紫閃の軌跡
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〜ノルド高原 北部〜

 

グエンの方も準備は整い、移動しようとしたところ、どうやらグエンの所有している運搬車の方も調子が些か悪いようであったため、グエンが誰かの後ろに乗る形で同行を申し出、特に断る理由もない上、今は集落の運搬車を直す方が先決でもあることからそうすることにしたのだが、アリサの機嫌は『不機嫌』と言う他なかった。

 

「むぅ………」

「あ、あの、アリサさん?」

「何で、アスベルの後ろなのよ……余計なこと吹き込んでるんじゃないでしょうね……?」

「その、手綱に集中してください……」

 

同乗しているエマですら引き気味になるほどのアリサ……それは、グエンが乗っている馬と言うのは、アスベルが手綱を握っている馬であったのだ。身内の事からして何かしら吹き込むであろうことは紛れもないであろう、と……そのアスベルの方はと言うと…

 

「そういえば、シャロンちゃんは元気かね?お前さんたちの寮で働き始めたと聞いたが。」

「そちらもご存知でしたか。相変わらずの有能っぷりを発揮していますけれど。」

「有能というのは勿論じゃが、それ以上に可愛いじゃろ〜?慎ましくて可憐で、それでいて悪戯っぽい立ち振る舞い……く〜っ、ワシの専属メイドとしてこちらに来てほしいくらいじゃ!」

「解ってはいたことですが、相変わらずぶれませんね……」

 

アスベルとグエンの関わりは四年前。知り合いであるラッセル博士を訪ねるためにツァイスに滞在していたことがあり、その折に知己になった。その悠々自適っぷりには流石の友人でもあるラッセル博士すら引き気味であったのだが。

 

「贅沢は言わんから、シャロンちゃんではなくサクヤちゃんでも良かったんじゃがのう。シャロンちゃん以上のナイスバディーに、メイドとしての完璧な立ち振る舞い。それでいてどこか腹黒そうに見えて清純なあの性格……まさにワシ好みじゃな!!」

「………ここで力説することじゃないでしょうに。というか、面識あったんですね。(恐らくはアリサの手紙で知ったのかもしれないな)」

 

ここで出てきた『サクヤ』と言う人物。実は、五年前……シャロンが買い物の帰りに拾ってきた記憶喪失の女性……というか、見た目十代後半ぐらいの少女であったのだが。そこで、ラインフォルト家のメイド兼副会長秘書としてイリーナが雇った経歴を持っている。彼女の身元を示すものは彼女の左薬指にはめられていたシンプルな指輪であり、裏側には二人分のイニシャルが彫られていたのだが、他には身元を示すようなものがなかったのだ。

 

記憶どころか自らの名前すら思い出せない……本来ならば教会や遊撃士協会に預けるのが筋なのだろうが、シャロンが『私がメイドの心得をお教えいたします』という気まぐれと、忙しかった副会長の健康管理の観点から、彼女を雇うことにしたそうだ。

 

「ふむ、しかしあのエマちゃんも超ないすばでーで眼鏡っ子じゃし、とてもええの〜。しかも成績優秀な委員長とはまあに死角ナシじゃな!ステラちゃんのほうも美人のようじゃし、あの立ち振る舞いやスタイルも申し分ない。リーゼロッテちゃんも隠してはおるが、ナイスバディーに違いないだろうし、あの純真さの雰囲気は貴重な属性じゃな。お前さんもそう思うじゃろう!?」

「感性的には否定できなくはないですけれど……あの、グエンさん。どうしてアリサにその所在を教えなかったんですか?」

 

何と言うか『解りやすい』グエンに冷や汗をかきつつも、アスベルは気になったことを尋ねた。知己になった時はアリサのことをきちんと認識していなかったのでそういったことはしていなかったのだが……流石に五年という期間、その間も自分の詳しい所在を教えなかったことは疑問に思っていた。

 

「ふむ……なあ、アスベル君。お前さんから見たアリサはどんな子だと思う?」

「そうですね……いい意味で言えば、『努力家』だと思います。」

「ああ、そうじゃな。見ての通り器量良しじゃし、貴族の子女にも負けぬ振る舞いや教養を身につけておるじゃろ?無理をしているわけではなくて。」

 

身分だけで言えば平民、資産だけで言えば大貴族並……おまけに平民と貴族両方の(ある程度の)信頼を得ている……そんな環境で育ってきたからこそ、アリサは今の自分を形成しているものだけでなく、色んなことにも積極的に挑戦しているのだ。

 

「それは認めます。それが彼女の強さだということも……ですが、」

「人に頼らず何でも一人で解決しようとする……そんなところがあるじゃろ?」

「義理堅くて、人には親切で。でも、自分の事は人に頼らず全て一人で抱え込もうとする……あまり、人の事を言えた立場じゃありませんけれど。その理由も凡そ察しはつきますよ。」

 

悪く言えば『独りよがり』……自分もその性分があるので、アリサのことを強く言えた立場でないことに苦笑を浮かべるが。

 

「おそらくはお前さんの考えている通りだが、あの子のそんな性分はワシと娘の仲が原因なんじゃろう。すなわち祖父と母親の対立が。ワシが所在を告げなかったのもそのあたりが原因でな……だがまあ、これ以上ワシの口から言うわけにはいかん。」

「後はアリサ本人から聞けって言うことですか……ま、そうなりますよね。」

 

グエンの言い分も尤もであったため、これ以上の追及はしないと決めた。その代り、グエンの口から突拍子もないことが放たれた。

 

「そういえば、曾孫はいつの予定かのう?」

「いきなりそれですか。恐らくはシャロンさんですか?」

「いや、娘からの連絡でな。その前はシャロンちゃんじゃろうが。」

 

……意外な人物。いや、ある意味想定されていたであろう人物の名にアスベルはため息を吐きたくなった。嫌であるとかそういう次元ではなく……いくらなんでも気が早過ぎると思うのは自分だけなのであろうかとアスベルは思う。

 

「ワシの孫を“女”にしたそうじゃからのう。お前さんは既に二人もいるから、それに劣らぬかと思ってな。で、その感想は?」

「恥ずかしいことを何で言わなきゃいけないんですか。」

「お前さんはもう“身内確定”なわけだから、容赦は」

「お祖父様、いい加減にしてください!!」

「アリサ、ナイスインターセプト。」

 

……アリサの助けがなかったら、言わされるまで問い続けていたグエンの様相が目に浮かぶので、正直に感謝です。そこで、アスベルは遠くの方から感じる視線を察し、気配を掴み取る……どうやら、先月の時に見かけた人物がこちらに気付いて見下ろしているようだ。……彼女がそこにいるその背後で指示をしているのは“かの人物”。……今回は逃す方向として、そのまま馬を走らせていった。流石にグエンが乗っているのでそういうことも出来ないのだが。一応、後で釘は刺しておきました。……物理的にやったわけじゃないですからね。念のために言っておきますが。

 

その後、運搬車はグエンの手により無事に直り、彼とノートンを歓迎する宴会が開かれる運びとなった。

 

「いや〜、グエン殿には本当にお世話になりっぱなしだわい。それでは、まず一献。」

「おっとっと。それじゃあ返杯を、と。ほれほれラカン殿もガンガン行くがいいじゃろ。」

「ええ、遠慮なく。」

 

そうやって楽しそうに酒を飲み交わす三人を遠目に見詰めているリィン達男性メンバー……というのは違って、実際にはアスベルはその席にいない。最初の方はいて、料理に舌鼓を打っていたのだが……それにまだ気付いていないリィン達であった。

 

「いや〜、何というか驚いたね。あのグエン・ラインフォルトがこんな場所で暮らしてたなんて。」

「やっぱりその筋では有名な人なんですよね?」

「そりゃあ、導力革命を受けてラインフォルトをあそこまで巨大なグループにした立役者だからね。娘さんが会長を継いでからはさらに巨大になったけど。」

 

導力革命による流れを感じ取り、そこからラインフォルト社を大企業に成長させた立役者。帝国史においてもグエン・ラインフォルトの存在は大きく、屈強な帝国軍を形作ったのも彼の影響が大きいのは事実であった。

 

「ラインフォルトと言えば、昔は火薬を使った銃や大砲を手がける武器工房というイメージだったが……いつの間にか、鉄道や導力兵器を大々的に手がけていたような印象だな。」

「ああ、貴族の人にとったらそんな感覚かもしれないですね。実際、ラインフォルトは帝国だけじゃなく大陸諸国でも手広く販路を拡大している……その意味では、帝国では珍しい“国際人”ともいえるかもしれない。」

「なるほど………」

「物知りとは思ったが、そこまでの人物だったとは……」

 

広大な領土を持つ帝国での需要は凄まじいほどだ。それだけでなく、大陸諸国においてもその販路拡大を積極的にこなしている“国際人”。だが、グエンが突如会長職を辞したのかについては市井に知らされていない。一説には健康問題も囁かれているようだが……少なくとも、今のグエンを見ている人にはとてもそうは思えない。

 

「……あれ?アスベルの姿が見当たらないけれど……」

「いえ、私も今言われて……ステラさん?」

「あ、ちょっと食べ過ぎたみたいで……風にあたってきますね。」

「……んん??」

 

一方、集落の女性たちと楽しく会話をしながら食事をしていた女性メンバーだったが、アリサはアスベルがこの住居にいないことに気づき、エマに尋ねるも解らないということを述べると……ふと、ステラが物思いにふけた様な面持ちでいることに気付くも、当の本人ははぐらかすように答え、住居を後にした。これには、料理を堪能していたリーゼロッテも首を傾げた。

 

「……アリサさん、エマさん。」

「そうね。……私はアスベルを探してくるわ。ステラのほうは任せてもいい?」

「解りました。」

 

ステラの方も気にかかるのだが、流石に二つ同時にこなすのは無理であると諦め、エマたちにステラのほうをお願いすると、アリサは外に出ていった。

 

(ステラにアリサ?………二人とも、何かあったのか?)

(その、何だかちょっと風に当たりたいって……リィンさん、できればステラさんのほうについてあげてくれませんか?)

(もしかしたら何か悩みがあるかもしれませんし……誰かが聞いてあげた方がいいと思います。)

(それは構わないが……って、どうして委員長やリーゼロッテじゃなくて俺なんだ?)

(そこはほら、適材適所というやつですよ。)

(ええ、そうですね。)

(意味がわからないんだが……けどまあ、行ってくるよ。)

 

そしてリィンもアリサの後を追うかのような形で住居を出た。

 

 

〜ノルドの集落〜

 

高原を吹く優しい風……靡く広大な草原。風によって擦れる草の音が心地よく感じる。あの場に居なかった一人の人物―――アスベルは、交易所のそばの柵に身を預けるように手を付き、目を閉じて視覚以外の五感を通して高原の雰囲気を感じていた。すると、聞こえてくるのは足音……そして、その気配を感じてアスベルは振り向かずにその人物の名を発する。

 

「……―――心配させたみたいだな、アリサ。」

「ええ、まったくよ。……まぁ、貴方の事だからそんなに心配はしていなかったけれど。」

「褒めているようには聞こえないんだが……ま、誰にも言わずに勝手にいなくなったことには謝るよ。……ふらついているみたいだし、どこかゆっくり座れる場所に移動したほうがいいかな。」

「べ、別にちょっとぼうっとしてるだけで……少し風に当たればどうってこと―――きゃっ。」

 

アスベルの言ったことに対して否定しようとするも、その言葉が的中したかのように突如ふらつき、転ばない様にアスベルがアリサに近付き、彼女を支えた。

 

「ご、ごめんなさい。」

「無理もない話だけれどな。一日中馬に乗って広大な距離を駆けたんだ。……よっと。」

「ちょ、ちょっとアスベル!?あ、歩けるから……!?」

「はいはい、大人しくしてましょうね。ア・リ・サ・?」

「あ、うん……(この感じ、まるでエステルみたいね………)」

 

ともあれ、休める場所に移動したほうがいいと思い、アリサをお姫様抱っこするアスベル。アリサは問題ないと反論したかったのだが、笑みを浮かべて有無を言わさぬかのように強い口調を放つアスベルに対して、反論することも出来ず、彼の知り合いであるエステルに似たような雰囲気を感じていた。そうして広い草原がある場所にアリサを降ろし、アスベルはその隣に腰かけた。

 

静かに満天の星空を見つめていた二人……アリサが口を開いた。

 

「アスベル。初めての特別実習で私が言っていた『士官学院の目的』……覚えてる?」

「ああ。『自立』……だったか。」

 

自らの両親や祖父……ラインフォルト家の人間として、その後継者の一人であるアリサ。一人の企業人として大成するにも『自立』することは必要なのだが……彼女の場合、それは違っていた。

 

「アスベルには以前話したけれど……私には何故お祖父様がラインフォルトを去ったのか解らない。会長職を辞したとしても、ある程度のポストは与えるつもりだったって父様が言っていた。けれども、お祖父様はそれをすべて断って、そのままラインフォルトを去ってしまった。」

 

『列車砲』の件があったとはいえ、ラインフォルトの功績者であることは誰の目から見ても明らか。無論、副会長でありアリサの父親であるバッツ・ラインフォルトはグエンに対する最大限の便器を計らうつもりだったのだが、グエン当人はそれを断って去っていった。当時のアリサからすれば『何故』という疑問で一杯だったのだろう。

 

「私は無力と言う他なかった……でも、その中で私は出会ったの。私よりも少し年上なのに、考えが大人びているのに無理はしていなくて……そんな人に。私は、羨ましかった。」

「(………ん?)」

「そんな人みたいな人間になりたい……尤も、目の当たりにすると音を上げちゃいそうで必死になるの……負けたくはない。追いつきたい……でも、正直追いつけるのか不安になっちゃって。」

 

自分の身内が去ってしまったことに、無力であったアリサ。その後、アリサが出会った人物は彼女にとっての『目標』となっていた。だが、その目標は大きく……いざ目の当たりにすると挫けそうになる……アリサのその言葉に、アスベルはアリサの頭を撫でた。

 

「え……」

「誰だって挫けたり、苦しんだり、悲しんだりすることはある。現に俺だってその一人だよ。大切なのは、その経験を以て自分がどうしたいのか、じゃないのか?」

「自分が、どうしたいのか……」

 

呆けるアリサを横目に見ながら、アスベルは意を決したように自らの事を話し始める。

 

「アリサには初めて話すことなんだが……“転生”って知ってるか?」

「確か、生まれ変わるってことよね?」

「ああ。で、俺はその“転生”によってこの世界に生まれたのさ。以前自分がいた場所の記憶を引き継ぐ形で。」

「えっ………」

 

“転生”と言う概念がこの世界には一応存在するのだが、その前例は未だに無いようだ。あくまでも“同じ世界上での転生”という条件は付くのだが。

 

「生まれ変わる前の俺は……物心つかない頃に両親を亡くしている。偶然にも親族が引き取ってくれて、平和な生活はおくれていた。……不慮の事故によって、以前の俺は死に……生まれ変わってここにいる。」

「………」

 

いきなり住む世界が変われば、その過程で戸惑ったり混乱するのは無理もない話だ。法律の諸々や宗教の概念すらまるっきり変わり、それに付いていけずにリタイアなんて話もないわけではない。

 

「過ぎたことに対して悔やむつもりはない。大切なのは……その経験を経たうえで、自分自身がどう前に進んでいくべきなのか、ってことだと思う。」

「……ホント、強いわよね。」

「散々学習させられたからな。身に染みるってこういうことだと思ったよ。でも、アリサだって十分に強いと思うけれどな。普通だったら拒否されそうなものを受け入れるだけの強さを持っているんだから。」

 

世の中の物事は綺麗ごとばかりではない。それを解っていたとしても、汚いことに対して嫌悪感を抱く人だっていて当たり前だ。千差万別という言葉の最たる存在が人間とも言えるのだから。その意味では、自分のそういった側面を受け入れたアリサも『強い』と言えるだろう。

 

「それはまぁ、実家が実家だからね。それに……『パートナー』のそういった所を受け入れる器量の広さも、大切なことだと思うの。ゆくゆくは貴方の『妻』としてね。……『目標』の貴方には負けたくないから。」

「薄々は感じていたが、やっぱりか……俺の様な人間は目標というのは、う〜ん……複雑だなぁ。嬉しいことには変わりないけれど。」

 

彼女の祖父や母親の事は、追々解決していく問題なのだろう……今すぐでなくとも、いずれは……

 

「絶対に追いついて見せるんだから……覚悟してよね?」

「解った。俺も楽しみにしているよ。」

 

………まぁ、その後でキスはしました。それ以上は流石に……ともあれ、他のメンバーのところに戻ろうとしたところ、アスベルが気になる二人を見つけ、アリサが首を傾げた。

 

「アスベル?」

「……気になる二人を発見。気配を殺して近づこう。」

 

こっそり遮音の結界を張って近づいていく二人……その先にいる二人とは、リィンとステラであった。

 

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結構間が空きました。

単純にリアル事情(仕事)で更新の暇がなかったためです。おのれブルブラン(ぇ

 

やっぱり知っていたグエン。そして、シャロンとイリーナ。

それもう最低限とかじゃなくね?とかツッコミはいりそうですが

 

イリーナ「最低限よ」グエン「最低限じゃな」

 

似た者同士なので、こう言いそうですがw

 

そして、“原作”と変わったので、こういう流れになりました。仕方ないね。

 

 

物の試しに『とある方面』の奴を書いたのですが、ものの1時間で挫折しました。

内容は聞かないでください。

 

説明
第56話 自立
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コメント
ジン様 増える前提になってるー!?(ガビーン)あの、言っておきますけれどそう簡単に嫁が増えるのは……リィンとルドガーとロイドだけでいい(マテ(kelvin)
これはシャロンがアスベルの嫁に追加されて新キャラのサクヤがリィンの嫁に追加される感じですかね? 次回の更新楽しみに待っているので頑張ってください応援してます。(ジン)
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閃の軌跡 神様転生要素あり ご都合主義あり オリキャラ多数 

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