真・恋姫†無双〜比翼の契り〜 二章第七話
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 北郷一刀。性別は男。劉備達から絶大な信頼を得ていることが伺える。

 それ以外の情報は一切不明だが、ある流れの商人から聞いた話では劉備達の元には管輅が占ったとされる天の御遣いが降り立ったという噂がある。

 それがこの男である可能性は高い。

 

「北郷殿、でありますか」

 

 差し出された手は挨拶のつもりだろうか。

 武器がなくとも人など簡単に殺せる。

 ましてや身体への詳細な検査などしていないのだから、暗器を隠し持っていたらという可能性もある。

 いずれにしても警戒心に欠ける行動だと言える。

 

「差し支えなければ、先ほどの劉備殿の発言について詳細をお伺いしたいのですが……」

 

 その手を無視し話を続ければ、放置され数瞬所在なさげにさまよった手は下げられずに頭を掻いていた。

 この時点で三人は玉座の間より下り、俺達の目の前にいる。

 もちろん、三人の背後に隠れるようになってしまっているが諸葛亮も、だ。

 下々への対応としては落第と言えるが、関羽も諸葛亮もそれを咎める様子はない。

 彼らにとっては目線を合わせるということは普通の事なのだろうか。

 それとも、知らず知らずのうちに俺は洛陽の阿呆共に毒されてしまったのか。

 傲慢さは人を良くない方へ導く。注意しておこう。

 

 言い方に違和感が無かったから、日常的に北郷は劉備からご主人様と呼ばれているように思える。

 おそらく、事前にそう呼ばないように言い含めていた可能性があるが……。

 対外的には劉備を王として扱うつもりなのだろうか。

 だとしたら北郷を俺達に会わせた意図はどこにある?

 ……分からない。諸葛亮は何を考えている?

 

 若干面を食らってしまったが、それを表面に出すほど程落ちぶれていないことを祈りながら話の主導権を握る為の布石を打つ。

 まずは精神から。動揺とは簡単に人から冷静さを失わせるものだ。

 それが些細なことであっても、やらないよりはマシだろう。

 

「いや……あれは――」

 

「ご主人様はあの天の御遣い様だもん。だから私達のご主人様なの!」

 

「??」

 

 分からない。俺には劉備の言っている意味が一言も理解出来ない。

 天の御遣いだからご主人様?

 …………どういうことだ?

 

「桃香はちょっと静かにしててね。……桃香、劉備の言ってることはあんまり真に受けなくていいよ。俺がご主人様って呼ばれてるのは成り行きというか、そんな感じだから気にしないで」

 

 苦笑しながら言われても、はい、そうですかと納得出来るものでもない気がするが。

 意図は分からんが、こういう時は一人で考えないほうがいいか。

 北郷も気にするなと言っていることだし、この話はまた後にしておこう。

 

「なら、気にしないでおきます」

 

「助かるよ。それで、司馬朗さん。あなた方は何をしにここへ来たんですか?」

 

 ようやく本題か。

 果たして劉備は噂通りか否か。

 交渉の始まりだ。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 司馬朗さん達が玉座の間から出て行って、ひとまずは彼らが泊まっている宿まで兵士さんに見送ってもらい、無事に兵士さんが戻ってきたのを確認してから軍議が開かれた。

 

「やはり私は反対です」

 

 開口一番。納得した顔なんてしてなかった愛紗が言った。

 やっぱり、そう簡単には信じられないよね。

 司馬朗さんは絶対に何かを考えているみたいだったし、それが何なのかはこれから朱里と雛里が説明してくれると思う。

 俺には到底読めなかったけど。

 結論はそれから出しても遅くはないと思う。

 だからこそ、あの場での明言は朱里が抑えたんだと思ってる。

 たぶん、あのままなら桃香はきっと素直に言葉通り受け止めちゃうだろうから。

 困ってる人を助けるのはとても大事なことだけど、明確に敵対していた人に対しては少しは疑う事を覚えて欲しいとも思う。

 両立させるのは難しいんだろうけどね……。

 

「まぁ、愛紗も落ち着いて。まずは朱里と雛里から話を聞いてみようよ」

 

「……はい」

 

 自分が冷静じゃないって分かっているんだろう。愛紗は素直に頷いて席に座ってくれた。

 こういう素直な所をもっと出して欲しいんだけどね、かわいいし。

 なんて事を考えてたからなのか愛紗が凄くこっちを睨んでた。

 怖いからやめて下さい。

 

「朱里、雛里。頼めるかな」

 

「はい」

 

 同時に返事をした彼女達は椅子から立ち上がった。

 立ち上がったといっても背の高さはそれほど変わらない。

 二人にとって軍議に使っている机は少し高いから、特注の椅子を使っているからだ。

 本人達はそのことを凄く気にしているようで、そんな地雷を踏んだ過去の俺は亡き者となっている。

 理路整然と年下の女の子に諭されるってどんな辱めだよ……。

 って俺の失敗談はこの際どうでもいいから、二人の話に耳を傾けよう。

 

「私と雛里ちゃんの見解ですが……はっきり言って司馬朗さんの狙いは分かりませんでした。大方、地方での噂から桃香様の所に身を寄せたのだと思いますが、なぜこの時期なのか……。もう少し時勢が落ち着いてからでも良かったはずです」

 

「と、言うと?」

 

「え〜っとですね。今はまだ皆さんも洛陽での出来事は記憶に新しいかと思います」

 

「董卓のことだね」

 

「はい。そのこともありますが、洛陽の至るところで((小火|ぼや))も起きていました。幸い孫策さん達が早急な対応をしたおかげで大事には至りませんでしたが、その出来事を董卓軍のせいだと言う者がいます」

 

 俺達が洛陽についたときには孫策さん達が必至に消化作業をしていて、俺達も後から手伝った。

 洛陽の住民達も精力的に働いてくれて、大したことにはならなかった。

 でも、それは董卓が逃げ出したとこを黄巾党の残党が襲撃したんじゃなかったっけ。

 

「確かに小火はありましたが、あれは黄巾党の仕業ではなかったのですか?」

 

「実際はそうです。ですがそもそも連合に参加していない諸侯、責任を負いたくない朝廷の官史などは事実をねじ曲げて公表する場合があります」

 

「そんなのって……」

 

 ひどい、と桃香の目は語っていた。

 実際に会って、そんな悪い人には思えなかったというのも多分にあるだろうけど、俺も同じ気持ちだ。

 

「……だからこそ連合は長安への使者を送りました。そしてまだその使者は戻ってきていません。未だ不透明で一部では血眼になって探している件の最重要人物が、降って湧いたように私達の元に来ました。しかも名を偽ることなどせず、自ら名乗って」

 

「しかも、理由が俺達に士官したいっていうんだからなぁ」

 

 何をしに来たんですかという問いに司馬朗さんは「士官しに来た」と答えた。

 それだけでも十分に驚いたのに、理由を訊ねてみれば「路銀が心許ないから」とか……。

 なんだろう、士官というものがアルバイトの応募をしに来ました、みたいな感じに聞こえたよ。

 心許ないって言葉には凄く深い溜息を吐いてたから、結構本当に深刻な問題なのかもしれないけど。

 

「……理由はどうあれ困ってる人は助けたいよ。そんなに悪い人には見えなかったし」

 

「はい。私も雛里ちゃんもその意見には口出しするつもりはありませんが、司馬朗さんが最後に言った言葉がどうも気になってしまって……」

 

 最後? 最後って言うとあれかな。

 

「にゃ? 確か、客将として士官させろってやつかー?」

 

 鈴々、そこまで強気じゃなかったと思うぞ。

 精々、士官させて欲しいぐらいだったはず。

 

「正確には『客将として扱い、双方が納得した上で改めて士官させて頂いてもよろしいでしょうか』でしたけど」

 

「にゃ? 大体意味は合ってるっぽいからいいのだー」

 

 そ、そうだよな?

 鈴々とほぼ同程度だった自分の記憶力に苦笑いしか出来ない自分が恨めしい。

 だから愛紗、俺を見てからこれ見よがしに溜息を吐くのはやめような。

 

「むしろ私は私達の事を知ってもらういい機会だと思ったんだけど、ダメだったのかな?」

 

「いいえ、何も悪いことばかりでは無いからこそ気になるのです。客将として桃香様達の事を見極め、その上で士官する……。お互いに信頼をしている状態で私達の仲間に加わるのでしたら何も問題はありません。朝廷という腹の探り合いを生き抜いてきたからこそ、疑いを持って人に接するというのは何も間違っていませんから。……では、彼らが評価に値しないと結論付けた場合、私達はどうなると思いますか?」

 

 そうだ。桃香の言う通りになれば何も問題はない。

 もちろん俺達もそうなるようにちゃんとするだろう。

 でも、もしもが起きてしまった場合、俺達はどうなる?

 

「……無条件で他国へ情報を提供することになる」

 

「愛紗さんの言う通りです。諸侯から追われている身の彼らを保護する者がいる前提ですが、曹操さん辺りでしたら損より得が上回れば必ず引き入れるでしょう」

 

「それに、司馬朗さんの師匠と云われる馬騰さん。あの人も、乞われれば保護する側に回ると思います」

 

 朱里の言葉に雛里が補足した。

 そうだ。愛紗と鈴々、それに孫策さんがいてもなお歯牙にもかけなかった馬騰さん。

 司馬朗さんが師匠と呼んだのを愛紗が耳にしたと言っていたのを思い出した。

 弟子は取らないって聞いていたけど、一人だけ居たっていう事実に驚いたのを忘れてた。

 

 まだ司馬朗さんへの返答は保留にさせてもらってるけど、明日の朝には結論を出さなくちゃいけない。

 どうしたらいいんだろう……。

 

「ご主人様も朱里ちゃんも難しく考え過ぎだよ! 要は司馬朗さん達が士官したくなるように私達が頑張ればいいんでしょ?」

 

 桃香は笑顔で簡単に言ってのける。

 それがどれだけ難しいことなのか、曖昧には理解しているんだろうけど。

 それでも真っ直ぐに前を向く意志を表明していた。

 考えるのは良い。でも後ろを向きながらじゃなくて、前を向こう。

 不思議と沈んでいた思考が晴れ渡っていく気がした。

 

「……それで後悔はしない?」

 

「例え間違っていても、私が自分で選んだ事だから。……後悔はしないよ!」

 

 その一言で皆にも笑顔が戻ったように感じられた。

 これでこそ、桃香らしい、って。そう思った。

 

「じゃあ明日、司馬朗さん達が来たら良いですよって言おう。そして皆で頑張って頑張って、認めてもらおう!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 懸念はあるだろうけど、朱里もまた桃香につられるようにして笑顔を浮かべていた。

 きっと、まだまだ迷惑をかけるだろうし、たくさん間違えるかもしれないけど、皆と一緒なら不思議となんとかなるような気がした。

 

 

 

 

 懸念、懐疑、疑惑。

 劉備のカリスマによって一度は消えかけたように見えた。

 されど、これらは張り巡らされた根となって根強く開花の時を待つことになる。

 生かすも殺すも、全ては((彼|・))((ら|・))の行動次第であるのだ。

 

 

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【あとがき】

 

 あけましておめでとうございます。

 今年も宜しくお願い致します。

 九条でございます。

 

 今年の抱負は『本作の完結目処を立てる』です。

 出来れば今年中に完結したいところですが、まだ終わり方を考えていないのでなんとも言えないです……

 

 今回、最初は本作の主人公である隼の視点。次が原作主人公の一刀君視点です。

 前回から引っ張った話ではありますが、交渉の部分はカットしました。

 書いていて蜀を滅茶苦茶ディスっていたので……。

 その代わりに一刀君の視点を盛り込みました。

 蜀の最初の頃の一刀君を想定しながらでしたので、やや思考回路が単純です。

 桃さんもまだ現実を理解していない感を出してみましたが、やりすぎたかも?

 それにしても久々にプロット通り書けた……。本来なら当たり前なんでしょうけども。

 

 本日は1/6ということで、まだ恋姫年賀が届いていないということは外れたかなぁ……。

 まぁ今年は恋姫の新作も出ますし、そちらを楽しみにしましょうか。

 恋ちゃんかわいいよ恋ちゃん。

 

 なろうの方ではこの作品のお気に入り登録が50件超えました(ドンドンパフパフ

 記念に何か更新しようと思ったけど、そんな余裕はなかったよ!

 それな自分ですが、これからもなろう、TINAMIにて応援の程、宜しくお願いします。

 

 

 次回も出来るだけ1週間以内(7日目も含む)には更新できるよう頑張ります!

 それでは皆様(#゚Д゚)ノ[再見!]

説明
二章 群雄割拠編

 第七話「小さな楔」
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コメント
>観珪さん 感謝しきれない程に感激でございますですよ…。ありがとうございます! この後の展開は前作から書こうと思っていた部分なので、自分も楽しんで書けてます。なので書きたいように書いていくのでハードルは低めでおなしゃす!w(九条)
>noelさん 混濁を混蜀と見間違えてました!\(^o^)/(九条)
なろうの方でもお気に入り登録させていただいてますよ! あけましておめでとうございます。 桃色さんたちにどんな評価を付けるのか、楽しみに次回をお待ちしておりまする(神余 雛)
いい感じに混濁して来たぜ!\(^o^)/(noel)
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