IS×SEEDDESTINY〜運命の少女と白き騎士の少年
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「こんのぉっ!」

 

ユニウスセブン

 

かつてコーディネイターの楽園の一つだったそこで、シンは自身の搭乗機である“インパルス“のビームライフルを敵に向けた。

ZGMF-X56S インパルスは、ガイア。アビス。カオスの三機と同様にザフトが開発したセカンドステージシリーズの一機だ。今現在喚装している【フォースシルエット】は高機動戦闘用に設計されており、他にも近接戦用の【ソードシルエット】と砲撃戦を想定した【ブラストシルエット】に喚装できる。

その設計思考は、一夏のストライクMk-IIの原型機であるストライクのストライカーパックシステムが関与していると思われた。

頭部から何まで、地球連合のGと酷似したその機体は、シンの二年間の成果そのものであり、シンの望む力の象徴のようなものだった。銃口の先から放たれた熱線に直撃して爆散したのは、本来友軍機に属されるはずの“ジン“の改良機だ。

正式名称を“ジン ハイマニューバ“と名付けられたその機体は、本来ならば緑と白で塗られた機体のはずだが、目の前の敵は紫と黒で塗り固められていたことからして、どうやらさらにその改修機のようであった。

 

「でも、だったら奴らはどこでこれを……!?」

 

ユニウスセブンの軌道修正が自然的に起きたことではなく、人為的に修正させられたものだと判明した以上、目の前の犯人はどこでザフトのモビルスーツを入手したというのだろうか?確かに、ジンならば“サーペントテール“を始めとするコーディネイターの傭兵が運用することは知っていた。

が、その高機動戦闘型のハイマニューバともなれば話は別だ。これはまだザフトの中でもゲイツRと同様に新型に準ずる機体なのだ。

 

「なのに……なんでこんなにいるの!?」

 

新式クラスの機体が部隊並の数で襲いかかってくることに苛立ちと疑念を抱きつつシンはさらに向かってくる引き金を引く。

 

『のわぁあああっ!?目の前かよぉーーーーっ!?』

 

一方シンの背後から遅れて射出されたショーンの深緑に塗られたゲイツRのカスタム機“ゲイツフォートレス“からパイロットの音声を拾った。

どうやら射出された先に敵モビルスーツが接近してきたらしく、大目玉をくらっていた。しかしショーンはそれでも焦ることなく正確にガルム44を構え、マシンガンモードで牽制する。

銃弾の雨から逃れようと後退するジンの背後に、もう一機の黄色く塗られたゲイツのカスタム機“ゲイツアサルト“が猛スピードで接近する。

 

『でやぁぁあああああっ!!!』

 

意表を突かれたジンは、回避運動をする間もなく、対艦刀クラスはあるであろう長さを誇る長剣、レイヴンソードでジンを真っ二つに切り裂いた。

 

『見たかあたしの実力っ!』

 

『調子に乗るなよデイル。まだ敵は残ってんだぞ!』

 

初めての実戦ということで感情の高ぶりを見せつけているデイルに注意を促すショーンの二人がそれぞれ敵のジンを落としていき、シンも負けじと迫り来るジンを斬り捨て、または距離をとってくるところを撃ち落として着々とメテオブレイカー設置の妨害をしてくる敵を減らしていく。

しかし、それでも敵の数は一向に減らず、むしろこちらが徐々に押され始めてきた。味方の襲撃を受けたことを除いても、敵パイロットの腕が純粋に優れているのだ。

もちろんシンたちも初の実践とはいえ新造艦に配備されたエリートだ。彼女らがテロリスト相手に押されている理由は、単に実力差があるだけではなかった。

 

「くっ……!」

 

右足が縄で引っ張られるような感覚と同時に姿勢を崩したインパルスに舌打ちをしていると、頭上から銃弾の雨が降り注いだ。

敵のジンらが放ったビームカービンだ。射程距離や貫通力の低さ故に近接戦闘においては強力な武器となりうることでそこそこの知名度をかっている射撃武装で、その証拠に咄嗟に防いだ盾は雨が止む頃にはボロボロになっていた。

もはや盾としての役割を果たせないと判断したシンはボロボロのシールドをジン目掛けて投げつけた。

完全に不意をつけられたジンが腕のシールドを構えながら避けようとするが、インパルスのビームライフルから放たれたビームが投げつけたシールドに直撃。ビームコーティングを施したシールドは反射してシールドと機体の隙間からコクピットを貫き、推進材に引火すると爆散する。

 

「あと何機!?」

 

『わからん。が、少なくとも二十機はいる 』

 

シンの問い掛けに答えたのは、白いザクファントムを操るレイだ。最初の数が見当も付かなかった以上、だいたいの数が絞り込めたのはシンにとってはありがたかった。

しかしそれでも残りおよそ二十機━━━それらを全滅または撃退しない限り、ユニウスセブンを砕ききることは不可能に近い。

 

(でも、やらなくちゃ大勢の人が死ぬ……! )

 

かつて故郷と呼んでいたオーブも、見知らぬ国も、大地も、海も、そこに住む人々でさえも。皆、等しくその生命を己の意志に望まずに奪われるのだ。それだけは、絶対に避けなくてはならない。

 

『あぁもうっ。鬱陶しいわね!』

 

この中でユニウスセブンにもっとも近い位置取りから援護射撃を続けている赤いガナーザクウォーリアからルナマリアの不満そうな声が挙がる。

辺りを浮遊するデブリを盾に接近するジンに苛立っているのもあるのだろうが、おそらく理由はもう一つ。

現在ガナーザクウォーリアに装備されているオルトロス高エネルギー長射程ビーム砲とは別に用意されているレールガンの弾が直進せず明後日の方向に飛んで行くからだろう。

通称“風“と呼ばれているこの現象は、ユニウスセブンが分解した際に残った高密度な衛生が影微細な重力となってその結果ああして弾道が逸れてしまっているのだ。エネルギー切れを考慮して、ルナマリアは他がビーム主体で敵を撃墜しているのに対して、あえて実弾の予測不能の弾道で挑んでいるのだろう。……もっとも、狙ってもどうせ当たらないからと自棄になってるだけなのだろうけど。

実のところ、先ほどからインパルスが引っ張られるような感覚に陥らされているのも、この影響が大きかった。

ユニウスセブンに近付けば近付くほど、機体の些細な動きに影響を受けやすくなり、機体の被弾も増えていった。そうなると比例的に敵の被弾率が下がってくるように感じられた。

 

「奴らは、このフィールドに慣れている……?」

 

しかしそれはよく考えなくてもそのはずだ。ユニウスセブンを落とそうと考えているような連中だ。当然破砕作業にザフトが動き出すことも予想できたはず。対策をこうじるのはごく当たり前だと言えるだろう。

 

━━━その時だ。

 

メテオブレイカーの一つが地中に打ち込まれたと同時に凍った大地に巨大な亀裂が走った。亀裂は見る間に深く空隙を広げていき、やがて、その向こうに星空を覗かせた 。

 

『ユニウスセブンが……』

 

『砕けた……』

 

ルナマリアのザクとデイルのゲイツから感嘆の声が漏れる。ユニウスセブンはほぼ真っ二つに裂け、爆破の衝撃によってわずかに遊離しながら漂っていく。反動で撒き散らされた岩塊を避け、シンは機体を後退させた。

一仕事を終えた四つな達成感を誰もが覚えていたとき、本来なら耳にするはずのない声が飛び込む。

 

『だが、まだ駄目だ』

 

視界を一機のザクウォーリアが横切り、二つに割れたユニウスセブンに降下していく。

 

『もっと細かく砕かないと……』

 

声の主の判断は正しい。いくら半分に割れたとはいえ、ユニウスセブンの直径は十キロメートル近くはあるのだ。いまだ地球には十分な脅威を持っている。

 

『どうするイザーク!?このままだとユニウスセブンが……』

 

『わかってる!民間人が口出しするな!』

 

出撃前にアレックスとか名乗っていたアスハの腰巾着とジュール隊隊長のイザーク・ジュールの会話が唐突に流れる。

二人の関係が気になるには気になるが、今はそれどころではなかった。シンはアレックス機との回線を一時遮断して肉迫するジンにビームサーベルで鍔迫り合いを披露する。

━━━が、目の前の敵に気を取られていたシンの背後にもう一機のジンが重斬刀を手に躍り出た。

 

「しまっ━━━━」

 

やられる━━━━そう覚悟したシンの背後で、爆発が生じた。

 

「えっ……?」

 

フォースシルエットをやられたことによる爆発ではない。ジンそのものが撃たれたのだ。しかし、援護なんてできるはずもないこの状況で、いったい誰が……?考えているうちにも目の前のジンが爆散。

咄嗟に腕を交差して庇い、一瞬覗かせた弾丸の方角にカメラをズームした。レーダーにも、モビルスーツを示す反応が一点。

ザフトの友軍を示す青いマークで点滅していた。やがて最大にまで拡大し終えると、そこにはインパルスと似通った顔を持つモビルスーツが長大なライフルを構えてこちらに向けていた。

 

「あれって……」

 

初めて見るモビルスーツだった。ザフトの機体に、果たしてあのような機体はあったのだろうか……?そう思っているとレーダーに機体名が映し出された。画面には≪GNR-01 tardyon≫と記されていた。

 

「ターディ、オン……?」

 

素粒子の一つ、ブラディオンの別称だと記憶している名を持つその機体は、静かに遠くから戦場を見下ろしていた。

 

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「専用のスーツは次の出撃までには渡しておく。その分、体に負担がかかるが、良いな?」

 

ザーツバルムの言葉に、一夏は無言で頷いた。

コクピット・ブロックと呼ばれたソレは、珍しいことにモビルスーツ本体とは別物だった。いわばパイロットをターディオンに接続させるための機械のようなものだ。

銀色の卵を横にしたような形状をしており、巨大なベルトコンベアーの上に置かれている。開かれたハッチから中に入ると、ひどく柔らかな座席が一夏を迎えてくれた。

座席に座ると、左右の肘掛けの先にそれぞれ銀色の半球形のものがあった。その蓋に触れてみると、すっと自動的に開いた。

蓋の奥は、真っ赤なゼリーで満たされていた。少なくとも、そう言う風に見えた。そしてゼリーの中には、金属の環が五つ、並んでいる。

ザーツバルムが事前に説明していた中にあったものだ━━━確か、ニーベルングの指輪とか言っていたはずだ。

ザーツバルムが言うには、ターディオンは他のモビルスーツと違って、操縦するものではなく、機体そのものに“なる“のだという。

何度か騎乗テストをした結果だと言うが、軽く動かす程度が限界で、それ以上は負担が大きすぎるとのことだ。その後、様々なパイロットがテストしたが、機体と適合できたのは一夏だけだったという。

━━━いったい、自分は何時の間に検査などしたのだろう、という疑問を置いておくことにして一夏は両手を、左右のゼリーの中に差し込んだ。ひどく暖かな感触があった。器からゼリーが溢れ出すかと思っていたが、電気的な凝固作用によって、こちらへは溢れて来ないようだ。

最初は右手の人差し指━━━それから親指と、ゼリーの中の指輪に指を通していった。十個の指輪がそれぞれの指の根本まで達する。と━━━指輪が自動的に口径を縮め、ぴったりと優しく掴んで、しかも二度と離さないというよう、すべての指に嵌められた。

 

瞬間━━━凄まじい衝撃が一夏を襲った。

 

指先の根本から電気的刺激が襲いかかるや、座席に備えられた接続機器が迫り上がり、一夏の二の腕、腹、大腿部に、叩きつけられるように装着されたのだ。

電気椅子━━━という言葉が、知識からではなく、苦痛を表現するものとして思い浮かんだ。

絶叫がコクピット内に反響した。

座席が一夏を痛めつける一瞬前に、ハッチが閉ざされたのだ。

目を開けば、朧な光がともる閉鎖空間だった。痛みが引いてゆくともに、とてつもない安堵感が訪れる。このまま赤ん坊に戻るんじゃないかと思えるほどの安らぎ。催眠誘導的な穏やかな灯り、電子的な刺激、人間工学的な設計が、一夏を安寧へと誘った。

ふいに、銀の卵が運ばれ、持ち上げられるの感じた。

このままターディオン本体に搬入されるのだろうと思っていると、いきなり前のめりになった。上下逆さまにされたのだ。両手も体も座席に完全に固定されているため、落下はしない━━━が、電気椅子につぐ拷問を連想した。逆さ吊りだ。

待ってくれ━━━そう叫びそうになったとき、ふっと体が軽くなった。

上下が元に戻った感覚になる。だが、確実に頭は地面を向いているはずだ。まるで温かい液体の中で逆さになって膝を抱え、うつむいているような姿。

そう、これは胎児の姿勢だ。コクピット・ブロックは、ターディオン本体の背面から腰部へと、上下逆に搬入される。そして本体との電動関係によってパイロットの肉体は、ほぼ完全に重力から解放され、胎児の姿勢をとる。

ようするにターディオンが、パイロットを受胎するようなものなのだ。

体全体は軽いのに、手足に重みを感じた。いや━━━手足自体が軽くなった。筋肉が弛緩し、神経が平穏になった証拠だ。手足の先から暖かさが広がり、呼吸することに快感を覚えた。心臓の鼓動が規則正しく打つのが聞こえる。鼓動が全身に広がり、体全体がざぁん、ざぁん、と波打つような感覚になる。

一夏は目を閉じた。そこには、深い闇があった。

闇が、大きくうねるのを感じた。それは力を生み出そうとしていた。

準備は整ったことを、一夏は理解した。それまでの平和が姿を消し去り、争いが飛び交い、異なる世界に足を踏み入れさせられ、そうしてついに辿り着くべき場所へ、到達したのだ。

その時━━━

 

『目を開けろ、ターディオンと一体化するんだ』

 

脳裏に、声が響いた。自分の中に蓄えてた知識の声ではない。

 

『ターディオンの視界が、お前の視界だ』

 

それはどこか懐かしく感じるような、そんな優しく、温もりを与えてくれる男の声だった。

 

目蓋を開くより前に━━━実際にそうしても良かったが━━━まずは言われたとおり視界と言うもの認識した。ターディオンは他のモビルスーツと違って視覚機能が映すものをモニターに反映させるのではない。

ターディオンの視覚を、直接、一夏自身の視覚野で、受け取るのだ。

ふいに━━━目が開いた。

光が、信じがたい広さで溢れた。自分の肉眼よりも倍以上に広い。格納庫の天井と床が同時に見えた。右側面と左側面が同時に━━━自分の斜め後ろに至るまで、視覚された。

やがて一夏の━━━ターディオンの体を固定するケージが次々に解放されていった。見慣れたカタパルトハッチを正面に捉えて、ターディオンがカタパルトに脚を固定させると、右手脇からクレーンで運ばれる武器を握った。武器の頼もしい重みが、手の下に感じられた。

知っている。こいつは((雷撃槍|ルガーランス))だ。馬上槍に似た形状をした、対艦刀レベルの長さを誇る長大な荷電式の刃。そいつを握り締めながら、ターディオン本体に収納された兵器群の情報も確認した。

 

『ケージ解放とともにサーキットへ移動する。特装カタパルト“ナイトヘーレ“開門まであと五秒』

 

足下のブロックが沈み、エレベーターで下りるように別の空間へ移動したのだ。

天井が閉じ、たちまち周囲に水が溢れた。ひんやりとした感触が、高ぶる体に━━━機体に、心地よかった。減圧室のようなものだが、それ以外の目的もあった。

ただの水ではなく、電気的作用で膜を張る液体だ。それが透明な衝撃吸収剤となって機体を覆い尽くすや━━━眼前の扉が開いた。

 

『モビルスーツ ターディオン━━━出撃!』

 

ザーツバルムの鋭い号令とともに、ミネルバに後付けされた下部カタパルトから射出される。

ぐん、と加速を感じた。

戦場へと続く水に満たされた通路を、ターディオンが一個の弾丸となって迅ったのだ。

 

━━━俺が、ターディオンだ。

 

その中で一夏は、より深い一体化を促すため、己にそう言い聞かせて自己暗示に徹した。

 

━━━ターディオンが、俺だ。

 

ターディオンはカタパルトを通り抜け、宇宙へ飛び出し━━━そのまま戦場へと身を踊らせた。

そしてそのままユニウスセブンの残骸に、地響きをたてて着地した。全身を覆っていた衝撃吸収剤が、もとの液体に戻り、きらきら輝く飛沫となって四散する。

 

「いた……」

 

視線の先には、ミネルバから出撃した赤いガナーザクウォーリアのレールガンがジンの改造機らしき機体に向けて放たれていたが、それは敵機に当たることなく明後日の方角に逸れていった。

 

「なるほど。高密度衛生群の影響か……」

 

通称、“風“の名で呼ばれる現象のことは無論、一夏も知識として知っていた。左目が最大限拡大し、これまで以上の情報と計算を一括に捌く。

 

「センサー有効半径60,000メートル内のフィールドマップ、形成完了」

 

いったんルガーランスをユニウスセブンの残骸に突き刺すと、次に背中にマウントされていた一丁のライフルに手を伸ばした。

ロングバレルの無反動小銃“クラウソラス“だ。本来は実弾とビームを使い分けられる機関銃なのだが、喚装を用いることでこのように最善の武器で挑むことができるというわけだ。

一脚式のパイルアンカーを大地に浅く貫いて固定し、弾丸を実弾・((徹甲弾|AP弾))で設定すると、備え付けられたカメラスコープにメインカメラを合わせる。ちょうど二機のジンがインパルスを挟み撃ちにしようと片方が果敢に斬り、もう片方が背後に回っている様子がうかがえた。しかもインパルスは背後からジンが接近していることに気 付いていないようだ。

もちろん一夏はここでシンを墜とさせるようなまねはさせない。

 

「高密度衛生群による重力変更推測……データ補正良し」

 

解析した架空フィールドから風の強弱、方角。それらを数値化、マップ化させた後は両陣営モビルスーツの識別判定と位置情報を纏め上げる。

それらが終了し、ありとあらゆる情報を収集し終え、ついに漆黒の巨人がロックしたジンに小銃の引き金を引くことで、戦線に参加することを表明した。

 

「目標……((発射|ファイア))!」

 

放たれた((徹甲弾|AP弾))は当然ユニウスセブンから発生する“風“の影響を受けて次第にインパルスと鍔迫り合いを繰り広げるジンから反れていき━━━

 

「次弾、((発射|ファイア))!」

 

再びクラウソラスが火を噴いたかと思いきや、その直後にインパルスの背後に回り込んだジンが初弾に直撃して爆散した。

一夏の左目が、重力の強度を計算。そこから敵の直撃コースを予測して弾丸を放ったのだ。この義眼により、次弾もジンに吸い込まれるように推進機関を貫通して機体を火達磨にしあげた。残されたインパルスは見覚えのない機体に呆然としている様子だったので、通信を繋げようと試みたが、三機のジンが同時に接近してくることを知らされて即座にルガーランスを抱え込んでその場から離脱した。

一瞬の間にビームカービンの雨が降り注いだ残骸から敵のジンを視線に捉えると、クラウソラスを片手で器用に構え直すと、その体勢から弾種を変更し、三機のジンに向けて引き金を引いた。

放たれた一発限りの弾丸は、ジンの目の前にまで到達すると、唐突に弾が弾け、その中から無数の弾子が飛び出した。榴散弾だ。瞬時にシールドを構えてやり過ごすジンだが、その一瞬の合間にターディオンは右手にルガーランスを槍の要領で構え、その切っ先を真っ直ぐにジンの左大脇腹へ突き込 んだ。

そして素早く武器のトリガーを操作すると、突き込まれた刃が縦に割れた。刃が左右に開き、ジンの装甲を広げる。

そして━━━弾丸が放たれた。

開かれた刃が超伝導の銃身となり、柄から圧縮された百二十キログラム相当の弾丸が発射され━━━超高圧の電荷とともに、数キロトンの爆圧を相手の腹に叩き込んだのだ。

内部に進入した弾丸は、中にいるパイロットを塵一つ残さず消し去り、同時に内側から機体を爆散させた。

撃沈したジンに続き、こちらを再認識したジン二機がそれぞれビームカービンを連射する。ターディオンはすぐさまルガーランスを元の形状に戻すと背面のカタツムリに似通った形状をした円錐状の推進部から光の粒子がほとばしった。

光の粒子は、ターディオンの周囲をあっという間に球体状に囲み、ビームの矢を防ぎきるほどの強固な壁となった。ターディオンの中にいる一夏は、ふと数 間前に受けたレクチャーの一部始終が脳裏をよぎった。

 

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「GNドライヴ?」

 

ターディオンの背部に取り付けられている円錐状のソレが、そう呼ばれているものだとザーツバルムに教わった一夏は不思議そうにターディオンを見上げた。

動力源が剥き出しになっているということにもその時、驚きと疑念が同時に湧き出た。

 

「うむ、我から言わせれば、オーパーツか、未来からの贈り物と思いたいくらいの代物だよ」

 

ザーツバルムをそう唸らせるほどの力を備えるGNドライヴは、初めからターディオンに備え付けられていたというが、むしろこの動力源を生かすためだけに、ターディオンが生まれたと彼は言っていた。そして「動力源といえば……」と呟いてみせてから調査の結果あがったターディオンの情報に?関する一枚を手渡された。

そこには、GNドライヴとは別の動力源に関する記載だった。

が、そこには『不明』の二文字を除いて、何の記載もされていない、ただの紙切れ同然だった。

 

「性能どころか名前すらわからぬ。しかし((そこにある|・・・・・))ことだけは確かなのだ」

 

厄介極まりないことだ。と呟く苦々しい表情は、滅多にお目にかかれないもの故に、その動力源の秘匿性の強さがはっきりと浮き出ていた。

 

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GNドライヴから発生するGN粒子。その粒子で形成した球体状の防護壁は“GNフィールド“と名付けられ、一夏を守る盾となる。

その性能の高さを垣間見た両者は、片や感嘆の声を漏らし、片や攻撃が通らないことに恐怖していた。しかし、非情さが常に満ち溢れている戦場において、思考の停止はすなわち“死“を意味する。

漆黒の機体は、フィールドを解除しながらクラウソラスとルガーランスを手放し、空いた手に両腰に備え付けられていた二振りの大剣を取り出した。

連結可能なバスターソード“レヴァテイン“だ。

こちらの接近に気づいた二機のジンが、弾かれるように交代しながらビームカービンを連射しているが、巨大な実体剣の腹を盾にしてさらに距離を積める。

ここでターディオンは追い討ちをかけようと腕部と腰から四基のアンカーを先端に取り付けたワイヤーを射出した。機体から放たれたそれらは、ジンの腕や足にからまるか、先端のアンカーに装甲を貫かれて身動きがとれなくなる。

スラッシュハーケンといって、このように敵を捕らえるだけでなく、機体の持ち上げや移動の簡略化にも使用されている。ただ、ターディオンに使用されているスラッシュハーケンは他のものよりパワーがあり、配装されている部位にも違いが見られた。

必死に脱出しようともがく二機のジンに肉迫したターディオンは、そのままレヴァテインを一対に連結させると、躊躇うことなく二機纏めて横一閃に両断してみせた。

斬り捨てられた二機は呆気なく爆散し、辺りにはそれがモビルスーツだったことを示す破片と、無傷のターディオンだけが残った。

 

「周囲に敵影無しメテオブレイカーは……こいつか」

 

レヴァテイン、クラウソラス、ルガーランスをそれぞれのハードポイントに収納すると、ターディオンユニウスセブンに降り立ち、放置されたままのメテオブレイカーにスイッチを入れた。

ギュォォォォッ。と音を立てながら地中に打ち込まれたメテオブレイカーは、ユニウスセブンからモビルスーツサイズの破片を切り抜いた。

続けざまに不安定なまま放置されていた数台のメテオブレイカーにスイッチを入れて回り、そのたびにユニウスセブンの身を削っていった。何台かは破壊されてしまっていたものの、残された分だけでもどうにか原型よりも大きく削りきることができた。

 

━━━しかし、地球への被害を考えればまだまだ足りない。大気圏が迫ってきていることも計算に入れれば、もっと細かく……それもひと思いにユニウスセブンを消滅させられるだけの威力が今のユニウスセブンには必要不可欠だ。

 

そう思っていると、ミネルバとヴォルテールから帰還信号が打ち上げられた。続けてレーザー通信が入る。これはミネルバからのものだ。

━━━本艦はモビルスーツ収容後、大気圏に突入しつつ、艦首砲による破片破砕作業を行う。

艦首砲……確かタンホイザーと言っただろうか。それでどれだけの破片が砕けるかはわからないが、それでも多少は地上への被害は減るだろう。

 

『しかし、それだけだ』

 

脳に直接語りかけるように、あの男の声が厳しい口調で響いた。

 

『それでは、まるで足らん。それでは、解決には程遠い』

 

そうだ。元よりすべて砕ききることは不可能なのは承知の上。しかし中途半端に砕いたユニウスセブンが半分に割れた時以上の範囲に被害を見舞うのは明白。

可能であればユニウスセブンそのものを消し去る気で作業を続けなくてはいけないのだろう。

しかし、メテオブレイカーはゼロに等しく、モビルスーツの武器では大きく削れない以上、一夏たちに手段は、無い。

 

『((アレ|・・))を消す方法を、教えてやろうか』

 

返答をするまで、かなり、間が空いた。

相手の意図を察するのに、それだけ時間がかかったのだ。

 

『だが、代償としてお前は世界の敵になるだろう』

 

返事より先に男から放たれたのは、まるで禍々しさを漂わせた契約を思わせる言葉遣いだった。

 

「世界の、敵……」

 

それが一体、どういう意味で、男が何を思ってそう呼んだのかは、今の一夏には到底理解できない。

だが、少なくとも世界にとって織斑一夏は忌むべき存在になりうることだけはわかった。

 

『それでも、お前は“力“を振るうか?』

 

力……かつての自分は、ただ姉のように強く、誰かを守るという中途半端な思いで力を求めた。

そして今は、慕ってくれる夏恋や夏音が笑顔であり続けられるようにとストライクを初めとするモビルスーツという名の力を手に入れた。

ならばその力で、失われようとしている命を守ろうとするのは、織斑一夏という人間性を見れば聞く意味さえ無に帰す。

 

「……その“力“で、地球は守れるのか?」

 

姿の見えない声の主に尋ねる。

 

『……それはお前次第だな』

 

悪ふざけなんて微塵も感じられない、真っ直ぐな言葉が胸に突き刺さる。

様するに、遠回しに己の背中に大勢の命が背負われていると言われたも同然なのだ。

普通なら、怖くて逃げ出しているだろう。実際一夏の手足は緊張が走って震えが止まる様子を見せない。

皆精一杯頑張った。被害だって当初の予測と比べれば大分マシになるはずだ。そう納得させることだって出来るし、本来ならそれが正しい未知のはずだ。そもそもナチュラルの自分にこれ以上コーディネイターとなれ合う必要など余所からすれば、無い。

 

━━━それでも、俺は……

 

「……ああ、グラディス艦長。俺です。頼みたいことがあります」

 

気が付けば、一夏は自らの意志でミネルバに連絡を取っていた。

それが答えなのだと理解すると、自然と自嘲気味の笑みがこぼれてしまう。どれだけ足掻いても、織斑一夏はガキ臭い少年が求めるような、そんな正義の味方のように体が動いてしまうのだと、それがお前なんだと言われた気分だ。

 

━━━男の声は、もう気配さえ感じ取れなかった。

 

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謎のジン部隊をあらかた撃破したルナマリア、レイ、ショーン、デイルの四人はそれぞれの愛機を駆って地球へ徐々に引かれていくユニウスセブンの大地を飛んでいた。

 

「もう、生きてるエネルギーを見つけろって言われたって……!」

 

コクピットの中でルナマリアが苛立ちを言葉にする。

 

「仕方ない。ぎりぎりまで探すぞ」

 

なだめるようなレイの声が、通信に入った。

 

「なぁショーン、仮にエネルギー見つけたとしても、バッテリーはどうすんの?」

 

そんな中、デイルはあくまで下手な緊張感を持たずに自然体でショーンに通信を繋げた。

 

「ジュール隊もこちらにありったけのバッテリーを持って急行している。それにまわせば問題ないってさ。それより破砕作業をどうするか、それが気になるな……」

 

「工作隊がほとんどやられたって本当なの?」

 

ショーンからつながって今度はルナマリアが質問を持ちかけた。

 

「……確認はしてないが、急な命令変更を考えると、事実だろうな」

 

ルナマリアの問い掛けに答えたレイを筆頭に、その場の空気が若干重く感じられる。

 

「まったく、新型をこれだけ投入して……なんて無様!」 

 

「よせよ。ザクやカスタムゲイツに乗っていながら、ジン相手に苦戦した俺たちも悪いだろ?』

 

そんなやり取りをしながら、二機のザクとゲイツRはかつてユニウスセブンへエネルギー供給を行っていた場所にたどり着く。操作パネルの存在を確認すると、ルナマリアとショーンが地上に降り立ち、パネルを叩いて反応を調べた。

 

「あ……これ、ちょっとだけど生きてるみたい。デイル、ジュール隊に連絡とってよ!」

 

「あいよ。にしてもこれだけのエネルギー、一体なんに使うのかね?」

 

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後ろに振り返れば、地球が大きく見える。一夏はその蒼さに思わず息を呑んだ。

 

「……あんなに綺麗だったんだな。まるで吸い込まれそうだ……」

 

呟きつつ、ターディオンの位置を大気圏ギリギリの地点に固定し、目前に迫る巨大なユニウスセブンを見上げた。その手には、二本のルガーランスが握り締められていた。

 

『ジュール隊、バッテリーの配置完了しました。接続します!』

 

バッテリーを持ってきたジュール隊から通信が入る。バッテリーはだいたい五×五×五メートルほどの正方形で、それが連結して七個ある。

 

「ありがとう。背中のバイパスを開くから、そこに繋げてくれ!」

 

言いつつ、一夏はGNドライヴの真下からエネルギー供給用のバイパスを開いた。

ガシャン。

背中にバッテリー群と繋がった巨大なケーブルが接続される。ミネルバ乗艦の間に確認したが、ケーブルの接続や通信は、他のモビルスーツと同じ仕様のようだ。

 

『しかしこんなものを何に使うおつもりで?量産機ならば、このバッテリー1つで10体まで電源供給が可能ですが……』

 

「ユニウスセブンをぶっ壊すんだよ。それに、これだけじゃまったく足りない……」

 

バッテリーから供給される電源量を確認したが、ターディオンが要求したエネルギー値には10パーセントしか満たせていなかった。GNドライヴからも圧縮された粒子がエネルギーに変換されて備蓄されつつはあるが、それでもやはり足りない。

 

(こいつをフルで撃つにはモビルスーツ1000機分のエネルギーが要るのか……)

 

途方も無い話だった。同時に、ターディオンが要求するエネルギーというものが、どれだけふざけた兵器なのかを改めて感じてしまう。

 

『一夏さん。ユニウスセブンで生きていたエネルギーをその機体にまわします』

 

するとそこへ新たにバッテリーを引いてきた白いザクから通信が入る。パイロットはレイのようだ。

 

「頼む。そのままバッテリーに連結してくれ」

 

『はい。すぐにシンも来ます。インパルスの特性は知っていますね?」 

 

「ああ、確かデュートリオンビーム送電システムだっけ」

 

インパルスを含んだセカンドステージシリーズは、ある程度離れた状態で?も母艦ミネルバからエネルギーを直接受け取ることができるらしい。

ザクやゲイツRよりもある意味エネルギー消費が激しいPS装甲系を装備するモビルスーツの燃費改善の一手と言っても過言ではない。

 

『では俺はミネルバに帰艦します。ミネルバはこれから大気圏突入を行うので、時間の余裕も少しあるでしょう。次に会うのは地球ですね、健闘を祈ります』

 

「そうか、地球に降りるんだったな……わかった、了解だ」

 

レイのザクがバッテリーとの連結作業を終え、場を離れていく一夏は周辺のザフト軍に退避するようミネルバに伝えておいたので、ザフト艦も離脱していくのが見えた。

 

(これだけ集めて、まだ32パーセントか……)

 

エネルギーを確認する。フル状態でもユニウスセブンを消滅させられるかどうか分からないというのに、この状態で撃った場合どうなるのか、一夏には到底予想できなかった。

ゆっくりと二振りのルガーランスの照準を調整する。どこを狙えば、効果的にユニウスセブンを破壊できるかをアナリティカルエンジンでシュミレーションを行い、探す。

すでにユニウスセブンは目前に迫り、ターディオンの前に威容をさらしていた。

 

『一夏っ!』

 

「シンか?」

 

バーニアの光で帯を作りながらフォースインパルスがこちらにやってくる。

インパルスはターディオンの背後に回ると、胸から送電用のケーブルを引き出して連結しているバッテリーとは別に、ターディオンの背中へとそれを差し込む。

やがてインパルスが受け取ったエネルギーがターディオンに送電される。同時に一夏はバッテリーからのエネルギー供給も開始してルガーランスの発射準備を開始した。

 

『一夏。私ね、地球が滅亡するかもしれないって言われた時、オーブがまた無くなっちゃうって思ったら胸が苦しくなったんだ』

 

唐突に、シンが自身の胸の内を独白しだした。一夏はそれに対して、何か言うこともなく、ただ黙ってシンの言葉に耳を傾けた。

 

『認めたくないけど、それって私がまだオーブが好きってことなのかな?』

 

「……さぁな。けど、今こいつを地球に落としたら、取り返しのつかないことになることだけはわかる……お前にとってもな」

 

一度失ったものはもう二度と帰ってはこない。シンの家族も、犯した過ちも、無かったことになんてできないし、変えることもできない。

過去で変えられるのは、自分の気持ちだけなのだから……

 

『……うん。一夏、ありがとう。そしてお願い、家族の墓を守って。一夏ならきっとできるって、信じてるから……』

 

インパルスの手が、ターディオンの肩に添えられる。シンの思わぬ励ましに、一夏の迷いが少し消えた。それでも両手は震えている。

ルガーランスを最大出力で放てば、一夏は謎の声が警告したように、世界の敵に成り下がるかもしれない。

 

「だからって、目の前で大勢の人が死ぬのを、黙ってみてられるかよ!」

 

恐怖と不安を抑えつける。手動でチャージが完了していく。ゆっくりと迫りくるユニウスセブン。その災厄を打ち砕くべく、照準を定めていく。

 

『一夏、ミネルバはもうこれ以上エネルギーを出せないよ。どう!?』

 

インパルスがケーブルを外す。

バッテリーからも外す。もうどちらもエネルギーが空だ。

 

「……駄目だ、50%しか集まってない……いや、それでもこれで撃つッ!」

 

瞬間、黒い機体が目の端をかすめる。最初?、一夏は何事かと思ったが、シンの叫びが叫びが事実を証明した。

 

『ジン……!まだ残ってたの!?』

 

驚いて振り仰ぐと、ジンが四機、ビームカービンを放ち、腰の刀を抜き放って襲いかかってきた。あるものは足、あるものは腕を失い、破損していない機体は一機も無かったが、四機とも最後の力を振り絞るかのようにこちらへ肉迫してきていた。

 

「シン!?」

 

インパルスがターディオンの前へかばうように立った。しかし、インパルスの動きが止まるその隙をジンが見逃すわけもなく、ビームサーベルをインパルスの肩に叩き込んだ。インパルスの肩から激しい火花が散る。切り口はかなり深く、かなりのダメージだ。

 

『エネルギーが……あの機体への供給で……!?だからって、ちょっと動けないからって!そんな好き勝手ェェェェッ!」

 

インパルスは残ったエネルギーをすべて振り絞るように、ビームサーベル抜き放ちながらジンに向かっていく。エネルギーを充填しているターディオンは、動けそうになかった。

戦闘に入ったシンの耳に、突然、怨嗟の声が飛び込んできた。

 

『━━━我が娘の墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!』

 

目の前に迫ったジンのパイロットのものだ━━━それに気付いたときには、すでにシンの光刃はその胴体をなぎ払っていた。

 

『娘……?』

 

勢いのまますれ違い、背後で爆発したジンを振り返ったシンは、唖然として呟く。

続けざまに向かってくるジンの刃をビームサーベルで受け止めると、今度は別のパイロットの声が叩きつけられる。

 

『ここで無惨に散った命の嘆きを忘れ……!撃った者らと、なぜ偽りの世界で笑うか、貴様らはっ!?』

 

その糾弾はシンの胸に突き刺さった。

 

『━━━軟弱なクラインの後継者共に騙され、ザフトは変わってしまった……!』

 

ジンのパイロットはなおも恨みの言葉を吐き出す。シンは攻撃することも忘れ、呆然と彼の言葉を聞いた。

 

━━━この人たちは、ザフトの……?

 

何故、こんな馬鹿なことを、何故こんな酷いことを?━━━と、ずっとこの部隊に憤りと疑問を抱いていたが、今ようやくシンは悟った。

 

━━━彼らにはユニウスセブンを落とす正当な理由があったのだ……

 

だが、だからといってこの行為が許されるはずもない。これらの破片が落ちれば、ユニウスセブンで撃たれた者以上の命が失われる。シンは断固としてエネルギーの充填に徹するターディオンを守る構えで、斬りかかる敵を待ち受けた。

 

『何故気付かぬか!』

 

ジンはしゃにむに打ち込みながら、叫んだ。

 

『━━━我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラのとった道こそが、唯一正しきものと!』

 

そのジンは、やがてインパルスに反撃されると片腕を切り落とされるが、それでもなお、がむしゃらに追いすがり、ジンはインパルスの動きを封じるように組み付いた。

 

『くっ……!』

 

シンが呻いた次の瞬間、閃光が一夏の目を灼いた。インパルスにしがみついたジンが自爆したのだ。衝撃でインパルスは吹き飛ばされ、宙を舞う。

 

「シン!?」

 

とっさにインパルスを覆うとする気持ちを押さえ込んで、ユニウスセブンに照準を直そうとした一夏は、だしぬけに上がった雄叫びのような声に振り返る。

 

『我らのこの思い……今度こそナチュラルどもにィィィッ!』

 

残った二機のジンのうちの一機が突進をしかけてくる。一夏は飛び上がってかわそうとしたが、もう一機のジンの両手がターディオンの足に巻き付いた。

 

「くっ……!」

 

機体ががくんと引きずられ、照準が狂う。なんとか体勢を立て直したいところだが、ぐらぐらと動かされるおかげで上手く照準が合わない。

 

「させるかァァァァァァッ!!」

 

吹き飛ばされたインパルスが、残ったエネルギーをすべて振り絞るようにビームサーベル抜き、突進してくるジンを縦に切り落とし、続いてターディオンの足に絡みついているジンの右腰へと叩き込んだ。

しかし、そのコンマ数秒のうちに反応していたジンが、同じくビームサーベルをインパルス目掛けて突き刺していた。

 

━━━結果は、ジンとインパルスの相打ちだった。両者はお互いにサーベルを突き刺した状態で、火花を散らせている。

 

「シン!」

 

『私は大丈夫だから、お願い。いって!』

 

揉み合うインパルスとジンが、ターディオンの斜線状から待避していくのを確認してから、一夏は強く念じた。

 

「ッ、射線上の友軍退避、確認!エネルギー充填停止。エネルギー手動操作解禁!ターゲットロック。目標、ユニウスセブン!」

 

二振りのルガーランスが中心から割れ、凶悪な砲門をのぞかせる。

 

「ルガーランス。縮射砲形態……いっ けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

凄まじい光の奔流。

ビームライフルなど比べることすらおこがましいエネルギー量。わずか18メートルのターディオンから放たれるそれは、直径8キロのユニウスセブンを貫いていく。

 

-7ページ-

 

ジンと刺し違いながらも、目の前の巨光を見上げたシンは、思わず声を漏らす。

 

「あ、ああ……これが、あの機体の……本当の…………力……」

 

一報ミネルバのブリッジでは、目前の光景に誰も言葉を発することができなかった。

 

「凄い……ユニウスセブンを破壊して る……」

 

しばらくして、かろうじてといった様子でメイリンが声をあげた。それぐらいしか声が出なかった。

 

ミネルバに帰艦するレイのザクが振り返る。

 

「な……なんだ、一体…………これは」

 

輻射砲形態で放たれたルガーランスを見たレイの膝は、不覚にも震えていた。

 

モニターに映し出される光景を見たルナマリアとアスランは、ただ目を丸くしていた。

 

「あれ、本当にモビルスーツな の……!?」

 

「たった一機で……ミーティアどころじゃない。あれじゃあ……ジェネシスじゃないか……」

 

アスランの脳裏に、前の戦争で使われた大量破壊兵器がよみがえった。

 

ヴェサリウス改に乗艦したデュランダルとザーツバルムは、ユニウスセブンを見て声をあげた。

 

「ターディオン……か…………」

 

ふと、カガリとのやり取りを思い出してデュランダルはつぶやく。

 

「力は戦いを呼ぶ。それは一面の事実だが……あれほどの圧倒的な力な ら…………」

 

-8ページ-

 

膨大な量を誇る光がユニウスセブンを貫くと、爆発が起こり、ユニウスセブンは崩壊を始めた。

 

━━━しかし

 

(駄目だ……!エネルギーが足りない!!)

 

ルガーランスの威力は始めこそ凄まじかったが、やがてその力は弱くなり、光も細くなっていく。

エネルギーもGN粒子の生成スピードが追い付かず、徐々にエネルギー値がレッドゾーンへ迫っていく。

 

「畜生!これじゃあ破片がッ!」

 

このままエネルギーが切れてしまえば、ルガーランスの衝撃で砕かれた隕石たちが、引力に負けて次々と地球に落ちていくのは火を見るより明らかだ。

そして赤い尾を引き、一種の幻想的な光景をターディオンの前に展開するだろう。

 

(どうした((織斑一夏|ターディオン))。お前の((思い|力))はその程度かッ?)

 

男の声が脳裏に響く。

 

違う。そんなわけがない。お前は俺だから、俺はお前だから、よくわかる。

この程度じゃないはずだ。

ターディオンの力も。

織斑一夏の思いも。

 

「もっとだ、ターディオン━━━皆を守る力を…………俺に、与えろぉぉっ!!」

 

朧気な光がともる閉鎖空間の中で、渾身の雄叫びをコクピットに響かせた。

 

『使用者よりマスター認証の((解放|リベレイト))を申請━━━承諾』

 

返ってきたのは、無機質な機械のように発せられた冷徹で、そして事務的な独白だった。

 

『マスター認証条件確認━━━設問、“あなたは、そこにいますか?“』

 

次いで、心を撫でるような、ひどく透明な声が脳内に響いた。

同時に、腕と足からそれぞれ翡翠色に輝く結晶が出現する。

 

「っ!ガアッ!?」

 

それだけのことで全身に痛みが走ったと思いきや、心臓を握りつぶされているかのように呼吸が荒くなる。

しばらくして思考がまともになってくると、直感的に出現したそれが何なのかを理解する。

 

これは試練だ。正しい答えを見いだせなければ((ターディオン|自ら))の手で消滅するのだと、他でもない自身が警告を鳴らしている。

ただ答えるだけでも駄目だ。そこに思いが伴っていなければ、ターディオンは答えてくれない。

 

━━━なら、答えは簡単だ。

 

「ああ、いるぞ…………」

 

結晶がピシリ、と音を立て始める。

そう、迷うことなど無い。心の奥底からの本音を、素直に吐き出すだけなのだ。

俺が、織斑一夏が臨んでいることを、そして存在していることの証明を━━━

 

「皆のために…………俺はっ━━━━━ここにいるんだァァァァァァァァッッ!!」

 

結晶が砕け、辺りに飛び散る。

 

『マスター認証━━━承認。ターディオン、リミッター並びに“レプトン・ベクトラー“解除。特殊兵装“((祝福の輝き|シャイニー・ブレス))“解放』

 

無機質な音声が途絶えると、途端にルガーランスに異変が生じる。いや、正確にはルガーランスを握っているターディオンから異常が発生していた。

先ほど一夏の腕や足に生えていた翡翠色の結晶。それが今度はルガーランスを握り締めている腕から発生しているのだ。

当の本人にはまるで分からない現象。しかし本能が『やれる』と告げ、信頼を預けた一夏は膨張するエネルギーをすべてルガーランスに回し、文字通りすべてをユニウスセブンにぶつけた。

 

「いっっっけェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!」

 

二本のルガーランスエネルギーの嵐がユニウスセブンを包み込む。

それは、先ほどまでとは比べものにならないエネルギー量で、かつて地球を滅ぼそうとした大量殺戮兵器“ジェネシス“をも上回る光であった。

やがて熱にやられたユニウスセブンは徐々にその身を削り始める。

建物や施設だったものは一瞬で溶け去り、氷となった貯水区は跡形もなく蒸発した。

そうやって次々に消えていくユニウスセブンは、とうとう無機質な塊ですらなくなり、最後には跡形もなく消し飛んだ。

 

-9ページ-

 

そこにあったことが夢だったのではないかと疑うほどにまで綺麗に消し飛んだユニウスセブンの跡を見て、安堵とこれからの不安が入り交じり、ふっと力が抜ける。

一体化しているターディオンもそれに合わせて機体を宙に浮遊させる。

 

━━━終わった。長かったようで短い、一連の戦闘が、正真正銘、終わりを告げたのだ。

 

『うあっ……!?』

 

不意にシンの叫び声が聞こえた。

慌てて起き上がった一夏が地球の方に見やると、そこには最後のジンと抱き合うような格好で地球に落ちていくインパルスがいた。

 

「シン、どうしたんだ!?」

 

『インパルスが動かないの……!』

 

「畜生、待ってろ!」

 

ターディオンが落下するインパルスを目指して地球に近づくが、急にターディオンの動きが重くなった。

モニターを確認すると、外面温度がどんどん上がっていっていた。

 

(やばい……大気圏に入っちまった!)

 

「こんのぉぉぉ!!」

 

摩擦で機体が赤くなっていく。

それでも無理矢理ターディオンを動かしてインパルスの手を握った。

 

『一夏!』

 

「シン!どうにか機体を動かせないのか!?せめて姿勢制御をしないと燃え尽きるぞ!』

 

『今やってる……けどっ!駄目……全然動かない!』

 

「くそッ、ジンのパイロットはなにやってんだッ!一緒に燃え尽きるつもりかよ」

 

『多分気絶してるんだと思う……せめてシールドを展開して負担を減らしたいけど……』

 

インパルスのシールドは戦闘途中に失っていた。こんなことになるなら投げるんじゃなかったと後悔しているシンを後目に、一夏はニーベルングの指輪に収まっている両手を握り締めながら、システムに大気圏突入用の装備を検索させていた。

 

「ターディオンは小惑星に隠されていたんだ。だったら大気圏突入用の装備ぐらいは……あった、バリュートか!」

 

モニターにバリュートの使い方と展開時の映像が出る。大気圏突入用のパラシュートみたいなもので、それを背中に展開したまま後ろ向きに突入することで安全に地球へ降りるというものだ。

ターディオンのバックパックから、パラシュートに似通ったものが履き出される。これがバリュートで、まず正面に広げるとインパルスの手を引っ張って乗せた。

 

『一夏、これは!?』

 

「大気圏突入用の装備だよ。おとなしくしてりゃ、燃え尽きることはないはずだ……もう一つ!」

 

再びターディオンがバリュートを展開し、インパルスを右手に握ったまま、今度はジンを左手で引き寄せてから同じようにバリュートへ乗せた。

 

『一夏、何をして……』

 

「見殺しにできないだろ?それに、こいつは生きたまま捕らえた方が色々と都合が良いはずだ」

 

『そりゃあ、そうだけど……』

 

ターディオンは右手にインパルスの手を握り、そしてジンを左手に握りしめて地球に背中を向け、今度こそ自分のバリュートを展開した。

 

『まずい、ミネルバがあんなに遠く……!』

 

シンの声。もう自分で動くことのできない三機ミネルバからだいぶ離れた場所で大気圏突入を開始していた。

 

「仕方ないさ……それより、インパルスが地面に激突しないか心配だ。なんとかターディオンで抱き止めるつもりだけど……」

 

『せめて落ちる場所が、水面なら……』

 

シンがこぼした、その時り一夏の心に懐かしい声が響いた。

まるで思い出せそうにないが、とにかくどこかで聞いたはずの、優しく透き通った声が、一夏の心を深く揺り動かした

 

(大丈夫。私があなたを導くよ)

 

少女の声。

シンよりも幼く聞こえる、とても暖かくて包まれるような声。

 

「君は……!?」

 

『……運命が求める、新しい場所へ……』

 

-10ページ-

 

ユニウスセブンがシャイニー☆

 

はい、ファフナーが面白すぎてぶち込みました。他にもちゃっかりスラッシュハーケンやアルドノア・ゼロの宇宙様装備に出てくる銃なんかも出してる辺り作者のキメラレベル(ツギハギ感)にあきれてるかもしませんが、何卒、お付き合いしてくださると嬉しいです。

 

強いて言うなら感想が欲しいです。

 

意見とかダメ出しでも構いません。作品と関係ないことでもいいので、感想欄に何か書いてくれるとモチベーションが高ぶるので。

 

 

そういうわけで、次回をお楽しみに!感想もぜひぜひ!!

説明
PHASE-06 覚醒の吠哮
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3447 3317 2
コメント
反省も後悔もしておりません(アインハルト)
弥凪・ストームさんへ 『別にあれ、壊してしまっても構わんのだろう?』ファフナーの英雄二人とfateを見直してたらそんなお告げがふっと舞い降りて……気が付いてたらユニウスセブンがシャイニー☆してました(アインハルト)
これはまた急展開ですね(弥凪・ストーム)
プロローグに出てた偉そうな奴「白式だと思った?残念!僕だよ!」←なわけあるか(アインハルト)
はい。最新話でヤバいことになってる(いつもだけど)ファフナーです。最終回は世界中がシャイニー☆になるのでしょうね(アインハルト)
あとはあと数話したらマユちゃん出現かな?(ジン)
まさかのファフナーにビックリ^^;てかこれから更に神化するからどうなるんだろうねぇ〜そして最後の幼女様の声って確実に白式だよね^^ 次回の更新楽しみにしているので頑張ってください応援してます。(ジン)
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