WakeUp,Girls!〜ラフカットジュエル〜24
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 この世の中に運・不運は確かにあるが、自分の力で何とか出来る範囲においてはそれはない。実力不足・努力不足で負けた者がよく運が無かったなどと言い訳をするが、実力ある者はチャンスさえあれば必ず這い上がってくるものだ。だが逆を言えばどれほど優れていようと、チャンスを得られなければその実力が日の目を見ることは無いということになる。それこそがおそらく運なのだろうが、実際問題としておそらく過去には多くの実力あるアイドルたちが、飛躍のチャンスすら与えられることなく大きな注目を浴びることもなく舞台から去っているはずだ。なんとかできないものか……

 

 I−1クラブ総帥白木徹は、事務所のデスクでアイドルの祭典決勝の事前人気投票の途中集計をチェックしていた。決勝の順位決定も予選と同様の方式で行われ、事前のネット投票は既に始まっている。

 彼が注目しているのは当然ウェイクアップガールズだ。そのウェイクアップガールズは現在、名古屋の『あかみそオールスターズ』と大阪の『チームチータ』に次ぐ堂々の第3位につけている。これは文句のつけようがない途中経過だ。

(なかなかどうして、やるものだね。正直短期間でここまで力を付けるとは思わなかったよ)

 投票開始当初こそ中位だったウェイクアップガールズだったが、東北ブロック予選の模様を運営側がネットで動画配信すると、それを見た者たちがそのパフォーマンスをネット上で話題にし始めて話題が話題を呼び……後は黙っていても一気に視聴者数も投票数も伸びていった。その伸び率は総ての決勝参加ユニットの中でもトップであり、このままいけば1位にも充分手が届く。完全に白木の予想を上回っていた。

(ウチですらこれほどの勢いを見せたことはない。まったく、恐ろしいほどの上昇っぷりだ。いったいどこまで伸びていくのやら)

 ウェイクアップガールズはI−1クラブの脅威となりつつある。いまや白木はそうハッキリと感じているが、だからといって裏から手を回して脅威の芽を早めに潰しておこうなどと考えてはいない。むしろこれは彼にとって喜ばしい状況だからだ。本物の実力を持ったライバルユニットの誕生は彼がずっと待ち望んでいたものだ。但し、あくまでもI−1クラブの引き立て役としてだが。

 白木はI−1クラブを日本国内だけに留めるつもりはない。その眼は当然世界に向いておりI−1クラブを全世界的なアイドルユニットにするのが最終目標と言っていい。

 相手が世界となれば当然より一層のレベルアップが望まれるし、優秀なメンバーは何人でも喉から手が出るほど欲しい。しかしいくら彼でも1人では限界がある。どれほど情報の網を張り巡らせても、彼の目に触れないままのアイドルは数多くいるはずだった。

 優秀な人材を埋もれさせずに済む方法は、少しでも効率良く見つける方法は無いかと考えた白木はアイドルの祭典開催を考え出し実行した。探しに行くのではなく、向こうから出向いて来させて実力を見極める。言い方は悪いがそういう方法にしようというわけだ。

 要するに早い話がアイドルの祭典は白木の青田買いのための大会なのだ。しかしそれは正解だった。過去3回の大会総てで優秀な人材がまだまだ彼の知らないところで埋もれていることをハッキリと示してくれたからだ。

 過去の参加者からI−1クラブに入った者はまだいないが、いずれユニット解散あるいは卒業という日が来たならばI−1入りの誘いをかけるつもりで目を付けている者は何人もいた。

 いきなりI−1とはいかなくても、I−2あるいはI−3でもいい。そこで鍛えれば良い話だし、本人たちがモノにならなかったとしても有能な新人の加入はI−1クラブ全体においては決してマイナスには働かない。人材発掘の意味でこのイベントは非常に有意義であることがわかった。

 白木の狙いはもう一つある。名実ともにI−1クラブのライバルとなるアイドルユニットを作ることだ。と言っても別ユニットでも儲けようというのではなく、かませ犬として育てようというわけだ。

(I−1クラブは既に日本の芸能界は席巻してしまった。だが世界を目指してよりレベルアップするためには現状でまだまだ足りない。常に刺激を与え続け、前を向かせ、上を見続けさせなければいけない。そのために必要なのは、やはりライバルだ。ライバルとの切磋琢磨こそがアイドルを成長させるのだ)

 争う相手がいると人間は実力以上のモノを発揮することができる。そしてそれは、実力が近ければ近いほど望ましい。だから彼はアイドルの祭典優勝者には1年間限定とはいえメジャーデビューを約束し、I−1クラブの公式ライバルだと名乗ることも許すという破格の好条件を用意して参加者を募った。

 もちろん本来なら公式ライバルなどというものの存在を許すはずはないが、総てはI−1クラブをより進化させるためだ。好条件を用意すれば恵まれない環境にいる実力あるアイドルたちは飛びつくだろうし、参加者が増えればそこから淘汰して選りすぐることができる。内からも外からも刺激を与え続け、常に切磋琢磨させて世界に打って出る。そんな自身の青写真を実現させるために、彼はまったく迷うことなく次々と手を打っていった。

 ところが白木の目論見にも少々狂いが生じた。過去の大会ではユニットとして自分たちを脅かしそうな存在が現れなかったことだ。

 ユニットはソロとは違って総合力と結束力がモノを言う。個人個人がどれほど優れていようと、だから優秀なユニットかというとそう簡単な話ではない。彼は個人レベルの競争だけではなくユニットレベルでの競争も促そうと考えていたから、これでは目的が完全には達成されない。

 白木的に言えばアイドル個人は収穫が多いもののユニットとしては不満が残る、そんな状態だった過去3回のアイドルの祭典だったが、4回目にしてようやく彼の期待に応えてくれそうなユニットが現れた。それがウェイクアップガールズだ。

(初めて見た時には、これほどまでになるとは思えなかったがね)

 白木が初めて彼女たちを見たのは仙台でのライブだった。まだまだお遊戯会レベルだなというのが感想だった。これでは到底I−1の相手にはならない。時間がかかるな、そう思った。

 しかしそれは彼にとってむしろチャンスかもしれなかった。彼は心密かに狙っていることがある。島田真夢のI−1クラブ復帰だ。天才と称されながら不幸な理由で脱退を余儀なくされてしまったあの少女を、再びI−1クラブの一員としてステージに立たせることだ。

 ウェイクアップガールズがこの程度のままならば、いずれユニットが解散するなり周りのレベルの低さに我慢できなくなるなりして真夢はフリーの身になるだろうと彼は読んでいた。

 早坂が彼女たちに加担したと知った時、白木は最初対応に迷った。白木は最近の早坂がI−1クラブに対して情熱を失いつつあるうえに懐疑的そして批判的であることを知ってはいた。いつか自分たちと袂を分かつことになるだろうと既に見越してもいた。もちろんまだ先の話としてだが。

 将来どうなるかはともかくとして、現時点で早坂はI−1クラブの音楽総合プロデューサーだ。にもかかわらずI−1と全く無関係のアイドルユニットのプロデュースをするなどという話は本来有り得ないことで、通常ならばI−1クラブの側から関係解消を申し渡してもいいケースだ。だが今のI−1にはまだ早坂の協力が必要だ。今すぐに彼を切ってしまうわけにはいかない。

 もう一つ白木が危惧したのは、下手にウェイクアップガールズを成長させてしまうと真夢が手に入らなくなってしまうのではないかということだ。

 最終的に彼女を復帰させることを目論んでいる白木としては、いずれウェイクアップガールズを卒業してもらわなくては困る。このままならいずれその時が来ると読んではいるが、そうなる保証があるわけでもない。

 もしも早坂のレッスンが裏目に出て彼女がウェイクアップガールズでの活動が面白くなってきてしまってはその読みも外れるかもしれない。それでは敵に塩を送るようなものだ。しかし彼女だけはI−1のかませ犬としてではなく、あくまでメンバーとして復帰させたい。

(さて、どうしたものかな……)

 白木は悩んだ。悩んで悩んで考え尽くした結果、彼は早坂を不問に伏すことにした。その方が自分たちにとって結果的にはプラスだから、というよりもプラスにするためにそうした。

(彼はいずれウチと手を切るだろう。だったら今のうちにせいぜい役に立ってもらうとしようか)

 白木は、早坂を利用できるうちに利用し尽くすことに決め、I−1の面倒をみるだけではなくウェイクアップガールズを育てる、もっとハッキリ言えば島田真夢をレベルアップさせるのに一役買ってもらうことにした。その結果真夢はウェイクアップガールズに骨を埋めることになるかもしれないが、現状でも本当に彼女が将来的に卒業するかどうかは誰にもわからないわけだし、手に入るならばよりレベルアップした彼女の方が好ましいのだから、そこはもう賭けるしかなかった。

 幸い狙い通りに早坂が加担し始めてからのウェイクアップガールズは飛躍的に成長した。そのうえ真夢以外にも魅力的な人材が育っている。これは嬉しい誤算だった。もちろん真夢も格段にレベルアップしている。真夢だけでも手に入れられればと考えていたものが、それ以外の人材にもありつけるかもしれないのならば上出来だ。これならばアイドルユニットとしてもI−1のライバルとなり得るかもしれない、さらに利用価値が生まれてきた、そう考えを改めもした。

 そして彼女たちはアイドルの祭典決勝に昇ってくるまでの実力を身に付けた。総てとは言わないまでも、事態は白木の望む通りの方向へ流れている。それこそ笑いが止まらないほどに。

「どこまでのし上がってくるか見ものだね。ジックリ拝見させてもらうとしようか。そして早く、もっと私たちの役に立ってもらいたいものだ」

 白木はそう独り言を言うと、デスク上のノートパソコンをそっと閉じて席を立った。

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「チャンスの神様は前髪しかない……か」

 デスクワークをこなしていたグリーンリーヴスの丹下社長は、仕事の手を休めるとポツリとそう呟いた。

「え? 社長、何か言いました?」

 自分のデスクで同じようにデスクワークをこなしていたウェイクアップガールズのマネージャーである松田は、よく聞こえなかったので社長にそう聞き返した。

「なんでもないわよ」

 丹下はそのまま窓の外をボンヤリと眺めたが、やがて松田に話しかけた。

「ねえ、松田」

「なんスか?」

「アンタ、あのコたちがここまでやれるようになるって思ってた?」

 唐突な質問に松田は面食らい、首を捻りながらしばらく考えてから答えた。

「そりゃあ、まあ、希望っつーか願望はありましたけど、一年あまりでここまで成長するとは正直思えませんでしたよね。なったとしても、もっと時間がかかると思ってました」

 松田は正直にそう話した。丹下は、やっぱりそうよねぇ、と言って再び窓の外に視線を移した。

「結成してから1年たらずでここまでのユニットになるなんてねぇ……考えてみればさぁ、私の単なる思い付きで集めて始めちゃったアイドルユニットだったけどさ、いつの間にかな〜んか魂入っちゃったわよねぇ……」

 社長は感慨深げにそう言った。

「……ですね」

「こんなに早く全国レベルを狙えるようになるとは思ってもいなかったわ。でも、ここまで来たら勝たせてあげたいわよね。あのコたちの頑張りが報われて欲しいってホントに思うのよ」

 意外なほどにしおらしいことを言う社長に驚き、松田は窓の外を眺めている社長の横顔をしばらく見つめた。

 ウェイクアップガールズの7人は文字通り寝る間も惜しんでレッスンと仕事に励んでいる。グリーンリーヴスの歴史の中で、これほど厳しいスケジュールをこなしている所属タレントは過去に存在しなかった。

 最初はあくまで金儲けのために思いついて始めたアイドルユニットだったが、無垢な少女たちの日々の頑張りを目の当たりにしていくうちに、丹下の心の中に今までにない感情が芽生えていた。それは芸能事務所社長として儲け主義に走ってきた丹下に初めて芽生えた感情だった。それがらしくないセリフにつながった。

「なんスか社長。そんなセリフ吐いちゃって、らしくないっスよ」

 松田がそうからかうと丹下は、うるさいわね、と横を向いたまま少し照れたように言った。

「社長……なんか変わりましたね」

「そう? どっか変わったかしら?」

「変わりましたよ。なんつーか、所属タレントに対して柔らかくなったっつーか優しくなったっつーか。前はオマエラは金だけ稼いでくりゃいいんだって感じで、勝たせてあげたいなんて言うことなかったじゃないっスか」

「アンタ……私のことをそんな風に見てたわけ? 酷い言い草ね」

 社長は松田をジロリと睨んだが、その眼は本気で怒っている眼ではなかった。

「まあでも、確かに私も変わったかもね。アイドルはファンに夢を売る仕事、元気を与える仕事だってよく言うけど、私もあのコたちにそういうものを貰ってるのかもしれないわ。お金も大事だけど、人間ってそれだけじゃないってあのコたちに教えられた気がするのよ。まだ10代の女の子たちに色々とね」

 やっぱり社長変わりましたね。松田はもう一度そう言って笑った。最初からこうだったらウェイクアップガールズももう少しマトモなデビューをさせてあげられたのかもな、などと今更どうにもならないことを考えた。社長が夜逃げなどせず予定通りのデビューが出来ていたら、そうしたらいったいどうなっていたのだろう。同じように売れたのだろうか、全然ダメだったろうか、それとももっと売れていたのだろうか。そんなことを漠然と想像していた。

(でも結果オーライなのかもな。あんな形でスタートしたから、それをバネにしてここまで来られたのかもしれないし、終わったことをアレコレ考えても仕方ないか)

 松田は想像の羽を広げるのを止めて、社長にまた話しかけた。

「社長。実は俺、ひょっとするとひょっとしちゃうかもって最近本気で思い始めてるんスよ。あいつらホントにやっちゃうんじゃないかって、あいつらの頑張りを見てると真剣にそう思えてくるんスよ」

 松田は最近の自分の心境を熱く語った。松田は社長以上に彼女たちと苦楽を共にしてきた。彼女たちに見せパンすらない状態のデビューライブしか用意してやれなかった自分の不甲斐なさをずっと申し訳なく思っていたから、今の彼女たちの快進撃っぷりは自分のことのように嬉しい。成功して欲しいと心から思っているからこそ、その分思い入れも社長より強い。

「そうね。アタシも同じ気持ちよ。今の勢いなら本当にやってくれるんじゃないかって思うわ。でもね、油断は禁物よ。慢心と安心はクリエイターをダメにする言葉だって言うしね。私たちにできるのはあのコたちのバックアップに最善を尽くして、当日全力を発揮できるようサポートすること。あのコたちに悔いが残らないようにしてあげなくっちゃね。アンタもしっかり頼むわよ、松田」

「任せてくださいよ」

 胸を張る松田に、ホントに大丈夫なのかしらと苦笑しながら、丹下は再び休めていた仕事の手を動かし始めた。

(ホントに社長は変わったよな。昔みたいに金、金、金じゃなくなったし俺に暴言も吐かなくなったし、これがアイツらのおかげなんだったら感謝しなきゃな)

 松田は社長の姿を見つめながら、またそんなことを考えていた。

説明
 シリーズ24話、アニメ本編では11話にあたります。アイドルの祭典決勝を控え、今回はI−1側の総帥白木とウェイクアップガールズ側の丹下社長と松田の描写にしてみました。本編には無かったオリジナルの描写ですので賛否両論だと思いますが、自分はこの辺りの描写が欲しかったので書いてみました。次回以降はまたウェイクアップガールズの少女たちの話、特に初センター・リーダー・決勝戦とプレッシャーてんこ盛りの七瀬佳乃に少しスポットを浴びせたいと考えています。今週末を目標に頑張りますので、よかったらまた読んでください。
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