Another Cord:Nines  = 夏祭り騒乱篇 =
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ここまでのあらすじ。

 

 

旅団に属するBlaz一味が拠点とする世界、「狭間の世界」で夏祭りが行われると知り数名のメンバーと共に参加することとなった。

本郷夫妻、支配人たち、キリヤたちコンビ、そして刃と朱雀たちと、後からディアーリーズも合流するはずだったが、ラヴァーズたちに知られてしまい望まないままに無理矢理つれてこられてしまう。

更にニュー、咲良、フィアレスの三人は突如として姿を消してしまい迷子になり、ラヴァーズたちはラヴァーズたちで食戟を始めてしまい祭りは一つの騒ぎへと発展を始める。

そしてその中でディアーリーズを狙う影が一人…

 

果たしてBlazたちは無事に迷子三人を探し出せるのか。

そして彼を狙う人物とは?

 

今。ひとつの宴が始まろうとしていた―――

 

 

 

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= ノイシュタット市 セントラルエリア付近 =

 

 

 

夜風が吹く街では未だに街道は人々の熱気に包まれていた。

しかしさすがに高い建物となると上ってくる湯気などだけで暖かさは時折優しく吹く風にどこか遠くへと飛んで行く。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!??!?!?!?!??!」

 

一人の青年の空しい叫びも、風と熱気に飛ばされて行ったとさ。

おしまいおしまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや終わらないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――――」

 

 

……青年ディアーリーズは夜風の吹く建物の屋根の上をまたぎ、何処かへと逃げようとしている。しかしそれは彼の本意ではなくある者によって行われたことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――五月蝿い」

 

『―――。』

 

『―――。』

 

「いや五月蝿いじゃなくて?!」

 

「なら黙って。面倒だから」

 

「………。」

 

二人の人影が建物の上を飛び越え、北へ北へと向かって行く。

その内一人にはディアーリーズが捕まっており、もう一人の肩には少女が乗っていた。

こげ茶色の長髪を夜風になびかせ、垂れた目ではあるが生気が宿っている。

身の丈は小さく子供にも思えるが実際はそれよりも歳はとっていて、こう見えても十三だと時折怒気を交えて答えることもあり、その場合は彼女の怒りに触れることもあるという。

 

 

「やっと見つけた。私の探していた者。

 

 

 

貴方がそう―――――――アーウェルンクス」

 

 

 

「………ッ!?」

 

不敵な笑みは純粋な微笑み。

それが彼女の本性だ。

何故彼女がディアーリーズの秘密の一片を知っているか。それは彼女がそれを知る人物と同じ物を作る者だから。

 

そしてそれは意外に身近なところに居たのだ。

 

 

「君は、一体…!?」

 

「…フフフフフ……」

 

普段笑みを浮かべない彼女も、今回ばかりは不敵なものを見せる。

ようやく彼女が望む物。望む事が実現し、行われるのだ。この上ない幸福には彼女も抑えられないということらしい。

 

「私は貴方を知っている。((彼|・))から全て聞いたのだから」

 

「彼…?!まさかBlazさんが!?」

 

「いいえ。彼じゃないわ。彼は…私の手に余る」

 

「……?」

 

「けど貴方は違う。私が求めた者。探していた存在。だから私は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方が欲しいの」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ゑ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 同市 東側・第一円形環状道路 =

 

 

その頃、東側を回っていたBlazたちは突如としていなくなったニューに驚き、遊びまわりどころではなくなったので人ごみのある町の中を捜索する。

中でもアーチャーは単身建物の上に上り、下の町中を探す彼らとは別視点でニューを探していたのだ。

 

 

「……居ないなぁ…東エリアにはいないのかな?」

 

『アーチャー、そっちどうだ?』

 

「あ、Blazさん。一通り探したんですがそれらしい反応と姿は全く…多分東エリアからは出たんじゃないんでしょうか」

 

『…マヂか』

 

「多分マヂです…」

 

 

アーチャーからの念話に頭を抱えるBlazは小声で「マヂかよ…」と憂鬱気味に呟く。

過去に何度かニューの迷子を経験している彼らだが、それが回数を増やすごとに難解になっていくのには流石に頭を抱えるものになってしまう。

特に今回の場合人ごみがかなりのもので見つけること事態も容易ではない。しかも既に自分たちの居るエリアから離れたとなれば探す難易度は跳ね上がってしまう。「難しい」だったはずのレベルが「かなり難しい」に上げられたのだ。

 

 

「………クソ、こうなりゃミィナに連絡して巡回してる役員連中に応援頼むか」

 

『それしかないっぽいですね…』

 

「まったく…こんな事で連絡とりたかぁないんだがな…」

 

Blazが苦肉の策を取るため、携帯端末を使おうとしたとき。偶然にも端末のほうに支配人からの連絡が入り、慌てつつも直ぐに応答する。

 

「もしもーし!」

 

『Blaz。俺だ!今何処に居る?』

 

「さっき言ったとおり東側だ。それよりも…」

 

『解ってる!大方ニューが居なくなっちまったんだろ!』

 

「…おい、まさか」

 

『こっちも咲良とフィアの二人がどっかいっちまったんだ!!』

 

 

 

 

 

 

= 西側・第一円形環状道路 =

 

 

『揃いも揃って…しかもお前ん所もかよ!?』

 

「仕方ないだろ!本当にころりと消えちまったんだから…」

 

「………。」

 

「仕方ないのう…こればっかしは」

 

一方の支配人たちは一応休憩場所と中継地として町の道路に大量に配置されていたテーブルを確保し、そこに美空たちを座らせていた。

支配人は何処から探すべきかと目を細めて移動するための計画を頭の中で立て、足でフィアレスたちを探すのを前提に頭の中で組み立てていく。

しかしその前に刃がBlazの方から話に加わり、支配人の考えを読んでいたかのように意見を言う。

 

『ん、刃と代わるぞ』

 

「え、刃と?」

 

『―――あ、もしもし支配人さん?』

 

「刃か。そういやBlazたちと一緒だったな」

 

『ええ。先ほどまで蓮ちゃんが誘発して何処かに行かないかと心配していましたがなんとか…それよりも咲良ちゃんとフィアレスちゃんが居ないってホントですか』

 

「ああ。聞いてた通りだ」

 

『…なら、フィアレスちゃんに連絡は?』

 

「……………あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぉレイ何処にいるのさー!」

 

『そりゃこっちの台詞だ!!今何処に居る!?』

 

「ええっと…北側っていうのは覚えてるけど…」

 

『き、北……』

 

『………。』

 

刃の進言でフィアレスに携帯を渡していた事を思い出した支配人は直ぐに連絡を入れるが、その本人の現在地が西でも東でもない北側であると言う事に同じ回線で話を聞いていた刃も言葉を失う。

迷子がそろえば距離も遠くなる。これがもし蓮も加わっていたらどうなっていただろうか。

考えただけで迷子にさせてはならないとBlazは呑気にチョコのついたイチゴをほお張る蓮を見張る。

 

『…ええっとフィアレス…だっけか?Blazだ。そこにニューと咲良がいるか?つか居るよな?』

 

「え…Blaz、Blaz…ああ。あの時の。うん。二人とも一緒に居るよ?」

 

 

「きんぎょ〜♪」

 

「いっぱい取ろうね♪」

 

「にゅう♪」

 

 

 

『……まぁ楽しんでるだけでも良しとするが、ともかくお前らそこから動くなよ?いいか、絶対に動くなよ!?』

 

『Blazの言うとおりだ。俺たちが直ぐに合流するから、それまで待ってろよ!!』

 

「なんでさ?」

 

 

 

『『お前等が迷子だからだよッ!!!!』』

 

『……やれやれ』

 

天然だからだろうか、それとも状況が分かってないのか。

いずれにしても二人の念を押した言いつけに耳が痛くなったフィアレスは、最後にはいい加減な返事と共に電話を切り、むくれながらニューたちのもとへと戻って行く。

 

「むうっ…レイったらそんなにボクのこと信用してないなんて、酷いなぁ」

 

 

こんなことを時折やらかすんだからしょうがないだろ、と無意識に誰かに囁かれたかのような気がしたフィアレスは思わず後ろを振り返るが、後ろには誰も立っておらず、あるのは熱気と人の声だけだった。

 

「………?」

 

気のせいだろうと振り返るとフィアレスは支配人が来るまでの間、近くの露店でも楽しんでおこうと考え、金魚すくいを楽しむニューと咲良のもとへと向かって行き、自分も参加すると声を上げていた。

だが、その直後に彼女が忘れてまた、というのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 南側・第一円形環状道路 =

 

その頃、フィアレスたちが迷子になっていると知らずにキリヤとリリィの二人は様々な店を回り、楽しんでいた。

 

 

「おっちゃん。二人ね」

 

「あいよ、四百ギルだ」

 

気前の良さそうな男性に狭間の世界で流通する通貨である「ギル」を渡すとキリヤとリリィはそれぞれくじ引きを始める。

景品は大して一般的なものとは変わらないようだが、リリィは一等賞の「秘密」が欲しいようで、慎重な顔で紐を選ぶが対してキリヤはそれには興味は無く、更に下の四等賞にある不思議な石を狙っていた。

見た目は大したことのない石だが、形状と色がきれいなことから当たればリリィにあげようかと考えていたのだ。

 

「んじゃ俺はコレ」

 

「―――じゃあ…これにします!」

 

「引いてみな」

 

男性の言葉に二人は揃って紐を引っ張る。

すると先には景品…ではなく何等賞の景品かを書かれた紙が括られていた。

それを二人は取ると、無意識に互いに見えないように紙を開かせ中身を確認する。

そして。

二人の表情は刹那の間に変化する。

片や意外という顔。そしてもう片や…

 

 

 

 

 

 

「………さ、参加賞………」

 

 

 

 

 

「残念賞とかじゃないんかい…」

 

「ははは、それじゃあ可哀想だろうに。ホレ。残念だが、お嬢ちゃんのはコレだ」

 

絶望した顔で男性から渡された物を受け取るリリィ。

一枚のカードで、そこには今日一日の縁日でのタダ券(数回限定)が書かれていた。

ソレを見たリリィは力の限り叫んで

 

 

「ヤケ食いじゃアああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

と無念の叫びを上げたらしい。

 

 

 

 

 

「あ、あんま食いすぎるなよ…」

 

「で。アンちゃんのは?」

 

「ん、俺のは…」

 

対してキリヤのほうは、運がよかったというべきなのか。彼が欲しがっていた四等賞が見事に当たり、それを引換にキリヤは石の首飾りを受け取った。

 

「おう。四等賞だ」

 

「ありがとよ」

 

「なんだ。これ狙ってたのか?」

 

「ああ。別に俺は一等は欲しくはなかったからな」

 

残念げな顔ではなく、狙い通りと言った顔に男性は不思議そうに尋ねる。

一等賞が欲しくなく、二等三等が狙いという人は稀にいるが、キリヤはそれよりも低い四等狙いだったので変わっているな、と男性は頷いていた。

 

「ふーん…そいつはこの世界じゃちっとばかし数の少ない石でな。名前は『オードリューク』っつうらしい」

 

「オードリューク?」

 

「おうよ。この世界で精霊たちによって精錬されたっつーありがてーモンでよ。ここいらじゃ北の方でしか作られねぇんだ。その一つがソレよ」

 

「ッ…そんな高そうなモンいいのか?」

 

いいんだよ、と軽々と答えた男性は豪気な笑いと共にキリヤの不安と疑問を吹き飛ばし彼の手を強く握り締めさせる。

希少価値が高いのは確かだが別にもう作られないというわけではない。

それが男性が笑う大きな理由だった。

 

 

 

思わぬところで貴重なものを手に入れたキリヤはリリィへと話しかけて彼女に渡そうとするが、絶望のあまり怒りが湧き上がったのかリリィは怒声を上げてキリヤの腕を掴む。

 

 

「リリィい?!」

 

「キリヤさん、ちょっと付き合ってくださいッ!!!」

 

「え、ちょっおまっ、力強すぎんだろ!?!?」

 

女性とは思えない力で引っ張られるキリヤは、抵抗も空しく彼女独りの力で引きずられあちら此方にある出店へとつれまわされていく。

それが彼女が普段食べる量をオーバーしていたりカロリーが多かったりとしていたが、食欲で嫌な事を忘れたいのか、我を忘れたかのように彼女は手当たり次第に食べ歩くのだった。

 

 

 

「……お盛んだねぇ」

 

そんな姿をくじ引きのオヤジはキセルを拭かせながらしばらく眺めていたという。

 

 

 

 

 

 

 

そして。それが二十分ほど続き、まだ怒りの収まらないリリィは近くにある木造テラスのある喫茶店に立ち寄り、腹八分目を大幅にオーバーしているだろう状態でもまだ食べていた。

 

「…………。」

 

「…リリィ。悔しいのわかるけど食いすぎだろ。あと引きずりすぎ」

 

「キリヤさんは黙ってください…一人だけ当てたんですから」

 

「…聞いてたのかよ」

 

「当然です…」

 

空になった皿を置いて一息つくリリィは、一緒に頼んだミルクティを飲むと落ち着きを取り戻しつつも剥れた顔で伏せってしまう。

自分だけ当てたのが不味かったなと思うキリヤだが、今更景品を変える気にはなれない。

それに。確かに自分は狙っていた景品を当てたが、別に自分の為ではない。

 

 

 

 

「…あーあ残念だな。せっかく剥れてる誰かさんに上げるつもりだったのによ…」

 

「………へ?」

 

キリヤはそう言うと自身が当てた石の首飾りを取り出し、それをリリィに差し出す。

突然自分の目の前に出された首飾りを見てリリィは綺麗な石だなと思いつつも、なぜ彼が自分に見せたのかと疑問に思うが、半分は内心でもわかっていたが未だ信じられないという目でキリヤと目を合わせた。

 

「…今、なんて…」

 

「ん?聞いてなかったか。あげるって言ったんだよ」

 

「だ、だれに…?」

 

 

 

 

「………言うか、それ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那。

リリィの顔は真っ赤に沸騰し、目頭から熱湯が沸き上がるとともに恥ずかしさがはじけ飛んだ。

 

 

 

「――――――――――――――――――――ッ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

そして、最後には沸騰した頭から湯気が爆発したかりように吹き出し、リリィの頭はショートしてしまいテーブルへと思い切り叩きつけられたのだった。

 

 

「ッ!?リリィ!??!」

 

「……………………!!!!!」←声にならないくらいのトーン

 

突然頭を叩きつけたリリィに戸惑うキリヤは何事かと思い彼女を見るが、本人の耳が赤くなっているところからまた泣かせてしまったのかと誤認していまう。

とりあえず何とかせねばと汗をたらし、慌てて慰める。

 

「わ、悪かった!こんな首飾りだけで!!す、好きなもの自由に食べていいからさ!!!」

 

「……………。」

 

「………リリィ?」

 

ピタリと動きを止めたリリィにキリヤはゆっくりと顔を近づける。

まさかまた失敗したのかと怒るだろう彼女の姿を脳裏に浮かべつつ、恐る恐る近づけていくと、小さな声が彼の耳に入ってきた。

 

 

「――――――。」

 

「………え?」

 

「………。」

 

唇を強く締めるリリィは赤面のままの顔を下に向かせながら、ポツリと勇気を振り絞ってつぶやく。

別に恥ずかしくもないセリフだ。なのに、なんでここまで緊張しているのだろうと、そう思いながら。

 

「……ちょっと、熱いので…かき氷を………」

 

恥ずかしいことだが、今までと何ら変わりはないんだ。

自分に言い聞かせながら顔を上げたリリィはこれまで通りの笑顔を頑張って作ろうとまだ少し目蓋に雫を残しつつも彼の顔を見る

 

 

 

のだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ほえ?」

 

 

 

 

「……………バウッ」

 

 

 

 

アラ不思議。キリヤは狼に変わっていたのでした。

 

 

 

 

「………………………はい!?キリヤさん!?」

 

 

 

 

 

「いや。俺はコッチ…」

 

 

「あ。そっちでしたか」

 

「お前本気で俺が狼にでもなったと思ってたんかよ!?」

 

当の本人が狼の横から顔を見せ、本人が無事健在だったことになぜか当たり前のような感じをしたリリィは薄い反応でキリヤに対して返事をし、彼の心を少し傷つけた。

一方のキリヤはそんなことでめげる性格でもないので小さく「たくっ…」と不満げにぼやいていたが、それよりもと思い自分の横に居る狼を不思議そうに眺め始めた。

 

「…にしても、こいつ何なんだ?」

 

「狼…にしては少し大きいですね。Blazさんたちなら知っているかな?」

 

「…つってもアイツよりも先にどうして狼がここに居るか……」

 

 

 

 

そこへ、大きい狼の姿を一目で見分けがつけたのか一人の女性が狼につけられた名前を呼んで近づいてくる。

 

 

「あ、居た!おーいクイーンッ!!」

 

「…ッ!」

 

 

クイーンと呼ばれた狼は自分の名を呼んだ声に反応し耳をひくつかせると声の主のほうへと向かって行く。

突然現れて、突然去っていく姿にどうなっているのかと、二人は無意識にそろって狼の後ろ姿を目で追っていき声の主を探す。

どうやら本人はすぐ近くにまで来ていたようで、クイーンは主の足元にたどり着くと先ほどより少し低い目のトーンで吼えた。

 

「バウッ…」

 

「あははは…ゴメンゴメン、けどクイーンだって悪いんだよ?勝手にどっかに行っちゃうんだから」

 

「………。」

 

 

あれが飼い主か、と同じことを思っていた二人に飼い主である女性が見つけたのか真っ直ぐ向かってくる。

狼の飼い主とだけあって警戒心を抱くキリヤは、目の前に立った女性の第一声に目を細めた。

 

「ええっと…すみません、クイーンが勝手にお邪魔してしまって…」

 

「……アンタがあの狼の飼い主か?」

 

「…まぁ厳密には飼い主というよりも同居人といえばいいんでしょうけど…」

 

「同居人?」

 

はい。と迷いなく答える女性にキリヤとリリィは顔を見合わせる。

人との同居ならまだわかるが、狼と同居していると言われれば変な趣味を持っているのではないかと疑ってしまう。

しかし彼女の目は本気であると言っており、キリヤも思わず眉を寄せて尋ね返した。

 

「まぁ…そうなんですよ、アハハハハハ…」

 

「………。」

 

 

「あ、申し遅れました。

私、ここから東の街で獣医をしています。

 

"アナスタシア=フォン=ライムレス"と言います」

 

 

先が白いブラウンのゆったりとした髪を一つだけで纏め、ボーイッシュな服装を着こなす女性アナスタシアは自己紹介をすると二人に向かって深々一礼を行う。

雰囲気と言葉遣いからしてそこまで敵意を向ける相手ではないと分かったキリヤは警戒を緩めると彼女を空いた席に座らせる。

そして、挨拶と自己紹介をされればと二人も挨拶を返す。

 

「俺はロキ。こっちはリリィだ」

 

「リリィ・マッケージです」

 

「ロキさんとリリィさんッス…じゃなかった、ですね」

 

「………あのさ。敬語が苦手なら別にいいぞ?俺たち別段気にしないから」

 

わずかに漏れた彼女の本性のようなものに、キリヤは直ぐにアナスタシアに敬語をやめるように言う。

どうやら話からからしてあまり敬語を長く続けるというのが得意ではないのだろう。それを一目で見破り、知られてしまった本人は「あー…」と頭を掻くと申し訳なさそうに本来のしゃべり方で話し始めた。

 

「…スンマセン…アタシ、敬語とかって結構苦手なんで…」

 

「かまいませんよ。私たちもそうやっていると、無理に気を使わせちゃってるように思ってしまいますから」

 

「あー…そうでしたか、ありがとうございます」

 

少し気の強い言い方で苦笑いを浮かべるアナスタシアはまるでヤクザかなにかの子分のような言葉遣いで足を組む。

 

「アタシ、あんまり人との話し方っていうのが下手っていうか…無意識に汚い言葉も出るんで、日ごろは敬語とか丁寧なのを心がけてるんですけど、どうしても時々漏れて…」

 

「気にすんなよ。俺もそうやって下手な隠し事されてるのは好きじゃないしな」

 

「…ありがとうございます。ロキさん」

 

「ま、その代わりといっちゃ難だが…」

 

「はい?」

 

 

「…その狼。一体何なんだ?」

 

「ああ。クイーン”たち”のことか」

 

「クイーン…たち?」

 

 

 

その後しばらくの間、キリヤとリリィはアナスタシアからクイーンと呼ばれている狼の((覇獣|・・))”ルージュヴォルフ”について話を聞くこととなり、キリヤは途中であることを思い出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、Blazたち…のところへと歩きつつ出店を散策する朱雀はあちらこちらに並ぶ店に興味をそそられつつ、待ち合わせ場所であるパブに向かっていた。

元々キリヤたちのところに居た彼だが、どうにも自分がいると場の空気が悪くなるかと思い自主的に彼らのところから抜け出してきたのだ。一応二人が店に気を取られている隙に離れてしまっているので気づけば慌てるだろうと思うが、朱雀もキリヤも携帯はもっているのでそこまでは心配しなくていいだろうというのが彼の考えだ。

 

「…さて。パブまでまだ長いから…といっても店内で外のを食べるのもなぁ…」

 

 

周りには食べものを売る店が多くならび、縁日のように昔ながらという気質の店番たちが声を張り上げている。

一応簡単なゲームとも呼べるものもあるにはあるが、それでも数で言えば食べ物などが多いだろう。

普段縁日や祭りでよく見るものから、中には少し変わったものも。多種多様、十人十色とでもいうべきだろうか。

 

「それに腹八文目も考えないと…」

 

それでも、流石に食べ過ぎてあとで食べれないというのもどうかと思い、食べるのを少し堪えていた朱雀はBlazたちと合流するまでは頑張ろう、と先に目ぼしい店をマークし楽しみとして後にとっておく。過去に数える程度しか参加していないだろう祭りで食べた中では群を抜いている味だ。少しとっておくのも面白いものだろう。

 

 

 

「………ん?」

 

そんな彼が、偶然。建物の上を何かが飛んで行った姿を見かけたのは、本当に偶然だったのだろうか。それとも、すでに感じ取っていたのだろうか。

抱きかかえられていたのがディア―リーズに見えたのも含めて。

 

「………気のせいかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや気のせいじゃないですからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!??!?!」

 

きっと空耳だろう。

そう思わざるえない脅迫じみた何かを言われたかのように、朱雀は有無も言わず納得した。

そうだ。今聞こえるどこかで聞いたことのある叫びは空耳なんだと。

本人もすんなりと納得した顔で歩き去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああ…なーんでみんな僕を無視するんですか…僕が悪いことでもしたんですか、仕事サボって来た…というか来させられたからですか…?」

 

涙ぐんだ顔でぼやくディアは成す術もないままただ何処かに連れ去られる。

魔術はなぜか使えない。デバイスもテーブルの上。

無理やり振り払おうにも鉄のように硬い腕によって出ることも不可能。

まさに八方ふさがりの状態で頼れるのは仲間だけと思い力の限り叫ぶのだが、どうやら日ごろの運と行いと性格が災いしてか誰も振り向きもしなかった。

 

 

「ひどい…みんなそろってひどいです…」

 

「…仕方ない」

 

「いやなにがですか!?というか元はといえば君が原因じゃぁないかな!?」

 

「違う。私はあなたを手に入れただけ。貴方の仲間がこないのはあなたの所為」

 

「………なぜだろ。ぐうの音も出ないし涙があふれる」

 

「なら黙ってて。この街を出るまで」

 

「え、出るまで!?」

 

街から出ようとしていたことに驚くディアはなんで街からでるのだと少女に尋ねる。

なに当たり前なことを聞いているんだと当然のようにため息を吐くと、本人にとって喧しいと思う彼にいやいや説明した。

 

「…私はノイシュタットの生まれでもないし住んでもいない。ここから北西の街が私の帰る場所」

 

「…君は、一体…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は((自動人形遣い|エクスマキナマスター))」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「((自動|エクス))…((人形|マキナ))…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

自動人形、エクスマキナの単語にディアは目を見開く。

人が糸を使って操るモノではなく、自身で行動する人形。それを扱う人間は彼が知るなかでは一人だけしかいない。

あまりいい思い出のないものを操るという彼女に、それが本当なのかと目で問いただす。

だが彼女の目とセリフに偽りはない。

まだ幼い彼女が自動人形を操る。それだけでも言葉を失うには十分だった。

 

「なんで…君なんかが自動人形を…!?」

 

「………。」

 

「まさか、君の…!!」

 

「違う。私は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那。何かの気配を感じ取ったのか、少女を肩に乗せていた者は左腰にさしていた剣を素早く抜き取り正面に振り下ろす。

そこに発せられた剣戟と火花を予測していたかのように激しく散らし、襲撃者を牽制した。

 

 

「ッ………!」

 

 

「―――――。」

 

 

 

「ッ…!あれは…!!」

 

 

二人が建物の上に着地すると、襲撃者もまた別の建物の上に足をつける。

その姿にディアは目を輝かせ、少女は眉を寄せて不愉快そうに見つめた。

彼らの目の前に現れたのは二人とも知る人物だからだ。

黒とワインレッドの服装に新造された新しい大剣。だが実体は複合兵装。つまりマルチウェポンだ。

 

 

 

「―――よう。こんなところで何してんだ」

 

 

 

口元を釣り上げ笑みを見せる。

間違いない。声と立ち振る舞いで一目で判断できる。

助けが来た事に喜びを感じるディアは思わず叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Blazさん…!!」

 

 

「あ。ディア居たんだ」

 

「ってお前もかいっ!!!!」

 

 

黒いぼさぼさの髪をなびかせ今ディアが捕まっていることに気付いたBlazは素の驚きで思わず声を出した。

正直影が薄かったようだ。

 

しかしそんな彼の表情は連れ去った本人である少女を見ると消え、苦痛にゆがんだ目を見て反対に笑みを見せた。

実力としてか、それとも立場としてか。いずれにしても現状はBlazにとってまだ優勢のらしい。

 

 

「………死神」

 

 

「また会ったな。今度はそいつさらって何しようってんだ”ロジエール”」

 

 

「ッ…」

 

ロジエールと呼ばれた少女は自分の名を口にされると小さく歯を見せながらも軋ませ、乗っている人物の布を強く握りしめる。

その姿と光景にBlazは一拍ため息を吐くと、構えていた大剣を下げあきれた様子でしゃべりだす。

 

「…相も変わらずだな。いい加減人とのコミュニケーションを取れっての」

 

「………。」

 

「黙秘かよったく…」

 

「…なんで分かったの」

 

「――あ?」

 

「なんで私たちがここだと分かったの?」

 

 

「―――言う必要あるか?」

 

当たり前のことを聞くなと言わんばかりに答える彼に表情を歪めるロジエールは目を鋭くしてにらみを利かせるが、効果はないようで淡々とBlazは話を進める。

 

「単にそいつの魔力を追って来た…んだけだ」

 

(…それって僕がいるってこと知ってたんじゃ…)

 

「………どうして?」

 

「…え?」

 

「………。」

 

「“彼”には魔力遮断の能力を搭載して…」

 

 

 

 

「…確かに。そいつにはお前とかが発している魔力反応を遮断するっつー機能がある。

がな。そりゃあくまで魔力についてだ。気配まで遮断できるわけでもねぇだろ」

 

 

「ッ…!」

 

ロジエールにとってそれは盲点だった。

というよりも今まで自身でその欠点に気付けず、誰もそれを指摘しなかったからだ。

彼女がディアを抱えている人物に搭載したのは魔力遮断の機能のみ。気配までは遮断することはできない。

それがBlazたちのような強者であるなら、それだけで追跡は可能であるし逃げたとしても回り込まれる可能性だって浮上する。

気付けずにいた自分が悪いところ。彼女の慢心が生んだ失敗だ。

 

「…狡猾で目の前のことを頑なに守る。故にそれにわずかでも違反すれば罰を与える。

けどよ。その意味をしっかりと知ることまではしない。そのせいで自分が破滅すると知らずにな。

これが強欲な商人の末路…ってわけだ」

 

「………。」

 

「大方、隣はいつも通りの騎士さまだろ?」

 

すでに二人の人物の正体を見破っていたBlazは分かっていたかのように言う。

ロジエールにはそれが不愉快であったようで彼女の顔のゆがみはさらに強くなる。

 

 

「…いい。ここで倒すから」

 

「………。」

 

怒りを見せるロジエールに対しあきれた様子のBlazは頭を掻く。

肩に乗っていた彼女が足をつけ自分と対峙したその姿に大剣を構えるが、臨戦態勢というわけではない。

相変わらず面倒だな、と思う程度だ。

 

「やっと腰あげたか」

 

「…((コレ|ディア))は渡さない。私の物。私が欲しかった物、誰にも邪魔させない…!」

 

「…残念だが、ソレはコッチのもんだ。理由はなんであれ、な」

 

「僕は物ですか…」

 

余裕げなBlazに対しロジエールは真剣な眼差しで、自身の小さな右手を開くと円形ではない術式を発動し、それを自身の足元に展開させる。

円形という基本的な魔術の概念を使用しない術式はディアも知るなかでは一つしかない。

 

蒼の世界。

その世界で使われる術式の紋章に円形の概念はほぼ存在しないのだ。

厳密には円形は使用されるが円の中に紋章というわけではない。

そんな特殊な術式があるとすればその世界で使われた術式の紋章ぐらい。それが彼の考えの根拠だ。

 

 

「めんどっちぃ…!」

 

「あなたがそうした。だから…」

 

 

 

 

賽は投げられた。

 

 

 

 

 

召喚術式の中から姿を見せたのは一体の人形。

だが人形というには肌の色合いや見た目が人間に近しく、服装もはだけたものではない。

紀元前の人が着ていたもののような服に肩のあたりでマントは止められている。そして腰には一本の剣が収められている。

 

 

「―――ガイウス…!!」

 

 

「ッ……!」

 

 

「――――マクベスッ!」

 

 

人形と自動人形。似て非なる二体が彼女の前に出そろい、自動人形は纏っていたローブを脱ぎ去る。銀色の鎧をまとい騎士を思わせる姿、何より顔などは人間に近しく人形のような継ぎ目が見当たらない。まるで人間。それが彼女が作った((自動人形|エクスマキナ))マクベスだ。

 

 

「いいぜ。来いよデク人形ども!まとめて相手してやるッ!!」

 

マクベスは言われずともと、屋根を強く踏みけりBlazへと向かっていく。

その後ろをロジエールがわずかしか見えない透明な糸でガイウスを操り続かせる。

二体の人形が一斉に襲い掛かるが、Blazの表情は余裕そのものだった。

 

なにせ、まともな勝負ではロジエールは一度も彼に勝ったことがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あーあ…Blazさん始めちゃいましたよ…」

 

一方でそれを遠目で眺めるアーチャーは戦闘を始めたことに遂にやってしまったかと深いため息を吐く。

東側から動いていない彼女だが、ある理由から視力は一味の中では群を抜いて高く、約三キロから四キロまでは彼女の視認距離だ。

 

「ロジエールちゃん大丈夫かなぁ…まだ一度も勝ったことないし…ってあれ?」

 

目線を下げたアーチャーは北側へと向かうアルトたちは時時々確認していたが、その彼女たちへと近づく少女の軍勢を見つけ、その勢いの激しさに若干気を引いていた。

 

「あれ、まさか…」

 

 

 

刃はアルトたちと共にニューたち三人との合流を目的に北側へと向かう。

途中、Blazがロジエールを見つけたことで離脱したがそれでも目的が変わることはなく真っ直ぐ待ち合わせに指定した場所に走り続ける。

 

「この大通りを真っ直ぐですか?」

 

「ああ。ノイシュタットはほぼ円形の街で中心であるセントラルエリアから波紋状に環状道路が形成されてる。だから真っ直ぐここを行けば嫌でも一周可能ってわけだ」

 

「街のつくりはシンプルなんですね…!」

 

「そういうこった」

 

円形になっている街は魔法陣のように一直線に円が二つ存在している。それが円形環状道路で、たとえ道を間違えたりしても一周すれば同じところに戻れ、さらには人も道路を中心に隅々まで行き渡れる。

故にノイシュタットには裏路地というべき場所がかなり少なく、数える程度しかない。

 

 

 

「あ、刃さんッ!!」

 

「…え、朱雀さん?」

 

「あれ。キリヤ・タカナシたちと一緒じゃ…」

 

「…間が悪くって…Blazさんたちに合流しようかなって思って…」

 

朱雀が現れ声をかけたことに驚く三人だが、彼から直接聞いた理由にそろって「ああ…」と察した声で同情の目を向けていた。

どうにも彼にとっては居心地が悪いというよりも自分がいたら悪いという感じだったようで、朱雀もなぜ自分がキリヤたちと一緒に行くと言ったのかと恥ずかしく思っていた。

思えば友人関係として言ったことではあるが少々考えが浅かったようだ。

 

 

「…で、なんかさっきBlazさんが怪盗みたいに飛んで行ったんですが…」

 

「ああ…それは…」

 

「まぁ…気にすんな」

 

「え…」

 

アルトの無責任な言い方に大丈夫なのかと心配する朱雀。しかしそれを刃がフォローし別の意味で気にするなという意味だと説明する。

 

「あっちはBlazさんに任せてって意味ですよ…たぶん」

 

「………。」

 

「と、とりあえず今は…!」

 

事情を説明した三人から事の重大さを知った朱雀は失笑しながらも手伝うといい彼らと合流する。

しかし彼にはそれ以上に心配ごとがひとつあった。

それは自分がここに来る前に目撃したある光景だった。

 

 

「…あの、Blazさんはたぶんディアーリーズを追っていった…のかもしれないんですよね?」

 

「…そうかもしれないな」

 

「それが一体…?」

 

 

 

 

「…彼が捕らわれたってことで…」

 

 

 

「「「…………あ」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。セントラルエリアより北側ではBlazとロジエールとの戦闘が始まっており、二体の人形が挟撃を行っているが、それを難なく回避し大剣でマクベスと呼ばれた自動人形を弾き飛ばした。

 

「ッ……!」

 

「おらよっ!!」

 

「くっ…!」

 

直ぐに糸を引きワンテンポ遅らせてガイウスに攻撃を行わせるが、大剣のリーチと間合いが近かったせいか大剣の一撃が右腰に直撃する。

 

「ッ…!?」

 

「間合いが甘いぜ!!」

 

「…マクベスッ!!」

 

弾き飛ばされたはずのマクベスはすでに体勢を立て直しており、再びBlazの背後に肉薄する。大剣の攻撃は大振りで隙ができやすく、彼もすぐにその場から離れられる状態ではなかった。

これでもらった。ロジエールは一撃が入ると確信した。

 

 

 

 

「ちいっ…!!」

 

だがBlazは直ぐに腰からダン・ウェッソンリボルバーを抜き盾替わりに使う。

これにはマクベスも動じたようで剣が深くリボルバーと触れ合ったのですぐに引きはがせず、彼からの反撃の蹴りを受けてしまう。

 

 

「―――ッ!!」

 

「いい加減に…!!」

 

マクベスをはがし数歩の間合いを取ると、Blazは大剣を((もう一つの姿|・・・・・・))に変化させる。

柄につけられたグリップと更にボタンを押し一時的に刀身と柄を分離。その間、二つの間には頑丈な記憶合金が姿を見せ、完全に離れないようにする。

刀身はそのままに柄を銃の銃爪を持つように構え、そのまま刀身に向かい押し戻す。

 

Blazがシュレイドと呼ばれた大陸が存在する世界で見つけた武器。

銃と剣が複合し、盾とともに攻防一体遠近両方に対応を可能にしたもの。

不思議と魅力に引かれた彼は、それをベースに新しい武器を新造する。

それがこのマルチウェポン。

 

「ブラッドレックス」だ。

 

 

 

 

 

 

「しやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

「―――――!!!!!!」

 

 

刃をつける刀身に銃口が姿を見せ、そこから莫大な火薬とともに((弾丸|・・))がマクベスへと放たれる。

タイプ・ライノと呼ばれるのはもう一つよりも連射性が良く、射程や早打ちに重視されている。大剣の状態から直ぐに変形し発射することができるからだ。

 

それを至近距離で食らえばどうなるか。当然大ダメージは避けられない。

大口径の一撃にマクベスの鎧はへしゃげ、十数メートル先へ吹き飛ばされた。

 

 

「次ッ!!」

 

「ッッ……!!」

 

次はガイウスが狙いか。

ロジエールは糸を引き、体勢を立て直してその場から移動を考える。

マクベスは吹き飛ばされはしたが自動人形なのでよほどのことでない限りは大丈夫だ。

製作者である彼女が一番彼を知っている。それゆえに判断したことだった。

 

「シャイロックッ!!」

 

「――――!!」

 

呼び声に反応しシャイロックは移動を始めようとするが、咄嗟になにかを感じ取ったのか腰につけていた大型のナイフを抜き、後ろから迫って来た襲撃者の攻撃を受け止めた。

しかもその一撃はあまりに軽いものだったのでシャイロックはそのままの勢いで襲撃者を受け流した。

 

「あ!?」

 

「何っ…?」

 

細いレイピアと共に飛んできた炎の一撃。

シャイロックの銀色の髭を燃やしたのは後者だ。

そして、その攻撃を行った二人の姿にBlazは思わず抜けた声で驚いた。

 

 

 

 

ディアーリーズを追ってここまで来た、アスナとこなただ。

 

 

 

 

「お前ら!?」

 

「あ。Blaz」

 

「なんでアンタここに居んのよ」

 

今まで気づいてなかったのかと言いたいが、それ以前にどうして今追いついたのかと。どうして二人なのかと思った彼は迷わずそれを口に出した。

 

「そりゃコッチのセリフだ!?テメーらなんで…っていうか他の女どもはどうした!?」

 

「アキが《青眼の白龍》を出そうとしたら街の自警団の人に怒られて拘束されてた。で、私たちだけドサクサに紛れて」

 

「抜け目ねぇなお前ら!?」

 

ちなみに自警団にも魔術師やらと言った多少腕のある人間はいるようで、その所為もあってかしばらく残されたラヴァーズたちは動けなかったトカ。

 

「で。なんでアンタがここに居るのよ?なに、ウルを追って来たの?」

 

「な訳……別に。そこに捕まってるHよりも捕まえたほうに用があるだけだ」

 

 

「………。」

 

「そうだった…アンタ。なんでウルさらったのよ!!」

 

レイピアを向けて叫ぶアスナにロジエールは見下したような眼で見返す。

それはアスナにとって軽蔑というよりも侮辱に近く、それはさらにこなたにも及んでいた。

 

「シカト?随分と大きくでたわね」

 

「…邪魔しないで。今は彼だけでいっぱいなの」

 

「………そう。私たちは論外ってこと?」

 

「それが分からない?なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方たちは障害でしかないわ」

 

「あ゛…」

 

その言葉はまずいとディアーリーズは汗を滲ませ、落ち着いてくれと目で訴えかけるが状況が状況なためにそれは意味のない行動だ。

それにすぐ気づいた彼は叫んで止めようとするが、僅かなタッチの差だった。

 

 

「ちょっ、それは言っちゃ…!!」

 

 

 

 

 

 

「―――いいわ…こうなれば…」

 

「実力行使よ。怪我しても、知らないわよ?」

 

眼が本気の二人にディアは自分の不甲斐なさを呪った。

 

同時に、自分がロジエールの事を甘くみていたと、このとき始めて知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、先に動いたのはアスナとこなた。

アスナが先行し、後方でこなたは魔力を充填。先ほどとは違い今度は水と風の属性を両手に集中させる。

普段は仲の悪い二人であるが、いざという時は阿吽の呼吸とも呼べる連携を行う。

特にアスナは他者との連携に慣れているため自然とどのポジションで動けば最適かと動けるようになっているのだ。

 

 

「………!」

 

「はぁっ!!」

 

一歩を強く踏み込みロジエールに肉薄しレイピアで突き刺そうとするが、当然そうはさせまいとガイウスが行く手を阻み牽制する。

単純な力比べならガイウスが有利なため、アスナは攻撃を防がれ更に無理やり距離を引き離された。

 

「ッ…!」

 

「シャイロック。今のうちに…」

 

「――――。」

 

 

一人で十分と思いシャイロックに撤退するように告げる。この力量ならガイウスと自分の二人で事足りる。所詮その程度だ、と。

だが、そのよそ見が大きな隙となりロジエールは僅かに遅れて気配に気づき、目を見開く。

 

 

(逃げられると…!!)

 

(思ってんじゃ…!)

 

アスナが距離を取って後方に下がり牽制。その隙にこなたが魔力を収束させ強力な一撃を整える。

射線はアスナが確保しているため問題はない。

ロジエールも一瞬、気を緩めて別方向を見ていたので反撃は不可能。

 

刹那の気のゆるみがチャンスを生んだ。

 

 

 

 

「ないわよッ!!!!」

 

 

風の一閃と水の弾丸が一斉に放たれる。

一撃による高い威力を持つ風と、それを補うように拡散して広がる水の弾丸。

風の一撃を避けても水の嵐が襲い、防ごうにも耐えられるものではない。

一瞬、ロジエールの額に汗がにじみ、滴り落ちた。

 

 

 

 

 

が。それはあくまで自分がよそ見をしていたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――タンガン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロジエールの居た場所に弾幕が襲い掛かり、彼女の姿は巻き起こる煙の中へと消えていった。風の一撃は一番大きな爆発音を響かせ、乗っていた屋根の瓦を抉り壊す。

その勢いでその部分だけ屋根は破壊され、ロジエールの無事は怪しいものとなる。

 

猛撃を当てたこなたは勝利に慢心した顔ではなく、当てはしたがどうなったのかと気になり煙の舞う様子を見ている。

アスナも同じく、倒したと確信せず結果どうなったのかと警戒していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが功を奏したのか。それとも災いしたのか。

アスナは音も影も、ましてや気配もなく姿を見せたガイウスが横から仕掛けたのに気付いた。

 

「な………!?」

 

来た、見た、そして勝った。

ガイウスはそのすべてを体現せんと得物の剣を振り下ろした。

 

 

 

レイピアを動かすも完全に防ぐことは叶わず、アスナは右肩から斜めに剣を振り落とされ、肌を裂かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――アスナァ!!!!」

 

 

青年の叫びはむなしく、少女の体からは赤い鮮血が噴出したのだった。

 

説明
ちょっと長くなったので三篇構成に。その第二篇です。
もう秋ですねぇ…


ちなみに短編の時期はまだ夏です。
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コメント
キリヤ : ワリと冗談でもないんですよね…最近(Blaz)
竜神丸 : 旅団長「それについては知っている。私はお前自身の所持金等について提出しろと言っているんだ」(今後の資金のため)(Blaz)
今はまだ夏。雪が降っても夏。いいね?(キリヤ)
旅)うぇぇぇ……まぁ、どうせまたそこらの犯罪組織から毟り取るんで良いですけども←(竜神丸)
そして、更に竜神丸に実験で使った機材とかの費用の整理をするようにと団長から言われたり(数年分)(Blaz)
デバイス忘れてるけどできる…か、多分(Blaz)
旅)何で私がディアさんの分まで書類整理しなきゃいけないんですかねぇ、全く…    イーリス「普段実験ばかりしてるツケかと」(竜神丸)
さーて魔族化の準備をしないとー★(目の色が反転している)(ディアーリーズ)
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