双子物語64話
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双子物語64話

 

【雪乃】

 

 色々あって久しぶりに熱を出してしまった私は大学を休み、しっかり治してから

取った講義のある日にエレンと一緒に大学へ向かった。

出られなかった分のノートを仲良くなった子に見せてもらいながらがんばって勉強する。

 

 この講義を教える先生は厳しくて有名らしく、真面目にやろうとする人は限られていて

何だか勿体ないなぁと思えた。講義が終わり、私はすぐに先生の元へ近づいてわからない

所を聞きにいった。

 

 すると先生は驚きながら感心したように私のことを褒めてくれた。

 

「最近、聞き流すような生徒が多くて困るわね」

 

 苦笑しながらもう慣れたかのように言うと、私の講義に対する質問に答えてくれた。

少し白髪混じりの強面な少しお年を召した女性の教授だった。

 

 だけど、話をしているうちに徐々に内面にある優しさを何となく感じられて

私の中でこの先生の印象が良くなっていた。

 

 それからしばらくして本日一通りのことを済ませると私はエレンを連れて

歩いていると人気の少ない通路に出てある場所に着くと立ち止まった。

 

 創作活動をメインにするサークルがある部屋。

 

 そんなサークル活動をする部屋に私は顔を出すとそこには前にはいなかった部員と部長。

そして美沙先輩の姿があった。

 

「やはろー、ゆきのん」

 

 先輩は明るく私に気付くと手を挙げて軽い感じで挨拶をしてきた。私も同じようにとは

いかないまでも自分の中で比較的明るいように挨拶をした。すると、先輩は。

 

「相変わらず堅苦しいね」

「そうですか? まぁ、先輩方ですし、それくらいがちょうどいいでしょう」

 

 まだ顔を合わせてなかった先輩たちと軽く挨拶と自己紹介をしてから部長から

活動内容を聞くと。

 

「自由だよっ」

「へっ?」

 

 思ったより子供が言うような口調で返されて私は頭に「?」が浮かんでつい聞き返すと。

 

「自由だよ。ほら、文字や絵を書くのが苦手な子は読書専門として活動してるし。

そういう子は後で感想や話の改善や妄想等々。創作に関われそうなことなら何でもいいの」

「は、はあ・・・」

 

 あまりにも自由過ぎて言葉を失う私に部長さんは。

 

「あ、でもイベントなんかの時期が近づいたらそれなりに方針はあるから、そこだけは

みんなでがんばらないとね」

「わかりました」

 

 なるほど、良い意味で自由そうだ。書くことに向いていない、意欲がない人は

他のことでサークルに貢献しているわけだ。

 

 振り返るとエレンと先輩たちが楽しそうに本の内容を見て話し合っているのを見ると

そういうのも悪くはなさそうだ。

 

 その後、サークルの先輩方から話を聞いてこれから物書きをしようとするための

情報と得ながら交流をして有意義な一時を過ごせた。

 

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**

 

 治してからすぐに行ったけれど、何事もなく活動を終わらせて帰ろうとしたとき、

エレンと一緒にいる私に美沙先輩が声をかけてきた。

 

 先輩に言われてついて行くと、あまり人が多くない外に私たちを連れてきてから

少し申し訳なさそうな表情で私の前で先輩は頭を下げた。

 

「な、何をしてるんですか」

 

 いきなりの行動に驚いて思わず声が詰まってしまう私。

エレンは私は居ないから安心して話しててねと言わんばかりに近くにあった木の陰に

隠れて何度も勢いよく頭を上下させていた。

 

 私は溜息を吐いて先輩の方に視線を戻すと。

 

「ごめん、彩菜ちゃんから聞いて熱だしたって。もしかして私のせいかなって思って」

「まぁ、全くないわけじゃないでしょうけど・・・。私も環境変わって疲れてましたし」

 

 先輩の謝罪はすごい今更感があったけど、熱出して以降は今日会うのが最初だし、

多分色んな人の前で頭を下げることに抵抗もあったからだと推測した。

 

 プライドとかそういうのではなくて単に私に対して真摯に向き合うために敢えて

ここまで待っていたのだろう。二人きりになるために…。まぁ、エレンはいるけれど。

 

 そんな先輩に私は、仕方ないことですよって声をかけると木の陰からエレンが

目を輝かせてこっちを見ているような気がしたが、あえてここは無視することにした。

 

「許してくれる?」

「許すも何もないですよ。これは私の問題ですから」

 

 そうして話が一段落するとエレンも私たちの傍に寄ってきて笑みを浮かべていた。

 

「チョー、ドキドキした〜」

「何かエレンがいると場の空気が一気に弛緩するわね」

 

「エヘヘ、褒められてモ何もでないヨ」

「褒めてないけどね」

 

 そんな私とエレンのやり取りに先輩のツボに入ったのか、楽しそうに笑っていた。

それを見ていると、やっぱり先輩は笑顔でいる方が素敵だなと思えた。

 

「ところで、前回の今日で悪いんだけど。私の話考えてくれた?」

「ほんとに反省してるんですか、先輩…?」

 

 私が怒ってないとわかった途端にこの人は…半ば呆れていると。

 

ピロピロピロリン♪

 

 先輩と話をしている途中で軽快な音で携帯電話が鳴る。今流行りのスマフォではなく

最低限の機能がついていればいい昔から続くタイプの携帯電話を使用している。

 

 新着にメールが着てるのを確認して見ようとすると、私の背中から先輩が抱きついて

きた。

 

「だって叶ちゃんとは連絡取ってないんでしょ?

だったらあまりにも寂しいじゃない。少しだけでも私と・・・ん?」

 

 抱きつきついでに私の携帯を覗き込む先輩は言葉を途中で切って驚きのあまり

言葉を失っていた。メールの相手は叶ちゃんだったからだ。

 

「え、だって連絡取らないって・・・え・・・?」

「恋人としてだったり、ただのお喋りだったり。そういうのを禁止したんですよ。

本当に自分がするべきことを見つけて、目的に向かって進めてる時。

報告としてくらいなら連絡してもいいと思ったんです」

 

「中途半端だねぇ」

「私もそう思います・・・けど・・・」

 

 叶ちゃんの部活をしている画像と中に書いてある文章。

ただの報告だけで他には一切私に対しての言葉は乗ってないけれど、

その真っ直ぐ進めてるのが感じられて私は少し胸の辺りがドキドキしていた。

 

「先輩、私もね。人間なんですよ」

 

 いくら強気でいられる人間でも弱い時だってある。離れて初めてそう思えた。

私はそのメールの画像を愛おしく見つめながら呟いた。

 

「うん・・・」

「先輩みたいに完璧になれませんでした」

「私だって完璧になんてなれないわよ」

 

 そう言って先輩は抱きしめる手に少し力を込めていた。

 

「私にとってあの頃が一番輝かしくて愛おしい時間が詰まっていたから。

その時には感じられなくても、離れてから気付くものね。大切なことを」

「はい・・・」

 

 途中、先輩の声が少し涙ぐんでいたような気がしたけれど私は気づかない振りをした。

しばらくの間、私は振りほどこうとはせずにそのままにしていた。

 

「まぁ、そういうことなので。先輩諦めてください」

「やだ」

 

「やだってそんな子供みたいな言い方」

 

 すっかり二人共落ち着くと少し距離を空けてから私は先輩に告げると先輩は口を

尖らせながら子供のように拗ねた。

 

「今の時代、浮気は当たり前なのよ!」

「そんな当たり前は嫌です」

 

「じゃあ、愛人でいいので」

「妥協してるようで妥協してないですよね、それ」

 

「くそう・・・」

「ふふっ、仕方ない先輩ですね」

 

 どうにかして私に近づこうと必死になって言葉を探す先輩の姿を見てつい笑ってしまう。

これまでずっと持っていたカリスマ性があったせいで気付かなかったのか気付けるほどの

余裕がなかったのか。随分と子供っぽく可愛らしい一面が見れた。

 

 そういえば、何事も一生懸命なところが一番輝いている叶ちゃんに似ているのかも

しれなかった。だから私は先輩のこともどこか好きでい続けられているのだろう。

 

「そうですねぇ、恋人としてはダメですけど。高校の時にできなかったことを

していきたいですね」

「エッチとか!?」

 

「普通に遊んだりとかですよ・・・!あんまりふざけると怒りますよ!」

「あはは、冗談冗談。でもま、話の落とし所はそこかもね〜」

 

「全くこの人は・・・」

 

 ふざけていても愛嬌があるせいか憎めない部分があって、呆れながらも

つい許してしまえる雰囲気を持っていた。

 

「さて、今日はこの辺にしましょうか。引き止めて悪かったわ」

「いえ、こちらこそ気になってたことだったんで」

 

 そう言って一人歩き出そうとした時、私はふとあることを思いついた。

 

「今日だけ・・・」

「ん、どうしたの。雪乃」

 

「今日くらいは一緒に手繋ぎながら帰りましょうか・・・」

「え!?いいの!?」

 

「今日だけですよ」

 

 私の言葉に大喜びしながら先輩は私の手を握ってくる。

その近くで羨ましそうに見ているエレンに気付いた私は空いた手をエレンに

伸ばして誘った。

 

「私モいいノ?」

「もちろん」

 

 そうして両手が埋まり、二人の距離が直に縮まって温もりを感じながら

停留所まで歩いていった。そこで先輩とはお別れ。前回もそこで終わっていたから。

 

「やっぱり私も雪乃たちのアパートに引っ越すの検討しようかしら」

「もう、そんな軽い気持ちで・・・」

 

「あはは、そうだよね。でも私にとっては大切なことだから」

「はいはい、わかりました」

 

 そう言ってからバスに乗って席について少ししてからバスは動き出した。

ここまではいつもの光景で、途中バスの中でエレンが寝ていることに気付く。

さっき手を繋いだのがよかったのか、たまたまなのか。エレンが私の手に何度も

触れてきたから握ってあげると、すごく可愛らしい笑顔を浮かべて、

だけど少し寂しそうにママと呟いていた。

 

 何かあったかはわからないし、聞かないけれど。少しでもお互い

気持ちよくいられるのならこれくらいはしてあげてもいいかもと思えた。

彼女の手は暖かくて柔らかくて握っていて心地良くて。

 

 疲れがあるせいか私も眠くなって危うく寝過ごして目的地に降りるのが

遅れてしまうところだった。

 

 新しい生活は大変で慌しく過ぎていくけれど、こうやって和める時間もあるなら

悪くはないと思えるのだった。

 

 

説明
再会をした先輩の新しい一面を見て雪乃の気持ちが少し揺らぐ。厳しいことを言っていたけどちょっと妥協してしまっている雪乃の明日はどっちだ! そういうことだってあるよね、人間だもの。
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