溺れる双子
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「うわぁ…綺麗…」

夕焼けに照らされ真っ赤に染まった海を見て、リンが感嘆の声を出す。大きなリボンを揺らし、海に向かって走る。

「つめたっ!レーン!海、冷たいよ〜!」

「そりゃあ、秋だもんな」

夏ならともかく、何故水温冷たい秋の海に来るのか、レンはその理由になんとなく気付いている。

「ねぇ、魚、見えるかな?」

「昼ならともかく、今は無理だろ」

「え〜、きっと見付かるよ」

聞いちゃいない。バシャバシャと音をたてながら、彼女は海を進む。一直線に。

「おい、リン!」

彼女を追い、レンも海に入る。冷たくて、痛みすら感じた。

リンは、どんどん進む。まるで冷たさも痛みも感じていないようだ。膝を過ぎ、腰を過ぎ、腹を過ぎ、胸を過ぎ、水が首まで達した時点で漸く捕まえた。

「リン…」

此方を向かせ彼女の顔を見る。やはり、予想通り泣いていた。

「…レン…」

消えてしまいそうな声で名を呼び、肩に顔を埋める。

「私、痛くないよ」

「うん…」

「こんなの、『アレ』に比べたら全然痛くないよ」

体を痛め付ける海の水温。浸かれば『アノ』痛みを忘れさせてくれると思った。いいや、思いたかった。しかし、彼女の瞳から流れる涙は止まらない。

「レン…レン…レン」

何度も何度も彼の名を呼ぶ。愛しくて切なくて、とても悲しい。

「私は、どうしたら綺麗になれる?」

どれだけ石鹸を使っても、どれだけ擦っても、『あの男』に付けられた汚れはとれる気がしない。

涙を流しながら密着するリンの体。彼女の香りが潮の匂いと混ざり合って、ついには消えてしまうんじゃないかと不安になる。

助けたい、救いたい、支えたい。彼女を。しかし、果たして自分にその資格があるんだろうか。『あの男』とはベクトルは違うが、レンがリンにしたいと望む事は禁忌だ。彼では彼女を綺麗に出来ない。絶対に。

「私は、レンが良い。レンじゃなきゃ嫌なの」

「俺達は、双子なのに…」

それでも、求めてしまう。こんなのは、姉弟にあって良い事ではない。

「いっそ溺れたい。溺れて沈んで、そして戻ってこなかったら良い…」

海の底に沈んだら、自分は魚の餌だろうか?

レンがいなかったなら、リンは間違いなく実行していただろう。しかし、彼の腕が、声が、彼女を呼び戻す。

「お前がいなくなったら、俺は俺でなくなる」

どんなに辛くても、自分の傍にいて欲しい。

「俺、強くなるから。お前を守れる位、強くなるから。だから…」

頼むから、俺の前から消えないで。一緒に溺れる事も厭わないから…言い、彼女の唇に自分のソレで触れる。冷たくて、潮の味がした。

 

* * *

 

家を出る時は、着の身着のままだった。財布しか持っていない。

「先に風呂に入ってて。俺は洗濯してから入るから」

「うん」

リンが脱衣所に消える。ガサゴソと衣擦れの音の後、扉の開閉音。開けてみると、其処には既に彼女はいなかった。代わって浴室からシャワーの音。

確認してから自分も服を脱ぐ。全て脱ぐと洗濯機に服を入れる。

 

 

洗濯の作業が終わり、浴室の扉を開けると目の前には背を向け座っているリン。正面に備え付けられている鏡は、ギッチリ隙間なく泡が付着していて、リンの姿もレンの姿も映してはいなかった。

扉の開閉音を聞き、リンが振り返る。もう泣いてはいなかったが、目が赤かった。

「背中流そうか?」

なんとなく訊くと、首を傾げてから「うん」と了承の返事が帰ってきた。彼女の後ろに座ると、泡だらけの垢擦りタオルを渡される。痛くないようにと、優しく背中を擦った。

肌とタオルの摩擦音が響く浴室。鏡の泡は下に流れてはいるが、未だに自分達を映してはいない。空気が重苦しい中、不意にリンがレンを呼んだ。

「よく、こんなホテル借りれたね」

「俺はリンみたいに細かい買い物しないからな」

可愛い物が好きでしょっちゅう買い物をするリンとは違い、レンがバイトで稼いだ金の殆どは学費である。だから、運良くこのホテルを借りる事が出来た。

「せっかくだから満喫しよう」

滅多にない、ホテルでの宿泊なのだから。

 

 

湯は、二人の冷えた体には刺激が強かったのか、入った直後はジンとした痺れを感じた。「ん〜っ、熱い!」などと足を擦っていたリンは、体が慣れた今は顔を伏せ無言で浸かっている。リンの白い肩が、眩しくレンの目に映る。ゆっくりと近付き触れると、リンは短い悲鳴をあげ縮こまった。

「リン、此方向いて」

フルフルと頭を横に振り拒否。

「リンの顔が見たい」

それでも拒否。ゆっくりと彼女の体に腕を回し、引き寄せる。

「ひゃっ」

リンの悲鳴を聞きながら、彼女の首筋に口付ける。チュッチュッと音をたて、口付けは首筋から肩へ移動する。リンは小さく震えている。

「リン…リン…お願い、此方を向いて…」

軈てゆっくりと、リンの体がレンを向いた。彼女は今にも泣き出しそうだった。

彼女の額に口付け、瞼、頬と少しずつ下にさげる。唇にキスするとソレは暖かく、もう潮の味はしなかった。最初は優しく、徐々に深く…すると、リンの口から甘い吐息が零れた。

唇を離し視線を下にさげると、リンの鎖骨と白く濁った湯が目に入る。濁り湯の為、殆ど見えないが見えている部分はリンが擦り過ぎた為、赤くなっていた。それでも、『あの男』に付けられた痕は残っている。

「…ごめんなさい…」

小さな声で謝るリンの瞳から、ついに涙が零れた。強く抱き締め、耳に口を寄せる。

「俺があんな記憶、忘れさせる。俺と一緒に、溺れてしまおう」

そう、お互いに溺れてしまえば、きっと忘れてくれる。たとえ一時的だとしても…。

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「ぁ…ん…れ、ん」

「リン、濡れてきたね」

「ゃ…言わないで…」

右手は胸を揉み、左手は秘所を弄る。二ヶ所同時に感じる刺激に、湯の熱もあってリンは翻弄されていた。

リンの甘い声と手に触れるヌルリとした感触に、レンの欲は膨れ上がっていく。

「あっ、あん」

勃ってきた乳首を摘まむと、リンが甘く啼く。

「可愛い声…もっと聞きたい、リンの声」

「レン…ゃ…あぁ…」

口に含み、嘗め回し強く吸う。手の動きも止めない。リンの啼き声が浴室に響く。強い刺激に、手に絡み付く液の量も増えた。

「リン…良い?入れたい…」

「ん…れん…」

返ってきたのは、返事とも呼べない声。だがレンは、はち切れそうな己をリンの秘所に宛がい、一気に突き入れた。

「あ、ああアァァ!!!!」

リンの体が仰け反り、目をカッと開き大きな悲鳴をあげる。バシャッと湯が跳ねた。

リンを抱き締め、背を撫でる。彼女は暫く荒い息を吐いていたが、暫くすると落ち着いてきた。

「リン…ごめん…」

抱き締め、頭を撫で謝る。フルフルと、リンが首を振った。ソレを了承と解釈し、レンはゆっくりと腰を動かした。

バシャンバシャン

湯が跳ねる。

「あっ…あんっ…はっ…はぁ…」

リンが上下に揺られながら喘ぐ。

「リン…リン、リンっ」

 

 

以前、親が存命の頃。家族四人で海に行った。

レンとリンは喜び、海に入った。レンは泳げるが、リンは泳げなかった。レンの目の前で、溺れた。

「ままっ…ぱぱっ…れんっ…たす、け…」

バシャバシャと跳ねる水、上下に揺れ腕を振り回すリン。

今のリンが、昔の情景とダブって見えた。

 

 

「りんっ、りんっ、りんっ、りんっ」

彼女を決して離すまいと強く抱き締め、狂ったように名を呼び続ける。

バシャンバシャンという水音、互いの息遣い、嬌声…浴室で、二人は生と性、そして水に溺れていく。

「りんっ…おれっ…もうっ…」

「れんっ…れんっ」

リンを抱き締めた状態のまま、レンは果てた。リンの体がビクビクと痙攣する。

胎内に感じる火傷しそうな熱に、リンの頭の中に『妊娠』という言葉が浮かんだが、それでも良いと思った。自分は、きっと彼との子を愛していける。

涙と湯気でボヤけた視界の中、リンはうっすらと笑んだ。

説明
海に来たレンとリンの話。
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