IS〜歪みの世界の物語〜
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11.隼人VS

 

「………………くそっ」

 

 決戦当日。隼人は控え室で小さく悪態をついた。

 自分の専用機が無いなんていう、小さな問題ではない。元々、自分の兄、一夏が専用機を受け取るのは予想していた。

無くて当たり前。そう思えば、今さら気にする必要なんかない。

 

問題は、今日戦う組み合わせの結果だった。

 参加者が4人もあり、授業の事もある。そのため、トーナメント戦を行い、勝った人が優勝。すなわち、クラス代表になる。

 そして、そのトーナメントの対戦が問題だった。

 

『  一回戦目 織斑隼人VSセシリア・オルコット

   二回戦目 織斑一夏VSシグ・シリオン     』

 

 物語通りだと、セシリアは兄と戦って恋に落ちる。しかし、この試合表だと、隼人とシグが負けない限り、そんなルートは現れない。

 自分はいい。けど、もう一人の、この世界でいないはずの無い人間が、簡単に負けるとは思えなかった。

 

「大丈夫か、隼人?」

 

 刻々と対戦時間が迫る中、思考に没頭していた隼人は、誰かの声によって現実に戻ってきた。

 シグ・シリオン。水色の髪を揺らしながら、こちらに向かってくる。

 

「それで……何か頼みたそうな顔してるな」

「…………バレた?」

「そんなに思い詰まった顔をされたら、誰でも分かる。

――――そして、内容は、一夏との試合をわざと負ける事、じゃないか?」

「はは………頭が良いな、シグは」

「合っているならなら話は速い。

 俺は、あいつに価値を譲る気はサラサラないぞ」

 

 お願いしようとしていたことに先手を打たれ、拒否までされた。まだ、小説で書かれている部分の少ししか始まっていないのに、詰みに近い状況になっている気がして、内心動揺の騒ぎではなくなっている。

 

 そう心に余裕がないからこそ、隼人はシグの違った雰囲気に気が付かない。

 

「……なぁ、隼人。お前はそこまでしてお前の前世で書かれた小説通りに事を進めたいのか?」

「じゃなきゃ、ここまで悩んでないですよ……」

「なら、隼人。お前はなんで小説通りに進めたいんだ?」

「……兄さんに、幸せになってほしいから」

 

 ふーん。と、曖昧に頷くシグを、隼人は睨むように見る。

 どうせ「生まれ変わっただけっで、ほとんど無関係だろ?幸せにする必要なんか……」そんな感じの質問をしてくるだろう。

 

 

 そうじゃないんだ。

 僕が、兄さんを……一夏を幸せにしたいのは、そんな簡単ない理由じゃない。

 

 幸せにしたいのは、心の底から思っている。

 生まれ変わった?元々無関係?俺には関係ない?

 そんな、単純な理由で、一夏を幸せにしたいなんて言っていない。

 あいつは……兄さんは………僕にとって……!

 

「お前はどうなんだ?」

「……………え?」

「だから、隼人。お前は、幸せなのか?」

「―――――――――」

 

 シグが言った問いに、隼人は思考回路が停止してしまう。

 幸せ?

 自分が?

 何で、シグはそんなことを……?

 

「………別に、そんなのどうだって」

「――――――よくないから言ってるんだ。この大馬鹿」

「関係ないだろ、そんなこと!僕はただ兄さんに幸せであってほし」

「弟が幸せじゃないのに、あいつは自分が幸せだと胸を張るような奴か!?」

「……………っ!!」

 

 シグが急に雰囲気を変え、怒鳴り声をあげた。

 けど隼人は……それ以上に、シグの言葉に、何も言えなくなる。

 

「関係ない?兄さんを幸せにする?ふざけたことばっかり言うな、隼人!お前は良くても、  一夏はどう思う?織斑教師はどう思う?周りの人間はどう思う!?

 いいか、自分を痛めつけて、苦しい方向ばかりに行って、他人を幸せにしたつもりでも、そんなのただの自己満足だ!他の奴らは―――少なくとも、一夏は幸せだなんて言わないぞ!」

「……………っ」

「お前は第二の人生を与えられたんだろ!?もっとフル活用して生きろ!一夏を幸せにしたいなら、お前も幸せになれ!

 一夏が……幸せにした奴がそのことを知ったら、そいつが一番悲しむんだぞ!」

「し、シグ……?」

 

 さすがに、隼人も違和感を感じ取った。

 シグの瞳は、言葉は、隼人に向けているようで、別の人に向けていっているようだった。

 悲しそうに、恨むように。

 

 自分に、言い聞かせるように。

 

 

「…………悪い。熱くなった」

 

 ばつの悪そうな顔をして、シグが大人しくなる。

 大人しく帰る……と思いきや、ポケットに手を突っ込み、僕に向けて何かを投げた。

 反射的に、空中に放り投げられた「それ」を掴む。

 黒色のネックレス。けど、触った瞬間に、これがただのネックレスではないことに気づく。

 

「……力が居るなら、それを使え。少なくとも、そこら辺の物よりかは使えるだろうからな」

 

 そう言って、今度こそシグは控え室を出た。

 隼人は、ネックレスを持ったまま椅子に座りこむ。

 

 シグの言う「力」。

 それを、ジッと見る。

 

 ……僕は、どうすればいいんだろうか?

 世界を、変えるべき?

 兄さんを差し置いて、幸せになるべき……?

 

 

 

「良いのではないか?」

 

 突然、隣から老人の声がした。

 その声に驚いた隼人は飛び上がる。

――――そして、その声のした方を見ると同時に、隼人は絶句した。

 

「神………様?」

 

 死んだ自分を、この世界へ転生させてくれた大恩人が、そこにはいた。

 

「何を迷っておる」

 

 呆れたような、幼い息子を見ているような目で神様が僕を見る。

 そのせいで、すっかり挨拶の言葉も吹き飛んでしまった。

 

「この世界はお主の世界にあった空想世界を完全にコピーしたもの。ほぼ完璧に同じことが起こるこの世界で、お主がどう動こうが構わんといったはずじゃぞ?」

「そうですけど……だからこそ、この先、起こる通りに物語を進めて――」

 

 

「それが、もう無理じゃと言ったら、お主はどうする?」

「………………………え?」

「儂がここに来たのも、これを伝えるためなのじゃ。いいか、隼人。よく聞け。

――――もう、この世界は、お主が知っている事が起こるとは限らなくなっておる」

「………な……んで………?」

 

 少し、困ったような顔をして、神は口を開く。

 神から聞かされる真実。

 それを聞く隼人は、ひどく青ざめていく。

 

「よく考えろ、隼人。お主の、もう一度の人生じゃ。お主の好きにするがよい。昔のお前は、この世界ではもう関係ない。

 けど、この世界で、お主は幸せを掴んでもよいというのを忘れるな。

 お主が、望んでいたことをやれ」

 

 伝えることが目的といった言葉通り、姿が薄くなっていき、まるで元々何もなかったかのように消えていった。

 カチコチと時計の音だけが聞こえる。

 神様が言ったことが、頭の中で繰り返される。

 

「………………は、はははは」

 

 笑う。

 笑うしかない。

 神が言ったことは、隼人にとって最悪の結果以外何でもない。

 

 

「………………関係ない」

 

 自身に言い聞かせるように、呟く。

 目的は変わらない。

 一夏を幸せにする。

 一夏を守る。

 

『お主がやりたいことをやれ』

『弟が幸せじゃないのに、あいつは自分が幸せだと胸を張るような奴か!?』

 

 声が、頭の中で響く。

 好き勝手に言ってくれる。自分が決めたことを、決意したことを否定する。

 

 ………なら、従うよ。それに。

 

 目的は変わらない。

 けど……物語には従わない。物語と言う力を借りず、『自分の力で』兄さんを幸せにする。

 友達は……シグは、そのための『力』を貸してくれた。

 

 もう、迷わない。

 どうせうまくいくとは限らないなら、自分で未来を築き上げる!

 

「さて………勝ちますか!」

 

 パァン!と右手で、左手の手の平を殴り、高い音を響かせる。

 そうして、隼人はISを纏う。

 控え室に置かれた訓練機ではなく、シグが作った隼人の専用機を。

 

 

 

 

 ザワザワ。と、アリーナを入ってすぐに観客席が騒ぎ始める。

 その原因を知っている隼人は、まるでそれらの声が聞こえてないかのように無視をして、目の前の敵――セシリア・オルコットに声をかける。

 

「それじゃあ、さっそく始めましょう?」

「………っ。あなた、どこで専用機を……!?」

「どこでもいいじゃないですか。それとも、訓練機じゃないと勝てる気がしないのですか?」

 

 質問を軽く受け流し、挑発を送る。

 すると、セシリアは専用機の出現の事がどうでもよくなったかのように銃を構えた。

 隼人は遠くで先生方が居る場所―――正しくは、姉である、千冬を見た。

 彼女は、弟の目線に気づき、深くため息を吐いた。直後、後ろを向いて何か指示を出す。

 

ビビ――――――ッ!!

 

 試合開始の鐘が鳴る。

 いきなり専用機が登場したのにも関わらず、すぐに鳴ったのは姉さんが上手く言ってくれたからだろう。

 心の中で姉に感謝を送り、目の前の敵に全神経を集中させる。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

「チャンス?」

「ええ。わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。今謝るのなら――」

「いらないよ。むしろ、セシリアさんこそ大丈夫?代表候補生が、入学して間もなく負けてしまうなんてこと、問題ないの?」

 

 いつもの、優しげな笑みで隼人は挑発を投げかける。

 その言葉を聞いたセシリアは、激怒はせずに、目を笑みに細める。

 

「ええ、大丈夫ですわよ、隼人さん。

それなら、さっそくですが―――お別れですわね!」

 

 セシリアの持つ銃から閃光が放たれる。

 扱いに慣れてない隼人なら、普通は食らうはずだが……。

 

「ここは……物語通りか!」

 

 閃光が接触するよりも先に、自身のISを右に滑らせる。

 滑らかかつ素早い動きは、余裕で閃光を避けた。

 

「さぁ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

 射撃の雨が、隼人に向かって降り注ぐ。

 それに負けないように、声を大きく、自分の相棒の名を叫ぶ。

 

「行くぞ、『月影』!」

 

 右に大きく円を描くように避け、左にセシリアの周りを一周するようにグルリと回る。

 右に、左に、上に、下に。

 セシリアの的確な射撃と、ブルー・ティアーズの四基の自立起動兵器の攻撃を避け続ける。

 

「あ、当たらないですって!?」

 

 セシリアの驚きの声が聞こえる。

 それは当然だろう。自分の銃撃が一度も掠らないのだから。その性能に、実は隼人ですらも舌を巻いていた。

 

(けど、武器なしでは叩けない……!)

 

 ダメージ覚悟で装備一覧を見ようとした瞬間。まるでISが思考を呼んでくれたかのように、武器が手元で展開された。

 大人の身長の半分ほどの大きさの片手剣と、ハンドガン。大きな塗装はなく、シンプルな武器が手元に収まる。

 ハンドガンをセシリアに向けて撃つ。

 しかし、さすがに相手は代表候補生。楽々と避けられてしまう。

 

(そう簡単には、いかないよね……!)

 

 

 隼人の口元が、にやりと笑う。

 

 

 

「………本当に、シグさんがアレを作ったんですね」

「まあな。ところで結羽、友達の所に行かなくてもいいのか?」

「はい。ここに居た方が楽しいですから」

「それで、ネタ晴らしは何なの、シグ君?」

「……ISを作った事か、今の隼人の状況か、どっちだ?」

「両方……って言いたいけど、お姉さんは隼人君の状況が知りたいな〜」

 

 一夏の戦闘に興味津々の結羽から目をそらし、隣に居た楯無を見る。

 ちなみに、俺が隼人に『月影』を渡しに行った後には、楽しそうに談話をしていた二人が居た。詳しくは知らないが、結羽と楯無の二人は仲良くなったという事でいいだろう。

 

「今、あの銃撃を避けているのって、二人の腕以外にも何かあるでしょ?いくらISの性能が良くても、少しも当たらないのはおかしいわよ」

「まぁな。それに関しては、半分当たりってことで」

「半分?」

 

 シグの返答に興味をひかれたのか、楯無がシグの顔を覗きこむ。

 シグは楯無を無視して隼人を……『月影』を見ていた。

 

「大部分は隼人の力さ。さすがに、そこまで補助してやる気は俺にはない。けど、あの機体には俺が作ったAIが入っている」

「AIって……自立型コンピューターシステム?」

「ああ。隼人の戦闘に合わせて、細かい微調整を行っているんだ。あいつは気づいていないだろうけど、銃撃が当たらないように少し機体を進ませたり、止まったりさせているはずだからな」

 

 もちろん、必ず避けさせるシステムも作れなくもないが、初心者ならまだしも、俺や楯無のレベルになると、それが邪魔になることもある。

 攻撃を避けられるシステムと言えば聞こえがいいが、自分で避けて、その後に反撃したり、次のために後ろに下がる……そんな行動ができない場所に避けてしまったりすると、元も子もない。簡単に言うと、自分の考えで戦闘ができないのだ。

 だからこその、微調整であり、AIなのだ。隼人が何をしたいのかを感じ、避けたいならば隼人の行動を尊重したまま攻撃を避け、攻撃したいなら邪魔にならない程度に良いポイントへと持って行く。

 もちろん、微調整だから隼人自身が上手く行動しないと無意味なのだが、そこは今後の訓練で身につくだろう。実際、微調整が入っていると言っても、攻撃を全て避けているのだから。

 

「それに、あの機体については、俺もよくわからないんだ」

「………どういう事?」

「『月影』に入っているAIは、隼人の戦闘を記憶し、隼人がより最高の動きができるように計算している」

「だから?」

「ま、見ていなって」

「あ………っ!」

 

 シグが促した直後、結羽の小さな悲鳴が聞こえた。

 見ると、『月影』の装甲が細かな部品となって飛んでいた。

 

 

 

 

 

「………くっ!」

 

 右肩の装甲が吹っ飛び、冷や汗が流れる。

 全て避けるつもりだったが、さすがに無理があったようだ。……けど!

 

「食らえ!!」

 

 隼人はハンドガンで牽制をしつつ、片手剣を手にセシリアの元に近づいていた。

 近くに行けばいくほど、距離が縮まって攻撃が当たりやすい。そのせいで、さっきの攻撃と、今もう一つ、右足につけられていた装甲が吹き飛んだ。

 同時に、もうすぐ目の前にセシリアの姿が見える。

 銃での牽制を止めないまま、片手剣を大きく振りかぶる。

 

 だが、セシリアは特に慌てた様子もなく真上に上昇し、その斬撃は軽々と避けられた。

 失敗を悟ると同時に、大きく左へ動く。セシリアも隙を見逃さずに売ってきたが、素早い気転のおかげで装甲が一つ犠牲になった程度で済む。

 

「どうやら、その機体の推進力は、横だけ速いようですわね」

 

 フフン。と、余裕そうな笑みを浮かべるセシリア。

 セシリアの言うとおり、この機体は横に動くのならば速いが、前後に動く動きが速くない。

 スラスターが横向きにつけられていて、細かく動けば敵の攻撃も避けれるが、進むのが遅ければ当たりそうにない。

 カニのように横向きになれば問題は無いだろうけど、横のまま目的地につけたとしても、まともな攻撃ができそうにない。

 

 ならば、持久戦に持ち込む? いやいや。それでは面白くない。

 ……それに、何となく。本当に、核心なんかないけれど。―――機体が、「行け」と言っている気がする。

「信じろ」と。「大丈夫だ」と、言っている気がする。

 

「………今っ!」

 

 もう一度、隙を見て突進する。

 

「馬鹿正直に突進することしか、頭にないのかしら?」

 

 馬鹿にするかのように、セシリアが僕を見る。

 腕を振ってビットを操作し、四つのビットを自身の近くに。

―――そして、隼人に向けて一斉発射する。

 

 今度は、さっきよりも的確に、しかも動きを予測するかのように銃が撃たれる。

 再び装甲が、そして、装甲が無くなった場所に銃が撃たれる。レーザーのため、直接当たった所が、焼けるように痛む。

 けど、それでも隼人は突進を止めない。

 

「これで終わりですわね」

 

 ビットの射撃を止め、わざわざ持っている狙撃銃を構えた。

 距離が近すぎる。今、下手に避けてもそこを狙われるし、早すぎてもすぐに撃たれる。

 引き金を引いた瞬間に避けるなんて高度な技術は無い。

 セシリアは装甲がはだけた場所を狙うだろう。そうしたら、「絶対防御」が発動し、負けになるだろう。

 

 それでも、突進を止めない。

 隼人は、信じていた。

 機体を……シグが作った、『月影』を。

 この機体の声を。

 

 目の前が光る。銃先から、レーザーが発射されたのだろう。

 不思議と、怖いとか、負けたとかいう気持ちは無い。

 

 隼人はそのまま、「全身が」光に包まれた。

 

 

 

 

「は、隼人君……!」

 

 結羽が大きく目を開いてアリーナを見ている。

 結羽だけではない。アリーナ中のみんなが、勝負はついたと思っているだろう。

 

「まだ……でしょ?シグ君」

 

 隣で、楯無が悪戯っぽく微笑んでいる。

 

「まだ試合の鐘は鳴っていないでしょ?それに、シグ君、全然余裕な表情だしね」

「………相変わらず鋭いな」

 

 確かに、俺も終わったとは思っていない。

 むしろ、ここからだ。

 逆転できる可能性なんて、いくらでもある。

 

「さて……隼人。お前の力を見せてくれ」

 

 楽しそうにシグの口元が上がる。

 

――――――その瞬間。セシリアの傍にあったビットが一機壊された。

 

 

 

 

 

「な、なんで……!?」

 

 セシリアの驚愕した声が耳に届く。

 それを聞きながら、片手剣でもう一機ほどビットを破壊した。

 

「一次移行……完了!」

 

 小説で書かれた兄と同じように、ピンチの中で機体が進化した。

 引き飛ばされた装甲は元通りに戻り、それどころか凹凸がなく滑らかな線を描いている。

 

 頭の中に情報が広がる。

 進化した、『月影』の情報が。

 

 もちろん、装甲が回復しても、機体に積まれたシールドエネルギーが回復することは無い。

 進化したとはいえ、状況はよくない。

 ……でも、負ける気がしない!

 

「くっ……!」

 

 さすがに、懐まで迫られたことに焦りを感じたのか、セシリアが距離をとる。

 もちろん、隼人はそれを見逃さない。

 

「―――――月影!」

 

 機体の名前を呼ぶと同時に、腰の後ろで何かが動く。その感覚がなくなった直後に、前方へ進んだ。

 その速度は、最初のようにゆっくりではなく、むしろ、一次移行をする前の、横に移動する速さよりも勝る速度で。

 急な速度の上昇に、さすがの代表候補生も反応できず、隼人はセシリアの胴を切り払う。

 

「……っ!舐めないでくださる!?」

「おっと!」

 

 セシリアが後ろを向きながら、銃を乱射する。

 隼人は無理に追撃に入らず、一度そのまま真っ直ぐに進み、十分に距離をとる。

 

「月影!」

 

 再び機体の名前をコールすると同時に、腰の後ろで動く感触がする。

 その感触が終わった直後、今までと同じように、横に大きく移動して銃撃を避ける。

 

 月影のモードチェンジ『特攻型』と『錯乱型』。

 『錯乱型』は、左右につけられた推進力を使って大きく動き回り、敵を翻弄する。

もう一つは、横に移動するのに特化した推進力を全て前方に移動する速度に回す、文字通りの特攻型。

 隼人が知らないが、月影が隼人の戦闘を読み取って作り出した、二つのモードだった。

 

 大きく旋回して、再び特攻型に変換し、突撃を仕掛ける。

 素早い速度でセシリアに向かう中、相手は慌てて撃つようなマネはせず、ビットを自分の近くに集めた。その数、4基。さっき2基破壊したのに、数が戻っている。

 

「生憎、ブルーティアーズは6基あってよ!」

 

 セシリアの号令と共に、四基のビットが一斉に射撃を開始した。

 2つは今まで通りレーザーを。

 もう2つはレーザーではなく――――ミサイルを。

 

 2種類4つの弾が隼人に向かって襲いかかる。

 猛スピードで突進しているため、今からよけようとしても――仮に横に移動できたとしても、ビームは避けられてもミサイルは避けられない。

ミサイルが爆発を起こし、隼人の辺りが煙で覆われる。

 周りからの悲鳴と歓声の声が響き、セシリア自身も、銃を下げ、煙を見下したように見る。

 

 だが、終了の鐘が鳴らない違和感にセシリアが気づいたと同時に

―――隼人が煙の中から現れた。

 

「……!?何で……っ!!?」

「はぁぁぁぁ!!」

 

 隼人の叫びと共に、セシリアの胴に二度目の一閃が通る。

 もう一撃は入れず、ミサイルを発射するビットを片手剣で一機、ハンドガンで一機撃墜する。

 

「何で……何でまだ生きているのですか!!?」

 

 セシリアは叫びながら、持っている大型の狙撃銃を隼人に向けて撃つ。

 ほとんど距離は無く、回避は不可能。だが、隼人はその攻撃を読んでいたかのように、ビームが来る射線上に片手剣を滑り込ませる。

 そして、片手剣がビームに触れた途端――――まるで、鏡に反射された光のように、残った2基のうちの1つのビットにめがけて、鋭くに軌道を変えた。

 セシリアが次の行動に移す前に、ハンドガンで最後のビットを破壊し、そのままセシリアの前まで隼人は突進する。

 

 セシリアに残された武器は、手元にある狙撃銃のみ。

 しかも、懐までに来られた以上、ほとんど役目は果たせれない。

 

 

 

 

「………勝負あり、だな」

 

 シグが笑みを浮かべながら呟く。

 そして、数秒後。セシリアのシールドエネルギーが無くなり、ようやく終了の鐘が鳴った。

 

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