IS〜歪みの世界の物語〜
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10.製作

 

「シグくん?お届け物が来ましたよ〜」

 

 放課後。部屋に戻って結羽と世間話をしていると、山田先生の声が聞こえた。

 送り物?何かあったかな?と、思わず首を傾げる。

 

「ありがとうございます、先生。そこに置いててください。」

「は〜い」

 

 俺たちと同じ年頃の女の子のような返事と同時に扉の先からガシャッと重そうな音が聞こえた。……山田先生よく持てたな。

 

扉を開けて、結構大きな段ボールを持ち上げる。

 普通に大人を二人くらい持ち上げているんじゃないかと思うほどの重さ。………本当に、山田先生よく持てたな。

 見ると……今日の昼に楯無に頼んだはずの機械の部品が入っている。

 覗きこんだ結羽が「わぁ……!」と感嘆の声を漏らした。

 

「何の機械が入っているのですか?」

「いや、正しくは機械の部品だな」

 

結羽の質問に答えながら時計を見る。時間は5時だから……まだまだ時間はあるな。

さっそくドアを開けて段ボールを持ち上げる。

 

「それじゃ、ちょっと出かけてくるな」

「一緒にご飯は食べれませんか……?」

 

 何故そこで親を失った子犬のような目になる。

 

「………7時には戻る」

 

 パァァッと目を輝かせた結羽を見て、安心してから今度こそ部屋から出る。

 もちろん、行き先はIS学園で機械を扱うことができる場所――――整備室だ。

 

 

 

 

 

「よし、さっそく作りますか!」

 

普段見せないような笑顔でそう言ってみる。

 人少ないけど居るので、あまり大きな声は出していない。

 ………キャラが変わっている?いいんだ。こういう時はノリだ、ノリ。

 

さっそく段ボール箱を開けると小さな機械の部品が箱いっぱいに敷き詰められていた。

ついでに説明書もあり、2、3枚目を通すと、IS関連の機械ばかりのようだった。おそらく、楯無が作る物を聞いたから、選んでくれたのだろう。

 

「………ま、正直俺の要件は大変な作業じゃないんだけどな」

 

楯無を騙したような心境になり、苦笑が漏れる。

機械の部品を持ち、元の世界で軍人をしていた時のように、想像通りの形に仕上げる。

一つの部品をとり、分解し、組み立てる。

 元の世界で、俺が研究していた通りに部品を最初から作り上げていった。

 その行動に迷いは無く、機械のような淡々とした動きで形ができていく。

 

 十数分くらいだろうか?小さなペンダントが完成した。

 ペンダントには綺麗な親指ほどの大きさの水晶つけられている。

 

 もちろん、つけられている水晶はただの飾りではなく、内部に機械が埋め込まれている。内部を見れるように開ける事ができ、その中には複雑に入り組んだ機械と、球体が入るような穴がある。

その穴は「魔法石」を入れるための物であり、機械は魔法石の効果を強め、自動で効果を発揮させれる、シグの腰についた「機械魔法」とほぼ一緒の仕組みになっていた。

 

「………とはいっても、このままだと意味がない」

 

 機械魔法と同じような原理だから、魔法を発動することができても、肝心のシールドエネルギー出せるわけではない。ついでに、魔法であんな高等技術を補えるものがあるかと言われればもちろんない。

 

なら、どうするか。

 

―――――もう一つの、武器を使う。

 この世界には無くて、俺が持っている技術―――『((特殊技|スキルブレイク))』を。

 

楯無に小刀を使った実験を見せた時のように、ペンダントに魔法をかける。

 ………ただ、他人に詠唱を聞かれてはマズイので、魔法陣を書く。

 口で言うか、地面に書くかの違いだから、別に問題は無い。

 

(……首にかけないと使えない。シ−ルドエネルギーの消費は水晶中にある魔力のみ。“絶対防御”の効果を薄める………。)

 

魔力を送り、ペンダントに((特殊技|スキルブレイク))の代償とその見返りを頭の中に浮かべる。

もちろん、魔法で変わりが効かないほどの物だから、代償もかなり使わないと成り立たない。

 

 

 けれど、作り始めて数十分。シグの目的である、シールドエネルギーを使える物質は完成した。

 

「ふぅ……。さて、本番はこれからだな。」

 

 大量に余った機械の部品を見る。

 これを使って、もう一つ「ある物」をつくらないといけないのだ。

 

 期限はセシリア戦―――――翌週までだ。

 あまり時間は無い。

 

 

「………っと、その前に結羽と飯か」

 

 一度作業を中断して、自室に向かう。

 ………余裕に見える?気のせいだ。

 

 

 

 

 

 その日からシグは連日、整備室にこもる。

 シールドエネルギーを簡単に代用したシグでも、時間を削って作りたいもの。時間がかかる……いや、できる限り良い物にしたいから。

 

 ………まぁ、何というか、さすがに連日も行けば、気にしなくても気づくこともあるわけで………

 

「…………誰?」

「────――――」

 

俺を見ているであろう背後の人に対して声をかける。

連日、俺を興味深く見てくる人は居たが、その人だけは毎日見に来ている。さすがに、楯無か誰かの見張りかと怪しむ。

 

背後にいたのは眼鏡をかけた、水色髪のセミロングの女子だった。リボンの色から一年生、同学年だ。

………?

誰かに似てる気がするが……気のせいか?

 

「……ここ、君が使っていた場所?」

「え、あ……。……………(コクン)」

 

 作業用の机とかに隠れ、人目にはつきにくい場所。そんなところだから選んだけど……彼女もそうならば、早く出ていってほしいという願いこみで俺を見ていたのだろうか?

 

よし、さっさと隅に移動しよう。それでも見てくるなら、楯無からの監視者とみなして問答無用で拘束しよう。

…………いやまぁ、別に楯無なら知られても構わないけど。

 

 そう心で思いながら荷物をまとめ、他の場所に移動し(クイッ)

 …………ん?

 

「………あ、あの………待って」

 

 水色髪の少女が、立ち去ろうとしていた俺の袖を掴んでいた。

 

「どうした?」

「……何を作ろうとしてるの?」

「そんなことを聞いて、どうするんだ?」

 

 即座にそう返すと、その少女は言葉に詰まったようにビクッと体が動く。

 その反応に、何か裏でもあるのかと、警戒心を強める。

 

 …………けれど。彼女は逃げるわけでもなく、口を開くわけでもなく。

 

「―――――」

 

 水色髪の少女は、何かを展開した。

 一瞬、ISを出したのかと思ったけど……………違う。

 これは……未完成?

 しかも、武器や一部の装甲ではない。IS全体が、未完成なのだ。

 

「………私と同じ」

「え……?」

「私と同じ、武器や装甲を修復しているようには見えなかったから……」

「……だから、話しかけてくれたのか」

 

 たしかに、俺は武器を作ろうとしている物も、武器や装甲の修復ではない。そんな人が……ましてや、自分以外にもそんな人が居たことが気になったとかそういう理由かな?

 話しかけた理由は納得したとして、それとは別に疑問点が一つ。

 

「これ、君の専用機?」

「…………(コクン)」

「なら、何で最後まで作られていないんだ?」

「……………………………」

 

 ……触れてはいけない事だったのか、少女の表情が暗くなる。

 

「あ、あ〜……えっとだな、俺が作ろうとしてるの、何かわかるか?」

 

 話をそらすために、作りかけの機械を彼女に見せる。

 別に悪い子ってわけでもなさそうだし、教えても問題ないだろう。

 

「………IS……?でも……」

「でも?」

「ちょっと、私と違う……。私はコアと、機械や武器の相性とか、バランスの調整とかだけど……何作っているの?」

「……ははっ。なるほど」

 

 彼女の分析を聞いて、少し笑ってしまう。少女は馬鹿にされたと思ったのか、少しむっとした表情を見せる。

 けど、それならまったくの誤解だ。むしろ、感心していた。

 

「………ISだよ。作ろうとしているのは

――――けど、俺はコア作りから始めているけどね」

「え………?」

 

 少女が驚いた顔をする。

正直、隼人に専用機が来ないとわかった時から考えていた。これが成功すれば代表生とも互角に戦えるし、一夏とも同等の力を得る事ができる。

 

ちなみに、この世界でISの『コア』を作るのができるのは篠ノ之箒の姉、篠ノ之束しかいないらしい。知識の無い俺が同じ物を作ろうとするとまず何十年もかかるだろうし生きている間には作れない可能性が高い。

ならどうするか?

 

答えは単純、同じ物を作らなければよい。

自分だけのオリジナルを、作ればいい。

 

だからと言って隼人が受けとってくれる可能性はないわけないし、何より必ず完成できる保証もない。

 

「ま、オリジナルを作るつもりだから、正確にはISに似た何かになるかもしれないけど」

「そ、そんな事できるはずが───」

「できる」

 

 彼女の言葉を遮るように、シグは言った。

しっかり、相手の顔を見ながら断言する。

 

「どんな世界でも『絶対』なんて存在しない。どんな事でも必ず可能性はある。

そんな俺が、それを証明してみせる。」

「────」

「それじゃ君も頑張ってね」

 

同学年の女子に笑顔を向けて、隅に荷物を移動させる。再び、頭の中で設計図を組み立て始める。

 

 

 

 

「…………」

 

シグに話しかけた女子はまだその場から動いていなかった。

 

「………どんな事でも………必ず」

 

数秒立ち止まった後すぐに自分が作る物の作業にとりかかった。

彼女が作りだそうとしているのはISだった。

シグと同じコアを作るのではなく、ISの武器や細かな調整を完成させる事。けれど、コアを作るのでは無いにしても研究者でない彼女にとってはかなり困難な行動ともいえる。

 

回りから見てもおかしな事をしていると思う人もいるだろう。わざわざ一人で作ろうなんて、面倒な真似をするなんてことを。

 

そんな彼女が、シグの言った言葉で支えができたように感じとれた。

シグが何を作るのかを聞いて、同類がいる。と思った。

 

「絶対に………お姉ちゃんみたいに」

 

彼女──更識簪はそう呟いた。

 姉である、更識楯無に追いつくために。

 

「…………?」

 

ふと、自分の傍に見慣れないものが落ちていた。

 見た目は……チョークに似ている。けれど、白い粉が出るようなことも、手についたりもしない。

 

「……あの人の?」

 

 さっきまでここにいたんだし、可能性は高い。

 そう思った簪は考えるよりも先に、チョークを持って立ち上がる。

 

「………………」

 

 目当ての人の姿を見つけると同時に、簪は自分の資料を広げている場所へ戻る。

 別に、彼女は照れたわけでも、気が変わったわけではない。

 再びシグの所へ行ったとき、簪は自身が持ってきていた参考書を、いくつか手に抱えていた。

 

 少しでも助けになったらいいな……。と、そんな期待を胸に抱かせながら。

 

 

 

 

「──“世界で決められし世の理

それらを覆す力を、我が力を生贄に我に授けよ

我が死神の名において力の代償と見返りを求めん──”」

 

 魔法を自分が作ったコアにかけると同時に力が抜けていくのを感じた。

 無論、筋肉が脱力しているわけではなく、魔力と言う名の力を根こそぎ取られたのだ。

 

「………〜〜!さすがに、けっこう疲れるなぁ……」

 

 目の前にある「特殊技」をつける魔法をかけた機械を見ながら、シグは大きく息を吐く。

 とりあえず、自分用のペンダントの時とは違い、細かく条件を指定して、規模が大きい分魔力が大きく引かれた。

 とはいえ、それのおかげでISのコアとしての設計はほぼ完璧にできた。

 「魔力石」を動力にしていて『武器を具現化する』『空を飛ぶ』『シールドエネルギー』『その他の細かい設定』の四種類の機能に1個ずつ、魔法石を埋め込むことによって機能する。

 予備のためもう二つの魔法石をいれるので、最大6個の魔法石を食うISになっている。動力的には、おそらく他のISと変わらないだろう。

 他の必要な能力はさっきの「特殊技」でちょちょいとしたから、コアに関しては問題ない。

 

「………………問題は、ここからなんだけどなぁ」

 

 ………何が問題かと?

 それはもちろん、武器の制作や装甲づくり、さっき出会った少女と同じ、コアとの相性確認やバランス……言い出したらキリがない。

 そしてもう一つ。締切と言う名の決闘が、二日後なのだ。正直、間に合いそうにない。

 

「はぁ………」

 

 ため息を吐いて、その場に寝転がる。

 魔力は生命エネルギー。つまり、体も疲労するのだ。少しくらい休んでもいいだ……………ん?

 

「何してるんだ?」

「…………」

 

 さっきの水色の少女が立っていたので話しかける。

 すると、彼女は手に本と、白い何かを持っていて……って、あ。

 

「これ……あなたの?」

「ああ。拾ってくれて、ありがとうな」

 

 後で探そうと思っていた、魔法陣を書くための道具を彼女から受け取ろうとする。

 ……すると、一緒に本まで渡された。しかも、ISの制作関連のを。

 

「…………これ、いる?」

 

 遠慮がちに尋ねる少女。

 正直、知識をあまり持ってない俺としてはとても助かる品物だった。

 

「ありがとう。本当に助かる!」

「…………まだ、他にもあるから」

 

 ……これは、困ったら行ってもいいと解釈してもよいのだろうか?

 しかし……それではなんか、貰ってばかりで申し訳ないというか……。

 

「……なぁ、もしよかったら、一緒に作業しないか?」

「――――!?」

 

 驚いた顔をしてくださった。

 ………そんなに変なこと言ったか?少し傷ついた……。

 

「ほ、ほら。本とか貸し借りで行くのも少し手間だし、機械や武器の事は詳しいからさ」

「……ISの知識もないのに?」

「軍人やっていたからな。正直、少しは詳しい自信はある」

「軍人?」

「そう、軍人」

 

 信じてもらえるかはともかく、腰にある「機械魔法」や、「魔法石」も元の世界で俺が作り出したものだから、知識さえあれば物づくりには負けない自信がある。

 俺の顔を見て、どう思ったのかは、さすがにわかるわけがない。

 

 

――――けど、承諾するように、彼女は笑顔を見せてくれた。

 

 

 残り時間は少ない。

 けど、頼もしい味方ができて、不思議と自信とやる気が出てきた。

 

説明
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