あいつは今夜も帰ってこない
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皆が寝静まり、アジトの中の物音が消えた頃

俺はひとり布団を抜け出し、足音を立てないようにして玄関まで行く

目指すは団員の靴棚

豆電球をつけて、棚を見上げる。

そこには、自分の靴をはじめとしてたくさんの靴が並んでいた。

だが…

 

「帰ってないみたいだな…」

 

たったひとつ、見慣れた黒いブーツだけがない。

俺とセトの幼馴染み。黒をイメージカラーとする、メカクシ団の団員で俺らにとって大切な、大切な仲間。

最近、カノは夜にふらりとどこかへ出掛けていく。

理由を訪ねてもいつもどおりの笑顔を浮かべ、気にしないで、と一言言って去ってしまう

 

気にしないで、なんて言われて寝られるわけがない。とりあえず布団に潜っては見たものの、あいつが今何をしているのか、そればかりが気になってしまってちっとも寝付けない。

 

 

そっと目をつむれば、浮かんでくるのは柔らかく笑うあいつの顔。

整った顔立ち、琥珀色の目。

風に揺らめく黄金色の髪。

 

 

いつからだろう。

あいつと目が合うたび、鼓動が高鳴るようになったのは

いつからだろう。

あいつが、カノが夜遊びに出掛けるたびに得体の知れない不安に襲われるようになったのは。

 

「……」

 

共有スペースに戻り、ソファに身を沈める

付き合っているわけでもないのに何の心配をしているのか。

カノが何をしていようが、それこそ女と遊んでいようが俺には関係ない。

 

そう、関係ないのだ。

分かっているはずなのに。

 

「早く帰ってこいよ…」

 

いっそのこと俺の身体を使えばあいつを引き留めておけるのだろうか。

そうだとしたら安いものだ。

夜の帳が降りた部屋の中、規則正しく時を刻む時計の音だけが虚しく響いた。

 

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「ただいまー」

僕は、アジトの扉を開け、音を立てないようにして中にはいる。

今の時間は真夜中の1時。

ちょっと遅すぎたかもしれない。

キドには日付が変わるまでには帰ってくるようにと言われているのに。

 

あーあ、これは明日の朝、お説教だな

 

また、あの渾身の一撃をお見舞いされるのかと考えると気が重い。

でもまあ、自分が悪いからね、これは仕方ないよ。

 

とりあえず一息つこうと共有スペースに向かうと

 

「お帰り…遅かったな」

 

キドがいた。

ソファの背もたれに寄りかかるようにして座り、膝の上には読みかけの雑誌。

 

その残りのページ数を見る限りだいぶ長い時間ここにいたようだ。

 

「寝ないの?」

 

このままでは、明日の活動に支障が出るのではないか。そう思って聞いたのだが、お気に召さなかったようで

 

「いたっ」

 

軽く叩かれた。

まったくもう…乱暴なんだから。

 

やれやれと、頭をさすっていると

キドの肩が小さく震えていることに気づく

 

え、どうしたの。

おそるおそる肩に手を置くと、キドはびくりとして僕の方を振り返った。

お互いの視線がぶつかる。

 

涙で潤んだ黒曜石の瞳。

ほんのりと染まったすべらかな頬。

 

「カノ…」

 

呟き、ほっそりとした腕で僕を抱き寄せる。

さらさらの髪が首筋に当たってくすぐったい。

 

「心配したんだからな…」

 

そういうキドの声はどこか儚げで。

今にも消えてしまいそうだった。

 

団員想いの優しい彼女のことだ。

きっと気が気でなかったのだろう。

そんな思いをさせてしまったことに今更ながら罪悪感を覚えた

 

翡翠色の髪の毛を指先ですくい、そっと口付ける。

驚いて目を丸くしているキドの頭の後ろに手を回してこちらに引き寄せ、薄紅色の唇に自分の唇を重ねた。

 

ごめんね、キド。こんなので釣り合うとは思わないけど。

 

柔らかな感触を感じながら、僕は言い訳じみた言葉を並べる。

 

ゆっくりと口を離すとキドは僕の服の胸元を掴んできた。

殴られる。思わず身を固くすると。

 

 

 

「バカ…」

キドの声が聞こえた。

 

 

ごめん、謝ろうとして。

言葉は出てこなかった。

なぜならキドにキスされたから

ふたたび感じる感触に酔いしれそうになりながら、僕はキドの唇をむさぼる。

舌で唇を突っつくと、小さく口を開けてくれた。

僅かな隙間に舌を滑り込ませ、逃げようとする舌を絡めとり、優しく舐めまわす。

きれいにならんだ歯を一本ずつ丁寧に撫で、上の方もゆっくりと舌を這わせた。

 

馴れない深い口づけに、キドは戸惑っていたようだったけど、それでも懸命に舌を動かして僕を受け入れてくれようとしているのがわかる

 

「ふ、んう…あ…」

 

そろそろ限界なのだろう、苦しげに胸を叩いてきたので、ちょっと名残惜しかったけど、離してあげた。とろりと糸を引く液体が橋をつくって消えていく。

 

「もう寝よっか」

 

このままくっついているのは危ない。

僕はキドの上から退くと立ち上がった。

 

続いて立ち上がるキド。

おもむろに自分のパーカーの裾に手を伸ばすと、一息に脱ぎ捨てる。

暑かったのかな。そんなことを考えているとキドはジャージのチャックに手をかけた。

そのまま下にずり下げていき…

 

ちょ、ちょっと待って!

 

「キド?何してんの!?」

 

「脱いでる」

 

「いや、そんなの見ればわかるよ!じゃなくてなんで脱いでんのってこと!」

 

「暑いからに決まってんだろ」

 

さっきまでの可愛い姿はどこへやら。あたりまえのことを聞くなとでも言いたげな目で見てくる。そういう問題じゃないから!

僕、けっこう我慢してるからね?

 

「いや、僕、一応オトコなんですけれど…」

 

「知ってる」

 

「知ってるならやらないでよ!そりゃ元は僕が悪いし、先にキスしたのは僕だけど、キドもそれ以上はやるつもりないでしょ。キスはセーフだけどそれはアウトだから。これ以上やったらほんと襲うからね?」

 

「構わない」

 

「はい?」

 

「構わないぞ。他の女に盗られるくらいならその前に俺がもらってやるよ。あ、やっぱりできないのか。そうか、そうだよなあ。ビビりのお前にそんな大層なことできるわけな…」

 

キドの嘲笑的な声に

頭のなかでなにかが切れた音

クスクス…

僕は不気味に笑うとキドの手首を掴んだ

 

「へえ?ならやってあげるよ。その代わりやめてなんかあげないからね?」

 

「望むところだ」

 

挑戦的な笑みを浮かべるキドはぞっとするほど艶っぽい。

強がりだね、ほんとは怖いくせに

僕はキドを自分の部屋へと連れ込んだ。

 

 

 

 

 

夜はまだまだ終わらない。

 

説明
Pxiveで載せていたものです。
カノさんの帰りを待ちわびるキドさんと真夜中に帰ってきたカノさんのお話
ちょっとR要素入ってますので閲覧注意
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