とある不死鳥一家の四男坊 聖地巡礼シリーズ【半分の月がのぼる空】 その2
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最近、どうにも里香の元気がない。

手術が成功してからしばらく経って、経過も良好だと主治医である夏目先生は言っていた。

またいつ症状が出るかわからない状態であるにもかかわらず、そのことを聞いたときはとてもうれしかった。

だけど、その話からまた1週間くらいしたころから里香の元気がない様子だった。

診察をした夏目先生の話では、現状里香の体に異常は起きていないという話だ。

手術後ということで、まだ調子も戻りきってないのではないかと。

……ここだけの話、夏目先生は性格がかなり悪い。

意地悪な物言いはするし、態度も横暴。宿直室で酒まで飲む始末。

他の看護婦や患者に対しては最低限医者としてそれっぽい態度で接している所を見たことがあるから、多分そこまで態度が悪くなるのは僕に限定してだとは思うけど。

……やっぱり、あいつは嫌いだ。

だけどまぁ、そんな夏目先生でも医者としての腕だけはいいのだ。

里香の病気は普通の外科医じゃ怖くて手が出し難いくらい重いものだが、主治医の夏目先生はそんな里香の手術をしっかりとやってのけた。

ほんと悔しいことだけど、医者としての腕だけ(・・)は信頼できる。

その夏目先生が問題ないと言っているのだから、一応確かなことなのだろう。

 

それでも、里香は今日も元気がない。

里香は僕に心配かけないように大丈夫だと、気にしないでと笑顔で言ってくる。

……無理して笑顔を見せていることが丸わかりだ。

最初は少しの違和感しかなかったのだけど、日に日に顔色も悪くなっていってるのだ。

いくら鈍い僕でもそれくらい察することはできる。

しかもそれは自分が好きな女の子のことなのだ、なおのことわからないはずがない。

……それでも、僕にしてやれることは少ない。

夏目先生や看護婦の亜希子さんのように医療面で貢献なんてできないし、僕自身頭がそれほどいい方ではないからどうすれば里香が元気になるのかなかなか思いつかない。

せめて少しでも里香の気がまぎれるように傍にいることや、里香が好きそうな本を病院から抜け出して借りてくるくらいだ。

 

病因から抜け出して図書館から本を借りたその帰り道、僕は変な人影を見つけた。

ただの人影だったらそこまで気にもかけなかったかもしれないけど、その人影は誰かの家の屋根の上にあってゆらゆらと揺れるように踊っていた。

不気味な笑みを浮かべて踊るそれはあまりにも不気味で、それ以上その場にいたくなかった僕は一目散に病院へ駈け出した。

 

―――キヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!

 

走る僕の背後から薄気味悪い笑い声が聞こえる。

病院に戻ってきた僕は走り疲れてはいたけど、借りてきた本を里香に渡しに病室へ行った。

病室で僕を出迎えてくれた里香は自分が元気がないにもかかわらず、僕の心配をしてきた。

あの変な人影を見たせいか、顔色が悪くなっていたようだった。

流石にこんな話を里香にするのも馬鹿にされてしまいそうな気がしたから、寒くて走って帰ってきたのだと嘘をついてその場を切り抜けた。

 

それから一週間後。里香は今日もまた元気がないようだった。

何やら日に日にやつれているように見えるのは僕の気のせいなのだろうか?

……気のせいであってくれたらいいのだけど。

その日も僕は図書館から本を借りてきた。

本の話をしている時は幾らか気もまぎれるのか、顔色もそこまで悪くないような気がした。

僕にできることは少ないけど、せめて少しでも里香が元気になってくれたらいいな。

そう思って病院への道を歩いていると、喪服を着た人たちが家の前にいるのが見えた。

 

「……あそこって」

 

そこは一週間前、あの不気味な影が屋根の上で踊っていたところの家だった。

話をしている喪服の人たちの声がうっすらと聞こえてくる。

 

「今まで病気もかかったことがないくらい、元気な子だったんだけどねぇ」

 

「原因不明だったっけ」

 

「怖いわねぇ」

 

「なんでも一週間くらい前から急に元気がなくなりだして、学校も休んでたらしいけど」

 

「二日前くらいだったかな。部屋に行った奥さんが亡くなってる息子さんを見つけたんだよね」

 

「まだ若かったのに、可哀相だよなぁ」

 

そんな話をしてる人たちの後ろを通る時、僕は嫌な汗が流れるのを感じた。

頭では『ただの偶然だ』そう考えるようにしているのだけど、一週間前のあの光景がフラッシュバックするように記憶から蘇ってくる。

 

(あの家の子が亡くなったのって、もしかしてあいつのせいなんじゃ?)

 

不意にあの不気味な声を思い出してしまい、身震いしてしまう。

一週間くらい前から元気がなくなりだしたとあの人たちは言っていた。しかも原因がわからないものなのだと。

そのことが今の里香の状態と酷似している気がしてならない。

里香の場合元気がなくなりだしてからもう二週間近くたつが、里香はまだ生きている。

病弱な里香が元気がないにしてもまだ生きているのだから、やっぱり別の何かが原因なんじゃないだろうか。

だとすると、一週間前に見た人影も僕の見間違えであの家の子が亡くなったのもやっぱり偶然のことなんじゃないのか。

 

(……そりゃそうだよ。そんなオカルト小説みたいな出来事が現実であるわけないじゃないか)

 

そういう考えに行きつくと、少し余裕が出て来たのか気持ちが落ち着いていく。

幽霊だって妖怪だって現実には存在しないし、物事にはちゃんとそれに至った理由が存在している。

小説は小説、フィクションの出来事なんだ。

こんなバカなこと考えていると、また夏目先生に馬鹿にされそうだ。

瞼を閉じればその光景を思い浮かべることも、そう難しくはない。

人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、鼻で笑った後に「お前、馬鹿だなぁ」という言葉を……。

 

「……あぁ、くっそぉ! 夏目の奴、僕の想像だっていうのになんでこんなに鮮明に!?」

 

頭を思いっきり振って、頭の中に浮かんできた夏目先生を強引にかき消す。

よく人のことをおちょくってくるからか、声まで簡単に想像できてしまったのがまた腹が立つ。

……と、そんなことをしているうちに、気が付くと病院までたどり着いていた。

まぁ、図書館までの往復もすでに十回は越えているから、この道も歩き慣れている。

考え事をしながらでも足が自然に動いていたのだろう。

空を見るとちょうど夕方から夜に移り変わる黄昏時。

今日は本選びに少し時間かかってしまったから、病院に帰ってくるのが遅くなってしまった。

 

久しぶりにピーターラビットの物語を里香に借りてこようかと思い探したのだが、なんと間が悪く見慣れない男の人が読書スペースでほぼ全作品を一気読みしていたのだ。

時間が過ぎれば終わった本は返すかと思って待っていたが、どうやら本を読むのに集中しているようで一冊を読み終わったら次の本、また次の本と休む間もなく読んでいる。

なんという本の虫。もしかしたら里香並かそれ以上に本が好きなんじゃないのだろうか。

読み終わったを貸してもらおうかとも考えたが、流石に知らない相手に声をかけるのも憚られたから、今日はピーターラビットを借りることは諦めて別の本を借りることにした。

改めてどんな本にしようか考えると、僕自身そこまで小説を知っているわけではないからなかなかいいのが思いつかない。

そんな時、小学生の時に読書感想文を書くときに学校からおすすめされた小説を偶然見つけた。

それならば僕もうっすらとだが内容を覚えているから、簡単にどんな小説か紹介することもできる。

その本を持ってカウンターまで行く際、一気読みをしている男を見たがまだ休まずに読み続けている。

もしかしたら閉館時間まで読み続けるのかもしれないことを思うと、別の本を借りようと決めた僕の考えも悪くなかったのかもしれない。

 

時間も遅くなったし、早々に里香の病室にお見舞いに行こうと、通り慣れた裏口に向かう。

……その時。

 

「……う、そ、だろ」

 

ふと何の気なしに上を見上げたその時、僕は病院の屋上に人影を見た。

それは病院に入院している患者のものでも、職員のものでもない。

一週間前、あの亡くなった子がいた家の屋根で、不気味な笑みを浮かべながらユラユラと踊っていた、二度と見たくないと思っていたあの人影だった。

しかも、見間違いかもしれないがあいつが踊っているのは、里香の病室があるところの真上の屋上のように見えた。

 

「……くそッ、どっかいけぇ!」

 

手近にあった小石を拾い、あの陰に向かって思いっきり投げつけた。

小さい頃にキャッチボールをやった時くらいしか物を投げるという行為を行ったことがなかった僕だが、勢いよく投げた小石は真直ぐにあの人影に向かって飛んでいき……。

 

「……え?」

 

それは人影に当たることなく通り抜け、病院の裏側へと落ちていった。

唖然とする僕をよそに、人影は踊りをやめて僕の方に視線を向けてくる。

 

―――キヒヒッ!

 

笑みを強めたそいつの口から、気味の悪い笑い声が聞こえた。

そして、夕闇に溶けるようにそいつは消えていった。

幻か何かだったのだろうかと思えるくらい、もうそこには何も見えなかった。

 

「……あ、り、里香」

 

あいつがいなくなって緊張が解けたのか、どっと疲労感が体を襲う。

しかし、あいつがいた下の病室にいる里香が心配だ。僕は疲労感で倒れそうな体に鞭を打ち里香の病室まで走っていく。

途中で看護婦に走らないように注意されたが、謝る余裕も改める気も今の僕にはない。

 

「里香!」

 

里香の病室に就くと、ドアを勢いよくあける。

そこにはいつも以上に顔色が悪くなっている里香が、苦しそうに荒い呼吸をしながらベッドに横になっていた。

 

「里香、里香! 大丈夫か里香!」

 

ベッドに近づき声をかけると、里香はうっすらと目を開けて僕の方を見た。

 

「……あ、裕一、来てたんだ」

 

薄らと笑みを浮かべる里香はやはり辛そうだった。

自分のことを心配している僕に、心配かけまいとする行為なのだろうがそれで心配せずにいられるわけがない。

こんなに顔が青白くなって、唇が薄い紫色に変色してしまっている。

気にするなという里香を無視して、僕はナースコールで看護婦を呼んだ。

すると一分もたたずに婦長に亜希子さん、それに夏目先生が機材を持ってやってきた。

元々里香はいつ状態が悪化してしまうかわからない状態だったのだ。手術が終わってから一ヶ月もたっていないこともあり、いつ何があってもいいように準備はしていたのだろう。

彼らが来ると僕は病室を追い出される。

それは仕方ないことだ。何せ僕はあそこにいたって何をすることもできない。

いたとしてもアタフタして先生たちの邪魔になってしまうのがおちだ。

……それでも、できることならば僕は里香のそばにいてやりたかった。

里香がつらい時に何もできない僕が口惜しい。

 

暫く病室の外で待っていると、夏目先生達が出てきた。

 

「……戎崎、お前まだいたのか」

 

何処か曇り顔になっている夏目先生。

夏目先生だけでなく、亜希子さんや婦長さんもそれは同様だった。

 

「あの、里香は、里香は大丈夫なんですか?」

 

「あぁ、とりあえず持ち直したようだ。

……戎崎、今回はお手柄だったぞ。もう少し遅かったら大変なことになってたかもしれないからなぁ」

 

「そ、そうですか……よかったぁ」

 

夏目先生の言葉に心底ほっとして、先ほどの疲労感もあって倒れてしまいそうになったが壁に寄り掛かることでどうにか体を支える。

そう、まだ完全に安心できるわけではないのだから。

 

「あの、お願いです。今日は、今日は里香の近くにいさせてください!」

 

難しいお願いだということはわかっている。

何せ少し前に僕はいろいろと騒動を起こして、病院側から注意を受けている立場だ。

更に、すでに治ったといっても過言ではないくらい肝炎は収まってはいるが、僕も一応は患者の体でここに入院しているんだ。

そんな僕を重病患者である里香のそばには置いておきたくはないだろう。

 

「……さっき里香の母親に連絡を取った。なるべく早く来るって言ってたが、今日は運悪く大事な用事があって県外にでてたそうだ。

少なくともこっちに来るのは明日以降になるらしい」

 

夏目先生は頭を下げて頼む僕を見ながら溜息を吐き、面倒くさそうな様子で頭をかく。

 

「……本当は許可できないんだが里香もな、お前にそばにいてほしいって言ってな。

流石に勝手にそういうことはできないから母親にその旨伝えて、とりあえず了解はもらってある」

 

「……え?」

 

里香のお母さんが了解してくれてる?

少し前の騒動で、いろいろと迷惑をかけて嫌われていると思っていたのに。

 

「母親もお前のことはいい目で見てないのはわかってるだろ?」

 

……やっぱりよくは見られてなかったのか。いや、仕方ないんだけど。

 

「……それでも、里香がお前のことを心から信じてるのを、知ったみたいでな。

だったら、里香が望むようにしてやりたいってよ」

 

「……里香」

 

あの時も、そして今回も僕は里香に助けられているんだと実感した。

あの時だって、窓の外からの来訪という奇策をとって強引に病室に入ったものの、それでもすぐに追い出されてしまっていた可能性もあったんだ。

むしろ、里香があの時に声をかけてくれなければほぼ間違いなく追い出されてしまっていただろう。

 

「……ありがとう、ございます」

 

「それは俺じゃなく、里香にいえよ」

 

そういうと夏目先生は、軽く僕の頭をたたいて去っていった。

 

「その前に裕一、あんたまずは夕飯食べてきなよ。その恰好見る限り、まだ食べてないんだろ?」

 

亜希子さんは苦笑いしながら言ってくる。

僕の恰好、そういえば外出してたから私服のままだった。

本当なら怒るところなのだろうけど、婦長さんも今回は目をつぶってくれるようだ。

僕に少し視線を合わせると、何も言わずに夏目先生の後について行ってしまった。

 

「……えっと、すみません」

 

「悪いって思ってないのに謝っても、誠意がまったく感じないよ」

 

「あ、あはは」

 

「ま、とっとと着替えて夕飯食べてきな。あんたが来るまでは、あたしが傍にいとくから」

 

「……はい、すぐに戻ってきますんで」

 

「ご飯はゆっくりしっかりと噛んで食べる!」

 

「は、はい!」

 

亜希子さんの叱咤に僕はとっさに走り出した。

 

「廊下は走るな!」

 

「す、すみませーん!!!」

 

亜希子さんには、どうやらいつまでたっても頭が上がらないようだ。

 

夕飯を食べた後、僕は真直ぐ里香の病室へ向かった。

ドアを開けると、リンゴを不器用ながらにも剥いている亜希子さんと、横になってはいるが目を開いてさっきよりはだいぶ顔色がマシになった里香がそこにいた。

 

「お、来たね裕一。じゃ、あとはあんたに任せようかな」

 

そういうと剥きかけのリンゴを渡してくる。

 

「……え、あの、これ」

 

「いやぁ、あたしそういう細かいの苦手でさぁ。そんなわけで後は任せた!

あ、わかってるとは思うけど。何かあったらすぐにナースコール押すんだよ!」

 

ごまかすように笑いながらそういうと、亜希子さんはそそくさと病室を出て行った。

 

「……看護婦なのに細かいの苦手ってどうなんだろ」

 

「ふふ、谷崎さんらしくて、いいんじゃないかな」

 

そう言い笑みを浮かべる。

……いいんだろうか?

 

「……まぁ、いいか」

 

いいことにした。

とりあえず、亜希子さんに渡されたリンゴを手間取りながら剥くと、「ふふ、変な形だね」と笑いながら食べてくれた。

さっきのようにこちらを気遣った作り笑顔ではなく、普段の里香の自然な笑顔が見ることができ少しホッとする。

剥いたリンゴを食べながら今日図書館であったことを話す。

特にピーターラビットの本を休む間もなく一気読みをしてる男の話をしたら、少し興味を持ったようだ。

見ず知らずの男に興味をもたれて、僕の方が少し焦ってしまった。

そんな焦る僕を見て笑う里香。それを見て取り繕うように乾いた笑いを出す僕。

気が付くといつものやり取り、いつもの光景がそこに広がっていた。

暫くして少し眠くなってきたようで、僕に気にせずに眠るように言うと里香は素直に目を閉じる。

今日は体に負担がかかっていつも以上に疲れたのだろう。すぐに寝入ってしまい、規則正しい寝息が聞こえる。

 

「……お休み、里香」

 

そのまま僕も里香のベッドに顔を伏して寝てしまいたい衝動に駆られるが、僕の時間はここから始まるんだ

夕方に見たあの不気味な影。あれが原因で里香の体調が急変してしまったということでほぼ間違いない。

里香の元気がなくなりだしたのがすでに二週間近く前なのに対して、今日葬式が行われたあの家の子は一週間くらい前から元気がなくなりだしたらしい。

人によってその変化に個人差があるのか、人影があの家の子を優先的に狙っていたのか。

……いずれにしろ、いくら考えたって僕の頭じゃわかるはずがない。

だったら、そのことは考えるだけ無駄なのかもしれない。

今考えるのは、どうやってあいつを里香から遠ざけるか。

倒す、なんてことができるのかすらわからない。多分、あいつは僕が理解できないようなオカルトな力を持っているんだろう。

そんな力を持っている相手に、僕一人でどうにかなるのか。

かといって、そのことを亜希子さんや夏目先生に相談するのはだめだ。

見間違いか幻覚を見たかと、否定されるのがおちだ。

下手にしつこく言い募ってしまえば最悪、里香のそばにいることすら危うくなるかもしれない。

それでは、あいつの存在を知ってる僕自身が里香を傍で守ることができなくなってしまう。

相手は幽霊か、妖怪かはわからないけど。そんなオカルトな存在に立ち向かってただで済むのかわからないけど。

すごく怖い、逃げ出したいくらいに怖いけど。

安らかに眠る里香の寝顔を見ながら、震える手をこれでもかというほど握り締める。

……そんな握りしめた弱々しく震える手を見た時、ふと少し前に夏目先生が言っていた言葉を思い出した。

 

『お前、自分の手を見てみろよ。何のためにその手はあるんだ。

その手はな、なにかを掴むためにあるんだよ。欲しかったら、手を伸ばせよ。

そうして、強引に掴み取ればいいんだ。ただぼんやり突っ立ってるだけじゃ、なんにもできないままになっちまうぞ』

 

怖いまま、ただ何もしないで縮こまっていたら、里香があいつに殺されてしまう。

僕なんかが立ち向かったところで、どうにかなるのかはわからないけど。

それでも、未来とか運命ってやつは決まっていない。僕達次第なんだ。

だって僕達の両手は、欲しいものをつかみ取るためにあるんだから。

 

「……僕が、絶対に里香を守るから」

 

……あんなわけのわからない奴に、里香の命を渡すものか。

 

―――キヒヒヒヒッ!

 

決心を固めた時、あの不気味な声が聞こえてきた。

 

「……ん、は、あぁ!」

 

それと同時に、今まで静かな寝息を立てていた里香が急に苦しみだした。

 

「り、里香! 里香ぁ!」

 

「ゆ、裕一、ん、くぅ! ……苦しい、よぉ」

 

「里香、しっかりしろよ、里香ぁ!」

 

そんな僕の呼び声がちゃんと聞こえているのかいないのか、ただ里香は苦しみ続けている。

早く何とかしないと、里香が危ない。

そう焦りを募らせていると、今まで月明かりがさしていた病室に急に影が差す。

はっと窓の外を見ると……。

 

「な、なんだよ、こいつ!?」

 

そこには僕の数倍はあるような巨大な化物が、病室の中を覗き込んでいた。

見たことのない化物。だけど、そいつの気味の悪い笑った口の形やその口から発する笑い声は、まぎれもなく以前僕が聞いた不気味な人影の声だった。

 

「お前が、お前が里香を!」

 

―――キヒ、キヒヒヒヒヒ!!!

 

「やめろよ、今すぐ里香を解放しろよ!」

 

―――キヒヒヒヒヒッ!!!

 

僕の言葉がわかっているのかいないのか、化物はただ笑い声をあげて僕を見ている。

……いや、僕の方ではない。こいつが見ているのは僕の後ろ、今も苦しみ続けている里香の方だった。

まるで、里香の苦しみが最高の御馳走のように、どこかうれしそうに笑い続けている。

 

「……ふ、ざけるなぁ!」

 

怖くて竦みそうな体を無理やり動かす。目指すのは部屋の隅に置いてある消火器。

以前学校での避難訓練をした時に、代表で消火訓練をしたことがを覚えているから使い方はわかる。

こいつに効くはわからないが、少しでもこいつの標的を僕に向けないと里香が死んじゃう!

 

「くらえ、化物!!!」

 

窓を開けて、消火器のホースを相手に向けて放つ。

覗き込んでいる形だったため、化物の顔一面に消火剤が放出される。

 

―――ギィィィイイィイィ!!?!?

 

化物の目に入ったのか、悲鳴を上げながら顔を背ける。

今が好機と、僕は思いっきり消火器を化物に向かって振りかぶる。

こんな大きな化物に消火器を使ったからって、僕くらいの力で倒せるとは思っていない。

だけど、この高さから落ちたら少しは痛いんじゃないのか?

仮にそれで倒せなくても、一瞬でもこいつの標的が里香から逸れてくれれば御の字だ。

振りかぶった消火器を思いっきり叩きつける。

……ガラスが割れる音と一緒に、強い衝撃が僕を襲った。

 

「……っ!? い、ったぁ」

 

そのまま壁に叩きつけられた僕は、痛みで気絶しそうになりながらも歯を食いしばりなんとか耐える。

苦しみながらも僕が見た光景は、化物の丸太のように太い腕が窓ガラスを破って病室の中に入っているところだった。

さっき僕がくらった衝撃も、多分あいつの腕だったんだろう。

 

「……で、てけよぉ」

 

壁を支えに立ち上がり、奇跡的に離さなかった消火器を持つ手に力を込める。

 

「……ここから、出ていけ!!!」

 

「何の騒ぎだ!」

 

騒ぎを聞きつけてきたのだろう。

夏目先生の他、亜希子さんに婦長さん等がドアを開けて入ってきた。

しかし、俺はそんなこと気にしている余裕なんてなかった。

窓の外にいる化物を追い払わないと、里香が危ないんだ!

 

「おい戎崎、お前何やってんだ!」

 

僕が化物に向かって走り出そうとした途端、夏目先生が後ろから羽交い絞めにしてきた。

 

「は、離せよ! 化物が! あいつを何とかしないと里香が危なんだ!」

 

「何言ってやがる! そんなもん何処にもいないだろうが!」

 

「窓の外にいるだろ! 化物が、窓の外に!」

 

そう言いながら窓の外にいる化物を睨み付ける……と、そこにはさっきまでいた化物がどこにもいなくなっていた。

 

「……い、いない? どこに!?」

 

僕の力が緩んだ一瞬、夏目先生は僕を振り向かせて力の限り頬を殴りつけてきた。

 

「いい加減にしろ戎崎! 里香が苦しんでるって時に何してんだよお前は!?」

 

殴りつけた夏目先生を睨み付けると、今までに見たことのないくらい怒った表情をして僕を見下ろしてきていた。

 

「だから言ってるだろ! 里香が苦しそうにしてるのは化物の仕業なんだ!」

 

僕がそう言うと、夏目先生はあっけにとられたような表情を浮かべる。

 

「あいつが里香に変な力を使って苦しませてるんだよ! 僕は見たんだ! 僕の何倍もある大きな化物を! このままほっておいたら、里香が殺されr「いいからもう黙れ」」

 

僕が最後まで言い切る前に、今度は腹に強烈な衝撃が走った。

ちょうど鳩尾に入ったようで、うまく息ができない。

苦しみ膝をついてしまう僕の頬をまた衝撃が襲う。

バランスをとることもできず、僕は床に倒れるしかなかった。

 

「おい谷崎、こいつを部屋から追い出せ、邪魔だ。もう顔も見たくねぇ」

 

そういうと僕に興味を失ったのか、夏目先生は婦長と一緒に里香の様子を見始めた。

 

「……立てよ、裕一」

 

そう言って僕の襟首をつかみあげる。

顔をあげてみた亜希子さんの表情は、さっきまでのおちゃらけた様子なんてみじんもなく、僕のことをまるで物を見ているかのような冷たい表情でみていた。

 

「あ、亜希子さん……お願いだよ、信じて」

 

「……もう、しゃべるなよ」

 

中々立ち上がらない僕に嫌気がさしたのか、女の腕とは思えない力で僕を引きずり廊下に放り出した。

それから僕に何も声をかけることなく、そしてもう僕を見ることなく、亜希子さんは病室のドアを閉めた。

 

「……っく!? いってぇ」

 

夏目先生に殴られたり蹴られたりしたところが、一人になった途端痛みがぶり返してきたように感じた。

化物を相手取った疲労に気絶しそうな痛みで、このまま意識を飛ばしてしまいたかった。

……けど、それはできない。

 

「まだ、あいつがいる」

 

さっきはいきなり消えてしまったけれど、別にあいつがいなくなったわけじゃないだろう。

なぜ消えたかはわからないけど、それでもまだ近くにいるはずだ。

なんたって、里香のことをもう二週間以上も前から狙っていたんだから。

さっきの消火器のことなんて、きっと対して効いてはいなかっただろう。

多少の嫌がらせになってるかなっていないか、そんな程度だと思う。

それに、もしかしたらだけど、さっきのことで里香じゃなく僕に狙いが向いてくれたかもしれない。

さっき目に受けた消火剤をこすり取りながら僕を見る目は、間違いでなければ怒っていた。

だとしたら、こんなところであいつが襲いかかってきたら、せっかく狙いをそらした里香にも被害が出る。

 

「……屋上に行こう」

 

きっと、あいつは僕を狙ってくる。

だったら屋上のような広いところの方が、まだ被害が少ない。

そして、何とかしてあいつを倒さないと。あいつを倒さない限り僕も、里香だって助からない。

廊下に設置されている消火器をつかみ、僕は屋上を目指した。

 

屋上のドアを開けると、まだ冷たさが残っている風が僕に吹き付ける。

だけど、殴られたり蹴られたりして熱を持っている体には、この冷たい風が心地いい。

屋上の真ん中くらいまで歩いていくと、僕は大きく息を吸いこみきっと近くにいるだろうあの化物に向かって叫んだ。

 

「出てこい化物! 僕はここにいるぞ! お前なんて怖くない! 僕がやっつけてやる!」

 

病院全体に響くんじゃないかというくらい大きな声で、どこかにいる化物に向かって叫ぶ。

すると、今までとは違う強烈な突風に、咄嗟に目をつぶってしまう。

しばらく続いた突風が止んだ時、ゆっくりと目を開く。

 

―――キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!

 

目の前には、先ほどの化物が現われていた。

 

「……で、でかい」

 

その一言に尽きる。

病室から見た時でさえかなり大きく見えたのに、いざ目の前で化物を見ると病院の半分くらいあるんじゃないかというくらい大きかった。

さっき、病室の窓から突き落とすことに成功していたとしても、あいつにとって少し転んだ程度の痛みしか感じることがなかっただろう。

化物を間近で見て、さっきまで固めていた決心が簡単に崩れてしまいそうなほど圧倒されてしまう。

 

―――キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒィィィィ!!!

 

僕の心が折れかけていることが化物にも伝わったのか、いかにも愉快そうにどこか僕を嘲笑っているような声を響かせる。

 

「……そ、それでも!」

 

相手が病院ほど大きかったとしても、山ほど大きかったといても、僕が敵わない相手だったとしても、僕は引くわけにはいかない。

僕が立ち向かわなかったら里香が狙われる。僕が立ち向かって負けても里香が狙われる。

僕はどんなことがあっても里香には生きていてほしいんだ。

 

「うあああああああああああぁぁぁぁあ!!!!!」

 

腹の底から自分でも吃驚するくらい大きな声を出して自分を叱咤し、有らん限りの力で消火器をぶん回して突撃していく。

 

―――キヒ、キヒヒヒ!!!

 

そんな僕を嘲笑うように笑みを強めた化物は、緩慢な動作で腕を振り上げそのまま横薙ぎに振ってくる。

速さとしたら僕でも目で追える程度でしかない。

それでも化物の長い手に、目で追えるにしても速いに違いない速度で振るわれるその腕をすでにボロボロの俺がうまく避けられるわけもなく。

 

「っ!?」

 

車にでもぶつかられたのではないかという衝撃を受けて、僕は金網に強くたたきつけられた。

金網が大きな音を上げて軋む。

もう少し力を入れられていたら、金網が壊れていたのではないかと思えるほどに。

 

―――キヒヒヒヒ、キヒヒヒヒヒヒ!!!!

 

化物はさも愉快そうに笑っている。

僕が傷つき、苦しむのがさぞうれしいようだ。

 

(……勝てない)

 

心からそう思ってしまった。

さっきの攻撃なんてこいつからすれば、ただのお遊び程度。

そんな攻撃でさえ僕は抵抗もできずにこんな有り様。

一体どれ程の奇跡があれば、この力の差を覆すことができるというのか。

 

「おい、いるのか戎崎!? いい加減にしろよお前! どれだけ騒ぎを起こせば気が済むんだ!?」

 

入口からまた騒ぎを聞きつけた夏目先生、亜希子さんが屋上に入ってくる。

婦長がいないのは多分里香の様態を見ているからだろうか。

 

「……な、なんだ、こいつは?」

 

「ば、化物?」

 

屋上に入ってきた彼らが最初に見たものは、ボロボロになっている僕かそれともこの化物か。

 

「……な、夏目先生、亜希子さん。こ、こいつが、里香、を」

 

「え、戎崎……嘘じゃ、なかったのか」

 

「……こんなやつが、本当にいるなんて」

 

―――キヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒ!!!

 

突然の乱入者に、化物は気分を害することなく、むしろ餌が増えたとでも言いたげにうれしそうな声を上げる。

 

「っち、てめぇ……てめぇが、里香に変な真似してたのかよ!?」

 

化物の存在に呆気にとられていた亜希子さんだが、元暴走族で培った負けん気が勝ったのか、すぐに立ち直ると僕の近くに落ちている消火器を持ち上げた。

 

「……裕一、ごめんよ。あんたを信じてやれなくて」

 

「あ、亜希子さん……あいつが、あいつを何とかしないと」

 

「あぁ、わかってる。何とかできるかわからないけど、何とかしてみるよ」

 

亜希子さん自身、自信はないのだろう。それでも、目は死んでない。

 

「っ!」

 

屋上を駆けだす亜希子さん。

化物は僕にやった時と同じように緩慢な動作で腕を動かした。

亜希子さんに向かって振るわれる腕。それを亜希子さんは体勢を低くすることで避ける。

裏拳をするように返される腕も、今度は前転をするようにして避ける。

そして一気に化物の足元へもぐりこんだ亜希子さんは消火器を思いっきり振りかぶり、大木のような足の脛部分に向けて叩きつけた。

叩きつけた時、鉄同士がぶつかった時のような甲高い音が響き渡る。

 

「……チッ!」

 

しかし、まるで効いていないかのような素振りで化物は軽く足を振りかぶる。

それを見た亜希子さんは素早く後ろに引く。

……が、そもそものリーチの違いが大きかった。

亜希子さんが飛び引いた距離なんてなかったかのように化物の足が亜希子さんを直撃し、ちょうど僕の真ん前まで転がってきた。

 

「……ち、っきしょう!」

 

痛みで起き上がれないのか、体をくの字に曲げたまま悔しそうな呻き声をもらす。

 

「谷崎!」

 

こちらに駆け出す夏目先生を見た化物は、夏目先生に手を向ける。

 

「う、ぐぁ!」

 

その手から衝撃波のようなものが出て、夏目先生を襲う。

そこまで威力はなかったのか、金網にぶつかった夏目先生はヨロヨロと立ち上がってこちらに歩いてきた。

それを、化物は今度は邪魔することはなかった。

 

―――キヒヒヒヒヒ、キヒッ!

 

ただ、「美しい友情だな、だが無意味だ」とでも言いたげに不気味な笑みを浮かべてこちらを嘲笑っているようだった。

 

「おい、戎崎、谷崎。 ……大丈夫か?」

 

「……これが、大丈夫に見えるんでしたら、眼科行った方がいいんじゃないですかね?」

 

「こっちは、ゲホッ……あんたにやられた分も、入ってるんですけど」

 

「……ハッ、そんだけ口きけるんだったら上等だろ」

 

などと言ってはいるが、実際意識を保っているのもつらい状況なんだけど。

それは亜希子さんも、もしかしたら夏目先生も同じかもしれない。

……あ、夏目先生が膝をついた。やっぱりつらかったんじゃないか。

 

「……ちっくしょう、まさかこの世界にこんな化物がいるなんてなぁ」

 

「ったく、どうしたもんかねぇ」

 

そう言いながら体を起こそうとするも、亜希子さんももうまともにやりあえる状態じゃないみたいだ。

多分この中で一番動くことができる亜希子さんが、ここまでやられた時点でこっちに勝ち目なんてないのかもしれない。

 

(……こんな状況だけど……いや、こんな状況だからかな。昔親父と一緒に見たホラー映画思い出すな)

 

あれは親父が意地悪で俺に見せたものだったのだろうか、その夜に子供のころだったから仕方ないかもしれないけど怖くて親父に一緒に寝てもらった。

「男なのにだらしねぇなぁ」と親父が意地悪な顔で笑っていたのをはっきりと覚えている。

子ども心に悔しいと思ってはいたが、どうしても怖くて仕方なかったんだ。

大きくなるにつれて慣れて来たのか、もうあまりホラーものの話に必要以上に怖がったりはしない。

そんなもの、想像上のものだと理解しているからだ。そんな超常の存在なんて現実ではいやしないのだから。

……この年になるまで、そう思っていた。

 

どれだけ立派な志を持っていても、どれだけ強い覚悟を決めていても、結局最後は決まってバッドエンドな物語。

最後の最後で一縷の希望が見えたような気がしても、それすらも覆い尽くすほどの絶望が人間達に襲いかかる。

助けはなく、活路もない。特別な力なんて持っていない普通の人間達は、ただ化物に蹂躙されるしかないんだ。

今の状況が、まさにそれだった。

 

「……」

 

それでも、僕は生まれたての小鹿のように震える足に力を入れて立ち上がる。

勝てないなんてことはわかっている。あがいても、ただこいつの玩具にされるだけだっていうことはわかっている。

それでも、諦めきれない。

 

「……里香を、里香を守るんだ。僕が、里香を!」

 

「……裕一」

 

「……戎崎」

 

それでも、そんな切な想いすらも引き裂かれて訪れる無情な結末。

 

―――キヒヒッ、イヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!

 

化物はただ面白おかしく嗤う。そして、僕を叩き潰さんと拳を振り上げる。

避けたいと思っても、思うように体が動かない。

動かないどころか、もはや立っているだけで精いっぱいという状況なんだ。

振り上げられた拳が、死神の鎌のように見えてしまうのもある意味幻覚ではないのかもしれない。

あんな大きく強い力に叩きつけられたら、プレスに押しつぶされるごみのように何の抵抗もできず叩き潰されてしまう。

これから僕が訪れるのは、まぎれもない“死”。

死に対する恐怖ももちろんある。まだ死にたくはない。まだ生きて、いろいろとやりたいことだってあったんだ。

それができなくなってしまうと思うだけで、これほどまで怖くなってしまうなんて思いもしなかった。

……だけどそれ以上に、ずっと一緒にいると約束をした女の子の顔が頭から離れない。

そしてその大切な女の子、里香を守りきれないことが、怖いと思う以上に悔しかった。

 

「……だれか、誰でもいいから……里香は、里香だけは……助けて」

 

僕の願いさえも押しつぶすように、化物は拳を振り下ろしてきた。

その大きな拳が、僕の頭に……。

 

 

 

 

 

 

「ハイスラァ!!!」

 

―――ギ、ギャァァァ!?!?

 

……当たる直前、誰かが僕の前に割って入ってきた。

それと同時に苦しみに満ちた声を上げながら、吹き飛んでいく化物。

 

「オイィ……ん、なんか違うなぁ。

……ま、いいや。このままブロントさんをリスペクトしようと思ったけど、咄嗟じゃいい感じのブロント語が浮かんでこないし、やーめたっと」

 

そんな、どこかおどけたような声が聞こえてきた。

目の前に突然現れた男の人。

どこかで見覚えのあるような気がするその男の人は、あんな大きな化物が目の前にいるというのに恐怖感なんて全く感じている様子もなく、ただそこに自然体で佇んでいた。

 

 

 

 

説明
全体としては予定通り大体3部構成になりそうです。

今回は別人物の視点です。
……内容としてはまた賛否両論なところかもしれないと思う今日この頃。
でも、ハイスクールD×Dの世界観に舞台があることを考えれば、そこまでおかしくもないのかなぁと思ってみたり。
少しでも受け入れてもらえたら幸いです。
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