宝条透 短編小説【はじまりの日のこと】3
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 気が付けば金曜日だった。

 

 月曜日には入る部活の希望を提出しないといけない訳だから、この辺りで決めておかなくては。

 

 ……あれ、金曜日? と、そこで僕は、思い出すことがあった。

 

 そうだ、今日は待ちに待った少女漫画の発売日。池永恋さんの描く『ときめき*ショートケーキ』5巻の発売日なのだ!

 

 この『ときめき*ショートケーキ』(略してときショ)は、月刊誌で連載しているお菓子屋さんを舞台にした少女漫画だ。

 

 少女漫画が好き、と言うと人からは意外に思われることが多いけれど、姉達の影響もあってか昔から好きでよく読んでいた。

 

 『ときショ』は、主人公のひなこがまたいいんだ、辛いことがあってもめげずに笑顔を忘れないで頑張る健気な姿。そして先輩の作ったショートケーキをもらってときめくシーン……。

 

 前回はライバル店である和菓子屋の息子に告白されたところで終わっていて、今日までずっと続きが気になっていたのだ。

 

 帰りに、本屋さんに寄らないと。

 

 ……ああ、そうだ。せっかくだから次に見学に行く場所はあそこにしよう。

 

 

 そこは、美術部だった。

 

 元々は初等部に漫画部のようなものがあったらしいのだけど、部員の人数の関係で美術部と一緒になったらしい。

 

 ここなら、少女漫画のこと話せる人がいるかもしれない。

 美術室と書かれた扉をトントン、叩き、そっと開く。

 

「失礼しま――」

 

入ると、いきなり怒号が響き渡った。

 

「ありえない!! シュンくんは、誰がどう見ても受けでしょ!? 受けよ、受け!! 絶対!! これだけは譲れないわ!!」

 

「はあ!? 何言ってんの!? 許せない!! どこをどう見たらそうなるの!?」

 

「そもそも、シュンくんは攻めって感じしないじゃない!!」

 

「それはおかしいわ!! 撤回してよ! 少年漫画の主人公をなんでもかんでも受けにする風潮はいただけない!!」

 

 よくわからない単語が飛び交う中、上級生の女の子2人が思いきり喧嘩をしていた。

 

 そんな2人の近くでおろおろしながら見ている女の子が1人。

 

 おそらく美術部の部員であろうその女の子は僕の存在に気が付き、

 

 

「あ、あの、もしかして見学の方ですか?ごめんなさい、今、部長と副部長が喧嘩していて……」

 

「は、はあ……」

 

「普段は仲が良いんですけど、たまにこうしてこじれちゃって……」

 

「そ、そうなんですか」

 

「ねえねえ2人とも、ほら、見学の人だよ。ちょっと話を……」

 

 なだめようとするが、2人の争い(?)はヒートアップしているようで、終わりそうにない。

 

 他の部員はそんな光景は気にせずに、各々が机やキャンパスに向かっていた。

 

 邪魔しないように部室の中を見学させてもらうと、色々な彫刻やコンクール用のイラストなどが飾られていた。どれも素敵な作品ばかりだ。

 

絵を描くっていうのも、楽しそうではあるけれど。

 

 一通り見終わった後、僕は部長達の言い争う声が響く部室から、こっそりと出る。どうも、悪いタイミングで来てしまったようだ。

 

 

 ……さあて、いよいよ決まらない。陽のあたる廊下を歩きながら、僕は桜坂学園の部活表一覧を見つめていた。

 

 今まで見学した部活の中で、どこに入るかを決めよう。ううむ、どうしたものか。そう考えていると、ひらり、とプリントが手からすべって床に落ちた。

 

 僕はそのプリントを拾いながら、その裏側にも部活の一覧の名前があることに気が付く。まだ続きがあったのか。

 

 

「……ん?」

 

 

 そこには見慣れない、アイドル部の文字。

 

 アイドル部?なんだろう、それは。

 

 そうだ、最後にここも覗きに行ってみようか。

 

 ……そこで僕を『面白いこと』が待っていたのは、また別のお話。

説明
桜学園☆初等部の短編小説です。

・公式サイト
http://www.sakutyuu.com/

・作家
小鳩
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タグ
宝条透 桜坂学園☆初等部 

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