真・恋姫†無双 裏√SG 第14話
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私には、生まれた時から家族が欠けていた

 

私が生まれたのは17年前、魏、呉、蜀がまだ争っていた頃の事だ

 

裕福ではない、だが決して貧しい訳でもない家庭

 

母が居て、姉が居る、なんてことない家庭

 

ただ、父がいないだけ

 

その当時、親のいない家庭と言うのは珍しくなかった

 

大人は皆戦争に赴き、それぞれの国の為、もしくはその国にいる家族の為に戦った

 

帰って来る者、帰らない者

 

大抵は後者だった

 

そしてそれは、私の父もそうだった

 

父は魏の兵としてあの赤壁での決戦に赴いたらしい

 

そして、帰らなかった

 

それを知らされたのは、私が3歳になる時の事だ

 

3歳の時の記憶なんて、ほとんど覚えていない

 

だけど、あの時の、父の死亡報告を受けた時の母の表情と、泣き叫ぶ姿だけは、今も覚えている

 

私は母が大好きだった

 

とても優しくて、とても暖かくて、料理も美味しくて、そして強かった母

 

その強い母が泣いていた

 

そして、母は病を患った

 

父を失った事で、精神的に病んでしまったのだ

 

私はこの時、母を泣かし、病を患わせた奴を許さないと思った

 

私の母に哀しい思いをさせる奴を、いつか殺そうと思った

 

それは、私の姉もそうだった

 

私の姉は私より7つほど年上だった

 

姉が12になる頃、姉は突然家を飛び出した

 

軍に入り、うちの為に金を送る為、そして父親を殺した人間を追う為だった

 

姉はとても強かった

 

母から武術を学び、村にいた退役軍人から兵法を学び、子どもでありながら大人すらを凌駕する力の持ち主だった

 

姉はその力を生かし、蜀領の兵になった

 

活躍は目覚しく、どんどん昇進していったそうだ

 

それは、月に一度送られてくる手紙と仕送りの量が物語っていた

 

誇らしかった

 

母も喜び、体調は良くなる兆しを見せていた

 

このまま活躍していけば、いつか名を残すだろうと思っていた

 

いつか、母の病も治ったら、私も姉のように家を出て、軍に入り、姉のように活躍したいと思っていた

 

しかし、それはある日突然、あっけなく潰えた

 

私が10の誕生日を迎える頃、姉からの手紙が届かなくなり、代わりに姉の私物が届いたのだ

 

それで全てを察した

 

姉は死んだのだと

 

母は悲しんだ

 

私も悲しかった

 

家族を、二人も奪われたのだから

 

そしてその頃から、母は本格的に体調を崩した

 

二人の家族を失ったことが、さらに悪化させたのだろう

 

私はより良い治療を施す為に、許昌へと向かった

 

そこには、腕の良い医者がいると聞いていたから

 

商人の馬車に乗り、何日か掛けて許昌を目指した

 

その結果、間に合わなかった

 

許昌に着く前日に、母は息絶えてしまった

 

ただ一言、私に「生きて」と言って

 

許昌に着いた私は、独りだった

 

ここには知り合いも、家族もいない

 

村に戻る金もない

 

私は、全てを失ってしまった

 

 

 

 

 

王異伝其一

 

 

 

 

 

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馬超「おい、王異?大丈夫か?」

 

友紀「……!」

 

馬超に声を掛けられ、私の意識はパッと現在に戻ってきた。

いかん、徹夜だったせいか、少し考え込んでいたようだ

 

馬超「ずいぶん眠そうだな」

 

友紀「はい、私はいつも寝不足なので」

 

私は何て事ない様子で、馬超との会話に付き合う。

馬超は、そんな私を見て何かを考えているようだ

 

馬超「なぁ、王異。少し、外に出ないか?外の空気吸って、目ぇ覚そうぜ」

 

目の前にいる馬超将軍は、なんて事ない様子で、笑ってそう言った。

私は別段断る理由もなく、それに同意する

 

友紀「馬超将軍が外へ行きたいそうだ。何人か、私達に…」

 

馬超「あー、大丈夫だって!王異一人居りゃ十分だからさ!」

 

付いて来い。そう言おうとしたところで、馬超将軍が止めに入った

 

友紀「馬超将軍、それで怒られるのは私なのですから、もう少し自分の身を考えてください」

 

馬超「ん?考えた上で、王異一人居れば良いと判断したんだが?」

 

とても、先程暗殺に合ったとは思えない態度。

余程自分の力に自信を持っているのか、それとも私を信用しているのか、あるいはその両方か。恐らくは1番目だろう。だが、もし2番目や3番目なら…

 

友紀「わかりました。では、行きましょう」

 

 

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やって来たのは、許昌を出てすぐにある森の中、そこの湖のある場所だ。

辺りに人の気配はない。ここには、私と馬超の二人だけ…

 

友紀「馬超将軍、何故ここへ?」

 

私は尋ねる。何故、こんなひと気のない所にやって来たのか。それも私と二人で。

先程暗殺に合ったばかりなのに、これではもう一度暗殺してくれと言っている様なものではないのか

 

馬超「いやな、ちょっと王異と話したくて」

 

依然、笑みを浮かべる馬超将軍。だけど、その瞳には確かに感じる真剣な様子。

それと、悲しみ…

 

友紀「私に話?」

 

馬超「あぁ。王異、私を狙った暗殺者は、お前だな?」

 

たったその一言で、心臓がドクンと跳ね上がり、体温が上昇するのを感じ、汗が噴き出た

 

友紀「馬超将軍?何を…」

 

努めて冷静に返す。だが、声が少し震えていた

 

翠「ふふ、隠す事はねぇよ。言ったろ?闇討ちには合い慣れてる。

それは、あたしが相手の氣を読む事に長けてるからだ。

王異、あの時のお前の氣と今の氣、全く一緒だぜ」

 

私はサッと馬超から距離を取り、小太刀を引き抜いた

 

舐めていた…ただの呑んだくれ、大食漢と見誤っていた。

私はずっと、馬超の行動を観察し、分析し、殺す機会を伺っていた。確かに馬超は強い。

だが、酒を飲んでしまえば、その警戒能力も落ちると踏んでいた。

現に、五虎将の連中と飲んでいた時の馬超は全くと言って良いほど隙だらけだった。

だから、昨日はわざと仕事を残し、ずっと城で馬超の帰りを待っていた。なのに!

 

友紀「こんなクズに、見破られるなんてな」

 

心の中で、思い付く限りの悪態を吐く。

わざわざ時間を掛けたのに、こんな所で失敗するなんて…なんてマヌケだ、クソ!

 

友紀「馬超、お前には死んでもらう」

 

私は二刀の小太刀を構え、馬超を睨みつける。ここまで来たのだ、今さら引けない

 

馬超「あぁ、お前には、あたしを殺す権利がある」

 

………は?

 

友紀「どういう事だ?」

 

何故お前は、そんな悲しそうな目をしている?

 

馬超「真紀」

 

友紀「!?」

 

何故、お前がそれを…

 

馬超「真紀…趙月って子が、昔私の部隊に居てな。そいつがいつも話してくれたんだ。

私には、可愛い妹が居るってな」

 

友紀「それが私だと?」

 

馬超「あぁ。最初は、ただ漠然と似ていると思った。

次に、お前の笑う顔に、真紀の面影が見えた。

そして、その小太刀を構える姿は、真紀と同じだと思えた」

 

………

 

馬超「だから、お前があたしを狙う理由も分かってる。

真紀を…趙月を殺したのは、このあたしだ」

 

ッ!?

 

友紀「なら!死んだって文句言えねぇよなぁ!?」

 

私は叫び、助走をつけて二刀の攻撃を振り下ろす。

だが、その攻撃は馬超の槍によって止められた

 

馬超「あぁ、文句は言わねぇよ。だが、それはお前があたしを殺せるならって話だ。

悪いが、あたしもまだ死ぬ訳にはいかねぇんだ。あの人は、旦那は寂しがり屋だからな」

 

槍が振るわれる。私は後ろに飛び、それを躱した。馬超は私を睨みつけている。

静かに槍を構えて、とても落ち着いた様子で…

 

馬超「これも、運命なのかな。来い王異。錦馬超が白銀の槍、お前に見せてやる」

 

馬超は深く息を吐き、静かにそう言った。

それは、私が馬超に抱いていた印象とは正反対と言っていい姿だった。

馬超はもっと、ガキっぽくて、熱いだけの奴だと思っていた

 

これが、あの大戦を生き抜いた、蜀の五虎将と呼ばれる錦馬超の本当の姿。

尊敬していた姉を倒す程の人間。なるほど、確かに強い。

とても澄んでいて、静かな氣を放っている。だけど…

 

 

 

この程度なら勝てる

 

 

 

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友紀「ハァァァ!!」

 

私は気合いを入れる為にも、叫んで突撃する。

二刀の小太刀を逆手に持ち、拳を打つように鋭く前へ突き出す

 

馬超「ッ!?」

 

首を狙った私の攻撃は、馬超の槍に止められる。

だが、馬超は私の攻撃を受けて少し驚いて見せた

 

首を狙った一撃は止められたが、私はそれを認識するより先に、もう片方の小太刀で下からすくい上げるように振るった。その攻撃は、馬超が頭を後ろに持って行って躱されたが、下から上への攻撃から、今度は上から下へ、振り下ろす攻撃に繋げる

 

馬超「チッ!」

 

馬超はそれすらも捌ききる。槍を少し動かして小太刀の切っ先を弾いて見せた

 

だが、私もそれで終われない。私はこの距離を保ち、さらに一撃、二撃、三撃と速さを意識して小太刀を振るって行った。幾つかは躱され、幾つかは防がれ、そして幾つかは…

 

馬超「ッ!」

 

馬超の皮を斬りつけていった

 

馬超「速ぇな!クソ!」

 

馬超は少しずつ押されていくのを感じているのか、小さく舌打ちをしていた

 

私は右手で思い切り振り被り、それを槍に向けて放つ。それはしっかり受け止められるが、その衝撃に顔を歪ませていた。私はその隙を突き、左手の小太刀を突き刺そうと前へ突き出す

 

馬超「見切った!」

 

馬超はそう言い、小太刀による突きを躱し、私の腕を掴んだ

 

友紀「だが甘い!」

 

私は腕を掴まれるが、馬超に引っ張られるように近付き、それと同時に左膝を前に突き出した。左膝は馬超の腹にドスンと入り、馬超の息を吐き出させた

 

馬超「ガハッ!」

 

馬超は苦悶の表情を浮かべ、堪らず掴んでいた手を離す。

私は自由になるのを確認し、小太刀をもう一度振るった

 

 

ガキン

 

 

金属音が鳴り響き、小太刀の一撃はまたしても槍に止められた。馬超は咳き込みながらも、しっかりと槍を握っていた

 

馬超「ごほっ…はぁ〜、強いな、王異っ!」

 

馬超は思い切り槍を振り被り、遠心力を利用した、槍がしなる程の一撃をぶつけようとするが、私はそんなもの食らう気になれず、後ろに下がって回避した

 

馬超「あ〜くそ!あたしも歳かぁ?王異の攻撃がキツイぜ」

 

馬超は軽く槍を振り、それをくるくると回すと、より一層強い氣を纏い始めた。

まるで、ここからが本番だと言わんばかりに

 

友紀「その程度か?馬超孟起」

 

馬超「あぁ?」

 

私の挑発に、馬超はピクリと眉を動かす

 

友紀「想像していたより、ずいぶんと弱い。一カ月も準備をした私が馬鹿らしく思えるほどにな」

 

あぁ、やっぱりこいつは単純だ。挑発に平気で乗ってくる。これが秋菜や凪紗、士希なら絶対に乗ってこないのに

 

馬超「言うじゃねぇか、青二才。お前のその思い上がり、あたしがぶち壊してやるよ!」

 

簡単に感情を表に出すな。これでもう、私に負けはなくなった

 

馬超「ハァ!!」

 

馬超は自慢の槍で私を突き刺そうとする。

だが、感情が高ぶっているからか、軌道が単純で、簡単に見切る事が出来た

 

友紀「ふっ!」

 

私は槍を避け、その隙を突くように小太刀で斬りかかる。

馬超の肩に、小太刀の切っ先が触れ、そのまま皮を切り裂く。

小太刀には馬超の血が滴っている

 

馬超「オラオラ!!」

 

だが、馬超はそんな傷を気にする事も無く、槍による猛攻を仕掛けてきた。

私は二刀の小太刀でこれに応戦。確実に防御していく

 

馬超「……ッ!!白銀乱舞!」

 

馬超は猛攻の最中、一瞬距離を取り、瞬時に氣を溜めた。

そしてそこから、先程よりも苛烈な槍術撃を繰り出した

 

友紀「!?」

 

速く、力強い。一つ一つが無駄のない、鋭い一撃が何発も繰り出される、舞っているかのような槍の猛攻。気を抜けば、間違いなく向こうに流れを持っていかれる。だが、逆に言えば、最後までしっかり氣を持って防ぎきれば、私の勝利が見えてくるはずだ

 

馬超「どうした王異!そんなもんか!?」

 

馬超の頭には血が上っているようだ。対峙した時はあんなにも静かだったのに

 

友紀「………」

 

 

ガキン

 

 

馬超の攻撃により、左手に持っていた小太刀を吹き飛ばされる。

馬超はそれを見た瞬間、勝機とばかりに目を輝かせた

 

それが、私があえて作った隙だとは、思いもしなかったようだ

 

 

ガキン

 

 

右手の力を少し緩めると、右手に持っていた小太刀が吹き飛ばされた。

それを確認した馬超は、ここぞとばかりに槍で大振りをしようと体制を整える

 

馬超「覚悟!」

 

馬超の槍が迫ってくる。縦に、頭上に振り下ろす一撃だ。

馬超は私に隙が出来たと思い、大きく出たのだろう。だが、それは思い上がりだ

 

だから、その思い上がりをぶち壊す

 

友紀「ッ!!」

 

 

ダァァン!

 

 

私は馬超の攻撃を避けると同時に、氣を纏わせた拳で馬超の腹部に渾身の一撃を入れた

 

馬超「ゴハッ!」

 

私の拳が当たると同時に、馬超は槍を手放し、大きく吹き飛ばされた

 

私はそれを確認し、馬超の槍を手に取る。その槍は重かった。

まるで、こいつが今まで殺してきた人間の業を全て乗せているかのような重さだ

 

馬超「ゲホッゲホ……い、今の技……!?」

 

馬超は咳き込み、血を吐きながら起き上がろうとするが、私はそれを許さず、馬超の槍を首元に突きつけた

 

友紀「虎落とし。私の元隊長が使っていた技だ」

 

虎落としは、私が知る中で最も強い素手での返し技だ。

どんな強者でも、攻撃する瞬間は無防備になる。

虎落としはその隙に渾身の一撃入れ、仕留める技だ。

その威力は、その名の通り虎をも落とす程だ

 

馬超「……なるほど、妙だとは思ったが、小太刀を手放したのは、わざとか。

あたしも、衰えちまったな…」

 

馬超は諦めたように空を仰いでいた

 

 

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友紀「思えば、お前は最初から、私を信用していなかったんだな」

 

私はこいつのこの諦めようを見て、そして今までを振り返って、そんな印象を受けた

 

一緒に食ったり、酒飲んだり、訓練したりと、私は何かと近付こうと画作していた。

だが、こいつは真名を名乗らなかった。

どれだけ仲良くなろうと、どこか線引きされているようだった

 

馬超「初めて会った時から、あたしはお前が、あたしに何かあるんだなって、わかってたからな」

 

確かに、馬超と初めて会った時、私は殺気を漏らしてしまった。

あれは私でも落ち度だと思っていたが、そんな事が今まで響いていたとは

 

友紀「なぁ、教えてくれよ。姉を、どうやって殺したんだ?後ろから斬ったのか?

心臓を串刺しか?それとも五体を切り刻んだのか?」

 

私は馬超の槍を首に当てる。切っ先が皮を切り、ツーっと血が流れる

 

馬超「真紀は…趙月はあたしに挑んできた。それこそ、今のお前みたいにな。

あいつの、お前達の親を殺したのは、あたし、みたいだったから…」

 

友紀「………」

 

 

ドス

 

 

馬超「ッ!」

 

私は槍を馬超の脚に刺す。馬超は苦痛の表情を浮かべるも、声を上げる事はなかった

 

友紀「いいよなぁ、お前は。世間では英雄なんて呼ばれてもてはやされ、好きなように飲み食いしながら生きて、自分の都合の悪い人間は殺して!憎いよ、お前が!お前だけじゃない!この世の、英雄なんて呼ばれてる奴は、全員憎い!戦争する奴が憎い!何が英雄だ!何が平和の使者だ!私から言わせりゃ、お前ら全員ただの人殺しだ!暗殺なんて下らねぇ手段取った私と変わらねぇクズだよ!」

 

私は馬超の脚に刺した槍をグリグリと抉る。

血が吹き出し、肉が抉れ、骨を削る。それでも、馬超は声を上げなかった

 

馬超「……王異、真紀からお前へ、遺言だ…」

 

馬超は弱々しく、ポツリと言った

 

馬超「『母を頼む。生きて』……だ。王異、本当に、すまなかった…」

 

そして馬超は瞳を閉じた

 

遅いよ、真紀…

 

母はもう、そっちにいるだろうが…

 

何が生きろだ…

 

もう、遅いんだよ…

 

王異「……もういい…死ね…」

 

私は槍を引き抜き、それを振り下ろした

 

 

 

説明
こんにちは!
Second Generations王異伝其一
今回は王異視点、久しぶりの戦闘シーン
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コメント
しかし王異が翠を殺せば再び争いが起きる可能性が……(ohatiyo)
まさにこれ。争いは良くないね(noel)
タグ
真・恋姫†無双 オリキャラ  王異 

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