紫閃の軌跡
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自由行動日から数日後……予告されていた『実技テスト』の時間だ。先月と同じようにサラが“戦術殻”を呼び出し、メンバーを選出するのであるが……

 

「それじゃあ……まずは、そうね……アスベル、アリサ、ルドガーの三人で行こうかしら。」

「……まぁ、予想はしてたが。」

「そうね……」

「心配するな。真っ直ぐ行ってぶっ飛ばせばいいんだから。」

「「いや、その理屈はおかしい。」」

 

お前、『結社』の重鎮だろ……何はともあれ、アスベルとアリサで戦術リンクを結び、時にはリンクを結んでいないはずのアスベルとルドガーの連携もあって『アーツを使わない』という条件も含めて難なくクリアする。続いて選出されたのはリィン、ステラ、ラウラ、ガイウスの四人。こちらもリンクを駆使して与えられた条件を満たしつつクリアできた。

 

「……これはひどい。」

「口に出すなよ、ルドガー……そもそも、真っ当に連携できるほうが難しいんだから。」

「いや、アスベル……それも酷いような気がするんだが。」

「フォローする方がよっぽどひどくないですか?」

「それ以上いけない。」

 

だが、最後の組……エリオット、マキアス、ユーシス、エマ、フィー……課題は辛うじてクリアできたものの、その連携には明らかに“溝”があった。フィーのフォローのお蔭で何とかなったとはいえ、実戦では致命的とも言える連携の練度。その原因は言わずもがな、クラス内で険悪な空気を作っているマキアスとユーシスであった。これには流石のサラも

 

「一応クリアだけど……酷いわね。この結果は君たち二人が原因よ。しっかり心に刻んでおくことね。」

「…………」

「…………(ギリッ)」

 

苦言を呈し、マキアスとユーシスはサラの方を睨んだ。これで一通り『実力テスト』も終わり、いよいよ今月の『特別実習』が発表されることとなった。

 

【5月特別実習】

 

A班:リィン、アスベル、ルドガー、マキアス、ユーシス、フィー、エマ

  (公都バリアハート)

B班:ガイウス、エリオット、アリサ、ラウラ、ステラ

  (新都セイルティアス)

 

「セイルティアス……サザーラント州の州都だったか。」

「ええ、バリアハートはクロイツェン州の州都ですね。つり合いは取れていると思いますが……」

「それ以前の問題かも。」

 

新都セイルティアス―――十二年前の『百日戦役』による帰属を認めなかったハイアームズ家が割譲の対象に入らなかった西側沿岸地域に新たなサザーラント州を作り、その中核都市として設立したのがセイルティアスである。リベール側としては“セントアーク”の地名を使うのであればアルトハイム自治州のセントアークの地名変更も考えたのだが、サザーラント州側はそれをしなかった……いずれかは“奪還”するという意図も込めての新都設立だと思われるが。今回は双方共に“貴族派”の本拠地……その意味合いではつり合いは取れている。しかし……

 

「―――冗談じゃない!!サラ教官、いい加減にしてください!僕たちに何か恨みでもあるんですか!?」

「―――茶番だな。こんな班分けは認められない。再検討してもらおうか?」

 

マキアスとユーシスの抗議……確かに、二ヶ月続けて同じ面々。しかも、先月の特別実習の事を考慮されてかA班だけ人数を多めにされている。

 

「うーん、あたし的にはこれがベストなんだけれどなぁ。A班の実習先は君の実家だから、外すわけにはいかないのよね。」

「それだったら、僕を外せばいいでしょう!『翡翠の公都』バリアハート……貴族至上主義の凝り固まった連中の巣窟という話じゃないですか!!セイルティアスも気は進まないが、誰かさんの実家よりははるかにマシだ!!」

「確かに、そう言われてるわよね。だからこそ、君もA班に入れてるんじゃない。」

 

だが、A班の実習先はユーシスの実家であることから外すわけにはいかない。しかも、ケルディックのことがあったとはいえ<五大名門>の中核を担う本拠地の実態を見るという意味でもマキアスは外せないというサラの説明に押し黙るが、納得がいっていない様子だった。まぁ、文句を言いたいのは彼等だけではないのだが……

 

(……“もしも”の時の実力行使込みで突っ込んだ感じだな。)

(そうみたいだな……ま、あの二人絡みに比べれば雑務レベルだが。)

 

アスベルとルドガーの二人を同じ班に入れる意味―――確実にトラブルを見越した上での班編成である事にはため息が出そうであった。サラの事なのでそうなりそうな予感はしていたし、彼等のように文句を言うつもりもない。

 

「ま、あたしは軍人じゃないし、命令が絶対なんて言わない。ただ、<Z組>の担任教官として適切に導く義務がある。それに異議があるのなら、それでもいいわ……何だったら、力づくでも言うことを聞かせてみる?」

 

その挑発にマキアスとユーシスは顔を見合わせて頷き、前に出てサラと対峙した。だが、この教官の事だ……碌な展開にならないと思っていた一同であったが、ものの見事にサラはこう言った。

 

「それじゃ、二人でアスベル一人に勝てたら班の再検討をしてあげるわね。」

「は?サラ教官、何を言って……」

「問題は無いわけでしょ。“貴方の力量”から言えばね。」

「………ほぼ『0%』の結果を叩き付けるつもりですか?」

「ま、そんなところね。」

 

こちらの評価が掛かっている以上、これ以上の問答を諦めて前に出て……アスベルは二人と対峙する。

 

「アスベル……勝負である以上、恨まないことだ。」

「そういうことだ。覚悟してもらおう!」

 

しかも、二人は完全にやる気であるのだが……それを見ている他の面々はというと

 

「……あーあ。」

「何というか……」

「………」

(いじめだろ、これ。)

 

彼の実力を知っているアリサ、ラウラ、フィー、ルドガーはアスベルと対峙することに二人を哀れんだ。その事情を知らないガイウス、エリオット、エマ、ステラは首を傾げた。そして、リィンはというと……サラの呼びかけでマキアスとユーシスの組に入ることとなり、結果的には一対三の戦いとなっていた。

 

「……とばっちりだな、リィン。」

「ああ……だが、挑ませてもらう。ユン師匠に勝るとも劣らない実力……それに届けるかどうかを。」

「ふぅ……あれからどれだけ腕が上がったか……試させてもらおうか。」

 

アスベルは息を整え、周囲に満ちる“氣”……その一端を僅かながら感じたことのあるリィンはその力に気付いた。静の極致“理”……そのオーラに違いないことに。だが、彼は構えているのだが……その手には太刀が握られていない。

 

「刀なしで戦うつもりか!?」

「舐めた真似を……!」

「いや……八葉一刀流八の型“無手”。」

「舐めているわけではない……ただ、太刀を使ってしまうと『加減が難しい』んでな。俺に太刀を抜かせたいのなら、本気でかかってこい。―――八葉一刀流が皆伝、アスベル・フォストレイト。いざ、参る。」

 

そうして始まったアスベル対リィン、マキアス、ユーシスの戦い。リィンが前線でアスベルをひきつけ、ユーシスが剣とアーツを使いこなす遊撃役。そして、マキアスは後方からの射撃なのだが……アスベルはそれに対して防御や回避はするが、あえて攻撃をしなかった。わざとではなく、これにも理由がある。

 

「くっ、なかなか当たらない!」

「当たったらこっちの評価が下がるんだよ。というか、地味に怖いなリィン。」

「そう言いつつも『疾風』を凌ぎきってるあたりが怖いんだが!」

「なら、これならどうだ!!」

 

彼等に焦燥させることで連携を崩す。戦い方自体に正道も非道もない……いかに自分の戦い方ができるか……どれだけ自分のペースに持ち込めるか。そこにとんでくるユーシスのアーツ。これには流石のアスベルも回避しきれずに被弾し、爆発で土煙が上がる。

 

「やったか!?」

「見た感じでは直撃したようだな。流石にこれでは……」

 

少し安堵したマキアスとユーシス……だが、リィンの本能が警鐘を鳴らしていた。そして、次の瞬間―――土煙から何かが飛び出してきたかと思うと、マキアスとユーシスの背後には太刀を構えるアスベル……そして、

 

「はあっ!!」

「ぐっ……!?」

「何……だと……!?」

 

振るわれた太刀により、二人は即座に戦闘不能状態となった。二の型の秘技『裏疾風』……だが、その速度は二年前の修練で見せてもらったそれとは比べ物にならなかった。ここで手を抜けば二人と同じ様相となる。リィンは太刀を構え、赤き炎を顕現させる。それを見たアスベルも太刀を横に構え、紫の炎を灯らせる。

 

『『炎よ、我が剣に集え。』』

 

そして、その太刀を構えて双方から繰り出される斬撃の応酬―――そして、振るわれる止めの一撃。赤と紫……その一撃が交わって、背中合わせに技を放ち終えた二人―――リィンは太刀を地面に刺して倒れるのをこらえ、一方のアスベルは息を整え、立ち上がって太刀を納める。

 

「え、えっと……」

「と、とんでもないわね。」

「見事なまでの剣術だな。」

「八葉の一端……流石に奥深いな。」

 

色々驚きもあるが……ステラがふと気になったことを、彼のことを知っていそうなルドガーに尋ねた。

 

「これが、アスベルさんの……ルドガーさんは何か知ってるんですか?」

「僅か8歳にして“剣仙”ユン・カーファイから八葉一刀流八つの型の奥義皆伝を受け、“紫炎の剣聖”の名を貰った人物―――それが、あそこにいるアスベル・フォストレイトってわけだ。」

「えと、冗談だよね?」

「こんな状況で冗談は言えない。」

「何と言いますか、“格が違う”ということですか。」

 

各々に感想を述べているのを聞きながら、アスベルは戦った三人に対してアーツをかけて体力を回復させた。サラ教官はそれを見届けつつも、笑顔を浮かべていた。

 

「うんうん、流石はアスベル。というか、益々強くなってないかしら?」

「これでも父親には勝ててないんですけれどね。悪運だけは強いので。」

「いや、あの人……あの人の娘といい、ますます人外化してない?」

「本人は否定すると思いますが。」

 

何はともあれ、アスベルの勝ちということで班変更は却下され、予定通り特別実習が行われる運びとなった。それは同時にリィン、アスベル、ルドガーが苦労するという意味でもあるということにアスベルはわざと負けておくべきかと思ったのだが……今更だということに半ば諦めた。

 

ちなみに、先程のユーシスのアーツに関してなのだが……直撃を喰らってしまったものの、すぐさま体勢を立て直し、太刀を構えて突撃したという単純な事であった。ちゃんと装備を整えていたということもあってダメージを最小限に抑えることが出来た。

 

説明
第24話 “紫炎の剣聖”
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コメント
ジン様 リィンとシオンは友人ですね。ある意味同じ境遇に置かれた仲間みたいなものですがwパワーアップフラグについては今のところノーコメントということでお願いします。騎神関連は次回あたりに。(kelvin)
あと気になったのはリィンとシオンって同じ力を宿していることで親友になってたんでしたっけ?(ジン)
パワーアップフラグはあれかな?一つは夏休み期間でのオリジナル実習ユミル編、もう一つがドラマCD編かな?あとはシオンの騎神が銀ってことは司っているのは幻?(ジン)
ジン様 リィンとルーファスの関わりは序章にてユーシス絡みで少し触れてます。 デュバリィとリィンのフラグ……原作でもアレですからねw(kelvin)
そう言えばリィンとルーファスって何気に面識有りそうですけどどうなんですかね?あとはデュバリィがリィンの嫁になるの楽しみにしてます^^(ジン)
八神はやて様 誤字指摘感謝です。第二章は一ひねり位加えた感じに仕上げます。ルドガーだって単なる苦労人ではないところも見せたいかなぁと……戦車一台ぐらい壊した方が盛り上がりますかね(ぇ(kelvin)
白の牙様 傍から見ればそう見えますが……その辺は次回にて。あと、仮にエマを落としたらヴィータが義理の姉みたいなものじゃないですか(汗) アラル様 まぁ、リベールでの経験が生きてますので(kelvin)
↓↓エマさんをアスベルの嫁に加えるのはまず間違いなく無理でしょ^^;てか閃Uをやれば確実にリィンの嫁にしかなれないってわかると思いますよ^^;(ジン)
流石シリーズの中でもハイスペック主人公リィン、原作より強いな(アラル)
アスベル対リィン、ユーシス、マキアス・・・結果は解りきってましたえ。しかし、本気ではないとはいえアスベルとまともに打ち合ったリィン、原作より強くなりすぎでしょう。そしてこれは願望ですが、エマさんをアスベルの嫁候補に入れて欲しいです!(白の牙)
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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