ALO〜妖精郷の黄昏〜 第59話 尽きる豊穣、去りし女神
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第59話 尽きる豊穣、去りし女神

 

 

 

 

 

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グランド・クエスト[神々の黄昏]

『侵攻側クエスト[炎滅の黒き者]:スルトと共にフレイを討て』

『侵攻側クエスト[炎殻の魔女]:シンモラと共にフレイヤを討て』

『防衛側クエスト[妖精の支配者]:フレイと共にスルトを討て』

『防衛側クエスト[自由を往く太母]:フレイヤに協力して彼女の目的を為せ』

 

 

 

 

 

No Side

 

央都アルンを囲むアルン高原西部、そこに集い相対するのはオーディン軍とロキ軍である。

 

オーディン軍の将は〈((Frey the Alfheim Lord|フレイ・ザ・アルヴヘイム・ロード))〉と〈((Freya the Freedom Vanadis|フレイヤ・ザ・フリーダム・ヴァナディース))〉の2柱だ。

フレイを一言で表すならば眉目秀麗、容姿そのものは妹のフレイヤに良く似た金髪碧眼である。

バルドルとヘイムダルに並び最も美しい神と評され、豊穣の神にしてアルヴヘイムの真の主でもある。

その身にはフレイヤのドレスに近い意匠の貴族服を纏い、右手には太陽の輝きにも劣らない刃の『勝利の剣』を持つ。

彼の傍らには黄金の毛をした猪の『グリンブルスティ』、“血にまみれた蹄”の意を持つ『ブローズグホーヴィ』が居る。

フレイヤは以前にトールが変身した姿と同一であるが、雰囲気が正反対で空気が軽く自由奔放な性格である。

フレイの双子の妹であり、美、愛、豊穣、戦い、魔法、月、死を守護し、女性の美徳と悪徳を全て内包した女神である太母だ。

神をも魅了する首飾りの『ブリージンガメン』を首に下げ、鷹の羽衣を纏い、

傍らには“戦いの家猪”と“戦いの猪”の意を持つ『ヒルディスヴィーニ』が従う。

2柱の背後には北部と南部に並び、1000体ほどのエインフェリアとワルキューレが従い、

ここにも4つのレイドパーティーが展開しているため、プレイヤーは200人を超えている。

 

ロキ軍の将は〈((Surtr the Muspell Lord|スルト・ザ・ムスペル・ロード))〉と〈((Sinmore the Muspell Queen|シンモラ・ザ・ムスペル・クィーン))〉の2体。

灼熱の炎を思わせる色の髪と瞳を持ち、トールやスリュム、スィアチと並ぶ巨体を誇る黒色の肉体を持つスルト。

その名は“黒”、または“黒い者”という意味を持ち、((炎の巨人族|ムスペル))達の長であり、世界を焼き尽くす役目を持つ。

右手には全てを焼き払う炎の剣『レーヴァテイン』を持つ。

褐色の肌を持つ妖艶な女性、スルトの妻であるシンモラは布面積の少ない戦い易いドレス姿をしている。

2体の背後には500を超える数のムスペルが立ち並び、ロキ軍のレイドが2つ展開して人数としては100人を超えている。

 

「フレイ、貴様を倒して俺は世界樹を焼き尽くす。覚悟は良いな?」

「覚悟など等に出来ているさ。だが僕は負けるつもりなど更々ないだけだよ」

「貴方様、妾も共に戦います。フレイヤ、そなたの相手は妾が務める」

「ふふ、良いわよ。私を満足させてね、シンモラ」

 

スルトとフレイ、シンモラとフレイヤ、それぞれが言葉を交わしてから前に進み出て戦い始める。

彼らに続いてプレイヤー達とNPCやMob達も動きだし、戦い出した。

 

 

 

炎を纏う長大な剣が振るわれ、それに対して太陽の輝きにも劣らない剣が振るわれ、2つの剣が幾度もぶつかり合う。

スルトがレーヴァテインを、フレイが勝利の剣を振るい戦っているのだ。

 

「さすがはこの黄昏で世界を焼き尽くす者だ。当たってしまえばひとたまりもなさそうだ」

「貴様こそ、さすがはヴァン神族の最重要神だな。易々とレーヴァテインを止めるとは」

 

炎の剣、光と火の剣、それぞれの持ち手たるスルトとフレイは互いに言葉を掛ける。

だが、彼らにとってそんなものは些細なことであり、戦闘中の暇潰しのようなものだ。

現にその言葉を交わしながらも凄まじい勢いで剣をぶつけ合う。

スルトは豪快で巨人らしく力の限り振るい、フレイは華麗に舞うように振るう。

 

「スゥ〜…バァァァァァッ!」

「はぁっ!」

 

スルトは息を大きく吸い、それが終わると炎のブレスを吐いた。

対し、フレイは光弾を生成してぶつけることで相殺させる。

ムスペルの長であるスルトの炎は凄まじく、その火力はスコルのブレス、ソールの炎魔法を凌駕している。

だがフレイの光弾も並みのものではなく、魔術の達人であるオーディン、光の神のヘイムダル以上に威力の高い光弾である。

それほどの威力のぶつかり合い、当然だが爆風もかなりのもので敵味方問わずに体勢を崩すことになった。

 

「これはいけない。少しばかり手加減しないといけないかな?」

「俺を相手に手加減できるのか?」

「それもそうだ。ならばキミが加減してくれるかな?」

「ふっ、ありえないな」

 

またも言葉の掛け合い、AIなのにというべきか、それともAIだからこそというべきか。

彼らの投げかける言葉には悪意が無く、ただ闘争への昂ぶりしか感じられない。

AIだからどうした? システムだからどうした? 宿命だからどうした?

彼らにとってそんなことは一切関係無い、ただ戦うのみ!

 

「なら、これはどうだい?」

「ぬっ…」

 

フレイはスルトの攻撃を躱すと素早く懐へと潜り込み、飛び上がりながらスルトの体を斬り裂いた。

彼の持つ勝利の剣から光と火が宿り、斬りつけた箇所がその2つの属性によって焼かれている。

この一撃でのダメージはかなり大きい。

 

「ではやり返させてもらおう」

「ぐぅっ…」

 

しかし、スルトもお返しとばかりにも空いている左手を拳にし、フレイを殴り飛ばした。

圧倒的なパワーを誇るスルトの一撃をまともに受けたフレイは大ダメージを受けた。

互いに一歩も引かぬ戦い、どちらかが、またはどちらも倒れるまで続く。

 

 

 

フレイヤがあらゆる属性の魔弾を無数に生成し、それを投げつけていく。

雨霰と降り注ぐ魔弾に対してシンモラは炎の波を掌から放出して相殺し、

炎の波を抜けた幾つかの魔弾は彼女自身が腕や脚を以てして破壊していく。

勿論、少量だがダメージは受けている。

 

「さすがはムスペルの王の妻ね、私では無理かしら?」

「白々しいことを言いよる。妾に対してそなたほどの者がこの程度のはずがない」

「あら、随分と高評価なのね」

「戦い、魔法、死を司るそなたを過小評価など出来まい」

 

こちらも言葉を投げ掛けながらの戦い。

フレイヤは魔弾以外にも魔法の波や衝撃波を生みだす魔法を中心とした戦い方を行い、

シンモラは炎系の魔法や魔弾を使用しながらも格闘戦を主体として戦う。

特にシンモラは接近するとフレイヤに対して殴る蹴る等をして攻撃を行う。

 

「随分と、荒々しいこと」

「こうでなくてはムスペルを率いることなど出来まいよ」

「なら、私もやり返さないといけないわね」

「むっ…!」

 

そこでフレイヤは黄金で出来た剣を生成し、それを振るうことでシンモラに反撃してきた。

フレイヤは北欧神話の一説で黄金を生み出す女神ともされており、その性質はこのALOにも反映されている。

黄金製の剣の攻撃に対してシンモラは腕や脚を使い防御する、その際に受けるダメージが無いのは防御姿勢だからだろう。

 

「やはり、((戦姫|ヴァナディース))と呼ばれるほどの実力があるではないか」

「魔法の方が得意というだけよ。さぁ、戦いを続けましょう」

「ふむ、よかろう」

 

シンモラの拳とフレイヤの剣が、さらに距離をあければ炎弾と魔弾が、炎の波と魔法の波がぶつかり合う。

お互いにダメージを負っていきながらもその攻め手は揺るがず、

放たれる魔法は時折周囲のNPCやMob、プレイヤーをも巻き込んでいるが…。

だからだろうか、オーディン軍のプレイヤーはシンモラを、ロキ軍のプレイヤーはフレイヤを狙い攻撃を仕掛ける。

勿論、攻撃を受けたからというわけではない、彼女らを倒すことが目的なのだから。

 

「ほぅ、妖精もやるではないか……妾達の戦いを盛り上げてくれそうだ」

「妖精全員が味方ではない、当然よね……まぁ私の願いが叶えられるのなら構わないわ」

 

プレイヤー達の攻撃を拳や剣、魔法で防ぎながら彼女達は小さく呟いた。

シンモラはロキ軍の、フレイヤはオーディン軍の援護を受けながら戦いを続ける。

 

 

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ボスとNPC、Mobとプレイヤーが入り乱れた戦いをする中、そこから少し離れた場所であるプレイヤーが一対一で戦っていた。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

「はあぁぁぁぁぁっ!」

 

1人は両手に持つダガーを振るい、圧倒的なスピードで連撃を行っていく。

もう1人は槍を巧みに扱いテクニックによる連撃を行っていく。

あまりの速度と槍捌き、普通の人間ならば間違いなく反応できないだろうが、この2人は違う。

 

「良い感じの槍捌きじゃねぇか、タクミ」

「レオこそ、短剣を使いこなしているじゃないか」

 

後者のタクミは先のヨツンヘイム会戦においてシンモラを相手にしたプレイヤーであり、

それに相対しているのは彼の友人にして競い合う者の1人である。

 

名を『レオ』、種族はシルフ、黒髪にやや鋭い目付きが特徴で、青をベースとした軍服を身に纏う。

武器は右手と左手にそれぞれ持っているダガーだ。(『つよきす』シリーズの対馬レオの姿)

 

レオはタクミをも上回る速さで移動と攻撃を繰り返し、圧倒的速度による連撃で空間を支配していく。

タクミは槍を的確に振り回すことでなんとか攻撃を凌いでいくが、所々でダメージを負わざるをえない。

 

「さすがのお前も現実世界とは勝手が違うから大変じゃないか?」

「お前、レオ! 俺の((現実|あっち))での((戦い方|亜空間殺法))そっくりじゃねぇか!」

「あの人外殺法がおかしいんだよ! 俺のは唯のスピードだ! スピードホリック嘗めんな!」

「人外とはなんだ!? お前のスピードホリックの方が異常だ!」

 

2人の会話からも解る通り、レオの戦い方はスピードを最重要視したものだ。

圧倒的速度による先制、そこから次に重視しているパワーによる攻撃、これがレオのスタイルである。

そんな彼だからALOでも速度重視の為に軽装で武器も軽いダガー、スピードを重視しているために敢えて二刀流を用いている。

そのレオのスピードによる飛行はあまりにも速く、捉えるのは中々厳しい。

しかもタクミにとっては空間を自由自在に行き来する様はまるで自分の戦い方を見ているように感じている。

 

「だからって、俺も負けるわけにはいかないんだよ!」

「くっ、やっぱりこの戦い方はお前の方が精度は上か…!」

 

押され始めていたタクミだが、腹に力を込めてから自身もレオと同じ…いや、自身の現実世界での戦い方を始めた。

スピードではレオに負けるがテクニックでは負けていない、

力も自身の方が上だと判断し、レオに対抗してまったく同じ戦法を取る。

両者共に高速飛行による高機動で空間を縦横無尽に往来し、交錯するところや横を移動する際に攻撃を仕掛ける。

この戦法、精度ではタクミが上をいくがレオもスピードで補っているのでまだどうなるかは分からない。

 

しかし、この拮抗した状況を変えるべきだと考えたタクミが先に動いた。

 

「喰らいやがれ、《スペースラッシュ》!」

「うっ、ぐっ、がっ、つっ、がはぁっ!?」

 

タクミはシンモラ戦に使った技、《スペースラッシュ》を使用してレオに大きなダメージを与えた。

特別製のナイフ付きブーツを装備し、身軽さを利用した四方八方からの空中ドロップキックの連撃、

体勢を崩されたレオは止めにと投擲された槍が突き刺さった。

この技によって受けたダメージはかなりのものだが、それは致命傷とはなりえなかった。

 

「あぶねぇ、咄嗟に体をずらしてなかったら槍の餌食になってたぜ…」

「マジかよ……くそ、いままでやり合ってきたから見切られたか…」

「おう。少しずつだけど全部ずらさせてもらったぜ」

 

タクミの《スペースラッシュ》は確かにレオにヒットしたが、

いままでにもタクミと戦い《スペースラッシュ》を受けたことのあるレオは回避不能と判断すると、

少しでもダメージを減らす為に打点をずらしたのだ。

最後の槍に関しては現実世界でも使われたことはないために、右肩を貫かれてしまったがそれで済んだわけである。

 

レオは両手に短剣を持ちながらも槍を引き抜き、全力でタクミに向けて投げ飛ばした。

タクミ以下とはいえパワーのあるレオの投擲はかなりの速度で彼に迫り、いきなりのことで思わず驚きながら回避してしまった。

その一瞬の隙が仇となる、槍を回避して通り過ぎようとするそれを掴みとった瞬間にタクミを影が覆った。

ハッとして上を見れば、レオが迫っていたのだ。

 

「《フライングアタック》!」

「がぁぁぁっ!?」

 

2本のダガーを構えたまま両腕を交差させ、削岩ドリルのように錐揉み回転をしながらタクミに襲い掛かった。

この技こそが《フライングアタック》であり、ALOにおける飛行可能が上空からの落下によるダメージを増させた。

さすがのタクミもこの強力な一撃には参り、レオと同様に大きなダメージを負った。

だが、地に向けて吹き飛ばされた彼は空中で姿勢を整えた。

 

「ちっ、寸前で槍を盾にして打点を逸らしやがったな…」

「へっ、気付くのが遅かったらヤバかっただろうけどな…」

 

そう、タクミもレオ同様に咄嗟にガードし、ダメージを軽減したのである。

戦った場所は違うけれど、何度か戦ったことがあるからこそこの2人は防ぎ合ったのだ。

だがここでレオは驚きの行動に出た、なんと武器のダガーを両方ともアイテムストレージに収納してしまった。

 

「なんの真似だ、レオ…?」

「なんの真似って、これを見れば解るだろう?」

「ああ、なるほど……そりゃいいや」

 

レオが拳を作ったことでタクミはそれを理解した、レオは拳で戦おうと言うのだ。

タクミはそれに頷いて納得し、自身も槍をストレージに収納した。

2人はゆっくりと地上に降りて行き、互いに構えを取る。

 

「やっぱり男なら…」

「格闘が一番だよな…」

 

揃って獰猛な笑みを浮かべ、一気に駆け出す。

 

「「おぉぉぉぉぉっ!」」

 

雄叫びを上げ、2人は拳と拳をぶつけ合い、蹴りを放ち合い、本領たる格闘戦を始めた。

 

 

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レオとタクミが戦いを繰り広げ始めた頃、乱戦状態となっている場所からあまり離れていない場所で戦っている者達がいた。

いや、この場合は一方的に追いかけられ、反撃せざるを得ないと言うべきかもしれない。

 

「うぉい、トキト!? お前、なんで、俺ばっかり、狙うんだよ〜!?」

「お前が敵だからだ、フカヒレ」

「いまの俺はシャークだ!……って、ホント、手加減してください!?」

「だが断る」

「チクショウ〜〜〜!?」

 

ヨツンヘイム会戦にてスルトと戦った天性のVRMMOプレイヤーのトキトは愛用しているハンマーを振るう。

攻撃を避けているのは彼の見知った人物であり、友人と言っていいのか言わない方がいいのか微妙な関係である。

 

彼の名は『シャーク』、種族はプーカ、茶髪で眼鏡を掛けており、黄色の貴族服を身に纏う。

武器は右手の片手剣と左手の盾、典型的かつ安定した剣士スタイルだ。

なお、フカヒレというのは彼の現実世界の渾名である。

また、彼が過酷なロキ軍に参加したのは以前にティアとカノンにナンパしたことでシャインとクラインにトラウマを植え付けられ、

オーディン軍に彼らが居るので後ろめたさからロキ軍に居る。友人のレオはそのおもり役。

(『つよきす』シリーズの鮫氷新一の姿)

 

そんな彼の実力は総合的な見立てでは中の上という位置づけであり、彼自身のVR適性値が一般人の中でも高い方にあるからだ。

実際、彼はレオ達のように武術を嗜んでおらず、むしろ一般人そのもの身体能力である。

そのシャークがこのALOで中の上という実力を発揮できるのはシステムサポートと適性のお陰だろう。

 

「待て待て待て!? ホントに待って!? 幾ら俺でもお前の本気は無理〜!?」

「フカヒレ。いまの俺達は敵同士だ、なら敵と戦うことのなにが可笑しいんだ?」

「敵っていうなら周りにも居るじゃないかよ〜!? なんで俺ばっかり狙うんだ!?」

「何故お前から狙うのか……それはお前がフカヒレだからだ!」

「意味分かんねぇよ!?」

「取り敢えずクタバレ!」

「いや〜〜〜!?」

 

ステータスでは大差はなくとも、VRMMOへの適性値が高く、

本人の資質もあるトキトの攻撃の前にシャークは盾と片手剣を使ってなんとか攻撃を防いでいくしかない。

しかも全ての攻撃を防げているわけではなく、次々にダメージを負っていく。

その時、シャーク文句を言うことをやめて詠唱を始めた。

彼はかなりのゲーマーであり、その経験から台詞やゲームの技の詠唱などを覚える特技がある。

それを活かして高速詠唱を行い、魔法を発動する。

 

「これでも、喰らえ!」

「くっ、状態異常…スタンか…!」

 

シャークが行使した魔法は相手の動きを一時的に停止させるものであり、それなりに高い確率で成功するものだ。

だが、当然ながらそのスタン時間は短く、彼は距離を取る。

 

「俺の技、《血獄》だ!」

「短剣の雨霰…! ぐっ、これ…麻痺毒の、短剣か…!?」

 

ほんの僅かな距離だったかもしれないが、ストレージから解放された無数の麻痺毒付き短剣がトキトに突き刺さった。

武器のステータスによっては麻痺毒の発生確率は増すが、低い場合に行うのが連続攻撃か今回のような数による発生だ。

麻痺は他者から解毒されるか、麻痺耐性などのスキルを付けていなければ早々に解けることはない。

 

「おし、まだまだ行くぜ!」

「くそ………なんてな!」

「へっ、うぉっ!? なんでだ…!?」

「お前が状態異常を与えるバトルスタイルなのは知ってたからな、予め耐性スキルを付けさせてもらったぜ」

 

シャークは今の内にと片手剣でトキトと斬りつけるが、数度斬りつけたところでトキトが動き出して反撃した。

警戒していた彼によってあっさりと目論みを看破されてしまったシャークは再び防戦一方になる、そこに介入するものがいた。

 

「助太刀します。貴方は援護を」

「た、助かった……女子が俺を助けてくれた…!」

「おっと、風の魔法か。というかフカヒレはぶれないな」

 

風の魔法をトキトに向けて放った女性はトキトの前に立ち、シャークに指示を出した。

 

彼女の名は『セイン』、種族はシルフ、緑よりの黄緑のロングヘアに蒼眼で身長は165cm。

その手には刀の『風刃アーネス』が握られており、近接だけでなく風系魔法や回復魔法を使いこなせる。

 

刀を向けてきたセインに対し、油断は出来ないと判断してトキトもハンマーを構え直す。

ちなみにシャークは既に後退し、魔法などで援護できるようにしている。

 

「行かせてもらいます!」

「いいぜ、かかってこい!」

 

先に動き出したのはセイン、彼女はトキトよりも速く移動して彼に斬りかかり、連撃を行う。

トキトはハンマー使いであるから速度と連撃を主とする相手に防戦となる、

さらにそこへ後方に居るシャークが状態異常の魔法を発動させて毒状態などにさせられるが、

なんとか《耐性》系統のスキルで解毒する。

 

セインはアーネスによる連撃を的確に行い、トキトの防御の隙を突いてダメージを与える。

そこへシャークの状態異常系魔法もあって優位に立てている。だが、トキトも負けるわけにいかない。

 

「女子に使うのは気が引けるけど、《ベルリンの赤い雨》!」

「くっ、《鷲翅》!」

 

トキトはハンマーをストレージに収納し、

個人技で刃が付いているグローブによる連続手刀技の《ベルリンの赤い雨》を使用した。

かなりの速さの連続手刀、しかしセインもプレイヤーの意地を見せる。

刀の5連撃ソードスキル《鷲羽》を使用して手刀に対抗していく。

セインの5撃目が終わるタイミングでシャークがスタン状態にする魔法を発動し、彼女を助けた。

 

「助かります」

「いえいえ、どういたしまして!(くぅ、美少女に礼を言われるなんて、こっちに参加してよかった!)」

「(フカヒレの奴、相手の人が見えていないから良かったな。いまのお前下品な顔してるぞ)

 ちゃんとした連携じゃなくても、即席で十分厄介だな…まぁ負ける気はないけどさ!」

「こちらこそ、負ける気はないです!」

 

トキトとセインは体勢を立て直すと再び攻撃を交わし合い、シャークも援護を主に行い、戦いを続けた。

 

 

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それから西部の戦いが始まってから時間が経過し、いくつかの戦いに決着がつこうとしていた。

最初に起こったのはシンモラとフレイヤの戦いである。

 

「もう少し、あと少しで私の目的が達成されるわ」

「何を狙っておる? フレイヤ、そなたは一体なにを考えている?」

「簡単、これを狙っていたの!」

「なに…!?」

 

シンモラの一撃を首に受けたフレイヤ、だがそれは彼女の首飾りであるブリージンガメンによって防がれた。

罅割れていた首飾りにさらに罅が入り、あと少しで砕けるという所だろう。

だが、完全に砕けていないためにフレイヤはやや厳しい表情をする。

 

「まだ、なのね……え?」

 

その時、ブリージンガメンに短剣が突き刺さり、砕け散った。

短剣が飛んできた方向に居たのは先程まで離れた場所で戦っていたレオである。

予めキリトから受けていた指示に従い、ブリージンガメンの破壊を行ったのだ。

なお、彼が行えなかった場合でも周囲のプレイヤーの誰かが行うことになっていたのだが。

 

「ありがとう、ロキに従う妖精さん。

 お陰で私は自由になれた…これでもう、首飾りの神をも虜にする魅了に悩まされることはなくなったわ」

「なるほど。そなたは神々の目から逃れる為に首飾りを破壊される時を窺っていたわけか」

「ええ。シンモラ、貴女と戦う理由はもうないわ。

 元々、ラグナロクが始まる前には去るつもりだったのだけど、ブリージンガメンは私では壊せないから、参加するしかない。

 でも、ここでお別れよ……みな、生き延びたらまた会いましょう」

 

フレイヤは自身が戦いの場に赴いた経緯を話し終えると、その姿を光の粒子に変えてから姿を消した。

フレイヤの戦場離脱により、この場はシンモラの勝利となった。

 

 

 

そして、スルトとフレイの戦いも終幕を迎えようとしていた。

 

スルトはHPゲージを残り2本とし、全身から炎を吹きださせて巨大な炎の魔人と化していた。

フレイはHPゲージが残り1本の半分ほどまで減少し、光と火を纏っている。

 

「はは、やはり僕ではキミに勝つことは出来ないようだね…。これもまた、宿命通りということなのだろうけどさ…」

「ふん、俺をここまで追い詰めておいてよく言う……だが、この場はその通りだと言うしかあるまい」

 

スルトのレーヴァテインがフレイへ襲い掛かり、

フレイは勝利の剣で防ぐが付加されている炎によるじわじわとダメージを負う。

フレイ自身も反撃してダメージを与えるが、プレイヤーからの攻撃も加わり、HPはもう少ししかない。

 

「さらばだ、フレイ」

 

レーヴァテインの一撃がフレイを斬り裂き、フレイのHPを0にした。

 

「フレイヤは、去ったか……なら、良しとして、おこう…」

 

フレイは双子の妹の身を案じながら、ポリゴン片となって消滅して逝った。

 

「フレイは倒れ、フレイヤは去った! このままスルトとシンモラと共に制圧するぞ!」

「NPCはあと僅かだ! プレイヤー達もこのまま連携して倒すぞ!」

「「「「「「「「「「おぉ!」」」」」」」」」」

 

ロキ軍は勢いを増し、2人のレイドリーダーの宣言に乗ってさらに攻撃を激しくしていく。

さすがのオーディン軍も2体のボスとロキ軍のレイドを前に分が悪いと判断し、距離を取り防衛戦を展開することになった。

ここも神話の通りにスルトがフレイに勝利し、西部方面はロキ軍が制することになった。

 

 

『侵攻側クエスト[炎滅の黒き者]:スルトと共にフレイを討て』クエスト・クリア

『侵攻側クエスト[炎殻の魔女]:シンモラと共にフレイヤを討て』クエスト・フェイリュア

『防衛側クエスト[妖精の支配者]:フレイと共にスルトを討て』クエスト・フェイリュア

『防衛側クエスト[自由を往く太母]:フレイヤに協力して彼女の目的を為せ』クエスト・クリア

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

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あとがき

 

以上、今回はアルン高原西部における戦いでした、今回も割と駆け足になりましたが・・・。

 

まぁボス同士の戦いほど大ダメージを受けてすぐに終わっちゃうようなものですがね(苦笑)

 

そしてお分かりいただけたと思いますが西部の戦いは北部と南部と違い、総合的に見ればロキ軍の勝利です。

 

フレイヤ討伐クエストはフレイヤの戦線離脱ということで失敗になりました、クリアするにはフレイヤの討伐ですね。

 

次回はアルン高原四方戦最後の東部になります、頑張って書くつもりです!

 

一応次回までは似たような話しの展開になりますがご理解いただければ幸いです。

 

それじゃあまた・・・。

 

 

 

 

説明
第59話です。
今回はアルン高原西部での戦いとなりますよ。

では、どうぞ・・・。
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コメント
lightcloss様へ 誤字報告ありがとうございます、助かります!(本郷 刃)
『ここも神話の通りにスルトがフレイに勝利し、西武方面はロキ軍が制することになった』・・・・・西部が西武ライオンズの西武になってる・・・。(lightcloss)
アサシン様へ あい、フレイヤは戦線離脱です…彼の名字が鮫氷(さめすが)でそこから本人はシャークと自称しますが仲間内の渾名がフカヒレなのでww(本郷 刃)
まさかの戦線離脱・・・・・シャークでフカヒレwwwwwwwww(アサシン)
イバ・ヨシアキ様へ アルゴ「うん、学校でも情報屋だヨ、恋愛だけでなく色々ござれサ・・・コツというほどじゃないけど自分から話すことはしない方がいいネ」(本郷 刃)
イバ・ヨシアキです更新お疲れさまでした。久しぶりに質問コーナーです。今日はアルゴさんに質問です。「アルゴさんは学校でも情報屋なんですか?」「恋愛の情報もありますか?」「情報を集めるコツを是非に」(イバ・ヨシアキ)
弥凪・ストーム様へ 自分でも相当な展開だと思います(本郷 刃)
中々凄い展開になってきましたね〜(弥凪・ストーム)
ガイズ様へ その通りですね、しかもいままでの北方と南方はオーディン軍が制圧しましたし(本郷 刃)
今回はロキ軍の勝利だとしても、キリト>黒衣衆のパワーバランスを考えると、黒衣衆無しでここまで頑張ったオーディン軍って結構凄くないか? (ガイズ)
グルメ96様へ はい、ロキ軍が勝利しました・・・いまならもれなくクライン+黒衣衆全員のリンチですw ゼウス南無〜w(本郷 刃)
お疲れ様です。今回はロギ軍が勝利、これがどう影響するのやら・・。主「シャインはともかく、クラインからトラウマを植え付ける行動が想像できん・・・ゼウス、カノンさんおちょくってきてくれ」ゼ「何で俺がそんなこと「最新のシノンのフィギュアあげるから」よし、カノンの双丘にタッチしてやらー」」」(グルメ96)
肉豆腐太郎様へ キリト「俺自身を高めるものだな」 ハクヤ「俺の力そのものかな」 ハジメ「……私自身、だと思う」 ヴァル「今の僕の生き方の元ですね…」 ルナリオ「理不尽を叩き潰すものっす」 シャイン「誰かを守るものだ」 クーハ「何かを為す助けになるものかな」 八雲「私自身ですね」(本郷 刃)
因みに友達に聞いたら"抑止力"と答えられました……どういう事だろうか……(肉豆腐太郎)
いきなりですが、黒衣衆の皆さんに質問です(良ければ師匠も)あなた方にとって"武"とは何ですか?(肉豆腐太郎)
lightcloss様へ メインのオリキャラ勢のイメージCVはありますが、それ以外のオリキャラやNPCはこんな感じの声かな?的な軽い感覚しかないですね(本郷 刃)
そそ。アレのせいで、フレイの声が……。そういえばヘムはあの作品の声でもこの作品合いそうだな…。ロキ一家も同じ人でいけそうだね・・・。そういば、刃さんの中で声イメージってあるんですか?(lightcloss)
lightcloss様へ 魔探偵ですよね、自分もアレは読んでいますしアニメも見ました(本郷 刃)
ロキとトールなんて某漫画では親友みたいになってるしなぁ…。(ハンマーがなぜか木刀になっていて、フレイがはっちゃけすぎてる漫画)(lightcloss)
雛衣 観珪様へ 北欧神話そのものをひも解いてみても諍いはあれどなんだかんだで仲介があって和解したりしているんですよね〜、ロキとトールの関係が特にそうですww(本郷 刃)
ジン様へ アルン高原東部はある意味一番重要とも自分は考えていますので、応援ありがとうございます!(本郷 刃)
毎回思ってましたけど、やっぱり敵味方に分かれたといっても神々みんな仲いいですよねww いや、一部はそうでもないですけど、息ぴったりじゃないですかーww(神余 雛)
まさかの自分とガルムさんの戦いがアルン高原の戦いのトリとなるとは!?これは生半可な戦いじゃないな!! 次回の更新楽しみにしているので頑張ってください応援してます。(ジン)
ディーン様へ 東部も相当になる予定ですw キリトはとにかく暗躍ですw(本郷 刃)
アルン高原の東西南北のあと残ったのは、東エリアも大乱闘になりそうですね、残っているオリアバターキャラのメンバーを考えればかなり危ない人しか残ってないですね(自分のアバターキャラも含めて)そして、キリトかなり暗躍していますね。(ディーン)
サイト様へ ボスはロキ軍の方は残っていますからね、バハムートに関しては東部戦のあとで現状を出します(本郷 刃)
ロスト様へ フラグかな〜? フラグじゃないかな〜? 今後のお楽しみに〜w(本郷 刃)
影図書様へ 大丈夫、アルン高原のあとはSAOキャラというかメインキャラの出番ですからw(本郷 刃)
やぎすけ様へ 殴り合いのキャラ達は現実世界で格闘をやっている設定なのでそれを持ってきましたww(本郷 刃)
フレイヤはこの後どこに行くんだろ?それとフレイはやっぱし妹のこと気がかりだったのね(もしかしてシスコン、、、状況だけ見るならオーディン側が劣性ですけどこれからの巻き返しがありそうですね、バハムート今どこにいるw(サイト)
フレイヤの離脱は何かしらのフラグ!って、さすがに考えすぎですかね?いや、でも「また会いましょう」って言ってたしなぁ・・・うーん?(ロスト)
オリキャラが多くてSAOキャラが「MORE DEBAN」の看板を持ち出しそうですね。(笑)(影図書)
どこもかしこも皆派手にやってますねww てか、何でゲーム内でまで殴り合い?もしかしてあれですか?某親方の「男なら拳骨で通れ」の影響受けてるんですかwww?(やぎすけ)
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