甘ブリバレンタイン 車とフラレテル・ビーイング(ミュース)
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甘ブリバレンタイン 車とフラレテル・ビーイング(ミュース)

 

 

「過去の精算は楽じゃない……か」

 バレンタインデーを翌日に控えた日付変更間際の西也の寝室。可児江西也はベッドに体を横たえたまま先ほど郵便受けに届いていた赤い封筒を薄暗い部屋の電灯にかざしながら見ていた。

「どなたからのお手紙なんですか?」

 隣に寝ている恋人のミュースが興味を示したようで封筒を見つめている。

「過去の亡霊だ」

 西也は気取って答えた。もちろんそれで納得させられるわけもなかった。

「勿体つけないで教えてくれたっていいじゃないですかぁ」

 ミュースの手が封筒に向かって伸びてくる。西也はその腕が封筒に届かないように自分の体へと引き寄せる。

 なおもミュースの腕が追ってくるが、その途中で布団が捲れてしまった。ミュースのスタイルの良い裸の上半身が顕になる。首から胸に掛けてところどころ赤く腫れたような点の跡が幾つか残っていた。

「ぶ〜。西也さん、意地悪です」

 年下の少女のように愛らしく頬を膨らませて拗ねてみせるミュース。可愛いらしい最愛の女性を見ていると今日1日の激務の疲れが霧散していくのを胸の奥で感じる。

「まさか……昔付き合っていた女の子とかじゃないですよね?」

 一転疑いの瞳を向けられて今度は急激に疲れが溜まっていくのを自覚する。付き合い始めてから少し嫉妬深くなった恋人に苦笑しながら返答する。

「そんなわけないだろう。俺はミュースと付き合ったのが初めてなんだから」

「そうでしたね♪ 私も西也さんもお互い初めて異性とお付き合いした同士ですもんね?」

 ミュースが折り重なるようにして抱きついてきた。とても楽しそうな表情。けれど、その輝く笑みは長くは続かなかった。

「それじゃあ……まさか、浮気相手からの手紙なんじゃ?」

「何でそうなるんだ!」

 ミュースの見当違いな心配に思わず大声が出てしまう。

「だって、西也さん格好いいですから」

「フッ。確かに俺は世界一格好いい男だからな。ミュースが心配してしまうのも無理はないか。ハッハッハ」

 高笑いを奏でる西也。重度のナルシストなので容姿を褒められると途端にツッコミの役割を放棄してしまう。だが、それで問題は済まされずミュースの追及は続いた。

「その封筒はいすずさんからもらったものじゃありませんか?」

「何故ここで千斗の名前が出てくるんだ?」

 西也には浮気相手候補に同僚の名前が出てきたことが不思議でならない。西也本人としてはそんな疑われるようなことはしていない。西也といすずの自然な距離感がミュースをはじめ多くのキャストから疑いを抱かれていることを本人は理解していない。

「それは……」

 ミュースは途中で口篭ってしまう。

「じゃあ、姫さまでもないんですよね?」

 不安気な瞳。

「無論だ。この封筒は女っ気とは全く無縁のむさ苦しい男たちから届いたものだ」

 ミュースが目を大きく見開いた。

「まさか、西也さんは以前、女の子ではなく男の方と付き合っていたとか? やっぱり、コボリーの説く通りに総受けなんですか!? 男だったら誰でも良かったんですか!?」

「そんなわけがあるかっ!!」

 夜中に近所迷惑な声が上がった。西也は仕方なく封筒をミュースに向かって突き出した。

「この手紙はモテ男撲滅の為の武力介入組織フラレテル・ビーイングから送られてきたものだ。俺に明日のバレンタインデー蜂起に参加を促す内容だ」

「フラレテル・ビーイング……バレンタインやクリスマスを潰して回る全世界で数百万の戦闘員を誇る最強最悪のテロリスト集団が何で西也さんに……?」

 ミュースの声は震えていた。フラレテル・ビーイングはリア充男に対する憎しみのみを理念に武装闘争を行う過激派変態テロリストとして全世界で恐れられている。

「俺はミュースと付き合う以前に女の子と付き合ったことはない。フラレテル・ビーイングは彼女がいない男に接近してくる」

「まさか、西也さんもテロ活動に参加してたとか……」

 ミュースの声だけでなく全身が震えていた。そんな彼女の不安を打ち消すように西也は肩に手を置いた。

「勧誘は毎年受けていたが実際に活動に加わったことはない。そもそも俺には肉体労働系は向かんのだ」

「西也さんは体力にはあんまり自信ありませんもんね……きゃっ!?」

 安心した声を出したミュースだったが、すぐにまた悲鳴を上げることになった。いつの間にか態勢が変わって西也の下になっていた。

「あっ、あの……西也、さん?」

「ミュースには俺がどれほどエネルギッシュな人間なのかもう1度しっかりと教える必要があるようだな」

 西也はミュースの両腕を抑えて抵抗を封じながら白さが映える大きく美しい胸に顔を近付けていく。

「あの……明日はパークに早くから出勤するんで今夜は1度だけにするって西也さんが……」

 ミュースが顔を赤く染めながら小声で呟く。西也は悪い笑みを浮かべて返した。

「前言撤回だ。今夜は寝かさないからな。覚悟しておけ」

「でも、お仕事が……」

 ミュースは西也から目を逸らした。男女の関係になってから既に数ヶ月が経つとはいえ恥ずかしさは未だに消えない。

「俺は今ミュースが欲しいんだ」

「………………はい」

 西也の熱い声にミュースは目を閉じた。そして甘く可愛い声を奏で始めた。

 こうして西也は恋人と熱い夜を過ごして己がリア充であること、フラレテル・ビーイングとは無関係なことを確かめ直した。

 だが、西也はいまだ理解していなかった。フラレテル・ビーイングの闇の深さをいまだわかっていなかった。

 

 

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「クッ。まさか、遅刻ギリギリになってしまうとは。俺としたことが何たる失態っ!!」

 2月14日土曜日午前7時40分。可児江西也はミュースと共に甘城駅を目指し全力疾走していた。ミュースは息を切らし目が回りそうになりながら必死になって付いていく。

「せっかく間に合う時間に起きたのに……西也さんが朝から、その、エッチなことをするから……」

 走っているミュースの全身が赤く染まった。そんな恋人を見て西也の顔も赤く染まった。つい数十分前のことを思い出してしまう。

「それはミュースが裸エプロンで調理なんて俺を誘うようなことをしてくるから」

「だって……西也さん、裸エプロンでお料理しないとぶ〜ぶ〜言うじゃないですか……」

 2人とも全身が赤く染まって黙ってしまう。バカップルが朝から盛って遅刻しそうになっていただけのことだった。

「このままじゃ確実に遅れる。仕方ない。タクシーを使ってパークまで行くぞ」

「はっ、はい」

 ミュースはあからさまにホッとした表情をみせた。彼女の体力的にもこれ以上の全力疾走は厳しかった。

 

 タクシーはすぐに捕まって2人で乗り込む。パークは郊外へと向かう道にある。タクシーは通勤ラッシュにも巻き込まれずに快適に進んでいった。

「これならミーティングにギリギリ遅れずに済みそうだな」

 腕時計で時刻を確かめながらホッと息を漏らす。

「そうですね」

 ミュースも同じように胸を撫で下ろしている。

 西也は自分1人の時は自転車通勤している。だが、ミュースがいるとそうはいかない。電車とバスの乗り継ぎになるが、そのルートはかなり余計に時間が掛かる。

「18歳になったら免許取るか」

 甘城ブリリアントパークは駐車場もかなり大きなものを揃えている。キャスト専用のスペースもある。もっとも、寮暮らしが多く利用する者はほとんどいないのが現状だった。

「西也さんの運転する車でドライブに行ってみたいですね〜♪」

 手を叩いて喜ぶミュース。

「そんなものか? 今は若者の車離れが深刻だと言うが」

「彼氏の車でドライブは女の子なら一度は憧れると思いますよ」

「……まあ、俺達の場合は日常生活で使う足だからな。購入は検討か」

「はい。ドライブ連れて行ってもらいますからね?」

「わかったよ」

 ミュースと一緒に過ごす日常を考えると確かに車が必要な気になってくる。

 車に関する少ない知識を脳内で検索し直しながら普段は特に気にしない街並みを車窓から眺めてみる。

タクシーは丁度パークの手前のバス停に通り掛っていた。そして西也は見てしまった。今でもパークの建物とよく間違えられるラブホテル『アラモ』から紅蓮の炎が噴き上げているのを。

「何ですか……アレ?」

 ミュースもホテルが炎上しているのを見てしまったようだった。

「伏せろっ!」

 西也はミュースを抱きかかえて姿勢を低くした。

「せっ、西也、さん?」

 目を白黒させるミュース。西也はミュースの耳元で小声で呟く。

「あのホテルを焼いたのはフラレテル・ビーイングの連中に間違いない。俺たちが朝から同伴出勤しているなどと奴らに知られたらこの車ごと襲撃されかねん」

「ひっ!?」

 ミュースは思わず涙目になってしまう。けれど、現にラブホテルが焼き払われている以上、フラレテル・ビーイングの脅威を絵空事と片付けるわけにはいかない。

「で、でも、あのラブホテルが焼き払われているということは……甘城ブリリアントパークにもフラレテル・ビーイングは押し寄せてくるんじゃ?」

 ミュースの質問は西也にとっても悩みの種だった。同じ危惧を抱いていたから。

「フラレテル・ビーイングはデートスポットの破壊を第一目標に据えている。週末のバレンタインデーの遊園地がターゲットに選ばれないと考える方がおかしい、な」

 西也とて今日の営業の危険性は理解している。だが……。

「しかし、既にパーク前には多くのカップルが開園を待って並んでいる。爆破テロ予告でもない限り急遽休園にするわけにもいくまい」

 西也が僅かに頭を上げてミュースと共にパークの正門前を見る。既に百名単位のカップルがチケット売り場に並んでいる。まだ午前8時で開園まで2時間あるというのに。

「そうですね。あんなに楽しみにしてくれているゲストが大勢いるのに……何もなしに休園とはいきませんよね」

 キャストにとってはゲストをもてなすことが何よりも重要。わざわざここまでやって来た多くのゲストを無碍に帰すこともできない。だからこそ悩みながら開業するしかない。

「今日は可能な限り警備を増やして対応する。危険を感知したらすぐにゲストを避難させる。それしかあるまい」

「そうですね」

 対応が半端なことは西也にもミュースにもわかっていた。けれど、ゲストの期待に満ちた顔を見るとどうしても休園という選択は取れなかった。

 タクシーはキャスト専用口へと入っていった。

 

 

 

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「スマン。遅くなった」

 西也は会議始まりのギリギリになってミュースと共に事務棟の会議室に飛び込んだ。

「西也とその夫人。遅いんだフモ」

「クンクン。このやらしい匂い……朝から盛ってたに違いないんだロン」

「若さが弾けちゃったんだミー♪」

「うるさいぞっ!!」

「あうう」

 3人の人気マスコットの茶々に西也とミュースは顔を赤くしながら席に着く。2人は会議開始ギリギリに到着した。だが、それにしては妙だった。

「やけに……少ないな」

 会議の出席者が少なかった。今日は2月の最大イベントデーということで今朝のミーティングには50名以上が参加することになっていた。だが、実際に来ているのはその半分。特に男性キャストの出席率が非常に悪かった。

「何故こんなに出席が少ないのだ?」

 質問に答えたのはモッフルだった。

「男たちの大半は何だかんだ理由を付けて今日は欠勤だフモ。男子寮を捜しても誰もいないフモ」

 モッフルの回答は暗に欠席している男性キャストはフラレテル・ビーイングに加わっていることを指し示していた。西也はため息を吐いてから瞳を鋭くした。

「各通路、ルームの暗証コードを今日だけ変更する。今日欠勤している者には決して伝えるな」

 すぐに対策に乗り出す。けれど、警備部も半数以上が欠けており、他の警備会社に連絡してもフラレテル・ビーイング対策でどこも人員を回す余裕はないと言う。

「警備について聞きたいのだが……千斗はどうした?」

 西也は左右を見回す。普段、西也の隣に座る千斗いすずの姿がない。

「いすずにはメープル城の守りを固めてもらっているんだフモ。籠城戦の準備フモ」

「そうか。いざとなったら自動迎撃装置が役に立つだろうしな」

 モッフルやいすずは既に城に立て籠もることを想定している。西也が取って然るべき対策をいすずが先に取っていた。いすずの危機管理能力は西也よりも高い。

「臨時休業という手もあるが……」

 西也は会議室内の面々を見る。誰も西也の話に乗ってこない。休園という案は全く支持されていない。それも予想通りだった。

「こちらからも出来る限り迅速な指示は出す。だが、ゲストの避難は各セッション毎の対応になることもまた避けられないだろう。常に警戒を怠るな」

 会議参加者たちは一斉に頷いた。こうしてかつてないほど緊張感に満ちた2月14日の開園の時を西也たちは迎えることになった。

 人気テーマパークになってしまったがゆえのことだった。

「ここに姿を見せないうちのキャストたちが敵に回った場合、厄介なことになるな」

 それは仮定というかもう避けられない現実。西也は果たして明日までこのパークが存在できるのか少しだけ不安になった。

 

 

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「「「「たま〜には ゆ〜っくり 君のペースで〜 やりたいことたち 見つめてごら〜ん」」」」

 もうじき正午を迎えようという時刻のエレメンタリオの劇場内。ショーはいよいよ終わりを迎え最後のダンスと歌の場面を迎えていた。だが、ミュースの表情は段々と緊張が隠し切れないものへと変化していった。

「……怖いゲストが増えてるよぉ〜」

 劇場内のゲストの数がショーの開始時と比べて大幅に増えていた。通路いっぱいにぎっしりと屈強で粗野な男たちが詰め掛けている。しかも彼らは手に銃や木刀を有している。彼らがフラレテル・ビーイングであることは疑うまでもなかった。

 劇場への入場は係員により厳重に管理している。にも関わらず次々に男たちが劇場へと押し寄せてきている。それはつまり、入場口はフラレテル・ビーイングに占拠されてしまっている可能性が高かった。敵に包囲されてしまっている中余裕綽々としていられるほどミュースの心臓は頑強でなかった。

「みんなぁ〜。今日は来てくれてありがとう〜」

 別れの挨拶をしながら目が踊ってしまう。ステージの最中に西也には連絡を入れてある。援軍も送ってもらっている。けれど、銃器を持ったテロリストの対処法なんて彼女にはわからなかった。

「ミュース。落ち着け」

 サーラマが小声で話し掛けてきた。

「ティラミーさんとマカロンさんが武装して駆けつけてくれている。それにあたしやシルフィーの力もある。何とかなる。だから、動揺してテロリストを刺激しちゃ駄目」

「そう、ね……」

 サーラマの説明に必死に心を落ち着かせる。そしてショーは何とか終わりの時を迎えた。だがそれは、テロリストたちがわざわざショーの終わりを待っていたというだけのことでしかなかった。

「お前ら全員ここを動くんじゃないっピーっ!!!!」

 カップルたちが占める列の1つ後ろの列に座っていたワニピーは大声を上げながら立ち上がった。その両手には突撃銃が1丁ずつ握られていた。おもちゃには見えなかった。

「ボクはフラレテル・ビーイングに帰依したワニピーだッピー」

 ワニピーは自らフラレテル・ビーイングの一員であることを宣言した。

「ボクたちは正義に基づいてカップルが大勢溢れるこの劇場を破壊するんだッピー。怪我をしたくなければ両手を挙げて大人しく……」

 ワニピーの話の途中でパンっと銃声が鳴り響いた。それと同時にワニピーの眉間に大きな穴が開いて前のめりに倒れた。断末魔の声を上げる暇もなかった。

「ひぃいいいいいぃっ!?」

 悲鳴が鳴り響く中で更に銃声は何発も続いた。武器を持っていた男たちが次々に頭を撃ち抜かれて絶命していく。銃を構えていた15人の男たちは全て撃たれて斃れた。

「ひっ、ひいっ!?」

 劇場を占拠したテロリストが次々に撃ち殺されていくという非日常が二乗掛けされた光景にミュースは全身が震えて止まない。涙目になって首を横に振る。

「もう大丈夫なんだミー」

 肩に下げている狙撃銃から硝煙の臭いを発しながらティラミーとマカロンが舞台に上がってきた。

「フラレテル・ビーイングは幾ら射殺しても罪に問われないんだロン」

「感謝状と金一封が届くんだミー」

 新たに銃を構えようとした男2人を撃ち抜きながら羊とポメラニアンは楽しげに説明する。ちなみに射殺されたテロリストは即座にクローン培養されて本人に成り代わるシステムになっている。ティラミーは抵抗しようとするテロリストを即座に銃殺しながら楽しげに声を出す。

「ボクみたいに複数の女の子と付き合っている男から見れば、モテないからバレンタインデーを潰そうだなんてお前たちはワケがわからないんだミー。ひゃっはっは」

 ティラミーは更に狙撃を続けながら大口を開いて高笑いを奏でる。その笑い声はミュースには不吉なものを予感させた。

「バレンタインデーは恋する女の子とモテ男を光り輝かせるためにあるんだミー。ボクのための記念日。モテない男の僻みなんて知ったことではないんだミーっ!!」

「モテ男……ロン……」

 マカロンの体が激しく震えた。

「ボクの愛娘ララパーは、クラスのモテ男にチョコレートを配ってボクには恥ずかしいからってくれないんだロンっ! モテ男のせいでララパーのチョコがもらえないのなら……やっぱりバレンタインデーなんて要らないんだロ〜〜ンッ!!」

「えっ? マカロ……」

 銃声が鳴り響いてティラミーが倒れた。マカロンの銃口から煙が噴いていた。ティラミーの右胸に穴が空き床に血の池を作っていく。

「まっ、マカロンさん……」

 ミュースはティラミーを撃った犯人を見ながら更に激しく震えていた。

「愛娘ララパーが他の男に惑わされるのなら……バレンタインデーなんて要らないんだローンッ!!!」

 マカロンは血の涙を流しながら絶叫している。

「ボクは今からフラレテル・ビーイングの一員としてバレンタインデーをぶっつ……」

 また銃声が鳴り響いた。

「…………即死してなかったとは。油断した……ロン…………ララパー……」

 左胸を撃ち抜かれたマカロンは血を吐きながら倒れた。そして、二度と動くことはなかった。寂しげに呟いた娘の名前が彼の最期の言葉となった。

「撃つならちゃんと心臓にしやがれなんだミー……」

 マカロンを撃ったティラミーは虫の息でもう動かない同僚に敗因を語ってみせた。そして血だらけの手でダイナマイトを掲げてみせた。

「このダイナマイトは後3分で爆発するようにセットしておいたミー。死にたくなかったらテロリストどもよ、さっさと立ち去るんだミー……」

 ティラミーが脅しを掛けるとフラレテル・ビーイングの面々は我先にと劇場外へと逃走を始めた。だが、劇場の上部は全てテロリストで埋め尽くされており、一般のゲストが逃げるまでには多くの時間が必要だった。

「どっ、どうしよう? このままじゃ、爆発までにゲストを避難誘導できないよお」

 焦るミュース。現在の最高責任者としてこの窮地を脱しないといけない。けれど、テンパってしまっている彼女に名案は浮かばない。だが、彼女は1人ではなかった。

「ゲストをキャスト用通路へと誘導して避難させるぞっ!!」

 西也がミュースの横へと駆け込んできた。

「彼氏が直接お出迎えとは愛されているねぇ」

「胸熱な展開ですね」

「だ〜い〜〜だ〜しゅ〜〜つ〜〜〜〜♪」

 エレメンタリオのみんなもミュースを支えてくれた。

「ほらっ。呆けていないでゲストの避難誘導だ」

 西也がミュースの手を引いて姿勢を正させる。不安が渦巻く阿鼻叫喚の光景なのに、西也の顔を見ていると落ち着いた。

「みなさん。これより避難を開始します。私たちの誘導に従って舞台袖から脱出します」

 何とか落ち着いた声を発することができた。カップルを中心とした一般ゲストたちは次々に舞台へと階段を降りてくる。これなら何とか避難は間に合いそうだった。

 だが、フラレテル・ビーイングの中にはまだ銃を隠し持っている者がいた。最後に残ったドルネルはその銃口を西也に向けていた。

「死ぬんだ、リア充」

パークの一番人気女性キャストであるミュースを独り占めして半同棲生活を送っているリア充に狙いを付けていた。

「フラレテル・ビーイングの怒りを思い知……」

 ドルネルは言葉を最後まで言えなかった。ティラミーが己の生命力の全てを注いで最期の1発で心臓を撃ち貫かれて絶命してしまったから。ドルネルは自分が死んだことにも気付いていないかもしれなかった。

「ティラミーっ!!」

「ティラミーさんっ!!」

 西也とミュースがティラミーの元へと駆け寄る。だがティラミーは銃を構えたままの姿勢で既に絶命していた。

 ミュースの綺麗な顔から涙がひっきりなしに流れ出る。けれど、それでも立ち止まるわけにはいかなかった。

「ゲストのみなさんは私たちに付いて来てください」

 エレメンタリオの面々は悲しみに必死に耐えながら迅速に観客たちをキャスト専用通路へと案内する。

全てのゲストを通路内へと誘導したところでティラミーが仕掛けたダイナマイトが大きな音を立てて自己主張を始めた。ティラミーがダイナマイトと呼んだそれは目覚まし時計だった。

 

 

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 キャスト用通路は多くのアトラクションから同じように避難誘導されてきたゲストでごった返していた。

「フラレテル・ビーイングめ。正午に合わせて各アトラクションで一斉蜂起を起こしたな」

 西也が大きく舌打ちする。

「西也さん。これからどうしましょう?」

 ミュースは混乱した通路内を見ながら不安気な表情を見せる。そんな彼女を安心させるように西也は掴んでいる手の力を篭めた。

「ゲストは全員メープル城に避難させて籠城戦に入る」

 予め決めておいた避難手順を説明する。

「自動迎撃装置を使うんですね」

「そうなるな」

 メープル城の自動迎撃装置はラティファを魔法の国の刺客、それも軍隊レベルから守りぬくために仕掛けられた特殊ギミック。フル武装した1個師団を壊滅することができる鉄壁の守りと攻撃力を有する城塞へと城を変貌させる。

「24時間閉じ込められることになりますが……」

 問題点として自動迎撃装置は融通が利かない。非常停止装置もあるものの、基本的には24時間城内から出られなくなってしまう。

「1万人規模で1週間は籠城できる程度の食料と水の備蓄ならあるさ」

 西也は備えが十分であることを強調して返した。

「女性ゲストの面倒は女性キャストにお願いしないといけないことも多い。ミュースの力が必要だ」

「………………はいっ」

 西也に必要とされるとそれだけで不安が吹き飛んでしまう。我ながら単純だとミュースは小さく笑ってみせた。

「だが問題はゲストたちを全員無事にメープル城まで誘導できるかということだ」

 通路へと雪崩れ込んでくるゲストの数はますます増えている。

 

「支配人代行っ」

 普段は経理担当をしているアーシェが西也たちの元へとやってきた。

「『スプラッシュ・オーシャン』キャストリーダーゲンジュウロウ、『アストロシティー』キャストリーダー未来くん、『ワイルド・バレー』キャストリーダージャック・ランディ、『エトセトランド』キャストリーダーコダイン。いずれもフラレテル・ビーイングに参戦しています」

「キャストリーダーの中でこちら側なのはパクリネズミだけということか。クソッ。ゲンジュウロウまで裏切るとはな」

 パークの現場責任者の5分の4がフラレテル・ビーイングに加担している。これではゲストの避難誘導も順調に運ぶわけがなかった。

「モッフルはどこにいる?」

「メープルランドより特別に派遣していただいた第3師団の1個中隊を率いて各地を奮戦中です。モッフル卿の奮戦によりゲストたちはこの通路内に避難できました」

「モッフルがメープルランドに救援を要請するとはな」

 モッフルはこのパークで働き始める前、メープルランド陸軍の第3師団長だった。だが、ラティファの呪いの件があって軍人の職を捨てて大道芸人となった。姪の側にいるために軍関連とは一切関係を経っていた。そのモッフルが再び軍と関連を持った。それだけ今回の事態を重く捉えていたから。

「とにかくモッフルが作ってくれた好機を無駄にするわけにはいかない。今の内に全ゲストを城内に避難させるぞ。避難が完了次第自動迎撃装置を稼働させるぞ」

「はい。城内で指揮を採っているいすずさんにそう伝えておきます」

 アーシェは忍者のような動きをみせながら通路内を俊敏に移動して去っていった。

 

 1万を超えるゲストたちは多少の混乱をみせながらも地下通路を通って順次城内へと移動していっている。最後尾を担当している西也とエレメンタリオの面々もだいぶ城に近付いていた。

「このまま全員お城の敷地まで移動できればいいですね」

「そうだな。だが、それは難しいようだな」

 ミュースの希望的観測に対して西也は難しい表情を浮かべる。フラレテル・ビーイングが甘い連中でないことはよくわかっている。作戦失敗を認めて引き返すよりも玉砕を選ぶ危険思想連中の集合体。これだけで済むとは思えなかった。そして、そんな西也の嫌な予感は外れてはくれなかった。

「やっと追い付いたでござるよ」

 ゲンジュウロウ、ジャック・ランディー、地球くん、コダインの各キャスト・リーダーの面々が西也たちのすぐ後ろまで迫ってきていた。更にその後ろには金属バットを手に取った男たちの群れ。

「サーラマっ! シルフィーっ! 炎と風の合体攻撃だっ!!」

 話し合う余地があるとは思えなかった。4精霊の中で攻撃に特化した2人に先制攻撃を命じる。

「はいはい。可児江くんのご命令とあらば」

「や〜〜る〜〜っ!」

 サーラマの炎がシルフィーの風に乗ってキャスト・リーダーたちに襲い掛かる。だが──

「……………………っ」

 土偶は無言のまま謎の光障壁を発してサーラマたちの攻撃をノーダメージで防いでしまった。

「チッ。さすがこのパーク一の不思議キャストめ……。構わん。足止めして時間さえ稼げればいい。連続攻撃だ」

「「わかったっ」」

 2人は連続して攻撃を仕掛ける。西也はその間にミュースとコボリーへと振り返る。

「2人は水と土を融合してぬかるみを作って奴らの移動を少しでも遅くするんだ」

「「はいっ」」

 ミュースたちも全力を尽くして時間稼ぎのための魔法を施す。だが、フラレテル・ビーイングは次々にキャスト用通路へと侵入してきている。しかもその数は千名を超えている。

「西也さん。これ以上はもう保ちませんっ!!」

 ミュースが悲鳴を上げる。モテない男たちは目の前を膝まで浸かる泥沼に変えられても進撃を止めない。更にその沼の上を炎が吹き荒れても前衛を犠牲にして後衛が突き進んでくる。男たちには死の恐怖がまるでない。ただ、憎しみで動いている。

 ゲストの城内への待避には後3分は掛かる。だが、西也たちとフラレテル・ビーイングの前列との距離は5mもない。絶体絶命の危機。

「こうなったら、俺が奴らの気を惹いて時間を稼ぐ。俺が明後日の方向に進んでいる間にお前たちは逃げろ」

 西也が最後に考えた策はモテ男である自分を駆使しての囮。フラレテル・ビーイングがモテ男に激しい憎しみを抱いている。ならば、西也が囮になることは相当に効果のある行動に違いなかった。

「駄目ですっ!!」

 だが、そんな西也の覚悟に対してミュースは拒絶の意を表した。

「囮になんてなったら西也さん、死んじゃうじゃないですかっ!!」

 ミュースは怒った形相で西也に抱きついて服を引っ張った。

「18歳になったらドライブ連れて行ってくれるって約束したじゃないですかっ!」

「しかし、だな。誰かがこの非モテどもを食い止めないとみんなの安全が……」

「西也さんが死ぬ気なら私も死にますっ!!」

 ミュースは西也から一向に離れようとしない。更に他のエレメンタリオの面子も西也の側から離れようとしない。

「このままじゃお前らまで巻き込まれてしまうぞっ! 早く離れろっ!!」

 大声で叫ぶ西也。迫り来るフラレテル・ビーイングの戦士たち。

 モテない男たちが今まさにモテ男へと西也へと襲い掛かって──

 

「まったく、自分の女の管理ぐらいはちゃんとやれなんだフモ」

 モテ男たちが一斉に西也とミュースたちに襲い掛かろうとしたまさにその瞬間のことだった。

 数百発の弾丸がテロリストたちに吹き荒れ、西也たちに襲ってきた男たちを全員肉片に変えながら吹き飛ばした。

「騎兵隊到着なんだフモッ!!」

 ミニガンの愛称で知られるガトリング銃を両腕で構えたモッフル。そして突撃銃を構えたメープルランドの軍人20名の手勢が西也たちの前に並んだ。

「ここはボクたちに任せるんだフモ」

 モッフルは毎秒100発の銃弾をフラレテル・ビーイングへとぶち込みながら余裕を感じさせる口調で言ってのけた。モッフルの体は既に多くの返り血で真っ赤に染まっていた。

「恩に着る」

 西也は一切勿体ぶることなくモッフルの提案に乗った。西也たちには攻撃力がない以上他の選択肢はなかった。

 西也たちは慎重に下がっていく。ゲストの城内への避難は完了しようとしていた。

 それに合わせてメープルランド兵も下がっていく。モッフルは兵よりも1m前に出る形でミニガンを撃ち続けている。

「マカロンとティラミーの姿がどこにも見当たらないんだフモ。どこに行ったか知らないフモ?」

 モテない男たちをなぎ倒しながらの何気ない質問。

「マカロンとティラミーならエレメンタリオ劇場でゲストとミュースたちを逃すために殉職したさ」

 多くは語らず事実だけを語る。その答えはモッフルも予想していたようだった。

「…………アイツららしいんだフモ」

 モッフルは弾を撃ち尽くしたミニガンをテロリストどもに向かって放り投げる。

「なら、ボクも頑張るだけだフモ」

 モッフルは代わりに剣を構えた。聖剣エクスカリバー。モッフルと同じ声を持つ騎士からご飯1食で譲り受けた聖なる剣。その剣より放たれる威力は1国の軍事力に匹敵すると言われている。

「ボクが元将軍として出す最後の命令なんだフモ。メープルランド兵は全員城内に撤退するんだフモ」

 モッフルは吹っ切れた表情で最後の命令を告げた。

「お前はどうするんだ?」

 モッフルのセリフに不吉なものを感じた西也が叫ぶ。

「キャスト・リーダー4名を相手にするのはさすがにボクでもしんどいんだフモ。戦いが終わったらのんびりここで休むことにするんだフモ」

 いつの間にか4名のキャスト・リーダーがモッフルの目の前に立っていた。

「モッフル。まさかお前っ!!」

「戦いの邪魔になるから、小僧と小娘たちを連れて早く城内の敷地に入るんだフモ。そしてすぐに自動防衛装置を働かせるんだフモっ」

 西也の体が兵士2人に抑えられる。そして兵たちはゲストが全て待避し終えた通路を駆け出していく。

「モッフル。なんだその対応はっ! 格好つけ過ぎだろうがっ!!」

 西也はモッフルに向かって手を伸ばした。けれど、その手がとどくことはない。

「うるさいんだフモ。お前はミュースと次世代のパーク担い手を作ってればいいんだフモ」

 モッフルは西也を見ずに剣を4人に向かって構えた。更に彼らの中央に黒いフードを被った男が現れた。

「栗栖隆也。お前まで出てくるなんて思わなかったフモ」

 モッフルの顔が険しい物に変わる。

「僕はメープルランドの混乱を見るのが何よりも好きだからね。来るに決まってるさ」

「まあいい。心残りを一緒に消し去れるチャンスなんだフモ」

 モッフルの体が光り輝いていく。聖剣に力が集まっていく。

「パークは人材不足になってしばらくは大変だと思うけど……後は任せたんだフモ」

 モッフルが一瞬だけ西也へと目線を向けた気がした。だが、その次の瞬間、西也の体は城の敷地と外部を分ける地下駐車場の境界線を跨いでいた。

 兵の1人が連絡を取り、警告音が鳴り響いてシャッターが降りていく。モッフルの姿がシャッターに遮られて段々と見えなくなっていく。

「モッフルぅうううううううううううううううぅッ!!!」

 西也はモッフルに向かって兵に抑えられながらもそれを振りきって飛び出そうとした。

「モッフルさんの心意気を無駄にしないでくださいっ!!」

 ミュースが西也に抱きついてシャッターを潜ろうとするのを阻止する。

「約束された勝利の剣(エクス・カリバー)だフモッ!!」

 シャッターが降りきる前に西也が最後に見たもの。それは、メープル城に避難した者たちの安全を確信させる光り輝く閃光だった。

 

 自動迎撃装置を発動したメープル城をフラレテル・ビーイングは総力を挙げて再三に渡り攻撃したが遂に陥落することはできなかった。

 日付が変わるまで何度も繰り返された突撃により大多数のテロリストたちは砲弾の餌食となって帰らぬ人となった。犠牲者の数は6千名を上回った。

 甘城ブリリアントパークは男性キャストの実に3分の2を失った。そして5人いたキャスト・リーダー全員の死亡が確認された。

 

 

-6ページ-

 

「西也さん。起きてください」

 ミュースに体を揺すぶられて眠い頭が強引に覚醒していく。

「昨夜は仕事が遅くまで掛かって俺はまだ眠いんだ」

 愚痴を零しながら目を開く。

「おはようございます、西也さん」

 眼を開くと裸エプロン姿のミュースが立っていた。

「随分と、刺激的な格好でのお迎えだな……さすがに目が冴えたぞ」

「今朝はこの後のことを考えて1時間早く起きてもらいました?」

 ミュースの言葉の意味を考える。だが、結論が脳で出る前に両腕が伸びていた。

「じゃあ、ベッドを出るのは1時間後で構わないということだな」

「…………はいっ?」

 西也はミュースを両腕で掴んでベッドに引き寄せ次いで体位を入れ替えて組み敷いた。

 

 

「ミュースはやけにご機嫌だな」

 1時間後、西也はミュースと一緒に朝食を採っていた。出勤用の衣服を着て。

「はい? だって、今日からずっと憧れていた車通勤ができるんですから?」

 ミュースは満面の笑みを浮かべている。

「そんなに楽しみだったのか?」

「半年間待ちましたからね?」

 ミュースはとても楽しそう。西也はここ半年のことを思い出してみる。

 ミュースと車の購入、ドライブの約束をしたのは半年前のバレンタインデーのこと。

 それから西也は自動車教習所に通い始めたが、パークの再建に多忙でなかなかメニューを消化できなかった。それで、結局免許を取れたのが18歳の誕生日を迎えてしばらく経つ8月を迎えてのことだった。

 西也たちの愛車になる新車の日○デイ○は別居している父親からのプレゼントだった。西也は固辞したかったが、ミュースが父子関係修復の兆しになると受け取らせた。その納車が昨日行われた。とはいえ、帰宅時間の関係上業者にマンションの駐車場まで運んでもらった。なので、今日からが本当の運転となる。

「う〜ん。楽しみにしてくれるのはいいが、普通免許取りたての人間の車には乗りたくないもんじゃないのか?」

 ミュースはそっと西也の手を握った。

「それでも婚約者の車なら乗りたいと思いますよ」

 悪戯っぽい表情に変わる。

「それに、しばらくはこの家とパークの往復しかないですから。ゆっくり運転の経験値は稼げると思います」

「確かに、世間の夏休みが終わらないことには俺たちに休暇はないな」

 パークの営業が最も忙しい今、どう見積もっても9月に入るまで休みは取れそうになかった。

「新人さんの教育もまだまだ続くんですし、ドライブは気長に待ちますね」

「そうだな。鍛えなきゃいけないひよっこは多い」

 『新人さんの教育』という言葉に西也の胸がグッと締め付けられる。バレンタインデー蜂起でパークは男性キャストの過半数を失った。その失った分のキャストを西也はクローンやメタル化させて復活という手段を取らなかった。モッフルたちはそれを望まなかっただろうから。

 そのために魔法の国と人間界の両方で新人を数多く募り、忙しい営業をこなしながら新人教育に余念がない日々となっている。

 『スプラッシュ・オーシャン』はジョーが引き継ぎ、『ソーサラーズ・ヒル』はミュースが暫定キャスト・リーダーの座に収まるなど責任者の世代交代が行われた。不人気の『アストロシティー』とテロ被害が大きかった『ワイルド・バレー』に関しては全面リニューアルを実施中などパーク内の改変も行われている。甘城ブリリアントパークは今、人、施設ともに改編期を迎えていた。

「悪い魔法使いが消滅して時間を気にせずにみんなスケジュールを立てているからもう少し待ってくれ」

 フラレテル・ビーイングの蜂起にはラティファに呪いを掛けた魔法使いである栗栖隆也も参加していた。その魔法使いをモッフルが命と引き換えに倒した。それによりラティファに掛かっていた呪いは解けた。また、パークを倒産させようとしていた甘城企画は中心人物を失ったことで、パークの閉園についてあまりうるさく言わなくなった。

 モッフルのおかげでラティファとパークは根本的に救われることになった。それにより、去年の7月末のような緊迫した綱渡り経営は行わずに済んだ。もちろん、1年間の入場者数が去年1年間とは比べ物にならないほど多かったのがその根底にあるのだが。

「さて、そろそろ出るか。車があるのに遅刻じゃ示しがつかんからな」

「そうですね」

 2人で立ち上がり食器を洗って乾燥機に入れる。

「可児江西也の車での出勤初日。とくとその華麗なドライビングテクニックを見るがいいさ」

 西也が自信満々に右腕を振り上げながら玄関へと歩いて行く。

「安全運転でお願いしますね」

 ミュースが苦笑しながら付いていく。

 新車という新しい門出を迎えた2人をモッフル、ティラミー、マカロンたちバレンタインデーに散っていった者たちが大空から笑顔で見守っていた。

 

 

 了

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
pixivで発表した甘ブリ作品その11
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タグ
甘城ブリリアントパーク

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