『真・恋姫†無双』「蓮華の休日」(その4)
[全6ページ]
-1ページ-

−許昌・郊外−

 

「……どうして私を助けた」

河原に着いてすぐ、女の子はこんなことを口にした。

どこか怒っている風でもある。

追っ手は真桜たちが押えてくれたのか、誰かが来る様子はない。

「どうしてって、それが俺の仕事だしなぁ。それに……女の子が襲われそうになっているのを黙って見てられなかったってのもある、かな」

「貴様、女の子などと私を馬鹿にしているのか!? 私はこれでもおまえよりは強い!」

俺も馬鹿ではない。

それに、いつも春蘭に追い回されていれば、何となくでも相手の力量みたいなものが測れるようになってくる。

だからこの娘の身のこなしを見ていて、ただ者ではないということはすぐにわかった。

「いったい君は何者なんだ?」

「……………………」

ふぅ。

俺は深呼吸をして立ち上がる。

シャーロック・ホームズやオーギュスト・デュパンでも、手がかりがなければ事件解決も覚束ない。

まして俺は、超が付くほど凡人なのだ。

住所も名前もわからなければ、送り届けようがない。

ならば。

凪たちには悪いが、今日はこの娘のお相手をするか。

人間、偶には日常を抜け出して、どっか遠くに行きたくなるときもあるものさ。

それに、俺じゃあ役に立たないのは承知で、命を狙われている女の子を放っておくわけにもいかないしな。

それと……。

可愛い女の子と時間を過ごせるってのは、悪い気がしない。

それどころか、魅力的ですらある。

俺は隣に座っていた女の子に手を差し伸べた。

「お嬢様、どちらに参りましょうか?」

冗談めかしてではあったが、従者のような言葉遣いでそう言うと、女の子は怪訝な表情を浮かべる。

「なんの真似だ? ……それに……」

拗ねるように唇を尖らせたかと思うと。

「それに……れ、蓮華、だ……」

俺は一瞬何のことだかわからなかった。

「その……私の真名だ」

最後は怒ったような調子でそう言った。

俺は、こっちの世界に来てすぐにやらかした失敗を思い出す。

この世界の人々にとって、真名は軽々しく口にしてはいけない名前なのだ。

「……いいのか?」

「さっきは命を救ってもらったのだ。そのくらいの礼は、私も心得ている」

ならば、ありがたく呼ばせてもらうことにしよう。

「俺は、北郷一刀。改めてよろしくな、蓮華」

やがて、おずおずとではあったが、蓮華は柔らかい掌を差し出してくれる。

日はまだ高い。

-2ページ-

−許昌・市街−

 

まずは変装だ。

さっきみたいに、またいつ狙われるかも知れない。

そう大げさなものでなくとも、服装くらいは変えていたほうがいいだろう。

今、蓮華が着ている服も凛々しくていいが、俺の好みとしては……。

ゴホンッ!

そうと決まれば、まずは服屋だ。

幸い俺は服屋には詳しい。

日頃から、春蘭や秋蘭に連れ回されているのだ。

あてはいくらでもある。

「いらっしゃいませ!」

そう愛想よく出迎えてくれた店主のおっちゃんが、

「おや? 今日はいつもとは違うお連れ様ですね」

なんて付け足すもんだから、さっそく蓮華に冷たい視線を浴びせ掛けられてしまった。

一応言っておくと、いつもこの店に来ているのは、華琳の衣装の下見のため。

それにどちらかというまでもなく、むしろ俺の方が春蘭に強引に連れ込まれているくらいだ。

ついでに言えば、春蘭や秋蘭とは何にも……いや、ここでは言えない何かを……。

まぁ、それはそれ、これはこれ。

とりあえず今は蓮華の衣装選びだ。

「私は持ち合わせがない……」

その心配はご無用!

「し、しかしだな。まだ知り合って間もないおまえに服を買って貰うなど……」

何を言ってるんですか、これは俺のしゅ……じゃなかった、職務の一環。

命を狙われている人を守るのも警備隊の仕事。

「だが、私は……」

いけませんいけません。

その格好は目立ちます。

「おっちゃん、例のアレ、ある?」

「アレですか? 少々お待ちください」

おっちゃんは、奥へと消えていった。

俺は多少(?)強引だったかと、蓮華の方を見る。

「わ、私は誰かに服を買って貰うという経験がないのだ……」

とまどったような表情をする蓮華がいた。

「……ごめん、強引だったかな?」

「……嫌、ではない……。だが、どうして知り合ったばかりの私に、おまえは優しくするのだ?」

俺は、いつの間にか自分の境遇に重ね合わせて見ていたのかもしれない。

何の頼りもないままこっちの世界に来たばかりだった俺は、たまたま華琳に拾われた。

そこで一宿一飯以上の恩を受け、だから少しは役に立てるようにと努力もした。

そして気づいて見れば、凪・真桜・沙和の上司として街の警備隊長になっていたわけだ。

だが、俺はあるとき思った。

はたして俺は、警備隊長にふさわしい人間なのだろうか、と。

俺がいない方がいいんじゃないだろうか、と……。

だから、何か大きなものに押しつぶされてしまいそうな今の蓮華を見ていると、放っておけなくなるのかもしれない。

かつての自分を見ているみたいで……。

「旦那、持って……。何かあったんですかい?」

俺は、いや、何でもないよ、と言って、

「奥の試着室を借りてもいいかな?」

と、おっちゃんに尋ねた。

「へぇ、それは結構でございます」

「ま、待て! 私はまだ着るとは……」

「じゃあ借りるね」

ささやかな抵抗を見せる蓮華を、まぁいいから、と宥めながら。

-3ページ-

「こ、これでいいのか……?」

試着室から出てきた蓮華は、とてつもない破壊力だった。

恥じらう仕草に、そしてなによりセーラー服!

これを「萌え」と言わずして何を言おう!

特に、胸のリボンのところが盛り上がっているところなんか、俺的ポイント高し!

「すごくかわいいよ」

「か、かわいいなどと見え透いた世辞を……」

もちろんお世辞などではない。

本当にかわいいのだ。

恐るべし文部省。ああ、今は文科省か。

伊達にキング・オブ・キングな制服。セーラー服だぜ。

ブレザータイプがいいなんて言う輩もいるが、やっぱりセーラーだろ、常識的に考えて。

それにこのセーラー服は、俺こだわりの一品。

ドンキ×ーテや東×ハンズに売っているような安物とはわけが違う。

だが、なんと言っても着ている人の持って生まれた素質だな。

セーラー服の持つ魅力を最大限に引き出している蓮華。

俺はしばらく言葉を失い、ただただ見とれてしまった。

「や、やはり着替えて来る!」

あっ、待ってくれ俺のセーラー服。

「本当にかわいいって! それに変装しないとまた狙われるかもしれないだろ?」

「私は、その……。かわいいなどと言われたことがないのだ。……だからそのような世辞は……」

今撃ち抜かれました!

ストライク、どまんなか、はえぬき。

もじもじするたびに揺れる、スカートの襞がとってもいい!

「いや、お世辞じゃなく本当にかわいいよ。でも、もし嫌だったら無理にとは言わないから」

「嫌……ではない……」

蓮華は顔を朱く染めながらそう言ってくれた。

だから俺はますます調子に乗ってしまう。

「じゃあ、街にでも行ってみようか」

俺はおっちゃんに、今まで着ていた服を包んで貰い、代金を払って店を出る。

そして、後を追うように来た蓮華は、俺の耳元で、

「その……ありがとう……一刀……」

と、ささやくように言ってくれた。

-4ページ-

−許昌・中心部−

 

とはいったものの、何をすべきか皆目検討がつかない。

普段は隠している真名からでは誰なのかはわからないし、許昌の見物でもと誘ったのだが、若い女の子が喜びそうな場所なんか俺にはわからないのだ。

……普段の自分がいかにつまらない人間なのかを思い知らされるね。

だから仕方なくこうしてぶらぶらと歩いているだけなのだが。

「一刀、あれは何?」

ん?

俺は蓮華の指さした方を見る。

「ああ、あれは龍の口って言うんだ」

許昌の中心に位置する広場には、龍の顔をかたどったモニュメントみたいなものが置かれている。

大きさとしては、渋谷にあるハチ公と大して変わらないくらいなのだが、口の部分が空洞になっていて、嘘つきがそこに手を入れると龍に噛まれるなんて伝説もある代物だ。

「試してみるか?」

蓮華がコクリと頷いたので、俺たちは龍の口に寄った。

「まずは蓮華からどうぞ」

そう言われた蓮華は、おそるおそる手を口の中へと持って行こうとする。

まさか本当に噛みつかれるなんて信じているんだろうか……。

だとしたら、意外に素直で可愛らしいじゃないか。

表情も硬く強ばっているし、それも何だか微笑ましい。

「ほら、次は一刀の番よ」

だから俺は、ちょっとイジワルをしてみたくなっていた。

手をおそるおそる、龍の口へと運ぶ。

そして、手が完全に口の中へと入ったところで。

「うわぁっ!」

「お、おい! か、一刀! 一刀!」

まるで中に引きずり込まれるように、腕をどんどん奥へと入れていった。

本当に噛まれたと思ったのか、蓮華は顔を真っ青にして一生懸命に引き離そうと必死だ。

昔読んだ絵本であった、大きな蕪を引き抜くときのように蓮華は俺の腰にしがみつく。

胸が当たって……ゴホンッ。

そろそろ頃合いか。

俺は力を緩め、腕を口の中から引き戻した。

「か、一刀!?」

蓮華は本当に心配そうな表情だ。

だから俺は、さも何でもない風を装い、腕を袖の奥へと引っ込め、まるで手を食いちぎられたようにして見せる。

「ほら」

「な、何てことだ!」

いや、本当は何ともないんだけどね。

しかし蓮華の表情はますます青ざめる。

だから、袖の奥から何ともない腕を引き出して見せたときには、危うく殺されかけてしまった。

「いてっ! 痛いって。ちょっとした冗談だよっ。いたっ」

「やっていい冗談と悪い冗談があるわ!」

「わ、悪かったって! ほ、ほら、そこの氷菓子ご馳走するからっ。許してっ、許してください!」

-5ページ-

まったく、酷い目にあった。

まぁ、もとはといえば俺が悪いのだが……。

しかし、隣で氷菓子を食べる、蓮華のちょっとふくれたような表情を見ていると、それでよかったのかとも思う。

「どうだ、おいしいだろ?」

まだ山の頂に雪が残っているこの時期にしか食べられないお菓子だ。

簡単に言ってしまえば氷に甘いシロップをかけただけのかき氷なのだが、冷凍庫がないこの時代では結構貴重だったりもする。

真桜の発明した全自動籠編み機を改良し、氷を削れるようにしてできた許昌の新名産だ。

「そうね、おいしいわ」

そう言った蓮華の表情は、氷菓子のようにふんわりとなっていた。

-6ページ-

【あとがき】

 

美容院での散髪。

スペイン広場でのジェラート。

ベスパ125に乗っての市内散策。

真実の口。

そして……(あまりに名画すぎて、ネタバレも何もないのですが一応)。

 

これら全て『ローマの休日』における名シーンですので、「蓮華の休日」でも、美容院は服屋(蓮華が髪を切るのはちょっと……)、ジェラートはかき氷、ベスパは自転車、真実の口は龍の口として取り入れさせていただいております。

 

とはいえ、『ローマの休日』を単純になぞるのではなく、この映画を見ていない方にも楽しんでいただけるようにと思って書かせていただいてもいるのです(できているかどうかは別にして……)。

 

さて、「蓮華の休日」もいよいよ次が最後。

もう少しだけ、蓮華と一刀の休日にお付き合いいただければ幸いです。

説明
設定としては、魏ルート「赤壁前」となっております。

続き物です。

最後に「あとがき」を付けさせていただきました。

よろしければ、お付き合いくださいませ。

【誤字脱字報告】
ご指摘いただきました、3ページ・25行目。
「もし嫌だっら……」を、「もし嫌だったら」へと修正いたしました。
ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした。
また、ご指摘いただきまして、本当にありがとうございました。
今後は、誤字脱字がないよう、一層の注意をはらって参ります。

前:http://www.tinami.com/view/78930
次:未定
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
7845 6446 80
コメント
皆様 本当に申し訳ございません。決して途中で投げ出したわけではございません。近いうちに、必ず続きを書かせていただきますので、今しばらくお待ちいただけたら幸いです。(山河)
りばーす様 そう言っていただけただけで、本当に嬉しく思います!(山河)
ブックマン様 ジェラートを作らせるかどうか、けっこう迷ったのですが、やはり作らせるべきでしたか……。ご指摘ありがとうございました!(山河)
ルーデル様 名画だけにどうしようかと思っていましたが、そのようなコメントがいただけるとは! ありがとうございます!(山河)
Poussiere様 そのような事を言っていただけまして、本当に嬉しいです! また、誤字のご指摘もいただきまして、ありがとうございます!(山河)
PANDORA様 そう言っていただけるとは! 本当にありがとうございます!(山河)
cyber様 必ずや近々書かせていただきます!(山河)
munimuni様 セーラー服ばんざい!(山河)
キラ・リョウ様 本当に申し訳ありません! 必ず近いうちに続きを!(山河)
ミッチー様 セーラー服蓮華は凶悪すぎますよね!?(山河)
混沌様 ニヤニヤしていただけたようで、幸いです!(山河)
フィル様 実は華琳様用のも……ごにょごにょ。(山河)
だめぱんだ♪ 様 本当にすみません! もう少しだけお待ちいただければ幸いです!(山河)
cheat様 申し訳ありません! 必ずや近いうちに!(山河)
句流々様  蓮華様は、もともと持っている魅力がすさまじいです!(山河)
あま〜い!そして破壊力高すぎ〜〜!!(りばーす)
氷は真桜あたりが作ったのかな・・・・氷があるならアイスくらいつくれそうだがな。(ブックマン)
う〜む・・・あの名シーンをどうアレンジするかと思ってたけどこう来るか・・・・作者GJ!!!Σd(ルーデル)
ふ・・・・ついにデレたか・・・・(チリーン チリーン) ΣΣC≡(/゚Д゚)/タスケテェー!! この後 Poussiereを見た者は誰も居なかった。 ――完―――  ・・・た・・・愉しみで・・・s・・・・ガクリ(Poussiere)
脱字報告 3p目 でも、もし嫌だっら無理にとは言わないから」 嫌だっらになってますね。 嫌だったらなのかな?(Poussiere)
破壊力高・・すぎ・・る・・ グフゥ!!(PANDORA)
デレが発動しましたね。次でいよいよ最後ですか。楽しみです(cyber)
ついにデレてきましたね 蓮華。 最後はどうなるのでしょうか、楽しみです。(キラ・リョウ)
セーラー服っすか・・・。いいですよね、セーラー服。セーラー服を着た蓮華は可愛いすぎだど思います!(ミッチー)
ニヤニヤw(混沌)
いよいよクライマックスですかw 愉しみです( ̄▽ ̄) セーラー服のことは華琳にばれたら斬首ですねwww(フィル)
蓮華可愛いなぁ。最後がどのように締まるのか楽しみです^^(だめぱんだ♪)
さてさて、クライマックスの演出はどのように ((o(´∀`)o))ワクワク(cheat)
くぅぅぅぅぅっ…可愛い、可愛いよ、蓮華(句流々)
タグ
真・恋姫†無双 真・恋姫無双 恋姫 恋姫無双 蓮華 

山河さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com