超次元ゲイムネプテューヌmk2 希望と絶望のウロボロス
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周囲は真っ白な壁、それは中の怪物が暴れても逃げ出さない様に重厚に組み合わされた装甲、無機質な白色のベットの中で上半身だけ体を起きあげているのは左手はドラゴンのような腕、体中に描かれた人が苦しむ地獄が浮き上がっている一度本気でゲイムギョウ界を終わらせようとモンスターを操った存在。守護女神とは対極であり、人の絶望を生み出すブラッディハードこと、零崎 紅夜はそんな世界を終わらせる力を持つ傍で警戒心を見せない女神を除けば国のトップであるプラネテューヌの教祖のイストワールの言葉に耳を傾けていた。 

 

「五年前まで私の記憶は空さんによって管理されていたのは知っていますか?」

「……知っている」

 

妖精のような幼い顔つき、その背も実際紅夜の片手に乗ってしまうほどに小さいイストワールは丸い宝石のような瞳で昔を懐かしむように話を続ける。

 

「人は長生きしても百年程度が限界、女神も人間より遥かに長生き出来ますが永遠に生きる事は出来ない。だけど、私はゲイムギョウ界の記録者として空さんに生み出された時からずっと歴史を記し続けている」

 

イストワールは儚い表情で語り始めた。

彼女を作り出した親とも言える空は、人から女神からすれば外道で悪徳な存在だ。

人の存在を数式の一部のように簡単に人生を時に栄誉に満たし、枯れた枝を折るように破局させたりする。そうやって多くの人を操り、世論を動かすということは同時に女神の活動すら操る事も出来る。女神と人からすれば空こそが世界の敵として認識されても可笑しくはないが、それはあくまで人と女神が作り出した世界の中での話だ。

 

「あの人は本当にこの世界が好きなんでしょう。だけどそれは私達の意識とは全く異なる物。一切の区別なく、平安な世界。星のあるがままの姿が空さんが望むものだからこそ、人の発展の為に森林を伐採したり、大気を汚す汚染ガスが空へと昇る光景が我慢ならないんでしょう」

『……でもそれが人という生き物だ。自らの発展の為に、自らの欲望の為に、他の者を簡単に犠牲する事。感謝が合っても、罪悪感が合っても、時が過ぎれば簡単に忘れてしまう』

「そして、人はいつか自らの武器を持って主張や信念、欲望の果てにお互いを殺し合う。それに傷つくのは弱き者達とこの星……だからこそ、空さんはプロセッサユニットの要素を変えて、神界を作り出した」

「どうして、そこでプロセッサユニットの話が?」

『ああ、なるほど。守護女神戦争は所謂代理戦争だったというオチか。呆れる程上手く調整してんなぁ……』

 

デペアは全てを納得した様にため息をついた。イストワールはデペアの理解力に驚きながら、紅夜は謎に頭を斜めにしてどういう意味があったのか難しい顔に直ぐにイストワールが補足する。

 

紅夜や女神の認識ではプロセッサユニットとは即席で作り出したシェアクリスタルを身に纏う事で戦闘能力を底上げる物だったが、イストワールが語った過去は全く違う物で合った。

シェアエネルギーを媒介にして動く兵器の一種として人が”開発”した物だった。人類の英知を結晶させたそれは元から人間が扱える事を一切考えずに女神だけがその性能を手足のように扱える。

 

そうして、武器を人が作り、それを扱う女神、当然のように距離が近くなった。

そして、戦争が起きた。女神と人間が肩を合わせて己の全てを掛けて泥沼の戦いが起きてしまった。

その規模はあまりに大きすぎた。殺し合って生まれる憎しみは人間の大事な価値観を歪ませるほどであり、女神もその影響を受けて、戦いは熾烈を極めた。

大地は裂け、街は燃え、空は黒く染まり、川は汚され、権力や金がない一般人たちの中でも弱い子供や老人たちは未来への絶望に泣くしかない。そんな時代を見た空は、人と女神の間が深い物になってはいけない。そう決定するとプロセッサユニットの認識を変化させ、人間の知識によって生み出されるプロセッサユニットの設計図や人材を”消去”させた。

 

勿論、空は知っていた。

それでも人は争いを辞めれないと。

だからこそ、国の代表者である女神同士を戦わせる事によって、人間同士の戦意を削ろうと。

自分たちの代わりに戦ってくれる者がいることで、少しでも争いの火の種を消そうと。

女神同士が暴れてもゲイムギョウ界に迷惑が掛からないように神界を作りだし、必要以上に人も女神も肩入れしないように信仰の自由を制限するように世間を操り、暗黙の掟にして女神同士のシェアエネルギーの変動差を一定に保ちながら、シェアエネルギーを媒介に戦闘能力が増減する女神同士の戦いを出来るだけ長引かせることで、変わらぬ安定な明日へ繋ぐ為に。

 

「……でも、世界は既に変わった。女神達の意志に空さんは折れてくれたのです」

「そして、空が一切知らない未知の未来が今か…」

『その前はイストワールが記した歴史を除いて、あの破壊神が必要に応じて似た展開時に似た結末を最低限の被害で喰い留める為に君から記録を取った。……結果的に辛い思い出も楽しい思い出も奪ってしまった訳か』

「本当は今もちょっと憎んでいたりします」

 

そういって目を細くするイストワール。だが紅夜からすれば、憎んでいるように見えて感謝もしているようにも見えた。彼女は歴史を記録するだけの存在ではなく、喜怒哀楽とした感情があり彼女自身、女神が捕らわれる前の生活を心の底から充実しているように見えた。だがそれだけではなかったはずだ。ネガティブエネルギーに精神が犯されている紅夜と同じように、重い心から生まれたシェアエネルギーは女神の感情すら変えてしまうのではないか、ネプテューヌの女神姿をふと思い出した。

そして、紅夜はイストワールを見てその悔しさと懐かしさを見て直感する。彼女も同じ気持ちなんだと。

 

「私も声と雰囲気しか覚えていない女神がいます。ほとんど何も覚えていませんがこの頭のヘッドパーツは彼女のプロセッサユニット開発時のあまりの素材を使った同型なんです。……凄く彼女は喜んでいました。それだけか思い出せません」

「俺と……同じか」

「いいえ、貴方は違います」

 

首を振ってイストワールは否定した。

 

「貴方は私と違って奪われていません。忘れてもいない。ただ辛いのだと思います」

『…………ブラッディハードとしての存在故にか』

 

只安らぎに言われた言葉が紅夜の心臓を貫いたような衝撃を走らせた。

他人の絶望や憤怒に塗れた負の記憶が入り乱れる意識の闇の中で、紅夜の記憶はあまりに小さい灯火、あっさり闇の中に覆い隠され見えなくなるほどの微かな物であった。幾千に溜まり詰まれてきた人の恐るべき負は数年の出来事をあっさりと隠してしまう。

それがブラッディハードとして完成の為。

人を捨て、世界の為に討たれる必要悪。

女神の価値を輝かせる為に用意される魔神。

だからこそ、人であった記憶は必要ではない。誰も理解できない修羅道へ進まずに老若男女一切区別なく世界を滅ぼすつもりで殺戮などできる物ではないのだから。

 

「きっと貴方はその身を犠牲する世界を救うでしょう。でも、それをしてしまえば同じことの繰り返し。それにあなたは納得できますか?ネプテューヌさん達は貴方を殺す手段に納得できているのですか?」

「……………分からない」

 

記憶が足りない。

物事を決める為の材料が足りない。

ただ、そうしないとアイン・アルのように魔王を演じて手を血に染めなければ、女神の作り出した平和に酔って感謝を忘れた人々の心を覚めさせる方法以外に手段を知らない。血を流す程に拳にデペアが一つ覚えている事を話した。

 

『君は、一度ブラッディハードでない時に、女神と相対して殺されようとした。覚えている?』

「……分からない」

『そう、まぁいいや。でもね……女神を泣かせたよその時、どうしてどうしてって君は心の中で泣いて彼女は瞳から涙を流した』

「…………理不尽だな」

『うん、それは今の状態も同じだよ。ねぇ相棒ーーー同じ過ちを繰り返す?』

「嫌だッ」

 

紅夜は一体何のために力を得ようとしたのか忘れてしまった。しかし、それは魂に刻まれた願い。

例え闇が巣を作ったとしても、その願いだけは無くしてはいけない物だと穢されない領域があった。

 

「イストワール……俺にチャンスをください。このまま腐りたくない!例え過酷な運命が合っても大切な人の涙を見たくないんです。お願いしますッ!!」

「一つ約束してください」

 

ふわりと宙に浮かび、真摯な表情で紅夜に向かって一つ指を上げてイストワールはただ約束を言った。

 

 

 

 

 

「ーーー貴方は貴方自身を救ってください」

 

この願いが届くのであれば、イストワールは幾星霜の時でも喜んで願い続けるであろう。

零崎 紅夜は英雄でも冥獄神でもなく。誰かの犠牲にならず。

ただ、女神と共に歩んでいける存在になってほしい、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

イストワールの渡していた小型マイクから聞こえる紅夜とイストワールの会話に全員が耳を傾けている。僕は仕方がないが、ネプギアも一応という事で入院。ネクストブラッディと相対して普通に生きている時点でネプギアの実力はネプテューヌに届くかもしれない所まで来ている。

 

『……青臭いな。とても悪の神とは思えない』

 

不機嫌に言ったのは空亡ちゃん従龍の中の一匹である熾凍逆龍デウスヴァテインだ。「必要悪だからと言っても、本人の外道である証明にはならないよ」と念話で伝えると露骨に嫌な雰囲気をだして空亡ちゃんの籠手にある宝石からデウスは黙った。

それより気になるのは、体中生傷だらけで舌を噛んで喋りにくい様子のネプギアにアイエフやコンパ、おまけに日本一とがすとまでいる。あの薄汚れた灰色のネズミ……ワレチューは傷の治療が終わって少し目を離した瞬間にはもういなくなっていたとのこと。

まぁ、マジェコンヌに所属しているから事が既に知られているから吐かせる前に回収したのだろう。

 

「これから、どうする?空亡ちゃんがバーチェフォレストのモンスターを鏖殺してくれたらおかげで神宮寺の依頼の素材が大量にゲットされたけど」

 

アイン・アルがゲイムギョウ界と冥獄界を繋いで大量のモンスターをこちら側に引き寄せてくれたおかげでモンスターの素材は山ほど手に入った。しかも、強豪でレアなモンスターばかりなので品質もかなりいいと思う。恐らくこれで本格的にイストワールを中心にプロセッサユニットの開発が始まるだろう。……色々思う所もあるけれど、今のプロセッサユニットはどうしても環境によってその力が増減してしまうから、無から生み出した神秘の力ではなく、最初から形が合ってエネルギーが積まれた女神の手で悪者を打倒してほしいという願いの元で、造られた科学の力で作り出されたプロセッサユニットならある程度、女神に取って不利な土地であっても万全に近い力を出せるだろう。

 

【お兄ちゃんがもし私達と一緒に来たいと言ってきたら、アイエフさんとコンパさんはどうします?】

「……私は一緒にまた旅をしていです。あんな姿になってもこぅさんはこぅさんです」

「貴方こそいいの?……殺されかけたのよ?」

【あれは本当にお兄ちゃんがしたかったことが分かっただけで私は一緒でもいいと思います】

 

至る所に包帯で巻かれた痛々しいネプギアはメモで言葉を書いて会話をしている。その姿は正に聖人の如き慈愛に満ち溢れている。自分が死ぬ覚悟すら完了して、仮にアイン・アルが改心したから許してくれと誠意を見れば許すだろう。人間という外殻を壊して神としての道を歩み始めたネプギアを見ていると凄く不安になる。

アイエフやコンパもその場にいなかったことを非に思っているのか、腰低くしつつ返事をしている。

 

「ねぇねぇ、その旅に付いて行っていいかな?」

【危険ですけど、それでもいいですか?】

「マジェコンヌを二人で潰してきたんだけど、ちょっと限界を感じてきてね。これでも私はかなり強い!」

「……がすとは、正義のヒーローごっこに振り回されて疲れたですの」

「え……一緒に来てくれないの!?」

「…………………行かないと言ってないですの」

「わーい!!流石私の大親友!!」

「い、いきなり抱きつくんじゃないですの!痛い痛いですの!!」

 

なんとも微笑ましい光景を見せてくれている二人。ネプギアはこちらを向いて申し訳ないように表情を歪ませた。両手両足は食いちぎられ、体中を小さいモンスターが這いまわりながら食い散らされたおかげでミイラと勘違いするまで無惨な姿へとなった僕を見た。

「気にしないで」と念話で送る。声帯器官もやられたので喋られないのは面倒だ。再生しようにも今までの怪我が治らず半死状態でも無理をしてしまった所為か当分はこのままだ。役に立たないなぁ、僕。

 

「……あの人が行くのなら、私も行きます」

 

僕の隣で座っている空亡ちゃんの爆発発言。ネプギアに再度念話で連絡を入れる。

もうすでにみんなにも話したが、零崎 空亡にとって|零崎 紅夜《精神崩壊する前の紅夜》は『父親』だ。血の繋がりはないが、異物な形で親子として関係は合った。それを今の紅夜は拒絶した。デペアから話を聞く限り本人も気づいているようだけど、認識することは出来なかったんだろう。見知らぬ娘が「貴方は私の父親です」と言って来ても拒絶するのは、酷いけど現実的。

ネプギアに送ったのは空亡ちゃんの力について、全ての神々の力を次元やら時空から引っ張ってきて、無量大数の神智すら超越した力でこの世の全てを破壊し、再構築するほどの力がある。つまり彼女は神殺しであり、新世界へ万象を導きそれを統べる資格を持つ唯一絶対の神であることを。

正直、空亡ちゃんからすれば今の紅夜は不愉快だろう。数年時を得て漸く再会できたと思ったら中身は別人で外形はそのままで、尊敬していた父親とは違う弱小な存在へと成り果てているのは空亡ちゃんからすれば裏切りられたと言ってもいい。……どっちも気持ちが分からないと言う訳ではないが、近づけばどっちかが爆発しそうで怖い。

 

【いいですよ】

 

おい。空亡ちゃんまだまだ自分の力のコントロール微妙なんだよ?使った時点で周囲の女神の加護が軽く吹っ飛ぶよ?……先生として嫌、それ以上の感情で接してくれている空亡ちゃんの我儘を叶えたい気持ちもあるが、空亡ちゃんが動けばそれこそ世界単位での騒動に発展する。

 

【でも約束してください。私はお兄ちゃんを殺すつもりは一切ありません。だから貴方も想う所はあるかもしれないけど受け入れてください】

「……今回は半殺しで引っ込んでくれましたけど、また起きてしまえば今度は三人まるごと殺さないと貴方の世界が危険に晒されます……それを貴方はどう責任を取るって言うんですか」

【無論、私の全てを賭けて】

『主よ……この少女の決意が固いようだが』

 

空亡ちゃんは黙り込む。こういう難しい事を考えている時は頭を撫でてやると安心するけど、肝心な腕が今はないから何も出来ない。心配するアイエフ達四人の視線に空亡ちゃん決意を決めてネプギアを見た。

 

「……私は、貴方の想いを信じる事にする…」

【ありがとう】

 

一件落着したようだけど、これからどうなるんだろう。

少なくても、世界は救われても、人々が救われるイメージが一切沸かない。

 

 

 

 

説明
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コメント
空「そう人の負はたかが一つの存在がどうにかできる程甘くない。それをどうにかできないと神でもない。あいつは……本当にダメな奴だ」レイス「まぁまぁ、獅子は我が子を崖につき落とすっていうし温かい目で見守ろうぜ!」空「出来なかったらどうするの?」レイス「世界が滅ぶだけの簡単な事だ」(燐)
ユウザ(R)「このままじゃ詰み確定だな〜」ユウザ「どうすればこの状況を打破できる?」ユ(R)「紅夜自身が自分の運命を捻じ曲げるしかないね」ユ「いや無理でしょ、世界の負は甘くない」ユ(R)「あの金ピカ並の我が儘になりゃワンチャンあるで?」(ヒノ)
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