双子物語62話
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双子物語62話

 

【雪乃】

 

 春風荘に引っ越してから大学始まるまでの間はずっと荷物の整理をしていた。

本当ならもう少し早く終わらせてゆっくりできたものだけど、彩菜と久しぶりに

再会した幼馴染。新しく出会った外国人の女の子にこのアパートの住人の子に

邪魔されながら続けていたらギリギリになってしまった。

 

「ふぅ・・・」

 

 とまぁ、簡単にあらすじっぽいことを脳内で語りながら出かける前に

少し仰向けになりながら溜息を吐くと心配そうに彩菜が私の顔を覗き込んできた。

 

「大丈夫、調子悪い?」

「彩菜のせいでね」

 

「はい、ごめんなさい」

 

 やはり自覚はあったのか。素直に謝ってくる彩菜は可愛いとこがあるので許そうかな。

そう思いながら手を伸ばして彩菜の頭を撫でてから私は起き上がって時計を見ると。

 

 予定通りの時間に彩菜を腕を引っ張って外へと出た。

ゆっくりする前にあらかじめ彩菜に準備をさせて私も最低限の荷物をまとめていたのだ。

だから後は時間が来たらすぐに出られるようになっていた。

 

 私たちが出るとそれに合わせるように落ち着いたのが一人、慌てて来たのが二人。

落ち着いているのはしっかりものの春花で、バスが来るまで少し話すくらいの

余裕はあった。で、バスが来るぎりぎりに走ってきたのが唯一の男子と外国の子。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…待ってーェ〜」

「ごめん・・・遅くなった・・・」

 

 息を切らせて苦しそうにしている二人。大地のほうは野球を散々してきたから

足腰はさすがに丈夫である。それにくらべてエレンの方は生まれたての子鹿のように

足をぷるぷるさせているのを見て、運動が苦手なように見受けられた。

 

 しかしさっさと乗らないとバスが出てしまうのでエレンにはちょっと辛いかも

しれないけれど私たちが先に乗り込むとエレンはちょっと情けない声を出しながら

バスに乗り込んできた。

 

 エレンは少し周りを見渡した後、一番後ろにある座席に私と彩菜が座っていたのを見て

空いていた私の隣に座って満足そうにしていた。

 

 どこか猫っぽい雰囲気の女の子だなぁと思ってるとおもむろに腕を組みに来て

一瞬驚くがそれ以上何があるわけでもなかったから目的地に着くまでじっとそうしていた。

 

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**

 

 大学に辿り着いて無事に入学式も終えて、自由な時間になった時、私は外に出て

外の空気を胸いっぱいに吸い込んで吐いた。

 

 元々この辺は自然が多くて何だか空気も澄んでいるような気がした。

暖かい風が強く吹く中、少し離れた場所から桜の花弁が飛んでくるのが少し幻想的。

その中で見覚えのある姿を私は確認して驚いた。

 

「え!?」

「あれ、雪乃じゃない?」

 

「せ、先輩・・・!? 黒田先輩!?」

 

 名前を口にすると更に反応をする本人を見て確信をした。

どこに言ってるかわからなかったから、えも言われない感動がこみ上げてきた。

 

「こら、美沙先輩でしょ」

 

 少しずつ近づいてきて私の前に立つと嬉しそうに微笑みながら私の額に指でつんと

突いてきた。あぁ・・・高校の時と変わらない先輩を見て何だか泣きそうになってきた。

嬉しくて、安心できて、また頼りにしてしまいそうになる。

 

「後輩達から卒業式から少ししてメール来てたわ。雪乃、貴女良くがんばったらしいわね」

「・・・はい・・・」

 

 頭を撫でられて昔に戻ったような気持ち。甘えてしまいそうになるのを堪えていると

更に私の後ろから不思議そうな声でエレンが私たちに声をかけてきた。

 

「何をしてるんデス?」

「おや、何この可愛い子〜」

 

「はじめマシテー。エレンと言いマス!英語しゃべれマセーン」

「面白い子ね〜。何だか楽しそう。ねぇ、雪乃今から3人でどこか遊びにいかない?」

 

 急な展開に言葉を失っていると、どんどん先輩に流されるように事が進んでいく。

やっぱり私は先輩には敵わないのだろうか、と思った。

不思議と悔しさは微塵も感じられなかったけれど。

 

「ふぅ・・・わかりましたよ」

 

 涙を流しそうという情けない姿を見られそうになるのをエレンの抜けた登場の仕方に

すっかり感情が収まってくれて助かった。

 

 もし見られていたらそれでしばらくからかわれそうな気がしていたから。

 

 彩菜たちに一言も告げずに3人で歩き出して停留所についたころにちょうどバスが

停まっていたから出てしまう前に乗り込んでから出発してしまう。

 

 バスに揺られながらメールで彩菜の携帯に向けて送り、しばらくの間3人で

他愛のない普通の話をして盛り上がっていた。ちょっとした昔話のようなもので

私たちは高校時代の話をしているとエレンがすごく興奮して聞いてくれた。

 

 エレン自身はあまり過去のことを話したがらない。気にはなってはいたが、

エレンの気持ちを尊重して深くは聞かないことにした。

 

 ただ、自分の話はしないけれど趣味の話は楽しそうに喋っていた。

内容はアニメとかマンガとかの話。好きな台詞とか言うときにはなりきったみたいに

喋ってるのが楽しそうで見ていて微笑ましい。

 

「あはは、上手いねエレンちゃん。そのマンガよく知らないけど」

「じゃあ、今度貸しマスヨ!」

「お願いするわ」

 

 さすがに女の子の扱いに慣れてる美沙先輩はエレンの好きそうな言葉でエレンを

喜ばせていた。

 

 でも確かに・・・私から見ても彼女の笑顔を見ているとつい見惚れてしまうくらい

魅力を感じられた。

 

 しかしいつ暴走するかわからないところは魅力半減だけれど。

 

 そんな風に3人で話し込んでいるうちに目的の場所に着いて私たちはバスを降りて

先輩の後ろについて歩き始めた。

 

 その途中に先輩は気になったことがあったのか私の隣まで近づいてくると。

 

「そういえば叶ちゃんとはどうなの?」

「え、それは・・・」

 

 あまりにいきなりなことで言葉が詰まる私に「?」の表情を浮かべる先輩。

 

「あ、ワー!ワー!」

「どうしたの、エレンちゃん!?」

 

 私がどこから説明しようか困っていると気を利かせたつもりのエレンが

急に声を上げて誤魔化そうとしていたが、ただ先輩はびっくりしただけで

そこからまた私に向き直った。

 

「えっとですね・・・」

 

 言葉を捜しながら先輩に説明をすると驚いたような呆れたような顔をしながら

私のことを見てから、軽くデコピンをされた。

 

「雪乃の頭固すぎ」

 

 

「そうですかね・・・」

 

「まぁね、貴女の言うこともわからないでもないわ。

でもね、私としては叶ちゃんの方が可哀想かなって思うわ」

 

 私と先輩のやりとりにエレンが「アワワ・・・アワワ」と慌てて交互に見ている中、

まだやりとりは続いていくが、それでも先輩の表情は柔らかいままだ。

 

 そして一つ溜息吐いてから。

 

「まぁ、そんな雪乃のことが好きなんだろうから理解はしてるだろうね」

「先輩・・・」

 

「だからそんなに引きずらずに待っていてあげよう、きっと大丈夫だから」

「そんな引きずってるように見えますか・・・?」

 

「うん、幸せそうな時とは全然違う」

 

 そう言って今度は私の頭を撫でながら微笑む先輩。

何だか昔の時みたいで不安が少しずつ薄れていく。

 

「だからね、そんな不安な顔をしないで。今日は目一杯遊ぼう。

私は楽しそうにしている雪乃の顔が好きだよ」

 

 そう言って撫でていた頭から離して、その手は私の頬の辺りに移動し

そっと持ち上げて軽く撫でながら囁いてくる先輩。

 

 そこで再び黄色い声が私の耳に届く。案の定エレンが鼻血でも出しそうな勢いで。

 

「お姉さまと妹のイチャイチャシーン!これはたまらんデス!」

「お、エレンちゃんまた暴走しちゃった?」

 

 手を組んで嬉しすぎて顔を上に向けながら叫ぶエレンにニヤニヤしながら

嬉しそうに見る先輩の姿。せっかく真面目に話していたのに・・・。

 

 でも、湿っぽい空気のままよりはこっちの方が気楽でいいなと思えるのだった。

それから3人で気持ちを切り替えて服を見にいって試着して楽しんだり

あれが似合いそうこれが可愛いと雑談を交えながら一つに絞って買うことにした。

 

 色々気になるのはあるけれど、お金ないから・・・。

 

 苦笑しつつ、先輩につられてカラオケしたり色々回っていくうちに前より

気持ちがずっとスッキリしていることに気付いた。

 

 自分ではそんなに気付かなかったけれど、こんなにも抱えていたんだ。

私自身が叶ちゃんに言ったはずなのに自分でもダメージを受けていただなんて。

すごい自分勝手な気がしてならないけど、それでも好きでいてくれる彼女に

もう一度・・・チャンスがあったなら今度こそ手を離さないようにしたかった。

 

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**

 

 かなり時間が経過したのを確認した私たちは駅前で先輩と別れることに。

帰り際に先輩に少し離れたとこのアパートに住んでると言ったら。

 

「そうなの!?私もそこにすれば朝から雪乃に会えるのに〜!」

「どんだけですか・・・」

 

 悔しそうに言うから私がツッコミを入れるように返すと私の顔を見て

先輩は満足そうに笑っていた。

 

「うん、いつもの雪乃だ」

「・・・はい」

 

「また会おうね、同じ大学だし」

「はい!」

 

「後、エレンちゃんもまたね。また今度一緒に遊ぼう」

「ハイ・・・!」

 

 急に振られてびっくりした顔をするエレンだったけど、最後は眩しい笑顔を見せて

先輩にお礼を言って私と共に先輩を見送った。

 

 住んでる場所に帰るのに同じバスに乗って私はエレンにもお礼を言った。

一緒にいてくれて空気を和ませてくれてありがとうって言うと。

 

「何のことデスカね〜」

「とぼけちゃって」

 

 演技が下手なのかわざとなのか、知らないフリをしていてもすぐに

わかるような表情に私は心地良さを感じていた。

 

 だけど、それから話が続かなくて、最寄の停留所まで着くのに二人とも静かにしていた。

さっきまで騒ぐくらい楽しく話していたのに不思議に感じる。

 

 それでも気まずい感じはしなくて、疲れたことと同じ時間を二人で共有したことも

あってか何だか和やかな空気になっていた。

 

 帰ってきた頃にはちょうどみんな集まって夜ご飯の時間になっていた。

ここではみんなで食事を取るという珍しいスタイル。もちろん自炊してもいいし

わりと自由なのがこの場所のウリかもしれない。

 

「おかえり、雪乃。どこいってたの?」

「あぁ、大学で黒田先輩に会ってさ。びっくりしたよ」

 

 彩菜が真っ先に声をかけてくるからそう返すと、驚きの反応の後にちょっと

嫉妬じみた顔をしながら。

 

「私の雪乃を独り占めするなんて!」

「彩菜のじゃないし、エレンも一緒だからちょっと違うよ」

 

 適当に彩菜の言葉を流しながら私は長テーブルに並んでる席の一つに座って

待つことにした。人と料理は揃っていたから後はみんなが席につけばいいだけの状況。

 

 ちょっと頬を膨らませて不満顔をしていた彩菜を除いてみんなすぐに集まって

食事の時間が始まった。

 

 私としてはこうやってみんなで賑やかに食事できるほうが好きだったりする。

家族で楽しみながらご飯食べるのを思い出せるから。

 

「うん」

 

 悪くない。この新しい生活に私は不満や不安を感じるところはなかった。

ただ管理人の人だけは女子が多いことに少し戸惑い気味にも見てとれたけれど。

みんな慣れていけば家族みたいな感じになれるだろうか。

 

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***

 

 次の日、大学に顔を出して自分の取ったジャンルの講義を受けた後、

時間に余裕があった時、あちこちでサークルの勧誘がされていたので見て回ると

創作活動をメインとしたサークルを発見して興味が出た私はそこに書かれている

活動場所を探して歩いていく。

 

 少し道が入り組んでいて到着するまで時間がかかってようやく辿り着いたら

扉の前にエレンの姿があった。

 

「エレン」

「ユキノ・・・」

 

「どうしたの、入らないの?」

「キ、キンチョウしちゃっテ・・・」

 

「ふふっ、いつものようにしてればいいのに」

 

 あまり見ることのないエレンのガチガチな姿に笑いながら扉を開けて中へ入ると

部長さんかと思われる人が奥にいて私たちに微笑んで受け入れてくれる中。

部屋の中には昨日一緒に行動を共にしていた美沙先輩の姿があった。

 

「やぁ、昨日ぶり」

「せ、先輩・・・!?」

 

 予想外過ぎる展開と眩しいくらいの笑顔を見せる先輩に驚きと緊張が隠せなくて

ぎこちない反応を取ってしまい、エレンのことを言えないなぁと思い直す私なのであった。

 

続く。

 

説明
久々のアノ人が登場。自らの決断に対してその人に見抜かれて雪乃たじたじ。やはりあの雪乃でもアノ人には勝てないんですねぇ(*´ェ`*)可愛いなぁ
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