双子物語66話
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双子物語66話

 

【雪乃】

 

「そこの後輩ちゃん。ちょっと私の相手してもらえる?」

「はい?」

 

 大学構内の食堂でいきなり声をかけられて驚いた私が振り返るとそこには

予想していたより背の小さい、下手したら中学生と間違われるような見た目の

先輩らしき人がいる。

 

 背が低い他には腰に届きそうなくらいの長くてふわふわの茶色の髪の毛。

見た目の割にかなり大人びたような雰囲気を持っていた。

 

 一瞬誰かと思ったが少し考えたらすぐに思い出した。私の入った創作活動のサークルの

部長さん。確か嘉手納梓さんだっけ。その人が今私に声をかけてきたのだ。

 

「先輩、私に何か御用でしょうか」

「ふむ、他の子にもしてきたことだが。君にも少し協力して欲しいことがあってね」

 

 どうやら「言える範囲でも良いからこれまでの経緯や出来事等を教えて欲しい」らしい。

 

「どうしてです?」

「いや、せっかく創作活動をメインにしているのだから題材が欲しくてな」

 

「あぁ、なるほど…」

「ダメかな?」

 

「え、いや。大丈夫ですよ」

 

 言える範囲で良いとのことだから私自身も振り返ることで何か発見できるかもしれない。

だから先輩の申し出には快く了解したのだった。

 

「いつからです?」

「んー、ちゃんとお話聞きたいし〜…。大学じゃなくて私のお気に入りの喫茶店でしよか」

 

「わかりました」

「ん、快い返事に感謝。じゃあ、時間はこのくらいでどう?」

 

「大丈夫です」

「そっ、よかった。後は…あねちゃんも一緒に来てくれると嬉しいんだけど」

 

「彩菜のことです?」

「そそ」

 

「後で聞いてみますね」

 

 一度方向性が決まると絶え間なく話が続いてどんどん決まることが増えていった。

彩菜に何の話も通さないまま決めちゃったけど多分私が一緒にいるだけで大抵のことは

受け入れてくれるだろうし、大丈夫だろう。そう軽く考えていたら…。

 

 講義が終わり、先輩との約束の時間の一時間くらい前に自販機で飲み物を買いながら

彩菜に話すと。

 

「えぇ!そんないきなり言われても…」

「え、だめだった?」

 

「ううん!全然大丈夫!」

「もう、驚かさないでよ…」

 

「雪乃のお誘いだったらどんな用事よりも優先するよ」

 

 シシシッとマンガのように笑いながら言う彩菜に少し呆れながらも話が早くて

助かるのでありがたかった。理解しているかどうかは不明だけど。

そんな風にじゃれあうようにして目的の場所まで歩きながら話していく。

 

「そう。それと先輩には大丈夫なとこだけ話すから手を加えないように」

「私と雪乃がラブラブでチューしちゃうとことかかな!?」

 

「だから捏造すんなって言ってんの」

「あっはい」

 

「まったく・・・」

 

 少し頭が痛くなりそうなほどバカだけど、それでも悪気がなくて。

それどころかむしろ本人は良かれと思っているのだから嫌いになれないところがある。

 

「あはは、ごめん。でも雪乃の今の迫力。段々母さんに似てきた気がする」

「それは素直にありがとうと言っておくわ」

 

 母さんのことを言われて少しいい気分になったから彩菜に礼を言った。

母さんみたいに心身タフでかっこいい人は私の理想であったから嬉しかったのだ。

 

 そういう風に話をまとめている内に予定の時間になり、ほぼぴったりに先輩が

顔を出してきた。

 

「よぉ、後輩ちゃんたち」

「うわ、ちっさいかわいい!」

「いきなり失礼発言!?」

 

 私は先輩に失礼なことを言う彩菜の耳をつねり上げると嘉手納先輩は苦笑しながら

私のことを止めた。

 

「いいっていいって、本当のことだしな。それよりも早く目的の場所に行こう」

「あ、そうですね」

「あ〜。ここじゃないんだっけ」

 

「さっき説明したでしょう!?彩菜は鳥頭なの!?」

「自慢じゃないけど、雪乃のことと彼女のこと以外は覚える気ないから!」

「ほんと自慢じゃないわね!」

 

「くくく」

 

 私たちのやりとりに先輩は笑いを堪えるようにして私たちを交互に見ると。

 

「本当にキミたち、面白いわ」

 

 爽やかな笑顔をしながらそう言っていた。

 

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***

 

「さて、目的の場所に移動したわけだが…」

 

 先輩に案内された場所は目立たずまるで隠れ家のような雰囲気があった。

常連さんが主に来ているようで他のお客さんの姿はあまり見えない。

お店の中はあまり広くないけれど混んでいないためちょうどいい感じになっている。

それと店の外観や中の雰囲気がすごく良くてついあちこち目が言ってしまう。

 

「じゃあさっそくお話聞かせていただきましょうか」

「あ、先輩それなら私と雪乃のアレな関係を」

「ちょっと!誤解をするようなこと言わないでくれる!?」

 

「まぁ、それはそれで受けが良さそうな気もするけど・・・」

「真剣に考えないでください〜・・・」

 

 先輩と彩菜の言葉になるべく大きな声を立てずにツッコミを入れると二人は満足気に

頷いていた。何だか部長さんはまともだと思っていたのを少しは考え直さないと

いけないだろうか・・・。そう思ってると。

 

「悪い悪い、君らを見ていると面白くてつい意地悪したくなってくる」

 

 さて、続けようか。と部長さんは話の続きを催促をしてきた。

美沙先輩のようにマイペースの人のようだけど、あの先輩とは違って普通に

接してくれる方なので少し安心する。

 

 簡単に私たちの家族や周りの人間関係など、特に触れても問題ない部分を挙げていくと。

 

「何かラノベの設定みたいだね」

「言われてみれば…」

「え、ラノベって何?」

 

 部長と私が想像しながら頷くと、話しについていけない彩菜は頭上に「?」を

浮かべるような表情で私たちを交互に見やっていた。

 

 そんな和やかに会話を進めていると、ノートに書いている途中、先輩の手が止まって

私の顔を見ると。

 

「そういえば彼女がいたんだよね」

「え、あ・・・はい」

 

「その話はNGなのかな」

「その辺はデリケートな話なんで…すみません」

 

「いいのいいの。別に話にする参考とかじゃなくて単に興味があっただけで」

「え?」

 

 大体は状況を知っている彩菜は私の様子を見ながらちょっと緊張した面持ちで

私と部長さんの顔を交互に見ている。どうしたらいいか図りかねているようだ。

 

「ずっと待ち続けるのとか相手に期待する考えは立派だし純粋で素敵だと思うけれど。

もし何も変わらなくてダメだった場合はどうするつもり?」

「え・・・」

 

「その場合はもっと自分に釣り合う相手をかみつけようとしないわけ?

美沙ちゃんの場合、だいぶ優良物件なわけだけど、見向きもしてないよね。

物事を固く考えないで柔軟に考えを巡らせるのも大事だと思うのだが」

「あ…その…」

 

 あくまで仮定の話だから可能性が0じゃないだけに否定ができずに困惑していると

横から彩菜が必死に間に入ってきた。

 

「あんまり考えさせないでください〜。雪乃、前に考えすぎて熱出しちゃったこと

あって。その・・・すみません!」

「あ、あれは疲れが溜まってたせいもあるわよ…!」

 

 まるで普段から頭使っていないバカみたいな発言に私は抗議するも彩菜は聞き入れない。

というか必死すぎて聞こえていないだけかもしれないが。

 

「ごめんごめん、踏み入れすぎちゃったかな…。私熱くなるとこうなるから…」

 

 彩菜の言葉に踏み込んできていた部長さんが本当に申し訳なさそうに頭を下げて

謝ってきた。

 

「だ、大丈夫ですよ。もしの話でそういうことだってありますから・・・ですけど私はね。

そういう現実もちゃんと受け入れて、その時はその時考えることにします。

だって先を考えすぎたらがんじがらめになって身動き取れなくなっちゃうじゃないですか。

「なるほど…そうかもしれないね」

 

 話に夢中になって頼んだコーヒーが冷めたのを先輩は一口啜って再びノートに

視線を移して書き始めた。その間、少しずつ話しかけてくるのを私は一つ一つ答えていく。

 

「そういえばこの幼馴染の大地君ってほんと空気よね」

「ですね、目立つタイプではないですから」

 

「うちの大学にもいるんだっけ?」

「えぇ、野球が得意なのでそっちの方に行ってるかも…」

 

「創作をするには色々見ることも必要なのよね、だから知り合いが様々な道を

歩いている方が見れるものも多くていいのよ」

「なるほど…」

 

「だから、その大地君のコネも利用して今後活動の幅も広げていこうかなぁ」

「そういう方面なら私にお任せですよ!」

 

 部長さんの呟きに彩菜がここぞとばかりに主張してきた。確かに人に対して

積極的で顔も広いから許可をもらうには適している人材ではある。

 

「でも君はサークルに所属していないじゃないか。何の見返りもないが…」

「それなら雪乃が喜んでくれる顔が見れればそれが私にとってのご褒美ですよ!」

 

「ははっ、彩菜くんは本当に雪乃くんのことが好きなんだね」

「もちろん!」

 

 彩菜の持ち前の明るさで場の空気を一気に明るくさせる。その後、ふと思ったけど

いつの間にか私たちはくん付けで呼ばれていることに気付いた。

 

 その方が部長さんにとって気楽でいられる呼び名なのだろうか。

そう考えると悪くはないと思えた。

 

 そして最後に話のまとめに入った後、先輩はおもむろに私の頭を撫でながら。

 

「キミは本当に魅力的な子だね」

 

 そう言って手を離してから。

 

「このネタは私の最後の一番大切な時に使わせてもらうよ」

「は、はい…」

 

 何のことを言っているかわからないけれどこの人の役に立つのなら良かったと

思えた。頭を撫でられた時、不思議と心が落ち着いていくことに気付いて

小さい頃、母に撫でられたのを思い出した。

 

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**

 

 そうして3人は喫茶店から出るとすっかり空は暗くなっていて思ったより時間が

経過していたことに気付いた。

 そういえば中からじゃ外の様子は見えなかったし店内でも時計の位置は

見えにくい場所にあった気がした。

 

 所謂、時間を気にせずくつろげることをメインにしているらしい。

確かに他の店よりは気持ちよくいられたからその通りなのだろう。

 

「すっかり遅くなってしまったようだ、お詫びとして私にバス停まで案内させてくれ」

「え、それは…」

 

「ここら辺はキミ達には馴染みない場所だから迷われては困るからな」

「先輩ぜひお願いします!」

 

 私よりも先に彩菜が嬉しそうに部長さんにお願いをしていた。それを見て気分が

良かったのか部長さんは任せろとばかりに私たちを案内しながら歩き出した。

 

 行きより早く感じたのは近道があったらしくそこからバス停に直行でいけるらしい。

最初にここを使わなかったのは正規のルートを辿るためらしかった。

 

「いきなり近道ばかり行っても道なんて覚えられないからね」

 

 言われれば目印になりそうなところもなく、狭い道を幾度か曲がって進むから

道のことをしっかり把握していないと迷子になりそうな気がした。

 

 そうしてバス停まで送ってもらうと、部長さんは帰る前に一言さっきのことに

ついて語った。

 

「キミみたいな良い子がね、辛い思いをしないようにと思っての助言だったんだけど。

キミの言葉が胸に沁みてさ。私の考えは逃げているってことに気付かされた。

キミは私が思ったよりずっと強い心の持ち主なんだね、ありがとう」

「そんな…」

 

「じゃあまた学校で会おう」

 

 そう言って手を振りながら離れていく部長さんはやがて暗闇の中へと消えていった。

それからすぐにバスが来て乗り込むと私の隣に座った彩菜が。

 

「良い感じの先輩だったじゃん」

「そうね・・・」

 

「黒田先輩よりぐいぐい来るから驚いたけどまた別の意味で面白かったよ」

「彩菜は何でも気楽で接することができて羨ましいわ」

 

「そんな褒められても、えへへ」

「半分くらい褒めてないんだけどね」

 

 その日、遅くなって連絡もいれてなかったから帰ってから管理していた人に

軽く怒られて残しておいてくれた晩御飯を温めて出してくれた。

 

 ここまで遅くなるとは思わなかったからという言い訳は立たない。

そこに関しては自分の悪いのを認めてこれからきちんと余裕があるかもしれないでも

連絡を入れることを決めた。

 

 それから自分たちの部屋に戻ってお茶を淹れて飲んだ後、どっと疲れが押し寄せてきた。

 

「疲れた?」

「うん…少し」

 

 そんな私の様子に彩菜が少し心配そうに訊ねてきたから少しだけと答えると。

 

「じゃあ今日は私と一緒に寝る〜?」

「何されるかわからないから嫌」

 

「そんな!この紳士的な彩菜ちゃんに向かって!」

「あんたは獣でしょうが」

 

 といつものようなやりとりに心落ち着かせてからベッドに向かって寝巻きに着替えて

からベッドに潜った。すると、普段よりも早く眠気が来てうとうとしながら

今日のことを振り返った。

 

 今日はサークルの部長さんと色々深いところもたくさん喋ったような気がする。

ただその分、一気に仲良くなった気もしていた。

 

 あの人は本当に周りの人を優しく気にしてくれていたのだろうと今なら思える。

それが少し空回り気味でも後でその優しさはじわじわと私の中で広がっていく。

 

 そういうちょっと報われない優しさ。

 

 改めて叶ちゃんに対する強い気持ちが少しずつ形となって表れたことには

感謝しなくてはいけない。ぼんやりとした強い思いが不安として残っていたけれど

今日のことでもっとはっきりと私の中で残ったんだ。

 

 彩菜もちょっとふざけつつも私のフォローをしてくれたことにも感謝。

私は周りの人に恵まれているなと改めて感じながら眠りに就いた。

 

 今日の疲れをしっかりと取って、また明日に繋げることにするのであった。

 

続。

 

説明
サークルの部長さんとお喋りしながらこれまでを振り返るお話。恋愛に対してはなぜそんなに拘るのかも改めて考え、より強い気持ちが固まっていく。部長先輩はただ吹っかけるだけでなく、可愛い後輩の後押しをしたいのだと思います。




梓部長
 4年(?)の創作活動をしながらみんなのまとめ役を買っている。
大人っぽい発言や考えとは裏腹に見た目はちっこい。
知識量や創作意欲は強いが結果を残せていず、悔しい思いをしている。
新しく入った1、2年の子たちを見てもう一度奮起しようと
試みている。
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タグ
オリジナル 双子物語 百合 大学編 ほのぼの 

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