かがみ様への恋文
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「これ、読んでください!!」

 

真っ白な封筒に入れられた手紙を突然突きつけられた。

 

その少年は顔を附せて目をぎゅっと閉じ、

震える両手で手紙を差し出していた。

 

今すぐにでもこの場から逃げ去りたい衝動を必死で抑えていたのだ。

 

しかしながら、相手はなかなか少年から手紙を受け取ろうとしなかった。

やっとの思いでこの場に留まりつづけている少年の苦悩する様を見て楽しもうなどと

サディスティックなことを考えていたわけでは決してない。

 

ただ、少女たちは顔を見合わせ、果して誰が受け取るべきなのかと悩んでいたのだ。

 

 

柊姉妹とこなたの三人が下校をしようと学校の校門を一歩出たときの事だった。

 

待ち伏せしていたと思しき少年が姿を現し、先の一言を放った。

その一言を口にするのが精一杯で、受け取ってもらいたい相手の名を言い忘れつづけていた。

 

(この手紙はもしやラブレターというやつではないのか?)

 

(ついに私にも春がやってきたー!……のか?)

 

(でもひょっとしたら他の二人宛かもしれない)

 

(そうだ、そんな落ちに決まっている)

 

(でもひょっとしたら、三分の一くらいの確立で私宛じゃあ……)

 

なんて期待を乙女たちは一様に抱いていたことだろう。

 

「これは誰が読んだらいいのかな??」

 

こなたが口を開いた。

 

「柊先輩ですっ!」

 

少年は相変わらず体をこわばらせたまま口だけを動かした。

 

(あぁ、やっぱりそうか……そうだよね、どうせ私なんて……)

 

とこなたが心中激しくがっかりしたかどうかは定かではない。

 

「あの……私とお姉ちゃんのどっちかな?」

 

つかさが申し訳なさそうに尋ねた。

 

「か、……か、かがみ先輩です!!」

 

少年は、憧れの女性名前を面と向かって呼ぶことさえ躊躇われるようだった。

 

(そっか?、やっぱりお姉ちゃんだよね……)

 

とつかさは自分に言い聞かせるように納得していたのかもしれない。

 

「えっ……わ、私?」

 

かがみも色恋沙汰には人並に関心を抱いていたが、

それが突然我が身に降り掛かってこようなどと夢にも思っていなかった。

 

不意を突かれたのだ。

 

戸惑いながらも、その手紙を受け取った。

 

「……ありがとう」

 

とりあえず、かがみはそう言った。

 

しかし既に背を向けて駆け出していた少年の耳に届いていたかどうかはわからない。

 

ひょっとしたらかがみは心の中でガッツポーズくらいはしていたのかもしれない。

少なくとも、驚き半分、喜び半分といったところだろう。

 

 

この手紙が何であるか、

彼女たちは中身を確認する前から既に確信していた。

 

この展開はラブレターに他ならない、と。

 

かがみは自分の身に突然起こった出来事が信じられず、

夢でも見ているのではないかと疑っていた。

 

寒さのせいか、手にした手紙の感触が伝わってこない。

 

「かがみん?、その手紙なに?? もしかして、ラブレターってやつ?」

 

「しっ、知らないわよ! まだ中読んでないんだから!!」

 

かがみは顔を耳まで赤く染め、手紙をコートのポケットに押し込んだ。

 

こなたはそんなかがみの仕草を見て楽しんでいるのだった。

 

「じゃあ、今開けて読んでみてよ?」

 

「あんたには関係ないでしょ! 寒いんだから家に帰ってから読むわよ!!」

 

かがみは二人に顔を背けたまますたすたと早足で歩き始めた。

 

「今の子、一年生かな? 可愛い子だったね?」

 

とつかさ。

 

「年下の男の子か。きっとかがみんの怖さを知らないんだね?」

 

「うるさいわねっ! 年下なんて興味ないわよ!」

 

かがみは必死で平静を装おうとしていたが、内心は興奮が冷めず、

さっきからポケットの中で握りしめつづけている手紙の事で頭がいっぱいだった。

だから、家に帰るまでどんな話をしていたかなんてまったく覚えていなかった。

 

 

『年下なんて興味ないわよ』

 

などと虚勢を張ったことさえすっかり忘れ去っていた。

 

自分の部屋に入るなり鞄を床に落とした。

手紙をポケットから取り出すと、

乱暴に押し込んだときについたしわを机の上で何度もこすって伸ばそうとした。

 

もちろんそんなことで一度ついたしわがとれることは決してない。

かがみもそんなことは分かりきっていた。

 

せっかくもらった初めての手紙なのに、失敗したな、と後悔した。

 

それから、そっと封を切り手紙に目を走らせた。

一文字、また一文字、目に入ってくるたびかがみの鼓動は早まった。

駆け足で最後まで呼んだ後、かがみはベッドに倒れこんだ。

 

「ラブレターだ……」

 

そんな言葉が漏れた。

 

それから何度も、何度も手紙を読み返した。

これが紛れもない現実であると確かめるように。

 

「どうしよう……」

 

それは、寒い冬の日の出来事だった。

 

つづく。

説明
らき☆すたの話です。
もしも…かがみがラブレターをもらったら…。
そんな話です。
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らき☆すた  かがみ 

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