外史異聞伝〜ニャン姫が行く〜 第一篇第九節
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第一篇第九節 【眠れるお姉様?のこと】

 

 

 

「んあ?」

 

 彼女は、顔に当たる暖かい光がひどく眩しく、それを避けようと体を動かそうとするができないことに気がつく。自分の上に何か重みを感じるのだ。重たい瞼を上げ、視界のハッキリしない目を自分の胸元に遣ると、栗毛の女の子が胸を枕に寝息を立てていた。

 

「…」

 

「おはよう、煌蓮さんって、数多?ママを起こしに行くって言ったのに…」

 

 声のする方に目を遣ると、未だにハッキリしない視界に男性と思しき姿が見える。

 

「!?すいえ…あ、一刀くん…おはよう」

 

 思わず、死んでしまった夫の真名を口にした自分の声で目が覚めた。

 

 ハッキリした視界には、亡くなった夫ではなく、村から貰った服を着たボロボロの一刀をとらえた。

 

 一刀もそんな彼女に何も言わず微笑み返しながら、彼女の上に寝ている娘をどうしようかと一瞬考えを巡らすが、とりあえずっといった感じに口を開く。

 

「後で、華陀さんが診察に来ます…来るけど、食欲はある?」

 

 言動が少したどたどしくはあるが、そこが微笑ましく思う煌蓮。

 

「ええ、いただくわ。にしても今朝もボロボロね」

 

「はは、先生が厳しくてね」

 

 煌蓮の言葉に生傷が日を追うごとに増えていく顔に笑顔を浮かべる一刀。左慈の朝稽古が日に日に苛烈さを増していることが窺えた。

 

「うにゅ」

 

 二人の声に目が覚ましたのか、彼女の上で数多が身動ぎをする。

 

「おはよう、数多ちゃん?」

 

 煌蓮が、数多の名を呼び掛けると、眠たげにな声を出す。

 

「ママぁ?」

 

「ええ」

 

 自分の頭と同じぐらいありそうな胸から顔を上げた数多を可愛く思いながら答える。

 

「うにゃ、おはゆぅ」

 

 そう言いながら、また、彼女の胸を枕に寝ようとする。

 

「はい、おはよう。ほら、“ぱぱ”と顔を洗ってらっしゃい」

 

 二度寝はさせじと、((理由|わけ))あって義娘となった数多を落とさない様に両脇を持ち上げながら自分の上半身を起こす。

 

「…」

 

 声を上げないが、身体に痛みが走り、顔を顰めてしまう。

 

 これまた理由あって彼女の夫になった一刀が慌てて近づくこうとするが、大丈夫と口にして、数多をひっくり返し、彼へと差し出す様に立たせる。

 

「うー、パパぁ?」

 

「はいはい」

 

 まだ寝ぼけてるいる数多が伸ばした両手は、一刀を求めてあっちへこっちへとさ迷う。声を掛けながら、その手を捕まえる一刀。

 

「うにゅ…“はい”は、いっかいでよろしいのですぅ」

 

「…“はい”、おはよう数多。さぁ、もう一度顔を洗いに行こうか」

 

 誰かの真似なのだろうか、小言のようなことを口にする数多を抱きかかえた一刀は、寂しそうに微笑みながら外にある共同の井戸へと連れ出して行く。

 

 そんな父娘の遣り取りを静かに見ながら、ふと自分の置かれた状況を不思議に思う煌蓮。実の子ではない子供に、ママ−母親と呼ばれ、少なからず喜んでいる自分。それが如何に((頓珍漢|とんちんかん))なことなのかと。

 

 そんな煌蓮こと孫堅は、意識が覚醒した時のことを思い出していた。

 

 

 

 

「だいこうちゃんのママ?」

 

「ん?」

 

 大煌。それは、森で見つけた迷子の子虎。そして、自分の娘のように育てた赤い虎の名だった。

 

「あなた?その名をどこで、ってうわっぷ」

 

クルル『かか様?』

 

 自分の置かれた状態も確認せず、見知らぬ女の子に尋ねようとした瞬間、彼女の顔をザラザラした舌で舐め回される。

 

「わっぷ?((大煌|だいこう))?どうしたのよ、今日は甘えん坊ね?」

 

クゥ『かか様』

 

 一頻り舐め回した大煌は、自分の頬を彼女の頬に愛おしそうにすり合わせる。それに応えるように彼女も大煌の頬を優しく撫で返す。

 

「よかったね、だいこうちゃん!」

 

「えっと、お嬢ちゃんは誰?」

 

 彼女は、大煌に遮られた疑問を再び口にした。

 

「あまた?あまたはね。ほんごうあまた、よんしゃい」

 

クル『お友達』

 

「だいこうちゃんのおともだちなの!」

 

「大煌のお友達?」

 

「うん♪」

 

 あまた名乗った女の子は、そう答えると大煌に抱き付いた。

 

「なっ?」

 

 動物に好かれる末の娘に馴れるのにも大変だった大煌が、何の抵抗もしないことに驚き、大きく目を見開いた。

 

「こら、数多、大煌、目を覚ましたばかりなのだから静かにね。さあ、今は身体の傷に障るので横になっていてください」

 

 そう云いながら部屋に入ってきた青年が、数多と大煌の頭を自然に撫でることにさらに驚いた。

 

「!…えっと君は…」

 

 ふと、青年を見た彼女はとても懐かしく大切な雰囲気に思わず言葉を呑み込んでしまう。

 

「おれ…私は北郷一刀といいます。この((娘|こ))の父親です」

 

 彼女の様子を気にしたふうはなく北郷一刀と名乗る彼と女の子を見て、初めて自分が寝かされていることに気付いた。

 

 そして、違和感を覚えた。

 

 部屋の真ん中にある囲炉裏周り以外は、所々埃を被っている。暫く住む人間が居なかったことが窺える。“ほんごうかずと”と名乗る彼が住んでいたとは思えない。それにボロボロの紺色の服。民がよく着ている服を身に着けていたが、着慣れていないのかどこか不自然に見える。

 

「姓が『ほん』、字が『ごう』かしら?」

 

 どこぞの豪族か貴族の子弟だろうかと、彼女は考えを巡らせながら情報を得るために目の前の青年にさらに話しかける。その時、彼女は、警戒込めて殺気と覇気を意識して出す。

 

「いえ、姓が北郷で、名が一刀です。故郷には、字と真名の風習はなく持っていません」

 

 しかし、普通の民や三下程度ならば居心地を悪そうにしたり、最悪顔を青くして逃げてしまうだが、目の前の青年は受け流すように対応してきた。

 

 なるほど、それなりに場数は踏んでいる、そう感じる何かを持っていると判断したできた。警戒心はそのままに殺気だけを緩め、会話を続ける。

 

「字と真名がない?」

 

「ええ、異国から来たので」

 

「異国?」

 

 目の前の青年の情報を得ようと試みたが、“異国”という言葉に驚いてしまった。余計に得体のしれない存在なのではと先程以上の警戒心を持ち、先程以上の殺気が溢れ出る。

 

「故郷の人の言葉を借りるなら、日の出づる国からですね」

 

 そんな心情を察してなのか、彼はおどけた風に答えを返してきた。慣れていない者が、まともに正視してしまえば、言葉を出すことも出来ない殺気を出しているにも関わらず平然としている彼に少なからず興味が湧く。そして、この状況でも動こうとしない大煌にも。

 

「日の出づる…と言うことは、東?海を渡った?もしかして、蓬莱?」

 

 蓬莱。秦の始皇帝により、不老長寿の霊薬を探すよう勅命を受けた徐福が赴いた東の三神山の一つである。

 

「ほうらい?…えっと、東の海を渡った島国からです」

 

 その実、熊野など日本の各所に“蓬莱”と呼ばれる場所があったり、日本でよく知られこの時代には存在していない竹取物語の中には、「東の海に蓬莱という山があるなり」ともあるが、彼らの知るところではない。

 

「…そう。それで、ここは?」

 

 嘘だとしてもこれ以上は聞けないと判断した彼女は、現状の把握を優先することにした。

 

「えっと、ここは、徐州の瑯耶と言うところから南にある農村です。自分もよそ者なので詳しくは説明できませんが、森で倒れていたあなたを華佗さんっていう旅のお医者さんが見つけて、そこに偶々居合わせたおれ…私たちとでここまで運んできました」

 

「そうだったの、ありがとう。私はどれくらい寝ていたのかしら?それから普通に喋ったらぎこちないわよ、ふふ」

 

 無理に丁寧に話そうとしているのか、とてもたどたどしいが、そこが可愛らしく見えてしまう、そうまるで…

 

「はは、ありがとうございます。えっと、この村に着いたのが5日前なので、俺たちが見つけて6日くらいですかね」

 

「そう…」

 

 そうまるで、先に逝ってしまったあの人の様な青年だなと思った彼女だが、この後そんな彼らと家族になるとは一切思っても見なかったのであった。

 

 

つづく

 

説明
外史異聞伝〜ニャン姫が行く〜 第一篇第九節を投稿しました。

かなりご無沙汰しておりました。生きとりますww

20150316 文章を修正。
20150728 文章の変更と一部追加。ストーリーの内容に変更はありません。
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コメント
劉邦柾棟様>ご無沙汰してました。更新を楽しみにしていただいてありがとうございますww(竈の灯)
おお〜! 久しぶりの更新待ってましたwwwwwwwwwww!!!!!!(劉邦柾棟)
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