ユキはこう言うと、床に魔法陣を描いた後、一緒に来ていた兵が抱えていた“白のコートを着た、アホ毛が目立つ赤色の髪の毛の女性型の魔導器“を魔法陣の中央におろした。そして、ユキはおもむろに杖をかざすと、こう術を唱えた。

ユキ「…彷徨えるミリアムの魂よ！　この魔導器に定着し、今一度現世に蘇えり、器を獲よ！！！」

　すると、魔法陣にあるミキの器の周りに赤色の粒子が渦を巻いて現れ、そしてミキの器に吸い込まれていった。

ミキ「・・・・・・・・うっ・・・・ぐっ・・・・」

　ガタッ

　ミキはゆっくりと起きあがり、目を開けると周りに目線を移動させ、自分の手を眺め、そして、今起こったことをようやく理解した。

ユキ「ミリアムよ、ソナタは、クグツ“ミキ”の器に入り、今一度この世に蘇った。しかしミリアムだった痕跡は、魂だけなので、申し訳ないが、今後は“ミキ”を名乗るがよい」

アル「ミリ・・・・いや、ミキよ。よく帰って来てくれた」

ミキ「・・・・テルを必ず亡き者にする・・・・」

アル「その器は全身武器になっている。そなたの望み、必ず叶えられるだろう」

イロハ「とりあえずの用件は終わった。さて…」

　イロハ達の全員の目線が、イスで静観していたルカに向けられた。

ルカ「・・・・・今度は私ですか」

ユキ「お待たせしました。次は貴方の用件です」

ルカ「さっきから気になっていたけど、なんで“敬語”なんですか？　一国の主二人と右腕が敬語なんて、私は国賓なんですか？」

イロハ「それに近いな。しかし、２つの世界で“存在を共にする”二人なのに、なんでこうも“対”になっているのだろうな？」

ユキ「全くです。ルカ姫とあなたでは、そもそも月とすっぽん、天と地。これまでの経緯を全て盗聴してきたが、物腰からして根本的に違う」

アル「あなたがクリプトン王国の姫だったら、今のこの状況は政治的にも非常に有利だったのに…」

ルカ「・・・で、敬語扱いの私は、これからどうなるのかしら？　また“受難”が待っているのかしら？」

ユキ「あなたの希望である“元の世界に帰りたい”という希望は、いずれにしても我々では、今の段階では叶えられない。しかしテルかクリプトンの連中のどちらかから、完成版魔法陣を奪い取った後は、丁重にそなたを元の世界に返したいと思っている。少なくてもテルの要求よりはずっとマシだと思いますが？」

ルカ「・・・こっちの人の話を総合すると、テルもあなた達も、完成版魔法陣を入手したら私たちの世界に兵を送って、支配するつもりなんでしょ？」

イロハ「賢明な貴方にうそを言っても仕方ない。その通りだ」

アル「貴方の希望があれば、国の重要幹部扱いで、我々側の存在として、元の世界に戻る事もできる」

ルカ「でも、その完成版魔法陣を手に入れるために、私を人質にするわけだから、丁重なのか失礼なのか、よくわからない扱いね。いずれにしても、私の受難は続くわけだ」

ユキ「ちょっと違う。我々は、“テルかクリプトンの連中から手に入れる”と言ったのです。貴方を使った“人質取引”で入手するつもりは、最初からありません。貴方を向こう側に渡すなど、もったいないですからね」

イロハ「反逆していたテルなら抹殺して奪う。貴方を取り返しに来るであろう“クリプトン王国の連中”なら返り討ちにして、完成版魔法陣を奪い取る」

アル「先ほどの会話から察するに、貴方のご友人も一緒に来る可能性はある。その方は安全に招き入れ、貴方と一緒に元の世界に帰そうと思っている」

ユキ「いずれにしても、貴方へは国賓室で待っている事を、指示、させて頂きます。勿論丁重な対応をさせて頂きますよ」

　ルカは珍しく、少し“困惑”した表情になっていました。この前にいる“ファンタジーな人たち”は、悪人なのか、普通の人なのか。野望剥き出しのテルよりは、少なくても物腰が丁寧なのだが、魔法陣入手後の内容はテルと同じく悪である。この人達が丁寧に接してくれているのは、ルカに対してだけである。勿論、この人達側に付くつもりなど、最初から無い。とりあえず、“今は静観している”方がいいと判断した。

ルカ「わかりました。しかしミクへの対応は、絶対約束して下さい。彼女はこの受難には、何ら関係ないんですから」

ユキ「ご友人様ですね。わかりました。約束しましょう。これまでの調べで顔は存じておりますから」

　そこへ別室で調べていた調査兵が駆け込んできたのでした。

調査兵「先ほどテルとコンタクトを取った異国の剣士に、我々の盗聴を発見され、魔導盗聴器を破壊されました！」

イロハ「で、どこまでデータを取れたのだ？」

調査兵「接触したクリプトン王国の魔導師“アペンド”は、本当に本物の完成版魔法陣を封じた杖を持ってます！」

イロハ「うむ。他には？」

調査兵「テルは負けてクリプトン王国側についたようです。装置を破壊されたので、その後どうするかの会議内容はわかりませんでした」

ユキ「まぁどうせ、こっちに向かっているのだろう。それでミクとかいう人物はいたのか？」

調査兵「はい。戦闘に加わっていました」

ルカ「！」

アル「どういう小細工を使ってくるかはわからんが、こっちに来る事だけは間違いないだろう」

イロハ「ルカさんとの約束もある。魔導レーダーで観測を続け、ここに近づいたらライトアップして、まずは交渉の場という名目で向こうの現状を把握する事にしよう」

ユキ「解り次第、ミキを向かわせましょう」

イロハ「では、ルカさん、我々に同行して頂けますね？」

ルカ「…はい（アペンドさん達、気を付けて！）」

　こうして、ルカは国賓室に案内され、アフス帝国とフォーリナー軍政国家の両陣営も、戦闘への準備やライトアップの準備などに取りかかったのでした。

（アフス城・魔導研究棟前）

　クリプトン王国の一行と、ルカ姫に変身したソニカと、テルは、最初に魔導研究棟からピーアプローの丘まで向かうのに使っていたテルのステルス魔法を使って、帝国の裏口からこっそり侵入し、魔導研究棟の前でステルス魔法を解除しました。

テル「ここからは実体の状態で操作しないと扉が開かないので、ステルス魔法は解除しました。どうせ帝国側の連中には、魔導レーダーでわかってしまいますが、せめて視認されないように、影に隠れていて下さい」

アペンド「わかった」

　しかし、テルの判断はまだまだ甘かった。

　バッ！　　　バッ！

　テル達は、見張りの複数のスポットライトによって、見事にライトアップされてしまったのだった！　そして城門が全て閉まり、一段と高くなっている城壁の通路上に、皇帝イロハ、神官ユキ、アル皇帝、そして数名の兵士達が陣取り、完全に城内に閉じこめられてしまった形になった。

イロハ「テルよ、お前の言葉通り、我々はお前らを魔導レーダーで追跡している故、ステルスは無駄だ」

テル「こうなることは十中八九解っていた。何かあったときに、棟内にいるよりここの方が、色々便利だと思っただけだ」

ユキ「ほぉ。だが、『逃げ込める場所』を確保しなかったことだけは、こいつを見たら後悔するのではないか？」

　ガガガガ　ガシャーーーン！

　兵器保管庫の入り口が開き、中からミキがゆっくりと歩いてきた。

ルカ姫に変身しているソニカ（！）

テル（ソニカ！　言葉を出すな！　悟られる！）

ミキ（ギロッ！）

ミキは怒りの形相でテルを睨み付けた。

テル「・・・中身は誰だ？」

ユキ「お前が殺し損ねた“ミリアム”の魂を入れてある。お前への憎しみは、お前の想像以上だぞ？」

テル「っ！　魂が完全に消滅してなかったか・・・」

アル「さて、ミク意外がミキに八つ裂きにされる前に、お前らが用意しているであろう“取引”か何かを、まず聞いてやろう」

テル「さすが盗聴までやっていた人物だ。そっちも準備万端ということか。わかった、こちらの用件を伝えることにしよう」

　テルは、ルカ姫に変身したソニカをテルの前に立たせた。

テル「お前らが盗聴していた、あの戦いの場に、こっそり抜け出していたクリプトン王国のルカ姫もいたのだ。こちらの事情を話すと、どうせお前らに奪われているだろうし、素直にルカさんを奪還出来ないだろうから、自分がルカさんの身代わりになると、かってでてくれたのだ」

ルカ姫に変身したソニカ「そうです！　私の方が政治的にいろいろ使えるからいいでしょう！　そう言う私一人と、この人達とルカさんの安全を守ること、悪くない取引だと思います！」

テル「どうだ？　お前達の返答は１つしかないと思うが？」

ユキ「・・・・・そうだな、１つしかないな。答えは、No、だ」

テル「！？」

アル「我々が使っている“魔導レーダー”は、お前のモノとは違う。『変身』していても元の人物の反応が出るのだよ、残念だったな、ソニカ？」

　ソニカは変身を解いてしまった。

ソニカ「くっ・・・」

イロハ「テルよ、我々の事を欺いていたと思っていたようだが、我々もお前のことは泳がしていたのだよ。一人で色々便利なモノを探してきては研究していたお前そのものが、何かと便利だったのでな。ただ今までのは、兵器に転用できるレベルで国家レベルで使うには、ちと不便なモノが多かった」

ユキ「しかし今回は違う。お前の野望の通り、国家レベルで異世界に兵を送り、別の世界を支配できる・・・これは言ってみれば“国家的な転機”だ。お前一人で使うにはもったいなさ過ぎる」

アペンド「・・・目的は、やはりこの“杖”なわけだな？　我々とルカさんの安全を守らなければ、この杖を魔封するか、破壊する！」

ユキ「残念ながら、お前らが選べる選択肢は１つしかない。一番最初に言って置いたが、『ミク意外の人物はミキに八つ裂きにされる』、これだけだ」

イロハ「理由を一応言っておこう。こっちのルカさんと、そっちのミクを元の世界に戻すためには、その杖の完全版魔法陣が必要不可欠だ。お前らが我々に使わせないように魔封したり破壊したりすれば、両名を戻すという肝心の目的は不可能になってしまう。また自己犠牲的に、杖とルカさんの交換取引を行う手もあるが、それでは我々に魔法陣が渡ってしまって、両名を元の世界に戻すことがやはりできない。“ルカさんとミクの杖による帰還“と”杖“の交換取引には応じられない。バランスが悪すぎる。敬語を使っている事からもわかると思うが、我々としては、このルカさんは欲しい人材なのだ。お前らの取引によってルカさんを帰してしまうことは絶対出来ない」

アル「それと、どういう形であれ、杖に変な小細工はしないことだ。ルカさんの希望で、お前らのミクにだけは、一切危害は加えない。お前らこっちの世界側の人物が死んでも、ルカさんに関しては意向次第だが、ミクとルカさんの両名は元の世界に帰すことにしている。つまり、取引云々をする必要なく、ルカさんとミクは元の世界に帰れる事になるのだよ」

アペンド「取引不成立であるなら、選択肢は２つだ。１つはお前らの通り。もう１つは我々がお前らを倒してルカさんを救うことだ。ルカさんとミクがどのみち帰れるのなら、違う要素は１つ。杖がお前らの手に渡るか、渡らないかだ！」

テル「お前らの話を聞いて判断するなら、どちらを選んでも“ルカさんとミクの身の安全”は保障されている。だったら、選ぶなら後者になる」

イロハ「・・・どっちにしろ抗う事になるな。ならプラン通りミキを解き放つ。それとミクよ。ルカさんとの約束は守りたい。くれぐれもこの戦いには関与するな。端の方で隠れていて欲しい。もし、ミキの命が奪われ、我々が敗北するような妨害行動に出た場合、いくらルカさんとの約束でも、破棄せざるをえずに、お前を殺す」

テル「・・・ミクさん、今回の戦いは欠席してください。どういう形であれ、あなたの命は保証されてます。ルカさんを救いたい気持ちは重々わかりますが、ここは気持ちを抑えて下さい。お願いします！」

ミク「・・・・・・・・わかりました。あなた達の御武運を祈ります」

　ミクは魔導研究棟の端で座っていることにした。

ユキ「では、バトルアリーナの開幕と行きましょうか。そろそろいいぞ、ミキ」

ミキ「・・・・」

アル「それとお前らは、ミクを除けば、全部で６名。ミキに敗北はないとしても、６対１ではいくらなんでも不公平だ。数あわせ的意味合いになってしまうが、我々の方から、５名、兵士を追加させてもらう！」

　ゴゴゴゴゴゴ・・・・

　横の柵が上がると、中から、５名の武装兵士が現れたのだった。

　成人女性型クグツを飛び道具で重武装した、“重機動兵器アン”

　刀を持った、男性剣士型クグツの“剣士レオン”

　円筒状の巨大なハンマーを両手で持った女性型クグツの“圧殺兵士ローラ”

　ローブを着た男の子型クグツの“導士オリバー”

　髪の毛を両サイドでお団子のように丸くまとめた、異国の格闘服を着た異国の女の子型クグツの“拳闘士シユ”

　皇帝イロハが“絶対勝てる”事を前提に話を進めていただけのことはある。こんな屈強な連中を抱えていたのだ、負けるはずがないのである。しかし、“強い戦士”、であることの“もう１つの顔”を、皇帝イロハも皇帝アルも、ユキでさえも読めなかったのだ。

ミキ「・・・１つ提案をしていいか？」

アル「な、なんだ？」

ミキ「私はテルを八つ裂きにしたい。これは今でも変わらない」

アル「当然だろ。だからさっさと行け！」

ミキ「しかし、崇高な我が国“フォーリナー軍政国家”直々のバトル、６ｖｓ６、１２人全員が“乱れた戦い”をするのは、いくら私でも認められない！」

アル「な、何が言いたいんだ？」

ミキ「私の魔導兵器分析によると、そっちのリンは非戦闘で回復型の僧侶、我々の方も回復専門のオリバーがいる」

イロハ「ちょ、ちょっと待て！　アル皇帝！　どういうことだ？　これは！？」

アル「し、しらん！？　こら！　ミキ！　命令通り、さっさと戦え！」