鬼の人と血と月と 第7話 「不在」
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第7話 不在

 

 

 

 

 

鬼焚部の全員が、活動の責任も勉学の大変さも忘れ、夏の暑さの中、各々は年相応の学生らしく夏休みを楽しんでいた

しかし時は非情にも、刻々と刻んでゆく

…そんなこんなで夏休みも終わり、魁魅高等学校は2学期を迎えた

ちなみに8月の満月の日にも、活動の待機の為に全員集まったが、珍しい事に、何事もなく平和に1日が過ぎたのであった

 

 

モノクロなセピア色の世界、統司の夢の中…

林の中、木々の間を月明かりが強く照らす

月明かりの下、いつもの小さな巫女の姿

そして巫女の背に広がる空には、とても大きな満月が浮かんでいた

しかし巫女は顔を伏せており、月明かりに照らされた影で、やはり顔がわからない

だが何故か統司には、どうにも懐かしく、温かい気持ちを巫女から感じていた

…しかし今回はいつもと様子が違う、巫女はこの夜の中、たった一人でたたずんでいる

巫女は胸に手を当て、大きく深呼吸をする

その表情はどこか悲しく、寂しげであった

そして巫女は満月の方へ振り返り、顔を上げて空を仰いだ

輝く月明かりに照らされて、巫女の顔が現れる

…その顔は、良く見た事のある、本人としか思えない程良く似た顔付きだった

巫女は先程と違い、とても穏やかな表情であり、笑顔であった

満月へと巫女は両手を掲げる

巫女は笑顔のまま、その目元から一筋の滴が流れ落ちて行く

不気味な二つの気配を巫女は感じていた

心地よく感じる澄んだ空気と、背筋が凍る様な生温かい異様な空気

そして巫女に吸い寄せられる様に、二つの強い風が巫女の周囲に渦を巻いていった…

 

統司は静かに目を覚ました…

視界がぼんやりとし、頬を何かが伝って行った

統司の目には相当な量の涙が浮かび、止めどなく溢れていた

統司は何度も何度も、涙が収まるまで拭い続ける

やがて完全に収まると、夢の事を思い出す

…そう、今まで見る事の出来なかった、小さな巫女の顔

統司はその顔を忘れる事は無かった

…いや、忘れるわけがない

統司は静かに起き上がると、机へと向かった

そして引き出しの一つを引くと、中には写真が1枚、丁寧にフレームに   飾られている

そして統司はそれを取り出すと、黙って眺める

写真の中には、統司と統貴と共に、夢で見た巫女の姿があった

…それは大事な、家族3人揃った写真であった

写っているそれは巫女ではない、…写っていたのは統司の母「癒唯」の姿である

高校の入学式、以前住んでいた家の前で撮った物、3人が笑顔で写っている

「母さん…?」

統司は夢で見た巫女の少女を、母の姿と重ねる様に思い出していた…

 

 

2学期が始まって数日後、9月になり少しずつ秋へと向かっているが、依然蒸し暑く 衣替えは未だに行われていない

夏休みボケや夏バテで、クラスの数名は机の上でダウンしている

統司は窓際の席のままであり、窓からで風が入ってくるものの、その風も蒸しており、ダウンこそしていないが、汗が滲み垂れていた

終了のチャイムが鳴り、統司は藤盛達と共に帰路に着くが…

「あ、そうだ、今日病院に行くんだった、悪い 先に帰ってて」

そう詫びると統司は、汗を垂らしながらも別方向へと向かった…

 

病院と言えど、何度も通っているとすっかり慣れたものである

慣れた様子で受付に行き、しばらく待っているとアナウンスで呼ばれ、指定された診察室へと入る

そして白衣の咲森が椅子に座って待っていた

「久しぶり統司君、夏休みの合宿はどうだった?」

咲森はそう言いながら統司に向かって微笑む

「お久しぶりです、はい 楽しかったです、…特に問題もなかったと思います」

『そう、よかった、…それじゃあ今日もいくつか質問するから、気楽に深く考えずに答えてね』

咲森はそう告げると、統司にいくつか質問をし、統司はそれに答える

「…これで質問は終わり、カウンセリングを続けるわね、…特に変わったことや気になっている事、悩みとかはあるかしら? …いつもの夢の話とか、何かあるかしら?」

咲森の言葉に、統司は少し考える

「そう…ですね、…夢の話なんですけど、前から話してた夢の巫女なんですが、その巫女の顔がこの間の夢で見えたんです、…その巫女の顔なんですが…母にそっくりなんです」

統司が話している間、咲森は適宜なにかにメモをしていたが、統司の最後の一言にペンが止まり聞き返す

「お母さんに似ていた?」

『はい、…でもあれは母さんじゃないって、よく似た誰かだって俺にはそう思えるんです、…いや、きっとそうだと思います』

統司の言葉を聞くと、再びペンを動かし、統司に言葉を返す

「そう、でもなんで?」

『なぜって、そう思う理由ですか?』

統司の言葉に、咲森は統司と向き合い小さく頷く

「えーっと…、わかりません…、でも夢の話だし、母さんに似た顔でも、あんなに背が小さい訳じゃない…からですかね」

統司の答えを聞くと咲森は統司に微笑み、メモをさっと書く

そうしてしばらくカウンセリングを続け、咲森は言う

「さて、カウンセリングはここらへんで終わりね」

そういった後、咲森は机の上にある 統司のカルテや書いたメモなどの資料を見て少し考える

「そうね、来月の診察で問題がなかったら、…もう病院に来なくて大丈夫かな」

『えっと…、つまり?』

咲森の言葉を聞き返すように統司は

「来月で通院終了ってこと」

咲森はそう言いながら微笑むような表情を浮かべる

その様子に統司はふーっと息を吐き、安心したように少し力を抜いた、その 様子は“荷が下りた”様な感じである

「でもまだ油断しちゃだめよ?次の時に良くなってたらの話なんだから」

それを聞いて統司は姿勢を正す

「あ、はい、分かりました」

「くすっ、では無理しないように、また来月ね」

『はい、ありがとうございました』

そう言い統司は軽く会釈し、部屋からゆっくり出る

そして残る咲森は、再び机の上の統司に関する資料を眺め、目を細め妙な顔つきになり呟く

「夢…巫女…鬼…母…、この関係は…?」

咲森は呟いた後、真面目な顔つきのままどこかへと連絡し始めた…

 

その日の夜、統司は夕食時に、向かい合わせに座る父「統貴」へ今日の診察の報告をする

「なぁ父さん、今日の病院にいった結果なんだけど」

『うん?どうした、それで?』

「次、来月の診察で問題がなければ、通院終了だってさ」

それを聞いて統貴の表情が少し明るくなる

「そうかそれは良かった、…良く頑張ったな」

『いや、特に頑張ってないし、まだ来月の診察があるからね、…それより父さんと母さんが引っ越してくれたからだと思う』

そう言う統司の表情は少し気恥ずかしいのか、頬が僅かに照っており、少し顔を背けている

「はは、これ位どうってことないさ、それに転校したとき友達と別れるのは辛かったろうに…」

統貴の神妙な顔つきに反して、統司の顔はケロッとしたものだった

『いやそうでもない、連絡なら今でも取れるし、まぁ顔が見れないのは意外と微妙な気分だけどさ、…今はここに住んでここで生きてるわけだしね』

統司はそう言いながら、学校の友人たちを思い浮かべる、

都会では無かった付き合いの感覚、多少深く入り込んでくる人の関係にはやっと慣れてきたところだが、皆の感情が直に触れる、少し心の暖かさを感じる対人関係に不思議な充実感を感じていた、

それに、両親にはまだ言っていない、まだ秘密となっているだろうこの地域特有の“鬼人”に関する活動、…人の死に繋がる責任に少し前は悩むこともあったが、その責任感と緊張感そして正義を行った達成感、その負荷による成長できるという予感、

転校してからの2つの事で、今では日々が楽しく思えていた

統貴は、統司の元気そうな表情に統貴は微笑む

「…そうか、何にせよそれは良かったよ、…そのこと母さんへ話してやろうな」

…ここ数週間 母さんは仕事で忙しく、話ができなかった、母との会話は久しぶりである

夕食を終え、しばらく時間がたつと統貴はどこかに電話をかける

電話の相手と繋がったようで、相手と話し始める

…そもそも、転校や引っ越しの話を最初に言い始めたのは母である、仕事の関係上、あまり長い間家に留まれず よく海外に行くことになり、統司と触れ合う時間が少なくなったせいか、やや過度ではあるが心配性な節がある、…会えない分出来ることはやってあげようという親心からだろうか

統司本人もそれを幼心ながら感じており、今までなるべく迷惑をかけないようにやってきた、そして転校を決めたのも母が「それで安心できるなら」と、子供ながら考えたことが大きな理由である

やがて、統貴は話し終えたのか、統司を呼び、相手を変わる

「もしもし」

電話の相手は母である「癒唯」であった

「もしもし、ゴメンねしばらく連絡できなくて」

その口調は本当に申し訳ないといった感じであった、やはり心配だったのであろう

「いや大丈夫だよ、それより仕事のほうは大丈夫?」

『子供は親の仕事の心配はしなくていいの!』

「心配位してもいいでしょ」

『まったくこの子は…、でもね、仕事が今一区切りついてね、実はもう少しで終わりそうなの、だからもう少ししたらそっちに帰れそうなの!』

「そうなの?やっとこの家を見に来られるんだね」

『ふふ、そうね、楽しみだわ、たぶん来月頃には日本に帰れるから、やっとあなたの顔が見られるわ』

癒唯のその言葉は本当にうれしそうであり、表情が統司にはその表情が思い浮かぶ

「あ、そうだ話したいことがあるんだ」

『うん、なーに統司?』

「えっと、今日病院に診察しに行ったんだけど、咲森先生が、来月の診察で問題なかったら、通院終了だって」

『そうなの!?…良かったぁ、連絡してない間に悪くなってたらどうしようって、私心配しちゃってたもの、元気そうでなによりだわ』

隠すことなくそういう様子は、癒唯は親バカというのだろう

「はは、じゃあ俺は特に話すこと無いけど、母さんは?」

『私は統司の元気そうな声を聞いただけで十分よ、さーて、ちゃっちゃと仕事終わらせて、早くそっちに行くわよー』

「いやいや仕事は丁寧にやって、頑張りすぎて体壊したら元も子もないし」

『あら、子供に心配されるほど私はヤワじゃないわよ、こう見えてお母さん真面目って言われる位、仕事は丁寧なんだから、それともお母さんに帰って欲しくないとか…』

「いや、そういうわけじゃないよ、母さんも元気そうで良かった、それじゃ楽しみにしてるよ、ここは良いとこだから、母さんも楽しみにしててね」

『ふふ、そうしとく、それじゃあバイバイ』

「うん、またね」

統司がそう告げて少し経つと電話は切れた

やっぱり母さんの声を聞くととても安心する、統司はそう思った

統司はすこし統貴と話すと、自室へと戻って行った…

自室に戻ると写真が出しっぱなしであり、すぐに写真をしまう

統司はベッドに倒れこみ、夢との関係性を少し考える、実際に聞いてみたら…と思ったが、すぐにそれを否定する、いろいろ思うところはあるが、無駄に心配はさせる必要はないだろう

そして時間は過ぎ、統司は眠りにつく…

 

 

…数日後、満月の日

今日は部活の活動日であり、放課後になった後、統司は部室へと向かう…

だが部室は鍵がかかっており、統司は鍵を取りに行こうとしたところで、恵と 遭遇する

恵と共に職員室へ向かい鍵を受け取り、部室へ戻る

部室へと戻ると、部室前に蒼依が待っていた

蒼依は「ごくろうさん」と言うが、「お前も待ってないで鍵取りに来い」と統司はあっさりと返す

部室で少し待っていると、ぱたぱたと走る音が聞こえる

ガラッと扉を開けたのは月雨だった

どうやら鍵を取りに行ったが、先に統司たちが鍵を取りに行ったためすれ違いになってしまった様だ

またしばらくすると、魁魅が部室へとやってきた

週直の当番で遅れた様で、いつものように淡々と説明し、椅子に座る

…今日の活動はこのメンバーだけである

鍵を取りに職員室に行った際、水内がいないため他の顧問を探していた時、金林に会い、

「篠森は、今日休み…風邪だって」

と、口数少なく統司たちに告げた、その時の金林の表情は どこか寂しげであった、いつもキツイ目つきの人であるが、根は優しいのだろう

これを聞いた蒼依は「本当かよ?」と冗談半分に嫌味っぽく言うと、蒼依は月雨に手痛い突っ込みを受ける、ペンを頭に思い切り振りかざされて…

当たった部分は柄の部分であるが、月雨は小柄な外見に反し“鬼の血”は詩月の次に濃いため、満ちた月の影響は相当大きく反映される

今宵は満月となる月雨の力は相当に増幅されているため、小柄な月雨でも攻撃は相当なダメージを与えるのである

また、月雨から「今日は詩月はお休み」と言うことを聞いた

月雨に理由を聞くと、「家の都合で休み」と答えた、蒼依が更に「家の都合って?」と聞くが

「ん?あー…えっと…、………わかんない!」

と答えた、その様子はどこかはぐらかした様であり、より追求すれば何かこぼすかもしれない…が、どこぞの警察や探偵ではないので止めとくことにした

恐らく本当のことを話すと、その事情に関わることのあれやこれやを説明することになり、かなり面倒な話になるのだろう、故に適当な答え方をしたのだろう

統司はそんなことを考えながら、イヤホンから流れる音楽に耳を傾けた

…結果的に今日の活動メンバーは、2年組の4人で活動することになる

それから“時間”がくるまで、しばらく待機する

…だが音楽を聞いていても、統司のやることは窓から外を眺めているだけで、すごく暇を持て余していた

蒼依は暇を有効活用し、携帯ゲームをなりふり構わず行っていた

本来ならば魁魅がすぐに注意し、詩月がさらに釘を刺して、風紀を守っていたが、先輩であるはずの月雨もどこからか出してきたお菓子を広げ、恵を巻き込みガールズトークが起こっている

魁魅は蒼依と月雨の両者ともに注意したが、改善の様子はなく、「やれやれ」とあきらめた様子である

…さて、どうせ暇だし、蒼依のやってるゲームも気になるし、たまには少し規律から外れるとしようか、と統司は蒼依の近くに寄った

 

1時間ほど経つと、先ほどの騒がしさが嘘のように消え、統司と恵は課題を行っていた

蒼依は相変わらずゲームに集中し、月雨はお菓子をつまみながら、ぐでーっと机に寝そべっており、たまに恵に話しかけている

統司は作業のように、イヤホンで音楽を聞きながら課題を行っており、たまに蒼依のゲームの攻略につきあったり、分からないところを恵に聞いたりと、魁魅を除いて部室内で会話が交差している

やがて日が沈み薄暗くなってきたころ、廊下からコツコツと足早な足音が近づいてきた

その音を察すると現在のメンバーは皆 場をあらかた片づけ始める

しかし蒼依はその状況に一人乗り遅れ、水内が扉を開けたのが一瞬早く、ゲーム機をばっちり見られていた

…説教と没収は確定だろうな

 

「…暴走したものが現われた、場所はデパート方面の裏路地だ、現在 被害は報告してくれた少女のみ、怪我はないものの、被害が拡大する前に速やかに準備して向かってくれ」

そう部員に告げると一息入れてまた言い続ける

「…それと、被害者の状況から考えて…北空、今回は相手に最新の注意をしておけ、それから男3人ども、恵をしっかり守ってやること」

皆一様に返事をするが、その指示に疑問を抱いていた

「よし準備はできたか、では活動開始や、お前ら行って来い!」

水内の言葉を聞き、4人は一斉に部室を飛び出す

4人が飛び出したあと、月雨は地図を広げ 指示の準備をしながら水内に聞いた

「水内先生、さっき言ってたことって、一体どういうことなんですか?」

『ああ、それはな…』

水内が言い始めようとしたところで、水内の携帯が鳴り響く

水内はすぐに携帯に応じ少しの間 話し、電話を切る

「どうしたんですか?」

『被害者の少女がこっちに来とるって、…そんでさっきの話やけど、丁度ええ、被害者が来たら教えるわ』

 

…鬼焚部が活動している最中、その上の階のある一室

その部屋は通常 生徒会室として機能している部屋である

真っ暗な部屋の中に一人、椅子に座りながらまだ夕焼けが浮かぶ外を眺めている少女、薄いフレームの四角い眼鏡に後ろで束ねた長髪の姿

暗闇の中の視界が少し慣れ、僅かに見えやすくなるが、顔ははっきりと見えない、そして他にも複数の人影がいることが分かる

大きな体格の青年のような男、細身でスレンダーな物静かな女

薄気味悪い笑みを浮かべる少年、グラマーな体形の女、

小さく縮こまっている少年、引き攣った口の非常に痩せている少女

そして窓際に立ち窓の外を眺めている、丸眼鏡にポニーテールの少女

…それは風邪で休みであるはずの篠森の姿だった

すこし経つと生徒会室の扉を静かに開く音が聞こえる

「やぁやぁお待たせしました」

飄々とした様子の、普遍的な少年が現われる、廊下側の光による逆光で顔は見えないが

「ソンデヨォ、どうなんだァ?」

体格の大きな男が飄々とした少年に問いかける

「いえ、今回は違います、自然におこったものですよ」

少年はそう言い部屋の中心へと歩く

「そういえばツクリちゃん、今日風邪だって言うけど大丈夫?」

グラマーな女が胸を揺らしながらそう言う

「ええ、大丈夫です、確かに風邪でしたが、力の影響でほとんど治めました、ほとんど今じゃ仮病ですね」

にやぁっと篠森は不気味に笑いながら冗談交じりにそう答える

「風邪なんですか、それはいけません、治りかけでも油断せず、すぐに帰って休んだ方がいいですよ」

飄々とした少年がそう言うが

「柄にもないこと言わないでください、気持ちが悪いですよ?」

篠森に冷たい目つきでバッサリと切られた

その様子に数人が不気味に笑う、だがその中で一人違う反応をした者がいる

「あの!…あのぅ、僕も、休んだ方が…良いと、思うんですが…」

その声は縮こまっていた少年だった、

しかし体格の大きな男に「アア?」と一喝されると

「すいませんごめんなさいごめんなさいごめんなさいすいませんでした!」

…と激しく謝りだし、少年は再び縮こまった

周囲の目はゴミを見るような冷やかな視線だったが

「こらこら、あんまり仲間割れしないで下さいよ」

飄々とした少年はそう周りに告げ、周囲の空気がまた変わる

「そうよ、彼も大事な仲間なのよ?そんなに責めないであげて、仲良くシマショ?」

グラマーな女はそう言いながら、縮こまった少年の頭をポンポンとなでる

少年はすこしだけ顔を出し「スミマセン…」とやや涙声でグラマーな女に謝る

グラマーな女は微笑み、再び頭をポンポンとなでる

その様子に、薄気味柄悪い笑みを浮かべていた少年が「全く、どいつも甘ェヨ…」と呟いた

「ほらツクリちゃんも、あまり留まってないで、早くお家に帰ってゆっくり休みなさいナ」

グラマーな女がそう告げると、篠森はため息をつき従う

「…そうですね、では先輩の言うとおりに、私はそろそろ失礼します、…では、少しだけ遊んでから帰りますね」

最後の一言で、篠森は不気味に笑うと、部屋を出ようとする

「…感づかれるなよ?」

静かな声色の、スレンダーな女が篠森に告げる

「心配なさらなくとも大丈夫です、ちょっと脅かすだけですから」

そう篠森は笑いながら告げると、静かにドアが開き、篠森の姿は消える

…廊下を通るその足音は一切なかった

 

一方その頃、鬼焚部の行動メンバーは発見場所についた頃

「ここが発見場所のようだ、散開して対象を探すぞ」

魁魅はそう告げると、先に路地に飛び込む、どうやらいくつかの方向に分かれている様だ

魁魅に続いて蒼依、恵も路地に向かう

路地に入る前に統司は、水内の言葉が気がかりとなっていたが、遅れないようにすぐに路地へと入って行った…

魁魅は足を止めることなく走り続けて探すが、敵の様子は一向に見えない

蒼依は気まぐれに歩いて、音を注意深く聞きとるが、特に気配を感じない、

ふと水内の言葉が気にかかったが、気のせいだとあっさり思考を止める

やがて走る足音が聞こえた蒼依はその音に近づいてゆく、

しかしその主は魁魅であり、二人はぶつかりそうになった

そして恵は探しているうちに、何気なく下に何かが落ちている事に気づく

立ち止りしゃがんで立ち止り、それを拾い上げる

そこに落ちていたものは、破れたような薄い白い布、そしてそのそばを見ると衣服のボタンが落ちていた

恵はそれをみて何かが思いつきそうな気がした、…そしてふと思い出す水内の言葉

やがて恵は二つの事から何かの結論が過ぎる

恵は立ち上がり周囲を見回す、そして再び走りだした

「…きっと私なら大丈夫」と、恵はそんな根拠のない自信を呟きながら…

一方 統司は、一度路地を探したが突き当りにぶつかり、一旦戻っていたところである

そして統司は深呼吸して一息つける、そして再び路地裏に入る

統司は走って探しまわるが一向に見つかる気配がなく、範囲を広げようかと思っていた、

そんなとき、道を曲がったところに突然、立っていた人影にぶつかりそうになる

統司は急激に減速し衝突は免れる

「あっぶね、…大丈夫ですか?」

しかしそこに立っていた人物は

「クスクス…奇遇ですね先輩」

その姿は風邪で休んでいたはずの篠森だった

「ああ、なんだ篠森か…、ってか風邪は大丈夫なのか?」

『ええ、すっかり良くなったので、ちょっと散歩に出ていたところです』

「そっか、でも油断しないで早く家で休めよ?」

『今日は満月ですし、その様子ですと、今日は活動の日のようですね』

「おう、まぁな」

『それでは被害者にならないように、すぐに退散しますか、クスクスクス…』

篠森はまるで他人事のように冗談を言い、その場を立ち去る

「さてと…早く見つけないとな…」

統司はそう言い、再び走りだす

…実は篠森はまだその場におり、立ち止って統司の様子を見ていた

そして統司とは逆の方向から、忍び寄る人影…

篠森はその気配にすでに気づいている様で、ゆっくりと振り向く

その人影の姿は、暴走した少年であった

ケラケラと笑う敵は、すばやい動きで篠森に襲いかかったが…

「…」

敵は篠森の僅か手前で止まった、…いや、凍りついた

篠森の瞳は、眼鏡越しながらも、鋭く凍てついたものであり、何かを訴えかけている様である

「 失 せ ろ 」

言葉ではなく、そんな強烈な意志を敵は本能で感じ取った

敵は少しずつ体を動かすと、逃げるように逆の方向へ走り出した

「先輩方、頑張ってくださいね…クスッ」

篠森はひとり呟くと、歩いてその場を後にした…

 

学校、鬼焚部の部室

廊下前に水内が出て、少し経つと再び部室へ戻る

どうやら被害者の少女が着いたようである

「さっきの話の続きや、さっきの言葉の意味やけどな…ほら、入りや」

そういい、廊下にいる少女に合図をする

出てきた少女は、自分を抱きかかえるように体を押さえていた

その外見は”襲われた”と、人目に分かる状態である

ブラウスはボタンが閉められないように縦に裂けておりスカートもひどく破かれている

「先生、もしかしてさっき言ったことって…」

『せや、こんな状態になったってことは、もしかしたらそういうつもりで、相手を選んで襲いかかってるってことやと思ってな、確証はないからあれだけ言っておいたけども、…まぁ恵なら大丈夫やろ』

少女は先ほどまで微かに震えていたが、やがて落ち着き安心したのか、床にへたっと座りこんだ

「それならそうと言ってくださいよ!早く恵ちゃんに連絡しないと…」

そう言いながら月雨は恵に電話をかける

「あ、もしもし恵ちゃん?ちょっと話しておきたいことがあるんだけど!」

『どうしたんですか先輩?』

「あのね恵ちゃん、今回の暴走した人、もしかしたら、男の子かもしれなくて、女の子だけを狙ってるかも!」

「もしかして先輩、襲われた女の子ってもしかして、服を破かれて危ない目にあったってこと?」

『そうその通り!だから恵ちゃんも誰かと一緒に行動して』

「そう、じゃあ先生が言ってたことって、やっぱりそういうことだったのね」

『もしかして恵ちゃん分かってたの?とにかく気をつけてね!』

そして月雨が電話を切ろうと、携帯から耳を話した時、向こうから短い悲鳴が聞こえた気がした

「え?…もしもし恵ちゃん!?もしもし!」

その様子に水内も怪訝な顔をする

「なんや月雨、どうしたん?」

『…もしかしたら恵ちゃん、襲われちゃったかも…』

その言葉に水内はハッとする

一応注意はしていたものの、今回の状況を考えて死者は出ないと思い、油断しきっていたが

死人が出る出ないの問題以前に、だれかが”傷つく”可能性、被害の拡大を防ぐことを考えていなかったのだ

そのことに気づき、水内は心の中で自己嫌悪するが、表情には出さず すぐに月雨に指示をする

「それならはよ、3人に連絡!被害が拡大する前にすぐに対応や!」

水内の指示を受けると迅速に連絡をする、しかし統司だけはなぜか電話に出なかった…

 

統司は結局また戻り、水内の言葉と嫌な予感を感じ、恵の向かった方向へ向かっていた

そして誰か 女の子の短い悲鳴が聞こえ、より急いで走り向かう

声のした方向にむかうと、統司の嫌な予感はより強く感じる

そして路地の一方から大きな物音が聞こえ、遠ざかるような足音を聞きとる

統司は胸の警鐘を感じながら、急いで向かった…

 

敵の動きは止まり、担ぎ上げられていた恵は人気のない空間に投げられる

「キャアッ!」

恵は鉄柵に衝突し、声を上げる

そして敵は再び恵に近づき、恵の両手を鉄柵に縛った後、両足を縛る

今回の敵はそれなりの意識がある様子である

「くっ、離しなさいよ、…どうしてこんなことをするの!」

恵のその抵抗する様子を見て、気味の悪い笑い声をあげた

「キッヒャヒャヒャヒャヒャーーッヒャッヒャッヒャヒャヒャ!!」

その笑い声に恵の毛が逆立つ

「ドウシテェ?…クソアマガァッ!!ドイツモコイツモ!ドウシテオレヲヒテイスル!!」

突然発狂したと思いきや、おもむろに恵のブラウス襟を掴み、縦に裂いた

「ッキャアアアアアアアアア!!」

思わず恵は大きく悲鳴をあげるが、すぐに敵に口を押さえられる

「ウルセエウルセエウルセエ!!サケブナ クソアマァ!」

口を抑える手は、異常に力が入っており、握りつぶされそうな程であった

恵は小さくコクコクと頷くと、敵は手を離し立ち上がる

非常に部が悪く、一人で解決できない以上、説得するように時間を稼ぐ他なかった

「貴方になにがあったの…?」

出来るだけ優しく問いかけるが、敵にはそんな事は通じないようで、荒立ったままである

「ナニガアッタダア?ヨクソンナコトガイエルナ、アア!?」

しかし敵は右往左往しながら、話し続けた

「アイツラモソウダ!ソウヤッテイツモ、ヒトノキヲヒイテオキナガラ、ス…ス スキダトコクハクシタラ!テノヒラカエシテ、ソンナコトシテナイ、ソンナノシラナイ、…フザケンナ クソアマドモガァアアア!」

恵は何となく状況を理解し、そして心の中で呆れ果てていた

しかし敵は逆上しながらこちらににじり寄ってくる

「クケキキキ…、ダケドモウオワリダ!モウ2ドト サカラエナイヨウニ、ドイツモコイツモコワシテヤル!」

そして敵は恵に掴みかかろうとする…

 

統司は気配を失い、やがて人気のない空間へと出る

辺りはコンクリートに整備された地面に、塗装が剥げて錆びたコンテナや、 工場のような建築物がある

どこかにいないのかと必死に周囲を振り返り辺りの気配を探る

手探りで探していると、足元に何か棒のようなものが落ちている事に気づく

統司はそれを拾い上げる、それは木刀であった、恐らくは恵のものであろう

そして聞こえる恵の悲鳴

相当大きな声をあげたのであろう、問題なく聞こえるということはすぐ近くにいるということだ

統司は再び走り敵と恵を探す、そして蒼依と魁魅も合流し、共に恵を探す

そして暗闇の屋内の中、統司は黒い人影のようなものと奥に見える人影を見つける

「見つけた、そこまでだ!」

統司の声が屋内に響き、そして少し経ち二人も屋内に入り、敵を囲む

敵は統司達の気配を感じると、一番先に入ってきた統司に素早く近づき、統司を蹴り飛ばす

「ッハハハハハハァァァアアアアア!!」

真っ暗な屋内に反響して、声が響き渡る

「オマエラハコイツヲタスケニキタッテカァ?…セイギブリヤガッテ クソドモガァァァァァ!!」

蹴り飛ばされた統司は、壁に頭部を打ちつけてうつぶせに倒れ、立ち上がれそうにない

敵は恵の頭を掴み、再び逆上する

「コイツラハアクマダ!!ヒトノオモイヲフミニジッテヨロコブ!!ヒトノジンセイヲメチャクチャニ カキミダス クソアマドモダ!!」

蒼依と魁魅は敵を倒そうと近付こうとするが、恵が人質となっているため、不用意に近づけない

「オレハナンドモ!コ コクハクシタサ!ダケドコタエハイツモソウダ!ソンナコトシテナイ、ソンナノシラナイ…フザケルナ!!ヒトノキヲヒイテオキナガラ、テノヒラヲカエシヤガッテ!!」

敵は立ち上がり、一旦恵から離れるが、再び恵の傍による

離れた瞬間に蒼いが近付いた為に、距離が少し縮まっていたが、暴走し逆上していた敵は気づいていた様子はなかった

「ケケケ…ダカラコンドハ、オレガカワリニコワシテヤル!オレノココロノヨウニ!!」

そう言い敵は恵の体に触ろうとする…

 

「…ア゙ア゙ン?」

低い地響きのような声が屋内に広がる

その声の主がどこかと探し、蒼依と魁魅は向き合うが、どちらも違う

恵の方も見るが全く同じように疑問を浮かべている

では敵か?そうも思い敵を見るが、敵も予想外の声に挙動不審に辺りを見回している

「あくまだぁ?…テメーは何を言ってる…」

その重低音の声は一方から聞こえてくる、…その方向には倒れている統司がいた

すると統司は、少しずつ体を起き上がらせる

「…告白して振られたからだぁ?…人の思いを踏みにじったからだぁ?」

起き上った統司は自身と恵の木刀を拾い上げるが、まだ顔を伏せている…

響く重低音は強い負の意志を感じる

「思い通りにならないからって、自分の心が折られたからって…」

その声は間違いなく統司の方から聞こえてくるが、初めて聞く声色であり、3人は動揺を隠せない

「…だから傷ついた自分のように、振った女を傷つけてやるだァ…」

そして統司は顔をあげて大きく息を吸い、敵に向かって声を上げる

「そんなのてめぇの只の自己中じゃねぇかああああああああああああ!!」

重低音の大声、屋内に声が反響し、全身がビリビリと痺れる

「てめぇが勝手に勘違いしてただけだ!!なのにてめぇの事を棚に上げて、勝手に妄想膨らませて被害者ぶって!!てめぇのやってることは、クソアマ以下のクソヤローだ!!」

本気でキレている統司の声と気迫に、敵は怯え恵を人質に取る

「ク、クルナ!」

しかし統司の怒りは留まらない

「おっと触れるなよ、もし恵に触れたらただじゃおかねぇから」

そう聞くと敵は、近くに落ちていた金属の太い針を掴み、恵の首に当てた

「コイツノコトガドウナッテモイイノカ!!」

しかし統司は1歩、1歩とにじり寄り歩みを止めない

「…恵が傷ついたならば、その瞬間お前は粛清だ」

今見えている統司の1面に恵はゾクッと恐怖を覚える、彼は本気だと

統司は両手に木刀を握りしめ、少しずつ敵に詰め寄る

その目は光っていそうな程に、鋭い眼差しである

恵の首に当てられている針が小刻みに震える、敵が恐怖を抱いているのだ

その時、恵の携帯が大きな着信音を立てて部屋に鳴り響き、その音で敵はビクッと恵の携帯の方に顔を向ける

どうやら、なにか方法はないかと考えた蒼依の作戦のようで、蒼依の手には携帯が握られ、蒼依を照らすように画面が光っている

それを機に統司は左手に持つ恵の木刀を振り上げると、思い切り敵に向かって投げ付けた

敵は思わず目をつぶって木刀を避け、顔の前に両手をかざす

投げた木刀は敵の耳元をヒュッと通り抜け、鈍い音が響く程、強く壁に衝突した

恵から敵が離れたことを好機に、魁魅は敵を強く払いのけ、敵と恵の間に入ることに成功した、そして魁魅は敵を強く蹴り飛ばし、更に距離をあける

敵は魁身の方を見るが、統司はコンクリートの地面に木刀をたたきつけ、自身に意識を向けさせる

敵との距離は僅か5メートル程であり、さらに距離が縮まっていく

「人の気を引いて…手のひらを返してだ?そんなの相手の言葉を借りた ただの良い訳だ」

敵はやけくそのように統司に飛び掛かったが、今の統司には鬼人と人間の差など関係無い様に、統司は感情のまま思い切り木刀を振り、敵の顔を木刀の先が中心を捉え、敵は吹き飛ぶようにのけぞった

「人生をめちゃくちゃにされた?だから同じように壊す、だァ!?」

怒りのままに統司は倒れる敵に木刀を振り下ろす

「だからって復讐が許されると思ってんのかよ!! 何度も振られた程度でッ!めちゃくちゃになるほどッ!てめぇの人生はそんな弱いものなのか、よッ!」

狂気に浸されているかのように、統司は木刀を振り下ろし続ける

敵の意識はまだまだ残っている様で、飛び掛かろうとしても、統司に足蹴にされて再び床に転ばされる

「…てめぇの人生はそんなとこで終わりじゃねぇだろッ! だけどなッ!てめぇのその自己中な考えのせいでッ! 後の人生が狂っちまうやつの気持ちはどうすんだよてめぇはッ!」

だんだん両手で木刀を振り下ろすようになり、一方的に殴り倒している様な状況となっていた

敵もやがて抵抗する力が弱まり、相当弱っているようだ

そして統司の手は一旦止まり、木刀を敵の顔に突きつけると、敵は「ヒッ」と小さく悲鳴を上げる

「それとさっき、正義ぶってとか言ったな…? 確かにそうだ…が、今のお前よりはるかにマシだ」

統司はそう言い、両手で木刀を、敵の頭に振りかざした…

 

統司は木刀を近くに投げるように置き、敵の様子を調べる

そして冷めた目つきのまま3人の方を見る

「…たぶん大丈夫、気絶してるよ」

その声はいつもの統司の声だった

そして統司は目を閉じ深呼吸すると、目つきも普段と同じになるが、表情は険しいままであり、まだ怒りが残っているようだ

統司は恵の傍に寄る、先ほどの状況から恵はビクッと統司を避けてしまう

「あ、ごめん、…その、今の統司君、ちょっと怖かったから…」

そう統司は聞くと、やや作った表情で、恵に笑いかける

そして統司はおもむろにワイシャツを脱ぎだし、恵はそのことに驚く

「と、統司君どうして!?」

そして脱いだワイシャツを恵に渡し、自身の肌着を、つまむように示す

「いや、そんな格好じゃまずいだろうって、…俺はほら、下に着てるからさ」

そして統司は蒼依たちに言う

「悪い、ちょっと気分悪いから先に帰るわ、済まないけどそいつ運ぶのまかせた」

そう言い統司は一足先に廃屋を後にし、イヤホンを着けて学校へと戻っていった…

残った3人も少し間を開けて学校へと戻る

気絶した少年は、魁魅がファイヤーマンズキャリーで一人で担いでいた

帰路の途中3人は統司の事について話す

「…なあ、たぶんあいつの気に当てられて起きた幻覚か気のせいだと    思うんだけど…、あいつ一瞬だけど炎がまとってなかったか?手先に白っぽいのが…、あ、いや、俺の思い過ごしだな、きっとそう」

蒼依がそう告げているが、遮るように魁魅が口を開く

「いや、俺にも見えた」

そして同様に半袖ワイシャツ姿の恵も答える

「うん、私にもそう見えた、気のせいだと思ってたけど、偶然じゃない…よね?」

『あいつってただの人間だよな?』

蒼依がそう疑問をぶつけると、魁魅が答える

「…ああ、その筈だが…、しかしいくつか気になる点がある」

『気になる点って?』

「ああ、この土地柄の問題なのだが、そもそも長年の間 今の今まで転校生が来なかったのは何故だ?」

『確かに、それは私も昔から不思議に思ってた』

「聞いた話で確かな確証はないのだが、この地域には外部の子供は馴染めない筈なんだ」

『え…それって?』

「つまり統司は俺たち鬼人だってことか?」

しかし魁魅は首を振る

「わからない、そうかもしれないが、俺の聞いた話が間違いかも知れない、  もしかすると鬼人や鬼以外、別の何かだという可能性も出てくる、今すぐには結論は出せない」

『まるで篠森のオカルト話みてぇだな』

「オカルト…ね、私たちの先祖も外部の人にとってはオカルト何だけどね」

恵はそう言いニコッとほほ笑む

 

鬼焚部部室、連絡をしてそれっきりの月雨は、心配で落ち着かないようでありながらも、何もできず、被害者の少女と共にお茶を飲んで待っていた

そして先に戻ってきた、肌着姿の統司が部室に現れる

「おお、帰ってきたか…他の3人はどないしたん」

微妙な顔つきの統司が、疲れた様子で答える

「具合ってか機嫌が悪いので先に帰ってきました、3人もしばらくしたら対象と一緒に戻ってきますよ」

『それで統司君のその格好はどうしたの?』

「あー…北空に説明してもらってください、ちょっと今日はもうしんどいっす…」

そう言い統司は一旦椅子に背持たれて一休みし、その後帰る片付けを始める

やがて対象を背負った魁魅達3人が部室へ帰ってくる

「3人ともお帰りー、それじゃあ…皆お疲れ様ー!」

月雨は帰ってきた3人を歓迎し労いの言葉をかける

「それで、こいつは保健室ですか?」

『うん?そやね、適当にベッドに寝かしときや』

水内の指示に魁魅は応じ、部室から姿を消す

そして月雨は気になっていた統司の格好について恵に聞く

月雨は多少驚きながらも、「無事でよかったと」何度も言っていた

そして被害者の少女は呟いた

「やっぱり、私のせいなんだな…」

しかしその言葉を否定したのは統司であった

「それは違う、君は嫌だったから否定しただけで何も悪くない、問題はあいつが自己中のクソ野郎だっただけさ」

しかし統司の発言は否定された、被害者の少女に…

「あまり彼を悪く言わないで下さい、彼は本当はあんなに悪い人じゃなくて、いつもは優しい人なんです、それを私があんな断り方をしたから…」

その言葉に統司は目を丸くする、そして思わず笑う

「くくくっ…ああゴメン、ちょっと色々思うところがあって…」

そう言い、統司は荷物がまとめ終わったのか、立ち上がってバッグを担ぐ

「それでは先に失礼します、お疲れ様でした」

『おう、お疲れさん、ゆっくり休みや』

水内の言葉を聞いて部室を出ると、統司はイヤホンを着けて帰路につく

そして続けて水内は全員に言う

「ほな活動終了や、お前らもさっさと荷物をまとめて家に帰りいや、…君は落ち着いたらで良いからゆっくりと気を静めてな」

水内の言葉に笑顔を返しながら返答する

「いえ、もう落ち着きました、大丈夫です」

『そうか…、それじゃあ保健室にいるから帰る時は呼んでな?』

そう言い、水内は部室を後にする

やがて皆は荷物をまとめ終え、部室から出る

月雨が部室の鍵のついでに被害者の少女と行くと言うため、後の事は月雨に任せ、3人は帰路に就いた…

 

「…にしても結局水内に聞いてないなー」

そう言うのは蒼依である

「まぁそんなに気にするな、後の話は俺が調べておく、聞いた話も確認を取りたいからな」

『そっか、でもそれにしても、あの火のようなものは何だったろうね』

「いっそのこと本人に聞いてみるとかさ!」

『うーんそれはやめておきたいなぁ…統司君は一応病気持ちみたいだしね」

「あー…忘れてた、そういやそんなこと言ってたな…、じゃあ今のは無しで」

『うん、それがいいよ、特にわからなかったら今日の事は忘れる事にしよ?」

「それはそれでどうかしていると思うが…、まぁ話は俺が調べた結果の後だろう」

そんな話を、転校生として仲間となった統司の秘密を3人で考えてながら各々家へと変える

そこに一人の小さな少女が学校へと走りぬけて行った…

場所は戻り、保健室

保健室で待機していた水内は、玄関からパタパタと足音がするのが聞こえて、廊下に出る

そこに現れたのは、先ほど3人がすれ違った、とても小柄な少女であった

「あ、えっと、かいちゃ…海朗君が暴走して運ばれたって聞いて、私…」

息を荒げながら説明する可憐な少女と打って変わって、実に冷静な様子の水内はあっさり答える

「ああ、その生徒ならここの保健室で寝てるよ、幼馴染かなんかか?」

そう言いながらも保健室のドアを開け、入るように指示する

少女が中に入ると、水内は見張りをするように外に立ち、煙草を一本咥えた

保健室の中、傷だらけの少年の横に、少女が座り見守っている

やがて少年は目が覚める、時間はとうに深夜を回っている

「あ、俺、どうして…っててて!」

『あ、気がついた!?ダメ、まだ傷があるからじっとしてて!』

「なんだ、ミサじゃないか」

『なんだってなによ、心配したんだから…』

そして少しの間無言が続く

「…そうだ、俺また振られて、気分スゲー落ち込んでたから、そのままもっと嫌な気分になって、…ハハハ、本当、自分が嫌になるよ」

『うん…、かいちゃんまた振られたんだね、でもそんなに自分を嫌いにならないで…』

「でもさ、なんだか今スッキリした気分なんだよね、体はスゲェ痛いけど」

『どうして?』

「…夢の事みたいに、もう うっすらとしか覚えてないけど、誰かが俺の悪いとこメチャメチャに言ってくれてさ、なんだかそういう部分も認められてるっていうかさ、その部分も俺が認めなくちゃいけないみたいな、そんな…なんか不思議な気分」

『そう…なんだ』

そして再び沈黙が流れ、少女が口を開いた

「あのね…私、実はかいちゃんのこと…」

 

廊下から外に移った水内は、煙草の一本目を吸い終わり、何気なく呟く

「青春…ってやつだな」

そして再び2本目を加え始めた

 

…暗い山道を慣れた様子で突き進む、帰りのバスの中

統司は窓側の席に座り、相変わらず音楽を聞きながら、頭を窓枠に乗せるように、ボーっと空を眺める

満月が煌々と、空と夜道を照らしている

今日は何時以来か本気で怒りを感じた

そして怒りに身を任せるように行動を起こしてしまった

たまたまなんとかなったが、もしも何かが狂っていればもっと悲惨なことになっていたかもしれない

例えばもう少し探し出すのが遅くて、恵が襲われて…

そこで統司は考えることをやめた、よけいな妄想が働いてしまいかけたから

そんな事を考える事に統司は自己嫌悪する

そして今日の相手や自己嫌悪により怒りがまた込み上げ、イライラしてくる

だから統司は考えずに前向きになろうとする

とりあえず、無心で音楽に耳を傾けながら、空に浮かぶ満月を眺める

…綺麗だ、月も眺めているだけで統司は安らぎを感じた

しかし一時の安らぎを感じている統司には、まだ多くの真実を知らなかった

 

 

 

第7話  終

 

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鬼の人と血と月と 第7話 です。
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