青年北郷一刀の物語B
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「お〜い、新入り!警邏にいくぞ。ついてこい」

 

「うぃ〜ス」

 

 

俺は今、成都の警備隊に所属している。

生きていく上で、お金は重要だ。正直今、俺はとても貧乏だった。

洛陽から成都までの道中、出くわした三人組の盗賊を返り討ちにした時、彼らから全財産を頂いていたので多少は持っていたが、それだけでは心持たない。

 

それを話したら……。

 

 

「なら、私が仕事を紹介してやるよ?」

 

 

と、酒場で知り合った女性、公孫賛に仕事を斡旋してもらったのだ。

 

『己が力で生きてやるー!』なんて、カッコつけた割には、さっそく人の手を借りてしまった。

………メゲるな、俺!!

 

 

彼女には『戯志才』と名乗ったが、これからはそれで通そうと思う。正史に登場した名前だが稟が偽名として使っていたのだから、この世界で本人とバッタリ、なんてことにはならないだろう。

 

また、公孫賛とはお互い真名を交換した。これだけ世話になっていて偽名では悪いからね。

俺が真名で呼んでくれと話したら、向こうも真名を許してくれた。

 

警備隊にはすぐに慣れた。だって、ほら、俺って隊長じゃない?……“元”だけど。

それに、警備隊の組織構造が同じだったのも大きい。どうやら、魏から取り入れたらしい。三国同盟の賜物だ。

 

……改善案でもだしてみるかね。平和になったことで昔、妥協した法案に割く人手も予算あるはずだ。

 

 

「おい!!新入り!!!」

 

「お、おぉ?……どうしたんですか?」

 

「向こうが何やら騒がしい!なにかあったのかもしれない。俺達の出番だ、行くぞ!」

 

「う、うぃっス!!」

 

 

……………………………。

 

…………………。

 

 

騒ぎの原因は、酔っ払い同士の喧嘩だった。

すぐに鎮圧し、一緒にいた同僚が酔っ払いの皆さんを詰所に連れて行った為、俺は一人後始末をする羽目になった。

 

このときだ………彼女と初めて言葉を交わしたのは。

 

 

「あのぉ〜〜?なにか遭ったんですか?」

 

「ん?……劉備!!!………様?」

 

「はぁ〜い♪そぉで〜す。……えっと………それで、なにが遭ったの?」

 

「ちょっとした喧嘩騒ぎですよ。当事者は皆、酔っ払っていましたから。すでに騒ぎは沈静しました」

 

「ふぅ〜ん。そっか〜!……えぇ〜と……御苦労さま!!」

 

 

格好から警備隊員だと判断したのだろう。劉備はそう言って労ってきた。

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「……は、はぁ……あ、あの?劉備様はここでなにを?……見たところおひとりのご様子ですが?」

 

「え?お散歩だよぉ〜♪のんびり〜プラプラ〜って!」

 

「おひとりで?」

 

「うん!ひとりで!!城の皆、なんだか忙しそうだったし」

 

 

あんたは、忙しくないのかよ?

 

 

「危険ですよ。太守様が供もつけずに出歩くなんて!」

 

「えぇ〜?大丈夫だよ〜!成都には悪いことする人なんて居ないよぉ〜?」

 

 

確かに成都の治安は良い。

だが、あなたは太守……蜀の王だ!一般人ではない。

 

俺は、王とは人をアゴで使う人間であり、国民から敬われる立場の存在であるため、常に人に供させて、民に威厳を示すべきだと説いて、ひとりで出歩くのは、やめるように諭してみた。

 

それを劉備は、口を開けて『ほへ〜〜〜』と聞いている…………なんか腹立つな。

 

 

「それじゃ〜私、もう行くね」

 

 

劉備は俺に背を向け歩きだした。城とは逆の方角へ……。

 

って、おぉおおおおお〜〜〜い!!!ちょ、ちょっと……人の話聞いてましたか?!

チッ!(舌打ち)この女、見事にスルーしやがったよ!

 

 

「劉備様!……お待ち下さい!!」

 

 

俺は劉備の後を追う。

 

………べ、別にあんたが心配なんじゃないんだから、

国の王になにか遭ったら、皆が困ると思うから……。

だから………か、勘違いしないでよねっ!!!

 

 

…………………………。

 

…………………。

 

 

「そっかぁ〜!やっぱり、お兄さんが戯志才さんなんだぁ〜!」

 

今、劉備の供として、彼女に同行している。

あれから、ひとりは危険だと引続き諭していたら……『じゃあ〜。お兄さんが一緒ならいいですよね?』と言われ、そうなった。

 

「えぇ……しかし、劉備様は、自分のことを知っているような口ぶりですが、何故です?」

 

「う〜んと。実は、白蓮ちゃんから話を聞いていてたんだぁ」

 

「……なるほど、そうでしたか」

 

「うん!なんでも、お兄さんって、恋人にスッゴイ振られ方したんだって?」

 

「!!!」

 

 

白蓮さん……あなた、なんてことを話しているんですか?

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大体、振られてないから!こっちから身を引いたんだからね〜〜〜!!

………なぜだろう?頬が濡れている…………これは……涙?

 

 

「あはは〜〜〜〜♪」

 

 

こ、こいつ、ひとの顔を見ながらスゲー楽しそうにケラケラ笑ってやがる……。

 

 

「ドンマイ!!!人生これからだよ!!」

 

 

黙れ、このおっぱい太守が!

 

 

俺は、脳内でこの女に“あ〜んなこと”や“こ〜んなこと”という18歳未満お断りな悪戯をしかけて、ささやかな復讐心を満たす。

なに?そこはらめぇ?謝るから許してだと?フハハハハハハハハ!!!もう遅い!!この俺を馬鹿にするからそういう目に遭うのさ!!くらえぇええええええええ――――!!!

 

 

「……お兄さん?」

 

「………は!!!……な、なんでしょう?」

 

 

声を掛けられ我に帰る。

 

 

「そこ、右です」

 

「はい……それにしてもどんどん人気のない場所に向かっているようですが、こんな所に例のご老人達が住んでいるのですか?」

 

 

お散歩、なんて言っていたが、ちゃんと目的があるらしい。

俺と会ったのは、彼女が蜀の王になる前、黄巾党討伐の為に義勇軍を編成した頃からいろいろとお世話になっていたという老夫婦に会いに行く途中だったみたいだ。

 

 

「うん。もっとちゃんとした所で暮したら?って言ったんだけど、余生は静かに過ごしたいからって」

 

 

2人とも高齢で身寄りもいないらしく、心配なので時間のある時は、顔を見に行っているそうだ。

 

(……ようするに、ポックリ逝ってないか心配なわけか。)

 

しかし、本当に静かなところだ。

もし、今こんなところで待ち伏せでもされたら、簡単にこの女(劉備)を亡き者に出来るんじゃね〜?

なんて考えていたのが悪かったのか…………それは、現実に起ってしまった。

 

前方、こちらの行く手を遮るように影ができる。

不審に思っていると、今度は後方からも人の気配を感じた。

 

周りを見渡す。

 

前には左側に女、右側に男の二人組。

そして、背後には男が一人。

 

あれ?なんか囲まれてない?

 

殺気だろうか?彼らの放つ不穏な気配のせいで空気は張り詰めていく。

ただの通りすがり………という訳ではなさそうだ。

 

“暗殺”という二文字が、頭に浮かぶ。

 

(おいおい、太守様。成都には悪い事をする人はいないんじゃなかったのかい?)

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心臓の鼓動が早まっていく。思いもよらなかったこの状況に焦りを感じる。

 

3人の視線は、劉備に集中している。解りきってはいたが、俺は眼中にないようだ。

 

狙いは蜀の王、劉備玄徳らしい。

 

「お、お兄さん……」

 

劉備が不安な顔を向けてきた

彼女を庇うように立つと、殺気の籠もった視線が俺に集まる。

 

 

「…………フフッ」

 

 

………鼻で笑われたよ。まぁ、俺は警備隊の鎧を着て、手には標準装備の長棒といういでたちだ………舐められるのは当然かな。

 

 

3人の顔には余裕というものがありありと感じられる。

関羽、張飛などの名の知られた武将ではなく、一般の警備隊員しか劉備を守るものがいないという事実が、彼らに余裕を与えているのだろうか?

 

彼らは、無造作に歩み寄り、俺達と距離を詰めてきた。なかにはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる者もいる。舌舐めずりってやつか?

 

このとき、『獲物を目の前にしながら、舌舐めずりをするのは三流のすることだ』というコードネームがウ○ズ7の軍曹さんの言葉を思い出す。おかげで少し冷静になることができた。

 

 

こんな時にこそ、冷静に対処する必要があるだろう。

 

 

「……ふぅ……」

 

 

深呼吸をして、心を落ち着かせ、そして、敵を観察する。

3人とも、身体は鍛えられており、それなりの実力あると窺える。だけど………。

 

(夏候惇や張遼を知っているからだろうか?あまり脅威には感じないな……)

 

これなら、俺でもなんとかなるかもしれない。

 

(……やってやるさ!この窮地を、切り抜けてみせる!!!)

 

覚悟は決まった。あとは、それを実行するだけだ。

 

伏兵がいないかと気配を探る。

 

……気配は感じられない。

 

いや、居るかどうかも解らないものを警戒するのは、やめよう。

目の前の敵に集中するべきだろう。

戦場の空気は知っているが、生の殺し合いを自ら行うのは、これが初めてなのだから。

 

 

劉備に長棒を預け、刀に手を掛ける。やはり、俺の得物はこれだ。

 

五感を研ぎ澄ませ、集中力を高めていく、それと同時にイメージする。足の指先から、身体全体、そして刀の刃の先まで、それはひとつの凶器なのだと、ただ一振りの刀なのだと思い込ませ、身体は刀の一部なのだと自己暗示をかける。

 

こちらの準備は整った。相手はまだ、構えすらとっていない。ならば……………。

 

 

先手必勝、数で劣るこちらが相手のペースで殺し合うのは上策ではない。

こちらから出で、主導権を握る。

 

 

前方左の女目掛けて突進する。

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「!!!」

 

 

相手はこちらから仕掛けてくるとは思わなかったのか、驚愕を顔に張り付け立ち尽くしている。

 

距離を詰め、こちらの間合いに入ったところで抜刀する――――――!!

 

女が慌てて武器を構え始めているのが見えるが、その動きは遅い。ゆっくりとしていてスローモーションでも見ているようだ。

集中力が高まっているせいか、時間の流れがいつもより遅く感じる。

 

(―――――――獲った!!!)

 

踏み込んだ右足を軸にして刀を振り、一閃させる。鞘から放たれた剣筋は曲線を描く軌跡をとり、女の首筋へと迫っていく。高速で大気を薙ぎ払いながら進む刃はやがて肉を捉え、そして……そのまま女の首を―――――――――刎ねた。

 

 

 

 

 

地面に落ちた女の首を見る。その顔は目を見開き、こちらに視線を向けているように見えた……が、その瞳はすでになにも映してはいない。

 

実感する。たった今、俺は“人を殺した”

 

 

「こ、このっ!!」

 

 

感傷に浸る暇さえ与えてくれないのか、女の隣にいた男が斬りかかってくる。

 

刀でそれを受け流し、返す刀で相手の首筋を斬りつけた。

男は、大量の血液を噴き出しながら倒れこむ。

 

(……2人目、あと1人)

 

返り血を浴びながら、後方にいる男に目を向ける。

 

 

「……ッ!!!」

 

 

その男は今、まさに剣を振り上げ、劉備に斬りかからんとしているところだった。

 

 

「クソ!!!」

 

 

おもわず悪態を吐く。今いる場所は、2人とは距離がある。間に合わない!

 

 

「きゃああああああ―――――――!!!」

 

 

悲鳴と共に、なにか鈍い音が聞こえた。

それは、男の剣と劉備の持った長棒がカチ合った音だ。

 

どうやら咄嗟に、持っていた長棒で剣を受け止めたようだ。

だが……。

 

勢いを受け止めきれなかったのか劉備は弾き飛ばされ、地面を転がる。

 

 

男は劉備の後を、追っていく。

 

俺は、急いで男まで駆け寄り、そして上段に構えた刀を渾身の力で振り下ろす―――――!!

 

 

「―――――――――――あ」

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劉備が声を上げる。その顔は鮮血で赤く染まっていた。しかし、それは彼女が流したものではない。

 

男の身体は、肩口から先が無くなっている。肩から噴き出した血液が地面に座り込んだ劉備の顔を汚す。

 

足元には、男の右腕と、真っ二つに切断された剣が落ちていた。

 

 

「ひ、ひぃい!」

 

 

男は、肩を押さえ、怯えたように後ずさっていた。

 

間合いを詰め、相手の足を斬りつける。

 

 

「がっ!!ぐぁああ――――――!!!」

 

 

男は悲鳴を上げながら、地面に這いつくばる。

顔を苦痛で歪ませながら耳障りな声で鳴いていた。

 

殺しはしない。これは、蜀の王、劉備を狙った暗殺だ。ならば、この男には聞くことがいろいろとあるだろう。

 

 

「……まぁ。それは、警備隊の仕事ではないな」

 

 

辺りを見回す。

ここまでやっても伏兵が出でくる様子がない。どうやら、本当に居なかったようだ。

 

ある程度警戒心を薄めながら、劉備を見る。

 

 

「―――――――――。」

 

 

劉備は、事態についていけていないのか、口を半開きにしながら呆けていた。

その顔は………。

 

 

「……間抜け面」

 

 

蜀の王が、もうちょっと、なんとかならないのだろうか?

 

 

劉備から視線を外し、再び男と、そして二つの骸に目を向けた。

 

それらを見下ろしていると、身体の奥底から、ふと、なにかドス黒い感情がこみあげてくる。

 

 

 

……………俺はそのとき、自らの口元がつり上がっていくのを感じていた。

 

 

日が沈み、空は漆黒に染まっていく。まるで俺の心を映しだしたかのように……。

 

 

 

 

 

…………つづく!!

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あとがき

 

ここまで読んで下さった方、ありがとうございます!

 

今回でヒロイン登場です。

白蓮じゃないです、桃香です。こいつかよぉ〜!って思われる方もいるかと思うのですが、

お姫様とそれを守る騎士、みたいな王道?な物語が書きたくて……まぁ、劉備は王なんですけどね。

 

最後のシーンで、一刀が邪悪な笑みを浮かべます。

所詮は現代っ子なので自らの手で、人を殺めることの重みに耐えられなくて、自分の心を護るため暗黒面?に堕ちていく感じです。

………黒いキャラが好きなんです!ル○ーシュとか浅井○介・鮫島○平とか!福○潤さんのファンなんです!

 

しかし、なんだか種馬っぽくない一刀になってしまったような気がします。

 

あと、いくつかコメントを頂いたのですが、

 

正史7年=外史2年の時間経過で考えています。

 

華琳様以外の魏のヒロインなんですが正直、全然話を考えていないので、そこはあまりツッコまないで頂けるとありがたいです……。

 

曹丕の父親は、秘密です。

 

刀のことなんですけど、ラノベ読んでいて、刀って何人も斬っていると体液で切れ味がおちたり、刃こぼれする描写があったので、それが刀に対する認識になっています。

なので、一対一や少人数との戦闘では刀、大人数で戦う、合戦なんかでは槍をと考えているのですがどうでしょう?

 

これからもご指摘がありましたらコメントで頂けたら、と思っています。

 

それでは、今回はこれで終わりたいと思いす。

 

説明
少し老けた一刀の話です。

今回はヒロイン登場!

影薄い人じゃないです。
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コメント
もうほとんど日本語化してますけどドンマイって英語ですよ?つづりは"don't mind"わかりますよね?(紅蓮のアーティスト)
原作をプレイしてないのでしょうか? キャラに愛を感じません。というかキャラをつかめてすらいませんね。なんでこんなの書いたんですか?(アブラムシ)
黒一刀・・・最高じゃないですかw(えるく)
なんて、恐ろしい子!(何か違うwwww) さてさて、どうなるのかな? 愉しみですね〜^^w(Poussiere)
一刀黒いですねぇ。次回が楽しみです。(もっさん)
↓「続き楽しみです」の間違いです。スイマソン(天神 流)
黒いよ一刀!!怖いけど続きtらのしみです(天神 流)
浅井○介・鮫島○平・・・だとっ!○線上の魔王なのか!実は曹丕は一刀の子供・・・なわけないか。続き期待!(atuantui)
二年か〜・・・・・・・・・ ヤバッ、余計悲しくなった(;;)(フィル)
いきなりの急展開、いきなり桃香の暗殺未遂・・・続きが、すごくきになります。(ブックマン)
↓細かすぎるのはどうかと思いますよ??それなら、ゲーム(原作)にもツッコミ所は数え切れないくらい有ります。マンガ或はアニメの感覚で読む方が良いかと・・・。用は見方しだいですね。(TOX)
相良軍曹!!感服いたしました。是非部下に加えていただきたいです。wwww(TOX)
人は脂が凄いので、何人も連続で斬ることは出来ません。そもそも、この時代の剣なら人を斬ること自体不可能でしょうね。(kirikami)
えーと。まずは申し訳ありません。自分には受け入れることは出来ない作品でした。華琳が、高々二年で一刀から別の男に乗り換えるとは、どうも思えないのです。もしかしたら、あれは一刀の勘違いということもありますが、話の展開上それはないかと判断してしまいました。申し訳ありません(夢幻)
刀の切れ味が落ちるのは手入れを怠るからです。 手入れを怠らず、きちんと剣術を扱えれば鉄を斬っても刃こぼれしない…は言いすぎかもしれませんが、人が一生を終える程度には新品同様で使えますよん♪(ティリ)
一刀がグレた!現代っ子は怖いわぁw(混沌)
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真・恋姫†無双 北郷一刀 桃香 

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