双子物語65話〜小鳥遊叶編
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双子物語65話

 

 少し未来の叶の話。

 

【叶】

 

「はぁぁぁ!」

 

 ドスンッ

 

『一本!』

 

 高校柔道の大きな大会。勝ち進んでいった私は決勝戦で相手の選手と良い勝負をした後、

私が相手の一瞬の隙をついて投げ倒した。

 

 相手の選手は体が大きく、私が子供に見えるくらいの差があって前評判で

私が勝利すると予想する人はいなく、そんな人たちを見事に裏切る結果を出したのだった。

 

 先生や仲間たち。周りの人たちには才能があると言われ続けた方がいいとも言われたが。

私はそんなつもりでこの世界に入ったわけではない。

 

 あくまで強くなった私が大切な人を守るためとして自身を磨いてきたのだ。

 

「本当にそれでいいんだな、小鳥遊?」

「はい。もう満足しました」

 

 真剣な表情で訊ねる先生に私は笑顔を見せて答えた。

 

 盲目的に先輩のことしか見ていないで他のこと全てサボって、ブランクがある私が

これだけの結果を残せるなんて誰も思っていなかったし、私自身も驚いていた。

 

 そんな私が3年生の最後の大会に私はトロフィーとメダルを獲得した。

学校である程度話を進めて、引退を伝えた後。

 

 私は仕事終わりの美伽と一緒に寮に戻った。親友のことをしっかりと名前で呼ぶように

なったのは3年生になりたて、まだ傷心が抜けきっていない頃、美伽に言われて

思うところがあって呼び名を変えた。

 

 親友と言っておいて私は少し彼女と距離を開けていたのかもしれない。

あんまり近すぎて離れるようになったら辛いから、そんな思考があったのかも。

母のことを見ていて、自分も辛いと思えるくらい感じられたから。

 

「さて、いい手土産ができたぞ」

「貴重な経験をそんなお土産屋で買ってきたような言い方して〜」

 

 私に呆れるように言いながらも声はどこか嬉しそう。

そういう風に思ってもらえるなら私もがんばってよかったと考えるのだ。

多分先輩もそう思ってくれるに違いない。

 

 まだそのことの連絡はしていない。それよりも先に・・・。

 

 近くにあったカレンダーを見て、近く連休に入るのを確認して私はその辺で

一旦実家に戻ろうと考えていた。大好きな母に報告を。部活のことと好きな人のこと。

 

 ちゃんと母から許可をもらって相談に乗ってもらおうと考えていた。

また少し離れるかもしれないけれど、何かあったり悩み事があったらすぐに

駆けつけるつもりでいた。

 

 もう今は前と違って目の前のことしか見えていない私ではないから。

大切なものは切らず手放さず、大変で辛いことがあっても強く求めていこうと思ってる。

 

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***

 

「はぁ、久しぶりの地元だ〜」

 

 連休に入った私は一人実家から一番近い駅に降り立っていた。

心地良い風が髪を揺らして緊張からか少し火照った体を涼しくしてくれた。

 

 本当は美伽も一緒に来るかと思っていたけど生徒会の仕事が終らなくて来られなかった。

手伝おうかとも思ったけどそれは美伽に強く止められて私は一人ここに立っていた。

 

 まぁ、今回のことは私だけの用事だし美伽は私に気を利かせて来なかったのかも。

そう思うと胸の奥のどこかがこそばゆく感じた。

 

 深呼吸をしてから気持ちを切り替えて私は駅を出て実家に戻ることにしたのだった。

しかし近づく毎に少しずつ私の中に不安が募っていった。

 

 私のがんばっていたことが母にはどう映っているのか、喜んでもらえるのか。

そもそも勝手に離れていった私と会ってくれるのか・・・一応メールで行くことは

伝えていて素っ気無い返事はくれたけど。

 

 結局のところ、私は自分に自信が持てないでいるのだ。

空回りして努力が無意味になってしまうのではないかと怖がっている。

ドクンドクンと自身の心臓の音が耳に響くように聞こえていた。

 

 心が縮こまりそうな時に先輩の姿が浮かんだ。

そうだ、こんなことで縮こまっていては先輩の元へ帰れないじゃないか。

 

 いくら表情が硬くて何を考えてるかわからなくたって私の母であることに違いない。

愛する母と自分を信じなくてどうするよ。

 

 自分に言い聞かせて一つ大きく自分の胸に拳を叩き付けて自分の住んでいた家へ

向かって力強く歩いていった。

 

 ガチャッ

 

「ただいま〜・・・」

 

 家に辿り着いた私は意を決して中に入るも自然と出た声が小声で我ながら情けないと

思いつつ母がいると思われるリビングに向かった。

 

「おかえり」

「お母さん・・・」

 

 私を迎えた母は昔と同じに無表情で私のことを見ていた。

いつも間に県さんが入ってきてくれていたせいか二人きりになるとその反応から

場の空気がすごく重くなるように感じていた。

 

 いや・・・ここは私がしっかりしなくてどうするの。

母は・・・お母さんはこうなってしまうくらい辛い思いをしているというのに。

父のことは全く覚えていないけれど、父の分までお母さんのことを守ろうと

ずっと誓っていたんだから。

 

「ただいま!」

 

 私は私らしくいつもの元気さでお母さんに接すればそれで良いじゃないか。

 

「県から・・・たまには二人きりで・・・接したらどうって言われたわ・・・」

「そうなんだ〜」

 

 最初はどうすればいいかわからなかったけど、一度話が進んでしまえば

後はなるようにしかならないから楽に感じてきた。

 

「何だか・・・叶と話すのは・・・久しぶりね・・・」

 

 あ・・・、相変わらず無表情だけど今少しだけ嬉しそうにしているのがわかった気がする。

今なら伝えたいことを伝えられるような感じがする。

 

「あのね、お母さん。私伝えたいことがあるの!」

「いいわ・・・聞かせて頂戴・・・」

 

 お母さんは無表情ながら声が少しずつ柔らかくなっていって私も言いやすくなる。

私は一息吐いてからお母さんの目をしっかりと見ながら告げた。

 

 何度かメールでも報告していたけれど、実際目の前で言うのとでは実感の仕方が

変わってくる。高校であったこと、好きな人ができたこと。

 好きな人に怒られたこと、振られたこと。その後、部活でがんばったこと・・・。

楽しいことばかりじゃなくて辛かったことも多いけど全部私の大切な出来事だから。

 

 その全てを大切な人に伝えたかった。

 

「それで、まだ早いけど。大学も決めてるんだ」

「うん・・・」

 

「その、先輩目当てじゃないけど。先輩と同じ大学にしようと思ってね。

そこはスポーツ系の活動が盛んでそれなりに強豪らしいから」

「えぇ・・・いいわよ・・・。というより・・・元から叶の好きにしてもらうつもりだったわ・・・」

 

「え・・・」

「叶は・・・普段通りなら・・・冷静に間違った判断しないこと・・・私は知ってるから・・・」

 

「お母さん・・・」

 

 どこか寂しげだけど、以前ほどではなかった。誰かに何かに取られるという怖い

雰囲気が抜けて普段みない優しく微笑んで私を見つめていた。

 

「高校もそうだけど、大学まで好きにしていいわ・・・。叶はまだ・・・伸び代があるのだから」

「・・・ありがとう」

 

 何だかこれまで上手く繋がらなかった感覚があったけれど、今この時は二人の間に

塞がっていた壁がなくなり完全に通っていけているような感じがして嬉しかった。

嬉しすぎて泣きそうになるくらい。そんな時にお母さんは・・・。

 

「叶はしばらく私のことを・・・気にかけなくてもいいわ・・・」

「え・・・?」

 

 いい雰囲気になってきたかと思って少しショックを受け胸がもやもやすると。

 

「これからしばらくは県と一緒にいるから。私・・・県と付き合うことになったのよ」

「え!?」

 

「ずっと私は・・・幸せになっていいのか悩んでいたけど・・・叶を見て少し思い直してみた」

「良かった・・・」

 

 その言葉を聞いて、お母さんが他に頼れる人ができて私は心底嬉しくて、その感情が

溢れて涙もボロボロと落ちて床を濡らしていった。

 

「ちょっと・・・なんで叶が泣くのよ・・・」

「お母さんの代わりに泣いてるの。ずっと大変で頼れる相手がいなくてずっと一人だった

お母さんが、県さんと一緒になってくれると想ったら・・・つい・・・」

 

 涙が止まらないでいると、お母さんは私をそっと抱きしめてくれた。

私が物心ついてから初めてのことだ。今まで甘えられなかった分、今日は遠慮すること

なく甘えることにした。

 

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**

 

「叶は本当に・・・あの人にそっくりね・・・」

「あの人・・・?」

 

 私の気持ちが治まるまで甘えた後、落ち着いた私にお母さんが思い出すように

語り出した。

 

 今まで辛くて思い出そうとしなかったのに、今は県さんや私と繋がったからか、

良い思い出の話をしてくれた。

 

「あなたのお父さんよ・・・。何事も実直で私に尽くして・・・。綺麗な目で私を見てくれる」

「そんな感じだったんだ〜」

 

「そうね、よく周りを見ていて、みんなに優しくて頼りになる・・・。

そして明るくて場を和ませる・・・叶、今のあなたは本当によく似てる」

 

 そして少しだけ間を空けた後。

 

「そんな叶のことを・・・雪乃ちゃんは好きなのかもしれないわね・・・」

「そうか・・・」

 

 何となくはっきりとは浮かばなかったけれど、お母さんに言われてわかってきた

気がした。

 言葉でまとめるのは苦手だけど、何となく・・・あの頃の私は私らしくなかった。

今お母さんが言ってくれた部分に先輩は好きになってくれたのかもしれなかった。

 

「そうだね・・・」

 

 それを素直に受け止めて私は小さく笑った。

私は大切な人に対しては本当に不器用なんだなって思ったのだった。

 

「次・・・一緒になれたときは。私と同じように・・・あの子のことを大切にしなさいね…」

「うん」

 

「私の大切な教え子のこと・・・よろしく頼むわね・・・」

「うん!」

 

 お母さんが言った後、背中をぽんっと叩かれて私は強く頷いた。

ずっと大切で憧れていた母からの言葉で私はやる気がこれまでにないくらい漲っていた。

 

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**

 

 お母さんと一緒にいる時間が終わり、私は学校に帰ってきてからまた忙しい生活が

始まろうとしていた。

 勉強に部活、後輩への指導。そして・・・。

 

「あぁ、おかえり叶。帰ってきていきなりで悪いんだけどさ〜」

「いきなり何?」

 

「前の大会の優勝の時にあんたのファンと名乗る子が多くて多くて私たちじゃ

捌ききれなくてさ、手伝ってよ〜」

「えぇ・・・。うん、わかった。私に任せて」

 

 私にとって大会は一つの成長させてくれる場所としか考えていなかったから

ファンとか言われても驚くことしかできなかったが親友が困ってるんだ、

私もできることがあったら手伝わないと。そういう気持ちに押されて美伽と一緒に

その場所へ向かった。

 

 先輩と会えないことが平気・・・なんてそんなこと思えるはずがないけど。

今、目の前にある現実。大切な仲間、友達、関わる人たち全員。

これを大切にできない人間に大切な人を幸せにすることなんてできない。

 

 だからこそ私は今一つ一つの時間を大切にして成長していきたいと思うし。

できるだけ時間を無駄にせず、私は前を見て頑張っていきたい。

 

 それが私にできることだと思うから。

そしてやるべきことをやり終わった後には・・・私は先輩にもう一度会いにいきます。

待っていてくださいね、雪乃先輩。

 

 あの優しい笑顔を脳裏に浮かべながら私は今やるべきことに邁進するのだった。

 

 

説明
たまには叶視点。現在よりやや少し先の未来の話。表現がちょっと稚拙でわかり辛いと思いますが伝わってもらえれば幸いです?( ・?・)?"
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オリジナル 双子物語 百合 小鳥遊叶 

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