紅魔郷:銀の月、首をかしげる
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 チルノ達と別れると、霊夢と銀月は再び異変を解決するために飛び始めた。

 どんどん苛烈になっていく妖精達の攻撃を掻い潜り、二人は紅い霧の出所に向かって飛んでいく。

 すると、目の前に大きな西洋風の館が見えてきた。

 紅魔館と呼ばれるそれは、その名の通り全体が血に塗られたように紅く染められていた。

 

「こんなところにあんな豪邸なんてあったんだな」 

「そうね……それにしても、随分と紅い館ね」

「……そういえば、父さんが前に紅魔館がどうとか言っていたけど、あれがそうかな?」

「それで、私にはあそこからこの紅い霧が出ている様に感じるんだけど?」

「その通り、俺もあの館の中から父さんの力を感じる。たぶん、あの館の中に今回の異変の元凶と父さんが居るよ」

 

 二人は目の前に現れた紅い館を見るなりそう言って話し合う。

 その話の通り紅い霧は紅魔館の周囲が最も濃くなっており、発生源がそこであろうことが推測された。

 それを裏付ける銀月の発言を聞いて、霊夢は頷いた。

 

「じゃあ、さっさと行って終わらせましょ。早く帰って銀月のお茶が飲みたいわ」

「え、俺たぶん早く帰らないとルーミア姉さんに追いかけ回されると思うんだけど……」

 

 霊夢の発言を聞いて、銀月は引きつった表情で返す。

 それに対して、霊夢は小さく鼻を鳴らした。

 

「知ったこっちゃ無いわよ、そんなこと。私にとっては美味しいお茶を飲むほうがよっぽど大事なんだから」

「……ただでさえもう怒られる事が確定してるってのに……」

 

 傍若無人な霊夢の発言に、銀月は頭を抱えてそう言った。

 すると、霊夢はにっこりと微笑んだ。

 

「だったら同じことじゃない。それならついでに夜食でも作ってもらおうかしら?」

「ううっ、ちょっとは遠慮するとかないのかい、霊夢……」

「銀月のご飯が美味しいのが悪いのよ」

「俺のせいなの!?」

「そうよ。ああ、無理に改善はしなくていいわ。むしろそのままで居てくれた方が私が助かるから」

 

 ニコニコと笑いながら霊夢は自分本位の発言を繰り返す。

 それを聞いて、銀月は唖然とした。

 

「うわぁ……欲まみれの発言……」

「自分に素直だっていいじゃない。人間だもの」

「俺もその人間なんですけど!?」

「あんたは半分人外に足突っ込んでるからノーカンよ」

「くう、どいつもこいつも人を人外呼ばわりして……」

 

 言いたい放題の霊夢に、銀月はがっくりと肩を落とした。

 そうこうしている間に、紅に染まった館がどんどん近づいてきていた。

 それを見て、二人は頭を切り替える。

 

「それはそうと、もうすぐ着くわよ」

「ああ、そうだな」

 

 二人は周囲を警戒しながら紅魔館に近づいていく。

 すると、銀月が首をかしげた。

 

「……変だな?」

「変って、なにがおかしいのよ?」

「いや、だってこんなに大きな屋敷だろ? 幾らなんでも警備が手薄すぎる。普通なら門番の一人でも居そうなものなんだけどな?」

「まあいいじゃない。居ないならさっさと進ませてもらいましょ」

「……そうさせてもらおうか」

 

 二人はそう言いながら、悠々と中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 霊夢達が紅魔館へ楽々と侵入したちょうどその頃、霧の湖の上を飛び回る影が二つあった。

 そのうちの一つは群青の狼のものであり、湖面に触れそうな高さを高速で飛んでいる。

 そして、同じように飛んでいるもう一つの影に向かって飛び掛っていく。

 

「だりゃあ!」

「はあっ!」

 

 二つの影はぶつかり合い、再び離れていく。

 ギルバートは一度上昇し、相手の方へと向き直る。

 すると、相手はゆっくりと目の前に降りてきた。

 

「……見た目どおり、やっぱ強いな」

 

 ギルバートは目の前の緑色の中華服を来た赤髪の女性にそう声をかけた。

 彼女の名前は紅 美鈴。紅魔館の門番である。

 すると、美鈴は笑顔でそれに答えた。

 

「あはは、それは弱かったら門番なんて任せられませんよ……弾幕ごっこは苦手ですけど」

「だな。弾幕ごっこじゃたぶん俺でも勝てるだろうさ」

 

 肩を落とす美鈴にギルバートはそう言って返す。

 事実、先程美鈴はギルバートと一緒にやってきた魔理沙に弾幕ごっこで敗北しており、進入を許している。

 ギルバートは何を思ったのかその場に残り、スペルカードルールを用いた殴り合いで改めて美鈴に勝負を仕掛けたのだった。

 そんなギルバートに、美鈴は首をかしげた。

 

「あれ、じゃあ何でスペルカードルールで殴り合いなんてこと言い出したんですか? この異変を止めるためにここに来たんですよね?」

「そこのところは別に良いんだ。弾幕ごっこなら魔理沙でも十分良いところまで行ってるからな。あんたに弾幕ごっこをさせておいて、自分が本気で掛かるようなご主人様じゃないだろ?」

 

 美鈴の問いかけに、ギルバートはそう問い返す。

 その発言に美鈴は頷く。

 

「まあ、お嬢様ならそうでしょうね。でも、この戦い方を知ったらそっちに移りそうな気がします。で、あなたは何で?」

「一つはあんたは絶対に強いと思ったから。身のこなしとか、そういうのが修行を積んだ武道家のものだったからな」

「はあ……で、一つはってことは他にも理由があるんですか?」

「ああ。もう一つは、魔理沙にやられたあんたがとても悔しそうだったからだ。だから、あんたの得意分野での本気が見たくなったんだよ」

 

 ギルバートは首を傾げる美鈴にそう言って答える。

 すると、美鈴は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ふふっ……優しいですね。私はそういうの好きですよ」

 

 美鈴がそう言うと、ギルバートはその言葉を鼻で笑った。

 

「はっ、そんなんじゃねえよ。俺はただあんたの本気を見て、それを越えたかっただけだ」

「あはは、そういうことにしといてあげますよ、優しい人狼さん♪」

 

 美鈴はそう言ってギルバートに笑い掛けた。

 それに対して、ギルバートはばつが悪そうに顔を背けた。

 

「ちっ、勝手に言ってろ!」

 

 ギルバートは吐き捨てるようにそう言うと、相手に向かって躍りかかって行った。

 その動作を見て、美鈴は身構える。

 

「でやぁ!」

 

 ギルバートは相手の懐に飛び込み、持ち前の頑丈さを生かしたインファイトで勝負を仕掛けていく。

 攻撃を急所からずらして受けながら、果敢に相手に攻め込む。

 

「せいっ!」

 

 一方、美鈴は冷静に相手の攻撃を捌きながら隙を窺い、反撃をする。

 相手の激しい攻撃を一つ一つ丁寧に躱し、確実にダメージを与えていく。

 しばらくすると、二人は申し合わせたかのように大きく間合いを取った。

 反撃を受けていたにも関わらずギルバートには大きなダメージは無く、対する美鈴も捌き損ねた攻撃は無い。

 結果として、双方共に決定打となるような一撃は決まらなかったのである。

 

「あなたもなかなか強いですね……うかうかしてると足元を掬われちゃいそうです」

「涼しい顔してよく言うぜ、全く……これでも俺は逸材って言われてる魔狼なのによ」

「それは積んだ経験の差ですね。幾ら逸材とは言っても、積み重ねた修行や経験の差はそう簡単には覆せませんよ?」

「……ああそうかい」

 

 余裕を残した表情で話す美鈴に、ギルバートは苦い表情でそう返す。

 美鈴の言葉を聞いて、ギルバートは自分と同い年であるにもかかわらず自分の何倍も修行と経験を積んでいる人間を思い浮かべた。

 その瞬間、ギルバートの闘志に火がついた。

 ギルバートは大きく息を吐き出し、青い丸薬を飲み込んだ。

 

「決めた。俺もうここで全力を使い切ってでもあんたを倒してやる。その後倒れようが何しようが知ったことか」

 

 ギルバートは身体に金色の魔力を集めながら、呟くようにそう言った。

 それを聞いて、美鈴は眼を白黒させた。

 

「あ、あれ? 異変の解決は?」

「そんなもん、本来俺の仕事じゃねえよ。俺達は勝手に出しゃばってるだけだからな。俺達が黙ってても博麗の巫女が出てくんだろうさ。そんなことより、あんたに正々堂々戦って勝つことのほうが大事だね」

 

 ギルバートは美鈴に向かって力強くそう言い切った。

 美鈴はそれを聞くと眼を閉じ、大きく深呼吸をした。

 

「……分かりました。ならばこの紅 美鈴、誠心誠意、全力で迎え撃ちましょう。その前に、あなたの名前を聞いても良いですか?」

「ああ。ギルバート・ヴォルフガングだ」

「ありがとうございます……では行きますよ、ギルバートさん!」

「ああ!」

 

 そう言い合うと、今度は美鈴のほうからギルバートへ攻め込んでいく。

 ギルバートはそれを待ちうけ、迎撃の姿勢をとった。

 

「おらぁ!」

 

 その美鈴に向かって、ギルバートは右手をまっすぐに突き出した。

 それは予備動作が無く、更に先程とは比べ物にならないくらい速かった。

 

「甘いですよ!」

「なっ!?」

 

 しかし反撃として繰り出された爪を、美鈴は身体を開きながら左手でしっかりと掴む。

 腕が伸びきった状態のギルバートは対処できない。

 

「はっ、せいやっ!」

 

 そこに接近した勢いを乗せて鳩尾に肘撃ちをかけ、裏拳で追撃をかけて弾き飛ばした。

 ギルバートはそれをまともに受け、後ろに下がる。

 

「ぐはっ! ……まだまだ!」

 

 ギルバートはそれを耐え切ると、スペルカードを発動させた。

 

 

 

 裂符「ゴールデンクロー」

 

 

 

 ギルバートの爪が金色に光り、長く伸びる。

 それは熱を帯びて光る刃のようにも見えた。

 

「おおっと!?」

 

 美鈴はそれを見るなり相手から距離をとった。

 

「はああああああ!」

 

 ギルバートは距離を詰めながら黄金の爪で攻撃を仕掛けていく。

 腕が振るわれるたびに風を切り裂く音が聞こえ、その威力を窺わせる。

 美鈴はそれに触れることなく、後ろに下がりながらその攻撃を避けていく。

 

「突っ込むばかりじゃ、私には勝てませんよ!」

 

 突如として、美鈴はそう言いながら一瞬の隙を突き、ギルバートの懐に飛び込んだ。

 

 

 

 彩符「彩光風鈴」

 

 

 

 美鈴は懐に飛び込むとスペルカードを発動させた。

 それを見て、ギルバートの表情が凍りついた。

 

「しまっ……ぐああああっ!」

 

 鮮やかな虹色の気を纏いながら回転する美鈴の攻撃を受けるギルバート。

 それと同時に、ギルバートに蓄えられた黄金の魔力がどんどん霧散していく。

 攻撃が終わると、ギルバートは外へと弾き飛ばされた。

 

「うぐっ……まだいける!!」

 

 ギルバートは攻撃された箇所を軽く押さえながら、空中で体勢を立て直す。

 そして、一度霧散してしまった魔力を再び集め始めた。

 その様子を見て、美鈴は小さく息を吐いた。

 

「さすがは人狼……聞きしに勝る頑丈さですね。では、これならどうです!」

 

 

 

 撃符「大鵬拳」

 

 

 

 美鈴は立ち直る直前のギルバートに素早く接近し、スペルカードで追撃を仕掛ける。

 

「ぐふっ……」

 

 ギルバートは対処しきれず、鳩尾に強烈な拳の一撃を受けて真上に吹き飛ばされる。

 彼は金色の光を跡に残しながら、空高く打ち上げられていく。

 そしてしばらくすると、湖に落ちて沈んでいった。

 

「……落ちましたか? 結構全力で打ち込んだんですが……」

 

 そう言いながら、美鈴は警戒しつつギルバートが落ちたところへと近づいていく。

 

 

 

 嵐符「ライジングストリーム」

 

 

 

 突如として、湖の中から金色の魔力の奔流が竜巻のように空に向かって上がって行った。

 

「きゃああ!?」

 

 美鈴はそれに巻き込まれ、空高く打ち上げられる。

 それを追いかけるように、群青の弾丸が空に向かって飛んでいく。

 

「まだだ……まだ勝負は着いちゃいない!」

 

 ギルバートは叫ぶようにそう言いながら、スペルカードを取り出した。

 

 

 

 獣弾「ウルフバレット」

 

 

 

 発動した瞬間、ギルバートが纏った金色の魔力が大きく膨れ上がった。

 そして相手をめがけて一直線に飛んでいく。

 

「くっ……どんだけタフなんですか、あなたは!?」

 

 美鈴は空中で姿勢を正し、それを躱す。

 金色の弾丸は美鈴の横を通り過ぎると、素早く方向転換して襲い掛かる。

 

「でやああああああああ!」

 

 避けても避けても襲い掛かってくる黄金の狼。

 振り向く間も無く後ろまで通り抜けてしまうために追撃できず、美鈴は防戦を強いられる。

 そんな状況下で、美鈴は大きく息を吐き出した。

 

「こうなったら……!」

 

 美鈴はそう言うと、スペルカードを発動させた。

 

 

 

 華符「彩光蓮華掌」

 

 

 

 美鈴は自分に突っ込んでくるギルバートを真正面に捉え、構えを取った。

 美鈴の周囲に張り詰めた空気が立ち込める。

 そこに、捨て身の覚悟を纏った黄金の弾丸が飛んできた。

 

「はっ!」

 

 美鈴はすれ違いざまにギルバートに対して掌打を叩き込んだ。

 すれ違った状態でお互いに残心を取る。

 

「があっ……」

 

 するとギルバートの身体から虹色の気があふれ出した。

 それはどんどん膨らんで鮮やかな色彩を放つ。

 そして、最後には大爆発を起こした。

 

「ぐあああああああああ!」

 

 ギルバートは再び湖へと落ちて行く。

 

「はあ……はあ……こ、これだけ打ち込めば流石に……」

 

 美鈴はその様子を肩で息をしながら油断なく見届ける。

 

「…………」

 

 しばらくすると、金髪の人間の姿となったギルバートが浮かんできた。

 どうやらダメージが大きいらしく、そのまま動こうとしない。

 

「はああああああ……疲れました……うっ……」

 

 そんなギルバートを見て、美鈴は大きくため息をついた。

 それと同時に、右のわき腹を抑える。

 最後の一撃を放った際に掠めていたのだ。

 

「あはは……あれ、まともに受けてたら危なかったですね……」

 

 美鈴は冷や汗を掻きながらそう言って笑う。

 ふと湖に眼を向けると、ギルバートがフラフラと上がって来るのが見えた。 

 

「ああ畜生……負けちまったか……」

 

 ギルバートは頭と腹を抑えながらそう呟く。

 まだダメージが残っているらしく、その顔は歪んでいる。

 そんなギルバートを見て、美鈴は眼を見開いた。

 

「うわっ、あれを受けてもう立ち上がるんですか!?」

「安心しろ、もう戦うだけの力は残ってねえよ。文字通り、全力を出し切った。まあ、動く分にはあんまり問題は無いけどな」

 

 驚く美鈴に対して気だるそうにギルバートは言葉を返す。

 その言葉の通り戦う力は残ってない様である。

 それでも凄まじい回復力を見せる人狼に、美鈴は感嘆の息をつく。

 

「化け物みたいな回復力ですね……」

「当たり前だ。人狼舐めんな。仮にも吸血鬼と対を成す存在なんだからな。と言うか、化け物はお互い様だ。能力を使って身体能力を上げたのに、あっさりついてきやがって……」

「それは、ギルバートさんの癖が分かってましたからね。それさえ分かってしまえば力に差があっても私なら何とかなっちゃうんです」

 

 ギルバートの質問に、美鈴はそう言って答える。

 するとギルバートは少し驚いたような視線を美鈴に向けた。

 

「……たった数分で俺の癖を掴んだのか?」

「はい。これが経験の差ですよ。戦いの中でいかに相手の癖を掴み、心を読むかと言うのは大事なことです」

 

 美鈴はそう言って微笑む。

 それを聞いて、ギルバートは面白く無さそうな表情を浮かべた。

 

「ちっ……それで、私ならってどういうことだ? あんたなら勝てる理由って何だ?」

「私の能力は『気を使う程度の能力』です。相手の中の気を乱してやれば、その力を発揮できなくなりますからね」

 

 美鈴は自分の能力と、何をしたかを簡潔に教えた。

 するとギルバートは深々とため息をついた。

 

「……道理で触られるたびに力が抜けていくわけだ……やれやれ、それに気づけなかった時点で俺の完敗だな」

 

 二人は話をしながら紅魔館の門へ向かっていく。

 ふと、美鈴は気になったことが出来て質問をした。

 

「一つ訊きますけど、ギルバートさんは何歳なんですか?」

「ん? 十五歳だが、それがどうかしたか?」

 

 与えられた質問にギルバートは素直に答える。

 すると美鈴は乾いた笑みを浮かべた。

 

「あはは……これで十五歳ですか……先を考えると恐ろしいですね……」

「……もっと恐ろしい奴も居るけどな」

「え、何か言いましたか?」

「いや、何でもない。他愛も無い独り言だ」

 

 そう言って話している間に、紅魔館の門の前についた。

 その瞬間、ギルバートは体力の限界が着たように座り込んだ。

 そんなギルバートに美鈴は話しかける。

 

「それで、これからどうするんですか?」

「負けた奴がこの門をくぐる訳にも行かないだろ。あいつが帰ってくるのをここで大人しく待っているさ。あんたの方こそどうするんだ? 中で相当激しくやり合ってるみたいだけど?」

 

 周囲の音に耳を傾けると、館の中からなにやら大きな物音が聞こえている。

 どうやら中で誰かが大いに暴れている様である。

 それを心配するギルバートに、美鈴は微笑みかけた。

 

「大丈夫ですよ。あの魔法使い一人に簡単にやられるほど中の人は弱くないです。それに、博麗の巫女さんも来るんですよね? だったらここで迎撃しないといけませんから」

「そうかい。それじゃ、そこの壁少し借りるぜ」

「はい、どうぞ。……よいしょっと」

 

 ギルバートが這いずる様に動いて塀に寄りかかると、その隣に美鈴が座り込んだ。

 それを見て、ギルバートは首をかしげた。

 

「おい、何であんたまで座ってるんだ?」

「あはは……実は私も結構疲れちゃいまして……誰か来るまで少し休みたいなぁ、なんて……」

 

 美鈴はそう言って照れくさそうに笑う。

 それをみて、ギルバートは頷いた。

 

「そうかい。休むのはいいけど、うっかり寝ると怒られるぜ?」

「大丈夫ですよ。そんなへまはしません。それより、肩借りて良いですか? お互いに寄りかかったほうが楽ですし」

 

 そう言いながら、美鈴はギルバートに近寄る。

 美鈴の座る位置はお互いの肩が触れ合うほどに近づいており、寄りかかる気満々である。

 それに対して、ギルバートは大きくため息をついた。

 

「……好きにしろ。それから、あんたにゃ悪いが少し寝るぜ」

「はい。もし私が寝ちゃったら起こしてくださいね〜」

「……それじゃあ俺が眠れねえだろ……」

 

 二人はそう言い合いながら、寄り添って休み始めた。

 そしてしばらくすると、規則正しい寝息が二つ聞こえ出した。

説明
なおも気配をたどって紅い館にたどり着いた銀の月は、静かにその中へと入っていく。その裏側では、激しい戦いが繰り広げられているとも知らずに
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