俺の小説(せかい)に俺TUEEE!は存在しない 第01話 夢の中で逢った、ような……トマト
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 俺TUEEE(おれつえええ)小説とは、主人公が圧倒的に強く、物語の中で無双(圧倒的に相手を寄せ付けない活躍)する内容の小説を指す。

 

 近年のライトノベルの主流であり、異世界に飛ばされたり、戦闘の教育機関に入学したり、異能の力で悪と戦ったりとシチュエーションは多々あれど彼らはとても強い。

 

 そしてそんな強い主人公たちの元には沢山の美少女(幼女・合法ロリ・年上のお姉さん・妹・義理の妹・同級生・幼馴染・お姫様・異世界の戦士・幽霊・男の娘・etc・・・)たちが当然寄ってくる・・・いわいるハーレムだ。

 

 まあライトノベルの読者層は若い男の子が多いので、そういう展開があったほうが読み手が喜ぶだろうし、ご都合主義といわれても読者の求めるものを書くのがプロの作家という事なのだろう。

 

 また小説だけにとどまらず、漫画・アニメ・ゲーム・二次創作にも「俺TUEEE系」は幅広く浸透しており、その影響力は計り知れない。

 

 ライトノベルというジャンルは日本の文庫本業界では間違いなく主力であり、底が浅いとか内容が無いなどの批判を受けているものの実際に多数の読み手が存在する以上は確立した文学であるのは間違いない!

 

 そして石原慎之介【いしはら・しんのすけ】もライトノベル・漫画・アニメ・ゲーム・二次創作をこよなく愛する14歳の中学2年生だった。

 

 

 

 気がつくと目の前に大きな(1メートル以上)トマトがあった。

 

 「トマト!?いや・・・ここはさ、大きな桃があって、中から桃太郎がって言うのがお約束だろ!?」

 

 自分の部屋の中に明らかに不自然な大きさのトマトがある、一体どこから沸いてきたんだろうか。

 

 そして、自分がいつからこの部屋に居たのかが思い出せない・・・いつからこの部屋にいたのだろうか。

 

 「いや!それ以前にこんなにデカいトマトなんてありえないでしょう!?・・・・・・じゃあ、これは夢の中って事ですかね?」

 

 「はい!ここはしんちゃんの夢の中なのん」

 

 独り言を呟いていたしんのすけが急に声をかけられた、目の前の大きなトマトから・・・しんちゃん?

 

 「ひっぃ!?トマトが喋った!」

 

 「はい、喋りますよん。ここは夢の中ですからね〜初めましてなのん、私はトマトンと言いますん。石原慎之介ちゃん!」

 

 「俺の名前を知っているのか。そして夢の中って・・・・・・夢の中で夢って認識出来るものなのか、初めて知った」

 

 「明晰夢(めいせきむ)って言うやつなのん。やっぱりしんちゃんはトマトンが見込んだ選ばれし者なのんね、適応力がとても高いみたいなのんよ」

 

 「選ばれし者・・・選ばれし者って言ったよな!なに?この夢の俺は隠された能力で誰かと戦ったりして、ツンでデレな美少女たちとキャッキャッ!うふふとかするの!?」

 

 「えっと、落ち着いて話を聞いてほし・・・」

 

 「いや!ツンでデレもいいけど、エルフの姫騎士とかも捨てがたいな、『くっ殺せ』はお約束だよね、それと弱気だけどお兄ちゃん好き好きな義妹(いもうと)も欲しい!後はおっぱいが大きい弱気なメガネちゃんもいないと!」

 

 「あの・・・しんちゃん。トマトンの話を聞いてほ・・・」

 

 「さすがは俺だぜ!こんな夢みたかったんだよね〜、能力は何がいいかな〜、落ちこぼれに見えても実はすごい魔法使いとか・・・いや、自在に武器を複製出来る能力も捨てがたいしな〜、うおおおお!悩むぜぇぇぇ!!

 

 「(あかん!これは予想以上の中二病だったか・・・コイツにするのは止めようかな・・・)え〜と・・・しんちゃん?」

 

 「えへっ!えへへっ・・・良し!トマトンだったか?今すぐに俺を異世界でも、聖なる戦争でも、乙女しかいないお嬢様学校にでも連れていってくれ!さあ早く!俺をラノベの世界に連れて行ってくれよ!」

 

 「あっ、ハイ・・・じゃなかったのん。さすが選ばれしものなのね、本当に話が早くて助かるのんよ。」

 

 早口で捲くし立てるしんのすけにドン引きしていたトマトンだったが、自己完結でトマトンの用事をすませてしまったようだった。

 

 トマトンの用事の内容を詳しく聞く前に・・・。

 

 「それじゃあ、トマトンと契約して欲しいのん」

 

 「契約?なんか魔法少女みたいな展開だな・・・俺は女装系の話はあまり好みじゃないんだけど」

 

 「女装しなくてもいいのんよ!こっちだってリアルな女装男子は見たくないのんね、この契約書に名前を書いて欲しいのんよ。それでしんちゃんはトマトンの世界を救う調停者(メディエイター)になれるん。」

 

 「くっ・・・メディエーターとかすっげーワクワクなんですけど、契約書を書く!え〜と・・・ 【いしはら・しんのすけ】っとこれでいいのか?」

 

 どうやら横文字(英語読み)を気に入ったようで・・・中二病的にはストライクだったもよう、そんな形で勢いよく契約書に自分の名前をサインしたしんのすけだった。

 

 「んふ〜〜〜ありがとうなのん。・・・これでしんのすけは【偏ったご都合主義を破壊する】調停者となったわけだね、ククク・・・」

 

 「えっ、なんだって?」

 

 「何でもないのんよ・・・選ばれしものしんちゃん、調停者(メディエイター)としてこれから頑張ってほしいのんね・・・そして、使命を果たすまでどうにか死なないで欲しいのん」

 

 「おう!まかせろよ、俺はラノベ10段の腕前(?)だぜ。世界も救うし、ハーレムエンドを目指してフラグをガンガン建てまくるぜ!さあ、早く俺をラノべの世界に飛ばしてくれよトマトン!」

 

 「世界を頼んだよ・・・石原慎之介」

 

 そうトマトンが呟くと、しんのすけの目の前が暗転した。

 

 

 

 気がつくとそこは見知らぬ天井だった・・・いや、すごく見たことのあるいつもの天井だった。

 

 右を向くと大きな窓があり、外の景色から朝方だというのがわかる。いわいるチュンチュンしている鳥が電線の上で鳴いている。

 

 左を向くとパソコンが置かれている自分の机が見える、ディスプレイが点いているのを見るとどうやら電源を落とさずに寝てしまったらしい。

 

 なんと言うべきか、どこをどう見てもここはいつも見慣れたしんのすけの部屋だった。

 

 「こ・・これは・・・俺の部屋。どこをどう見ても俺の部屋だよね。」

 

 そうだ!ここはしんのすけの部屋なのだ。断じて異世界でも、聖なる戦争の起きている町でも、お嬢様学校でもない、正真正銘の彼の部屋だった。

 

 とどのつまりは・・・

 

 「夢オチかよ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 ・・・そういう事だった。

 

 

 

 今日は土曜日で学校はお休みだ。

 

 明日は学校が無いという事で少し夜更かし気味に遅くまでネットサーフィンをしていた、予想以上に早く起きてしまい、正直言ってかなり眠い。

 

 「朝飯だけ食べてから部屋に戻るかな、それにしてもいい夢だったな・・・全部見れればだけどな!」

 

 しんのすけは夢の内容を明確に覚えていた、1メートル近いトマトが話しかけてきたことも、世界を救う選ばれし調停者になったことも、そして体験版なみのチュートリアルで終わってしまった事も全部。

 

 「もう少し早く寝ていれば全部見れたのかもしれないな・・・ツンでデレな貧乳魔法少女も、エルフの姫騎士も、お兄ちゃん好き好きな義妹(いもうと)も・・・くっ殺せ!」

 

 夢の内容に、未練たらたらのしんのすけがブツブツと独り言を言いながら居間に向かう。

 

 そして・・・

 

 「義妹(いもうと)加奈子、私どんな事でも〜〜お兄ちゃん大好きだよ、ウフフ(裏声)」

 

 「・・・キモッ」

 

 「あ・・・・・・・・・・お・・おはよう」

 

 「・・・うざっ」

 

 ・・・妹と廊下で出くわした。

 

 しんのすけには一つ下の妹がいた、名前は・・・加奈子だった。

 

 もちろん血は繋がっているし、アニメやラノべの挿絵みたいな美少女ではない!俺の妹がこんなにかわいいはずないと言いつつ、すごく可愛かったりする事も無いし、「さすがお兄様」と言って甘えてくる事もありえない。

 

 しんのすけのオタク趣味を見下しているし、自分が彼氏がいることをなんとなくアピールしてくる嫌味なところもある、会話だって母親がいるところで必要最低限するだけのガチのリアル妹である。

 

 まあ、出会いがしらに「お兄ちゃん大好きだよ、ウフフ(裏声)」なんて言っている、兄弟を見たらドン引きするのは当然と言えば当然なのだが。

 

 (やっちまったなぁ・・・まあ別にいいんだけどね。別にリアルな妹に何を思われてもさ・・・でも母ちゃんには言わないで欲しいな)

 

 そんな不安を抱きつつ朝食を取りに居間の食卓に向かうしんのすけ、食卓のほうから焼けたパンの匂いが漂ってくる。

 

 

 

 「おはよう、しんのすけ。昨日は遅くまでパソコン弄ってたでしょ。電気代がかかるからあんまりパソコンばかりやらないで!」

 

 「・・・パソコンなんてそんなに電気代はかからないから」

 

 「パソコンでエッチなものばかり見てないで勉強しなさい。あんた来年は受験生でしょ!せっかくの休みなんだから今日は勉強しなさいよ」

 

 「わかったよ!わかった!勉強するからさ。朝から勘弁してよ母ちゃん」

 

 朝一からお小言をいわれるしんのすけ、たしかに成績は良くないほうだが妹の前であまり言わないで欲しいな・・・後で嫌味をいわれる材料にされるからさ。

 

 そんな感じで、うんざりしながらも朝食を取るしんのすけだった。今日のメニューは、トーストとサラダとスクランブルエッグだ。石原家のパンが主食の朝食では大体はこの組み合わせだ。

 

 (朝からグチグチ煩いな・・・って言うか、エッチなものとか言うなよ。早く済ませて部屋に戻るか・・・・・・ん?)

 

 目の前の朝食の付け合せのサラダに記憶にあるものを発見した。

 

 (トマトか・・・いや、別に嫌いじゃないんだけどね。あのトマトンとか言ったデカいトマトめ・・・ラノべの世界に連れて行くとか言っといて夢オチとか本気でないわ〜・・この詐欺師!詐欺トマトめ!)

 

 小言を言われた腹いせか?それとも異世界に連れて行ってもらえなかった八つ当たりか?何とも言えない怒りを目の前のトマトにぶつける(咀嚼)、しんのすけであった。

 

 

 

 朝食を終えて、自分の部屋に戻ってきたしんのすけ。二度眠しようかとも思ったがせっかくの休日をわざわざ寝て過ごすのも勿体無い。

 

 昨日の夜に、ネットサーフィンでブックマークした二次創作系の小説をこれからじっくりと読み漁っていこうと思いパソコンの前に座る。

 

 「さてと・・・じっくりと読みますかね、しんのすけさん?」

 

 「俺のお眼鏡にかなうSSだったら嬉しいんですけどね・・・ククク。この独眼流に見切れぬ物(ラノべ)は無いんだぜ・・・クククッ」

 

 いまさらだが、中二病全開のしんのすけ。中学二年生なのでまだ引き返せるラインにいるのだが、独り言・なりきり・無駄笑いと、中二病の重症患者である。

 

 「さてさて・・・これで行くかな。異世界のTS(ループ)物でツンでデレから弱気妹までありロリ系・年上系とハーレム要素が非常に高い・・・当然、ループしてるから経験値MAXの俺TUEEE系・・・ククク」

 

 「よし・・・君に決めた!!ポチっとな」

 

 その瞬間、ブラウザが新しいページに切り替わりお目当てのSSに飛んだ。

 

 そして・・・石原慎之介【いしはら・しんのすけ】も同時にお目当ての小説(せかい)に飛んでいった。

 

 

 

 「本当に独り言が多いひとなのん、中二病っていうのは知っていたけど相当やっかいな病気みたいなのんね〜」

 

 「今はそんな事はどうでもいいか・・・どっちにしろ後はしんちゃん次第なのね。できれば、いきなり死んじゃうなんて事はごめんなのん・・・せめて中盤までは話を進めてほしいのんよ」

 

 主が消えた部屋の中で、心配そうに、そして不安そうに呟く・・・・・・トマトがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 ・・・第01話 夢の中で逢った、ような……トマト 終

 

 

 

 NEXT 第02話 お姫様、俺が恋して無双するなんて無理ッス!

 

 

 

 執筆 小岩井トマト

 

 

 

説明
第01話 夢の中で逢った、ような……トマト

俺TUEEE系の小説やアニメが最近多いですよね、小岩井トマトも嫌いではないのですよ…嫌いでは。
主人公の戦闘力や頭脳が弱いor現実的な強さ、そして、ヒロインたちが自然にデレれるような作品が見たいかな?
ラノべ・SSが大好きな中学生しんのすけが、俺TUEEEの存在しない小説(せかい)に挑むサバイバルゲーム!
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タグ
SS ゼロの使い魔 だと思った? 俺TUEEE トマト 

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