恋姫英雄譚 Neptune Spear
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Mission10:Battlefield buddy

 

 

 

董卓軍や北側の領土に拠点を持つ軍勢には特徴がある。

漢の南側が水源や河が多く、その影響で屈強な水軍が存在するのに対して北側では優れた馬が多く育つという。

 

だから董卓軍の面々は馬術に長けており、俺も見せてもらったが現代の馬術にも引けを取らないものだった。

俺もハイスクール時代に馬術部で馬術に励んでいたので馬の扱いには自信があったが………。

 

そこで本格的に第6師団が動き出す前に霞達の提案で同盟関係にある西涼連合に馬を買いにいくこととなった。しかも一般的に俺は‘‘天界の戦士”とされているので普通の馬では不釣り合いらしい。

 

俺は案内役である嵐と一緒に武威に赴いていた。

 

 

「すごい数の軍馬だな」

 

「ここは西涼一の馬商人が営む馬屋だからな」

 

 

俺は辺りを見回していた。辺りからは干し草や馬特有の匂いが充満して、俺的にはなんだか懐かしい匂いだ。

加えて馬の鳴き声や蹄の音などが辺りから聞こえて来て賑わいを見せていた。

 

 

「それで嵐、一つ聞いてもいいか?」

 

「なんだ?」

 

「嵐はどうやって自身の愛馬を選んだんだ?」

 

「う?ん……私は直感だな」

 

「直感?」

 

「うむ、自らの命を預けるのだ。深くは考えずに一頭ずつ見て回った。それで見つけたのが今の愛馬‘‘鳳凰”ということだ」

 

 

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彼女の愛馬である鳳凰は赤毛が混ざったチャイニーズホースで、重量級の武器である金剛爆斧を担いだ状態でも他の馬達よりも飛び上がった際の飛距離が長いことから付けられている。

 

飼い主に似るという言葉があるが、突撃主体の戦い方をする嵐にピッタリで鳳凰も突撃の際に何事にも動じない勇猛果敢な性格をしていて、霞の愛馬‘‘神風”は軍馬の中でも1番の速さを持っており、迅と雷の‘‘狼爪”と‘‘狼牙”は双子で、コンビネーションは最高。

 

そして副師団長となった霰の‘‘覇誇”は非常に誇り高く、彼女以外の人物を載せようとはしない。

 

それぞれの愛馬には必然的に自身の性格が関わっており、選ぶ段階で本能的に馬の特性を直感で感じ取っているとされる。

そう考えたら嵐の直感で選ぶというのはあながち間違ってはいないだろう。

 

 

「なるほどな………じゃあ俺も同じやり方で選んでみるか」

 

「うむ、そうするといい。私は私用があるから少し離れるぞ」

 

「了解だ。選んだ後もここにいるから後で合流するとしよう」

 

「そうしてくれ」

 

 

そういえば詠から何かを預かっていたな嵐は………。

 

それを見送って姿が見えなくなると俺は振り返って馬小屋を散策する。

至る処で馬が気ままに行動しており、馬小屋で餌を食べていたり、寝ていたり、柵で囲まれたスペースで走り回っている。

チャイニーズホースといっても様々な毛並みをした馬が揃っており、その馬達を選びに来た客達も活気が出ている。

 

少し歩いていると馬商人と思える男が俺に話しかけて来た。

 

 

「ようこそ、我が店へ」

 

「あぁ、今日初めてここに来たのだが……」

 

「左様ですか……どこから来られたのですかな?」

 

「一応は天水からだ。董卓軍配下の人間になるな」

 

「董卓様のお知り合いでしたか……私共は董卓軍の方々にはよくお世話になっております故、宜しければ私がご案内させて頂きましょう」

 

「頼む」

 

 

商人からの案内を受けて俺は馬を見て回る。一頭一頭が様々な性格をしており、人懐っこい馬もいれば臆病な馬、食いしん坊な馬や気性の荒い馬など本当に様々だ。

 

だがはっきりいえば何だか違う気がしている。西涼は馬の名産地だからどれも素晴らしい馬だが何だか俺が思う愛馬じゃない。

 

そして時間的には1時間、既に20頭以上を拝見して24頭目の馬を触れていた。

 

 

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「………この子でもないな。確かにいい馬だとは思うが……」

 

「そうですか……しかし難しいですな」

 

「すまない…」

 

「お気に入りなさらず……あと残っている馬といえば……「おっちゃ?ん??」少し失礼致します」

 

 

商人が誰かに呼ばれて振り向いた。そこにいたのは1人の少女であり、ポニーテールをしている。

 

 

「これは馬超様、お久しぶりでございます」

 

(馬超………まさか‘‘錦馬超”か?)

 

「おっちゃんも元気そうで良かったよ。馬達はみんな元気か?」

 

「お陰様で、馬達は元気がありはまっております」

 

「そりゃよかったよ………ん?後ろにいるのは?」

 

 

商人と話している女の子が俺に気付き、俺も2人に歩み寄った。

 

 

「こちらは馬を買いに来られた……」

 

「リアン・スチュアートだ。董卓軍所属」

 

「り……リアン……変な名前だな……あたしは馬超ってんだ。よろしくな」

 

 

名前を聞いてまさかと思ったが、やはり彼女が‘錦馬超‘”か……。

 

 

「西涼の名高い錦馬超とお会いできて嬉しい限りだ」

 

「錦って……よせよ………照れるじゃないか……」

 

「本当なら逢引で茶でも一緒にしたいんだがな……」

 

「なっ??なななななななに言ってんだよ??」

 

「ははっ……冗談だ。それで馬超も馬を?」

 

「ふぇっ??あっ……いや、あたしはたまに来て馬の世話を手伝ってるんだ。それであんたはいい馬は見つかったか?」

 

「まあな…….だが中々いい馬に巡り会えないでいる」

 

「そうなのかよ………あっ」

 

 

馬がなかなか見つからないと聞いた馬超は何か閃いたようであり、今度は商人に話し掛けた。

 

 

「おっちゃん。もしかしたら‘‘あいつ”なら釣り合うんじゃないのか?」

 

「あれですか?………しかし些か危険ではありませぬかな?」

 

「いいじゃん。駄目で元々なんだからさ」

 

「………それもそうですな」

 

 

なにか可決したようであり、商人が再び俺に話しかける。

 

 

「お客人、もしよろしければ‘‘ある馬”を見られますかな?」

 

「ある馬………気性が荒いのか?」

 

「えぇ………お恥ずかしい限りですが、我らでも手を拱いている程のじゃじゃ馬がいるのです。それで何人も怪我を負わせて買い手がいなかったのです」

 

 

じゃじゃ馬か………確かに俺にピッタリかもしれないな……。

 

少し興味が湧いて来たので俺は頷き、商人と馬超はある場所へと向かった。

向かった場所は他の馬小屋とは全く隔離された馬小屋だ。至る場所に補修作業された跡があり、扉は凹みが幾つもある鉄で出来た扉だった。

 

 

「ここか……」

 

 

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そう尋ねると商人は扉を固定してあった鎖を解き、重い扉をゆっくり開けた。

そして俺はそこにいた馬に言葉を失う。

 

一言でいえば‘‘巨大”だ。

 

普通の馬が仔馬に思える位に大きく、3mはあるかも知れない屈強な体格に全ての者を黙らせる‘‘眼”をした巨大な漆黒の馬だ。

 

 

「凄いな………」

 

「この馬は2年前にうちにやって来た馬でしてな。本当に見事なまでの馬なので最初はすごい数の客が求めたのですが、気性が荒すぎる故に誰も受け付けなかったのです」

 

「お陰で今じゃ買い手が全く来なくなっちまったってわけなんだ」

 

 

話を聞く限りでは馬超でも扱えなかったようだ。そんなじゃじゃ馬ならますます興味が湧いて来た。俺はなにも言わずにこの馬にゆっくりと歩み寄った。

 

馬は俺に気が付いて、鋭い視線で俺を睨みつけてきた。

少し驚いたがすぐに平常心を取り戻して睨み返すように馬を見る。俺が手を差し伸べようとした瞬間………。

 

‘‘ガチンッ”

 

黒馬は突然、俺の手に噛み付きだしたが素早く手を引っ込めてそれを回避する。

どうやら俺を見下しているのだろうが、俺は怒ったりはしない。

 

 

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黒馬は怪訝そうにこっちを睨みつけた。

 

その瞳は‘‘何だ貴様は?”とでも言っているようだ。

 

それを真っ向から受け止めて、黒馬に語りかけた。

 

 

「よう、すまないがお前に乗せてくれないか?」

 

 

黒馬はジッとしたまま、こちらを見ていた。

 

 

「お前は人間を見くびっているようだが……人間はお前が思っているほど馬鹿じゃない。だが人にとってお前のような馬が必要なのも事実だ」

 

‘‘……………”

 

 

「お前に人の力を見せてやる。だから俺に協力してくれ。もしお前が俺を相応しくないと感じたら遠慮なく俺を殺せ。だが今は俺に付き合ってくれ」

 

 

俺は誠心誠意を込めて黒馬に語りかける。誠意を込めても伝わらないことがあるが、誠意を込めなくては心に響くことは決してないからだ。

 

やがて、微動だにしなかった黒馬が動き出したと思ったら、俺の前に横付けるように移動したのだ。

 

まるで‘‘……乗るがいい”とでも言っているかのようだ。

 

 

「………感謝する」

 

 

俺はゆっくりと黒馬に跨るが、今度は噛み付いたり暴れたりもしなかった。

そして鞍に手をかけ、一息に鞍にまたがった。

 

その光景を見た商人と馬超は驚きを隠せずにいた。

 

 

「なんと……あの馬が人を受け入れた……」

 

「すっげぇ………まさか本当に乗りこなすなんて……」

 

「亭主、こいつの値段は?」

 

「は…はい?」

 

「こいつにさせてもらう。だからこいつの値段を教えてくれ」

 

「………こいつに値段はありませぬ」

 

「?」

 

「この馬はあなたにお譲り致します」

 

「………いいのか?」

 

 

そう尋ね直すと商人は再び首を縦に降った。俺は暫く考えて商人に手を差し伸べて握手を求めた。

 

 

「亭主、あんたの名前は?」

 

「張世平と申します」

 

「張世平か……恐らくは長い付き合いになるだろうな。出来るならこれからも宜しく頼む」

 

 

そういうと張世平は俺の手を握り、握手を交わした。

俺の新しい家族でもあり、戦場で俺の命を預ける相棒が生まれた。

 

そして馬の名前は……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………絶影。

 

 

 

説明
戦場を駆け抜ける相棒。リアンはその相棒を見つけ出す。
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