恋姫無双 武道伝11話
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「姓は関、名は羽、字は雲長と申します。賊徒討伐の義勇軍を結成されたと聞いて是非お力になりたいと思い、参陣いたしました」

 

目の前で拝礼をし、名乗るのは黒髪を後ろで纏め上げた少女。年にして20弱というところだろうか。その可憐な容姿に合わない巨大な青龍刀を手にしている。趙雲や郭嘉が女性だったことからもしかしたらとは思っていたが、関羽も女性だった。そろそろ男の連れができてもいいんじゃなかろうか。

 

「軍とは言っても百にも満たん。堅苦しいのは無しでいいさ。雲長殿は我が軍において将として力を発揮したいとのことだが?」

 

「はあ、あ、はい。恐れながら私はそれなりに腕に自信があります。必ずやあなた方のお力になれるかと」

 

今までいろんなところで軽く扱われてきたのか、代表である俺に礼儀など無用と言われ、気の抜けた返事が返ってきた。だがすぐに気を引き締め、己は力になれると訴えてくる。

 

「では、少しばかり試験させてもらってもいいか?うちの趙子龍と手合せをしてもらいたい」

 

ようやくか、と言わんばかりに星が一歩前に出る。

 

「わかりました。この関雲長の実力、御覧に入れましょう」

 

 

場所を移し、いつもの広場。対峙する星と関羽、周りには李文が集めた部隊長候補数名。彼らを集めたのは、将を担う星と、将ならんとする関羽の実力を自分の目で確かめてもらうため。戦場で命を預けることに疑問を持たせぬよう、納得してもらうためである。このことからも分かるが、李文は関羽を将として起用することをほぼ決めていた。関羽の身のこなし、細かく言えば重心の移動や置き方から長く獲物を扱ってきたことが分かったからだ。ちなみに少し偃月刀を触らせてもらったのだが、李文には重すぎて穂先が上がらなかった。

 

「では、これより趙子龍と関雲長の仕合を始める。どちらかが降参するか戦闘不能、もしくは俺が判定を下したら終了だ。では始め」

 

「全くおにーさんという人は、女の子にも厳しいのですね」

 

開始を宣言する李文の横で風が呟いた。それを拾えたのは横にいた李文と稟、楽進くらいだろうか。

 

「仕合において、李文殿の言ったことは当然のことかと思いますが」

 

星と関羽はお互いにまだ動かない。否、武の心得がある者には見える、一手先の互いの切っ先をぶつけ合っている。

 

「楽進ちゃんの言ってることは当然なのですが、部隊長候補を集めてというのが厳しいのですよー。これで負けた方には、それがどんないい勝負であっても衆人環視の元敗れたと悔しさが残りますし、勝てば勝ったで彼らに無条件に今以上を求められてしまいます」

 

「・・・なるほど」

 

「将というのはそういうものだ。星も、そしておそらくは関羽も、戦場で部下を引き連れたことがないのだろう。あいつらの戦い方は敗れれば死、あるのみ。それは士の生き方であって将の生き方ではないのさ」

 

状況が動く。関羽の切り込み、右足の踏込からの袈裟切り。重心の移動もしっかりしており、受けられたとて優位が着く先の一手。対する星は大げさに後ろに跳ぶ逃げの一手。端から逃げるつもりだったのだろう、体勢を崩すことなく先ほどより半歩ほど広い距離が生まれる。

 

(なるほど、子文がああ言うだけのことはある。あんなデカブツを振り切っておいて軸が揺らがぬとは・・・)

 

星は確かに一手目は見に廻り、太刀筋を見極めようと思っていた。そしてあわよくば一手差し込みをしようと考えていた。しかし実際のところそのような隙はなく、やむなく予定よりさらに半歩引いたのである。

 

「いやお見事、私も万夫不当を自称していたが、こう強き者に出会うと迂闊に自称もできなくなりますな」

 

星は穂先を下げて、やれやれと肩をすくめる。構えも何もない、本当の隙だらけの様子。しかし関羽は切り込まない。いや、関雲長という人間性が切り込ませない。勝つならば真正面から堂々と。己が満足できねば勝負の意味がない。そんな意志が関羽の足を縫い付ける。

 

「初見で完全に躱されたのは片手で数えるほどしかありません。貴方の名乗りに不満を上げるものは無いでしょう」

 

「そう言っていただけるのは幸いです・・・が、やはり言葉ではなく結果が欲しい者でしてな」

 

言いながらわずかに穂先を上げる。星の最も得意とする突きの構え。それだけでパリッと音がするほど空気が張り詰める。

 

「趙子龍、いざ参る」

 

「関雲長、いざ」

 

ここからが本番と言うように、互いに名乗る。関羽も半身になって偃月刀を低く構える。二人の空気がどんどん張りつめていく。

 

ゴクリ

 

唾を飲み込んだのは風だろうか。その嚥下が済むまでに星は動いていた。自らが放てる最高の突き。踏み込んだ足から腰へ上る力を、上半身の捻りで最速の上段突きへと余すことなく変化させる。常人には残像を捉えることのできない一手。

 

キンッ

 

しかしその一手は関羽に届く前に、甲高い音と共に弾かれる。突きに合わせた関羽の捲り上げの一撃。星の槍を弾き飛ばしたそれは、返す刀で星の首に吸い寄せられるように迫る。

 

「えっ・・・」

 

「ほぅ」

 

間の抜けた声と感心するような声。前者は関羽、後者は李文のものだった。関羽が振りぬいた偃月刀が、いつの間にか星の手に握られている。李文と星の手合せで、星に対して李文が使った、攻撃をかわしつつ武器を奪う動きを関羽に対してやって見せたのだ。結果、星は関羽の偃月刀を握り、関羽は地に尻をつけている。

 

「私の勝ちですな」

 

フフンと胸を張って宣言をする星。その手に握る偃月刀の刃は関羽の首にぴたりと合わせられている。

 

「仕方ありませんね・・・」

 

関羽が肩を竦め、両手を上げる。と、おもむろに偃月刀の刃の少し柄側、棒の部分を握りしめる。

 

「せいっ」

 

そのままギュンと手首を回転させる。手首の回転に合わせ偃月刀も回転し、刃が関羽の頬を傷つける。

 

「おおぅ」

 

反対側では回転についていけなかった星が地面にひっくりかえっていた。

 

「私の勝ちですね」

 

先ほどと同じ言葉。違うのは声色か。よくよく見れば偃月刀は首に合わせるのではなく、ギリギリ手が届くかどうかの位置に構えられている。とっさに手を伸ばしてもすぐにひっこめられた後、一撃をもらうことになるだろう。

 

「そこまで、勝者関羽殿」

 

そこで李文の宣言が下った。緊張していた空気が緩み、見ていた者達からあれは卑怯じゃないかとヤジが飛ぶ。星も面白くなさそうな顔をしている。

 

「二人ともお疲れさん・・・、と、やかましいぞお前ら。星が関羽の武器を奪った段階ではまだ勝負はついてなかっただろうが。それを勝った気になって油断して負けただけだ。身内びいきは勝手だが、甘やかした将に命を懸けるのはお前らだぞ」

 

李文の一括が広場に響くと、飛んでいたヤジも静かになった。まだ納得のいっていないものもいるようだが仕方ない。ともに戦場へ出れば時期に納得するだろう。

 

「星、お前も不貞腐れてないで、己の失敗を次に生かすように努めるんだな。さて、雲長殿。武人としての腕は見せてもらった。あとはうちの軍師達を納得させてくれ。風、郭嘉頼んだ」

 

「はいはい〜、ではちゃっちゃとやってしまいましょうか。早速ですが雲長さん、雲長さんは今星ちゃん・・・、趙子龍の不意を打つ形で下しましたが、あれについてどう思いますか?」

 

「・・・武人としてはあるまじき行為。しかし同等以上の相手を下すには正面から打ち合っていては被害が増えるばかりです。なれば汚名を被ってでも勝たねばならぬと思ったまでです。

 

「しかしそれに納得のいかなかった星ちゃんやおにーさんが貴女を認めないとは思わなかったのですか?」

 

「そうであれば別の軍に向かうのみです。私の目的は民を救うことであって名を売ることではありません。たとえ私が反吐に塗れようと、それで救われる民がいるのならば、私は喜んで塗れましょう」

 

「ですがそれでもしまた放浪の身となれば、貴女が救える人は減ってしまったのでは?」

 

風と関羽のやり取りに、郭嘉が混じる。そこに敵意はなく、戦力足るかを見極める鋭利な眼差しのみが存在していた。

 

「悔しいだろう?あと一歩で敗れるというのは」

 

そんな三人のやり取りを横目に星に声をかける。すでに服についた土も払い、いつもの飄々とした立ち姿に戻っている。

 

「悔しいとも。詰まらん一手で決してしまった自分が許せん」

 

「あの一手を詰まらんと言ってしまうのが悪いところだな。戦術的には詰まらなかろうが、魂を込めた一手というものがある。それは武においても変わらぬ。その一手が打て、その一手を見ることが出来るものがきっと頂点に行き着くことが出来るのだと思うよ」

 

「周りにその一手が見えなければどうしようもあるまい。現に雲長殿にあまりいい視線は向いていないぞ」

 

「そこで問われるのが我が軍の将器というところだろう。大衆の前で敗れた趙子龍が彼女を認めるかどうかで変わってくる」

 

「・・・おぬし、嫌な奴だと言われないか?」

 

愉快なほど不愉快そうな顔で言ってくるのでついつい笑ってしまう。

 

「嫌と言うほど言われてきたさ」

 

ばしばしと星の肩を叩くと、お返しとばかりに脇腹に頂肘を入れてくる。手加減はされていても痛い。ついうめき声をあげてしまう。

 

「お楽しみのところ申し訳ありませんねー、雲長さんへの質問が終わりましたよー」

 

風の声に顔を上げれば、皆の視線が集まっていた。こほん、と咳払いをしつつ、結果を告げるよう促す。

 

「武の腕は上等、頭の回転も悪くなく、多少頑固なところはありますが、類稀な才を持っていると思われます。程仲徳の名において、関雲長の起用を進言します」

 

「同じく郭奉孝も進言いたします」

 

うむ、と一声答える。

 

「雲長殿、これからよろしく頼む」

 

賊討伐まであとわずか。ここにきて心強い仲間が増えた日であった。

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あとがき

大変遅くなってすみません。もはや覚えている人はいるのかどうか・・・。

それもこれも久々にいじったMTGやドミニオン、ハトクラのせいだ!

はい、真面目な話、関羽の設定がつけ難かったんですよね。頭悪いわけでもなく、でも見下す悪癖なんかは持ってるという。ちなみにボツになった中には闇塩売買している関羽さんや、足を折られる楽進さんがいたりしました。むう、凪の出番をもっと増やしたい。

 

これからもボチボチ頑張りますので見捨てないでください!ではでは

 

説明
大変お待たせしました。武道伝11話になります。
関羽との出会いはいかなるものか?それではお楽しみください。
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コメント
あ、もちろん頑張って完結目指します(笑)(やはから)
>>月牙さん ありがとうございます。ちみちみ書いてはいたんですが、関羽というキャラが上手く掴めなくて・・・。ブッチはしないって決めてるので、いなくなるなら宣言はしていくつもりです。(やはから)
エタっちゃったかなと思ってました。無事更新されて何より。関羽がどう絡んでいくか期待してます。後、性は関となってますが、正しくは姓だと思います(月牙)
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