紫閃の軌跡
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バリアハートに戻ってきたリィン達A班メンバー……夕暮れに染まる街並み……だが、峡谷道で見かけたあの奇妙な物体―――というか少女の姿は街の方には来ていないことにユーシスが気付き、安堵したような表情を浮かべていた。

 

「……どうやら、街の方には来ていないようだな。」

「そうみたいだな……」

「流石に街の方に来ていたら、騒ぎになっていたかもしれませんし。」

「ああ……遠くに去ったんだろう。」

 

小型の飛行物体という存在自体不可解なもの。市井の人々にとってみれば奇怪な代物なだけに、もし街に来ていたら大慌てだっただろう……一昨年の時には、リベールで幽霊騒ぎがあったと聞いたが、その張本人はルドガーに埋められた……同情はしない。

 

「……流石にお腹がペコペコ。」

「はは、無理もないな。……早めにホテルに帰ってレポートを書かないとな。アスベル、手伝ってくれ。」

「いや、お前辺りはその辺に強そうな気がするんだが……」

「全部口頭で片づけられてたからな。」

「あ、うん……ホテルに戻るか。」

「だな……」

 

うかつに物的証拠を残すのは拙いとは解っていたが、そこらへんは嫌というほど徹底しているようだ。流石に研究とかは文書で残っていることが多い……その辺は『十三工房』の潜入調査で知ったが。

 

ともあれ、今日の実習も一通り終わり、中央広場にある宿泊先のホテルに入ろうとした際に鳴るクラクションの音、そしてホテルの前に泊まった白銀のリムジン。その車に乗る主にユーシスがすぐに気付き、近寄ると……車の窓ガラスが下りて、顔を見せる一人の人物―――クロイツェン州の領主であるアルバレア家の当主。

 

「……挨拶が遅れて済みませんでした。実習ではありますがユーシス、戻りまして……」

「挨拶は無用だ。ルーファスから既に聞いているだろうが、好きにするといい。但し、『アルバレア家』の名に泥を付けるような真似はせぬことだ。」

「………っ………」

 

律儀に挨拶するユーシスに物言わせぬような口調でそう言い切った人物―――アルバレア公爵に対し、ユーシスは押し黙る他なかった。これにはリィン等も驚きを隠せない他、アスベルとルドガーもであった。

 

(実際の印象からすると……傲岸不遜を姿にしたような感じだな。)

(否定はできないな……『この後』を考えると、“白面”のように手段を択ばない可能性もあるな。)

「その、ご学友がおりますので、紹介だけでも……」

「必要ない。何かあればこちらから連絡する。………出せ。」

 

ユーシスの言葉に耳を貸さないかのようにアルバレア公は切り捨て……運転手に命じて、リムジンはその場を去っていった。その印象からするに嫌な予感しかできないというのは些かだが……そして、呆然と立ち尽くすユーシスに対し、フィーは隠すこともなくこう切り出した。

 

「なにあれ。」

「フ、フィーちゃん……」

「あれが、『アルバレア公』というわけか。」

「ああ……アルバレア公爵。クロイツェン州を治める<五大名門>の領主であり……信じられぬことに、俺の父でもあるらしい。」

「ユーシス……」

 

先程の会話……とてもではないが、実の親子の会話とは思えないほどの寒々しさであった。それは解っているのだが、ここで問いただしても嫌がるようなことを話させるような雰囲気ではないというのには、ユーシス以外のA班メンバー全員が思っていたことであった。

 

「……詮無いことを言った。腹が減ったな……いったん部屋に戻ったら食事にでも繰り出すか。」

「だな……ユーシス、期待してるぞ。」

「お前のお眼鏡に適うかどうかは保証しかねるがな……」

「だとさ、アスベル。」

「いや、おまえだろ。」

『(いや、どっちもどっちだと思うけれど。)』

 

人間というものは、その非凡さを知るすべはない……何故ならば、その非凡さの度合い自体がその人自身の『常識』になるからである。部屋で少し休息をした後、夕食はホテルから噴水を挟んで向かい側にあるレストラン『ソルシエラ』で済ませることとなった。

 

「……ふぅ、いい風だな。」

「ふふっ、料理も大変おいしかったです。」

「いや〜、久々に人の作ったものを頂いたが、美味しかった。」

「満足、満足。というか、ルドガーにアスベルも食べ過ぎ。」

「ま、他の人よりもちょっと多めに運動したんでな。……その分は自腹だけど。」

「いや、躊躇いもなく崖を飛び下りるって、それが多めの運動なのか?」

「……納得かな。」

「それで納得できる感性が信じられんぞ……」

 

久々に結構運動したのと、美味しい料理だったので三人前ほど頂いた。アスベルにしてみると、その食欲が“妹”譲りになってきていることに苦笑したのは言うまでもないが。それに納得できるフィーとそれ以外のリィン、マキアス、ユーシス、エマの間ではその認識にずれが生じていることに否定できない。

 

「流石に貴族の街で繁盛してるレストランだな。ユーシスの行きつけなのか?」

「ああ。昔からよくして貰っていてな……ここの味で育ったようなものだ。」

「フン、贅沢なことだな……まぁ、ここの料理が美味しいというのは認めるが。」

「……美味しいというだけじゃなくて、何か温かかったかも。何というか、“真心”がこもってるって感じかな。」

「そうですね。こういう店にしては素材のバランスも良いですし……ユーシスさんの健康のことをしっかり考えているような気がします。」

「ああ……そうなんだろう。」

 

ユーシスのその言葉からしても、彼自身実家にいること自体心地の良いものではない……そう言いたげな感じであった。話題は自然とB班のこととなった。

 

「しかし、B班の方は今頃どうしているんだろうな。」

「はは、ちょうど先月も同じようなことを話したっけ?」

「ああ……こんな風にテーブルを囲んではいないだろうって、言ったっけ。言ったのは俺だけど。」

「あ、それ正解。」

「……マジかよ。B班の方は南西部のセイルティアス……同じように頑張っているとは思うけれど。」

 

ルドガーの言葉に冷や汗をかきつつも、アスベルは向こうの方で頑張っているであろうB班のことを呟いていたその頃―――そのB班もセイルティアスのレストランの屋外席で一息ついていた頃であった。

 

「は〜、美味しかった。」

「流石にこの街では有名なレストランですね。ちょっとバランスが偏りそうな感じでしたが。」

「こういった料理は初めてだったが、これもいい経験になったな。」

「先月のケルディックとはまた趣が異なるが……これはこれでなかなかの味だった。」

「それはそうなんだけれど……よく、この店の予約なんかできたわね?確か、ステラでしょ?この店を予約したのって。」

 

B班―――エリオット、ガイウス、ステラ、ラウラ、アリサの五人。すると、アリサがステラに問いかけた。この店に入ることを提案したのは紛れもないステラ本人。しかし、アリサが知る限りにおいてこのレストランは予約を取るのでも結構な人気ぶりらしい。それも優先席で予約を取ってくれたことには色々疑問があるのだが……ステラはこう答えた。

 

「それですか……実は、正確に言いますと私の兄がここのレストランを懇意にしてるそうで、その縁から予約が取れたそうなんです。」

「へぇ〜、お兄さん……オリビエさんって結構有名な人なの?」

「……まぁ、有名ですね。」

「………(ま、間違っていないわよね?)」

「………(ふむ、もしかしたら母上が何か知っているのかもしれないな。)ところで、A班の方は大丈夫だろうか?」

「心配はないだろう。リィンとアスベルがいる分には安心だと思う。」

「ガイウスがそういうんなら大丈夫だと信じたいけれど……」

 

……B班はA班の心配もしていたそうだが、そういう形で人知れぬところで話題をかっさらっていくオリビエ……その当人がくしゃみをしたということも付け加えておく。

 

戻ってA班の面々……今回の実習に関してはあまり楽観視はできないし、良くもない……そうユーシスが断言した。

 

「今回のB班はベストを尽くせる状態だろう。だが、俺達A班はベストを尽くせたか?……正直言って、“四人”のフォローに助けられたのも事実だ。」

「………」

「………そうですね。」

 

そのこともそうだが…貴族と平民…この街で聞こえてくる増税による人々の“悲鳴”………帝国正規軍の七割を掌握している“鉄血宰相”………それに抗おうとする<五大名門>の四家。身分ということから繋がる構図による凌ぎあいは、戦が近いということを指し示している以外の何物でもない。そういった帝国の実情を突き付けられた一日でもあったことは事実。実習はあと一日……それでどこまで挽回できるかどうか……悩んでいた一同に近寄ってくる人物―――ルドガーが埋めたはずの人物―――ブルブラン男爵の姿である。

 

「嗚呼、青春の悩みというのは何処まで行っても美しく、尊いものなのか―――」

「貴方は……」

「確か、ブルブラン男爵でしたか。」

「フフ、覚えてくれて結構。私のような“変わり者”を記憶の片隅にでも置いていてくれたことには感謝せねばなるまいな。」

(………うぜぇ)

(ルドガー、すごく嫌そうな顔してる。)

(ま、気持ちは理解できるがな。)

 

身内にこんな人間がいたら、躊躇うことなく切り捨てたほうがマシなレベルだ……尤も、ルドガーの場合はそれに拍車がかかったような状況だが。ブルブラン男爵は未だ運命的な出会いには巡り合えてないと言いながらも、

 

「麗しの翡翠の都………鋼の匂いがするのはご愛嬌だが。アルバレア公も趣味人と聞いたが、最近は専ら火遊びの方がお好きなようだ。フフ、それも一興。彼の者が織りなす咲き乱れる花火が見られるか……それが描かれる美しい光景に期待しよう。」

「悪趣味な……」

「流石に不謹慎だと思います。」

「おお、これは失敬。残り一日、せいぜい頑張って美しいものを見せてくれたまえ。成長の美か挫折の美か……どちらになるかは君たち次第だが。」

 

彼の言っていることを鵜呑みにすると、紛れもなく“戦”という名の花火を待ち望むような物言い。これにはマキアスとエマが言葉を返し、ブルブラン男爵はそれに対して笑みを零しつつ礼をしてその場を去っていった。マキアスが貴族に対する言葉を述べた後、ユーシスがあの男が貴族であるかどうかすら疑わしいと言い、リィンもそれに同意し、こう述べた。

 

「どうして、俺達の実習が“あと一日”あるということを『知っていた』んだ?」

 

その答えに関してはとうに出ていることだが……彼だけでなく、白い奇妙な物体……帝国の中で胡乱な動きがあるというのは確かであった。とりあえずホテルに戻る前……先に戻ったマキアス、ユーシス、エマを見届け……リィン、アスベル、ルドガー、フィーの四人が集まった。その話題は先程の人物―――ブルブラン男爵……いや、『執行者』“怪盗紳士”ブルブランのことであった。

 

「三人に確認したい。あの人は、『執行者』だな?」

「ああ―――No.]“怪盗紳士”。リィンは一昨年の異変で対峙した相手だったな。」

「私は直接面識がないけれど……どことなく“漆黒の牙”や“絶槍”に近かったかも。」

「昼間にガッツリ埋めたんだがな……やっぱ海に突き落とさないと駄目だったか。」

「や、やっぱりそうだったんだ……容赦ないな、ルドガー。」

「アイツ、人の事散々おちょくって来たんでな……今度会ったら、“死ぬほうが辛い罰”を与えるつもりだ。」

 

………何があったのかを後日聞いたところ……一時期、ルドガーに対する態度の取り方で悩めるヴィータとアリアンロードを唆した張本人だったそうだ。あ、それは極刑待ったなしですわ。何はともあれレポートの方を取りまとめると……寝る前に、アスベルが気になったことを聞いてみた。

 

「……そういえば、ルドガーって……どこ出身なんだ?流石に生まれた時から“あの場所”にいたとは思えないし。」

「………俺も、人伝だから細かいことは知らないんだが……それでもいいか?」

「別にいいさ。」

「解った……」

 

ルドガー・ローゼスレイヴ……転生した“彼”が物心ついたときには、一人の人物が親としてルドガーを育てていた……彼の名はユリウス。ルドガーの前任者―――使徒第一柱“神羅”として盟主に仕えていた人物。名字はなく、彼曰く『親も知らずに育ってきた』とのことで、ルドガーを拾ったのは偶然だったらしい。

 

その場所は、エレボニア帝国北西部―――ジュライ特区やノーザンブリア自治州にほど近い場所で、何でも黒いフードを着た人物らと遭遇し、彼等を抹殺して未だ赤ん坊であったルドガーを連れ帰った。彼がそうした理由は……彼自身の寿命が迫っていたことだったそうだ。

 

ユリウスは自らの知る知識全てをルドガーに教え……8年前、彼は自らの病でこの世を去った。だが、その事に対して悔いはないと言い、自らの得物であった片刃剣を譲り、ルドガー自身の手がかりであるペンダントを渡した直後に……その顔は幸せに満ちていたらしい。ルドガーは、彼が好きで育てていた薔薇の花と剣に刻まれた“Brave(勇敢なる)”の文字から、彼の存在を忘れないための名字―――“ローゼスレイヴ”の名を名乗ることとした。

 

12年前の時点で既に『執行者』No.T“調停”の座についていたルドガーは、使徒第一柱“神羅”の名を図らずも継いだのが彼が亡くなってから一年後。僅か9歳という年齢で在りながらも使徒になったルドガーの苦労の始まりであった。

 

「その後も調べてはみたんだが……いかんせん、手掛かりがこれしかなくてな。」

 

そう差し出したのはペンダント。中には家族の写真―――両親と祖父、そしてルドガーであろう赤ん坊が写った写真が納められていた。12年経った今でもこの家族が生きているのかどうか……こればかりはルドガー本人も解らずにいた。で、写真の裏に書かれたのは“Rudger”……ユリウスはここからルドガーという名前を取ったのだろう。

 

「……中々波乱の人生を送ってるな。」

「お前もだろう……“剣聖”の息子だなんて、普通からすればプレッシャーものだろうに。」

「はは、否定はしないかな。」

 

転生しても、人の在り方を変えるというのは簡単なようで難しいものだ。軍人にしても、遊撃士にしても、星杯騎士にしても……その在り方を体感し、自分はどうあるべきなのか……アスベル自身ですら、自分が一番何をしたいのかという答えには、まだ辿り着いていなかった。それは、目の前にいるルドガーも同様のようだった。

 

「人ならざる力を手にしても、未熟者というのはお互い様のようだな。」

「……そだな。ま、あんまり遅くなって寝不足で実力が出せないというのは、迷惑になっちまう。とっとと寝るか。」

「……ああ。弟弟子にみっともないところは見せられないからな。寝ますか。」

 

実力が並外れていても、自分の事を未だに良く解っていない……悩んでいる部分がある……そういった意味では、他のA班メンバーの事を“未熟者”とは強く言えないことにアスベルとルドガーは互いに笑みを零し、明日の準備を済ませて部屋の明かりを消して眠りに就いた。

 

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面白いことには全力で首を突っ込むブルブランの巻。

 

そして、ルドガーの過去フラグ……先任者の名前は十秒で決めました……イメージはノーコメントで。

 

二日目ですが……他ではあまりない展開に持っていきます(予定)

 

説明
第29話 お互い様
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コメント
感想ありがとうございます。 THIS様 怪盗紳士は平常運転です。で、彼らが相手している連中が一回り以上生きているので、慢心する余裕すらないのです。(kelvin)
怪盗紳士。ぶれませんな〜。しかし二人ともそういった意味で慢心しないから手ごわいぞ。(THIS)
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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