【真・恋姫†無双if】〜死を与えることなかれ〜最終話(後編)
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「す、済まない、取り乱してしまった」

 

 

一頻り泣いた後、冥琳は俺から離れ、らしくない姿を見られてか、

 

恥ずかしそうにしていた。

 

 

「いや、支えるのは俺の役目だから、ね」

 

「…自責の念に駆られるなよ。北郷は意外と責任感が強いからな

 その想いは不要だ」

 

「…知ってるよ。まぁ、これからの行動で返すよ。

 時間が再び動き出したからね」

 

 

…やっぱり、お見通しか。冥琳。

 

 

「ああ。北郷には期待しているよ」

 

 

頭上から陽光が照らされ、その暖かな光を浴びながら冥琳は極上の笑顔を浮かべた。

 

 

…こんな冥琳、初めて見た。少女の様な可憐さを醸す柔らかな笑顔。

 

普段の凜とした姿も絵になっていたけれど、それとは掛け離れた、柔和な印象、

 

青から橙に移り変わったかの様に、顕著に暖かさを感じる。

 

それは他の皆も同様に思っているみたいで、表情を変えていた。

 

しかし、その中で、祭さんは、からかい甲斐があると言わんばかりの顔つきで、

 

なおかつ、一計を企んでいるかの様に、俺の目にはそう映った。

 

そして、祭さんは穏を引き連れ、俺と冥琳の丁度中間に割り込んできた。

 

 

「ほほう。冥琳も女になったものよのう、あの様な純な笑顔を浮かべおってからに。

 そうは思わんか、穏よ」

 

「はい〜。あの様な素敵な笑顔の冥琳様は初めて見ましたよ〜」

 

「祭殿!!それに穏まで!!」

 

 

…成る程、割って入ったのは冥琳の正面、その朱…と言うよりも紅色に染めた

 

表情を楽しむからか。けど、こんな狼狽えている冥琳は初めて見たな。

 

 

「しかし、冥琳。北郷の独占、御主が策殿に申したと言うのに、自ら破るとは

 いただけないのう〜。それ程までに、北郷を…」

 

「な、何を言うのですか!!」

 

「態度は正直でしたよ〜。ねぇ、祭様〜」

 

「うむ、そうじゃったな」

 

「し、知りません…!!」

 

 

冥琳は勢い良くそっぽを向き、これ以上話す事はないとムキになっていた。

 

 

「まぁ、冥琳でいびり倒すのはこれ位にして、儂らも北郷と話させて貰うぞ。

 忠告しなければ下々まで順番が回ってこんからな。

 策殿!!その間、冥琳を存分にからかいなされ」

 

「…わかったわ!!」

 

 

祭さんは楽しそうに甲高い声を出し、それに応じた雪蓮は冥琳に近付き、

 

あれやこれやと言ったからかいを口に出し、紅色の冥琳に反論の隙を与えなかった。

 

 

「さて…良く死の淵から戻って来てくれた北郷」

 

「お帰りなさいませ。一刀さん」

 

「うん。ただいま」

 

 

祭さんも穏も温かく俺を迎え入れてくれた。二人の顔を見て俺も心が休まりホッとする。

 

そんな中、祭さんは俺をまじまじと見詰めて、感心した様に呟き、

 

満足している表情で息を漏らした。

 

 

「…ほう。知らぬ間に男の顔付きになりおって」

 

「ええ。優しさの中に風格を感じますよ〜。一刀さん」

 

「そうかな。まぁ、そうだとしたら俺の意図しない出来事が、

 成長を促進してくれたからかな」

 

「…その様じゃな」

 

「…ごめん。二人に心配掛けたね」

 

「本当ですよ。心配を通り越して怒りもしたんですから〜」

 

 

怒りもした、か。そう言えば俺が知る限り、穏が怒っている姿は見た事がない。

 

今だって普段と変わらず、のほほんとして、いや、怒っているのか。

 

若干、頬を膨らませている様な。

 

 

「私、今も怒っているんですよ〜」

 

 

…俺の見当違いと言う訳ではなかった。

 

 

「でもでも、もう過ぎた事ですし、私の前に戻って来たから良しとしましょう〜」

 

「あ、ああ。うん。ありがとう。穏」

 

 

相変わらず穏ワールド全開だな、本当、その名の如く心が穏やかになってしまう。

 

 

「うん?何を口ごもっておるのじゃ、北郷よ。

 …ははん、さては御主、先の二人と同じ様に泣いて抱き着いて来ると期待して…」

 

「祭!!」

 

「祭殿!!」

 

「おうおう。真っ赤な小童共が釣れおったわ。どれ、言においても

 年季の違い、と言うものを見せ付けてやるとするか」

 

「お待ち下さい、祭様〜。私も参ります〜。それでは一刀さん。私達はこれで。

 明命ちゃん。亞莎ちゃん。一刀さんをお願いしますね〜」

 

 

…やれやれ、祭さんは絶好調だな。それに穏も、拍車を掛けて普段の数倍、

 

 嬉々としたものを感じるし、まぁ、良い事なのは違いない、な。

 

 

「一刀様…」

 

 

…穏より指名された二人、明命と亞莎が、おずおずとこちらに向い声を掛けてきた。

 

察するに、どこか遠慮している様に窺える。ふと、二人の後方に居る蓮華と目が合う。

 

すると、心配掛けたのだから安心させてあげて。という様な瞳で

 

訴えかけている風に窺えた。無論、言われずともそのつもり。俺は二人の傍に近付き、

 

有無を言わさずに二人を引き寄せた。

 

 

「会いたかったよ。明命、亞莎」

 

「「一刀様!!」」

 

 

安心し、遠慮という枷が取れ、二人は重心を俺に寄せ抱き着いてくる。

 

この行動に応える為、何時もの俺なら包む様に優しく抱き返すのだが、

 

まだ慣れていない義手だから、たどたどしくなってしまう。

 

その為、二人同時にその行為が出来ない。だから、二人の頭を交互に撫でる事にした。

 

 

「一刀様の温かさ、また、こうして感じられて嬉しいのです」

 

「私も同じ気持ちです。やっぱり、私達の居場所は一刀様の下です」

 

「…俺もだよ。二人に再開出来て凄く嬉しい。顔をよく見せてくれ」

 

 

二人を少し離して、中腰になり目線を合わせた。もう二度と会えないと思っていた

 

二人の顔を見ると自然に笑顔が零れる。

 

 

「は、恥ずかしいのです」

 

「あ、あの、その様な輝いた笑顔で見詰めないで下さい。

 照れてしまいます…」

 

 

朱色に頬を染める二人、小動物に似た愛くるしさが、心をくすぶり、

 

幸福が身に降り注ぐ。さしずめ、明命は普段から敬愛している猫で、

 

亞莎は、その素直さから忠犬、犬の様だと思えてしまう。

 

可愛いな。本当に…

 

 

「…一刀」

 

 

後方に居た蓮華が思春、シャオを引き連れ此方にやって来た。

 

その際、いの一番に目に入ったのはシャオだった。らしさが見えず頗る大人しい。

 

普段と真逆の様相だった。

 

 

「…シャオったら、何処か躊躇しているみたいなの。恐らく、涙で腫らした顔を

 見せたくないんじゃないかしら。子供な妹を諭して頂戴」

 

 

蓮華は溜息とは全く別な意味合いを持つ、違う息を漏らした。

 

その様子は、お節介焼きの姉の姿そのもの。しかし、シャオは何も反論せず、

 

その場に立ち止ったまま。そんな姿を目の当たりにしたら、

 

元気にしてあげたいと思うのが男としての勤め。

 

俺は、明命、亞莎をやんわりと退け、シャオの前で腰を下ろす。

 

 

「シャオ」

 

 

目線を同じ高さにして頭を撫でる。だが、シャオは俺の言葉とは

 

関連性がない事を口にした。

 

 

「子供で、いいもん」

 

「え?」

 

 

子供でいい?どういう事だ。シャオは一体何を…

 

 

「わかった、しょうがない。そんな風にシャオは無理矢理心に押し込めてた。

 相手の気持ちを尊重するのが、大人の条件だと思ったから。

 でも、シャオは本当は理解したくはなかった。こんな辛い思いをする位なら

 子供のままでいいって思った。だから…」

 

 

俺はシャオを抱き締めていた。あまりにも過酷な思いをさせてしまい、

 

あまつさえ、小さなその身に辛い一心を与えた事に、

 

抱き締めると言う行動に駆り立てられていた。

 

 

「ごめん。ごめんな…」

 

「……………なんてね」

 

「え?」

 

 

反射的に俺は思わず素っ頓狂な声を上げていた。

 

 

「もう、一刀は騙されやすすぎ」

 

 

微塵も想像してない展開に俺は困惑した。シャオはというと先程とは一転し、

 

俺を突き飛ばした後、舌を出しながらウインクした。

 

その仕草には小悪魔めいたものを感じる。

 

 

「はいはい。私はもういいから、後は任せたよ。お姉ちゃん」

 

 

シャオはくるりと反転した後、雪蓮の方に向かっていった。

 

その際、シャオが何やら呟いていた事に気がついたが、内容までは聞き取れなかった。

 

けど、何となく、どういう内容を呟いたのか、俺はわかってしまった。

 

 

「…私が思っているよりも、あの子は成長していた様ね、私もまだまだだわ」

 

 

隣に居る蓮華も、シャオの呟きに気付いているみたいだ。

 

 

「…姉鳥から守られていた鳥は、いつの間にか離れ、

 天高く飛んで巣立って行こうとしているんだな」

 

「嬉しく思うけど、少し寂しさを感じるわ」

 

「何時かは通る道さ」

 

「…そうね。ねぇ、一刀。私も心配したんだから」

 

「……ごめん」

 

「…でも。意外と思うかもしれないけど、私と同じ位、心配していた子が居るの。

 それはね、思春よ」

 

「れ、蓮華様!!」

 

「ふふ、隠さなくてもいいじゃない。さっきだって貂蝉に短刀を抜こうとしていたのに」

 

「…へえ。そんな事が」

 

「全くよん。あの時は危なかったんだからん」

 

 

遠くから、貂蝉が大声で当時の事を受け答えてきた。

 

と言うか、そんな遠い所に居るのに俺達の会話が聞こえるのか、地獄耳な奴だな。

 

 

「そ、その様な事を仰らなくても…!!」

 

 

俺は貂蝉に呆れた感情を抱きつつ、思春に視線を移すと必死に否定していた。

 

その際、思春は俺の目に気が付くと、大きくしていた眼から、

 

キリッとした鋭い瞳に早変わりし俺を睨んできた。

 

だが、俺はと言うと思春とは対照的な表情をしているだろう。

 

何故なら、頬を緩みが抑えられないから。

 

 

「なんだ、そのにやけ面は!!?」

 

「いや、嬉しくて、つい」

 

「き、貴様!!」

 

「…思春」

 

 

思春は頬を赤らめ、俺に突っかかる構えを見せるが静止させるようと、

 

蓮華が優しく思春を諭す。蓮華が諭しているその姿、何と言うか独特な雰囲気を

 

醸し出しているのだが、俺はこの雰囲気に似た人に妙に覚えを感じていた。

 

…そうだ。あの人だ。俺は込み上がってくるものを抑えつつ、

 

後方に一瞬、視線を移した。そこで目にするのは墓碑、

 

俺は蓮華に炎蓮さんの面影を感じていた。

 

 

「貴女だって、一刀を心配していた、私の目には、そう映ったわ」

 

「わ、私は別に…」

 

「たまには、素直になっても良いんじゃないかしら。せめて、この瞬間だけでも。

 それにね、貴女自身の心は偽りを欲していないわ」

 

「………」

 

 

思春は口を噤んでしまった。蓮華の言葉、それが思春の隠された琴線に触れたのだろう。

 

長年、連れ添った蓮華だからこそ踏み込めた、氷で覆われた本心に。

 

 

「…北郷」

 

 

思春は身体を俺に向け、目を合わせてきた。先程の好戦的な威圧とは掛け離れた、

 

不器用ながら、曲線的な雰囲気を纏って。そして、その雰囲気の中で、

 

何処か、緊張感しているなと俺は感じていた。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

俺の名を呼んだ後、思春は何も言わず、立ち尽くしたままだ。微動だにせず、

 

動く気配もない。只々、時の歯車が刻一刻と止まる事を知らずに回り続けている。

 

 

「…私は、お前が、無事で良かった…そう、思っている様、だ」

 

 

思春らしい不器用な言い回し、そんな風に思った。

 

でも、それは一瞬、そう思っただけで、振り絞ってくれた本心に俺は…

 

 

「…ありがとう」

 

 

何の迷いもなく、自然に口から感謝の意を溢していた。

 

 

「…私は、もういい。後は蓮華様を…」

 

 

思春は俯いたまま俺に背を向けると、逃げる様に歩き出していった。

 

すると、蓮華と入れ替わる形となり、蓮華が俺の方に向かって来るのだが、

 

二人が交差する瞬間、蓮華は嬉々とした表情を浮かべながら、口を動かしていた。

 

残念ながら思春の表情は窺えないが、蓮華から察するに喜ばしいものなのだろう。

 

 

「あんな顔の思春は初めて見たわ」

 

 

やはり、嬉しいんだ。表情も仕草も、そして雰囲気も明るい。

 

 

「どんな、表情だった?」

 

「流石に思春に悪いから、その問いには答えられないわ。

 どうしてもと言うのなら、自分の目で見る事ね」

 

「それだと、見れない可能性が高くないか」

 

「大丈夫。貴方は思春の心に触れ始めてる。近い将来、確実に見れるわ。

 ねぇ、思春」

 

「そ、その様なお戯れを仰らないで下さい!!」

 

「…ね。脈ありでしょ」

 

 

…まぁ。あれだけ強く反応を示してくれるなら、蓮華の言う通りなのかも。

 

 

「思春様。お顔が赤いですよ。大丈夫ですか?」

 

「こういう時は落ち着くのが一番なのです。

 深呼吸致しましょう、思春様」

 

「…私に構うな」

 

 

思春の口調は強いものの、態度は明らかに弱々しく動揺が見受けられた。

 

その思春は明命、亞莎に話しかけられた事により、更に拍車が掛かっているんだるう。

 

一連のやり取りを目にしていると思春には悪いが、微笑ましく思えてしまう。

 

 

「…良い光景だね。蓮華」

 

「…ええ。そうね。これも一刀が無事なお蔭ね」

 

「…蓮華」

 

 

気が付けばお互い自然に見詰め合う形となっていた。相対している中、

 

ふと蓮華が行動を起こす。近付いて来て俺の胸元に頭をつけてきた。

 

サラサラとした髪の毛、それでいて香水ではない、蓮華特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 

 

「あの時言われた通り、私にしか出来ない事を第一に行動したわ。

 冷静に事を見定め戦場に立てない一刀の為に。でも、心の奥底では悪い予感に

 悩まされてた。一刀を失うかも知れない、内なる恐怖に…」

 

「………」

 

「けどね。そんな恐怖の中でも事を成す事をが出来たのは、

 やっぱり一刀のお蔭なの。だから、ありがとう」

 

「…礼を言わなければならないのは俺の方だよ。蓮華なくして今に至る結果にはならなかった。

 蓮華は皆を守ったんだ。それも、明命達には表情には出さず、

 揺るがない信念の下、士気を下げる事はない将の鏡として、

 そして、雪蓮達には大黒柱を支える精神的支柱の役割を務め、自分を見失わず孫呉を支えた、

 だから、ありがとう。居場所を守ってくれて」

 

「…一刀」

 

 

蓮華が顔を上げ再度、見詰め合う形となる。俺も蓮華も、その後が続かない。

 

只、時の流れに身を委ねているだけ。でも、俺はそんな優しい空間に心地良さを感じていた。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

長く続くかと思っていた心地良い世界に突如、終わりが訪れてきた。

 

雪蓮が俺と蓮華の間に強引に割り込み、俺達二人を引き離した。

 

 

「はーい、止め止め」

 

「うわ!!」

 

「きゃっ!!」

 

 

声をあげる中、そんな行動を起こした雪蓮を見て、俺はふと違和感を覚えた。

 

口調は普段通り明るいのだが、表情に焦りの色が垣間見える。

 

こんな雪蓮は初めて見た。

 

 

「と、所で一刀はどうして此処に…!?」

 

 

声が上ずってる。まぁ、気にしないでおこう。

 

…あれ?蓮華が急に不機嫌になった様な―――

 

 

「蓮華。勘違いなら申し訳ないけど、その……怒ってる?」

 

「…別に怒ってない」

 

 

…明らかに不機嫌だ。若干、頬を膨らませてるし。

 

 

「………ばか」

 

 

…触らぬ神に祟り無しだ。悪いが雪蓮の問いに答えよう。

 

 

「挨拶をと思ってね。

 …助けて導いてくれたんだ。孫堅さんに」

 

「母さんに?どういう事…?」

 

 

俺の不可思議な言動に雪蓮は首を傾げ、他の皆は耳を傾けていたのか、

 

俺を中心として集まり始めた。確かに、可笑しな事を言っていると、自分でもそう思う。

 

けど、夢であろうと助けて貰ったんだ。それに何より、あの出来事は夢だと思ってない。

 

夢想の中の現実、そう捉えている。詳細を伝えよう。皆もあの世界に登場したんだ。

 

何か思い当たる節があるかも知れない。

 

 

「…今から話す事は皆にとって世迷言と捉えるかも知れない。

 でも、俺はこの出来事を列記とした現実である、そう思ってる。

 …助けてくれたんだ。現世と浄土の瀬戸際の世界で」

 

「瀬戸際の世界?」

 

「うん」

 

 

蓮華が問い返す。先程の不機嫌な様相が姿を消し神妙な面持ちになっていて、

 

俺に視線を注いだ。

 

 

「その世界の死別の門って言うのかな。そこに入ろうとする俺を止めてくれたんだ」

 

「しかし、北郷。御主の話を信じぬ訳ではあるまいが、

 本当に堅殿だったのか。それとも、何か確証があって言ってるのかのう」

 

 

祭さんが疑問を投げる。確かに孫堅と聞いていない。

 

でも…

 

 

―――――炎蓮………

 

 

「!!!!!」

 

 

俺がその名を口にしたら、ありありと反応を示した。

 

二代に渡り蓮と連なる真名、やっぱり、炎蓮さんは孫堅さんだったのか。

 

面影があったもんな。三姉妹と…

 

 

「その真名を聞いて俺は、孫堅さんだと確信した。

 だから、俺はここに足を運んだんだ」

 

 

視線を墓碑に向け、思い出しながら語る。出会った時間は短い。

 

いや、時と言う概念がなかった世界だろう、時間では計りきれない。

 

でも、時間で表現すると濃密な時間だった。そう素直に心に刻まれている。

 

感慨深い中、墓碑に陽が当たり地面に影が映し出される。

 

それを見て俺は、炎蓮さんの残影を思い出していた。

 

 

「そっか、母さんは一刀を助けてくれたんだ」

 

 

雪蓮が隣に来て俺と同じ様に墓碑を見詰めている。

 

 

「…炎蓮さんだけじゃなかったんだ。俺は不可思議な世界でも皆に助けて貰った。

 あの世界で記憶を失った俺に、記憶の花を再び咲かせてくれた」

 

「…うっすらとだけど、私の中で覚えがあるわ。舞い散る雪の中、

 私は一刀に向かって何か言葉を発した様な…

 何を言ったかまでは覚えてないし、母さんが居たかどうか」

 

「そっか…」

 

 

繋がっていたんだな。俺達は。どんな世界でも、どんな苦境な状況でも、

 

決して切れない、共に想う絆で…

 

 

「…なぁ。皆で炎蓮さんに黙祷を捧げようよ」

 

 

そう提案すると皆は了承する。皆一同、姿勢を正す。

 

そして、俺は…

 

 

「黙祷!!」

 

 

高らかと声を出し天まで届け、そんな想いと共に感謝の念と、

 

決意表明を墓碑に向かって念じた。

 

 

…炎蓮さん。貴女に代わり俺が皆を支えます。貴女の様に戦場で

 

武威を示し皆を支える事は困難でしょう。ですが、俺は俺のやり方で支えていきます。

 

俺にしか出来ない方法がある筈ですから。なので、炎蓮さん。

 

安心して下さい。

 

 

…黙祷を終え、瞑っていた目を開眼そしめると、

 

後ろから野太い声と、爽やかながらも情熱を帯びている声が俺の名を呼んでいた。

 

 

「北郷!!」

 

「あらん。華陀ちゃんと卑弥呼じゃない」

 

 

俺が応えようとする前に、貂蝉が声の主の名を口に出した。

 

…そう言えば、今回の件で貂蝉には大きな借りを作ったな。

 

後で何か恩返し、しないといけないな。

 

 

「華陀に卑弥呼、二人共来てくれたのか」

 

「ああ、俺も孫堅さんに挨拶を、と思ってな」

 

「まぁ、儂も似たようなものじゃ」

 

 

そう言うと卑弥呼は貂蝉に近付き、小声で何やらやり取りを始めた。

 

そんな最中、徐に華陀は、二人を気にせず雪蓮に話しかける。

 

 

「そうだ、孫策。少しの間、寝泊り出来る一室を借りたい。

 暫く、周瑜の治療に専念できる環境が欲しいからな」

 

「ええ、良いわよ。少しの間とは言わず、ずっと常駐してくれても構わないわ。

 貴方は一刀の命の恩人なんだし、相応の持て成しはさせて貰うわよ」

 

「その申し出はありがたいが、それは出来ないな。この大陸には

 俺を必要としてくれている人が大勢居る。それに俺は根無し草の方が性に合ってるよ。

 でも、暫くは世話になる。と言う訳で、よろしく頼むな、周瑜」

 

「こちらこそよろしく頼む。私も誰かに感化され、以前よりも

 生に執着しているからな。病巣など、直ぐに蹴散らしてみせるさ」

 

 

俺に向かって、視線で合図する冥琳。その視線を受け俺はわざとらしく

 

肩を竦め、息を漏らす。すると冥琳は俺と同じ様に苦笑し息を漏らした。

 

 

「ご主人様」

 

 

冥琳とのやり取りの中、不意に貂蝉に話し掛けられる。

 

後方には卑弥呼が居り、先程の密談を終え、顔付きが精悍なものとなっていた。

 

 

「先ずは、おめでとう。と言うべきなのかしらん。

 最高の形………ではないけれど、共に未来を歩めるという事には成功したのだから」

 

「…貂蝉、卑弥呼、華陀の力添えがなければ、この景色は見れなかった。

 礼を言うのは俺の方だよ。ありがとう、貂蝉」

 

「別に良いわよ。私も楽しめたし。それで、ここからは大事な話」

 

「……?」

 

「この外史は新たな外史として、創生されたわ。今までは大きな幹の下、

 枝分かれした複数の中の一つの外資だった。でも、今は、

 その枝から花が咲き、種子が飛んで若芽の息吹と共に大木になろうとしつつある。

 もう、管理者の老人達の意向から離れた新たな外史よ」

 

「…待ってくれ。それじゃあ、この世界は消滅してしまうんじゃないか」

 

「その点は大丈夫よん。管理者とは言い難い異端者がいるから。

 ねぇん、卑弥呼」

 

「うむ。そうじゃな」

 

 

ああ、成る程、確かに異端者だな。

 

 

「…あまり驚かさないでくれ。でも、それを聞いて安心したよ」

 

「ごめんなさいねん。それと、もう一つだけご主人様。

 向こうの北郷一刀が介入して、今のご主人様は記憶を共有している状態だけど、

 それは、徐々に薄まり、最終的はなかった事にされ、他外史に関わる記憶を

 消去させられるわ。謂わば、これは外史の修正力。

 常軌を逸脱した方法に外史からの…様はペナルティねぇ」

 

「うん?管理者の手から離れたんだろう。なら、そんな力は働かないんじゃないか」

 

「それは、違うぞ。北郷一刀」

 

 

その問いには自分が答える。そんな迫力を俺に見せつけながら、

 

卑弥呼は口を動かした。

 

 

「これは外史そのものの意思、管理者の意向など、そこには一切ない。

 言うなれば、世界の禁忌に触れた為、外史が緊急措置を施したと思って頂きたい」

 

「…そうか」

 

 

確かに、予想もつかない大それた事が起きた。他外史の俺の介入、

 

そして、運命を変えた事、それ位の措置は妥当か。

 

むしろ、何もない事がおかしいな。

 

 

「…二人は、これからどうするんだ?」

 

「儂は、このまま滞在させて貰うぞ。

 ダーリン居る所に儂在りじゃからな。ガッハッハ!!」

 

「…くれぐれも、人目につく所には行かないでくれよ。

 卑弥呼を見て、民が倒れるかも知れないからな」

 

「……どういう意味じゃ、北郷一刀」

 

「あ、いや」

 

 

…やばい。思わず藪を突っついてしまった。何とかして機嫌を取りにいかないと、

 

ここは、えっと……

 

 

「ひ、卑弥呼が意図せずに皆を魅了してしまうかも知れないだろう」

 

「…ふむ。漢女道を極めた儂なら、その可能性は大いにあり得るわい。

 よかろう、貴殿の言う通り大人しくしてやるわ。それに、

 魅了する男は一人で十分じゃ」

 

 

そう言うと卑弥呼は頬を染めながら、華陀を見詰めるが、

 

肝心の華陀はと言うと、その熱視線には気が付かず虚しくも空振りとなった。

 

その一部始終を端から観ていた俺としては、気持ち悪いの一言、

 

華陀に同情を禁じえなかった。

 

 

「ご主人様。私は向こうの北郷一刀に報告にいくわん」

 

 

…そうだ。俺にはコイツが居たんだ。何て厄介なんだろう。

 

と、それはそれで置いといて、向こうの外史か…

 

 

「そっか…貂蝉、済まないが俺の変わりにお礼を頼みたい。

 奇妙な言い回しだが、向こうの俺に感謝してるから」

 

「わかったわん」

 

 

…今はもう、あの時の、頭に響いたあの声は聞こえない。

 

最後に聞いたのは夢想の世界、あんな状況でも俺に力添えしてくれ、

 

俺を助けてくれたんだ。感謝してるよ。本当に…

 

 

「と・こ・ろ・で、ご主人様ぁん♪」

 

 

感慨に浸っていた俺に貂蝉が話し掛けてくる。

 

…何だか、凄く嫌な予感がする。悪寒も走ったし、鳥肌になっているのがわかった。

 

 

「な、なんだ」

 

「どぅふふ。今回、私は大車輪の活躍を見せたわよねぇん」

 

「あ、ああ。確かに貂蝉の協力無くしては、こう言った結果にはならなかったよ」

 

「な・ら、ご褒美が必要だと思わない?わ・た・し・に♪」

 

「…ご褒美……だと」

 

 

…一体何を要求するんだ。やばい、汗が噴出してきた。

 

 

「流石は貂蝉じゃ。利用できる事は利用する。色恋は戦争、それを弁えておる」

 

「あら、やだん。そんなに褒めないでよ、卑弥呼」

 

 

褒めるべき事なのか!!明らかに弱みに付け込んでいるじゃないか!!!

 

 

「ご主人様も、そんな顔をしないで、何も難しい要求をする訳じゃないから」

 

 

…む、そうなのか。なら安「抱き締めて欲しいのよん」心――――

 

 

「は?」

 

 

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 

「俺が?誰に??」

 

「決まってるじゃない。わ・た・し・に・よ♪」

 

「………」

 

 

やっぱり無茶な要求じゃないか!!俺が貂蝉を抱き締めるだと、無理無理、

 

あの気色悪い紐パン筋肉達磨なんかと、想像しただけでも、吐き気を催す。

 

けど、断る理由が見当たらない。今回は本当にお世話になった恩がある。

 

それを覆す、なかった事にはできないし、そんな気は俺自身、更々ない。

 

…なら、答えは一つしかない、か。

 

 

「…わかった。そのご褒美をやろう。けど、それ以上の事は無しだからな」

 

「ええ、わかってる。いけない、テンションが上がってきたわ。

 ぶるああああああああ!!」

 

 

俺は、内心、嫌々ながらも了承と言う選択肢を決定した。

 

対称に貂蝉は感情を包み隠さず、嬉々としていて変なテンションになっていて、

 

それを見て俺は、更に気分が萎えてしまった。

 

 

「ささ。善は急げ。早速ヤっちゃいましょう。ご主人様」

 

 

…良い事ではないと思うんだけどなあ

 

 

「…わかったよ」

 

 

何時でもどうぞ、と言わんばかりに両手を広げ、俺を待ち構える貂蝉。

 

…覚悟を決めるか。えーい、南無三!!!!

 

いざ!!貂蝉を抱き締めようとすると…

 

 

「うわ!!」

 

 

後方から、重みを感じ突如、引き止められた。予想外の出来事に俺は混乱し、

 

何が起こっているのか、わからないまま成り行きに身を委ねていた。

 

 

「悪いけど貂蝉。こればっかりは認められないわ。貴女には恩があるけど」

 

「そうそう。一刀がアンタみたいな奴に抱きつくなんて見たくもないし、

 許されないわ」

 

「…はっ!?」

 

 

我に返ると、とある二人に抱き寄せられていた。一人は雪蓮、

 

もう一人はシャオだった。引き寄せる力が段々と強くなっていき、

 

肌の感触がより鮮明になっているのが分かる。

 

目の前に居る貂蝉はと言うと、楽しみにしていた分、邪魔をされて

 

これ以上ない位、憤慨していた。

 

 

「ふんぬうううう!!なーにしてくれちゃった訳、アンタ達!!!!」

 

 

そんな凄みがある貂蝉に雪蓮とシャオは、全く動じず、

 

むしろ、気に留めないで二人で何やら話していた。

 

 

「私と同じ行動を取るなんてやる様になったじゃない、シャオ」

 

「当たり前だよ。一刀は私のものなんだから」

 

 

…もの扱いですか。

 

 

「ちょ、ちょっと姉様、シャオ!!一刀が困っています!!お離れ下さい!!!」

 

 

蓮華が声を荒げながら、俺達に割り込んできた。

 

けど、二人は一向に離れようとはしなかった。

 

 

「お姉ちゃん、五月蝿い」

 

「まぁまぁ、落ち着いて、蓮華、そんな事よりも大切な話があるの」

 

「私は落ち着いてます!!!!」

 

「聞きなさい。家督を譲るわ、蓮華に…」

 

「えっ?ええええええ!!?」

 

 

蓮華は大声を発し驚いた。

 

正に青天の霹靂、そんな言葉に最も適している状態となってしまった。

 

 

「お、お待ち下さい!!私には無理です」

 

「いいえ、私は確信しているわ。此度の件で蓮華の頼もしさを感じたし、

 何より、私に出来なかった事が、蓮華に出来ていた。

 どんな状況下でも冷静に、自分を見失わず孫呉に尽力した。

 私は熱くなる性格だから、きっと君よりも、一、将軍の方が適正なのよ。

 蓮華なら私よりも名君になれるわ。皆はどう思う?」

 

「…雪蓮がそう感じたなら異論はないな」

 

「儂も同意見じゃ。大いに結構」

 

 

誰も異を唱えなかった。皆、知っているんだ。

 

成長を遂げた蓮華に更なる可能性を秘めている事に…

 

 

「蓮華、私は安心して貴女に託せるの。大丈夫、だって母さんの子なのよ」

 

「ね、姉様だってそうじゃないですか!!」

 

「おっと、そうだった」

 

「もう………一刀はどう思う?私に務まると思う?」

 

「…大丈夫。蓮華なら、この大役立派に務められるよ。

 でも、苦しいと思ったら、何時如何なる時でも俺を頼ってくれ。

 蓮華を支えるからさ」

 

「…うん。凄くうれしい。ありがとう、一刀」

 

「どう致しまし…!!ん!!ん〜〜〜〜!!」

 

「か、一刀!?」

 

 

急に雪蓮が素早く俺の首に腕を回して、胸元に引き寄せてきた。

 

強く強く引き寄せている為、魅力的な双丘の感触が直に伝わってくる。

 

 

…!!

 

 

あ、まずい。さっきの卑弥呼の比じゃない位、嫌な予感がする。

 

俺って、此度の件で危機察知能力が長けたのかな。

 

しかし、苦しいと思ったのは俺の方が先だった。

 

って、考えてる場合じゃない!!

 

 

「ん!!ん〜〜〜〜!!」

 

「あん♪もう、一刀ったら暴れないの」

 

「か、一刀をお話下さい、姉様!!」

 

「あ〜。お姉ちゃん、ズルイ!!私も〜」

 

 

抵抗しても無駄、俺の力では解放など夢のまた夢だった。

 

それに、対抗してか、シャオまでも更に強く抱きついてくるし、

 

もう八方塞だ。

 

 

「という訳で、蓮華が孫呉の長になるのは決定ね。後、蓮華、もう一つ。

 一刀、あげるの止すわ。私の婿にする」

 

 

あ、空気が張り詰めた様な気がする。

 

 

「な、なな、何を仰っているのですか、姉様!!」

 

「だって、こんな良い男、大陸見渡しても居ないんだもん。

 それに私は、一刀に惚れちゃった♪」

 

「何言ってるの、お姉ちゃん。一刀は私の婿なんだからね!!」

 

 

決定事項!?

 

 

「シャオまで…!!」

 

「はうわ!?し、雪蓮様の婿だなんて!!」

 

「ど、どうしよう。明命」

 

「何を憂いでおる。明命、亞莎」

 

「祭様」

 

「色恋において、下剋上大いに結構、儂も参加するぞ!!」

 

「私も。押して参りますよ〜。突撃〜」

 

「あ、祭様、穏様!!…行っちゃった」

 

「私達も参加するのです。亞莎」

 

「明命!?」

 

「…一刀様への想いは誰にも負けていない筈、

 それに、お互い負ける気もない筈なのです!!」

 

「…そうだね。行こう、明命!!」

 

「明命、それに亞莎まで…!!」

 

「…皆、あ奴の不思議な魅力に惹かれたのです」

 

「思春」

 

「うっとおしいと思っていたのが、何時しか心に楔を打ち、

 見逃せない男になっていた。そういう男なのですよ」

 

「…随分と饒舌ね。一刀の事なのに」

 

「…素直になれと仰ったのは、蓮華様ですよ」

 

「えっ?」

 

「…冗談です。では、私はこれで」

 

「貴女が冗談を言うなんて、初めて聞いたわよ。

 それに、ちゃっかりと参加しているし」

 

「ちょ、ちょっと皆、近いわよ…!!」

 

「何を言うとろう。策殿が北郷を放せばすむ事じゃ」

 

「う〜。狭いです」

 

「大丈夫ですか?亞莎ちゃん」

 

「これ位で、へこたれちゃ駄目なのです!!」

 

「ふんぬ〜!!何、アタシのご主人様を好き勝手にしているのよん!!」

 

「黙れ、筋肉達磨」

 

「もう、皆邪魔!!」

 

「と、取り敢えず、皆、落ち着いてくれ。雪蓮も俺を放して…むぐ!!」

 

「……離れて…一刀は…一刀は私の夫になる人なんだから離れなさい〜!!」

 

 

うわ!!蓮華まで参戦して…しめた!!蓮華に気を取られて雪蓮とシャオの力が弱まった。

 

今の内に……

 

 

俺は身を屈め、何とか脱出に成功した。後ろを振り返ると大乱闘、

 

誰も俺が抜け出した事に気が付いてない。

 

やれやれ天国と地獄、両方を一遍に味わった気分だ。

 

 

「…無事か北郷」

 

 

冥琳が手を差し伸べてくれる。今日で二度目だ。

 

俺はその好意に甘え手を掴み立ち上がる。

 

 

「ありがとう、冥琳」

 

「ああ。しかし、無法地帯だな、あれは」

 

 

俺は苦笑を漏らす、発端が俺という事で嬉しい気持ちがある反面、

 

一人だけ帰ってくれと思ってしまう。

 

 

「ふんぬぬうううううぅぅ!!!!」

 

 

言わずもがな、アイツだ

 

 

「モテモテだな、北郷。それにしても周瑜は参加しなくていいのか?」

 

 

華陀と卑弥呼が俺達に近付いてきた

 

 

「…私は根っからの軍師気質でな。漁夫の利を得る事にしたよ」

 

「…成る程、流石は稀代の名軍師じゃな。ならダーリン」

 

「うん?」

 

「我々は立ち去ろうぞ」

 

「あ、ああ。済まない周瑜。気が回らなかった。

 それじゃあ、俺達は一足先に帰るとするよ。またな」

 

 

華陀と卑弥呼は足早に立ち去っていった。あんな成りしてるのに、

 

気遣いが出来るんだな。漢女道、侮るべからず、なのか。

 

何て考えていると、冥琳が寄り添ってきて、腕を組んできた。

 

 

「…たまには、な」

 

 

俺が何を言うか分かりきった顔をしながら、先を取った冥琳。

 

俺は一瞬俯き、目を瞑りながら口角を上げ、その仕草を終えると目を開けた。

 

すると、視界には蓮の花弁が舞っていた。不思議な光景だった。

 

蓮の花の命は四日間、時間的にも有り得ない事象。

 

しかも、風は流れてなく、蓮の花が空から降り注いでいた。

 

 

「これは…!!」

 

 

隣にいる冥琳も驚いていた、いや、冥琳だけじゃない。

 

ここに居る全員が驚き、諍いを繰り広げていた皆も、それを止め

 

俺に集まった。

 

 

「一刀」

 

「…炎蓮さんだ」

 

「えっ?」

 

「炎蓮さんが、蓮の花弁を降り注いでるんだよ、雪蓮」

 

 

何となく、そんな気がした。確証なんて勿論ない、でも確信していた。

 

 

 

―――――孫呉を頼むよ、坊や、いや、一刀―――――

 

 

 

…はい。貴女の気高き魂を胸に守っていきます。

 

 

花弁舞う雲一つない蒼天の空に、炎蓮さんの幻影が俺の目には映った。

 

その幻影に俺は再度誓いを立てた。あの時、雪蓮が俺を空と例えた様に、

 

太陽も月も星々も輝ける、そして守っていける様にと……

 

 

「…って言うか冥琳、何、一刀と二人きりになってるのよ」

 

「何、端から観ていて見苦しかったからな。漁夫の利を得たまでだ」

 

「うぐ!?い、言うわね。冥琳」

 

「ねぇ、一刀」

 

「うん?」

 

「もし、母さんが居たら……好きになってた?」

 

 

蓮華からの問い、これに興味を示したのか、皆の視線が俺に集中する。

 

 

「………さて、どうかな。まぁ、雪蓮、蓮華、シャオに似て美人だったから

 その可能性は否めないかな」

 

「…!!」

 

 

してやったり、名を口にした三人は頬を紅く染めた。俺はその表情を楽しみ

 

一歩を踏み出して帰路の一途を辿る事にする。そして…

 

 

「あ、待ちなさい一刀!!それって…!!」

 

「また、北郷の悪い癖が現れたか」

 

「やれやれ、相変わらず、あやつは北郷一刀じゃな」

 

「そうですね〜。でも、英雄色を好むと仰いますし」

 

「一刀が母様を、複雑だわ」

 

「まぁ、元気だしなよ、お姉ちゃん」

 

「…やはり、アイツは大馬鹿者だ」

 

「でも、何だか凄く大人な雰囲気って感じがします」

 

「私も、その様に感じました。一刀様、素敵なのです」

 

「ああん。ご主人様、相変わらずなのねん

 でも、そんなご主人様が、ぶるあああああ!!!」

 

 

追随してくる皆。

 

 

ここからが、ここからが新たな始まりだ。これから先、どんな障害が訪れたとしても

 

俺達ならそれを乗り越えられる。だって今、俺がここに存在できているから、

 

だから最後に全ての人にこの言葉を送りたい。

 

皆本当に、本当に

 

 

 

 

―――――ありがとう―――――

 

 

 

 

説明
こちらは真・恋姫†無双の二次創作でございます。
途中間隔が空いてしまいましたが、いよいよ最終回です。
ここまで拝読してくれた全ての人に感謝しています。
本当にありがとうございました。
後編と言っても、配分を間違えた為、凄く長くなっています。
(中篇に分けようか悩みました)
ゆっくり時間が空いたときにお読み下さいね。
重ね重ね本当にありがとうございました!!
最後に稚拙な文章、展開がおかしい所があるかもしれません。
宜しくお願い致します
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コメント
ケフカ・パラッツォさん>ありがとうございます!!読んで頂けて嬉しい限りです〜(南無さん)
いやー、楽しく見させてもらいました!!完結おめでとうございます!!(ケフカ・パラッツォ)
オタさん>ありがとうございます!!何とか終わらせる事ができました〜(南無さん)
完結おめでとうございます!!そしてお疲れさまです♪(オタ)
himajinさん>ありがとうございます!!幸せになってほしいですよね。でも既に幸せなのかも、だって一刀が居るんですから!!(南無さん)
完結おめでとうございます、連載お疲れ様でした? 最後はハッピーエンドで本当によかった。呉のみんなには幸せになってほしいですね。(himajin)
未奈兎さん>長期に渡り読んで下さってありがとうございます!!またよろしくです〜(南無さん)
naoさん>ありがとうございます!!バッドエンドよりハッピーですよね!!途中まで悩んだ時期ありましたけど〜(南無さん)
睦月さん>ありがとうございます!!雰囲気は変わっても、やはり中身は一刀なのですよ〜(南無さん)
本郷 刃さん>ありがとうございます!!途中間隔が空きましたが失踪せずに良かったです〜(南無さん)
げんぶさん>お久しぶりです!!ようやくラストに漕ぎ着けました。いやー長かったです。コメントありがとうございます〜(南無さん)
長い連載お疲れ様でした!(未奈兎)
完結おめでとうございます〜!最初は一刀が死んでバッドエンドになるのかと思っただけにハッピーエンドでよかったです!(nao)
完結おめでとうございます。一刀は雰囲気が大人ぽっく変わっても一刀ですね〜(睦月)
完結おめでとうございます、本当にお疲れ様でした! この外史のこれからの一刀と呉の恋姫達に幸があらんことを!(本郷 刃)
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