【艦これ落語】「さくらんぼ」
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 窓際に飾ってある月見団子が美味しそうで、赤城さん、隙あらばと提督の部屋をのぞき見しています。

 普段なら提督も、「まぁひとつくらいならいいかな」なんて甘い顔をついしてしまうのですが、この団子、運営さん直々に「某正規空母のつまみ食い注意して!」なんてお達しが来ているのでそうもいかない。

 なかなか提督が隙を見せてくれないので泣く泣くあきらめ、それでもあきらめきれなくて厨房に入ってなにかないかと見てみる赤城さん。

 冷蔵庫をあけると、ボールの中にさくらんぼが山と積んであるのを発見します。

 本人も自覚がないうちに、つまんでひょいぱく。もひとつひょいぱく。

 にこにこしながら口の中でもごもごやっていると、

「赤城さん?」

 加賀さんにいきなり声をかけられた。

 びっくりして、思わずごくり。

「……どうしたんです?」

「ナンデモアリマセンヨ」

「え……はい?」

「ナンデモアリマセンヨナンデモ」

 口を押さえて厨房からぱたぱたと退却する。

 加賀さん、腰に手を当てて「まったく」と苦笑い。

 

 それから数日後、赤城さんの頭に見事な桜の木が生えた。

 

 どうやら呑み込んださくらんぼの種が発芽したらしい。

「まったく、なにをやっているんだ」旗艦長門はおかんむり。

「木が邪魔で飛べません」飛行隊から文句が出た。

「横風が吹くと転覆しますよね?」扶桑級姉妹がなぜか嬉しそう。

 遠くから龍驤さんがにやにやと見ている。

 あわてて入渠したものの、

「こんな症状は先例がないから手のつけようがない」

 と、けんもほろろで追い返される始末。

 仕方がないので艦隊から外れて待機していると、出番のない重巡や軽巡たちがやって来て、満開の桜を囲んで飲めや歌えの大騒ぎ。

 はじめはみんなといっしょに弁当を使ってにこにこしていた赤城さんも、百隻近くいる鎮守府の艦娘たちが入れ替わり立ち替わりやってきて、24時間どんちゃんどんちゃん、しまいには川内さんが夜戦だ夜戦だとハッスルして艦橋近くにステージを組み、夜明けとともに那珂ちゃんがバックバンドを引き連れてライブを始めたからたまらない。

 もう一度ドックに駆け込んで、

「どうなってもいいから、この桜どうにかして!」

 妖精さんもさすがにかわいそうだと同情して、桜の木をロープでぐるぐる捲きにして、ありったけのクレーンを使って、せーの!で引っ張った。

 めきめきめきというものすごい音とともに飛行甲板から根っこが現れ、さらにクレーンが力を込めて引っ張ると、桜の木が根っこごと引っこ抜かれる。

 やれやれ助かった、と赤城さんまずは一安心。額の汗をふきふき、妖精たちにお礼を言うが、頭のど真ん中に巨大な穴が開いてしまった。

 今は埋める鋼材が足りないから遠征艦隊が帰ってくるまで待っていてくれと言われておとなしく待っていると、スコールがやってきた。

 頭の大穴にみるみる水がたまり、湖のようになってしまう。

 それを見た駆逐艦たちが「わーい!」と駆け寄り、アヒルのおもちゃや自分のプラモデルを浮かべて遊びはじめ、軽巡たちが面白がってコイやフナを放して釣り堀ごっこを始めた。

 気候がいいのか外敵がいないからなのか、魚たちはみるみる増えて、ごっこではなく本当に釣り堀が出来てしまう。

 これが評判を呼んで、艦娘だけじゃなく妖精さんやご近所の提督たちまでもが釣り糸を垂れ始め、しまいには納涼の花火がぽんぽん打ちあがり、屋形船を浮かべて夕涼みと洒落込む艦娘までもが出る始末。

 赤城さん、顔を真っ青にして頭の中がぐるぐるぐるぐる。

 もうなにがなんだかわからない。どうしたらいいのかわからない。

 春には花見、夏には花火。秋になったらたぶん紅葉狩りで、冬になったらスケートとかされるんだ。それも毎年毎年。ああもうどうしようどうしよう。

 加賀さんと手に手を取って頭の湖に身投げして、心中してしまおうかとまで思い詰めた。

 その時。

 空襲警報のサイレンが鳴り響き、季節外れのドーントレスが直上から爆弾抱えて急降下。

 索敵どころか対空銃座に誰もおらず、敵機は爆弾を投擲して悠々離脱。

 すわ被弾かと誰もが思ったが、爆弾は湖の中へどぼん。

 九死に一生を得たということです。

説明
上方落語の「さくらんぼ」、江戸落語では「頭山」をモチーフにした落語(みたいななにか)です。
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落語 艦これ 艦隊これくしょん 

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