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 夢なんて、大体相場が決まってる。

 どうせ、あの暗くて、おどろおどろしいところで、傷つき、もがき苦しんで、目を覚ます。

 もう幾度となく経験したから、今更驚かないし、目を覚ました後でも、ああ、またあの夢か、くらいにしか思わない。

 

 あの悪夢を見たから寝覚めが悪いということもなく、起きればすぐに、無意識のうちに、頭の中からたたき出して、ベッドを下りる。

 そんなことが恒例となっている。

 他の娘は知らない。わざわざ話したことはないし、自分がそうなのだから、周りも多かれ少なかれそんなものだろうと思う。

 だから、あの娘のおののき方を目の当たりにして、正直驚いた。

 

 夜中に突然、大声を上げて、泣き叫んで、許しを乞うた。

 目を覚ました後も、私の腕の中で嗚咽し、いつまでも震えを納めることができなかった。

 それが、何を意味するのかは、もちろん私にはわからない。前世に引きずられているのか、今世においての失敗が閃いたのか。それとも、また全く別の何かなのか……。

 ただ、私はそのこと自体に興味はなくて、目の前の状況が収まれば、それでいいと思っていた。いや、今でも思っている。

 だから、優しく囁いてやる。大丈夫よ、と

 だから、腕も胸も、貸すことに吝かではない。何だったら、もし肌のぬくもりが効果覿面だというなら、肌を重ねてもいい。

 そうして、眠りについて、朝までぐっすりしてくれたら、それで十分だ。

 

 同じことは、何度も何度も起こった。あの娘も、別のあの娘も、また他のあの娘も。

 

 嚮導という、先達の務め。

 私より後に来た娘達を、教え導き、一端の艦娘にしていく。その役目を負っているから、仕方ない。

 だから、いくら真夜中に叫ばれようが、寝入り端を叩き起こされようが、私はその役目を全うする。私の守備範囲を越えたら、そこから先は関わらない。越権なんて後々面倒なだけ。そこまで面倒見切れない。

 落伍する者を、何の問題もない者達に不自由をさせてまで、引き上げることなんてしない。いや、そもそもできない。それは、私の権を越える。

 幸い、後輩達は皆優秀で、その心配は今までのところなさそう。

 悪夢に振り回される娘も、幾度目かにはそれを克服していく。

 そうだ。悪夢なんて、所詮夢まやかしなのだ。今は、うつつに全神経を集中させなければいけない。夢にまで手をかける余力などない。

 そう、思っていた。

 

 ある時期を境に、がむしゃらにやってきた今までと違って、余裕ができた。

 有能な戦力がそろい、組織だって動けるようになって、時間ができたことで、今まで考えなくて良かったことが、次々と鎌首をもたげて、襲ってくる。

 そして、自分は、私は、正しい選択をしたのか、それとも間違ったのか、そんなことまでついつい考えてしまう。悔いているわけではないが、どうだったのだろうか、と。そんなとりとめもないことを考えていると、相方がくすりと笑っている。

 らしくない、と言わんばかりの微笑みに、ため息で返す。

 こっちは、余計なことまで考えなくちゃならなくなったのよ。

 そうしたら、唐突に、夢を見ました、と言ってきた。

 例の夢かと思ったけれど、どうやら様子が違う。どんな夢だったのか、と聞き返せば、とてもいい夢でした、と返ってくる。

 

 いい夢、か……。

 

 はい、いい夢です。

 

 夢って、何だっけ?

 

 そうですね、昔のことと、今のことと、これからのこと、でしょうか。なんだか、そんなことを言ってくる。

 なるほど、と曖昧に返す。

 では、いい夢、とはこれからのことなんだろう。それがただの夢物語で終わらなければいい。そう思う。

 

 夢では終わらせません。

 

 力強く、言う。言霊というものがあるとすれば、今の雪風の一言程似合う言葉はないだろう。

 そして、臆面もなく続ける。

 そろそろ初風ですね、と。

 

 初風は、実りをもたらします。

 

 どうやら、まだまだ働け、感傷に浸る暇はない、ということらしい。

 そうね、という私の言葉は、一陣の風に吹かれて、空に消えていった。

説明
第七回 #陽炎型版深夜の真剣創作60分一本勝負 お題「夢」
に則って書きました。
初風。
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