遊戯王GX †青い4人のアカデミア物語† その15
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 移動してきた俺たちがたどり着いたのは、森の中でも深い場所。滝が荒々しく流れ落ち、小川に魚が泳いでいるような奥地だった。

 

「ココらへんでいいだろう」

 

 そういうと目の前のノース校生徒、ジョージは俺の方へ振り返った。

 改めて見ると、ノース校の生徒としては比較的マシにも見える。服装もきちんと整っており、とてもじゃないが他の奴らとは別の学校の生徒なんじゃないかとすら思える。

 

「長ったらしい前置きはなしだ。シンプルに行こうぜ、シンプルにな」

「同感だ。早く始めようか」

 

 お互いにデッキをシャッフルしセットする。デュエルディスクが起動音を上げ、ライフポイントが表示される。

 クロノス教諭のような掛け声はない。しかし、空気は確かに、始まりの鼓動を刻んでいた。

 

「「デュエル!!」」

 

早乙女ケイ LIFE4000

ジョージ LIFE4000

「先攻は俺がもらうぞ。ドロー!」

 

 先手はジョージ。

 ノース校の校内ランキング第六位といえば、かなりの実力者といえる。しかも高等部からの編入組でそれというのは、アカデミアでも相当の実力者と言い換えられる。

 

「俺は『((A・O・J|アーリー・オブ・ジャスティス)) コアデストロイ』(ATK1200)を召喚する」

 

 聞きなれない名前と共に現れたのは、どこか細長く、不可思議な意匠のモンスターだった。

 真っ白なボディに、ところどころに色がついたような、とにかく形容しがたいフォルムである。

 

「アーリー・オブ・ジャスティス……。聞いたことのないモンスターだな……」

「続いてカードを二枚伏せる。ターンエンドだ」

 

 その後はカードがセットされただけで終わる。特に効果を発動する様子もなく、なんらかの効果が適応されている様子もない。

 しかし、だ。

 聞き覚えのないカードに、充分な実力を持った使い手。それがただのモンスターであるはずがない。

 だが。

 

「ここは攻める! ドロー!」

 

 引いたカードは『団結の力』。汎用性の高い、極めて強力な装備魔法である。

 

「まずは『仮面魔道士』(ATK900)を召喚! 続いて装備魔法『団結の力』を装備させる!」

「自軍のモンスター一体につき、攻撃力を八〇〇ポイント上げる装備カードか」

 

『仮面魔道士』ATK900→1700

「『仮面魔道士』で、コアデストロイを攻撃! 魔道波!」

 

 仮面魔道士の手より放たれたエネルギー波は揺れを増しながらコアデストロイへと迫っていく。

 しかし、このまま終わるはずがない。二枚の伏せカードに、未知のモンスター。どんな手を使うのか、検討すらつかない。

 

「罠カード発動!」

「やはりくるか!」

 

 何も起こらないはずがない、と覚悟していた。そしてそれは、予想を大きく外れる形で現実となる。

 

「永続罠『DNA移植手術』! このカードが存在する限り、場のモンスターの属性は全て俺の選んだ属性になる。モンスターよ! 全てを照らしだす”光“になれ!」

 

 仮面魔道士の身体から、淡い光が溢れ出す。同時に、コアデストロイの身体も薄く発光し始めた。

 しかし、それだけではない。

 コアデストロイは襲い来る魔道波を、仮面魔道士の攻撃を、あろうことか。

 

「受け止めろ! スナッチ・アブソーブ!」

 

 コアデストロイの発光が強くなる。それは仮面魔道士の攻撃を、完全に身体の中へ浸透させ、吸収したのだった。

 

「コアデストロイが光属性モンスターとバトルする時、バトルは行われない」

「なに?」

「そして光属性モンスターとバトルを行う代わりに、その光属性モンスターを破壊する!」

「なんだと!?」

 

 光属性モンスターに対する、圧倒的戦闘耐性。そして強制的に属性を変える永続罠。目の前の男は、たった二枚で、バトルに対するほとんどを制圧してみせたのだった。

 

「迎撃せよ! スナッチ・ディストラクション!」

 

 コアデストロイの額であろう部分から、赤褐色のレーザーが放たれる。それは仮面魔道士を貫通し、地面をえぐりながら爆発した。

 

「仮面魔道士は戦闘ダメージを与えるとドローする効果を持つ。装備魔法で地力を上げながら次につなごうとしたんだろうが、残念だったな」

 

 ジョージの推察に、思わず言葉が詰まる。確かにその狙いもあった。だが本当の目的は、コアデストロイを破壊しながら如何なる効果の場合でも対処できるよう万全を期すこと。それが成し得る前に効果が発動され、しかもモンスターまで破壊された。計画崩れとはこのことである。

 

「なに、問題ない。墓地の魔法カードを除外し、『マジック・ストライカー』(ATK600)を特殊召喚する」

『ハアッ!』

 

 巨大なハンマーを持った小人が場に現れる。しかしこれはあくまで壁。攻撃されたとしても、一度は防ぐことができる。だが、それも気休めにしかならないだろう。

 問題は、次のターンである。

 

「俺はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー。 『A・O・J D.D.チェッカー』(ATK1700)を召喚する」

 

 二体目のAOJは攻撃力が1700だった。コアデストロイに比べ高い数値ではあるが、どのような効果を持っているのか。

 ジョージのデッキはおそらく、属性を扱うアンチデッキだろう。自分の有利なフィールドに持ち込み、その制圧力でフィールドを支配しながら、徐々に追い詰めていく。速効性はないが、侵食性の高い構築である。

 こういった形のデッキで怖いのは、カードの使用の制限、もしくは。

 

「バトルフェイズ開始時、俺は速攻魔法『封魔の矢』を発動! このターン、魔法・罠カードを発動できず、このカードにチェーンして発動することもできない」

 

 ??使用そのものの封殺、である。

 

「コアデストロイでマジック・ストライカーを、D.D.チェッカーでダイレクトアタックだ!」

 

 それぞれの攻撃が繰り出される。セットカードさえ使えれば防ぐことはできるが、『封魔の矢』の効果によりそれも叶わない。1700という決して少なくない数値を、甘んじて受ける他なかった。

 

「ぐううぅぅっ!」

 

早乙女ケイ LIFE4000→2300

「俺は一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

 

 

『俺は一枚伏せ、ターンエンドだ』

 

 二人がデュエルをしている場所から少し離れた岩場に、その人影はあった。

 膝に乗せたノートPCにはデュエルの様子が映し出されている。形勢は変わらず、早乙女ケイの劣勢であった。

 

「(さあ、どうする)」

 

 画面を睨む男の目は冷たく、また煮えたぎっているようにも見える。

 添える両手は微動だにせず、ただただ画面の動きに合わせ、視線を泳がせるだけだった。

 

『俺のターン! ドロー!』

 

 ケイがカードを引く。そして、モンスターを召喚した。

 

『俺はモンスターをセット! 更にカードを二枚伏せ、ターンエンド!』

 

 途端、男の手が動いた。

 カタカタカタ、とリズミカルに音を立てながら、PCのキーボードを操作して入力していく。画面には二人のデュエルの様子の他に、多くのデータをまとめたファイルが開かれている。男はそこに、今しがたのケイのターンの動きを細かに入力した。

 

「(そう、裏側なら効果は効かない)」

 

 コアデストロイのモンスター効果は、ダメージ計算前にのみ適応される。つまり、ダメージ計算後にリバースされる裏側守備表示のモンスターは効果によっては破壊されない。必然、攻撃力の勝るD.D.チェッカーからの攻撃とならざるを得ない。

 

「(ギア・ゴーレム……死霊……メタモル……)」

 

 このターンの攻撃を凌ぐには、守備力1700以上のモンスター、もしくは戦闘破壊に耐性のあるモンスターが不可欠となる。それかダメージを受ける前提で、次のための布石を作るかである。

 

「………………フン」

 

 つまらなそうに鼻を鳴らすと、男は別のソフトを起動させた。

 

 

 

「ドロー。防戦一方じゃあ勝てないぜ。『天使の施し』を発動して三枚ドロー。二枚を捨てる」

 

 言われずともわかっているさ。

 A・O・Jと呼ばれるカード群相手に、未だどう対処するべきかは測りかねている。

 防戦と言われようと、なんだろうと、自分の一番やりやすい方法を貫くのが、こういった初見の相手には一番良い。

 

「『A・O・J サウザンド・アームズ』(ATK1700)を召喚。更に罠カード『ゲットライド!』を発動、墓地の『オイルメン』をサウザンド・アームズに装備させる」

 

 三体目の機械は、腕が多い。優介の使う『阿修羅』を彷彿させるが、効果も似ているのだろうか。

 

「(……いや、そうか)」

 

 『オイルメン』は戦闘破壊した時にドローできるユニオンモンスター。それも機械族専用である。確か亮が『サイバー・ツイン・ドラゴン』に装備して連続ドローしていたことがあった。更に優介も『ダグラの剣』を『阿修羅』に装備させて大量のライフゲインを狙っていたことがあった。

 ジョージのタクティクスを考えると??十中八九、間違いないだろう。

 そして現状、俺のフィールドにはモンスターが一体。連続攻撃持ちならば、今は必要ない。だが、あのモンスターが連続攻撃を持っていて、それを狙っているのだとしたら。

 

「ここで俺は、セットカード『おジャマトリオ』を発動! 相手フィールドに、三体の『おジャマトークン』(DEF1000)を特殊召喚する」

 

 ??きた。

 連続攻撃を活かすならば的は多い方がいい。しかし俺の場は一体のみ。ならばどうするか。

 簡単だ。??増やせばいい。

 俺の場には三体の雑魚モンスターが召喚される。

 一匹は腹筋を始め、一匹はなにやらポージングをし始め、一匹は……座布団に座って茶を啜っている。

 召喚されて改めて思う。これは、邪魔だ。

 

「サウザンド・アームズでおジャマトークンを攻撃!」

 

 腹筋をしていたおジャマが破壊される。直前まで腹筋をしていたが、何が奴をそうさせるのだろうか。どうしようもない状況に、思わず現実逃避気味になってしまう。

 そして、嫌な予想は当たるとでも言うべきか。サウザンド・アームズの効果が発動された。

 

「サウザンド・アームズはフィールド上の全ての光属性モンスターに攻撃できる! 続けて攻撃せよ!」

 

 ポージングをしていたおジャマと、寛いでいたおジャマ。二体が続けざまに破壊された。

 やはりというべきか、二匹は攻撃に怯みながらもそれぞれのスタイルを崩さなかった。

 

「セットモンスターは属性を持たない。つまり、連続攻撃はここまでだ」

「ああ、その通り。命拾い……と言いたいところだけど、おジャマトークンは破壊された時、相手に300ポイントのダメージを与える。合計900ダメージを受けてもらおうか」

 

 おジャマの落とした湯のみが、盛大に弾ける。

 欠片が四散と同時に俺のもとへ飛びかかってきて、わずかながらにダメージを負ってしまった。

 

早乙女ケイ LIFE2300→1400

 残りライフが三分の一ほどにまで減った。1000を切っていないとはいえ、大分心細い数値である。

 

「『オイルメン』の効果で合計三枚のドローだ。そしてD.D.チェッカーでセットモンスターを攻撃!」

 

 伏せられていたモンスターが表に返る。

 いつぞや……否、つい先程見た、ガラス瓶の中の小人のようなモンスターがあっさりと砕かれた。

 

「『メタモルポット』のリバース効果発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、五枚ドローする!」

 

 自分の手札はゼロ。対してジョージは三枚。ドローされた分を丸々捨てさせることができるが、差し引き二枚のドローを許してしまう。

 未だ謎の多いデッキを相手に五枚のドローは些か痛手だが、それも仕方ない。

 ドローしたカードを見て、瞬間的に瞠目する。

 

「『メタモルポット』で引かせたのは失敗だったかもな」

 

 ジョージが呟く。

 右手に持っているものは、今まさに引いたばかりの一枚。

 

「手札から、速攻魔法『サイクロン』を二枚発動! セットされた二枚を破壊する!」

 

 顔には出さない。内心で舌打ちする。

 サイクロンによって破壊されたカードは『終焉の焔』、そして『バースト・リバース』である。

 今更トークンを召喚したところで、サウザンド・アームズによって破壊されるだけでしかない。更に『バースト・リバース』は墓地のモンスターを自分の場にセットできるが、ライフが2000ポイント必要な高コストカード。どちらも、現状では悪手でしかない。

 これで俺のフィールドは空となった。

 

「続けて『リミッター解除』を発動! 自分の場の機械族モンスターの攻撃力を倍にする!」

 

 残った攻撃モンスターはコアデストロイのみ。そしてその攻撃力は、1200から2400へと跳ね上がる。

 これでコアデストロイの攻撃力は、俺のライフを上回った。

 

「これで最後! コアデストロイでダイレクトアタック! 俺の勝ちだ!」

 

 コアデストロイの頭に、高密度のエネルギーが集まる。徐々に大きくなり、圧縮され、プラズマとなって紫電を放つ。その力は目の前の敵へ向けて、解放され??。

 

「『バトルフェーダー』の効果発動! このモンスターを手札から特殊召喚し、バトルフェイズを強制終了させる!」

 

 ??高エネルギーが圧縮されたレーザーは届くこともなく、鐘の音を響かせる大きな振り子によって阻まれた。

 

「…………しぶといな」

 

 ジョージが呟く。が、自分でもそう思う。『メタモルポット』の効果により、手札に『バトルフェーダー』がきたことが、首の皮一枚繋いだ。このデュエル一番の幸運が、ここ一番という時にきたのだ。

 意外にも、デュエルの流れというのは存在するのかもしれない。

 

「……俺はカードを二枚セットしてターンエンド。そしてエンドフェイズ時、『リミッター解除』の効果を受けたモンスターは破壊される」

 

 フィールドから消えていくモンスター達だが、一体だけ破壊されずに残ったモンスターがいる。『オイルメン』を装備した、サウザンド・アームズである。

 

「装備された『オイルメン』は、サウザンド・アームズの代わりに破壊される。今度こそ、ターンエンドだ」

 

 きた。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 こないかもしれない、と覚悟していた、俺のターン。はっきりとわかる。このターンに勝負を決めなければ、間違いなく負ける。

 だからこそ、このターン、全力で行く。

 

「俺は『強欲な壺』を発動! 二枚ドロー! 続いて『天使の施し』で三枚ドローして二枚捨てる!」

 

 続けざまに五枚のドローをして、きたカードを確認する。

 瞬間、確信する。

 勝てる。

 

「手札の『マツボックル』を墓地に送り、手札から『コロボックリ』(ATK200)を特殊召喚! そして『コロボックリ』の効果により墓地へ送られた『マツボックル』(ATK400)を特殊召喚!」

 

 連続で召喚される、二体の小人のモンスター。

 攻撃力は低く、とてもではないがゲームエンドまで持っていく火力は期待できない。

 しかし、この二体に期待するものはそんなものではない。

 必要なのは、特殊召喚であること。そして、”まだ通常召喚が残っている”こと。

 

「俺は、二体のモンスターを生贄に捧げ、最上級モンスターを召喚する!」

「くるか!」

 

 俺のデッキに、上級モンスターは少ない。それは上級モンスターの多くが、個々で相応の攻撃力を持っていることに起因する。

 俺は自分のカードに『攻撃力1000以下のモンスターのみ使用する』という制限をかけている。これは驕りでも慢心でもなく、一種の挑戦であると言える。

 亮のサイバー・エンドを筆頭に、超威力モンスターが闊歩する現代。決闘王が使った『クリボー』のような低攻撃力モンスターが用を成す時代は終わったとさえ言われてきた。

 初めは、ただの反骨心だったのかもしれない。

 

「終焉より遣われし破壊神よ! 闇を司りしドラゴンよ!」

 

 しかし、使っていくうちに、こいつらがやたらと可愛く思えてきた。

 力もなく、蹂躙されるだけのモンスター。

 そいつらが、圧倒的強者を平伏させる。その光景が、どうしようもなく心地よかった。

 故に、これから現れるモンスターも、圧倒的強者によって嬲られるはずだった一枚。

 弱肉強食の世界を、討ち滅ぼすための一手。

 

「今世界の理に爪を立て、暴虐の嵐で世界を制圧せよ!」

 

 さあ、出番だ。

 

「降臨せよ! 『破壊竜ガンドラ』!!」

 

 

 

「(…………きたか)」

 

 膝元のPCの画面を睨む男は、その目を一層鋭くした。

 漆黒を纏った破壊の化身である竜は、永続罠の効力により白く輝く光を放っていた。

 その姿があまりにもアンバランスで、しかし酷く合っている気さえ思わせる。

 

「ガンドラ……全てを破壊する、破壊神の一柱……」

 

 カタカタと、膨大なデータを収めるファイルに書き足していく。

 

「こいつが…………こいつさえ消せば……!」

 

 入力の終わった手を握りしめる。強く、爪が肉を破ることさえ厭わず。

 モニタには、今まさに襲いかからんとするガンドラの姿が映し出されていた。

 

 

 

「ガンドラの効果! 自分のライフ半分を使い、フィールドのカードを全て破壊して除外する! 崩壊の叫び、デストロイ・ギガ・レイズ!!」

 

早乙女ケイLIFE1400→700

 ガンドラの全身から、無数の閃光が溢れ出す。それは触れたカードを、モンスターを、全てを破壊し尽くしていく。

 攻撃力はゼロのガンドラだが、その効果は如何なるモンスターよりも強力無比であり、神である『ラーの翼神竜』の破壊効果すらも上回る。

 

「速攻魔法『禁じられた聖衣』発動! 自分のモンスター一体は攻撃力を600ポイントダウンし、カードの効果では破壊されない!」

 

 白いベールを纏ったサウザンド・アームズに、ガンドラの閃光が次々と弾かれる。弾かれた閃光は最後のセットカード、そして表になった『禁じられた聖衣』、『DNA移植手術』を続けて破壊した。

 

「ガンドラは破壊したカード一枚につき、攻撃力を300ポイントアップさせる! 今破壊した数は三枚。よって攻撃力1200ポイントアップ!」

 

『破壊竜ガンドラ』ATK0→1200

「だが! 俺のサウザンド・アームズの方攻撃力は上! ガンドラでは倒すことはできん!」

 

 ジョージが叫ぶ。

 攻撃力が劣っていれば、ダメージは与えられない。これは、どんなモンスターでも共通のルールである。

 それくらい、理解しているとも。

 

「墓地の『レベル・スティーラー』の効果を発動! 場のモンスターのレベルを一つ下げ、特殊召喚する! こい、『レベル・スティーラー』!(ATK600)」

 

 背中に大きな星を持つてんとう虫が現れる。同時、ガンドラのレベルが一つ減った。

 

『破壊竜ガンドラ』星8→7

「そして魔法カード『ミニマム・ガッツ』発動! モンスター一体を生贄に、相手モンスター一体の攻撃力をゼロにする!」

「なにィ!?」

 

 攻撃力がゼロとなる。つまり、どれだけ攻撃力の劣っているモンスターでも、正面から殴り倒すことができるということ。

 自軍のモンスターの方が強いと慢心していたジョージは、しかし次第に冷静になった。

 

「だが早乙女、『レベル・スティーラー』は生贄召喚以外のためには生贄にできない。そして、たとえできたとしてもガンドラの攻撃力では俺のライフを削りきることはできん! 更にガンドラは召喚されたターンのエンドフェイズに破壊される! このデュエル、やはり俺の勝ちだ!」

 

 慢心、油断、否、確定された未来を信じる愚直さだろうか。ジョージは自分が勝つと信じて疑わない。

 普通ならば、ライフは残り、モンスターも消え、手札が勝る自分の方が勝つと思うだろう。それは正しい。普通のことである。

 だが、俺は普通とはややずれ込んでいる。

 

「俺が生贄にするのは??『破壊竜ガンドラ』!!」

「なぁ!? じ、自分のエースを生贄だとぉ!?」

 

 ガンドラの身体から魂が抜け、身体が光の粒子となり消えていく。しかし抜け出た魂はサウザンド・アームズへと乗り移り、その機体の活動を阻害する。

 

『A・O・J サウザンド・アームズ』ATK1700→0

「最後だ! 装備魔法『ニトロユニット』をサウザンド・アームズに装備! スティーラーで、攻撃だ!!」

 

 ガンドラの力を喰らったてんとう虫はその獰猛さを隠すことなく敵へ??動かない。

 しかし臆しているわけではない。

 震える身体が徐々に激しさを増して、その身に黒い炎を纏った。

 おおよそ下級モンスターらしからぬエネルギーをチャージしたスティーラーは、今度こそ敵に??。

 

「…………ん?」

 

 スティーラーの姿が消えた。

 同時。

 

 バギャンッ

 

 金属のひしゃげる音、次いで機械のショートしたような、電気が弾ける音が鳴り響く。

 見ればボディに穴の開いたサウザンド・アームズ、そして穴の直線上に鎮座するスティーラー。

 たった一瞬。呼吸を一つしたその瞬間に、攻撃は終わっていた。

 やがて、サウザンド・アームズのエネルギーが暴走を始め、耐え切れなくなったボディは爆散した。

 

ジョージLIFE4000→3400

「『ニトロユニット』を装備したモンスターが戦闘で破壊された時、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

ジョージLIFE3400→1700

「ぐ……うぅ……! だが、それでもまだ1700残っている! 『レベル・スティーラー』の攻撃力は僅か600! すぐに倒してみせる!」

 

 ジョージが果敢に吠え猛る。確かに、スティーラーの攻撃力は低い。先ほどのように攻撃力のそこそこあるモンスターを出せば、あっという間に破壊できるだろう。

 だが、それも『次のターンがあれば』だが。

 

「『ミニマム・ガッツ』の効果発動! 効果を受けたモンスターが戦闘で破壊された時、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「なああぁっ!?」

 

 スティーラーがジョージの方へ振り向く。そして足に渾身の力を込め、飛び跳ねた。

 

「ゴフォオッ!??」

 

 痛恨の一撃を鳩尾に喰らい膝をつくジョージ。ソリッドヴィジョンとはいえ、それなりに衝撃はくる。その衝撃で、足の踏ん張りも聞かないのか、後ろへ倒れることとなった。

 

ジョージLIFE1700→0

「わ…………ワンターン……キル……み、ごとだっ……た……ぜ…………ガクッ」

 

 ……大丈夫かと問いかけたが、案外、余裕なのかもしれない。自分でガクッと言うのか。

 ジョージのライフが0になったことで、ソリッドヴィジョンが解除されていく。モンスターは消え、元の静かな川へと変貌した。

 遠くの方から、歓声が聞こえる。

 思い出したが、今はノース校との友好試合の最中である。この歓声は、亮か、それとも江戸川か。

 

「ジョージ。そろそろ試合も終わるようだし、俺は戻るがお前は…………?」

 

 言いかけて。はたと気づく。

 ジョージの姿がない。

 つい今しがたまで倒れていたのだ。立ち上がって去るにしても、目の前にいた俺が気づかないはずがない。

 しかし、彼は全く音を立てず、この場から消えたのだ。

 一体、どういうことなんだ。そう思っていると、歓声はより大きく響いてくる。

 辺りを見回しても見つかる気配はない。

 後ろ髪を引かれながらも、俺はその場を後にするのだった。

 

 

 

「で、結局亮の勝ちか。歪みないな」

「途中までは善戦してたんだけど、『サイバネティック・フュージョン・サポート』からの『パワー・ボンド』でドカン。『大嵐』で場を均してからだから、もう打つ手なしだったね」

 

 俺が戻ると、既に体育館から人が出てくるところだった。そのままの流れで友好試合は終了。何故か開かれた表彰式もつつがなく終わり、今は優介の部屋でくつろいでいるところである。

 

「まあなんだかんだ言って、無事勝てて良かったね」

「……最後に余計なものを見たがな」

「言うな」

 

 あの何故かあった表彰式。勝者である亮は式台へ上がり、今回の健闘を讃えられた。

 それだけであれば『なにもこんな大袈裟にやらなくてもいいのでは?』と疑問に思う程度に終わっただろう。

 が、亮が台から降りると。

 

「いいや限界だ言わせてもらおう」

「やめろ! 思いださせるな!」

「校長に! トメさんがキスをするなんてなァ!」

「うわあああああ!!」

 

 耳を塞いで大声を上げる優介を無視し、あの時の惨状……出来事を口にする。

 式台の裏手から出てくるトメさん。キスしてもらってデレデレになる鮫島校長。悔しそうに男泣きする一ノ瀬校長。

 聞けば、あれは勝者へのご褒美らしいのである。

 

「あれのために勝負したと知った時の亮の複雑そうな顔は、実に愉快だった」

「君って本当にいい趣味してるよね」

「心配するな。自覚はある」

「自重しろ((未元物質|ダークマター))」

 

 優介が一口紅茶を口にすると、そういえば、と切り出す。

 

「途中で出てったこと、クロノス教諭にばれてたよ」

「あ」

 

 しまった、と思ったが既に遅し。

 優介は呆れた風にため息をついた。

 

 

 

 翌日。

 朝一番でクロノス教諭に呼ばれた俺は、結局試合を抜けだしていたことがばれ、ペナルティを課されることとなった。

 教室で椅子に座りダレていると、優介が「そら見たことか」と言わんばかりに視線を投げかけてきた。

 

「で、ペナルティはなんだって?」

「まだ」

「まだ?」

「この後言い渡すと。先にすることがあるみたいだ」

 

 二度手間になるんじゃなかろうかと思うが、クロノス教諭も何やら忙しかったようだし仕方ないだろう。

 

「ああ、そういえば確か、一年に転入生がくるとか言う噂があったな」

「は? 転入生?」

 

 思わず聞き返す。そんな噂は聞いたこともない。

 一年の、まだ数ヶ月しか立っていない頃に転入生とは、話題性は確かに充分だ。特にアカデミアは秋の入学、他の一般的な高校とは若干時期がずれる。教員があちこち忙しなく動いているのはそのためだったのか。

 

「なんでも交換留学とか言ってたけど…………おっと、きたか」

 

 クロノス教諭が教室に入ってくるのを見て、教室中が静かになり始める。

 全員が席について前を向くのを確認すると、クロノス教諭は満足そうに頷いた。

 

「エー今日は出席を取る前ーニ、根幹留学による転入生の紹介をするノーネ」

 

 教諭の言葉に室内がにわかにささやき始める。

 転入生とはついさっき初めて聞いたが、本当だったようだ。

 

「静粛ニ、静粛にするノーネ!」

 

 教壇をバンバンと叩くクロノス教諭。そんなに叩いたら壊れるんじゃないかと思ったが壊れない。予算はきちんと降りているのだ。

 

「ア、ン、ンー! ゴホン。……デーハ、入ってくるノーネ」

「はい、失礼します」

 

 返事と同時、ドアが開かれる。

 入ってきた『彼』は、堂々とした足取りで教壇の隣へ歩いていく。

 黒い髪を逆立て、赤い目は涼やかに

 一歩進む度に女子生徒からは黄色い悲鳴が上がり、男子生徒からは羨望と嫉妬、他様々な視線が飛ぶ。

 そしてクロノス教諭の隣に立った時、教室に設置されたスクリーンに名前が映し出された。

 

「デュエルアカデミア・アメリカ校からきた志堂プライドだ。よろしく」

 

 

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