紫閃の軌跡
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「………」

 

“同僚”からの通報で、ケルディック駅に着き……街の人から事情を聴いたうえでルナリア自然公園に急いで来た空色のサイドテールの髪を持ち、軍服に身を包んだ人物―――鉄道憲兵隊クレア・リーヴェルト大尉は、最奥部の状況に唖然としていた。それは、部下も同様であった。

 

簡単に説明すると、領邦軍と盗品を盗んだと思われる実行犯が揃って縄で縛られ、自殺防止のために猿轡をかまされているところであった。クレアの予測では領邦軍による不当な拘束も想定されたのだが、現状の光景ではまるっきり逆になっていたのであった。

 

「アスベル、これは幾らなんでも……」

「完全に拘束してますね……」

「下手に死なれたら困るし、俺らだって後味悪いだろ?」

「た、確かにそうなんだろうけれど……」

「納得はできるが……」

「う〜ん、それはそうなんだけど……って、誰か来たよ!?」

 

エリオットの声を聴いて我を取り戻すと、踵を正しつつそこにいるリィン達に近付く。

 

「鉄道憲兵隊です……お久しぶりですね、アスベルさん。」

「ええ、お久しぶりです。事情の方は街の方々から聞いていると思いますが……すみませんが、彼等の連行をお願いできますか?流石にそこまで手が回りませんので。」

「ええ……それは構いませんが。……初めての方もいますので、自己紹介を。鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルト大尉です。貴方方にも事情をお伺いしたいので、同行願えますでしょうか?」

 

何はともあれ、一連の事情を話すこととなった……リィンとラウラが人質にされかけたことも含めてだ。これには流石の“((氷の乙女|アイスメイデン))”といえども驚きを露わにした。よもや同じ<五大名門>に属する人間を人質に取るという非道をしかけていたということは、驚いても無理はない。

 

一番先に事情聴取が終わったアスベルは、人気のない場所で自分の持っている“通信器”で話していた。その相手は、自分をエレボニアに行かせた張本人であった。

 

「―――以上が、今回の事の顛末です。先に当事者の関係者であるヴィクターさんとテオさんにはこちらから連絡しました……その声からして、怒りを露わにしていましたが。既に公爵の勅命書の原本はそちらに送りました。夕方ぐらいには届くかと。」

『……先程、ヴィクター殿からも通信でそのことを聞いた。彼だけでなく、彼の奥方も怒りの感情を抑えきれないほどにな。こちらとしては、エレボニア大使館への厳重抗議、駐エレボニア大使を通じての抗議、別ルートだが、奥方が直接皇帝陛下に申し入れを行う方針だ。これに関しては女王陛下も許可された。』

 

写しについては鉄道憲兵隊に渡しているが、今回は外交問題とも言うべき事案のため……その証拠品である原本は本国に送った。事を荒立てたくはないが、帝国内情の問題に外部まで巻き込もうとした……その責任は問われるべきであろう。

 

「おそらくはシュバルツァー侯爵からも皇帝陛下に直接の陳情が行われますね……彼の身内には?」

『エリゼには俺から伝えた。今回ばかりは同じ子を持つ身として俺も憤りを隠せなかったからな……その意味では、お前をそっちにやって正解だったと思っている。』

「俺も直前まで悩みましたけれどね……そういや、あの二人はまだ『あっち』に?」

『そうなるな……夏休みぐらいは戻ってきてもいいぞ。俺が直々に稽古をつけてやるから。』

「それは嫌がらせか?父さん……」

 

リィンの妹、エリゼ・シュバルツァー……彼女であるが、カシウスの招きと留学生制度の一環ということでジェニス王立学園へ留学生ということでリベールにいるのだ。何でも、今ではその学園の卒業生であるシオンやクローゼ―――クローディア王太女も度々学園に遊びに来ては、手合わせやお茶会を楽しんでいるとのことであった。

 

本人曰く『アルフィンのお付きという役目から離れられるのは幸いですが……朴念仁で超天然の兄様がラウラさん以外の伴侶候補を作らないか心配ですね。』と言っていたが、エリゼ……それ地味にフラグですよ。つーか、もう遅い気がします。はい。

 

『それと、もう一つ連絡だ。リシャールの奴からの報告なんだが……』

「……やっぱり、ですか。確かに、正式な併合から一年……博士は何と?」

『概ね同意見だ。“対騎神戦術”―――その有用性を唱えた。『結社』があれだけの兵器を作れる以上、どこから敵が来るか解らないし、無視はできない。まぁ、“既に”形にはなったが。』

 

その原型となったのはシオンの駆る『銀の騎神』イクスヴェリア。一昨年の戦いでは使わなかったものの、本人はそれでの特訓を積極的に行い、武器の方も完成している。そして、そのデータから得られた膨大な蓄積による戦術の完成。とはいえ、実際に運用してみないことにはその効果を推し量れないが。

 

「あまり無理をして母さんに怒られない様に。それじゃ。」

 

そう言って通信を切るアスベル……どうやら、この地域を取り巻く状況は予断を許さないようだ。それを考えつつも、アスベルはリィン達に合流するためにその場を後にした。

 

 

結局、取り調べは長時間となり……全ての取り調べが終わった頃には、夕方になっていた。クレア大尉は長時間拘束してしまったことを詫びつつも、今回の事態の収束に一役買ったことに対して感謝の意を述べた。オットー元締めの方も盗品が無事に戻って来たことも含めて礼を述べた。

 

「それにしても、アスベルさんがトールズにですか……因果を感じますね。」

「何の因果ですか……何の。」

 

暫くは鉄道憲兵隊がケルディックに駐在する運びとなったが、元締めはこの街にいるクロイツェン領邦軍とはなるべく諍いが起こらない様にクレア大尉に対して述べ、大尉も善処はしますと答えた。それにしても、特別実習を“外”から見るのと“内”で経験するのでは全く違う。『百聞は一見に如かず』という言葉のとおりであると一人納得したアスベルであった。

 

「今回ばかりは私達はあくまで手助けをした程度ですし、今回の事態を予測できなかった我々も甘いのでしょう……それに、ああいったトラブルも含めての“特別実習”かもしれませんから。」

「え―――」

 

そして、クレア大尉の話を聞いたリィンが呆けたその時、

 

―――さすがにそこまでは考えてないけどね。

 

駅からB班のフォローに向かっていたサラが姿を現した。

 

「サラさん、お久しぶりです。」

「相変わらず神出鬼没ね。さしずめ、貴女の“兄弟筋”あたりかしら?」

「そのようなところです。それにしても、今回の事はサラさんも“無関係ではない”とは言えません……」

 

サラの姿を見てクレア大尉がバツが悪そうにしつつもサラの方を見た。一方、サラは意味深な笑みを浮かべつつクレア大尉に対して話を続けた。

 

「そうね……アタシからはあえて何も言わないわ。恐らく“あの人”は凄く怒っているかもしれないから、穏便で済めばいいわね。」

「ひ、他人事のように仰いますね。」

「別に怒ってるわけじゃないけどね……今回ばかりは同情の立場よ。“あの人”、一度怒らせたら収まるまで時間かかるわよ?そういう意味じゃ、ラウラは災難ね。」

「サラ教官、そう思うのであればフォロー位してほしいのだが……」

「それは勘弁願いたいわ。師匠に雷落とされたくないもの。」

 

サラのその言葉にその場にいた一同は冷や汗をかいた。まぁ、“あの人”にしてみれば自分の子どもが誘拐されかけたのだ。それで怒らない訳がないのだが……その上、彼女は腕が立つ。実力だけで言えば皇族の中でもトップクラスだろう……国の象徴たる皇族が武を嗜んでいるというのには色々言うべきところはありそうだが。

 

「ま、他の人も結構怒るだろうし、アタシは士官学院の教官として冷静に事の次第を見せてもらうわ。彼伝手で聞いた話だと“光の剣匠”と“剣聖”も憤っているという話だし……それに比べたらアタシは力不足ね。」

「…………と、とにかく……トールズ士官学院特科クラス<Z組>……私も細やかながら応援させていただきますね。―――撤収します。」

「イエス、マム!!」

 

その言葉を聞いて、クレア大尉の顔が青褪めていた。これには周りの部下が諌めているという状況にリィンらは事の大きさをそれとなく察していた。色々あったが……六人とサラは帝都方面の列車に乗り込んだ。サラは席に座って早々に眠りについたが。その寝つきの良さにA班の面々は冷や汗をかいた。

 

「狸寝入り、ってわけじゃないわよね?」

「呼吸は完全に眠っているような節だが……」

「そうみたいですね。」

 

まぁ、B班のフォローをしつつ、それで此方まで戻ってきた……流石の“紫電”といえども疲れを隠せないのは当たり前だろう。話は今回の特別実習の趣旨についての話となった。

 

「初めての“特別実習”……―――何を目的としているのか何となくわかってた気がする。」

「そうね。やっぱりARCUSのテストはあくまで目的の一つ……私達に色々な経験を積ませるのが目的なんでしょうね。」

「単に命令を実行するだけでなく、その命令がなくとも自主的に……主体的に行動できる思考力を養うことも視野に入れた感じですね。」

「うん。知識でしか知らなかった帝国各地や、そこに住んでいる人達……今回みたいな問題について体験させるつもりじゃないかな?」

「その上で主体的に突発的な状況に対処する……そういった心構えが求められていたような気がする。」

 

「―――半分くらいは当たりね。」

 

現地の実際の情報、突発的な状況に対処するための判断力と行動力や決断力……問題解決能力。つまるところ、“遊撃士”がやっていることを反映させている辺りというか、その“本職”の人間を入れているあたりからして色々あるのだが。そこら辺をリィンに指摘されたサラは露骨に寝たフリをした。

 

「そういえば、折角“本職”の人間がいるのですから……どうなんですか?」

「話してもいいんだけれど……サラ教官が本気でかかってきそうだから今のところは勘弁してくれ。」

「って、ステラに話したのか?」

「ま、バレちゃったからな……B班だと、知ってるのはルドガーとガイウス、フィーぐらいだな。」

 

まぁ、一昨年の絡みでユーシスあたりは知っているのかと思ったが……気付いていないから、敢えて黙っていることにした。しかし、自然公園での一件と言い、微妙に異なる部分があっても確実に流れは予測されている方向に向かっていることに、改めて気を引き締めなければならないと感じていた。

 

 

帝都方向に向かう列車……それを小高い丘で見つめていた一人の知性的な人物。その列車を黙って見つめていると、後ろから聞こえてくる声に気付く。黒づくめにフルフェイスの仮面で身を隠していた人物はため息が出そうな口調で述べた。

 

「やれやれ、あのタイミングで“((氷の乙女|アイスメイデン))”が現れるとは……少々、段取りを狂わされたな。」

「“予想外の展開”はあったにしろ、元々想定の範囲内だ。今後の障害となりうる“帝国軍情報局”と“鉄道憲兵隊”……その連携パターンが見えただけでも十二分に収穫はあったとみるべきだろう。そう考えれば、これは“布石”になるというわけだ。」

「フフ、“捨石”と考えていたが、そういう見方もできるという訳か……ならば、我々はこのまま“計画”を進めるとしよう。」

「ああ―――もちろんだ。全ては“あの男”に……奪われた者たちの思いを汲み、無慈悲なる鉄槌を下すために。」

「全ては、“あの男”の野望を……これ以上ないほどに、完膚なきまで打ち砕かんために。」

 

蠢く影……彼等はそう話したのち、各々別れてその場を後にしたのであった。

 

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今回の事件の顛末は第二章冒頭にて語る予定です。まぁ、第二章は“貴族絡み”なので。

 

そして、出てきましたエリゼさん。聖アストライア女学院には、リィンの妹(エリゼの双子の妹、まぁオリキャラです)を出していきます。

 

……私としては、前作の流れでアルフィンをオリキャラと絡ませたいのですが……え?フラグ云々?ほら、身近で実感してリィンの危険さを親友に伝えるという重要なポジションというのは……ダメですかね?……一夫一妻?逆に考えるんだ、『あの国に貴族の位が残っている意味を考えれば、出来なくはない話』なのだと(すっごい暴論)。

 

そういえば、リィン……原作でエリゼの同級生にフラグ立ててましたが……あっ(察し)

 

説明
第20話 氷の憂鬱と忍び寄る闇(第一章 END)
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コメント
レシオン様 加えてユーシスもその関係者です。 アラル様 嘘みたいだろ?まだ第一章なんだぜ……合計人数は、私にも解りません(ぇ(kelvin)
THIS様 人間って、ある意味導火線です。それがよく解る一例です。 あの二人に関しては出しますが……用法・容量を守らないとリィン達の影が薄くなるので検討中です。(kelvin)
そういえば、アズベルの二人の恋人モこっちに来るのかな?個人的に夏休みに編入って可能性も考えましたが。(THIS)
帝国はマキアスの話に出てきた妾の話やオリヴァルトの存在からあるにはあるんじゃないかと思います。(レシオン)
怒りを通り過ぎてもはや感心レベルだなリィンの女難は…(アラル)
やばいな・・・。本当に手を出しては阿寒奴らに手を出したWW(THIS)
ジン様 リィンは皇族・貴族キラー(真理)(kelvin)
今のところリィン×ラウラ、エリゼ、エリゼの双子の妹、アルフィンの双子、ステラって感じですかね?てかこれはすごいな^^;全員が皇族っていうね^^;(ジン)
ジン様 アドバイス感謝です。ただ、キャラクター性はアルフィンに似つつも違う感じにしないといけませんが……あと、私の作品の女王様、曾孫の為ならば何でもやります(意味深)(kelvin)
白の牙様 まぁ、この後も色々関わることがありますので、その時にでも……イロイロと(意味深)(kelvin)
あくまでもシオンは今のままでは王配と言う存在でしかないので、もしアルフィンを嫁にすると完全に浮気になってしまいます。(ジン)
アルフィンって何気にキーキャラクターだからアルフィンをシオンの嫁にするのならアルフィンの双子の姉か妹のオリキャラを出さないと^^;あとはシオンはクローディアを王太女から蹴落として王太子にならないと一夫多妻はできませんよ。(ジン)
閃が終わる前にアルバレア家が存続し続けるかどうかそれが一番気になりますね。そしてアスベルの嫁候補の一人クレアさん登場。二人の絡みが少なかったのが残念だ(白の牙)
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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