恋姫?無双 偽√ 第六話
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とりあえず俺は曹操と話をしていた部屋の前にいた侍女に俺にあてがわれた部屋まで案内してもらった。

 

 

「凄いな」

 

 

 思わず口に出してしまった。案内された部屋は城内でも離れの方で玉座の間からは少し遠かったがかなりの広さだった。これだけあったら二人ぐらいは余裕でくらせるだろうと思えるくらいの広さだった。

 

 

 曹操の国と俺たちの国との圧倒的と言わざるを得ない財力の差をまざまざと見せつけられたような感じがする。

 

 

曹操が俺を驚かせるためにこの部屋を用意したのか、俺を信用できないと思い玉座の間から離れた所を用意したのかわからないがここが俺の魏での活動拠点になると思うと気が引き締まる。

 

 

それに対し、俺が逃げないように窓に格子を付けていない所や扉にはきっちり鍵まで備え付けられているのをみると曹操の「あなた程度、そのくらいで十分」と言われているようで自分の力の無さが思い知らされるようで悔しい。

 

 

うだうだ考えていても意味がない。街に出ようと思い、俺は棚の中に入れてあった金子を懐に入れようとした所で指先に何かが触れる感触がした。

 

 

何かと思い、取り出して見るとそれは徐州を出発する時に桃香達がくれたガラス玉の入った袋だった。今日、曹操と交渉する前にはちゃんと憶えていて俺を勇気づけてくれたはずなのに…。

 

 

緊張の連続で忘れてしまったのか何なのかはわからなけど、これをくれた桃香達にすごく申し訳ない気がしてくる。

 

 

大好きな女の子達の想いをむげにしてしまった気がして…。紐で絞り閉じられた袋の口をそっと親指と人差し指で摘まんで開け、中身をみた。

 

 

“チャラ”

 

 

ガラス玉同士がぶつかり合って冷たく声を鳴らした。なぜかその音は寂しくて悲しいと俺を責めているようだった。

 

 

「ごめんな…」

 

 

袋を両の掌に傷つけないように優しく包みこんで呟いた。一番外側のガラス玉が人肌の温度になるくらいの時間そうしていた。

 

そしてそっと袋を懐に戻して、金子は制服のポケットに突っ込んで部屋を出た。

 

 

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城門を出て市街を探索することにした。大通りに出ると市があって、たくさんの人で溢れものすごい活気がある。

 

こういうところはどこも変わらない。桃香達の所にいた時も街はたくさんの人で溢れていた。軍務に関わっていない一般の民達はどこも同じ。いつでも幸福を求めているんだ。

 

それをどういう過程で叶えてやるのか、その違いで曹操と桃香は相容れない。今は交われないのだ。

 

 

 

だから曹操は力でもってそれを解決しようとする。桃香だけでなく大陸全てに対して。

 

 

 

だから桃香は優しさをもってそれを解決しようとする。大陸に住む全ての人に対して。

 

 

 

争わなくて済む方法がどこかにあるかもしれない。そう考えてしまうのは俺が甘いだけなのだろうか。平和ボケした俺の頭では何の解決方法も浮かんでこない。

 

だから俺は今できることを精一杯やる、そう心に決めて歩を進めた。

 

 

太陽が俺の真上にある。そろそろ時刻は正午ぐらいだろうか。そんなことを考えていると急に腹が減ってきた。

 

なにか美味しい料理を出す店がないかと探してみるが奈何せん俺はこの街のことをほとんど知らない。

 

 

「はぁ、適当に入るか」

 

 

 近くにあった飯店に入り、美味しそうなものを選んで注文した。

 

 

 注文した料理ができるまで俺はなにもすることがなくボーっと辺りを眺めていた。

 

 

 

 するとそこに見覚えのある人物が通りの向こうからこちらの方に歩いてきているのが見えた。その人物の方をみているとあちらも俺に気づいたようで小走りにこちらの方にやってきた。

 

 

「北郷?こんな所で何してるん?」

 

 

 近づいてきたのは張遼だった。二人で話すのは二日前に城壁の上以来だな。あの時は仕方なかったとはいえ余計なことまで話してしまったし、泣いてしまったところを見せてしまった。

 

 

 どう接するべきか…。しかたないとりあえずなにか話してみるか。

 

 

「あぁ張遼か。もう知ってると思うけど今日から俺は曹操の陣営に加わることになったから街を散策してたんだけど腹が減っちゃってね。ここで昼飯でも食べようと思ってね」

 

 

「北郷はほんまにそれでええの?」

 

 

「張遼はもう昼飯食ったのか?」

 

 

「質問してるのはこっちや!」

 

 

「…とりあえずここに座らないか?」

 

 

 自分の座っている机の正面にある椅子を指でさして促した。張遼は怪訝は顔をしながらも席に着いて、店員を呼び止めいくつかの料理を注文した。

 

 

「あんたの言う通りにしたで。話し聞かせてもらおか」

 

 

 正直俺は迷っていた。ここで下手な嘘をつけばこの場で俺の頸が飛ぶことは目に見えている。かと言って真実を言ったとしてもどうなるかわからない。

 

 

「なにから答えたらいいんだ?」

 

 

「まずあんたはほんまにうちらの陣営に降ったんやな?」

 

 

「張遼、君も曹操から聞いただろう?」

 

 

「確かに聞くには聞いた。やけどウチには信じられんのや…。関羽を人質に取られていたのはわかる。それならここを逃げ出すってこともできたんとちゃうんか?」

 

 

「…そうだな。逃げだせばよかったのかもな」

 

 

「それならなんでや?なんでわざわざ華琳のところに降るなんて」

 

 

「なんでだろうな?」

 

 

「茶化すなや!!ウチは真剣に聞いてるんや!」

 

 

 張遼は机をドンと叩き、立ち上がって俺を睨んだ。その瞳は彼女の言ったとおり真剣で真っ直ぐに俺の瞳を射抜いていた。

 

 

「それじゃ一つ話をしようか」

 

 

「いい加減にせい!ウチが聞きたいのは」

 

 

「聞け!!黙って俺の話を聞け!それに周りを見てみろ。皆こっちを見てるぞ」

 

 

 俺は張遼の怒鳴り声に負けないほどの声を出し、その声を止める。

 

 

「…わかった」

 

 

 張遼も周りの目がこちらに向いていることに気づき席に着いた。

 

 

「いいか?君はある村の村長、その年は大変な凶作だった。だからと言って税を減らしてもらうわけにはいかない。役人は税を納められないのであれば女を差し出せと言った。断れば村の全員が餓死してしまう。女一人の命で村の皆が助かとしたら張遼、君はどうする?」

 

 

「そりゃ仕方ないとしか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしそれが自分の愛する人だったとしたら?」

 

 

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「!?」

 

 

「君の質問に答えるよ。俺は愛紗達の主で徐州の太守だ。この背中には徐州のすべての民の命が乗っている。俺にはその二つを天秤にかけることはできなかった。それだけだ」

 

 

「……あんたはそれでええんか?」

 

 

「この方法しか思いつかなかった。後悔がないと言えば嘘になる。それでも、もし愛紗を曹操に渡していたらこれ以上に後悔していたと思う。俺は好きな女を売ってまで生を得たいとは思わないからな」

 

 

 張遼は俯いて肩を震わせている。しまった…怒らせてしまったか?

 

 

「北郷」

 

 

「な、なんだ?」

 

 

「あんた面白い男やな。ウチはこんな男に会ったんは初めてや!」

 

 

「…はぁ?」

 

 

「やから気に入ったって言ってるんや。あんたのことが」

 

 

 張遼はバンバンと俺の肩を叩いている。正直痛くてしかたないけど、俺のことをそれなりに認めてくれたみたいだ。

 

 

「あぁ、ありがとう。それと」

 

 

 礼を言ってから視線だけで周りを見るように促す。周囲の人は俺たちのことを奇異の目で見ていた。

 

 

「ん?悪い悪い」

 

 

 そう言って張遼は椅子に座りなおした。ちょうどその頃になって店員が注文した料理を運んできた。

 

 

 

 

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「料理も来たみたいだし食べるか?」

 

 

「そやな。ちょうど腹も減ってきた所や。なんや無性に酒が飲みたくなってきたわ!店員さん、ここで一番美味い酒持ってきて。あと杯も二つや」

 

 

「おいおい、いいのかまだ昼間だぞ」

 

 

「かまへんかまへん。今日の仕事はもう終わったんや。いつウチが酒を飲もうとウチの勝手や」

 

 

「はははっ」

 

 

「どうしたんやいきなり笑うたりして?」

 

 

「いや、桃香達の所にも張遼と同じこといってる娘がいたからさ」

 

 

「へぇ一度会ってみたいなそいつと」

 

 

「多分もう会ってると思うよ。ここに来た時、愛紗ともう一人いたろう」

 

 

「あぁあの青い髪の。あの娘の名前は?」

 

 

「趙雲だよ」

 

 

「その趙雲て言う奴、相当の使い手やな」

 

 

「わかるのか?その通りだよ。星の武は愛紗にも勝るとも劣らない程なんだ」

 

 

 今は敵だとしても自分の愛する女の子が褒められるのはすごくうれしい。顔がにやけてくるのが自分でもわかる。

 

 

「……」

 

 

 あれ?なんか俺おかしいこと言ったか?なんだか張遼が怒っているように見える。

 

 

「張遼、どうかしたのか?」

 

 

「決めた。ウチの真名あんたに預けることにするわ!」

 

 

「はぁ!?いきなりなに言ってるんだよ!真名は大事なものなんだろ?」

 

 

「ウチは北郷が信用に足る男やと思うた。だから真名を預ける、それでええやろ?」

 

 

「そ、それならありがたく教えてもらうよ」

 

 

「ウチの真名は霞や。これからは霞でええで」

 

 

「わかった。俺も真名を霞に預けたいところだが、あいにく俺は真名を持ってないんだ」

 

 

「真名が無いってどういうことや?」

 

 

「俺が天の御遣いだってことは聞いてるだろ?俺のいた世界では真名っていう風習がないんだ」

 

 

「そうなんか…」

 

 

 霞は少し寂しそうに酒の入っている盃を傾けた。

 

 

「親しい人からは俺のことを姓の北郷じゃなくて名の一刀って呼ばれてる。だから俺のことは一刀でいいよ」

 

 

「一刀かぁ。ええな!これからは一刀って呼んでええんやな」

 

 

「もちろん」

 

 

「それでなんやけど一刀」

 

 

「ん?どうした」

 

 

「これからどうするつもりなん?」

 

 

「そうだな…まだあんまり考えてないんだ。とりあえずは与えられた仕事をこなすことにするよ。曹操の邪魔をするなんて考えてないから心配しなくてもいいよ」

 

 

「そっか。なんか困ったことがあったらいつでも相談にのるで」

 

 

「ありがとう。頼りにしてるよ」

 

 

「任せとき!」

 

 

 そう言って俺と霞は盃を傾けた。霞は敵陣の真っ只中でできた初めての仲間だった。

 

 

 

説明
偽√の第六話になります。

またも短めの文章になってしまいました。

霞の関西弁がなかなかうまく書けず、悪戦苦闘しているところです。

誤字、おかしな口調がありましたらご報告お願いします。
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コメント
霞も董卓軍から降ったから北郷の事が理解できるんだろうなぁきっと(はこざき(仮))
ダメ猫さん それはすごく悩んだんですけど風と稟は普通に星って呼んでますよね? このへんどうなのかなって思うんですけど…。(IKEKOU)
k.sさん そうなるかもしれませんね。(IKEKOU)
yosiさん 期待していただけてすごくうれしいです!(IKEKOU)
hiroさん 主人公補正ってやつですかねww(IKEKOU)
Poussiereさん これからの一刀の頑張りに期待してください。 霞は旧キャラからのお気入りキャラの一人ですのでうまくその魅力を引き出せればいいんですけど。(IKEKOU)
弌式さん ありがとうございます。 これからも頑張ります!(IKEKOU)
蜀のメンバーですが、思考の際には真名でもいいのですが、口にする時は姓名の方が良いかもしれません。立場的には魏の人ですから。(ダメ猫)
この調子でいずれは華琳も・・・・・(k.s)
なんという良い女。続きが気になる物語です(yosi)
早速、霞と仲間にw これから一刀が魏で何を成して行くのか楽しみにしてますwww(フィル)
全√で言えることだけど、一刀って相手の心に自然に入り込めるから凄い。この状況で霞を仲間にできたし(hiro)
霞がパートナーな感じですね( =w=) うんうん、霞がすごくいい味出してますね。 さて、この後一刀はどのようにしていくのか愉しみです^^w(Poussiere)
続き頑張ってください^^(弌式)
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