銀の月、友達を捜す
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「……はぁ……はぁ……」

 

 部屋の中で息を荒げる黒髪の少年。

 少年は床に仰向けに倒れこみ、額に玉のような汗をかいている。

 そこに、炎のように赤い髪の幼い少女がやってきた。

 

「お〜い、銀月! ちっと遊ぼうぜ……ってどうしたんだ!? 顔が真っ青じゃねえか!!」

 

 アグナは部屋に入ってくるなり大慌てで銀月の元へ駆け寄った。

 それを見て、銀月はゆっくりと身体を起こす。

 

「くっ……大丈夫だよ、アグナ姉さん。ちょっと力を使いすぎただけだから」

「お前、今度は何をした!?」

 

 凄まじい剣幕で詰め寄るアグナ。

 そんな彼女に、銀月は大きく深呼吸をして答えた。

 

「……ふう……これを作ってたんだよ」

 

 銀月はそう言うと、机の上に置かれている複雑な模様の描かれた二枚の紙を指差した。

 アグナはそれを見て首をかしげた。

 

「……何だこれ、札か?」

「そうだよ。ちょっと特殊な札でね、これはその試作品」

「どんな効果の札だ?」

「ふふっ、それは内緒。でも、これが上手く出来たら俺は少し自由になれるんだ」

 

 銀月はそう言って満足そうに笑う。

 それに対して、アグナはキョトンとした表情を浮かべる。

 

「はあ……よくわかんねえな。触っていいか、これ?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 銀月がそう言うと、アグナは机の上の札を手に取った。

 すると、札からは人肌程度の温度が伝わってきた。

 

「うわっ、この札なんか暖かいぞ? どうなってんだ?」

「それも秘密。けどまあ、そのお陰であんまりぽんぽん作れるものじゃないんだけどね」

「まあ、今のお前の様子を見りゃそう簡単に作れねえものだっつーのは分かるぜ。とにかく、落ち着くまでちっと休んでろ」

「ああ……そうさせてもらうよ」

 

 銀月はそう言うと、布団に潜って眠り始めた。

 

 

 

 

 しばらくして、銀月は胸から腹にかけて重みを感じ眼を覚ました。

 

「……じゅるり」

「っ!?」

 

 すると、目の前には自分を見つめながら舌なめずりをするルーミアの姿があった。

 

「ああ……やっぱりすっごく美味しそう……」

 

 ルーミアは恍惚とした表情でそう言いながら銀月の頬を両手で掴む。

 突然のその行動に、銀月は思わず固まった。

 

「る、るーみあ姉さん?」

「舐めるくらい良いわよね?」

「え、はい?」

「ペロペロ」

「うわっ!?」

 

 銀月が言葉を理解する前に、ルーミアは銀月の顔を舐め始めた。

 

「……はう〜、美味しい〜♪ ペロペロ」

「ちょっと、ルーミア姉さん、くすぐったいって!!」

「レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロロレロレロ……」

 

 銀月の静止も聞かず、ルーミアはその顔を舐めまわす。

 頬から鼻、額にかけてを余すことなく舐めていく。

 

「あうっ、ちょ、やめてってば!!」

 

 銀月はそう言ってルーミアの顔を引きはがした。

 すると、ルーミアはうっとりとした表情で大きく息を吐いた。

 

「はふぅ……舐めるだけでこれなら……かじったらどれくらいなのかな……」

「る、ルーミア姉さん……?」

「……ねえ、銀月。あなたを食べさせてくれる?」

 

 ルーミアは銀月の上に寝転がり、頬杖を突きながらそう問いかけた。

 その瞬間、銀月の眼が大きく見開かれる。

 

「なっ!?」

「もちろん、ただでとは言わないわよ? 食べさせてくれるんなら、私を食べていいわ」

「い、いやおかしいでしょ!? 俺妖怪を食べる趣味はないぞ!!」

 

 大慌てで銀月がそう言うと、ルーミアはキョトンとした表情を浮かべた。

 

「え? ああ、そういうこと……こっちの意味を知らないのね……ふふふっ」

 

 ルーミアはそう言って笑うと、銀月の白い袴の紐に手を掛けた。

 銀月は思わずその手を払う。

 

「待って、何する気!?」

「ん〜? 今から銀月のこと二重の意味で食べちゃおうと思って。今からその一つ目を実行するわ」

 

 ルーミアは薄く笑みを浮かべながら、銀月の袴の脇から手を突っ込んだ。

 

「ちょ、どこに手を突っ込んでんの!?」

「え〜? だってせっかく食べるんなら気持ちいい方がいいでしょ? きゃん!?」

 

 ルーミアがそう言うと同時に、銀月はルーミアを突き飛ばすように引きはがした。

 銀月の顔は赤く、ルーミアの突然の態度に困惑しているようである。

 

「だからちょっと待ってってば! 俺は食べも食べられもしたくないって!!」

 

 銀月はそう言いながらルーミアと距離をとろうとする。

 その一方で、ルーミアはジリジリと銀月との距離を詰めていく。

 

「ふっふっふ……逃がさないわ「おらぁ!!」ぐぎゃっ!?」

 

 突如として紅い弾丸が飛んできて、ルーミアのわき腹に突き刺さる。

 ルーミアは横に吹っ飛び、壁に激しく叩きつけられた。

 その紅い弾丸ことアグナは、鬼のような形相でルーミアを睨みつける。

 

「……おい、テメェ銀月を食うなってあれほど言ったのにまだ懲りねえのか?」

「あたたた……お姉さま、冗談よ。少し味見をするくらいで……」

 

 赤符「C・F・H」

 

「いやあああああああ!?」

 

 炎上しながら窓の外へとはじき出されるルーミア。

 アグナはそれを呆れ顔で見送る。

 

「……ったく、これじゃあ銀月が休めねえじゃねえか……おい、銀月。大丈夫か?」

「うん。怪我とかは特にないよ」

「体調は?」

「そっちも十分休んだから大丈夫。それよりも顔を拭きたい。ルーミア姉さんに舐めまわされてベトベトなんだ」

「そだな……銀月、今日は人里に行って来い。あいつが居るんじゃ上手く休めねえだろうからな」

 

 アグナはそう言いながら銀月にハンカチを渡す。

 その言葉に、銀月は苦笑いを浮かべた。

 

「だからもう大丈夫だって」

「ダメだっつーの。お前は平気で自分の限界を超えやがるからな、疲れてなくても休みやがれ」

「信用無いなぁ……俺」

「そういうことは自分の行動を振り返ってから言えよ。とにかく、人里で羽を伸ばして来い。兄ちゃんには言っておいてやるから」

「分かったよ。それじゃあ、行ってくる」

 

 銀月はそう言うと、身支度をして人里へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「……札作りは成功だったけど……妹紅さんに悪いことしたな……」

 

 銀月は苦い表情でそう呟く。

 先程、銀月は妹紅に頼んで作った札のテストをしたのだが、何やら嫌なことがあったようだ。

 

「よお、兄弟。なに辛気臭い顔してんだ?」

 

 そんな銀月に上から掛かる若い少年の声。

 それを聞いて銀月は顔を上げると、上から降りてくる少年に声をかけた。

 

「ん、ギルバートか。いいや、別に何かあったわけじゃないけど……」

「そうかい。ところで、魔理沙見なかったか? 久しぶりに来たから顔を出そうと思ったんだが、いないんだ」

 

 ギルバートは魔理沙を捜して人里の上を飛んでいたようである。

 そんな彼の言葉を聞いて、銀月は首をかしげた。 

 

「魔理沙? 俺は見てないぞ。そういえば、結構頻繁に人里に来てるけど、魔理沙に長いこと会わないな。どうしたんだろ?」

「あら、二人ともこんにちは」

 

 二人がそう言って話をしていると、青果店の店員が声をかけてきた。

 それを受けて、ギルバートは仏頂面で頭を下げ、銀月は笑顔を返した。

 

「……どうも」

「あ、こんにちは。すみません、魔理沙を見ませんでしたか?」

「魔理沙ちゃんねえ……それがね、つい最近知ったんだけど、あの子随分前に勘当されて人里から出て行っちゃったのよ」

 

 店員の言葉を聞いて、ギルバートははじけたように顔を上げた。

 

「はぁ!? それまた何で?」

「何でも、魔理沙ちゃん、魔法が使えるようになったらしくてね……それが原因でお父さんと大喧嘩したらしいのよ。で、どこ行っちゃったかわかんなくなったって訳」

 

 それを聞いて、ギルバートは大きくため息をついた。

 

「マジかよ……あいつ魔法の才能あったんだな……」

「そうですか。分かりました。情報ありがとうございます」

「どういたしまして。それじゃ、またね」

 

 銀月は店員に頭を下げると、青果店の前から歩き出す。

 その横をギルバートが思案顔で歩く。

 

「で、どうする? 魔理沙を捜しに行く?」

「まあ、魔理沙がどんな魔法を使えるようになったのか気になるしな。少し捜してみっか」

「そうだね。でも、どこに行ったんだろう?」

「当てがあるっちゃあるぜ。魔法使いになったならあそこに居るかも知れないな」

 

 ギルバートはどうやら魔理沙の行き先に心当たりがあるようである。

 それを聞いて、銀月は首をかしげた。

 

「あそこって?」

「魔法の森さ。あそこには魔法の手助けになるものがたくさんある。もし俺が家出をするならば、俺は間違いなくそこに行くぞ」

「そう……ならまずはそこに行ってみよう」

 

 二人はそう言うと、人里を出てギルバートの案内で魔法の森へと向かった。

 森の入り口に着くと、二人は一度そこで降りた。

 森の中は薄暗く、先が見えない。

 銀月はそんな森を見て、少し顔をしかめた。

 

「……何ていうか、少しやな感じがするな」

「そりゃそうだ。魔法の森には瘴気が溜まってるからな。何の力もない人間じゃあすぐに倒れるぞ。んじゃ、魔理沙を捜すとしますかね」

 

 二人はそう言うと、森の中をゆっくりと飛び始めた。

 しばらくすると、青い屋根の白い家が見えてきた。

 

「あれ、こんなところに家がある」

「まあ、間違いなく魔法使いの家だろうな。少し聞いてみよう」

 

 二人は家の前に降り立つと、ドアをノックした。

 しばらくすると、中から住人が現れた。

 住人は金色の髪に青い服を着た少女であった。

 

「あら……見ない顔だけど、どちら様?」

「ああ、俺は銀月と言います」

「俺はギルバート・ヴォルフガングだ。少し質問があるんだけど、良いか?」

「別に良いわよ。答えられる範囲なら答えるわ」

「霧雨 魔理沙って言う人を知りませんか? 最近魔法使いになったみたいで、捜してるんだけど……」

 

 銀月は少女にそう言って質問をする。

 すると少女は首を横に振った。

 

「残念だけど、私は知らないわ」

「そうか……じゃあ、もう一つ質問。スペルカードルールって知ってるか?」

 

 ギルバートがそう尋ねると、少女は首をかしげた。

 どうやら、少し興味を持ったようであった。

 

「それも初耳ね。何かしら、それは?」

「それはな……」

「ああ待ちなさい。話が長くなりそうだし、上がりなさい」

「そういうことなら上がらせてもらうぞ」

「失礼します」

 

 二人は家の客間に通され、ソファーに座る。

 西洋風のその客間は綺麗に整頓されており、せわしなく小さな人影が動き回っている。

 よく見れば、それは人形のようである。

 銀月がそれに気を取られている間に、ギルバートがスペルカードルールの説明をした。

 

「ふ〜ん……そういうものが出来たのね。で、それはどこで手に入るのかしら?」

「白紙のスペルカードなら、人狼の里や銀の霊峰、人里とか妖怪の山なんかで配ってるぜ。っと、悪いが名前を教えてもらえるか?」

 

 ギルバートはメモ帳を取り出し、少女に名前を聞く。

 どうやらスペルカードルールを広めた相手の名前を記録するように言われているらしい。

 

「アリス・マーガトロイドよ」

「Alice Margatroid……綴りはこれでいいのか?」

 

 ギルバートは名前を書き示すと、目の前の少女に確認を取る。

 それを見て、アリスは頷いた。

 

「ええ、合っているわ。ところで、貴方達何者?」

「俺は人狼の里の長の息子。こいつは銀の霊峰の首領の息子だ」

「と言うことは、人狼と妖怪かしら?」

「いいや、俺は正確には魔狼っていって人狼と魔人の雑種。銀月は人間だ」

 

 ギルバートは自分と銀月の説明を簡単にする。

 すると、アリスはギルバートに興味を持ったように眼を向けた。

 

「と言うことはギルバート、貴方の親の片方は魔法使いなのね?」

「まあ、魔法使いの定義で言えば魔人も魔法使いだな。で、それがどうした?」

「魔法使いなら魔道書を集めてるはずでしょ? だから、今度見に行こうと思って」

 

 アリスの言葉を聞いて、ギルバートは考えるそぶりを見せる。

 その表情は何やら難しいもので、どうやら何がしかの問題があるようである。

 

「母さんの魔道書か……楔文字とかヒエログリフみたいに、古いのはちょっと特殊な言語とかあって分かりづらいのもあるけど大丈夫か?」

「それくらいなら大丈夫よ」

「……生きて噛み付いたりしてくる本もあるけど?」

 

 ギルバートはアリスに自分の家の図書館の本について説明する。

 すると、アリスの微笑が引きつったものに変わった。

 

「……やっぱり、その時は案内を頼むわ」

「ああ、いいぜ。母さんには友人ってことで通しておくよ」

 

 アリスの依頼に、ギルバートはそう言って答えた。

 その一方で、銀月は隅で動く二体の人形を見つめていた。

 人形は片方が何かを探すように箱の中を漁っていて、もう片方がそれを見守るような格好をしていた。

 

「ああこら、散らかしちゃダメでしょう?」

「後で片付けるから良いじゃん♪ それよりもあれどこに行ったのかな〜♪」

 

 銀月は声を可愛げのある少女の声に変え、人形の動きに合わせてそう話す。

 その様子を、ギルバートが白い眼で見つめていた。

 

「……銀月。お前はいったい何をしてんだ? 人形遊びか?」

 

 ギルバートがそう言うと、銀月はびくりと肩を震わせた。

 

「はうっ!? い、いや、少し暇だったから人形の動きに声を当ててみようと……」

 

 銀月が説明をすると、ギルバートは大きくため息をついた。

 

「本当にお前の声帯はどんな構造してんだよ。明らかに別人の声じゃねえか」

「あら、これ魔法じゃないの?」

「違うわ。これは単なる声マネ。魔法でもなんでもないわよ」

 

 アリスの言葉に、銀月はアリスの声マネをしながら答えを返す。

 それを聞いて、アリスは興味深そうな眼を銀月に向けた。

 

「……確かに、魔法を使ったような痕跡はないわね。不思議な技もあるものね……」

「だろ? 俺もどうやってんのかさっぱりわかんないんだ、これ」

「俺の能力が関係してるらしいけど、俺もどんな能力か知らないしな」

 

 今度はギルバートの声で銀月が喋る。

 すると、ギルバートはぶるりと背筋を震わせた。

 

「おい、俺の声でしゃべんな。目の前でやられると寒気がする」

「はははっ、悪いね☆」

「ぜってー悪いと思ってねえだろテメエ!!」

 

 爽やかに笑いながらの銀月の言葉に、ギルバートは殴りかかる。

 銀月はそれを苦笑しながら受け止める。

 

「冗談だって。それより、あんまり長居してると魔理沙を見つける前に日が暮れるぞ?」

「それもそうか。それじゃ、俺達はこれで失礼するぜ」

「ええ。今度人狼の里に行くから、その時はお願いね」

「ああ」

 

 二人はアリスの家を出て、再び空へと浮かび上がった。

 

「さて、魔理沙はどこに……」

「お〜い! そこの二人〜!」

 

 ギルバートが呟いた瞬間、二人の耳に元気な少女の声が飛び込んできた。

 二人は一斉にその方を向く。

 

「あれ、魔理沙?」

「空飛んでる……本当に魔法を使えるようになったんだな」

「へへっ、これでギルや銀月達と一緒に飛べるぜ!!」

 

 ギルバートの呟きに魔理沙は嬉しそうにそう答える。

 そんな魔理沙に、銀月が話しかけた。

 

「ところで、その帽子どうしたんだ?」

 

 魔理沙の頭には人里に居た時には被ってなかった黒い帽子が乗っていた。

 その質問に、魔理沙は笑顔で答える。

 

「ん? そりゃやっぱ魔法使いって言ったら黒い服にこの帽子だぜ!」

「……つまり、形から入ったんだな」

「そうとも言うぜ!」

「あはは……魔理沙らしいな」

 

 魔理沙の回答にギルバートは若干呆れ顔で答え、銀月は苦笑いを浮かべた。

 すると、魔理沙は何か思い出したように話し始めた。

 

「そういや服装って言ったら、何で銀月はいつも真っ白な服なんだ? なんか意味でもあるのか?」

「ああ、これか。実は魔理沙とあんまり意味が変わらなかったりするんだな、これが」

 

 銀月は自身の真っ白な服装を指しながらそう話す。

 それを聞いて魔理沙は首をかしげ、ギルバートは納得したように頷いた。

 

「どういう意味だ?」

「ああ、そういうことか。お前そういえば神主だったな」

「それもあるけど、別の意味もあるんだ」

「別の意味?」

 

 今度はギルバートも首をかしげる。

 首をかしげた二人組みに、銀月は理由を話すことにした。

 

「ちょっと本気で役者も目指してみようと思ってね……それで、真っ白な服を着ることで気合を入れようと思ったんだ」

「わかんねえな、何でそれで白い服なんだよ?」

「演じる役が絵だとすれば、役者は色を乗せる画用紙さ。白にはどんな色だって乗せられるだろ? だから、俺は役者を目指すと決めたときから白い服を着るって決めてたんだ」

「そういえば、お前初めて会ったときからずっと白い服着てたな。あの時は?」

「ああ。ギルバートと会ったときにはもう決めてたよ」

「しかし、何でまた役者なんだ? お前ならそのまま銀の霊峰の一員として働くことも出来るだろうに」

「……父さんは、銀の霊峰の首領として幻想郷中で働いている。愛梨姉さん達もみんな自分の仕事をしながら父さんを支えてくれている。でも、父さんが本当に助けが欲しい時、誰も来れないかも知れない。みんなが手伝えるようなことじゃないかも知れない。だから、俺は父さんを助けられるように何でも出来るようになりたかった。そんな時、他人を演じる仕事である役者と言う仕事に会ったんだ。この仕事なら、いろいろなことを学びながら父さんの手助けが出来るような何でも屋になれるかもしれない。だから、俺は役者って言う道を選んだんだ。これなら、真似事で人を笑顔にすることも出来るしね」

「それじゃ、銀の霊峰に入るつもりは?」

「ないよ。そりゃ銀の霊峰の仕事を手伝うことはあるかもしれないけど、それは父さんの……家族の手伝いだからだ。俺は、俺個人として家族を支えたい。そう思っているよ」

 

 ギルバートの問いかけに、銀月ははっきりと答える。

 組織に縛られることなく自由に人助けをする、それが銀月の考えであった。

 それを聞いて、ギルバートは頷いた。

 

「結構しっかり考えてんだな、銀月は」

「父さんから生きて何をしたいか、って言われて考えたからね。俺、拾われた身だろ? だから、その恩返しをしようと思うんだよ」

 

 銀月はそう言って笑顔を浮かべる。

 そんな中、魔理沙は一言も喋らずに銀月を見つめていた。

 そんな魔理沙に、ギルバートが話しかけた。

 

「……どうした、魔理沙? さっきから黙り込んで」

「なあ、今銀月は銀の霊峰の首領を父さんって呼んでなかったか?」

「ああ、そうだが?」

「あれ、言ってなかったか?」

 

 魔理沙の発言に二人はキョトンとした表情を浮かべる。

 その二人の言葉に、魔理沙は呆然とした。

 

「初耳だぜ……銀月、そんなお偉いさんの息子だったんだな?」

「お偉いさんって言うんならギルバートだって似たようなもんだぞ? 人狼の里の領主の息子だし」

「そういや、それも言ってなかったか?」

 

 魔理沙の言葉に銀月もギルバートの身分を明らかにする。

 すると、魔理沙は突然困惑し始めた。

 

「え? え? お前ら揃いも揃ってそんなお坊ちゃまだったのか!?」

「そんな身構えるなよ。正直お偉方だからなんだってんだよ? 今までどおり喋ってりゃいいんだよ」

「そうそう。正直、魔理沙に畏まられるのも妙な感じだしね」

「いや、そんなつもりはないけどな?」

「ならそれでいいじゃねえか」

「そっか、そうだよな!」

 

 三人はそう言うと笑いあった。

 ふと空に眼をやると、綺麗な夕焼けが眼に入った。

 太陽は山の稜線にかかり始めており、日暮れが近いことを示していた。

 

「……もう随分日が暮れたな……」

「おい魔理沙。家の場所を教えてくれよ。たまに遊びに行くからよ」

「いいぜ。こっちだ」

 

 ギルバートの提案で、魔理沙は魔法の森の自宅に二人を案内した。

 せっかくだからと言われて中に入ると、二人は苦笑いを浮かべた。

 床には大量に本が積み上げられており、机の上には魔法の道具が散乱しているのだった。

 

「……雑然としてんな……」

「何ていうか、物をそのまま積み上げましたって感じだね……」

「良いんだよ! そのうち片付けるって!」

 

 魔理沙は二人に少しむっとした表情でそう言った。

 それに対して、ギルバートは冷ややかな眼を向けた。

 

「そう言って片付ける奴を俺は見たことがねえよ。銀月、どれくらいで出来そうだ?」

「俺と君なら十五分くらいで片付くんじゃないか?」

「よし、とっとと片付けるぞ」

「了解」

 

 二人はそう言って目配せをすると、部屋の中を片付け始めた。

 そんな二人に、魔理沙は声を掛けた。

 

「お、何だ、片付けてくれんのか?」

「ああ。このまま行くと雪崩が起きそうだからな」

 

 二人は手際良く片づけを進めていく。

 そして宣言どおり、十五分でだいぶ綺麗に整理整頓されることになった。

 

「よし終わり」

「これだけやれば当分は大丈夫だな」

 

 二人はそう言って手を洗う。

 一方、家主は片付けられた部屋を見て嬉しそうに笑った。

 

「おお、これまた随分と片付いたな。二人とも随分手際が良いんだな?」

「そりゃあねえ?」

「俺達二人とも執事の技能に関しちゃ執事長に文句なしの合格もらってるしな」

 

 魔理沙の言葉に、二人は目を見合わせてそう言った。

 以前の研修で、競い合いながら執事の修行を積んだ結果、バーンズが舌を巻くほどの成長を見せたのだった。

 その結果、どこに出しても恥ずかしくないような執事が二名出来上がったのだった。

 それを聞いて、魔理沙は笑みを浮かべる。

 

「へぇ〜 んじゃ、うちで執事やってみないか?」

 

 そんな魔理沙の言葉に、ギルバートは大きくため息をついた。

 

「……却下だ」

「俺もちょっと無理かな……て言うか、もう帰らないと遅くなるぞ?」

「いけね、そうだった。んじゃ魔理沙、俺達は帰るぜ」

「ああ。いつでも遊びに来いよ!」

 

 銀月とギルバートは魔理沙に見送られながらそれぞれの家路に着いた。

 

 

 

 

 銀の霊峰に付くと、銀月は社に向かっていく。

 辺りにはもう夜の帳が下りており、霊峰の妖怪達も活発に動き始めている。

 既に霊峰では有名人となっている銀月は、途中妖怪達に話しかけられながらも真っ直ぐに社に向かった。

 

「ただいま」

「あ、お帰り銀月くん♪ ねえねえ、将志くん見てないかな?」

 

 銀月が社につくと、オレンジ色のジャケットにトランプの柄の入った黄色いスカートのピエロの少女が声を掛けた。

 その問いかけに、銀月は首を横に振る。

 

「父さん? 父さんなら見てないけど……まだ帰ってないの?」

「うん……ひょっとして、また天ちゃんにさらわれたかな?」

 

 愛梨はそう言って苦笑いを浮かべる。

 それを聞いて、銀月も苦笑いを浮かべる。

 

「天ちゃんって……天魔様のこと?」

「うん♪ だから銀月くん、今日の晩ごはん頼めるかな?」

「OK、分かった。んじゃ、早速作るとするよ」

 

 銀月はそう言うと台所に向かった。

 結局その日、将志は帰ってこなかった。

 

 

 そして次の日、幻想郷を紅い霧が覆った。

説明
気分転換にふらりと人里にやってきた銀の月。そこで会った魔の狼は誰かを捜しているようであった。
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