鬼の人と血と月と 最終話 「決戦」
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最終話 血戦

 

 

 

 

 

詩月(しづき)鬼央(きお)・月雨(つきあめ)魃乃(ばつの)・魁魅(かいみ)月芽(つきめ)・北空(きたぞら)恵(めぐみ)・蒼依(あおい)陸聖(りくたか)・篠森(しのもり)月裏(つくり)、そして霧海(きりうみ)統司(とうじ)

鬼焚部の面々は、昼頃には部室に集まっていた

予定の時間にはまだまだ時間があった、しかしいても立っていられず皆は自然と部室へと足を向けていたのだ

…その予定の時間だが、鬼焚部による試合を全て終えた直後、蒼依の携帯に直に連絡が来たのだ

 

「…あ、もしもし?試合お疲れさま、蒼依!」

不意の電話に蒼依は驚いて、つい電話に応答してしまったが、怒り混じりに返答する

「…一体何の用だよ、鬼匣(たかおり)?」

しかし電話の向こう側で話す鬼匣は、変わらぬ調子で返答する

「まぁそんなカリカリしないでよ!だって鬼焚部で連絡先知ってるの、蒼依位なんだからさ、仕方ないじゃない?」

鬼匣の口調に蒼依は舌打ちをするが、鬼匣は構わず話を続ける

「…それで要件なんだけど、鬼焚部の皆にも聞かせて欲しいんだ、今度の決着の予定の事なんだけど…」

蒼依は携帯電話を耳元から外し、通話音量を上げて皆に聞かせる

「…で、準備はいいかい?話すよ?」

『…いいぞ』

「…そうかい、じゃあ言うね?日付は変わらず 来週の上限の月の日、…それで場所なんだけど、神魅町の中心から北東の方角、森の中に地図には無い大きな神社があるんだ、午後3時位から向かう様にしておこうかな?」

必要な情報は全て聞いたと判断して、蒼依は通話音量を下げて耳元に添える

「…そんな感じで!…大丈夫ちゃんと覚えた?…嗚呼、ちなみにこの神社はもうなにも祀ってる気配は無いから、その点暴れて仮に壊したとしても問題は無いからね」

鬼匣の無駄話を中断させるように、蒼依は電話に応答する

「…了解、ちゃんと皆にも聞かせたから心配はいらねぇ、…それじゃあ、わざわざ情報を伝えていただきご足労どうも」

蒼依は乱暴な口調で鬼匣に言い放ち、通話を終える

…そしてその情報は、顧問の3人は陰でしっかり聞いていたのであった

 

…予定時刻まで残り一時間、まだ十分に時間はあるが皆は準備を始める

統司と恵は互いにロッカーから取り出した木刀に気付き、口を開く

「…あれ、恵 木刀変えたのか?前より長いけど」

『うん、少し活動用に合わせたのにしたの、…統司君も変えたんだね』

「嗚呼、俺は前に貰った木刀折っちゃったからね、せっかく片手で振れる長さのにしたんだ」

恵は不意に、互いの持つ木刀を重ね合せ 意気込んだ

「統司君、絶対勝とうね」

『…おう!』

また、魁魅も普段の綿製の指抜きグローブから、レザーグローブへと変えていた、今回は以前より加減をする気が無いのかもしれない

3人は装備を整えていたが、他のメンバーは特に装備を変えている様子は無かった

そして準備と言えば、一人落ち着かない様子の少女が一人いた

「…コホン、えーえー、皆ちょっと聞いて!」

そう声を上げるのは月雨であった

「今回の戦い、私も参戦する事にします!」

その言葉に、2学年部員の4人は「えっ」と声を漏らした

「月雨先輩、力が暴走しやすいから戦闘を控えていたんじゃ…」

恵は心配そうに疑問を問いかける

「チッチッチ…、その点は何とかなりましたのさ!…だから恵ちゃん、それに皆もその心配は要らないんだぜぇ?」

自身気に月雨はわざとらしい口調でそう答える

「…ですが、活動は力だけでなく体力も必要です、それに相手は反撃してくる以上身の危険が付きまといます、…今回は暴走者ではない以上 特にです、…それでも先輩は活動に参加するというのですか…」

魁魅は月雨に対していくつも疑問を投げかけた

…しかし月雨は魁魅に近づき「ていっ!」と言いながら、魁魅の顔に手刀を繰り出した

「…もうっ!月芽っちは生意気だぞ!私は先輩なんだから、後輩はそんな心配しなくていいの!大丈夫ったら大丈夫なの!」

魁魅は手刀した月雨の手を掴み、「ですが…」と心配を吐露する

そしてしつこい魁魅に、月雨は「キーッ」とわざとらしく憤慨する

その背後で、統司は自分のロッカーから何かを取り出し、月雨に近づいた

「…だったら丁度良いです、月雨先輩これ、それに皆の分も」

統司はそう言いながら、耳に付ける型であろう無線を皆に手渡す

「およ?統司君、これどうしたのさ?」

月雨の疑問に、統司は簡単に説明した

…以前、新月の時の活動で、統司が作戦のためにボイスレコーダーを複数調達していた事を活動後に水内は知った

そして水内はそのボイスレコーダーを部の備品にする代わりに、部費から費用を落とし、統司に代金を立て替えていたのである

その際、統司は一つある提案をして、水内はそれを了承したのだ

…それがこの、全員分のヘッドセットタイプの無線である

「…今回、月雨先輩が戦闘に出るんだとしたら、無線の中継は俺がやります」

そう言いながら、統司は準備を続ける

音楽プレイヤーのイヤホンを付けたまま、そのプラグを 複数の端子が刺せる中継器(ジャック)に刺し、更に携帯電話と無線のプラグを差し込んだ

複数のコードが繋がり 絡まりそうな状態であったが、統司はまとめてブレザーの内側に隠し、周りから視認できない様にする

イヤホンの上から無線を付け、ヘッドセットに付いたスイッチを押しながら、統司は声を出す

「『鬼焚部全員に通達、みんな聞こえますか?』」

予想以上に大きな音量で皆は驚くが、すぐに返答をした

統司も調整不足で少し申し訳ないと思ったが、音量調整しつつ すぐに使い方を皆に教える

「連絡をする時は、耳元の横にあるスイッチを押し続けて話して下さい、ちなみにチャンネルはオープンという事なので、…要するに全員に連絡が伝わるってことです、だから誰か一人に連絡はできませんから」

そして統司は一人一人、名前を呼んで再び確認を取る

確認を終えた後 皆は浮足立っていた

詩月は「全く便利な物があるものだ」と感心していた一方、月雨は統司に声をかける

「…でも、統司君良いのかい?これって皆の中心になるって事だよね、そんな大変な事を任せちゃって良いのかい?」

月雨の心配そうな表情に、統司は穏やかに言い返す

「…俺は月雨先輩の言葉を信じます、だから先輩も負けない様、なるべく怪我しないで頑張ってください、出来る限りサポートはしますから」

“信じる”と言う統司の返答に月雨はぴくっと反応する

「…それに、こういう機械に関して使い慣れているのは俺だから、こういうのは俺の役目かなーって」

先程の統司の言葉に心を揺さぶられたのか、月雨は勢いよく統司に体当たりをするように飛びついた

「…ありがとう!統司くーん!やっぱり君は分かってる子だねぇ!」

そして飛びつかれた統司は、その拍子と反動で勢いよくのけ反り ロッカーに後頭部をぶつけ、痛みを悶え堪える、…ついでに言うと飛びつかれた胴にも強く衝撃が来た事で、ロクに呼吸ができなかった

先程までに緊迫した状態から、気の抜けた空気に変わっていると、不意に部室の扉を開く音がした

「…全く、これはどういう状況だ、決戦の前に随分と気楽なものだな、君達は」

棘のある言葉で言い放つ、突然現れたその人物は陽村(ひむら)緋乃女(ひのめ)の姿であった

「ひーちゃん!! 身体はもう大丈夫なの!? どうしてここに?」

思わず声を上げる月雨に、ピクリと眉を動かす陽村

「…ひ、ひーちゃんと呼ぶのは止めろ、変なあだ名を付けるんじゃない」

冷静にそう言い返していたが、その声はどう考えても取り乱していた

陽村は一旦咳払いをし、気を取り直して話し続ける

「…身体の方はもう何ともない、一昨日退院した所でな、…今日 私が部室にやってきたのは…」

そう言った直後 陽村は徐に、床に正座して話し続けた

「…すまないが、この戦いに 私も共に向かわせてくれないか?」

陽村の姿とその言葉に、辺りはしんと静まり返る

「…何故、陽村はそうする」

詩月の短い問いかけに、陽村はまっすぐ詩月を見つめて返答する

「私自身、彼らと共に平和を乱しお前達に迷惑をかけた、そしてその償いと奴らに対しての報復をしたいのだ」

陽村は「この通りだ」と頭を下げようとするが、詩月はその言葉を遮って阻止する

「頭を上げろ、そして立ち上がるんだ」

詩月の言葉に陽村は一瞬戸惑ったものの、ゆっくりと立ち上がり 何を思ったのか表情を曇らせる

「…もし本当にそう思っているのならば、…もう一度 下からではなく対等に、素直に言ってくれないか?」

詩月の言葉に陽村はハッと我に返り、姿勢を正し深く頭を下げた

「……お願いします!」

陽村の心からの願いに詩月は快諾し、新たな仲間を迎え入れた…

 

…やがて時計は、予定時刻3時を知らせる

装備も心構えも準備を終えた鬼焚部部員は、確かな足取りで部室を出る

「…何やお前ら、揃いも揃って?」

部室を出た廊下には、水内が中央に立ち塞がっていた

そして水内だけでなく、廊下の端には3年顧問の文由と1年顧問の金林の姿もあった

「…全く、今日は満月でも無いし、暴走した奴の報告も来とらんで?」

『…水内先生、どうして?』

恵は思わず声を漏らすが、水内は変わらず腕を組んで仁王立ちをしていた

そして水内はニヤリと笑い、口を開いた

「…しっかり後腐れなく戦ってきな、…それじゃ 最後まで気張りや?」

穏やかにそう鼓舞した後、水内は深く息を吸って声を上げた

「これより今年最後、三年生最後の 鬼焚部の活動を始める!! 活動開始!!!!」

そう言い放った水内は スッと廊下の端に移動し、目を閉じる

間を空けて、鬼焚部員全員で「はい!!」と声を上げ、顧問三人の横を通り抜けてゆく

足音が過ぎ廊下はしんと静まり返る

顧問三人は黙って部室へと入り、水内は煙草を咥えて火を付けた…

「ガキ共、あとは頼んだで…?」

金林は静かに手を組み、文由はいつもと違う穏やかな笑みで、水内はたばこを片手にニヤリと微笑して、同時に呟いた

「『『『巫鬼よ、彼らに良き未来を授けたまえ……』』』」

 

…神魅町の北東、町外れの森に鬼焚部員は揃う

そこには地図には無い、大型車がゆうに通れるほどの道があった

まるでわざわざ用意したかのような雰囲気だが、構わずその道を進んでゆく

日の光を通さぬ木々のアーチを走り抜けると、いくつも分岐をした 分かれ道に辿り着く

その数は七つ、一人ずつ別れたとしても一人余るといった所だ

どの道に行くとしても あまり考えている暇は無い、タイムリミットは指定されていないものの、一刻も早く事態を収拾するべきである

…だが考えるよりも先に、状況は一変する

分かれ道に集まる統司達を囲むように、辺りから不穏な気配が放たれる

そして音をたてて現れたのは、複数と言うには多い程の数、暴走した鬼人達の姿である

現れた七人の暴走者に一対一で対応するが、ほとんど混戦状態であった

…そして暴走した鬼人の様子を見るに、今までの更生者と様子が違う

顔は火照り 既に息は上がっており、早くもかなり弱っている様であった

ほんの数分で全員を気絶させると、気を失った者たちを道の隅に寝かせておく

一体どこから、これだけの数の人を暴走させたのかと考えていると、陽村はハッと気づき声にする

「これは…、この者達はインフルエンザで休んでいる者たちではないか…!?」

陽村は立ち上がり、集まっている皆に近寄る

「もし暴走した者が全員そうだとしたら、数は相当数いるぞ、…少なくとも一クラス程度では無かった筈だ」

陽村がそう話していると、再び暴走した鬼人の気配に囲まれる

「…暴走した鬼人をけしかけて、俺達の体力を削り 足止めをするつもりか」

詩月はそう呟き、皆は迎撃するために構えていると、不意に陽村は大きく声を上げる

「お前達は先に進め!ここは私が食い止めよう!!」

その言葉に目を丸くする面々、そして魁魅が言い返す

「馬鹿を言うな陽村先輩、一人で大勢を相手に勝てるとでも言うのか貴女は!!」

しかし陽村はニヤリと笑って言い返す

「…そうだとも、鬼匣には不覚を取ったが、この程度 私の相手になるまい」

そう言う陽村に対して、統司は静かに聞き返す

「…良いんですか、陽村先輩」

統司の言葉に 陽村は返答する

「…“信じろ”、なんて言っても、お前達が完全に納得してくれるとは思わないが、ここはそうするべきではないか?」

陽村の言葉を聞いて一同は戸惑う、しかし一足先に迷いを払ったのは統司であった

「…先輩の事を信じます、…それでは皆 散会してナイトメーカーを探し出して交戦してください!!」

統司の言葉に、一同は「了解」と返事を返す

「…こいつら全員始末したら…鬼匣の所に合流するよ、私には連絡手段は無いし、鬼匣に一撃返してやりたいからね」

『…はい、お願いします、…それでは一同散会!!』

統司の号令を合図に、それぞれ目に付いた道へと走ってゆく…

…分かれ道に一人残る陽村、辺りからはまるで獣の様に鋭い視線と唸り声が聞こえる

陽村は深く息を吸い、気を整える

そして背後から立った物音と気配に、陽村は呪文を呟き 向かい合うと共に 片手を振るう

「そこだ!!」

放たれた青き炎は、背後に立っていた暴走者に接触すると、たちまち全身を包み込み燃え上がる

「ァァァァァアアアアアア!!!!」

耳を劈く悲鳴を上げると、力無くその場に倒れる

その悲鳴を聞いても、陽村は表情一つ変えず冷たい瞳のままだった…

「どうした、病んだ身では私を倒す事など出来んぞ、……とは言うものの、私も病み上がりの身ではあるがな、…全く 良いリハビリだよ」

軽口を叩く陽村を囲む様に数多の敵が姿を現し、陽村を目がけて飛びかかった

前から飛びかかった敵を、陽村は頭を掴み地面に叩きつける

横から来る敵の攻撃を避け、膝を掲げて胴の中心を捉える

背後から掴みかかる敵を、掲げた膝を背後へと伸ばし蹴り抜ける

向かってくる敵に、両の足を地に付け 拳を鳩尾へと打ち付ける

背後から攻撃する暴走者の腕を掴み取り、体勢を崩して敵を投げ飛ばす

陽村の背後に迫る敵に、片足を振り回し脇腹を蹴り抜く

横から向かう敵に間合いを詰め、首根っこを掴み後頭部を地面に叩きつける

流れるように、いとも容易く陽村は複数の敵を倒す

「…誰もかれも、皆病欠の生徒ばかりではないか、…これは休み明けに保健委員に病気予防の呼びかけをしなくてはならないな…」

陽村は至って余裕綽々で、冗談交じりに呟く

そして次の敵の群れが 陽村に襲いかかろうとしていた…

 

「『こちら詩月、奴らの一人と遭遇、これより交戦する』」

…詩月は無線を介して連絡を取り、皆から「頑張って下さい」と返事が来る

「…アア?先輩ヨォ、なにブツブツ言ってんダァ?」

『…いや、お前には関係ない、気にするな』

森の一本道の終わりには広がった空間があった

そこには大人と言われても差し支えない風貌の詩月に引けを取らない大柄な少年が立っていた

「マァ、俺にはもうアンタなんて蚊程も気にならないけどナァ?」

『…相変わらず、むやみやたらに暴れてるようだな?幸治(こうじ)』

幸治は詩月の様子に、強く舌打ちをする

「どうやらアンタ、俺に負けたってことがまだ分かってないようだナァ…嗚呼?詩月さんヨォ?」

詩月は 幸治の言葉を受け止め、一度口を閉じる

しかし幸治が詩月を憐れみの視線で見た事に気付くと、再び口を開いた

「……幸治よ、お前は昔からそうだ、…なぜそこまで力に執着する、辺り構わず暴力を振い続けて…」

どうやら詩月は幸治の日頃の行いを以前から知っている様だ

詩月の問いかけに幸治は揚々と答え始めた、恐らく幸治は詩月に勝っている事に気分を良くしているのだろう

「…俺が力に執着している理由?そんなの詩月、アンタに決まっているだろうヨォ?」

思わぬ答えに、不意に詩月は聞き返してしまう

「…俺が、理由…だと?俺がお前に何をしたというのだ?」

そして幸治は不気味に口角を上げて話しだす

「ハッ!自惚れるなよ、あんたは何もしちゃいないさ、…俺は一番強くなりてぇだけだ、なのにガキん頃からどいつもこいつも、何かと付けちゃ詩月詩月と、馬鹿見てぇに比べやがッテェ…」

幸治は固く拳を握り、真横に生える木にその拳をぶつける

砕ける音、強い振動が空気に乗って辺りに広がり、ビリビリと大気を揺らす

「そんなにお前が強いのかァ!!そんなに詩月の血が良いのかァ!!」

幸治の理由、それはとても些細な嫉妬心であった

殴りつけた木は拳の形を残す程にひしゃげ、バキバキと音を立てながら折れて倒れる

無言で幸治の言葉に耳を貸す詩月に、歯軋りをたて声を上げる

「…あんたはこの間、俺の力に負けたんだよ!…だが鬼匣の野郎は“対等の条件で勝ってこそ、勝利と言える”何て事ほざきやがってナァ、…仕方ねぇからもう一度あんたをぶっ潰してやりに来たんだヨォ!」

詩月は幸治の心情を聞いて、口を開いた

「…そうか、不愉快な思いをしてきたんだな、お前は…」

慰めるような詩月の言葉が幸治の癇に障ったのか、幸治は静かに怒りを露にする

「…無駄口は仕舞ぇだ、今度こそ誰も疑わせねぇ様に徹底的に叩き潰してヤルゥ…!」

そして幸治は詩月に走って迫る、対して詩月は無言で目を閉じていた

ゴッ!

その場には二人しかいないが、周囲に分かるほどに鈍い音が聞こえる

詩月は幸治に頬を殴られていた

続け様に幸治は詩月の顔を殴りこみ、ゴッゴッと鈍い音が響く

無抵抗に殴られる詩月に、幸治は胸倉を掴み言い放つ

「どうしたヨォ!詩月ともあろうやつが、俺に負けた事にビビって動けないのかァ!?」

しかし詩月は閉じ続けていた目を開くと、幸治に言い返した

「気は済んだか」

詩月の言葉を聞き違えたか、幸治は「アアン?」と声を出す

だが詩月は幸治の胸に掌底を放ち、途端に幸治は引き剥がされ かなりの間が開く

「…お前がそのつまりならば、私も本気で迎え撃つとしようか!」

そう詩月は幸治に言い放つと、深く息を吐き 気合いを込める

「……はぁぁぁぁぁあああああっ!!」

詩月の気合いに反映して、辺りの気配が変わり 詩月に向かって渦を巻く

詩月の身体から気が流れ始め、その頭から 気による妖しく蒼く輝く二つの角が生えていた

「…な、なんだよオイ、…てめェ、それが本気だって言うのかよ!!」

…その詩月の姿は鬼であり、幸治は「化け物じゃねぇかよ!!」と叫ぶ

「貴様が力で訴えるならば、こちらもそうするまでよ!」

詩月は踏ん張り、幸治へと飛び込む様に近づいた

十数メートルはあった間合いが、一瞬の一歩で1メートルまで詰められる

「…貴様に本当に力というものを、教えてやる!!」

詩月はそう言い右手を握り締め、幸治の顔面へとまっすぐ突く

ゴオッ

…詩月は寸止めで当てはしなかったが、拳圧によって幸治の顔は反る

「…クッソガアアアアアア!!」

激昂する幸治は、考えなしに詩月を殴ろうとする

しかしその拳はいとも容易く、詩月の手の平で受け止められる

「オラァァァァァ!!」

残る反対の拳で幸治は再び殴りかかるが、その手も同様に受け止められる

受け止められた手を引き剥がそうとするが、手どころかその両腕は全く微動だにせず、まるで腕から先の時間が止まっているかのように固まっていた

まるで非現実な状況だと感じた幸治は、信じられないといった表情をする

そして詩月は捕まえた両手を強く地面に振り下ろす

幸治は振り下ろされた勢いで、顔面を地面に強打し全身を宙に浮き上がらせる

浮き上がった幸治を、詩月は浮かせたままに胴を上空へと殴り上げ、続けて掌底を放ち吹き飛ばす

詩月と同格に大柄な体が、ゴロゴロと転がってゆく

仰向けに地に転がる幸治はまだ意識を保っており、目を見開いて起き上がろうとするが、再び詩月は近づいてマウントを取る

そして詩月は右手に渾身の力を込め始める

「ま、待てよオイ……!!!!」

先程の状況と打って変わり 幸治は怯えを露にするが、詩月はその拳の勢いを止める事は無かった…

ズンッ!!!!

衝撃波は空間を囲う木々へとぶつかり、多くの葉を散らせる

そして地響きは、他の皆が分かる程に伝わっていた…

そして詩月は拳を引き抜き、ゆっくりと立ち上がる

拳は幸治の顔を外し、その真横の地面へと形を残していた

圧倒的な力を向けられた幸治は、未だに状況を飲み込めず恐怖に歯をカタカタ打っていた

「…これが、お前が求めていた力の正体だ」

そう語る詩月は、少しずつ角が静まっていた

「圧倒的な、物理的な力を他者に向けても、それは所詮恐怖を向けているだけに過ぎない、…だが本当に意味する力は違う、力は誰かを守るために鍛えてゆくものだ、…俺達に流れる血はそういう力のはずだろう?」

詩月は微笑して幸治にそう諭した

「…そうかよ、俺の負けかよ…」

幸治はそう呟くと、仰向けのまま大の字になって静かに目を閉じた…

 

「『…魁魅だ、敵勢力の一人と遭遇、交戦する』」

魁魅は連絡を終え、敵と向かい合う

「…確か貴様は吾妻(あずま)だったか、この間はよくもやってくれたな」

吾妻と魁魅が呼ぶ少年、調べた所1年生であるが 家庭環境に少々難がある

両親は今の長老や鬼焚部の行いに異を唱え 反対活動しており、悪い点で少々目立っていた

そしてその子である吾妻も、反対的な思想を持つ少年である

「のんきに仲間ごっこか?これだから鬼焚部はいけすかねぇなぁおい!」

年相応に小柄な体躯であるが、年上相手に物怖じせず声を張る少年に魁魅は言い放つ

「一体何が不満だ、貴様達は平和を乱した、大人しく抵抗するな」

しかし吾妻は

「はぁあ?平和ってなんだよそれ、お前らがいう言葉じゃねぇぞ偽善者共が!!」

“偽善者”その言葉に魁魅は疑問を抱くが、吾妻は続け様に言い放つ

「お前らはいつも自分の行動を棚に上げて、守るためだとかぬかしやがって!

結局お前らのやってる事はただの人殺しなんだよ!!」

恐らく“粛清”の事だろう、魁魅は冷静に吾妻の様子を伺うが、当の吾妻はスイッチが入ったのか感情のままに糾弾する

「俺は忘れねぇぞ、隣の兄ちゃんはお前らの勝手な判断で殺された!!お前らが鬼焚部がいなければ、今頃兄ちゃんは夢を叶えられてたんだ!!」

不愉快な空気が流れ込み、吾妻は両手に緑色の炎をともす

「俺は絶対許さない、兄ちゃんの仇、皆のためにも、俺はお前らを粛清してやる!!」

吾妻は両手の鬼火を放ち、再び鬼火を手に灯す

魁魅は鬼火を避け、吾妻へと素早く間合いを詰める

しかし魁魅は滑るように足を止め、背後を振り返る

魁魅は鬼火の気を感じ取っていたのか、鬼火は弧を描いて魁魅を追尾してきた

魁魅はすぐに脇を閉めて構える、そして迫る鬼火に拳を当て鬼火を払った

鬼火はもう一つ放たれていた、しかし鬼火の姿は視界に入らない

魁魅が鬼火に気を取られている間に、吾妻は再び鬼火を放つ

「おらおら!さっさとくたばりやがれ!!」

魁魅は吾妻へ身体を向けるが、吾妻の声と同時に魁魅は背筋に嫌な気を感じた

魁魅は振り向いたと同時に、認識した 迫る鬼火に大きく身体を反らし、間一髪避ける

想像以上に巧みに戦う吾妻に、魁魅は手こずっていた

しかし手強いと思いつつも、魁魅は吾妻に素早く間合いを詰め 攻撃をけしかけた

鬼火を駆使する相手なら、接近戦に持ち込む方が有利かもしれないと、魁魅は一つの戦術を取る

魁魅は懐に潜り込むと素早く拳を振るった

…しかし吾妻はニヤリと笑いながら後ろに下がり、魁魅の拳を避けた

魁魅の拳は鍛えたものであり、少なくとも素人よりはかなり素早く正確なものであった、にもかかわらず吾妻は見切って避けており、予想外の状況に魁魅は少し姿勢を崩した

すぐに魁魅は姿勢を立て直し続け様に拳を振るうが、吾妻は軽々と避け続け 隙を見て魁魅に蹴り入れた

魁魅は吾妻の蹴りを受け流し、少し間を空ける

しかし左右から鬼火が迫り 魁魅はバックステップで避ける、結果吾妻との距離はかなり離れた

魁魅は構えつつ吾妻の様子を探る、…彼の動きは少し妙だった

姿勢に対して速過ぎるのだ、そして彼は何か呟いていた

…もしかすると、身体強化する術を使っているのかもしれない、ならば別の手を使うほかあるまい

そう考えると魁魅は口を開いた

「…お前の気持ちは分かった…だがお前達の行いは許されるものではない、…俺達の活動を妨害し人々に危害を加えて良いわけがない、それこそ棚に上げているのはお前の方だ」

魁魅は挑発する様に吾妻に言うが、吾妻は聞く耳をもたず言い返した

「何とでもほざけ偽善者、お前らが間違っている事はすぐに決着がつくさ」

吾妻の揺るがぬ姿勢に、魁魅は意を決する

「…少し、己に正直に戦うとしようか」

そう呟くと、魁魅は肩の力を抜き、グローブを外し素手になる

「ふんっ!!」

魁魅は気を込めると、両手には薄く火が灯る

「俺だって、貴様らに負けるわけにはいかない!!」

魁魅の言葉に吾妻は反応して叫ぶ

「さっさとくたばれ!!犯罪者どもが!!」

吾妻は両手を振るうと魁魅を囲むようにいくつもの鬼火が迫りくる

しかし魁魅はものともせず、鬼火を振り払っていった

そして鬼火が通用しないと判断した吾妻は、魁魅へと突っ込む

吾妻は術を呟き、行動を加速させる

吾妻の攻撃は素人同然の型であったが、視覚に違和感を覚える素早さであり、魁魅は辛うじて避けて、反撃を試みる

しかし魁魅の拳はやはり避けられる、

「お前の攻撃は分かってるんだよ馬鹿が!!」

そう言い吾妻は魁魅の顔面へと拳を突き出した、…しかし魁魅はそれを待っていた

魁魅は上半身を後ろに倒し回避するとともに、膝を上へと突きあげる

“ティー・カウ・トロン”、ムエタイ技のヒザ蹴りが決まる

そして連続して“ヨプチャチルギ”、テコンドーの足技を吾妻へと繰り出す

吾妻は思わぬ痛手を受け、肺に溜まった空気を吐き出す

仰け反り隙を見つけた魁魅は、吾妻にラッシュを叩きこむ

しかしダメージに衰えず吾妻は反撃をする、今度は魁魅が軽々と避け、不意に身を屈め地面に手を付ける

“メーアルーアジコンパッソ”、カポエラによる回し蹴りが吾妻の頭部を捉え、吾妻は地面へと倒れた

「…くっそ、お前らみたいなやつに…」

脳を揺らされて、普通なら気絶してもおかしくないはずだが、彼の強い意志が耐えているのか、意識を保っていた

「…お前は何も見えていない、我々は無暗に命を奪っているわけではない、…誰かを守るために、時には正しい罰を与えねばいけない事もあるのだ」

しかし魁魅の言葉は、吾妻に全て伝わっていなかった

…だがこれで良かったのかもしれない、まだ魁魅は人を説得するには未熟であることを認識していた

そして吾妻の言葉を受け止め、魁魅はよき統率者になる事を固く誓った…

 

「『……こちら篠森、…敵と遭遇、対処します』」

篠森は虚ろな瞳で敵を見据え、連絡を終えた

道の終わりで立ち尽くすのは、戦いとは無縁と言った細身の体の少女

「…篠森さん」

物静かな少女は、戦うことに迷いを感じている様にも見えた

「…芙(ふ)弓(ゆみ)先輩、私達は今 敵同士です、遠慮なく戦いなさい」

『え、…ええ、そうよね…』

芙弓は篠森の言葉に返答するが、視線はまだ反らしていた

「…どうして、こんな事になっちゃったのかな……」

とても小さな声で、芙弓は独り言を呟いていた

篠森はその様子に小さくため息をつき、彼女のために言い放つ

「…グズグズしない!貴女は何時まで迷っているつもりだ!そんな人間に戦いの場に立つ資格など無い!!」

この場にいる人間は相手しかいない、だからこそ篠森は滅多に見せない一面を、表に現して声を上げた

篠森の言葉に芙弓は強く反応し、芙弓は激昂し始める

「…うるさい!私だってこんなつもりじゃなかった!!こんな事するつもりなかった!!…何も知らない癖に分かった口を利かないで!!」

芙弓は両手はおろか、自分の周囲にも同時に、複数の鬼火を発生させる

「うぁぁぁぁぁあああああああああ!!」

芙弓は悲痛な叫びと共に、篠森へと鬼火を飛ばす

「私はどうすればいいのよ!!何が正しいの!どんな道が正しいの!誰か私に教えてよ!!」

芙弓は叫びながら、絶え間なく鬼火を放ち続ける

「正しいって何…、…教えてよ」

息絶え絶えに芙弓は切なくそう呟くと、攻撃の手を止める

放たれた鬼火は複雑に歪み、不規則に動いて曲がっては、篠森へと迫る

…しかし篠森は数多の鬼火を前にしても、焦る事はおろか表情一つ変えることは無かった

そして背後から鬼火が衝突する寸前、篠森は微かに微笑していた

芙弓は荒くなった息を整えていると、非常に不愉快な、そして背筋の震える気配が前から立ち上る

顔を上げその方向を見ると、芙弓は愕然とする

芙弓の放った数多の鬼火は、篠森の周囲を回り続け衝突していないのである

不意に妙な気配の風が流れる、それは前から感じる気配と同じものであり、その風は篠森を中心として渦巻いていた

よく見ると 鬼火は徐々に削れて篠森へと吸い込まれてゆくではないか

やがて鬼火は消え、異様な気配は強まっていた

「…イグ・ニス、ファト・トゥス」

篠森は呪文を呟き、蒼い鬼火を放つ

鬼火は芙弓の腕に接触し、爆発する様に一瞬だけ腕が鬼火に包まれた

「キャアッ!」

『…ウィール・ウィスォプ』

篠森は続けて緑色の鬼火を放ち、芙弓が払うまで接触した足を継続的に燃やす

「イヤァッ!」

『…ジャック』

右手の平に大型の黄色い鬼火を出現し、零す様に鬼火を放つ

瞬間移動した鬼火は芙弓の眼前に姿を現し、瞬時に全身を包み込んだ

芙弓は金切り声を放ち、すぐに鬼火を払う

芙弓は己の身をかばう様に抱きしめ、涙目で篠森を睨みつける

「…これで終わりかしら、貴女は所詮それまでといった人なのね」

篠森の挑発に芙弓は釣られ、再び鬼火を放ってゆく

「アアアアアアアアアアッ!!」

芙弓の叫びと共に絶え間なく鬼火は放たれるが、篠森を包む気の渦にかき消されるように鬼火は取り込まれてゆく

「焼き、焦げろおおおおおおおお!!」

芙弓は渾身の力で、篠森の数段大きい 1m大の黄色い鬼火を生み出し、篠森へと放った

その巨大な鬼火は渦をものともせず、容易に篠森を包み込んだ

…鬼火は篠森の全身の痛覚を強く刺激するが、篠森は歯を食いしばるだけで表情を変えることは無かった

十数秒篠森の身を焼いた鬼火は、払うこと無く消えていった

「フ、フフフ、イヒヒヒヒヒ」

肩で息をしていた芙弓は、その声に背筋を凍らせ 顔を青ざめさせる

「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

その様子に芙弓は再び愕然とする、…篠森は全力で高笑いを上げていた

「…なかなか良かったわ、それじゃ そろそろ終わりにしましょうか?」

篠森はそう告げると、両腕を伸ばし気を操る

篠森の周囲を囲う気の渦が、やがて瞬時に色を変える

それは、篠森の全身を覆うほどの藍色の巨大な鬼火であった

「…あ、…いや…、もうやめて…」

圧倒的な力に、芙弓は小さく許しを請い、膝から崩れ落ちる

しかし嬉々とした表情を浮かべる篠森は、止まる事を知らなかった

「 デ ビ ル ・ フ レ ア !」

色めいたその声と共に、藍の火柱が辺りを包み込んだ

…僅か3秒で炎は消え、芙弓は既に地面に横たわっていた

恐らく意識は無いだろう、しかし篠森は構わず芙弓に告げる

「…迷いながらも魔鬼の力を取り込めたのは、もしかしたら偶然だったのかもしれない、けれど相応の素質があったんじゃないかしら?」

そして篠森は穏やかに彼女に言った

「…何が正しい道かは、それは貴女が決める事、…迷ってもいいじゃない、正しい道を決めるためなら、時には自分の意思で立ち止ってみなさい、一人で駄目なら誰かに頼りなさい、……貴女ならきっと出来る筈、そして、最後に決めるのは結局 貴女の意思よ」

…それはきっと独り言になるだろう、しかし構わず彼女は続けて言った

「…もしかすると、貴女は迷い続ける事が力なのかも知れないわね、…何にせよ、きっと貴女は正しい道が開ける筈、貴女は私とは違う、……貴女には、道を迷えるほどの可能性を持てるのだから……」

篠森は一方的に言い残し、その場を立ち去った…

「…そういえば、北空先輩は大丈夫なのかしら、…私の能力に競り負けていたようだけれど、無事だといいわね」

 

「『…こっ、こちら月雨だよ!…ナイトメーカーの一人と遭遇!これから戦うよー!』」

どこか焦った様子を露にする月雨は、早々に連絡を終えて相手と向かい合う

妖美な少女 由利(ゆり) は倒れた丸太に横たわり、緊張感も無く くつろいでいた

「アラ、ツーノじゃない、これは奇遇ね」

のんびりと由利はそう話しかけ、身体を起こし大きな胸が揺れる

「…どうして、由利ちゃんはナイトメーカーに入ったの?何か言えない事情とか悩んでたりしてたの?」

心配そうに月雨は由利に問い掛けるが、由利は不真面目に返答した

「理由…?……アッハハハハハ!アタシにそんなの無いわヨ!アハハ…、そうね、強いて言えば退屈だったからカシラ?」

笑っている由利に対して、月雨は意を決して声を上げる

「…由利ちゃん!!もうやめようよこんな事、…今なら本当に反省すれば、皆許してくれると思うから!!」

月雨の言葉を聞いて、由利は黙って頷いた

「…魃乃ちゃんの気持ちはよく分かったワ、…でもね、口だけではいくらでも言えるのヨ?実際に謝っても許してくれる保証も証拠もここには無いの、ダカラネ?」

由利は続けて言いながら、申し訳なさそうに手を合わせる

「…ゴメンね?魃乃ちゃん、これから痛い目に合わせないといけないンダケド、我慢して頂戴ネ?」

由利は月雨が純粋な子だという事を知っている、しかし間違っている方法でも筋は突き通すべきなのだと由利はそう抱えていた

「…どんな居場所だとしても、裏切ることだけはアタシ したくないノ、本当にゴメンネ?」

由利は小さく呟くと、キャラクターの様なポーズで構え、鬼火を宙に出す

しかしその目はとても悲しそうな表情であった

放った鬼火は月雨に触れると、爆発する様に一瞬だけその身を炎が包み込む

月雨は短く悲鳴を上げて 倒れそうになるが、小さな体で必死に堪えた

「…由利ちゃん、どうしても止められないのかな?」

月雨の言葉に、由利は悲しそうな瞳のまま言い返す

「どうしても早く終わらせたいのナラ、抵抗しないで早く気を失っちゃいなさいナ?」

由利はそう言うと、再び鬼火を生み出し 月雨へけしかける

月雨は由利の返事に顔を伏せると、意を決して由利に走って近づく

小さな右手で不器用に拳を握ると、目の前まで近づいた由利へと飛びかかる

「…ユリちゃんのバカァァァァァ!!」

小さな拳は由利の身体を捉えると、ドン!! と尋常じゃない衝撃が彼女の体を伝い、由利は目を見開く

思わぬ強い衝撃を受け、肺の空気が全て吐き出される、そして勢いをそのままに吹き飛ばされ、木へと叩け付けられる

「…っちょっ!…冗談じゃないワネ…、魃乃ちゃんは本気って事ナノネ…?」

身体をかばう由利は、月雨に顔を向けた

月雨は息を荒げながら、涙を浮かべて由利をまっすぐ見つめている

「…分かったワ、それじゃここからはお互い、真面目に戦うとしましょうカ?」

月雨は黙って頷き、後退りして間合いを取る

そして胸に両手を当て、ゆっくり深呼吸して呟いた

「…どうかご先祖様、私に力をお貸し下さいませ」

対して由利は上下に小さく跳びはねステップを取り、いくつものちいさな鬼火を発生させる

「それじゃあ…行くわヨ?ツーノ!」

迷いを隠し由利は高らかに声を上げると、一斉に鬼火をけしかけた

しかし、月雨が手をかざすと共に、全ての鬼火は消えてしまった

そして月雨の様子が一変し、とても穏やかな気に包まれている

月雨の瞳は、心此処に在らずといった状態であった

「…お止めなさい、その力は異なる力、無暗に危害は与えてはいけない」

その口調と声のトーンは、明らかに普段の月雨と異なっていた

月雨の様子を見た由利は、“違う者”と察し口を開いた

「…貴女、魃乃ちゃんじゃないわネ…?一体何者?」

由利の問いに、穏やかな表情を浮かべて答える月雨の姿

「…そう、私は代々受け継がれる神魅の巫女、…肉体は確かにこの少女 月雨魃乃だが、今彼女の意思は内側に存在する」

月雨の巫女は語るが、由利は続けて質問をする

「そう…で 巫女様、月雨はどうすれば戻るの?」

由利の声には、少し苛立ちが込められていた

異なる人物がその体を動かしているという事に、由利は納得出来ないのだ

「…そう心配するでない、彼女の意思は今 私と半分ほど同化しているに過ぎない、そして 彼女の意思で私を呼び出したのだ、…いずれは戻るであろう」

月雨の巫女の言葉に、由利は小さく舌打ちをして言い放つ

「じゃあすぐに戻して頂戴、…本気で戦うとしても、用があるのは魃乃ちゃんなのヨ」

しかし月雨は首を横に振る

「…このような口調ではあるが、私…月雨魃乃の意識は至って問題無いのだ、…先ほど言ったように、もう傷つくだけの不毛な争いは止めないか?」

月雨の様子に、由利もまた首を横に振った

「…そう、貴女も戻る気が無いのなら、私の意思は変わらないワ?…二度は言わないワヨ?」

由利は月雨にそう宣言し、再び鬼火を放った

「…致し方ない、ではお望み通り本気を出すとしようかの」

月雨の巫女はそう呟くと、静かに呼吸を整えて歌い始めた

すると歌い始めた直後、放たれた鬼火は全て空気へと消えていった

更に由利は月雨の歌声を聞いた途端、全身の力が抜けカクンと膝を付いていた

「エッ?…ちょっ!?…嘘、ちょっと待って」

月雨の巫女のその歌は、鬼の気を静める聖歌だった

やがて月雨の巫女は歌を止めるが、由利の身体は力が入らないままだった

座り込む由利に、月雨の巫女はゆっくり歩み寄る

そして抵抗出来ない由利は目の前に立たれ、手を上げられた事にピクッと身体を強張らせ、顔を伏せた

…その手は由利の頭にやさしく置かれた

「…もう、おしまいにしようか?」

口調はまだ巫女に近いが、その優しい声は普段の月雨であり、月雨はやさしく由利の頭を撫でた

由利はやられると思ったが、月雨の優しい性格を思い出しすっかり気が抜ける

「アハハ…、これはアタシの負けネ、完敗よ!」

クスクス笑う由利に、月雨はそっと手を差し伸べる

グスッと鼻をすすり、涙目のまま月雨は微笑みかけていた…

 

「『もしもーし、こちら蒼依ー、敵見つけたから今から戦うぜー』」

緊張感のない連絡に、皆は飽きれながらも返答を返していた

前方にはとても小さな少年が立ち尽くしていた

「…ガキかぁ?…お前がナイトメーカーの一人なのか?」

思わず「違う」と改めて連絡しようかと思ったが、一度本人に尋ねてみた

しかし小さな少年 喜宇(きう)崎(ざき) は、蒼依に声を掛けられてビクッと身体を強張らせ、おどおどと口を開いた

「……あっ!……その……、ごめんなさい……」

その言葉に理解できず、蒼依は聞き返した

「違うのか?」

『あ!……いえ、…その…、その通りですぅ……、すいません…』

怯えた様子に、疑いながらも蒼依は調子を狂わせる

「…そんじゃお前も敵なんだな、それじゃ覚悟しろよ!」

にやけながら、蒼依は金属バットを構えて喜宇崎に宣言する

しかし喜宇崎は頭を伏せたまま、聞こえないほど小さな声で呟く

「…負けません」

そして喜宇崎は素早く蒼依へと間合いを詰めた、…その瞳は酷く虚ろであった

「うぇえっ!?」

予兆の無い行動に蒼依は驚いて、後手に回ってしまう

喜宇崎は小さな拳を蒼依に殴りつける

蒼依は金属バットで防いだ、しかし強い振動が金属バットを伝い、バットごと蒼依は強く吹き飛ばされた

「おっとっとっと」と蒼依は何とか立て直し、前回と違って壁に叩きつけはしなかったが、バットを伝った衝撃で手を痺れさせていた

しかし蒼依を休ませる暇は無く、喜宇崎はすぐに近づいて何度も攻撃をする

喜宇崎は非常に小柄のため 攻撃の間合いはだいぶ短く、蒼依との身長差でより顕著に表れていた

だが かなり強力な身体強化の術を使っている様で、一撃でも当たれば一溜まりもない事は、前回吹き飛ばされたことで蒼依はよく身にしみていた

しかしこのままでは埒が明かないと、辛抱を切らした蒼依は 隙を見てバットを振るう

「オラァァア!」

喜宇崎は頭部に迫る金属バットに気付くと、思わず素手で受け止めた

…強い力がぶつかり合い、互いに弾かれて 距離が広がった

蒼依も喜宇崎もお互いに手を抑え、貫いた衝撃を静めている

蒼依は少し息を荒げながら、先程まで臆病だった喜宇崎が戦い始めた事に何か引っかかり、疑問を投げかけた

「…聞いていいか?なんでお前みたいなチビが、あいつらの仲間になんか入ったんだ?」

“チビ”、その単語に喜宇崎は反応し、瞳を曇らせる

「…何で?…ヘヘ、そんなの単純だよ…」

その声は先程と打って変わり、喜宇崎は聞き取れるほどの声を出していた

「僕を チビ!チビ!って、ただ小さいってだけで標的にして、虐めてきた奴らに仕返しするためだよ!!」

喜宇崎は怒りを込めて地面を蹴りつける、その強い衝撃は周囲に振動が伝わる

「…あんたもそうなんだろ!どうせ僕の事を一方的に殴るんだ!何も悪くないのに責め続けるんだ!」

既に感情は最高潮に達しており、喜宇崎は人が変わった様に叫ぶ

「もう嫌だ!!あんなクズ達に、遊ばれるのはもう嫌なんだよおおおおお!!」

叫びながら喜宇崎は間合いを詰め、蒼依に拳を振り抜いた

その拳はしっかりと捉え、蒼依は力無く吹き飛ばされた

地面に転がる蒼依、喜宇崎は終わったと思ったが、しぶとく立ち上がる蒼依は喜宇崎に尋ねる

「…それで、お前はどうしたんだよ」

やはり相当のダメージであり、蒼依の足は頼りなくふらつかせていた

そして蒼依の様子を見て優位に立ったのか、喜宇崎は嬉々として語った

「…勿論、いつも呼び出される誰にもバレない所で、顔も分からないほどに!全身が真っ青になるまでボコボコにしてやったよ!今までやった分一回に纏めてやり返してあげたよ!!あいつらはまだ病院で馬鹿みたいに眠ってるだろうな!!」

口内を切った蒼依は顎に赤い筋を伝わせながら、赤く鋭い眼光で喜宇崎を見る

「…嗚呼そうかよ、……それでお前は大満足って訳だ……」

その威圧的な声に、虐めの感覚が染み付いてしまったのか喜宇崎は臆する

しかしそんな自分に気付いて、喜宇崎は闇雲にとびかかった

「うぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!」

喜宇崎は蒼依の顔面に向かって拳を放つ

しかし蒼依はその喜宇崎の手首を掴み攻撃を止め、強く言い放った

「…やり返すなとは言わねぇよ、だけど限度ってものを考えろよ!!」

蒼依の大きな声に、喜宇崎は短く悲鳴を上げ気圧される

「そこでお前が繰り返したら駄目なんだよ!それじゃあお前、あいつらと同罪になっちまうじゃねぇか!!」

蒼依は喜宇崎の胸倉を掴み宙づりになる

「…うるさい!!僕はあいつらとは違う!!一緒じゃない!!」

暴れながらそう反論するも、魁魅はその手を離さない

「同じなんだよ!!お前もそいつらも、自分の欲の為だけに相手を傷つけてるだろうが!!」

蒼依の言葉は喜宇崎の胸に深く刺さる、しかし当の本人はそれすらも否定する

「うるさい!!もうお前なんか黙れえええええ!!」

喜宇崎の様子を見て、蒼依は歯軋りを立てる

「歯を、食いしばれ…!」

そして蒼依は胸倉を掴んだ手を離した

…次の瞬間、喜宇崎は地面に降りるよりも先に 宙を舞っていた

蒼依は手を離したわけでなく、その手で拳を作り顎を突き上げていた

喜宇崎は地面に倒れると、痛みに震えていた

蒼依は喜宇崎の側によると、無防備に腰を下ろした

「…痛いよな、…なんて、そんなのお前は分かってる筈だよな、でもいい加減痛みに怖がるのは止めようぜ、…お前さ、方法はともかくとして、仕返しするために強くなろうと勇気を出してあいつ等の仲間に入ったんだろ?…なら後は、立ち向かう勇気を振り絞ればあいつらに言い返せるじゃん」

喜宇崎は痛みと悔しさに、グズグズと泣いていた

蒼依はそんな喜宇崎を心配して、話を続ける

「…仕返しもやりすぎたら駄目なんだよ、強くなっても それで誰かを傷つけたら、また同じように繰り返すことになっちまうからな」

泣き止まない喜宇崎に 蒼依は罪の意識を感じ、ポンポンと優しく頭を撫でる

「…まぁ殴って悪かったな、ほらそろそろ泣き止めよ…な?それから今度から辛くなったら少しは誰かに頼れよ?俺も協力してやるからさ」

喜宇崎はグズりながらも黙って頷き、戦意はとっくに無くなっていた

…これからは孤独で無く 頼れる先輩が出来た事に、喜宇崎は確かな感覚に喜びを感じていたのだった

しかし、蒼依は喜宇崎にああは言ったものの、彼の虐めはそう簡単に解決出来ないと分かっていた、だけどやはり 自分勝手に生きて誰かを傷つけるような人間にはなってほしくないのだ

蒼依は、欲望のために姉を襲った人物がいた事を強く覚えている

そして蒼依は守るために暴走してしまった事、暴走する事で他者を傷つけた粛清されて家族を悲しませてしまうことがある事も、蒼依は自身の経験と鬼焚部の活動で知ったのだ

そして、所詮これは自身の勝手な考えであることも、蒼依は理解していた…

 

「『こちら北空、敵と遭遇、これより対処します』」

連絡を終え、恵は視線の先にいる敵へと歩み寄る

立ち尽くしている少女は、ブツブツと絶えず呟いている

非常に痩せた体形で 戦いとは無縁といった姿だが、彼らは魔力を操る術知っている、故に油断はできなかった

ある程度の距離まで近づくと、彼女はこちらに気付いたのか呟きを止める

そして恵の姿を見るなり、彼女を包む雰囲気は禍々しく歪んでいった

恵を睨むその目付きは悪く 、せっかくの顔立ちが台無しにしていた

「…貴女、もしかして縁(ゆかり)さんじゃない…?」

恵は確認をするが、彼女は無反応で睨み続けるだけであった

しかし恵は 縁の存在を確かに認識していた

彼女は同学年で 他のクラスに在籍している女子である、いつもどこか暗い雰囲気を纏わせて、無口な彼女は なかなか近寄りがたい存在であった

「…紫さん、女の子同士が戦いあうのって私どうかと思うの、だから出来れば降参して?穏便にいきましょうよ」

恵は笑顔で紫に問い掛け、説得をしようと試みる

しかし彼女は恵を睨み、いつの間にか出した鬼火をけしかける

不意打ちであったが、恵は難なく鬼火を打ち払い、木刀を構える

「…そう、どうしても駄目なのね、…なら私は手加減しない、皆の平和のために、貴女を打ち負かす!!」

そして恵は 紫に向かって走り出す

対する紫は、恵の言葉を聞いて強く歯軋りをする

そしてブツブツと呪文を絶え間なく唱え、いくつもの鬼火が出現しては恵へと向かってゆく

鬼火の弾幕に、恵は避けながら間合いを少しずつ詰めてゆく

時折避けきれないものは木刀で打ち払い、あと数メートルといった所だった

紫はニヤリと不気味に笑い、恵は背後からの迫る気配に気付く

紙一重で恵は木刀で打ち払い、背後から迫る数多の鬼火の存在に息をのむ

恵は前後からの鬼火に襲われ、紫に近寄る事が出来なくなっていた

まるで紫と戦っているのではなく、鬼火と戦っている様な状態であった

「…ねぇ紫さん!どうしてナイトメーカーに、魔鬼の仲間になったの?…理由も分からず貴女を攻撃するのは良くない気がするの!」

あまり余裕はないが、恵はどうしても気にかかり、紫に聞いてみる

しかし彼女は呪文を絶えず呟き続け、返答する様子は無かった

…鬱陶しい

「…え?紫さん、今答えた!?」

恵の聞き違いか、暗く睨みつける彼女の様子に変わりなかった

…このままでは消費する一方で、悪循環に陥っている

状況を変えるため、恵は意を決して鬼火を払うのを止める

そして構えを解き肩の力を抜いて、深呼吸を始める

しかし鬼火は容赦無く恵へと迫り、そして彼女の身体を包み込んだ

「…ッ!!」

全身を包む灼熱の感覚、しかし恵は構わず呼吸を整える

その合間にも、次々と鬼火は恵に衝突する

まるで恵を燃料として燃えている様に、炎の渦が立ち上る

その様子に紫はニヤリと笑い、恵が勝負を諦めて負けを認めたと判断した

しかし、突然 風が吹きこんできた

だが鬼火は魔力によるものであり、物理的な影響で消える事は無い

紫は多少焦るものの安堵し勝ち誇った気になったその時、紫はその光景に目を疑い、再び恵を睨みつけた

…恵の立つ炎の内側から、すこしずつ紐を解くように火が消えてゆく…

やがて段々と解かれてゆく炎の紐の大きさは広がり、涼しい顔をして恵は目を開いた

紫は呪文を絶えず呟き、鬼火を再びけしかけた

しかし恵の一定範囲に近づくと、鬼火は宙へと消えて行った

「…良かった、ちゃんと出来た」

その力は、己に宿る巫鬼、巫女の遺伝子の力であった

恵は 魅里(みさと)との稽古を思い出す

「恵ちゃんって巫女の遺伝子があるんだよね?だったらその力も生かさなくちゃ」

『でもどうやったらいいんですか?』

「何、簡単な事だよ、深呼吸して落ち着いて、周囲の空気を感じ取りながら、気を静めて…」

魅里の指示通り、恵は深く呼吸をする

かなり長い間そうしていただろうか、無心でいた恵に魅里は忍び寄り、強く握り締めて木の棒を振り下ろした

…次の瞬間には、魅里は地面へ倒れていた

「…うん、ちゃんと使えるじゃないか!」

魅里は立ち上がりそう言うが、恵はいまいち状況を掴めていなかった

しかし、大人である魅里を倒したのは 稽古の中でもこれが初めてであり、そう考えると ちゃんと力が引き出せたのではないかと、半信半疑ながら納得した

「…でも、魅里さんはどうして 巫女の力を引き出す方法を知っていたのですか?」

恵は魅里に質問するが、魅里はクスクスと笑いだした

「…なんちゃって、私は何も知らない、それっぽい事を適当に言っただけよ、…だってどんな力か見つけるのはアナタ自身の事だからね」

『でも、だったらどうして今、力が身に付いたのですか?』

「これまた単純な事、色々心の整理がついて 迷いなく行動したからよ、今の力も恵ちゃんが思ったように力が発動しただけ、…だから巫女の遺伝子に従った力、静める力が発動できたの」

…これが貴女の力、もし使う時になっても、今日の事を思い出して、焦らずにやるのよ?

最後の魅里の言葉に、恵は強く言い聞かせる

…紫は何度も鬼火を出すが、成果は無く全て宙へと消えて行った

「…紫さん、もう終わりにしましょう?私も人を傷つけるのは不本意なの、…ね?紫さん?」

優しく説得する恵だが、追いつめられている紫には届かない

そして、紫は顔を伏せ呟き始めると、その声は段々と大きくなっていった

「……い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い、鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい…」

その様子に恵は硬直する、そして彼女は堪えていた感情を爆発させた

「アンタ 目障りなのよおおおおおおおおおおおおおお!!」

思わぬ言葉に恵は声を詰まらせる

…そして同時に、紫は恵に対して 面と向かって本心を語っている事に気付く

「アンタさあ、邪魔なのよ、…アンタはいつも、誰もかれもに好かれて、アタシみたいな根暗な奴の事なんて全く気にせず、毎日毎日楽しそうにして…!!アタシは誰にも話しかけられず孤独に過ごしているなんて知らずに……!!」

紫は一度呼吸を整え、構わず話し続ける

「アンタがいなければ私はもっと幸せに過ごせたのよ!!…アンタさえ、アンタさえいなければぁ…!!」

紫はそう念を込めて呟いていたが、…恵はただ茫然としていた

彼女の言葉を要約すると、それはすなわち妬みであり、恵はとばっちりを受けていただけとなる

恵は何とも釈然としない気持ちになる、だが同時に一つ許せない点も感じて、紫に問いただした

「…紫さん、真面目に答えて、……貴女はこれまで巻き込んだ人の事をどう思っているの?」

しかし錯乱気味に紫は返答した

「はぁ?そんなやつのこと覚えてるわけ無いでしょ!!そんなのどうでもいいに決まっているでしょ!!」

紫の答えに恵は決心をする、その瞳は冷たく真っ直ぐな意思が込められていた

「…そう、なら私は貴女をこのまま許すわけにはいかない」

恵はそう言って、木刀を紫へ向けて構えた

紫は恵の言葉に突っかかり、激昂する

「許さないだぁ?何言ってるのよ!!許さないのはこっちの方よ!!…お前なんて、消えてしまえええええええええ!!」

紫は転がっている石を拾い上げると、叫びながら恵へと闇雲に突っ込んだ

そして紫は恵へと石を投げるが、恵は冷静に木刀で打ち払う

紫は構わず近づくと、懐に忍ばせていたカッターナイフを取り出し、恵へと振りかぶった

…空は既に赤く染まっていた

恵は襲ってきた紫に対して、構えていた木刀を手放しその手首を掴んだ

そして縁の走る方向に一度引っ張り、続けて前方へと力を掛ける、そして軸足を弾き紫を地面へと叩き伏せた

痩せこけた身体にこの衝撃は相当に効き、肺の空気を吐き出すと共に身体の力が抜けていた

恵は落ちたカッターナイフを回収すると、徐に紫に話しかけた

「…ねぇ紫さん、私の事そんなに嫌っていたの?」

静かに問い掛ける恵に対して、まだ口は達者であり、レベルの低い罵倒を交えながら否定していた

「ハァ!?気安く話しかけるなこの尻軽女!!嫌いに決まってるだろバーカ!!さっさとくたばっちまえ!!」

紫は立ち上がり抵抗しようとするが、身体のダメージに加え 未だに発動している恵の能力により浄化・弱体化され、力を入れる事が出来なかった

流石の恵もちょっと苛立ったのか、指先で紫の額をパシッと引っ叩いた

「…本当に嫌われちゃってるみたいね、……でも私貴女の事嫌いじゃないわ」

ちょっと寂しげに恵は話す、その様子に紫は静かに言い返した

「…何よ、アンタの事はこれからも大嫌いだから、どうせその言葉も建前でしょ」

恵は黙って首を横に振る

「ううん…本当、嘘じゃなくてあなたと話がしたいの、…だって貴女の顔、とても綺麗だもの」

恵は紫の骨格に合わせてそっと顔に触れる、紫は思わぬ行動に心を掴まれる

「わ、わわ…私、……って何 気安く私に触れるんだ!!このすけこまし!!」

紫は挙動不審になって、思わず妙な罵倒を挟んでしまう

「ねぇ、これから友達になりましょう?私貴女と仲良くなりたい!」

恵は穏やかに紫へ微笑む、そして紫は罵倒して肯定しなかった

しかし彼女の罵倒には否定の言葉はなかった…

 

…恵は紫の肩を担ぎ、来た道へ戻ってゆく

「そうだ、早く合流しないと」

恵はふと気付き、無線で連絡を回す

「『こちら北空、無事戦闘終了、負傷した相手と共に分かれ道に戻ります』」

恵が連絡を終えると紫は口を開く、その声は出会った時と比べて聞き取りやすい声であり、真剣な口調であった

「…鬼匣の元へ行くのね、だったら急いだ方がいい、もう少しで陽が落ちてしまうわ」

突然 友好的な事を言う紫に 恵は少し驚いた表情をするが、紫は考えている事を呟く

「あいつは私達の事を利用していただけみたいでね、やっぱり信用していないんだと思うわ、…私に構わずさっさと止めに行けば良いじゃない」

負傷している紫に「でも…」と恵は心配するが、紫は否定しながら言い返す

「アンタに心配されなくても私は一人で戻れるわ、…嗚呼、身体も痛いしもう戦う気なんてないから無視して行けばいいじゃない」

紫の言葉を聞いて、恵は彼女をきゅっと抱きしめて走り去っていった…

しばらく紫は立ち尽くしていたが、真っ赤になった顔を伏せながら、ゆっくり恵の後を歩いて行った…

 

 

…それは今日の昼頃、鬼焚部の皆が集まってすぐの事

「…皆に話しておきたい事があるんだ」

真剣な様子で話しだす統司に、皆は心配そうな顔をする

「…どうした、奴らに関しての情報なのか?」

『あ、いえ、そうじゃないです、…俺個人の話です』

詩月が誤解して聞き返したことで、統司は見当外れの心配を掛けさせた事を訂正し、補足して改めて話し始めた

「…一応言っておこうと思って、……もしかすると俺、この戦いが終わったら、引っ越すことになるかもしれない」

統司の告白に部員の皆は少しざわつく

「転校…か、もしかして ここが嫌になったのか?」

詩月の問いかけに、統司は慌てて否定する

「そんなことはありません!…でもそう言う話があったので、一応話しておくべきかと思っただけです」

詩月は統司の言葉に頷き、再度問い掛ける

「…それで、お前の返事はどうするつもりだ?」

…答えは決まっています、統司はそう口にする

 

…統司はひたすらに先を進むが、一向に人の気配を感じ取れない

もしかすると、こんな時に限って迷ってしまったかも知れないと思い、道を引き返そうとする

すると引き留めるかのように、背後から異常に歪んだ気配を放たれ、思わず振り返る、だが何者もそこにはいなかった

しかし視線の先には、指定したと思われる神社が見えた

…もしかすると、鬼匣の術中に掛かっていたのかもしれない、しかしそれでも先に進むことが正しいのだろう

統司は息を整えながら、歩いて神社へと向かう

神社とは言うが、風雨に曝されていた事で柱が崩れ落ち既に崩壊しており、苔や草木に蝕まれて、端から見ても神社だった事に疑いを抱く状態であった

…そして鬼匣は地面に胡坐をかいて、気楽な様子で待っていた

「『こちら霧海、鬼匣と遭遇した、これから戦闘になるが、返事ができなくなると思う、…オーバー』」

統司は皆へ連絡を送る、そして皆から応援する返事が返ってくる

中には戦闘中と思わしき状況の者もいたが、そんな状態でも気にかけてくれる仲間に強く励まされ、深く感謝していた

「…やぁやぁ統司君!!待ちかねたよ〜!!」

普段飄々としている鬼匣は、いつにも増して妙に機嫌が良かった

「…ああ、今日でお前の企みもお仕舞いだ」

統司は静かに言い放つ、奴を倒す事が出来れば被害を出さなくて済むのだ

「それじゃすぐに始めようか!戦いの前に無駄話なんて無粋だろう?」

鬼匣は意気揚々に声を上げると、足元に転がしていた鉄パイプを拾い上げる

「君も武器を使うんだから、これで対等になるよね!」

そう言って鬼匣は準備運動のつもりで 気楽に鉄パイプ振るうが、手に力が入らないのか手から離れてしまう

そして何かに気付くと、鬼匣は嬉しそうに声に出した

「あー、なるほどね!どうやらしっかり強くなってきたみたいだね、君の声を聞くだけで力が抜けるって訳だ」

やはり侮れない相手の様だ、統司が新たに得た力をいとも容易く鬼匣は感知していた

鬼匣は鉄パイプを拾い上げると、肩を軽く回して統司と向かい合った

「それじゃ僕は準備オーケーだよ、…君も心構えはできた?ここからは真剣勝負だ、それに早くしないと陽が沈んじゃうからね」

鬼匣の言葉に統司は黙って頷き、真っ直ぐ見据えて構える

統司は息をのみ、始めの言葉を言い放つ

「…覚悟しろ、鬼匣(たかおり)月兎(つきと)」

『…それは君も同じだね』

そして二人は互いの力を振い、決戦が静かに始まった

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

統司は気迫を込めて叫び、渾身の力で木刀を振り下ろす

対して鬼匣は平然とした表情で鉄パイプを振るう

互いの力は均衡しており、鍔迫り合いとなるが互いに一歩引いて間合いを取る

統司は走り、間合いに入ると素早く一回転して勢いよく横に振るう

鬼匣は上体を反らして避け 統司の顔へ鉄パイプを突きだす

間一髪かわし、同様に統司も木刀を突き出す

しかし木刀の動きは止まる、鬼匣は笑顔のまま木刀を掴み 勢いを殺していた

統司は声を上げながら鬼匣へ蹴り入れるが、鬼匣は木刀を手放すとひょいと避ける

再び間合いを取り、統司は叫び鬼匣を問いただした

「鬼匣!!お前は一体何のために人を巻き込んでいるんだ!!何故こんな事をした!!」

統司は声と同時に力ませながら、続け様に木刀を振う

鬼匣は平気な様子で鉄パイプで受け流し、互いの武器が衝突音を放つ

「僕が今までやってきた理由?……良い質問だね、僕も君には話しておきたかったんだー」

鬼匣はぴょんぴょんと、異常な跳躍力で統司とかなり間合いを取った

「…それはね、僕自身も分からないんだよ、…理由がね」

鬼匣の答えに統司は愕然とする、

「ふざけんじゃねぇぞ!!“分からない”なんて答えで済むと思うんじゃねぇよ!!お前のせいで人が死んで、どれだけの人間が傷ついたと思う!!」

しかし鬼匣は目を開き、真剣な面持ちで答える

「…これは嘘じゃないさ、…それに僕だって自分の行いが間違っているってことは分かっている、…けどね、止められないんだ、僕の中に流れる血がやれって言うんだよ」

ゆっくりと鬼匣は近づき、統司に真意を答えた

「…だから僕はやるんだよ!魔鬼が世界を支配し、人を混沌に導くためにね!」

その瞳は異様に赤く輝いていた、…鬼匣は本気なのだろう

そして統司は再び鬼匣に攻撃をけしかける

飄々とした調子で笑みを絶やさなかった鬼匣はしばらく真剣な表情で戦っていたが、すぐに調子を戻して話し始める

「ああ、ちなみに僕らが暴走を引き起こしたのは、6月の雨の日と、7月、で8月の新月の日に、10月の新月と文化祭の満月の日、そして11月の昼間の日に、最後この間と、……全部で7回か、意外とあったね〜」

神経を逆撫でるように、冗談交じりに話す鬼匣に統司は苛立ちを感じる

6月、統司は2度目の活動で初めて粛清を目の当たりにし、人の命が失われる瞬間をしかと焼きつけていた

「6月の暴走事件、そのときの暴走者は粛清された!!お前が暴走させなければこんな悲劇は起きなかったんだぞ!」

木刀を鬼匣に向け振いつつ、統司は鬼匣を糾弾する

鬼匣は相も変わらず平然とした様子で返答する

「嗚呼、うん、そうだね、…でも彼はきっと運が悪かったんじゃないかな?僕達がやったのは暴走させただけだしね」

…そうだ、鬼匣は暴走させただけで、後の被害は全て暴走した彼の仕業なのだ

だが、だからこそ正当化しようとする鬼匣に怒りを覚える

「だけど、だからこそ許せない!!原因さえなければあいつは死ぬ事なんて無かったんだ!!」

鬼匣は何も答えない、それは己の行為がどの様なものかちゃんと理解しているからかだろうか

数十分、統司と鬼匣は一進一退の攻防を続けるが、互いに疲労のみが蓄積しダメージを一度も与えられていなかった

「…ねぇ、君たちは、君はこうやって戦っていて、何か思う事は無いのかな?…それともやっぱりこの戦いは、狩る者の立場だからかなぁ」

力のぶつかり合い、戦いの最中にも関わらず、鬼匣は余裕そうな表情で統司に問う

「別に単刀直入に言っても構わないけど、そこまで君が耐える保証は無いからね、…まぁ僕自身の限界は分かってる事だし」

『一体何が言いたいんだ!』

木刀を強く握り、それに比例して統司は強い口調で言い返す

「単刀直入に言おう、…君は、君自身が戦いによって死ぬ事を想像したことはないのかなってさ?」

微笑みながらそう問い掛ける鬼匣に、統司は微かに恐怖心を覚える

そしてその問いの答えを統司は考える、だがその事にわずかに気を取られ、木刀を握る力がほんの少し鈍った

「ほらぁ!油断して心が揺らぐと反撃されるぞ!?」

微かな油断を逃さず、鬼匣は攻撃を強め、統司の体勢を崩す

統司は後ろに下がりつつ立て直し、再び反撃に移る

戦いによる不慮の死、今まで鬼焚部は被害を抑えるために活動してきた

そしてその目的のためには、粛清が必要となる

…“狩る側”、鬼焚部との関係性を表すのに確かにその例えは的を射ている

そして狩られる側に立った事は未だに無い、そしてその可能性は微塵も感じていなかった

だが何故この場で問い掛けたのか、動揺を誘うためか、それとも何か別の目的が…?

例えば よりよい存在に導くためだとか、そういった逆の目的に…?

…しかし非情にも、彼の運命は迫っていたのだ

「…君に一つ残念なお知らせだ、…どうやらタイムリミットの様だね」

その言葉に統司は疑問を抱くが、鬼匣の言動に察しがついて空を見上げる

陽はもう沈みきるところであり、空は藍色に染まっていた

…ガッ!!

気配を消して忍び寄る鬼匣に統司は気づくこと無く、その背に強い衝撃が走る

統司は地に倒れ 鈍い痛みに耐える、そしてゆっくりと立ち上がりふらつきながらも鬼匣に構える

しかし鬼匣は目の前から姿をくらませ、統司の横に忍び寄ると2撃3撃と鉄パイプを振るい、統司に深くダメージを与える、

攻撃の影響で統司に繋がるイヤフォンコードが千切れ飛ぶ

統司は力無く倒れ、夜になるにつれ赤く輝く異様な瞳で、統司を見据えて言い放った

「…それじゃあ、君にも狩られる側の気分を味わってもらうとしようか、何事も経験だ、では始めよう、恐怖と…そして絶望に、飲まれる感覚を!!」

叩きのめされて、体が鉛のように重く感じるが、統司は力を振り絞り立ち上がる

…体がふらつくのを感じ、自身の体を薄い目つきで統司は確認する

だが途端に圧倒的に不快な、全身が拒否感を示す空気に辺りは支配され、統司はその感覚に包みこまれる

全身が震えだし、氷漬けにされるような冷たい感覚、そして叫び出したくなる様な真っ暗な感覚に襲われ、統司は体を絞める

…準備は整い、鬼匣は静かに発した

「…デビル・フレア」

鬼匣の行動に統司は気付き、平静を取り戻しつつ木刀を構えたが、…しかしどうあっても統司の反応は遅かった

統司の全身を覆う程の、紫交じりの黒い炎、巨大な鬼火が統司の足元から発生し、その身を焼かれた

熱とは言い難い 鋭い痛み、そして炎と思えぬ冷たい衝撃

「あ、嗚呼、グアアアアアアアアアア!!」

統司は火を払う事もなく“諦める”、そして本能のままに悲鳴を上げる

…“絶望”、そうとしか言えぬ真っ黒な負の心に、統司は支配された

鬼火に物理的反応は起こることは無い、感覚だけが伝わる錯覚である、意思をもって払えば、鬼火は消える筈なのだ

だが統司は払う素振りもせずに、ただその力に屈し身を任せた

…それが鬼匣の実力、魔鬼の存在による、魔力を操る術の本質

統司の意識は薄れ、地に伏せる

まだ呼吸は続いているが その息はか弱く、立ち上がる気配は全くなかった

…統司は魔鬼の力に、鬼匣に敗れたのだった

 

…以前夢に見た、統司が灰となり消えた時 暗黒の世界

宙に浮かぶ統司はゆっくりと目を開く

意識ははっきりとしていた、これが現実ではない事を感覚で気付く

薄い眼差しの先に、満月が浮かび煌々と輝く

やがて満月は強く光り出し、その眩い光は人の姿を象る

(……お久しぶり…なんだろうね、統司さん)

その姿 統司に話しかけるその人物は、母“癒唯”に非常に似た顔立ちの 小さな背丈の巫女服の少女「霧(きり)月(づき)真(ま)海(み)」

統司は話しかけようとするが、声は出なかった

それどころか口も動かず、身体中が重く縛られた感覚、意識を失った程に 統司は夢の中でも疲弊しているのである

(ふふふ、酷くやられちゃったみたいね)

統司の様子を見て、霧月は悪戯に笑った

(…あまり話せる時間も無いから、早速君に聞きたいんだ、…統司さんは、これからどうしたい?…大丈夫、君が喋れなくても心は繋がっているから、気持ちは分かるから)

霧月は優しく微笑みかけると、目を閉じ胸に手を当てる、そして統司も目を閉じ自身の想いを強く念じた

……諦めたくない、皆を守りたい

(…そうだね、私もここの人たちを悲しませたくない)

霧月はゆっくり瞳を開き、統司に返事を返した

すぅっと滑るように霧月は統司に近づき、そっと頬を撫でる

我が子を慈しむ様な、優しい表情で霧月は話しかけた

(…君に力を貸してあげる、だけど一つ条件があるんだ、……統司さんに聞くよ、“彼を赦す事が出来ますか?”)

その言葉に統司は、驚いて霧月に視線を向けたが、霧月は寂しそうな笑顔で口を開いた

(…どうやらもうお別れの時間みたいだ、…統司さんにお迎えだよ)

そして霧月はゆっくりと離れていき、徐々に光へと変わってゆく

(……もう君とは逢えないと思う、だけど私は君の中でいつまでも見守っているからね、…それじゃあ統司さん、さようなら…!)

夢の最後の光景は、目元に涙を浮かべた満面の笑みであった

 

…誰かに呼ばれている気がする

「統司君!統司君!!起きて!目を覚ましてよ!ねぇ!!」

頬に一滴の雫が落ちて、統司の頬を伝ってゆく

統司はゆっくりと瞼を開き、その瞳に涙目の恵の顔を映し出す

「……恵…か、…ごめん、ありがとう」

恵は涙を拭い、「良かったぁ…」と胸を撫で下ろす

統司は木刀を杖代わりに一人で立とうとするが、すぐに恵は肩を貸して起き上がらせた

一方 鬼匣は足を伸ばし のうのうと星空を眺めていた、しかし統司が立ち上がったのに気付くと、両手をついて立ち上がる

「あ、起きた?…いやぁ本気出したら一発で倒れちゃったものだから驚いたよ」

本当に敵なのか疑うほどに、彼は緊張感無くそう話しだす

「…それで、どうだった?……絶望する感覚は…?」

そう言い放つ鬼匣の瞳は赤く、一変して不気味な様子であった

だが統司は傷ついた身体ではあるが、臆することなく静かに言い返した

「…嗚呼、よく分かったよ、……一人じゃ駄目だったが、今度こそ負けない」

統司は後ろを振り返ると、一足先に着いた恵に引き続き、篠森、詩月、月雨、魁魅、蒼依が急いでやってきた

「…待たせたな霧海、…大丈夫だったか?」

皆一様に統司の心配をし、詩月が声をかける

「…嗚呼 悪い、一度負けました、…だから今度は皆の力を貸してくれ」

統司はまだぼんやりとした意識のまま、敬語交じりに皆にそう言うと、各々は統司に返事を返した

「勿論!統司君の力になりたい!」

『…当たり前です、早く彼を倒してしまいましょう、先輩』

「そうだな、ここが鬼焚部の正念場だな」

『もっちろん!私も頑張るからねっ!』

「へへっ、やっと俺を頼ってくれたな?頼られたからにゃ本気でいくぜ!」

『奴には随分煮え湯を飲まされたからな、反撃と行こうか』

統司には頼れる仲間がいる事を強く痛感する

そして統司は無線が通じない事を皆に話すと、改めて鬼匣と向き合う

7対1、数で言えば圧倒的に不利であり これでは私刑と違わない、にも拘らず鬼匣は飄々とした様子で口を開いた

「……どうやら役者は揃った様だね、…それじゃあこれからは全力で戦うとしようかな、…これが、最後だよ!!」

一変して珍しく声を上げる鬼匣、そしてその声に反映する様に辺りの空気が不穏なものへと変わってゆく…

地より黒い瘴気が溢れ出す、そして空気が鬼匣へと渦巻く

背筋が凍る様な、それでいて生温かく蒸し暑く感じる様な、異様な空気

それは鬼火を出すときの空気に似ていた、しかし非情に濃いその空気は身体に纏わりつき、恐怖心を逆撫でられる様であった

やがて鬼匣のその身体は黒い瘴気に包まれる、そして瘴気は渦を巻きより巨大化していった

その中心に立つ鬼匣はどうなっているのかと気になった矢先、大きな唸り声が立ち上った

その声は獣と表現するにはあまりに重たく、地を揺るがしてピキピキと割れるような音を立たせる

そしてその咆哮による衝撃波は、身体を引き裂くように体中を痺れさせる

「グォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

再び唸り声を上げると、鬼匣を包む巨大な瘴気は打ち払われた

…そして、現れた姿に一同は自らの目を疑った

そこに佇むは四本足で立つ数メートルの真黒い巨躯、骨格は歪に硬質化し、全身の肌は濁り反射する肌に覆われ、爪先は獣の様に尖り、蜥蜴の様な尾を生やす、…頭部に鬼匣であった痕跡は無く、捻れた一本の黒角が額から生え、目は丸く赤く輝き、虎の様に牙を剥き出しにしていた

……その姿は、“鬼”と呼ぶには禍々しく、“怪物”と呼ぶべきといった姿

これが魔鬼の持つ“魔力を操る術を知る”力の本領なのか

「…お前、鬼匣…なのか?……それが真の姿とでも言うのか…!?」

怪物に聞こえるように、統司は声を上げる

怪物は、不愉快に大きく笑い声を上げると、その大きな口を開く

「……驚イタカ!!…ソウダ、コレガ俺ノ本当ノ姿ト言ウ訳ダ!!」

口調は変わり果て、微かに反響して聞こえる地鳴りのような声で、怪物と成果てた鬼匣はそう声を上げていた

「サア、戦エ!神魅ノ者共!!…俺ハコノ時コノ場ヨリ魔鬼ノ繁栄ヲ宣言スル!!…サァ、オ前達ハコノ礎ノ犠牲トナルガ良イ!!」

怪物はそう言い放ち、巨大な前足を振り上げ、地に振り下ろした

面々はとっさに避け下敷きになりはしなかったが、その攻撃の影響は凄まじく、地は激しく揺れ動き 地に立つ者はよろけ、風圧による衝撃波で身体の軽い者を吹き飛ばす、そして振り下ろした個所には 五角形の足跡を残していた

明確な敵意を向けられ、戦う意思を決する

どの様に攻めるべきかを考えるよりも早く、別々に攻撃を仕掛けていた

篠森は鬼火を絶えず放つが、身体に触れた途端に火は消える

後の皆は直接攻撃を叩きこむ、殴る感覚に手応えはあり、その衝撃は足を少しだけずらす程には影響を与えていたが、怪物の表情は変わる事無く涼しい顔をしていた

「ソレデ終ワリナノカ!!オ前ラァ!!」

怪物はそう言い放つと、前足を横に振り、後足で蹴り、尾を振り回して攻撃していた統司達を弾き飛ばした

何とか攻撃を逸らしたり、防いだり受け身を取ったりと、痛手は免れたが、それでもその巨躯から放たれた攻撃は、力は籠らずとも相当な衝撃を持ち、全員ダメージを負ったのであった

…このままでは負ける、力を合わせて攻撃しなければ、彼を倒す事は到底できない

統司は一度引いて様子を見るようにと声を上げる

何か作戦を立てて行動するために、一度統率するべきであった

しかし怪物は一人一人へと攻撃を始め、容赦無く潰そうとしていた

…やがて有効打とは言えないだろうが統司は作戦を一つ思いつき、これからの行動を支持する

「…これからは自由行動せずに作戦の基にして戦う、そうしないとアイツとはまともに戦えない、…それで最初の作戦だ、アイツの両目を潰して行動力を少し封じる」

統司の最初の作戦に蒼依は反応を返す

「…なんかすげぇ事言ってないか?…でも良いのかよ、そんな事をして?」

しかし統司は首を横に振り、緊迫した様子で言い返した

「…形振(なりふ)りは構っていられない、今はとにかくアイツを倒す事に集中するしかないんだ」

統司の言葉を聞いて、魁魅は統司の意見に賛成する

「統司の意見に賛同だ、最早あいつは人の身から大きく逸脱している、相応の事で無ければこんな姿でいる筈がない」

魁魅の言葉に一同は作戦に賛同する、やがて統司は役割と行動を指示し、開始の合図を取る

「絶対、無理はするなよ!……それじゃあ行くぞ!作戦開始!!」

一同は散開しつつ怪物へと迫る

先程統司は月雨の力の事を知り、そして詩月と共に役割を告げていた

怪物は攻撃を絶えず攻撃を続けるが、その都度対処して 隙を見ては攻撃を放っていた

大したダメージは通らないが、これは注意を他に逸らすためであった

そして詩月と月雨は怪物の懐に潜り込むと、何とか気配を断ちながら連絡を取る、二人から連絡を受けるとタイミングを計り、次の手へと進めた

「いけるか月雨よ?」

『へへん!私だって鬼の血は強いんだからね!』

……3!2!1!

「『せーの!!』」

詩月と月雨は声を合わせ、それぞれの前足に一撃を叩きこむ

そして勢いよくバランスを崩した怪物は、頭から地面に倒れ 地を唸らせる

「いくぞ!恵!」

『うん、分かった!』

声を掛け合うと、急いで二人は怪物の身体に駆け上がり、眼に木刀を強く突きたてた

鈍い感触が伝わった事を感じると、すぐさま木刀を引き抜く

同時に怪物は重い悲鳴を上げると、前足を強く振り上げた

統司と恵は飛び降り着地すると、駈け出して間合いを取る

一同は十分に距離を取って様子を見る、怪物は暴れ狂うがすぐに落ち着きを取り戻し、その両目は瞼で塞がっていた

次の策を考えようとした矢先、周囲に妙な気配を感じる

そして再び黒い瘴気が地面から吹き出すと、鬼焚部員一人一人を狙う様に、地から紫色の鬼火が立ち上った

皆は鬼火に包まれてしまうが すぐに振り払う、どうやら統司の受けた鬼火程の威力は無い様であった

しかしそれでも面々は身体を抑え、ダメージと疲労を抱えていた

すると眼を塞がれた怪物は、不気味に口角を上げて口を開いた

「眼ヲ塞イデ行動ヲ奪ッタツモリカ、ダガ逆効果ダッタナァ!!魔鬼デアル俺ハ闇ニ染マル程ニ力ヲ増ス、視界ガ断タレタガ故ニ俺ハ強クナッタゾ!」

怪物から告げられた言葉に、一同は愕然とし思わず話し始める

「おいおいまじかよ…、どうすんだよ霧海、失敗どころか逆効果みたいだけどどうすんだ?…次の作戦は?」

蒼依は統司に 続け様に質問をするが、統司はすぐには答えられなかった

「作戦ミスだったみたいですまない、…だけど待ってくれ、逆効果とは言え相当にダメージは通った筈、それに自ら攻撃してこない所を見ると、他の感覚が鋭いというわけでもなさそうだ…、わざとそうしている可能性も否定できないけど」

その間、一同は攻撃せず様子を見ている所為か怪物の動きは止まっていた

しかし絶えず不規則に地面から紫の火柱が立ち上るため、油断していると火達磨になり大きく体力を削がれてしまう為、鬼火に注意していた

やがて作戦を思いつくと、統司は再び役割を指示し、作戦を開始する

「オラオラ!俺はこっちだぜ!!」

大声を出しながら蒼依は挑発し、怪物の背後を取る

しかし怪物は尾を大きく振り回し蹴散らそうとする

蒼依は器用に避け続けていたが、尾はその背後に迫り蒼依を吹き飛ばした

しかし蒼依は滑るように受け身を取り、その瞳は赤く輝いていた

「ふざけていないで早く持ち場に付け!」

魁魅は無線で蒼依を叱るが、当の本人は気にせず言い返す

「了解、これで俺も準備が整ったんだよ!」

そして統司と恵は入れ替わるように囮となり、作戦の準備が整う

統司はタイミングを取り、手筈を進める

魁魅と詩月は前足を、月雨と蒼依は後足へと同時に、足元に強い一撃を叩きこみ、怪物のバランスを崩す

しかし力量に差異があるせいか同時に崩れはせず、怪物は倒れ込むように胴体から崩れ落ちた

「今だ!いくぞ!!」

統司の掛け声で、恵は怪物の頭部へと走る

倒れたとしてもすぐに起き上がってしまうだろう、しかしそれでも統司は己の考えを信じて行動に移す

「いっけー!統司君!!」

月雨は叫びながら、起き上がろうとする怪物の足を殴り、起き上がる事を阻止していた

それは他の仲間も同じであった、詩月、魁魅、蒼依もまた攻撃の手を休めていなかった

…無茶な行動でも、仲間に助けられて成功できる

統司は怪物の乗り上げると木刀を握り締め、頭部から地面に落ちるように飛び込んだ

「『たああああああああああっ!!』」

恵と統司は気を込めて木刀を振りかざす、その標的は怪物の“捻れた黒角”

二本の木刀は角に衝突すると、その反動で上へと持ち上がり 振り抜く事は出来ないが、己の武器を決して手放しはしない

地面に着地すると、統司と恵は振り返りつつ間合いを取る

「ォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!」

一同は急いで距離を取り様子を見る、怪物は断末魔をあげ、激しく暴れる

…統司は以前、妖怪によって角は弱点にもなるという事を目にした事があった、象徴的に角が存在している場合、角が無くなると象徴が薄れ力を失うと

妖怪は神や仏と近しく、象徴を持つことで力を得る存在だと

所詮インターネットで見ただけの眉唾な話であったが、方法が無いよりも、試してみるべきと思い作戦にしたのだ

結果を見るにどうやら今度の作戦は成功したようだ

一角は微かにヒビが入り、卵の殻の様に角の表面が一部剥がれ落ちた

やがて怪物は立ち上がると、咆哮して言い放つ

「グファハハハ、…中々今ノハ効イタゾ、ダガソレデ終ワリカァ!」

怪物の咆哮の威圧は凄まじく、大気を伝わる振動に身動きがとれぬ程にビリビリと身体を痺れさせる

身体を硬直させていると、不意に怪物は走り出し前足を高く上げた

身体を走る危険信号が怪物の威圧と重なり、全身で鼓動を感じる

“危ない”、そう思い顔を下へと向けると、怪物の下に人の姿が見えた

「…私の事、忘れていないかしら?」

先程から姿と共に気配を消していた篠森は、そう呟きながら怪物の懐に平然と立ち尽くしていた

「…鬼匣、私の意思を受けなさい、…デビル・フレアァ!!」

藍色の巨大な火柱が怪物の懐から立ち昇り、その業火は魔鬼である彼ですら焦れていた

怪物は上げた足と共に天高く咆哮する、そして後退り地に足を付ける

「……マダダ!!コノ程度デハ俺ハ倒セヌゾ!」

始めと比べると、怪物は息が上がっていたが、それでもまだ倒れる気配は無い

一方こちらは少しずつダメージを受け、行動する度に体力が失われて、すでに肩で息をしており、いずれ全滅が目に見えていた

…どうすれば彼を倒せる、彼に大きな一撃を与えるにはどうすればいい

統司達は必死に考える、案を出してゆくが、どれも最後の一手に結びつくことすら出来そうになかった

「…歌え!巫鬼の力、巫女ならば奴に歌が通じる筈だ!!」

不意に無線の外から女性の大声が聞こえた

声の方向を振り返ると、そこにはボロボロの陽村が凛とした様子で歩いてきたのであった

「…そう、彼も鬼であり妖怪の血を流す者ならば、聖歌で静められる筈」

全く異なる雰囲気を纏う、巫女を宿した月雨の声に一同は驚いていたが、一言補足して月雨は構わず続けた

「…私は月雨の中に住まう神魅の巫女、…さぁ歌いましょう、これが今出来る最大の策よ」

巫女の言葉に統司は掛ける、そして最後の作戦を指示する

「…俺達巫鬼の血を持つ者と月雨先輩で聖歌を歌う、それまでなんとか食い止めてくれ」

しかし篠森一人は、作戦に個人的に異議を唱えていた

「…すみませんが、私はその作戦に参加できません、私に流れる血は巫鬼の物と言えど、邪な鬼の血であり静める力を一切持ちません、…私は奴の足止めをしています」

篠森の言葉を受け止めると皆は了解し、統司は言葉を返す

「分かった、ありがとうな、…でもくれぐれも無理はしないでくれ」

心配する統司をよそに、篠森はふっと微笑し言い返す

「…ご心配なく、私を誰だと思ってるんですか?…先輩は歌だけに集中していなさいな」

篠森はそう言い返すと、怪物へと走り向かって行った

「魁魅!蒼依!俺達も篠森に続いて援護をするぞ!ここが正念場だ!!」

詩月の合図に二人は大きく返事し、走って怪物に向かって行く

…崩れ落ちた祠の前に、統司・恵・月雨・陽村は揃う

「…霧海よ、先日教えた歌は覚えているかの、まさか昨日今日で忘れたとは言うまいな」

神魅の巫女となっている月雨の凄みに、統司は戦いの最中にも拘らず畏縮する

「あ、はい、大丈夫だと思います」

統司の答えを聞いて、神魅の巫女はフッと微笑する

「そうか ならば良い、…そう固くならずとも良い、重要なのは音階よ、詩を忘れたとしてもお主は音を合わせて歌えばよい」

そして神魅の巫女の指示で、目を瞑り深く呼吸をする

不要な力を抜き、4人は呼吸を合わせる

静かに呼吸を合わせていると、恵の力が発動し 辺りの空気が澄んでゆく…

しかし統司達の策に気付いた怪物は、低い声を響かせながら四足で走り近付く

「サセルカアアアアアアアア!!」

思わず統司は気を乱すが、目にする光景に統司は再び呼吸を合わせる始めた

「それはこっちの台詞だ、鬼匣ぃぃぃぃぃ!!」

蒼依達は必死に怪物を食い止める、歯を食いしばり強く踏ん張り、蒼依と魁魅はその前足を引き留める

篠森は全力で己の力を放ち、その身に禍々しい魔鬼の力を吸い取ってゆく

その重く歪んだ魔力に 篠森は肉体も精神も押し潰されそうになるが、並はずれた強い意志で、精一杯耐え続けていた

三人がかりで抑えつけられている事で、怪物は一歩たりとも歩む事が出来なかった

「三人とも良く耐えた、一旦引き剥がすぞ!」

角を生やした詩月は、渾身の力で怪物の頭に拳を叩きこんだ

怪物は大きく後退し、統司達と距離を離した

しかし既に四人は息絶え絶えであり、あまり無茶は出来なかった

だが、怪物にばかり注目していたせいで、四人は足元に注意を忘れていた

ボッ、ボッ、ボッ、ボッ

ほんの少し間隔を空けて、四人は紫の炎柱に身を包まれる

四人は悲鳴を上げる、すぐに炎は振り払われたが、四人は地に膝を付いておりこれ以上の戦闘は不可能であった

怪物は咆哮し、少ない体力に身体を引きずりながら、統司達のへと近寄る

…四人は同時に口を開き、歌を口ずさむ

足止めの甲斐があり、四人の準備は整い聖歌は始まった

突風の様に澄んだ空気が広がってゆく、その空気に怪物の身体から瘴気が溢れ出てゆく

怪物は静かに呻き、奪われてゆく力に片方の前足だけで耐えていた

統司達は一心に歌を奏でる、全ての妖怪、全ての鬼を静める聖なる歌

その歌は倒れた者の疲れを癒し、不要な力を静めてゆくのである

足止めしていた四人も、聖歌を耳にすると崩れるように地に座り込み、各々発動していた力も消えていた

「クソガァァァァァ!!貴様ラァァァァァァアアアアアアアアアア!!」

最後の力を振り絞り、四人へと地響きを立てて無様に走り寄る

しかし統司達の意思は既に固く、取り乱すこと無く怪物へと向かい合う

怪物は目前に立つと両の前足を高く上げ振り被った

…壮絶な音を響かせて、神社は跡形も無く崩壊した

煙が巻き起こり、怪物は横に倒れていた

「大丈夫か!!月雨!霧海!北空!陽村!!」

詩月を筆頭に皆は声を上げ、安否を確認する

やがて煙は落ち着き四人の立っていた場所に近づくと、四人の姿見えなかった

「…おい、嘘だろ…返事しろよ…、……オイ!」

蒼依は崩れ落ち、声を上げて地面を叩く

魁魅は不安定な崩れた神社に踏み込もうとすると、微かに物音が立った

そして連鎖する様に物音は大きくなっていた

「ん、…うんん…」

ガラガラと木の破片が崩れ、統司達は瓦礫から立ち上がる

怪物は急に膝をついて崩れ落ち、統司達は怪物の両腕の空間に立っていた事で辛うじて避ける事が出来たのである

無事を確かめて一時の喜びを分かつが、未だに怪物の意識と息は残っていた

どうやってこの場を収めるか考えようとした時、統司は思い出す

…彼を赦す事が出来ますか?

思い出した言葉は、夢で出会った霧月真海の言葉

もしかすると、この言葉の意味、返答次第で力を使えるのかもしれない

統司は目を瞑り、己に対し問い掛け、そして答えた

…統司のその手には眩く輝く、真っ白い鬼火が宿っていた

それは“鬼を滅す”聖なる巫鬼の炎であった

統司の力に一同は驚くが、その鬼火がどの様な物であるかを察すると、統司の行動の行く末を見守った

統司はふらつきながら ゆっくりと怪物の頭へと近づき、鬼火を灯した手を怪物へとかざす

 

 

 

……彼を赦す事が出来ますか?

 

…俺は、鬼匣を……赦す。

 

鬼火は静かに統司の手から離れ、怪物の身をゆっくりと包み込む

その焔に抱かれた怪物の表情はどこか安らいで見えた

…やがて白い炎は消える

 

怪物の姿は一切消え、中央には先程と変わりない姿の鬼匣が倒れていた

「……あれ、僕は一体?」

記憶が無い様に言葉を呟いていたが、すぐに状況を察して仰向けに寝転がった

「…僕の負けだ、……ほら、どうしたの?早く止めを刺さないの?粛清は?」

何時に無く邪気の抜けた清々しい表情で言う鬼匣に、統司はゆっくり近づく

そして統司が足元に立つと、鬼匣は目を閉じて別れの言葉を言う

「それじゃあさようなら霧海君、今まで楽しかったよ」

…不意に、鬼匣は腕を掴まれて驚いた顔をした

統司は鬼匣を起き上がらせていたのだった

「…え、えっと…、これはどういうことかな?説明してくれない…」

困惑する鬼匣に、統司は言い放つ

「バーカ、何が“さようなら”だ、ほら立てよ、町に帰るんだよ」

その言葉に面喰い、鬼匣は目を丸くしていた

「…ボーっとしてないで立てって、こっちも誰かさんの所為でボロボロでしんどいんだっつの」

前かがみのまま急かす統司に、鬼匣は慌てて立ち上がる

「…あ、嗚呼ゴメン、…でも、こんな僕を赦すというのかい?こんな余所者の魔鬼を…」

しかし統司は鬼匣の頭を叩くと、静かに答える

「…俺からは何も言えねぇ、…けどなお前が死んでも収まりがつかないんだよ、…それに……」

『それに…?』

統司はそこで言い掛け、鬼匣も言葉の続きが気になり聞き返す

すると統司は何かを握って鬼匣の顔の前に突き出した、それは戦いの最中に鬼匣に切断されたイヤホンの残骸であった

「お前にはこれを弁償してもらいたいからな、…結構良いやつだったんだぞ?」

統司の言葉を聞いて、鬼匣は大きく笑いだした

「アハッ、ハハハハハハハハハハハハ、まさかこんなことで命を助けられるなんて…アハハハハ」

疲れと鬼匣の態度に怒りを覚えた統司は、イヤフォンを握った拳で鳩尾を突く

無論、鬼匣は咳き込み笑いを止めた

「酷いよ統司君、鳩尾は勘弁して…」

『五月蠅い、さっさと帰るぞ』

統司はそう言い放つと木刀を拾いに歩き出す

鬼匣は想定外の事で、未だに現実味を感じていなかった、しかし統司の意思と、助かったこの神魅の地に心より感謝する

そして統司に遠回しに礼を言う、背中からで聞こえるか分からないが、…統司の好きそうな学園フィクションノベルの主人公の放つ言葉で、微かに憐れみを込めて言った

「やれやれ」…と

?

…年は明け、正月

鬼焚部の二年組と、城乃(きの)咲(ざき)要(かなめ)に藤森(ふじもり)風(ふう)牙(が)は揃って初詣へと出向いていた

恵と城乃咲、そして魁魅は着物姿であり、統司と蒼依、藤森は洋服姿であった

街中のあらゆるスピーカーからは、複数の女性の声により歌われている聖歌の録音が繰り返し流されていた

皆は会話に花を弾ませており 音に全く気に留めている様子は無いが、たった一人…統司だけは顔を俯かせて黙って歩き続けていた

「…嗚呼、早く済ませて帰りたい」

マフラーで顔を隠し、蚊の鳴く様に小さな声でそう呟いていた

…何を隠そう、只今絶賛放送中のこの聖歌の声の一人に、統司が入っているのであった

それは昨日 大晦日の昼間の事、急いだ様子で月雨に呼ばれた統司は、月雨と合流した直後引っ張られる様にビルの一室に連れて行かれた

そこには恵に陽村、そして不機嫌そうな表情の篠森も集められていた

そして唐突に月雨の指示で聖歌を歌わされる事となった

統司は立ち去ろうとしたが、月雨だけでなく他の三人にまで引き留められ、帰るに帰れない状況を作られ、統司は渋々ながら歌ったのであった

…しかしどうだろう、その時歌ったものが街中に流されると知っていたら、統司は全力で断ったか、全速力で逃げ出していただろう

そんな事から、現在の統司の気分は絶不調であった

事情の知らない蒼依達から体調の心配をされていたが、事情を知る恵は大丈夫だと四人を諭していた

…しかし、恵もこの事で「何故そんなに統司の事を知っているのか」と主に城乃咲から妙に勘繰られてしまい、顔を赤くして俯いていたのだった

やがて目的地の神社の近くに着くと、田舎町と考えたら尋常じゃない数の人に溢れ返っていた

「あはは…やっぱりまだ人が多いね」

毎年の事で慣れているのか、少し残念そうに恵は呟いた

「全くもう!初詣は夜中から始めてたでしょ!何でまだこんなに人がいるのさ!」

恵対して城乃咲はそう憤慨していた

「…で、どうすんの?やっぱりこの列並ぶんか?」

蒼依は呆れながらも、これから行動を考えていた

ちなみに統司はこの時も、「早く帰りたい…」と呟いていたのであった

「それじゃ別行動にする?確か鬼焚部の4人は先輩ん所に行くつもりなんだろ?だったらここで俺と城乃咲は並んでるからさ、先に言ってくれば?」

藤森は機転を利かせて妙案を上げ、皆はその案に賛同し 二手に分かれる事となった

…本当ならば、列の割り込みは一般常識としてはご法度なのだが、いち早く帰りたかった統司は対して気に留める事は無かった

尚 生真面目な魁魅もその事を気にしてはいたが、自身は深夜の内に参拝は済ませていたため、敢えて口には出さないでいた

そして4人は長蛇の列の横を通り、境内へと入っていった

中には縁日の様に露店が立ち並び、普段と比べ物にならぬほどに賑わっていた

露店を横目に進んでゆくと、聞き覚えのある呼び声がした

「お〜いみんな〜!!明けましておめでとさん!!」

声の方を見ると、そこには巫女服姿の月雨が待ち構えていた

「あけましておめでとうございます、月雨先輩」

恵を筆頭に新年の挨拶を交わす4人

「よく来たね!それで参拝はまだなのかな?ちゃんと神様にご挨拶しないと駄目だからね!」

元気一杯の様子の月雨は、緋袴の帯に着いた鈴をシャンシャンと小気味良く鳴らしていた

「よう、明けましておめでとう、魁魅、霧海、北空、蒼依」

横から声を掛けてきたのは、着物姿の詩月であった

「明けましておめでとうございます、詩月先輩」

魁魅がすぐに挨拶し、続けて挨拶をする3人

「ゆっくりと話をしたい所だが、生憎この参拝客の数で暇は無くてな、…月雨もこの神社の巫女なんだから、あまり油を売っている訳にはいかぬぞ?」

詩月の言葉通り、月雨の側に一人の巫女が近寄り、声をかける

「…月雨様、申し訳ありませんが社務所にて人の手が足りません、お手を取らせて申し訳ありませんが手伝って頂けないでしょうか」

丁寧な口調で月雨に頼みごとをする巫女に、見覚えがあった

「ってあれぇえ!?生徒会長じゃないっすか!!」

驚いて蒼依は声を上げるが、”生徒会長”という言葉に反応したのか、巫女服姿の陽村緋乃女は棘のある声で話しだす

「…嗚呼、君は蒼依か、私は毎年 正月はここで手伝いをさせて貰っていてな、…しかし無駄話するほど暇ではない、またいずれな」

気を切り替えて、陽村は再び月雨に「よろしいですか?」と声をかけた

「あいよー!じゃあ皆まったねー!!詩月も手伝いよろしくねー!」

騒々しく月雨は去ってゆき、詩月もやれやれといった表情で別れてゆく

「…それじゃあ私達も参拝の列に並ぼうか?」

恵の言葉に入口へと向かおうとするが、魁魅は詩月を手伝ってくると言って、別れてしまう

そして3人で向かおうとするが、ふと統司はのどの渇きを感じた

「飲み物買ってくる、…先に行っててくれ」

今日はずっと変わらない調子なのか、低い調子でそう言って一人自販機を探しに行く…

…やがて自販機を見つけ、一息つくと背後から声を掛けられる

「…あら、これは奇遇ですね、霧海先輩」

その声は篠森であり、統司は後ろを振り返る

その姿は着物姿であり、髪をほどき眼鏡も外した別人の状態であったため、道に一人しかいないのに一瞬 篠森の姿を探してしまった

「…明けましておめでとうございます、…クスクス、まだ私のこの姿に慣れませんか?」

篠森の言葉に頷き、呆れた様子で答えた

「明けましておめでとう、…全く その姿で現れるとこっちの気が持たない」

篠森は再び微笑するが、ふと気が付き口を開いた

「…ああ、すいません先輩、私人を待たせているので、これで失礼します、…それでは御機嫌よう」

品のあるを感じる挨拶を返し、一方的に篠森は去っていた

統司は飲み物を一口飲むと、缶を片手に皆の元へと戻る

戻る道中、石段にて再び声を掛けられた

「やぁ統司君、あけましておめでとう!お久しぶりだね?」

その変わらぬ飄々とした調子の口調は、紛れもなく鬼匣であった

「鬼匣 お前もう大丈夫なのか、…というか外出して大丈夫なのか?」

統司は新年の挨拶よりも先に、鬼匣の心配をしていた

…それは何より、あの戦いの後 鬼匣は詩月家に身柄を拘束されたのだった

しかし統司の言葉に首を振り、鬼匣は返答するのであった

「嗚呼、君の心配は無用だよ、外出特に問題無くさせて貰えるみたいだ、…まぁ条件付きだけどね」

そう言いながら鬼匣は親指で後方を示す、その方向には明らかにこちらを監視している人の姿が見えた

「あの時、君の判断のおかげで、僕は色々出された条件を呑む事で生き長らえることが出来たよ」

鬼匣の言葉に疑問を抱き、とりあえず単純そうな点を聞き返した

「条件…って?」

統司は浮かんだ疑問を直接鬼匣に投げかけた

「えーっと?第一に詩月宅で年中監視状態である事、次に魔鬼の調査の為に実験に必ず協力する事、勿論 人体実験を含むだろうね?

後はエトセトラ エトセトラ…って感じかな?」

その発言に統司は複雑な表情を浮かべた

しかしその表情を見て鬼匣は笑みを浮かべて口を開いた

「なぁ〜に辛気臭い表情をしてるんだい?これも前から予測していた事だよ、寧ろこれだけで生きられるなんてとんだ拾い物さ」

そう言って鬼匣は気分良く笑いだす、しかし急に笑いを止めると「それに…」と言い始めた

「…監視何て君たちのおかげで今の僕は無力だから意味は無いのにねぇ?」

『ん?どういう意味だ?』

思いがけない鬼匣の発言に統司は疑問を浮かべる

「まぁ君には一応説明しておこうかな、…といっても単純な話だ、君のあの白い鬼火、あれは“滅する”と共に“浄化”の力が備わっていてね、それをまともに受けた僕は魔鬼の力を完全に浄化された…訳さ?」

鬼匣はそう言うと「あっ!」と何か思い出したように補足する

「因みに あの時僕が使った力は、魔力じゃなくて魔鬼に備わる力でね、実は身体は全く変化させていないんだ、…性質で言うと幻を見せていたってことに近いかな?」

鬼匣の言葉に、統司は「ふぅん」聞き流す様に返事を返した

あっさりとした様子に鬼匣は少々苦笑するが、思い出したように話を続けた

「ああ、そういえば聞いたよ、霧海ってここに来る前に…いや、来る前から“黒い人影の様なもの”が見えるんだってね?」

『…誰に聞いたかはともかく、確かにその通りだ』

「それで聞きたいんだけどさ、…思い出して見てよ、君が毎度の活動時に、暴走した鬼人を初めて見た時、君からはどう見えたのか…」

当時は鬼匣の質問に応じ、記憶を探り起こす

…そう、暴走した鬼人は“黒い人影の様なもの”に見えていた

鬼匣はそのことに気づいているかの様な口調であった

「…どうやら、予想通りみたいだね」

統司の反応を見て鬼匣はそう呟き、統司に構わず続けて話し出す

「僕はね、こう思うんだよ 霧海、…君は“鬼”を探知出来るんじゃないか…ってね、まるで君に流れる血の持ち主が とてつもない感を持っていたかの様に…ね?」

統司は思いもよらぬ真実に、敵であった少年から放たれた言葉に深く考える

そして鬼匣は静かに話を続けた

「…魔鬼の力が無くなって、僕の邪悪さが無くなった所為か、神魅町の外から不穏な気配が感じられる様になったんだよね、…嗅ぎ慣れた存在の臭い、…“鬼”のね」

そう告げる鬼匣の様子に敵意は一切無かった、どうやら力を失った彼は敵としてではなく協力者として生きようとしてるのであろうか

「まぁ、まだまだ軟弱な気配だから、気にするまでもないけどね」

そう補足すると、鬼匣は向きを変えて別れようとする

「それじゃ世間話はこれくらいでお仕舞いかな?あんまり長いとあの人たちに怒られそうだしね、…それじゃまた新学期で〜」

そう言って背を向けて鬼匣は立ち去ろうとするが、すぐに急展開して統司に詰め寄った

「あ、ゴメン忘れてた!今日は君に用事があったのを忘れていたよ…」

…すっかり邪気の抜けた鬼匣は、今までよりおっちょこちょいであった

鬼匣がそう言いながら懐から出したのは、透明なプラスチックの箱だった

「これ、君の壊したイヤフォンの弁償ね?」

それは最新式の物であり、確か数千円とかなり値が張るものであった筈である

「これ、良いのか?こんな高いの」

しかし鬼匣は首を振って言い返す

「弁償するからには前より良い物をってね!それに君には随分迷惑をかけたからそのお詫びを含めて」

鬼匣は手を振り「今度こそじゃあねー!」と機嫌良く帰っていった

…さて、それじゃ参拝を済ませて、早くこの恥ずかしい町から帰るとしようか

統司はそう思いながら、皆の元へと向かったのであった…

 

…モノクロなセピア色の夢、しかしこれは統司が見ている夢ではない

小豆色の巫女服を着た小さな背丈の少女、…霧月真海は白い光の中から現れる

(…あの子を産んでくれて、ありがとう)

彼女はそれだけ言うと、背を向けて光へと去っていった

…そして霧海統貴は静かに目が覚める、その瞳からは涙が一筋流れていた

統貴は未だにはっきりとした夢を思い出して、考えていた

あの顔立ちは癒唯に非常に似ていた、しかし癒唯の身長はあんなに低くない

そして癒唯は隣で安らいだ表情で眠り続けていた

一体彼女は何者だったのだろうか、統貴はそう考えながらも、不思議と安らいだ気持ちであった…

 

…冬休み終盤、統司の部屋に癒唯が入る

「…ねぇ統司、ちょっとお話良いかしら?」

統司は宿題から手を離すと、癒唯に返事を返す

「ああ良いよ、それで何だい母さん」

統司は平然とした様子で聞き返すが、癒唯は少々心苦しく話し始めた

「この間 転校の話したじゃない?…覚えてる?それで考えてみるって言ってたけど、その…答えは決まったの?」

癒唯の言葉に統司は微笑する

…答えは決まっている、そして家族を説得するのに長い説明も必要無い、心が通じているならば、この答えに3文字の言葉以外不要だろう

統司は息を吸い、声に出した

「 い や だ 」

…そう、否定するならはっきりと口にすれば良い、回りくどくする必要は無い

統司のはっきりとした否定を聞いて 癒唯は面を食らうが、やがて顔を緩めると、元気な表情で声を出す

「…そう!統司がそうしたいならそれで良いのよ!お母さんもう口出ししないから、精一杯頑張りなさいよ!!」

そう告げると癒唯は統司の部屋から出ていった…

 

…やがて冬休みは終え、新学期へと移る

神魅町は何事も無く平穏に日々は過ぎていった

「魔鬼との決着が最後の活動」と言った水内の宣言通り、次の満月の活動日には詩月と月雨の姿は無かった

…と言っても、鬼匣は大人しくなったおかげで その日は何事も無く無事終了した

そして次の満月の活動も暴走した者は現れずに何事も無く

やがて卒業式、詩月と月雨は無事に魁魅高等学校を卒業したのだった

二人によると、卒業後は近くにある大学に入学するそうだ

そしてナイトメーカーとして暗躍していたうちの3年生4人の行く末は…

元生徒会長 陽村緋乃女は暗躍しつつも学業を疎かにせず無事卒業し

問題児であった幸治はそもそもの出席日数が足りず留年

芙弓も良い大学を目指すために 親の反対を強く説得し一年留年する事にしたのだった

…意外な事に常に遊び呆けていたとされる由利も卒業していた、どうやら進学では無く家業を継ぐようであり、無事就職といった所であった

また他のナイトメーカーの吾妻、喜宇崎、縁の3人の様子は…

吾妻は少し精神面の整理がついたのか、以前より過激な活動はしなくなっていた…、だがそれでも変わらず鬼焚部の”粛清”に対して反対であった

喜宇崎は一周して再び虐められる日々を続けていた、…しかし以前よりその当たりは弱まっており、犯罪すれすれであった虐めも、少々人から避けられる程度へと落ち着き、少ないながらも友人を見つけ共に生活している様だった、

そして先日虐められていた所を 蒼依が宣言通り追っ払っており、喜宇崎は良い先輩を持ったと世界に希望を見出していたのだった

縁は以前と変わらず 学校では暗い雰囲気を纏っていたが、最近妙に女生徒から話し相手になる事が増えていた、これは先日 恵が初めて縁と城乃咲と3人で遊びに行った時の事、一緒に服や化粧品を見繕って衣装を替えると、今までと一変して美少女であることが判明し、また実は手芸が得意でマスコットが好きに作れることも分かり、それが噂となり学年の女子中に広まったのであった

こうして、魔鬼による事件は終わり、関わっていた者たちもそれぞれに良心的な状況に包まれていた

…そして4月、新しい年が始まる

鬼焚部の部長は魁魅となり、副部長は恵が選ばれた

今はまだこの5人で活動するが、いずれはまた鬼焚部の顧問によって才能を見いだされた少年或いは少女が入るのだろうか

そして今は平穏でもいつまた暴走した者が現れるとも限らない

それに彼らも、夢や将来に向けて神魅の外にある現実と向き合わなければならないだろう…

しかしそれは彼らが決める事、そして彼らはいくつもの苦難や答えを探してゆくだろう、彼らの人生はまだ続いてゆくのだから…

しかし彼らの未来は、その行動によって明るい未来へと晴らされた

きっとこれからも正しい答え、結末を見つけられるであろう

今はただ、彼らに向かって祈るだけである

……汝らに、良き未来を授けたまえ

 

 

 

最終話  終

 

 

鬼の人と血と月と 完

 

説明
鬼の人と血と月と 最終話 です。

本編はこの話で完結いたします。
今回の話は非常に長くなっていますのでご注意ください。



本編の進行に左程影響のない、補足的な話は外伝にて書かれています。
神魅町の過去背景は、外伝2話にて書かれています。
ナイトメーカーの集まった経緯は、外伝3話にて書かれています・
魔鬼である鬼匣の詳細と彼の真意に関しては、外伝4話にて書かれています。
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本編最終話 シリアス バトル 鬼人 現代 部活 高校生 田舎 学校 学園伝記風 

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