将がこのような行為をすべきではないのだが、真琴なりに誰もこちらを見ていないタイミングを見計らってのことだった。

 

(どうして、どうして義景姉さまが、鬼などに・・・!)

 

 

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「う、うわあああぁぁー!!」

 

3人1組で当たる藤堂衆の兵達。

これにより刀を持ち甲冑を着た鬼まではなんとか対処できた。

 

しかしその体勢も圧倒的な力の前には崩壊する。

 

「ほらほらぁ〜私を痛めつけてみなさいよぉ〜!」

 

楽しそうに、愉しそうに肩の辺りから召喚させた鬼の腕を振るう金髪の少女。

彼女がクルリとその場で回る度に兵の体が5以上は吹き飛ぶ。

 

そしてそのいずれもが絶命し、運が良くて人の形を辛うじて保っていられるほどだった。

 

「アッハハハハッハ!アハハハハハハハハ!」

 

血の雨を降らせながらまるでダンスを踊るように戦場を歩く。

気付くと浅井の兵は恐れおののいたのか彼女には遠目から矢を放つだけとなっていた。

 

「つまんないわねぇ・・・」

 

鬼の腕で矢を弾きながら大将首を探す。

 

「みぃつけた・・・!」

 

浅井衆を挟んだ遥か向こう、彼女の目には赤い髪をした長身の少女が映っていた。

 

「さて、じゃあ挨拶しましょうか」

 

手近に居た鬼に自分を持ち上げるよう命令。

すると言われた通り鬼は唸り、彼女を片腕で持ち上げ、そのままオーバースローの要領で腕を振り抜く。

 

その時、戦場に小さな影が宙を舞った。

 

 

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既に兵から鬼は朝倉の家紋の入った武具を身に着けているとの報告は受けていた。

 

かつてより世話になっていた朝倉家には筆舌に尽くし難い恩がある。

真琴は心で慟哭した。

 

それでも実際にしなかったのは大将としての意地だった。

大将が狼狽えればそれは兵全体の士気に関わる。

 

(せめて、市がいてくれれば・・・)

 

「殿!空を何かが飛んできます!!」

「ッ!?」

 

そう思う真琴の思考を中断したのは、兵が叫んだ前方の異変と――

 

「ハッハーーーーッ!!」

 

1人の男の雄叫びが聞こえた後方の異変だった。

 

 

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真琴の頭上でぶつかり合う2つの影。

それは数秒の交わりの後、同時に重力に引かれていった。

 

「よっ、と」

 

きれいに受け身を取る仮面を着けた無傷の男。

 

「あふんっ!」

 

無数の切り傷をその身に刻まれた金髪の少女。

 

「なっ――!」

 

思わず声が漏れる。

真琴は一瞬だが今の光景が見えていた。

 

(一瞬の、無数の連撃・・・!)

 

それを放った男は真琴の存在に気が付くと声をかけてきた。

 

「おう、アンタか」

「七刀斎どの・・・中庭は!?」

「心配すんな。剣丞やエーリカもいるしアンタの嫁もいるだろ」

 

真琴はまだ何か言いたげだったが、七刀斎はすぐさま鬼との交戦へと行ってしまった。

 

「ああぁぁぁ・・・すっごく痛いぃ・・・良いぃ」

「な、なんなんだ・・・」

 

結果的に彼女は地面に横たわる少女と残される形となるのだった。

 

 

 

 

 

説明
すっかり冬が顔をのぞかせて長袖が目立ってきましたね、たちつてとです

今回と次回は恐らく小谷での七刀斎無双になると思います
あ、でも今回はまだ無双じゃない・・・?
ということは置いておき、今回もよろしくお願いします





※支援・コメントありがとうございます!!
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コメント
>>アルヤ様 ほぼ毎週そんなサブタイトルがあるような気がします!(立津てと)
>>mokiti1976-2010様 真琴はアワアワしながら子供をあやす保母さんとか似合いそうですね(錯乱)(立津てと)
>>本郷 刃様 彼女はいつもあんなだからいつかあのスタンスでシリアスに見える、かも!?(立津てと)
来週から、シリアスブレイカーローラ、始まります!(出任せ)(アルヤ)
ていうか、最後ドM状態のローラと真琴だけにしておいて大丈夫なのかな…?(mokiti1976-2010)
ローラェ〜・・・彼女が平常運転過ぎて自分の中にあったシリアス感が吹っ飛びましたww(本郷 刃)
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