チートでチートな三国志・そして恋姫†無双
[全1ページ]

第57話 刑罰

 

 

 

 

 

「董卓。その人物ならば可能性があると?」

 

「少なくとも俺の知る歴史ではあの時代で別格の“暴君”だ。呉末期にも孫皓というすさまじい暴君がいるけど、そいつと董卓は別格だ。俺が覚えてる董卓の逸話で一番凄いのは“董卓の死後、死体の脂肪に蝋燭の芯をぶち込まれて燃え続けた”というやつかな。死んで喜ばれる奴はいても、死後にここまでの扱われ方をされる奴はなかなかいない気がする。」

 

「なるほど。そいつは頭がいいのか?」

 

「それもあるだろうけど、色々と運がいいんだ。そして部下に呂布というあの時代で最強クラスの奴がいたのもデカイ。呂布はもともと丁原の部下だったんだけど、馬がほしくて丁原を殺して寝返った。ただ、この世界には丁原の存在そのものが消されているかのごとく存在しない。だから今の時点で董卓の部下に呂布がいる可能性は高い。ちなみに、俺がほしい“4人目”の張遼も董卓の部下になっている可能性がある。」

 

だから何らかの策を打つことは必須だ。それ自体は揺るがない。張遼は非常に危険な存在だ。何せ、“正史”のほうが“演義”よりすさまじい、リアル三国無双をやらかした人物なのだから。無敵の人格者、山田。もちろん、他の群雄にいくくらいなら殺したほうが良いだろう。

 

「なるほどな。連中と董卓らのためにわざわざ涼州まで行くか?」

 

「その前に聞きたい。涼州に行けば連中がどこにいるかわかるのか?」

 

「ここよりはわかる。連中は自分のことを巧妙に隠しているつもりだが、完璧ではない。それは近づけば近づくほどわかる。」

 

「逃げられたら?」

 

「涼州にいることが特定できれば逃げられなくすることは可能だ。要は範囲を狭めていく。」

 

「それ以上の方法はないのか?」

 

「私にはない。残念ながらそういう術に精通していない。」

 

私には、要はできる奴もいるのか。

 

「誰ならできるんだ?」

 

「妲己、そして太上老君という神仙だ。その2人だけはその方面の術も全て知っている。ただ、呼び寄せる方法はないし、それ以前に言うことを聞くことはないのだがな。」

 

「は!?」

 

「妲己はああ言っていたが、結局は“面白い”優先だ。最上位の神仙としての自覚は無いに等しい。奴は誰の言うことも聞かない。ああいう集まりのときに私が罪人を大量に連れて行ってようやく来る有様だ。今回の提案、つまりお前に誰かがついてこの世界を戻す、ということをしたのは奴なのだが、やった理由はそのほうが傍観者として見ていて面白い、ただそれだけだ。あの連中と大差はない。強いて挙げるなら、奴はその力を“見る”以外に使わないことくらいだ。」

 

「どうして!?」

 

「持っている力のケタが違う。たとえて言うなら、于吉や左慈らはせいぜい果物ナイフ1本。だが奴は核ミサイルを50持っているようなものだ。我らが500持っているとして、撃ち合いになったどうなるかくらい想像はつくだろう? ちなみに、撃ち合っても奴を殺すことはできない。だから穏便にコトを済ませることにしたのだ。ありがたいことに、その力を行使することはないし、罪人を連れて行けば最低限の言うことは聞く。奴が面白半分で言ったことがそのまま良い提案になることもある。“事なかれ主義”と笑うな。そうしなければ平穏が保てないのだ。そして、奴はそういうつまらない、“泥棒”のような術を知ることも覚えることもためらわない。普通は忌避されている。そのあたりは私も見習わなければならないのかもしれん。こういう事態になって初めて気づいたことだが。」

 

「もう一人のほうは?」

 

「太上老君か……。もっと((性質|タチ))が悪い。奴は存在する全ての術を知り、使うことができる。しかし、“興味”がない。我らの言うことは一切聞かないが、出てくれないと困る、要は体裁が保てないこともある。故に奴の居る場所に“会議場”を作ることにしたのだ。奴はあそこから動くことはない。」

 

「問題児ばかりだな……。」

 

「一番の問題は、それだけの力を持つ連中だ、ということだ。だから基本的に“黙認”だよ。それだけの力を持ったもの同士が戦わなければ秩序は保たれる。将来も変わることはないだろう。で、どうする?」

 

「行くことはない。これは断言する。理由は色々ある。まず、他のことを無視して突っ込むリスクをおかす価値は現状、存在しない。“女の子かもしれないから助ける”なんていうお花畑思考で天下は取れない。張角を助けたのは彼女が医療技術をもっているから、それに尽きる。もっていなかったら間違いなく殺している。そして、董卓が暴れて“相国”の地位に就いてくれるのならそれに越したことはない。よって暴れて貰った方が良いし、それを助けるのならそれはそれでありがたい。そして、董卓自身が“リスク”を考えていれば連中が取り入ってもそんなことは起こりえない。つまり董卓側に過失があるから起きる。少なくとも今回のケースでは、張角が自分の価値をもっと重く考えていれば起こらなかった。」

 

俺がいた日本とここでは医療技術の価値に天と地ほどのものがある。それをきちんと理解しなければならない。自分の価値を過小評価も過大評価もせず、きちんと分析する。それはとても難しいけれど、特にこういう世の中では必要なことだ。

 

「お前は張角が医療技術をもっていることにはいつ頃から気づいていた?」

 

「最初から想定はしていた。何の根拠もなく水を配っただけではすぐ詐欺師呼ばわりされて終わってしまう。ただ、それに関しては当事者である張角から具体的な話を聞く必要がある。俺の想像だけで理解したつもりになるのは危険だ。」

 

「なるほどな。桃香の片腕、あるいは分身、知恵袋とも言える現状を放り出して助けに行く必要性は薄い、か。」

 

「ああ。俺もこの世界に入って桃香たちと行動して“組織人”というものが何なのか、それが何となくわかってきた。“スタンドプレー”が大事なときもあるけれど、それだけではどうしようもない。軍隊でそれをすれば部隊の全滅、あるいは全体の敗北につながるという話は理解していたけど、よくよく考えれば国家と国家でも、トップ同士の会談だけで全てが決まるなんていう話は滅多にない。様々な交渉があって初めて役に立つものだ。一人で独断専行するのは危険きわまりない。炎蓮のようになるのがオチだ。あれでもまだマシかもしれない。もう十分にやって、そのカードを使ってしまったということもあるけれど……。」

 

手札は見せない、何枚あるか悟られないようにする、それが交渉、外交、あるいは戦略作りの鍵だと気づいたのはいつ頃だったろうか。朱里たちもそれを考えてくれるということは無論ある。でも、だからそれに甘えて自分は考えなくて良いのではない、と理解できたのは。その手札を仲間うちでどれだけ共有するかを含めても非常に難しい。もちろん相手の手札を考え、どこでどのカードを使ってくるか予測するのも必須だ。それらを全て総合的に考える必要がある。

 

「別に連中がいくら暴れようと、ビジョンを立てて“どう対処するか”を考えておけば後手に回るリスクもないわけか。相手が何をやってくるかさえ見えていれば、それに対応していくだけでいい。」

 

「結局は武力で俺たちを上回る必要があるけど、それはあまり簡単なことではなさそうだ。馬鹿正直に告白してくれた通りだよ。それに俺は正直、洛陽も中原もどうでもいい。連中がかき回して他の群雄と権力争いをやって国力を浪費してくれるのは大いに結構なことだよ。そうなったら納税を拒否すればいいだけの話だ。」

 

反董卓連合、なんて仮に呼びかけれても、史実のように袁紹が盟主になるのでは参加の意味はない。とりあえず兵と将は出すけど勝手に頑張ってね、レベルだ。何もかも先手を取って潰していくことにメリットがあるとは思えない。それよりも潰し合った後に両方を潰すほうがずっと簡単で効果的だ。

 

 

「医療技術、それは確かに必須だからな……。」

 

「日本では、風邪にかかって高熱が出る、あるいは下痢や嘔吐だけで命の危機に陥ることは稀なケースだと思う。それは、その前に薬を飲んだり注射、点滴をしたり、最悪は入院すれば命の危機は脱出できることが大半だから。でも、この世界にはそれらの対応策のどれもが存在しない。どれか一つの症状で致命傷になる。幸いにして俺らの領土でそういったものが流行することはこれまでなかったけど、これからもないとは限らない。たぶん、かかれば大半は死ぬ。いかにして予防するか、それももちろん必須だけど、かかったあとにどうするか、を考えるのも必須だ。だから医者は大事にされる。日本でさえ、医者は国家資格で免許必須、極めて難しく、またなればほぼ確実に高給取りになれる。この世界では東洋医学だけど、それでも本当に“稀少”な存在だ。それを味方につけられるかどうかはある種、愛紗たち武人、朱里ら軍師と同格の重さを持つ。命を“殺す”・“守る”専門家と“助ける”専門家という住み分けとでも言えるのかな。」

 

「そうだな。さて、戻ろうか。」

 

そうしてひとまずの話し合いは終わり。合流し、張角、張梁の真名を受け取った。張宝が死んでいたら後を追うとは言われたけど、それはまず問題ないだろう。あれだけ手厚くやっているわけだから。

 

「宗教、あるいは洗脳のすりあわせは桃香たちと合流してからにしよう。上層部全員が共通して知っておく必要のある話だから。」

 

「わかりました……。一つお伺いしてもいいですか?」

 

「何?」

 

「“生きて償うこと”そう仰いました。それは一刀さんについて当たり前のことなのですか?」

 

「それは私も気になっていました。いわゆる連座制を廃止されましたし……。」

 

天和と椿による問い。難しいなあ……。俺の個人的な感情論で進めるのか、それとも社会の流れで考えるのか。

 

「確実に言えることがあるとすれば、刑罰は俺の居たところと比べると段違いに厳しいよ。ここでは年齢に関係なく、人を殺す、強姦する、をすれば人数など他の事情はあまり考慮されず、ほぼ確実に死刑だ。連座制に関しては、社会的に死ぬことはあっても法的に殺す必要はない、そういうことかな。

 

“お前の叔父が俺の妹を殺したんだ!”と言われるのは止められないけど、法的に責任を負わせるのはいきすぎだと思う。」

 

「そんなに緩いのですか?」

 

「そうだね……。根本的な考え方が違うんだ。刑罰は“社会復帰”させることに重点がおかれている。牢獄の数は非常に多い。それは“更正”させるため。厳密なことは覚えていないけど、基本的に20歳未満の未成年では人を殺してもたいした罪にはならない。成人でも初犯では人を1人“だけ”殺して死刑っていうのはかなり珍しいはずだ。強姦に至ってはそれだけで死刑になることはなかったと思う。」

 

「は……?」

 

水晶まで唖然としていた。緩いとかそういうレベルじゃないよなあ……。

 

必死で捜査して、物証を挙げてようやく裁判に持っていくが、そこでは弁護士に妨害される。被害者の扱い、遺族の心情を考えるとやりきれないことは数え切れないが、それでもやるしかない。“ たとえ10人の真犯人を逃すとも、1人の((無辜|むこ))を罰するなかれ”その格言が基本だ、そう言っていた。それ自体は至極当然のことだ。冤罪と判明したけど、そのときにはもう死刑を執行していました、では話にならない。しかし……。

 

祖父はそう言っていた。こことの違いは人権の重み、そういうことなのかもしれない。

 

「刑罰は本当に難しい。主に2つある。1つは俺が法律の中身や制定された経緯、そして判例を覚えていないということ。もう1つはこちらに判例がこれまで残されていなかったこと。だから基準は“常識”と記憶しかない。個人的に一番重要なのは“再発・再犯防止”だからそれを重視するように言ったわけだけど……。」

 

この世界には“報道”・“ジャーナリズム”が存在しないから、情報の入手が難しい、それも大いにあるのだろう。ということは、識字率を上げて、伝聞・演説ではない、いわば“大本営発表”をやると世論誘導は楽になるだろう。それが正しいかどうかを調べる手段は存在しないし、政権側が伝える法的義務もここには存在しない。マトモな国のやり方ではないけど、方策としては頭においておくべきかもしれない。ただ、人道的観点から個人的に躊躇する問題なのは間違いない。

 

「さて、とりあえず紫苑と藍里たちのところまで戻って後処理を終わらせよう。さっさと皇甫嵩を通じて朝廷に首を献上しなくてはならない。」

 

無辜:無罪・無実の人間のこと

 

 

 

 

後書き

 

宗教・張角らの洗脳・人心を得る術についても今話で書く予定だったのですが先の話としました。すみません。人物紹介もお待ちください。なお、張角・董卓らの“過失”についても。

説明
第5章 “貞観の治
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1727 1564 3
コメント
marumo様>感想ありがとうございます!返信おくれましてすみません。 入れ替わってはいないのですが、一刀・愛紗・水晶&張角姉妹→椿・桔梗→藍里・紫苑&皇甫嵩 という順番で、「後処理」が皇甫嵩のところだったのでこう書いたのでした。わかりにくくてすみません・・・。(山縣 悠明)
桔梗と紫苑、入れ替わった?(marumo )
h995様> いつも感想ありががとうございます!! 張角に関しては、自称ではなく”華北の桃髪”という呼び名がつくほどの腕を持っていた+桃香と水晶を足して2で割ったような性格&スタンス ということを考慮してくださると幸いです。いずれわかります。(山縣 悠明)
未奈兎様>いつも感想ありがとうございます!! 反応楽しみですね! 会う機会があるのか、等々含めて予想してみてください。(山縣 悠明)
その為、張角の場合は「己を理解していない」という過失ではなく、「生まれてきた時代と場所が余りにも悪過ぎた」という不幸だと思います。この辺り、まだまだ一刀は現代の常識に囚われていると言えるでしょう。(h995)
一刀が張角に対して「自分の価値を理解していれば」と言っていますが、この時代ではまず無理です。何せ、医術は方術、早い話が胡散臭いものの一種として見下されており、その関係で医師の社会的地位も非常に低いものですから、張角が己の技術に誇りを持てなくても無理はありません。むしろ、それこそが当時の常識です。(h995)
さて、こんな一刀さんも月を見て驚かないのかな?w(未奈兎)
タグ
恋姫†無双 真・恋姫†無双 三国志 

山縣 悠明さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com