深み填りと這上姫(上)
[全4ページ]
-1ページ-

第一話:潜入姫

 

 

 ……目の前の状況を確認してみようと思う。

 デスクの上を俺がトイレに行って戻ってきた僅かな時間で俺の部屋に紛れ込んできたちっこい蒼髪の人形が正座して占拠している。

 この人形は確か、武装神姫なるものだったような気がする。

 武装神姫とは俺の知る限りでは色々と着せ替えて戦わせる今、大流行なものだとか聞いた事がある。

尤も、それは子供と俗に言うオタクと呼ばれる人種が主であり、ただの一般人である俺が持っている事がバレれば体面上、よろしくない事が起きるのは目に見えていた。

 大学生以上にもなってくると野郎が人形を愛でる事をバレたら、気味悪がる人間が続出するのは言わずとも誰もが考えている事だと思われる。

 俺もそんな中の一人だ。正直、目の前の事実を許容したくない。これが幻である事を切に願いたい所だが……。

 

「あの……。お邪魔してます……」

「あ、ああ……」

 

 蒼髪の人形はご丁寧にも敬語で部屋の主である俺に挨拶をして、ものの見事に幻という説を完全に否定した。

 動くのは知っていたが、喋る上に敬語を操る思考がある事には驚いた。最近のAI技術はここまで来たのかと素直に感心せざるを得ない。

 

「……誰だ? お前?」

 

 しばらくの静寂の後、俺は何とか目の前の事実を見て、問いかける。

 

「私は……××××です。マスターに捨てられて猫に振り回された果てにここに放り込まれた者です」

 

 イマイチ理解できない俺はそれについて詳しく聞いてみると、何でもあまりにも勝てず、別の神姫を買ってそれでやってみたら勝ち始めたため、役立たずなこの……××××を捨てたらしい。そうして町の中を冒険して遂にバッテリーが尽きかけの極限状態となり、俺の部屋に入り込んだらしい。

 

―― ……おいおい。役に立たなくなったらポイですか。そりゃ、あんまりだろ。

 

 見た限り、心があるってのにそれを考えてやれないのは流石に少なくともオタクではない事を主張する俺でも酷い話だと思える。

 

「なるほどな。同情するよ」

 

 そう思う俺には二つの選択肢がある。一つは非情にもバッテリー切れを待ってそうなったらバラして売り払う事。とりあえず需要はあるのだから売ればそれなりの値段は付くのかもしれないから普通ならこれをしてしまうだろう。

 そして、もう一つは……、

 

「あの……」

「あ?」

「……貴方にお仕えさせては頂けないでしょうか?」

 

 やはり頼まれたが、こいつを引き取る事だった。確かに俺は武装神姫を持っていないから引き取る人間としてはうってつけかもしれない。

 だが、これを持ってバレれば体面上の問題が発生する。それは俺にとって少なからず不都合な事である。

 

「お願いします! 何でもしますから!!」

 

 バッテリーが無くなりかけにもかかわらず突然、必死に××××が叫ぶ。

 死にたくない。このままで終わりたくない。

 そんな真剣な声と必死な表情が不覚にも俺の心に鋭く突き刺さった。

 

 ――そんな顔をするなよ……。切り捨てられなくなるじゃないか……。

 

 非情になり切れない俺は俺自身に呆れ果てる。『自分の欲望に忠実に生きる』というのが俺の持論だってのに……。

 しかし、目の前の蒼髪の嬢ちゃんの顔をブルーに染めるのも寝覚めが悪い。俺はここで一つの妥協案を出す事にする。

 

「……わかったよ。とりあえずしばらくは面倒を見といてやる」

 

 そう。少しの間だけ世話して他のこいつを大事にしてやれそうな奴に渡す。それが俺にとっての第三の選択肢だった。

 しかしそれは自分が神姫を持っていた事をその人にバラす事にも繋がる。非情に矛盾していて危ない選択でもあった。

 

「ありがとうございます!」

 

 仕方なく了承した俺に××××は満面の笑みで礼を言った。

バッテリー切れかけなのに律儀なこったなぁ……。とため息をつきながら俺は苦笑する。俺は迷い気味だってのに……。

 

「いきなり押し入ってお願いするのは何ですが、私のクレイドルをゴミ置き場から回収して頂けないでしょうか?」

「クレイドル?」

 

 突然の質問に俺はオウム返しをした。どうもそれは大事な物なのはわかるが、俺にはイマイチよくわからない。

 

「神姫の充電に必要な機材です。幸い、私と一緒に捨てられてあるので回収すれば使えると思います」

 

 ……随分と贅沢な奴だな。機材もまるごと買い換えたのかよ。となると相当こいつを使い回してもダメだった事が推測出来る。神姫の武装はテレビで見たことがあったが、心があるという事を含めるとこいつとマスターとやらは絶望的に相性が悪そうだった。

 

 ―― ……本格的に同情したくなってきたなぁ、おい。

「なるほど確かにそれがないとマズいな。どこのゴミ置き場にあんだ?」

「そこまで正確には……すいません……」

「謝らんでいい。今からゴミ置き場を順番に回る。見覚えのある場所があったら教えてくれな」

「わかりました」

「おし。行くぞ」

 

 俺は大きめの鞄に××××を隠し持って、家を出ると自転車に乗って駆け出した。

 彼女の話から考えると猫がどの位を縄張りにしているかにもよるが、そう遠くはないはずだ。少なくとも俺の住む町から外は出る事は無い。

 まず、一つ目。かなり物が煩雑しているが××××はここではないと言う。確かにそれらしい物は残念ながら見つけられなかった。

 ただ、収穫もあった。何やら黒装束らしき装備だった。丁度、××××は丸裸なため、折角なのでもらって行く事とする。

 気を取り直して二つ目。ここでは鎌が見つかった。厳密にはシックルに分類されそうな片手持ち式の代物だ。

 幸運にもこれで最低限の装備が揃った。まともに戦う事も出来るだろう。

 だが、バッテリーが無くては話にならない。……そういえば××××からの反応がない。遂にバッテリー切れを起こしてしまったのかもしれない。

 

 ――全く、何でこうして得体の知れない人形の為に頑張っているんだろう。今なら匙を投げられるってのに……非情になりきれないな……俺。ただの人形ならすぐに捨てられただろうにさぁ。

 

 本当に馬鹿馬鹿しい限りだった。なんでこうしているのか、自分でも不思議に思う。本当なら投げ出したい気持ちにあるはずなのに××××の真剣な眼と必死な表情が俺の良心を揺さぶり、それの邪魔をする。

 心があるといっても人形だってのに何でなんだか。

 

 ―― ……おっと、そんな事を考えている場合じゃなかった。三つ目は……と。

 

 迷いを感じながら一時間後、遂にクレイドルを発見した。何やら痛いイラストの入ったパッケージに箱詰めされた状態で放置されてあった。

 特に理由でも無ければ携帯で写メでも撮ってネタにしたいが、今はそれどころではない。

 俺は周りに人がいない事を確認すると素早く痛い箱を開け、中身……クレイドルと説明書を回収し、さっさとその場を後にした。

 これでひとまずは落ち着けそうだ。

 

「で、俺は隠れオタクになったって訳か……」

 

 そんな独り言を言って俺は苦笑し、とりあえず××××をどうしたものか考えながらゆっくりと帰る事にする。

 あんまりオタクがどうこうするのに無関心な俺がオタクと同じ事をしているとは世の中わからんものだ。

 

 ―― ……厄介な拾い物をしちまったなぁ。

 

 

 

「ん……」

 

 説明書に従い、クレイドルに××××を充電して数時間後、彼女はゆっくりと目を開けて目覚めた。

 

「おはよう。よく寝れたか?」

「はい。お手数掛けました……」

 

 俺が声をかけるや否や××××は申し訳なさそうに頭を下げた。ここまで謝り癖が付いてしまっているとなると相当、前のマスターとやらにやられてしまったらしい。とりあえず……前のマスター様からもらった物は全て破棄してやる。

 

「謝らなくていい。それは大事だからやったまでだしな。それとお前は××××じゃない。今日からお前は蒼貴だ」

「ソウ……キ……?」

「蒼い貴石と書いて蒼貴だ。……どうだ?」

 

 彼女は与えられた名前の響きを確かめ、嬉しそうな顔をして頷く。

 

「……はい。わかりました。どうぞ、そうお呼び下さい。……貴方の事はなんとお呼びすればいいですか?」

「オーナーとでも呼んでくれ」

「わかりました。オーナー、よろしくお願いいたします」

「あいよ」

 

 これでマスター様とやらが残した異物である名前と主に対する呼び名は消去した。これでしばらくはやっていけるかな……。

 そんな事を考えていた矢先、階段の音が自分の耳に入ってきた。

 

「やばっ! 隠れてくれ!」

「きゃっ!」

 

 俺は蒼貴が驚くのに構わず、彼女を引き出しの中に隠した。周りを確認する。ゴミ置き場で拾った装備は鞄の中、クレイドルも鞄に入れた。完・璧。

 直後、妹が入ってきた。こいつは今時の女子高生で色々と外で遊びまわっていて、チャラチャラしたファッションをよくしている。だがその反面、家ではイラストを描き、BL小説を数多く保有している上に家族の前じゃ、丈の短いシャツとパンツという出で立ちだ。正直、勘弁してほしいものだ。

 こんなのを見ていると恋愛シミュレーションとかで出てくる様な妹なぞ幻想だとマジで思う。

 考えてもみてほしい。これに加えて騒げば何とかなると思い込んでいる脳みその持ち主だ。こんなのに魅力を感じるだろうか、いや、ない。

 

「お兄〜。パソコンやらせて〜」

「やなこった。お前に貸したら何時間延長されるかわかったもんじゃない」

「え〜」

 

 あまりよろしくない口調で頼み込んでくるが速攻で断る。

 言い忘れていたが、こいつはパソコンを際限なくなるものだから親に時間を制限されている。そんな訳でノートパソコンのある俺に頼むのである。

 たまに上手いイラストを書くことを取引にやらせたからこうして来たクチだと思われる。だが、今はギブアンドテイクをしている時間はなどない。

 

「うっさい。俺はレポートがあるんだ。一人にしてくれ。こんなのを始末しているんでな」

「……わかった」

 

 俺がとっさに見せたパソコンの内容……レポートやらCG製造ソフトの様子を見せると妹は引き下がった。

 こういう単純な奴には訳のわからないものを見せつけるに限る。それに勉強ともなれば手出しの出来ない建前となる訳で誰かが来る率も下がる。

 そうして妹が立ち去ると誰もいない事を確認して蒼貴を引き出しから出した。

 

「びっくりしました……。どうして家族には隠すのです?」

「……俺の体面上の問題だ。人形を持っていると気味悪がられる」

「私のせい……なのですか……?」

 

 人形という言葉に反応した蒼貴はまたしても自分が迷惑していると思い、俺の顔を伺う様に問う。

 

「違うって。何でも自分のせいにするな。いいか? 大の大人が人形を持っているというのは気持ち悪がられるのが全体のイメージなんだ。要するに大多数の意見を敵に回したくはないってこった」

「はぁ……。何だか難しいですね……」

「まぁ……なんだ、大人の事情って事で我慢してくれないか?」

「……わかりました。家族が来たら隠れます」

 

 理由を取り繕い、蒼貴に自分から隠れる事を確約させる。これで隠れ場所を作っておけば余程の事がない限り、バレないだろう。

 

「ああ。そうしてくれ。……そういや、俺は武装神姫について知らん。これからどう面倒を見ていけばいいか、教えてくれ」

「あの……もしかして武装神姫を知らないんですか?」

「ワリィ。俺は今まで興味がなかったから見た事があるだけなんだ」

 

 再三言う様だが俺は武装神姫のタイトルと人形が動く姿を映像で見たぐらいしかない。ぶっちゃけ、オタクが家で引きこもって愛でる愛玩用か何かのものとしか考えてなかった。

 そんな訳で世話の仕方なんて知るはずもない。さらにクレイドルの説明書はあっても武装神姫についての説明書がなく、残る方法は目の前にいる神姫そのものに聞く事だけだった。

 

「それでしたらマニュアルをネットからダウンロードした方がいいと思います」

 

 なるほど。と俺は蒼貴の提案に納得する。

 確かに公式ホームページで説明書だけをダウンロードする事が出来る電化製品は結構ある。神姫も例外ではないのかもしれない。

 早速、ネットを開き検索をかける。案の定、すぐに求めるものが見つかった。開いてみるとかなり痛いイラストが混ざった公式ホームページが表示された。

 こういうのが流行りなんだと強引に自分に納得させると早速、マニュアルのダウンロードをし、今後の予定を考える。とりあえず、鍛錬して技能試験をするのが当面の目的とするのが良い様だ。

 掲示板にも入って情報収集をする。そこには例のごとく何やら趣味がアレな奴らが混ざっていたりしたが、情報は確かであり、蒼貴の躯体は命中と回避に優れた忍者タイプである事が判明した。

 さらに前のマスターが埋め込んだCSCも確認した。中にはルビーが一つ、エメラルドが二つが格納されてあった。バカにしてはなかなかな組み合わせをしてくれているものだ。それにだけは感謝してやろう。

 まとめると回避をし、反撃する……蝶の様に舞い、蜂の様に刺す戦いが最適であるという事だった。

 そのためには無駄な装備を省き、回避力と機動力に特化したやり口で行くしかない。鍛錬も相当必要だと思われる。

 蒼貴を見てみる。俺の隣で一緒に掲示板を見て、知識を吸収しようとしている。小さいながらも感心できる姿勢で俺はそういうのは良い事だと思う。

 

「オーナー、頑張りましょう」

 

 唐突に彼女が話しかけてくる。まだ信用しきっている訳じゃないが、俺をアテにしているのがわかる。

 

「お、おう……」

 

 俺は思わず、返事をしてしまう。そうした姿勢を無碍にするほど、俺もろくでなしではないつもりだ。

とは言え、内心は複雑な心境だった。もし誰かにバレたらどうしようとか、もし、変な目で見られたら俺はどうなるんだろうとか、その他etcetc……。

 何でこうなったんだかはわからんが、ここまで来てしまったら仕方がない。

 

 毒を食らわば皿までだ。やるとしますかね。……はぁ。

 

 

-2ページ-

第二章:金無姫

 

 さて、とりあえずやる事には決めたのだが、致命的な事を一つ上げておかなければならない。それは何か?

 俺の素人加減? 蒼貴のネガティブさ? ……いいえ。神姫に回す金が無い事です。

 体面上発生する問題でこっそり出せる金があまりにも少ない。表向きの事もこなすためには相応の金が必要だ。バイトは多少やっている程度の俺には無駄に金のかかる神姫で正直、金を多量に回したくないのが本音だ。

 それに装備品などを増やしたとして家族にバレない為の隠し場所が限られているため、保管もままならないのが現状だ。

 で、それで何が無いのかというと、まずMMS・NAKEDがない。詰まる所、練習台が存在しないって事だ。普通ならそれでやるのがセオリーなのだろうが無いものは仕方が無い。

 「これじゃぁ、練習できねぇよ」と思われがちである。確かにMMS・NAKEDは優秀だ。あればそれでやるのが手っ取り早いだろう。

 しかし、俺はやっぱり堂々と金を出せない状況にある。という訳でここは一つ、アイデアを捻りだす事とする。

 

「まず、第一に回避の練習だ。それができなければお前は死ぬ」

「……いきなりヘビーな言葉を言うのですね」

「前の野郎ではダメダメだったんだ。今から急激に成長するためにはそれぐらいが丁度、いいんだよ」

 

 いきなり俺は脅迫をする。はっきり言って、同情して甘ったれた言葉を並べても腕が上がるとは思えん。つー訳で俺はスパルタで行く。

 マジで死ぬ気にならないとこいつは勝てない気がするのでね。

 

「わかりました。……しかし、MMS・NAKEDの代わりに何をする気ですか?」

「確かにそれは無い。……がその代わりになれる奴が目の前にいる」

「え?」

「俺がお前の相手をしてやるんだよ」

 

 蒼貴は俺の言葉に訳がわからないという顔をする。俺はそれを見てニヤリと笑うと引き出しを開けてある物を取り出す。それは……。

 

「……それって電動ガンじゃないですか!?」

「ああ」

 

 そう。俺が取り出したのはBB弾を発射する電動ガンである。これを蒼貴に撃つ事で彼女にそれを回避してもらおうって寸法だ。弾速が早すぎるんじゃないかって文句もありそうだが、その辺は電動ガンの調整次第でどうとでもなる。

 

「こ、怖いですよ……」

「安心しろ。出力を抑えて速度を落としたものでやるからな。さて、防具を付けようか。お前のクレイドルを探してた時に拾ったもんだがね」

「……わかりました」

 

 蒼貴は俺の言葉に返事をして、防具を装備する。それを見た俺はBB弾を電動ガンに装填するとノートパソコンなどを片付けてデスクの上を綺麗にして、そこに蒼貴を立たせる。

 ルールは簡単だ。制限時間一分の間に電動ガンの弾を回避し続ける事。ただそれだけだ。

 

「よし。始めるぞ」

「い……いつでもどうぞ」

「じゃ、遠慮なく」

 

 俺は蒼貴に電動ガンを放つ。狙うは胸鎧の紋様の真ん中だ。彼女は避けようとしたが、ただ直線的に避けようとしたため、簡単に狙い通りの場所に命中してしまった。

 しばらく連射を続けるが、動きが単調すぎて面白い様に命中してしまう。蒼貴はあまりにも回避が下手すぎた。センスはあるはずなのにこれはどういう事なのだろうか。

 それを考えながら撃つ事一分後、制限時間が経過したため、俺は射撃をやめた。

 結果は散々だった。回避どころか逸らす事もできず、俺の狙う箇所に全て当たってしまっている。これでは勝利には程遠い気がしてならない。

 蒼貴を見てみる。彼女は俺が鎧ばかり狙ったため、怪我らしいものは本体には見当たらないが、被弾のしすぎでかなり疲弊している状態にあった。

 

「申し訳ございません……」

「気にすんな。最初から成功を求めちゃいねぇよ。いきなり成功したり、勝ったりするのは宇宙人だけだ」

「う、宇宙人ってそんな強い人ばかりなんですか?」

 

 俺の例え話を鵜呑みにした蒼貴は宇宙人の存在を信じた上で質問してきた。おいおい。冗談や例えも通じないのか、この嬢ちゃん。

 

「まぁな。ま、俺達は宇宙人じゃない。だから今から地道にやってようやく勝つのが関の山ってとこだ。さて、問題。何で俺の狙い通りに全部、命中してしまったんだ?」

「私がダメだから……」

「そうじゃない。そのダメな理由についてだ。それがわかれば直せるんだよ。……そういや、お前の前の主人はどういう装備をお前に着せていたん?」

「それは……」

 

 俺は蒼貴を休ませ、その間に彼女の情報の下、ネットで武装について調査をする。

 そして……呆れた。

 前の主人がコンセプトとしているのは火力戦だったという事にだ。なんと武装は重装甲、重火力の装備で埋め尽くされているのだ。

 何をどうすればこんな事になるのが理解に苦しんだ。

 

 ――バカだ! バカすぎる!! 性能=強さとか勘違いしている痛い奴じゃねぇか!! オマケに欠点を補って万能にしちまおうとしている辺りが訳わかんねぇ!!

 

 確かに忍者タイプの命中センスが発揮されるが、回避が殺されている。もしかすると回避センスを極限まで上げ、補正で強くする事で補う方針にしたのかもしれないが、それでは中途半端になりかねない。そんな事なら回避センスより攻撃か命中を上げるCSCの構成にした方が確実だろう。

 さらに付け加えると万能型はぶっちゃけ、それを扱うものの技量が卓越していない限り、どういうゲームでも弱い。悪い言い方である器用貧乏というそれは特化型の長所にはどうしても敵わない。弱点が無いというのは聞こえが良いが、それと同時に長所が無いという事をどれだけの人が理解しているだろうか。

 おまけに戦術も幅が広すぎて余程の判断力が無くては万能型でいるのは難しいのである。

 そして、武器の性質上、動かない事が多い。そんな訳で動いて避けるという事そのものを蒼貴は忘れている可能性があった。となればまずは動きから始める必要がありそうだ。

 

「なるほどな。まずは走り回る事から始めっか。蒼貴。今からさっき撃ったBB弾を拾い集めてこい。常に走って動く事が条件だ。まずは走る事から覚えるぞ。定期的に電動ガンでお前を狙い撃つから直線的にならない様に注意しろ」

「わかりました」

「それとフィールドはこの部屋全体だ。そして……ここにある物を利用しても良い」

「了解です」

 

 俺の作戦はこうだ。常に動き回る事による機動力の強化、部屋はあまりに綺麗ではない事で神姫にとっては入り組んでいる地形を動く事による地形認識力の強化、いつ電動ガンが放たれるかわからないために警戒する事による注意力の強化、BB弾という小さい物を探す事による索敵力の強化、そして電動ガンを放つ事による回避力の強化をこの命令で一挙に行おうというものだ。

 簡単に言えばいつどこから来るかわからない攻撃を注意しつつ、いかにしてターゲットであるBB弾を素早く発見し、回収できるかが問われる実戦的な訓練だ。

 

「制限時間は十分だ。この時間の間に可能な限り、BB弾を回収しろ。Ready ……GO」

 

 俺の合図と共に蒼貴は移動を開始する。まずは様子見でしばらくその様子を眺めている事にしよう。

 彼女はまずデスクの隙間に入り込む。確かにBB弾は小さいからわずかな隙間にも落ちている可能性は高い。……判断力は悪くは無いな。

 入り込んでから二十秒後、蒼貴はBB弾を二つ持って隙間から出てきた。そこを俺は容赦なく、電動ガンを放つ。蒼貴は反応すると隙間に戻り、その攻撃を免れた。

 その隙間も考慮したのだが、別の音がした。何かを使って防御をしたと思われる。

 俺は蒼貴が再び出てきて隙間からいなくなるのを見計らって彼女のいた場所を見てみる。なんとそこには俺が落としたと思われる櫛があった。恐らく蒼貴はこれを盾にする事で攻撃を防いだのだろう。

 さらに蒼貴を見てみると攻撃前より一個、BB弾を持っていた。恐らく櫛で盾にした際、そこにBB弾を食い込ませてちゃっかり回収したのだろう。

 周りの物を利用し、自分の場を作り出す。俺の言葉の真意に気づいたようだ。。

 

 ――こいつは使える。

 

 と俺は鞄が積み重なった山を探す蒼貴に電動ガンを放ちながら思う。

 彼女は反応して今度は足元にあった雑誌のページを持ち上げてそれを盾にし、弾いた。

 ネットで調べたが、空中戦以外にも地上戦も存在する。そこでは様々なフィールドがあってそこではいろいろな物が配置されており、それは障害物ともなる場合がある情報もある。確かに攻撃の時には邪魔だが、逆を言えばそれを利用する事も可能だ。忍者と言えば隠れる事も重要だ。それに十中八九、こちらは装備面でも大きく不利な戦いを強いられる。真正面から戦うなどナンセンスである。

 相手に攻撃を一度もさせないつもりで動かなくては勝つことは難しいだろう。相手は金をかけているのだ。神姫に命をかけているぐらい、大量に。それ故に高性能な装備を数多く所有しているに違いない。

 無論、俺も必要最低限は出してやるつもりだが、それが相手の武装アドバンテージを消す事に繋がるとは正直、考えられなかった。

 ならば使い古された言葉だが、知恵と勇気で何とかするしか俺と蒼貴に選択肢は無い。

 そんな事を考えながら電動ガンを定期的に撃つ事十分後、制限時間が経過し、訓練は終了した。戦果の方はというとBB弾を二十個回収して一箇所に集めていた。弾はさっきとは大違いで全弾を回避、及び周りの物を使って防御していた。防御と言っても自分自身には全くダメージが無い。

 まだ残っている気がするが、上々な結果だ。

 

「よくやった。しかしお前、周りを利用するのは上手いな。判断力も悪くない」

「あ、ありがとうございます。その……上手く言えないんですけど閃いたらすぐに動けるんです。単純に回避するのはちょっとまだまだなんですけれど……」

 

 なるほど。こいつは頭が良い。回転も速いのもあって周りの把握、それの使い方を瞬時に割り出しが早く、正確に出来ている。単純なフィールドではまだ上手い考えが思いついていないようだが、こうした複雑な場所では結構やれている。

 

 これなら俺の思惑を実現してくれるかもしれない。……よし。二週間後には試しにセンターとやらに行ってみよう。オフィシャルバトルとかいうのがどういうものかを把握しておきたいし、何かしらの情報も得られるかもしれない。

 あわよくば……蒼貴を捨てたとかいうクソガキの面を拝みたいもんだな……。どれだけ腐っているか見定めてやる……。

「……オーナー?」

 

 俺が考え込んでいると蒼貴が不思議そうな顔をして俺を呼ぶ。

 

「あ、ああ。とりあえず当分は回避を重視した訓練をこなすぞ。それと二週間後はセンターってとこに行くぞ」

「いきなりですか?」

「ああ。単純に俺は実際の戦闘を知らない。だからその把握のためにやるんだ。勝つ必要が無いといっちゃ無いが、ちゃんと勝つ努力はしてくれよ? 負けるより勝つ方が……良いに決まっているだろ?」

「……はい!」

 

 俺の言葉に蒼貴は真剣な表情で答える。捨てられたくないから必死になっているんだろう思うが、俺に応えようとしている。

 そうした姿勢は、本当は正しい訳ではないのだが、今は黙っておく事にする。

 少しでもプラスに向いているのだから今はいい。

 

「よし、明後日まで回避の練習に加えて、武器の素振りをするぞ。今日から一日百回だ。出来るか?」

「了解です」

 

 

 特訓に励んで二週間が経った。家族の目を誤魔化しながらの蒼貴との修行は割と楽しいものだった。

 彼女は従順でよく俺の期待に応えてくれるし、俺が勉強をしていたらこいつ、俺の勉強を手助けしようと電子辞書を使って英語の意味を調べたり、携帯電話のメールの送信の代理をやってくれたり、かなり気の利いた事をやってくれる。

いやはや、神姫とはこういう事をして生活をよりよくしてくれるとは予想をしていなかった。非常に大助かりで有難いこった。

 で、特訓の方も最近はネットの動画を蒼貴に見させてイメージトレーニングもさせ始めた。どいつもこいつも装備を充実させたブルジョアな神姫ばっかりでムカつく所だったが、まだ一勝もできていないため、その文句を抑えておく。装備のせいにしていたら俺らは絶対に勝てないしな。

 俺の考え出した特殊訓練もかなり板がついてきて結構な好成績を出せる様にもなった。

 トータル的な能力は身についたものの、それが実戦に結びつくかが……正直、不安だが、センターに行けば障害物のあるフィールドもあるらしいから、そこで成果を見たいもんだ。

 そして今日はとうとう神姫センターなるものに出向く事になる。……が、その前に大きな問題にぶち当たった。それは……。

 

「どうやって変装しよう……」

 

 そう。そこに行くにも必ず誰かの目を避けられない。そんな訳で俺は変装が必要なのだ。バレたら体面上の危機に晒される事になってしまう。

 知り合いなどには特に警戒をしないとまずい。かといってそういう空気を放ってもいけない。極自然に、ナチュラルな変装をしなくてはならないのだが……。

 

「サングラスとマスクをして、さらに帽子を被るのはどうでしょう?」

「そりゃ、どう見たって不審人物じゃないか。もう少しマシな変装を考えてくれよ」

「それもそうですね……。オーナーみたいに髪を染めててワックスをかけているカッコいい人って結構、難しいですね……」

「お世辞を言っても何も出ねぇぞ」

 

 こんな具合にカフェラテを飲みながら蒼貴と議論をして三十分程経っている。蒼貴の提案を呑んだらただの不審人物で職務質問されるし、普通に行ったら俺の周りにいる誰かが気づいてしまうかもしれない。別に有名人って訳じゃないから確率はそう高くは無いが、高をくくっていて万一バレても困る。どうしたもんか……。

 

「あの……。この眼鏡って何なんですか?」

 

 蒼貴が周りを見回して考え込む俺に話しかけながら何かに指を差す。その先には俺が過去に使ったものをしまっておくためのクローゼットがあり、そこから何かがはみ出ているのが見える。俺はそれを取り出してみる。それは……。

 

「ああ。こいつは高校の文化祭で使った演劇用の小道具だ。度も入ってないからかけても目が悪くならない便利な代物さ」

「これだけ掛けるのはどうでしょう? 後は髪型と服装を変えればどうにでもなると思うのです」

 

 蒼貴の言葉に俺はその眼鏡をよく見てみる。縁はかなり太く、レンズは度がかなりある様に見せてある。それを掛けて鏡の前に立ってみる。これだけでもかなり俺の印象が変わっている様に見えた。

 さらに俺は片目を少し隠す様に前髪を下ろしてみる。結構暗い印象が俺の顔に宿り、個人的にはよく見ないとわからず、近寄りがたいものになっている。

 

「どうだ?」

「ちょっと怖いですけど……オーナーじゃないみたいです」

「そうか。なら、これで行こう」

「はい」

 

 俺の姿に少し怖がっている蒼貴の評価を得た俺はこれに普段はしない組み合わせの服装に着替え、鞄に蒼貴をしまうと例の……神姫センターへと向かう事にした。

-3ページ-

第三章:入城姫

 

 

 とうとう、俺と蒼貴は神姫を戦わせる場所……神姫センターに到着した。そこは俺の家からは駅五つ分程、離れている場所にあり、都会に分類される発展を見せる町の中にある。

 駅を降りるとそれぞれが自らの目的のために移動する人々が行き交い、背比べでもしているかの様に大きな建物が立ち並ぶ。それらによって造り上げられた活気は人類の文明を感じさせるに十分な力を持って都会の凄さを物語る。

 が、俺は正直、こういう所は好みではない。確かに凄いのだが、田舎者の俺としては少々騒がしい場所であるからだ。田舎の家でゆっくりしている方が性に合っている。

 さて、どうでもいい事は置いておいて俺は神姫センターに急ぐ事とする。公式ホームページは調べたが、かなりでかい建物で駅から近い事を見ていた。

 外観だけを見ればかなり清潔感のある環境のいい建物である事がわかるのだが、果たして中身はどうなのや……ら……?

 

「……オーナー?」

 

 俺の鞄の中から頭だけひょっこりと出して心配そうに俺を見る。俺の顔は今、相当まずい事になっているらしい。そりゃぁ、そうだぁ……何たって……

 

「お兄ちゃん! 僕の活躍見ていてくれたよね!?」

「うん! ちゃんと見ていたよ! エリサ!!」

 

 ある所では何だか女の癖に僕とかほざく上にオーナーの事を『お兄ちゃん』とか行って媚を売りまくるセーラー服の人形とそれを聞いて何とも思わないオーナーがいるし……。

 

「マスター、見てたかにゃ〜? ムカつく奴を倒してやったにゃ〜」

「いいぞ! ミンクーちゃん!! この調子でSランクを目指すぞぅ!!」

 

 またある所では……何て言うんだ? 猫みたいな喋り方をしてオーナーにベタベタしている猫耳を無理矢理つけたナース人形がいて……。

 

「これでよろしいでしょうか? ご主人様」

「うむ。これでまた一勝を挙げる事が出来た……」

 

 ……俺の隣を何だか貴族臭い口調でカッコつける女性が通り過ぎたぞ。おまけにご丁寧にも人形はメイド服姿ときた。

 何なんだここは……。色々と俺の身体の中で拒否反応が起きている。ここは危険だと体内から危険信号を発し、頭の中ではこれは受け入れていい事実ではないと規制がかかって脳に負荷がかかっている。

ここは地獄だ。カオスだ。この世のものじゃねぇとかかんとか……。

 そんな危険を察知して改めて周りを見てみる。メイド、ナース、制服、チャイナ、ミリタリーなどなどありとあらゆるコスプレをした人形が老若男女とともに戯れている光景しか目に映ってこない。

 

 ――な、なんじゃごりゃ〜〜!!

 

 俺は思わず心の中で叫んでセンターから逃げ出すと公園へと移動してベンチに座り込んだ。そして鞄の中から蒼貴を取り出して彼女を見た。

 

「おい。蒼貴。前のマスターはあんな場所を平然と歩き回っていたのかよ?」

「そ、そうですけど……」

「なんてこった……。よくもまぁ、あんなヘンテコな人々が集う場所にいけるなぁ……。ある意味感心してやるぜ……」

 

 蒼貴の答えに俺は絶望的な声を上げて前のマスターにお世辞を送ってやった。

 建物そのものは未来的でいいのだが、そこを徘徊する人々は何かが間違っている。そんな事が俺の頭の中に浮かんでくる。

 人形に罪は無いが、いくらなんでもあんなへンテコな格好させる神経を俺は理解できない。オタクではない事を未だに主張する俺にはどうにもついて行けない領域を感じる。

 ウチの蒼貴も忍者姿だがここまで落ちぶれちゃいねぇぞ……。

 

「オーナー……大丈夫ですか?」

「……いや、ちょっと絶望気味になっているさ」

「すいません……。オーナーに無理をさせてしまいまして……」

「お前に罪はない。あの場所にいる奴に問題があるんだ……。おぉぉぁっ……」

 

 蒼貴に慰められる中、俺は絶望し続ける。蒼貴を戦わせるためにはあんな空間に入り浸らなくてはならないのかと思うと……ダメだ。

 

「あの……。そんなにあそこの人達に問題があるのでしたらそんな人達をやっつけるために行くというのはどうでしょう? そうです。幻覚から目を覚まさせてあげるんです」

 

 蒼貴の言葉を聞いたとたん、俺は何かが吹っ切れ、頭の中がクリアになった。

 

 ―― ……そうだ。そういう趣向の野郎共をぶっ倒す事こそが俺の目的だ。俺は悪役だ! 奴らの敵だ! 悪者ぶってどっちが正しいか思い知らせてやるんだ!!

「よし! 蒼貴! それで行くぞ! 痛い人形退治だ!」

「は、はい!」

 

 蒼貴の言葉を心の中に刻む事でセンターの放つ空間の免疫を作る事に成功した俺は改めてセンターへと突撃する事にした。

 気を取り直してTAKE2。俺はセンターの様子を見回す。

 センター内の人々は戦闘用ブースを借りて戦闘したり、ティールームで談話を楽しんだりと個々で色々な楽しみ方を考え出して自らの時間を満喫している様だ。

 早速、戦闘と行きたいが、情報も集めずに突っ込むなどただのアマチュアだ。まずは情報収集に入る。

 手始めにセンターに関するパンフレットをもらった。それにはアクセスコードなるものがあり、それを使う事で武器を調達出来るという事が書かれてあった。

 運良く期間限定でお試し用のアクセスコードが付属されてあったのでセンター内の転送装置にそれを入力してみる事にした。

 そうすると大型の手裏剣が一つ、俺の手元に転送される。今持っている鎌と比べると距離を取った戦いに向いている。そういえば蒼貴の躯体はこういう投擲武器を好む傾向にあるという事を調べた事がある。

 試しに戦闘で使わせてみてどちらが使いやすいか蒼貴に聞いておこう。好きこそものの上手って言うしな。

 さらに転送装置から俺はバトルシミュレータのシステムをUSBメモリにダウンロードした。これで能力こそ成長しないが、自宅でオンラインの奴らと戦う事が出来る。戦闘経験は強化するには打ってつけだ。

 装備を揃えた後は神姫の登録も始める。蒼貴に聞いた所、本当は所持した瞬間に登録を済まさなければいけないものだったらしい。

 何故かというと神姫が、身体が小さい事を活かした犯罪や他の神姫に非合法な戦いを仕掛けてCSCや装備を強奪する強盗などがたまに起こるため、こうした登録を義務付けられているとの事だ。

 確かに神姫を犯罪に利用するのならば、どこか小さい穴からも侵入して内側から鍵を開けるとか、重要な書類を盗み出すとか考えれば結構、ありえる話かもしれない。

 強盗もそうだ。装備品、特にCSCはかなり高価なものである事は俺だって知っている。そうしたものを装備している弱い奴を襲えば、確かに金にはなるだろう。

 

 ――良い使い方もあれば悪い使い方もやっぱあるんか……。世知辛い……。

 

 そんな事を思いつつ、個人情報の他にオーナー名を書き、登録証を発行してもらった。

 なんでもセンター内で放送される時はオーナー名で呼ばれるらしい。確かに放送で本名を呼ばれるのはいい気持ちがしない。有難い配慮だ。

 登録証が完成すると登録特典として急速バッテリー充電器十個と武装パーツ試用チケット三枚と一緒に登録証が手渡された。

 試用チケットは使うか怪しいが、充電器をタダで十個ももらえるのは有難い。ここは喜んでもらっておく事とする。

 さて、これで全ての準備が整った。俺はオフィシャルバトルをするため、登録証をバトルブースの受付のカードリーダーに通す。これで何分かすれば適当な相手と戦わせてくれるって寸法ならしい。

 俺は対戦相手が決まるまで壁に寄りかかって待つ。情報収集はもう十分したため、やる事が無い。

 

「オーナー……。勝てるでしょうか……?」

「そんな事、聞くなよ。それで勝てるとか負けるとか言ったってしょうもないだろ。だからな。今からどう戦うべきかをおさらいしようじゃないか」

「……はい!」

 

 不安になっている蒼貴を安心させる事と戦闘目的を伝える事の兼ね合いで俺は蒼貴と打ち合わせを始めた。

 まず、戦闘目的だが、鎌と手裏剣のどちらが使いやすいかを実戦の中で確かめる事を最優先とする。これは先に言った通り、万能型ではなく特化性能を俺は求めるため、武器の性格も固定化する必要がある。

 近距離か遠距離か。これだけでも大きく違ってくる。

 そして次に周りの物を可能な限り使ってみる事を蒼貴に教える。真正面に立たず、物陰に隠れて背後から襲い掛からなくては装備差で負ける事は目に見えている。

 卑怯だろうが、姑息だろうが知ったこっちゃ無い。こっちは常に不利な状態で戦わなくてはならないのだから正攻法など付き合ってられん。

 最後に……ある攻略法を仕込んでおく。こいつは戦闘の中でやってもらう事としよう。今、語っても面白くない。

 

『尊様、対戦相手が決まりましたのでB-5番のバトルブースにお越し下さい。繰り返します……』

「対戦相手が決まったんだとよ。……行くぞ」

「はい」

 

 放送が鳴り響くと同時に俺と蒼貴は移動を始めた。目指すは戦場だ。こいつに勝利をさせ、いずれ捨てたとかいう奴をぶっ倒す。これがそのための一歩だ。

 

 

 

 バトルブースに到着すると対戦相手とフィールドの種類が表示される。相手はルナというらしい天使型アーンヴァルタイプ。各距離に対応した武装群とそれを使いこなすだけの機動力をも持ち合わせる万能型だ。

 万能型は弱いと言ったが、それは油断していい事にはならない。万能型は言い換えれば得体が知れないとも言える。その証拠に武装データを見てみると近距離特化、遠距離特化、各距離対応の装備をしたセットが見つかった。

 武装で読むのはいささか難しいものがありそうだ。

 それ以外の性能を見てみる。どれも防御力がある程度ありながら、装備品で機動力を無理矢理高めた凄まじい装備になっている。レベルもあちらが上であり、こちらが勝るのは回避力と命中力のみでそれ以外は大きく差がある不利なものとなっている。

 だが、こんなものにも弱点はある。それは機体の重量が神姫の最大積載値ギリギリになっている事だ。

 つまり、ブースターを一つでも破壊できれば速度とバランスを大いに崩す事になるのだ。さらに直線的な機動力はあっても曲線的な機動力は無いに等しい。重量は旋回性を殺すのである。これならば付け入る隙があるというものだ。

 さらにフィールドは森林だ。隠れる場所が多く、奇襲に向いたマップだ。運はこちらに味方していると俺は確信する。

 

「蒼貴。……って訳でよろしく頼むぜ。細かい指示は追って知らせる」

「了解です」

「後はアレ、上手く使えよ?」

「わかりました」

 

 蒼貴に作戦内容とアレについての説明をしておいた。

 そう。俺は鎌と手裏剣の他にある物を蒼貴に持たせてある。対戦相手にはちゃんと公開してあるが、どう使うのかもわからない変な物だから相当混乱しているだろう。

 

 ――さて……蒼貴が二週間の間にどれだけ成長したか……見物と行こうか。

 

-4ページ-

第四話:盗賊姫

 

 

 

 

「よろしくお願いします。いい試合をしましょう!」

「始めます」

 

 それぞれが口上を述べフィールドに登場する。どうにもそれが神姫の戦いでの挨拶代わりになるらしい。

 速攻で始めるのもいいが、こういうのを聞くのもまた一興か。相手の神姫の性格も読み取れるしな。

 あの天使……ルナはどうにも礼儀正しく、正々堂々を重きにおいている真面目な性格をしているらしい。マスターの方はというと随分と鋭い目をした顔をした女性だった。子は親に似るとは限らないもんなんだな。

 まぁ、それはいいとしておこう。とりあえず俺は蒼貴との通信を確かめるために回線を開いてみる。

 

「蒼貴。聞こえるか?」

『はい。聞こえます』

「相手はかなり真面目な性格をしているぞ。策略を仕掛けるには丁度いい相手だ。俺との特訓の成果を発揮しろよ」

『了解しました』

 

 短い通信を終えると上の画面に『Ready』の文字が浮かび上がった。どうやらこれが始まりのサインの様だ。

 

 ――蒼貴。上手くやってくれよ。

『Fight!!』

 

 俺が蒼貴に心の中で頼んだ瞬間、始まりのサインが表示され、蒼貴とルナが動き始める。まず、彼女は空中からハンドガンを連射してきた。あの銃はなかなか命中率の高い代物、普通なら結構当たってしまうものだ。

 

「……見える」

 

 だが……地面に立ち、制空権が無い不利な状況にいるはずの蒼貴には当たらなかった。連射を全て回避して見せた。

 

「そんな……」

 

 その様子にルナは驚愕していた。それもそうだ。空中からの銃撃はかなり回避しにくいものだ。にも関わらず、蒼貴はそれを回避してみせている。

 これはどういう事か。……簡単だ。銃の弾道を予測して回避しているんだからな。

 火器は追尾ミサイルや特殊武器でもない限り、大抵は真っ直ぐにしか飛ばない。だから銃口から自分までを線とすれば、自ずと弾道が見えてくる。

 動画を見ていて思ったのだが、神姫はいちいち構えて撃つというモーションをする奴がかなりいる。

 そこで俺は蒼貴に敵が構え動作に入ったら、銃の弾道の予測をする様に仕込んだのだ。

 二週間の中でわざと構えを遅くして撃ったりする事でそれを学習させるのは苦労したが効果はあった様だ。

 

「攻撃します!」

 

 ルナはハンドガンによる精密射撃は当たらないと判断したのか、今度はマシンガンを持ち出し、弾幕を張った。

 なるほど。面制圧と来たか、確かに回避のしようが無い。

 

――ならば……防御するまで。……だろ?

 

 俺の思惑通り、蒼貴は森林に逃げ込み、木を盾にする事でそれを防いだ。いくら弾幕と言えど、周りの物で防御すれば問題は無い。

 そして彼女は森林という迷彩の中に隠れ、それによってルナは蒼貴をロストする。

 彼女は蒼貴を索敵するためにある程度、高度を下げ、マシンガンをばら撒きながら、移動を開始する。しかし、それはするだけ無駄である。何故なら森林は地上を覆い隠しており、所々の隙間から覗く地面から探すしかないため、上手く隠れれば見つかる事は無い。

 弾幕の方はダメージがあれば場所を特定される恐れがあるが、今の所はダメージを受けていない所を見ると上手く防いでいるらしい。

 そしてルナは業を煮やし、敵との距離を詰める移動スキルを発動させるためにブースターを点火しようとした瞬間、蒼貴の反撃が……始まった。

 ルナの背後から何かが投げつけられる。彼女はそれに反応すると咄嗟に回避する。しかし、それは武器でも何でもなく……。

 

「BB弾?」

 

 そう。白い球体であるBB弾が自分の傍らを通り過ぎて行ったのだ。何のために投げつけたのか、彼女にはわからない。

 

 ――かかったな。

 

 俺はニヤリと笑うとその瞬間、蒼貴は鎌をトマホークの様に投げつけた。本命はこちらであり、手はず通りなら狙いは本体そのものではない。

 

「きゃぁ!!」

 

 点火されたブースターは突如爆発し、ルナはブースターを破壊された事でバランスを崩し、飛行能力を維持できずに森林に墜落した。

 鎌が狙ったのはブースターの噴射口だ。鎌をブースターの噴射口に放り込む事で、それが詰まり、点火すれば、中で勝手に爆発が起きて内部崩壊を起こすのだ。当然、バランスも出力もガタ落ちし、爆発によって通常移動用のフライトユニットにも損傷が生じる。それによって重量を維持するだけの推力を失って落ちるしかなくなり、蒼貴のテリトリーに入らざるを得なくなる訳だ。

 

「はっ!」

 

 この時を待っていましたと言わんばかりに蒼貴は手裏剣をルナに投げつける。墜落中のルナはまだ生きているブースターで方向を修正する事で回避する。しかし、それは攻撃を逃れる事には繋がらなかった。

 蒼貴は一度目の攻撃が回避されるのを見る前からルナに接近していた。そして回避しつつ、爆発と同時に落ちてくる鎌を回収して油断している彼女の右腕を装甲が強化されているにも関わらず、鎌で一閃し、切断する。

 これはちょっとした一工夫だ。装甲の継ぎ目は間接などで動くために脆く出来ている事が多い。そこを狙えば防御力を無視して切断する事も不可能ではないのだ。

 

「いやぁぁっ!!」

 

 右腕を切られたルナは悲鳴をあげ、地面に倒れる。しかし、まだ体力は残っているようでフライトユニットをパージしながら素早く起き上がり、ハンドガンを残った左手で保持して連射する。

 それは、一発は蒼貴の右手に、もう一発は鎌に当たる事で武器が手から離れてしまった。蒼貴はそれに見向きもせず、先ほど投げて戻ってくる手裏剣をキャッチし、それを盾にすると森林の中に逃げ込んだ。

 

「おい。被弾した様だが、何をやられた?」

『すいません。鎌を弾き飛ばされてしまいました』

「なるほど。こちらも見たが、鎌はほっといて正解だ。致命傷さえ受けなきゃ問題ない。それと何も自分の武器だけで勝とうなんて思うなよ」

『了解』

 

 俺は次の指示を出すと現在の戦況を見た。こちらは高確率で回避して見せたものの、装甲が紙の如く脆いため、ハンドガンの一撃が痛く、かなりのダメージを受けている。今度当たると少々まずそうだ。

 だが、こちらに状況は傾いている。ルナはフライトユニットを破壊され、右腕も切り落とされ、残された装備はハンドガンとライトセイバーのみとかなり有利な状況に持ち込めている。上手くやってくれよ……。

 そんな思いに応えるべく、蒼貴が再び動いた。森林の向こうから弧を描く様に手裏剣を投げつけたのだ。

 それは高速回転してルナに辿り着き、彼女のアーマーに深く突き刺さった。

 

「ああっ!! くっ……そこですか!!」

 

 ルナは手裏剣の投げつけられた方向にハンドガンを放つ。しかし、その結果は木に当たる音が木霊するだけである。

 その直後、いつの間にか回り込んだ蒼貴が別の方向から飛び出した。

 

「えっ!?」

 

 突然の事にルナは動揺して硬直し、わずかなタイムラグが生じた。

 その中、蒼貴はルナに接近する。彼女には今、武器が無い。傍から見れば素手で殴りに行くと思われがちだ。しかし、俺の蒼貴は違った。彼女は空いた両手で……地面に落ちていたルナのマシンガンを拾い上げ、それを構えた。

 こちらの装備があまりにも少ない。なら、何で補うか。知恵と勇気もそうだが、もう一つ使えるものがある。……それは相手の装備だ。

 装備という点で大きく下回る。これは百も承知な事だ。

なら、相手の物を奪えばいい。装備を盗めば、相手の弱体化をさせるだけではなく、こちらの攻撃手段を増やす事が出来る。

アドバンテージを相対的に縮める事が出来る事を考えればこれ程、効率のいい手段は無いだろう。

 

「行きます」

 

 盗んだ高威力のマシンガンを蒼貴は至近距離で連射した。いくら蒼貴の躯体が、機関銃系が大の苦手といえど、動きの鈍った敵に至近距離で放てば苦手も何も関係ない。

 ルナは防御したが、マシンガンの威力は高く、装甲がどんどん削れて行き、機動力を失っている彼女はその攻撃を逃れることが出来ない。

 

「このっ!!」

 

 ルナはアーマーで防御しながらハンドガンを蒼貴に対して必死に発砲する。その甲斐あってか、ハンドガンの数発がマシンガンに被弾してそれは弾が詰まり、故障した。

 

「なっ!?」

「トドメです!!」

 

 ルナは勝機と見て蒼貴の頭部に目掛けてハンドガンを構え、放つ。

 

「くっ……まだまだ!!」

 

 蒼貴は紙一重でその銃撃を回避し、壊れたマシンガンをルナに投げつけ、そのまま手を伸ばした。そして彼女の左腰に装備されてあったライトセイバーを奪い、それを出力するとそれで再び、ハンドガンの引き金を引こうとしているルナを一閃した。この一撃には疲弊したアーマーは受け切る事が出来ず、彼女の体力は底を尽き、天使は地面に倒れ、力尽きた。

 

『WINNER』

 

 その表示が俺の画面に現れた。どうやら俺と蒼貴は勝ったらしい。蒼貴はルナを抱き起こしながら俺に手を振っていた。

 その様子に俺は握り拳から親指だけを上げてグッドサインで答えた。

 

「あの……勝ちました。オーナーの作戦のおかげです」

 

 戦闘が終わって蒼貴が戻って来て早々、俺に報告を始めた。

どうなるかと思ったが、蒼貴は作戦を十二分に実行してくれた。上手く敵の目を欺き、弱点を的確に突いて相手の武器をも利用して不利な状況をひっくり返して見せたのだ。

俺の戦術のおかげとは言うが、こいつの努力は相当なものだったのは俺が一番知っているつもりだ。その実が結んだんだぜ? 蒼貴。

 

「お前もちゃんと努力したから勝てたんだ。次も頼むぜ?」

「はい。次もお任せ下さい」

 

 そう褒めてやると蒼貴は嬉しそうな仕草をして、俺の頼みに応える事を誓う。

 別にそう、気負わなくていいがそれはそれでいいか。

 

説明
これは友人に誘われて始めてみた武装神姫が面白そうな内容をしていたので小説化を試みた代物です。
ほとんど課金が出来ないのでそれを前提とした話にしてみました。

あらすじ:
大学のレポートに終われる毎日を送る俺がトイレに行って戻ってくると目の前に蒼髪の人形がいた。
それは武器と鎧を装い、人という神のために戦う姫という謳い文句の人形 武装神姫であり、乱暴なオーナーに捨てられたといって駆け込んできたらしい。
さて、どうしたものやら……
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
952 894 2
タグ
武装神姫

落葉さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com