不思議系乙女少女と現実的乙女少女の日常 『雨の日のコンチェルト 3』
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何故。

人は山に登るのか。

 そこに山が有るからだ、と答えたのは何処の誰だったか。

 逆説的に考えれば、山があるならば人はそこに登らなければならないのだ。これは義務だ。それ故に間違いは無い。

何故、山が存在するのか。

そこに人が登るためだ。

違う気がする。なにか根本的な所で間違っている気がする。

ヤカは頭を傾げて不思議に思った。この逆説は虚偽だったようだ。

「なに考えてるの? どうせろくな事じゃ無いでしょうけど」

「うおぉ? それは心外ってもんだよぅリコさん」

 言ったものの、本当にろくな事を考えてはいなかったため、あながち否定は出来ない。

リコは有名スポーツメーカーの、安物スポーツバッグを肩に下げている。赤一色のそれは、デザインだけはヤカと同じだ。ちなみに、ヤカのそれは黒一色だ。ゴスロリスタイルが基本のヤカとしては、フリルと黒は外せない。スポーツバッグにフリルは恐ろしいほど似合わなかったため、取り付けるのは止めたが。

そんなヤカも、今は学校指定のジャージを着用している。当然、周囲のクラスメートも同じだ。『学校指定』というのは、所属を明らかにするために、とても便利だ。主に教師側にとって。それは、義務教育期間であるならば、より効果的だ。管理保護の面で、与えられる単純な記号というものはこの上なく便利だ。

課外授業。

市内に存在する有名な運動公園で本日、それは決行されようとしている。

ヤカの家からもそれなりに近いその公園は、すぐ裏手に大きな山が存在する。市が管理するその山は、ほとんどが立ち入り禁止となっているが、ハイキングコースとして解放されている場所もある。賑わっているという事実は無いが、有って困るものでも無い、というのは市民の意見である。何故なら今回の様に、市内にある小中学校の課外授業に使えるからだ。

今、生徒達は運動公園ハイキングコース入り口前の、ちょっとした広場に居た。レンガタイルで舗装された、ちょっと変わった地面。広場の中央には大きな木が一本聳え立っていた。

「そういえば、嫌いだったんじゃ無いの?」

 と、リコが思い出したかのように言ってきた。

「ん? なぁにが」

「とぼけるんじゃないの。…………久慈さんの事よ」

「あー…………。ねぇ?」

 問われたヤカは、首を傾げて言った。両手を口元に持って言って、ぶりっ娘の体制だ。眼など無意味にキラキラさせている。

「いや、『ねぇ』って言われても。ていうか何故そんなポーズを」

「男の人はぶりっ娘が好きらしいよぅ? 形だけ見るには十分なんだってさ」

「私は男じゃ無いんだけど。ていうか使う場面もおかしいでしょうが」

「細かい事は気にしないのが私なのさぁ」

「遺伝子レベルで間違ってるわよ」

「くっ……………………ぶりっ娘も遺伝子の壁は越えられないか!」

「初めからそういう設定だからじゃ無いの? ぶりっ娘の通用する遺伝子が。いや、ていうかそういうアレじゃなくて」

「なんで華実と同じ班になったかって事でしょ?」

「うわ、もう呼び捨てだし。ヤカ、アンタって…………」

「え? なに嫉妬? 嫉妬なの? 私としてはそういう関係もアリかもっていうかぁ」

 頬を染めて身体をくねらせるヤカだが、垂直に落とされたリコのチョップで黙らされた。

「まあ、そういう変わり身の速さは、アンタの良い所よね」

 諦めたように、リコは呟いた。そして、その後、

「理由があるんでしょ。ちゃんとした理由が。アンタが変わり身を発揮するような理由が」

 ヤカは口を笑みの形にした。

姉妹同然の幼馴染は、ちゃんとヤカの事を分かっているらしい。

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ハイキングコースはよく整備されており、コースの途中にはいくつもの休憩所が設置されている。各休憩所には教師達がいて、生徒達を監督している。

課外授業にはいくつかの課題が用意されており、その中の一つを選択して課題を仕上げるのだった。それは例えばスケッチだったり、ハイキングコースに生えている草花の種類を調べる事だったりする。

そんな中で、ヤカ達の班が選んだのはスケッチだった。最も手軽なので人気が高い…………というより、最も面倒臭く無い、というのが本当のところだ。中には運動公園の歴史と発展などという、予習と終了後の纏めが必要な課題も存在するが、そんな面倒なものを選ぶのは一握りの人間だけで、その人間の意見も班の多数決でもみ消されるのだった。

「さぁてと、どこら辺で描きましょうかねっとぉ」

 今居る場所は、未だスタート地点。つまり、ハイキングコース入り口。

「やっぱり、花がたくさんある場所が良いわよね?」

「おぉ、華実は花が好みですか」

「いや、ていうか山でスケッチなんだから大体そんなもんでしょ」

と、リコは言うのだが。

「ふぅ…………」

 次の瞬間には芝生に座り込んでいた。

「えぇーと、リコさん? 貴女は何故にハイキングコース入り口横の芝生に座っているのですかぃ?」

「だるい。歩きたくないもの」

 ぷいっ、とさり気無く我が儘を発揮するリコ。常識的で協調性のあるリコだが、単独行動が許される場面&アウトドアだとこうなる。

「もっと花とかさぁ、描こうよぉ? コースの進んでくと、もっと良い場所見つかるってさぁ」

「ヤカ、私は歩きたくないの。もう一度言うけど、歩きたくないの」

「3回も言ったよこの子は。けどさぁ、こんな所、何も描くものないよぉ?」

 何を言っているの、とリコは肩をすくめた。

「アレを視てみなさい」

「アレって…………あの大きい木の事かぃ?」

 ヤカが首を傾げて聞くと、リコは満足げに頷いた。

「あの木…………見事な脚線美だわ」

「それって木に使う表現じゃ無いよね」

「木目の一つ一つに芸術性を感じるわ。あと、枝葉の細かさに正直うんざ…………感動を禁じえないわ。地面から天に向かって大きく伸び上がるあの大木の姿は大自然への大いなる反骨精神の表れだと思うの」

 つまり『こんな暑い季節に、私は一歩も動きたくないです』とリコは遠まわしに言っているのだった。いや、さっきから直接的に言っているのだが。

「もぉー、行こうよぉリコー。リコと一緒にスケッチしたいなぁ」

「くっつかないの暑苦しい」

「むぅ、駄目だよこの子は。世界の終末が来てもインドア派を貫く決意だよ」

 こうなったリコは、もうテコでも動かない。

ヤカは諦めて、他の班員に行った。別に班長というわけでは無かったが。

「というわけでー、リコは置いといて行きますかぁ」

「もう皆行ってしまったわよ、ヤカさん」

 視ると、先ほどまで6人いた班員は、半分の3人まで減っていた。すなわち、ヤカ、リコ、華実の3人。他の3人は、ヤカとリコがじゃれあっているうちに、待ちきれずに行ってしまったのだという。

「仕様が無いから、2人で行きましょうか」

「そうしようかぁ…………。じゃあ、行ってくるからね、リコ」

「遭難するんじゃないわよ」

「流石にしないよぉ」

「久慈さん、ヤカをお願いね。好奇心で身を滅ぼしても不死鳥の如く蘇って先へ進んじゃう子だから」

「分かったわ。リコさんも、良い絵が描けると良いわね」

「あれぇー、なんか華麗にスルーされた気がする」

 本気でヤカが遭難するかもしれないと考えている2人に、ヤカはもうツッコミが回らないのだった。そもそも、ボケの方が得意なのだから仕様が無かった。

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吸い込まれそうな程に、青い空が広がっていた。

その青には、絵の具の白をどれだけ垂らしても、きっとその色彩に影響を与えられないだろうと思えるくらいだった。ずっと視ていると、心を鷲掴みにされそうなくらい、遥か遠くまで続いていた。

その空を1羽、鳥が飛んでいる。

まるでそれが当然の様に飛んでいる。

だが、雨が降っていれば鳥は飛ぶことが出来ない。

当然の様に飛べない。

もしかしたら、飛んで飛べないことは無いのかもしれない。だが、彼らは飛ばない。

飛ぶことに意味を感じないからだろうか。それとも、他の理由があるのだろうか。

生きるためには、むしろ飛ばない事こそが必要な時もあるだろう。

それ故に、彼らは飛ばないのだろうか。

分からない。

ただ1つ分かること…………それは、それがどうしようも無いから飛ばないのだろうという事。

そんな分かりきった事が分かったからと言って、今更なんの足しにもなりはしない。

 彼女は溜め息を付いた。

細く、小さく、誰にも気付かれない様に。

説明
他の小説描いてたら1ヵ月放置してました。

課外授業に出かけたヤカ達。
学校から、比較的近くにある運動公園。そこのハイキングコース。
ヤカ達はスケッチの実習を選んだ。

・・・ていうか内容的に全然進んでない。もっとペースアップしていくか。
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