Essentia Vol.5「予感」
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六時限目の授業は、私の苦手な歴史だった。

担当する先生の声は独特で、電車の到着を告げるアナウンスのように甲高く平坦で聴きとりづらい。

この先生の語り口調には抑揚がなく、つい眠ってしまう生徒もいるくらいだ。

 

(ぜんぜんおもしろくないんだよな?)

 

授業を聞いているふりをしてぼんやりしていると、いつの間にか終了のチャイムが鳴り、ガタガタと椅子を引く音で我に返った。ホームルームと清掃がまだ残っているけれど、ようやく一日が終わったという気分だ。

真っ先に飛び出して行った男子がいたけれど、どうせいつものことだろうと誰も気に留めなかった。学校よりもバイトに精を出しているらしいことは、仲のいい男子が話していたからみんなもよく知っていた。

先生が能面のような顔をして教室を出て行くと、箍が外れたみたいに教室の中はガヤガヤと人の声で溢れていく。まるで外国の市場みたいだ。

 

「ねぇ((星|ひかり))! 帰りにどっか寄ってかない?」

 

すでに帰り支度を済ませた友人が、にっこりとしながら近づいてくる。

 

「いいね! どこに行く?」

 

当然とばかりに相槌を打つと、

 

「いーな! 私も行きたい!」

「うちらも仲間に入れてよ!」

 

と、次々に同調しはじめる声がした。

話を聞いていた仲のいい女の子たちも、輪の中に混ざりどこへ行こうかとその気になっている。

あーだこーだと言い合っているうちに、教室の入口に一番近い席の子が寄ってきて、「A組の結城くんが呼んでるよ。」と教えてくれた。

すかさず友人が、「もしかして結城くんと約束してた?」と茶化すように言うものだから、別にそんな約束はなかったというのに恥ずかしくて言葉につまってしまった。

 

「ううん。そんなんじゃないよ。」

 

全力で否定しても怪しまれそうだから、軽く否定しておくくらいがちょうどいい。なぜなら、翔太くんは学校でも三本の指に入るくらい人気があるからだ。女子の間ではナイトなんていう呼び名が勝手についていて、芸能人みたいに囲まれることもあるくらいだった。だから、翔太くんの彼女の座を狙っている子は多い。

幼馴染みだというだけで嫉妬されることもあるし、その幼馴染みという関係が祟って彼女になりたがっているなんていう噂が勝手に流れてしまったこともある。

それはともかく、これだけ女子に人気があれば彼女くらいいてもおかしくはなさそうなんだけど、翔太くんは入学してから今日まで一度も彼女を作ったことがないのだ。

何度も告白されてるみたいなんだけど、誰とも付き合おうとし、女の子の影すら感じられないのは本当に不思議だった。小さい頃から知ってる私がそう思うんだから、周りも当然同じことを考えるはずだ。

ずっと片思いしている人がいるんじゃないかとか、もしかしたら他校に彼女がいるんじゃないかとか、これまでいろいろ言われてきたけれど、その謎は未だに解明されず謎のままだった。

 

「約束はないけど…呼ばれてるから行ってくるね。」

 

恥ずかしさをごまかすように言って席を立つと、早くも入口から顔を覗かせた翔太くんがこっちを見ていた。

みんなが私を突き出して、女の子特有の黄色い声を上げる。

まるで告白を見送る応援団のようだ。

 

「うちら先に行ってるからね。 来られなくなったら電話して?」

 

電話のハンドサインをした友人が私に何かを期待するように片目をつぶって見せ、その仕草が怒る気もなくなるくらいお茶目でなんだか憎めないと思った。

 

(翔太くんは幼馴染みなのにな)

 

私たちには何か特別なことがあるわけじゃないのに、教室にいる人たちの好奇の目が集中して恥ずかしい。私がこんなに恥ずかしい思いをしているというのに、翔太くんは何でもないことのようにけろりとしていた。

 

「翔太くん。どうしたの?」

 

間近で顔を見た途端、発作で迷惑をかけてしまったことを思い出す。昨日のことを謝るのには、ちょうどいいのかもしれないと思った。

 

「急に呼び出してごめん。友だちと帰る約束してたのか?」

「うん。そうだけど、すぐに追いつくと思うから。それで?」

 

周囲に引け目を感じている私とは対照的に、いつもみたいに自然体でいる翔太くんは、ちっとも卑しいことがないというふうに堂々としていた。なんだかとっても話しづらい。

 

「体調はどうなのかと思って。もし約束がないなら、たまには一緒に帰らないかって誘おうと思ってたんだ。」

 

(相変わらずやさしいな)

 

昨日の午後に発作があったことを気にしてくれているみたいだ。私がうっかりしていなければ、こうして心配をかけることもなかったかもしれないのに。翔太くんが教室まで走って取りに行ってくれなければ、私はどうなっていただろう。

思い出すと喉がきゅっと締まったみたいな気がして、気づけば指先が喉仏のあたりをしきりに撫でていた。それに気づいた翔太くんは、「スカーフ、直したほうがよくないか? 緩んでるみたいだぞ?」と言い、喉の奥に意識を絡めとられないようにと気を回してくれたみたいだった。その気遣いは、幼馴染みならではだなと思う。

 

「部活はいいの?」

「うん。今日だけは休みをもらったんだ。星と一緒に帰りたくて。でも、先に約束があるなら仕方ないよな。」

 

照れたように髪をくしゃくしゃっとした後で、翔太くんは残念そうに薄く微笑んだ。喘息持ちの私に対する幼馴染みの義務感とかじゃなく、言葉のとおり一緒に帰りたかっただけなのかもしれないと思った。そんなふうに言われてうれしくないはずがない。

 

(でも、私なんかのために、大事な部活を休んじゃうのってどうなんだろう?)

 

そう思ったら、素直に一緒に帰ろうとはなかなか言いづらい。甘えたいけど甘えられない。いや、そもそも一緒に帰ることと甘えに何の関係があるんだろう。

甘えだと感じるなら、やっぱり翔太くんは義務感で私と帰りたいのだろうか。よくわからなくなってきた。

 

「俺のことは気にしなくていいって。星は友だちと帰りな。さてと、俺は部活に戻るとするか。」

 

なかなか決断できなくて答えに戸惑っていると、翔太くんはそれを別のことと勘違いしたらしく「じゃあな」と言って立ち去ろうとしていた。それを私は慌てて呼び戻す。

 

「あ、待って! せっかくだから一緒に帰りたい。友達には電話で断りをいれるから。」

 

遠くなりそうだった背中がくるりと反転し、エナメルバッグを担ぐ手がすくっと上に伸びていく。

 

「そっか。ありがとう。じゃあ、チャリ置場で待ってるな。」

 

伸び上がった腕は「了解」という仕草をして、また遠ざかっていった。

私は急いで教室に戻り、友だちに理由を話してから帰り支度を始めたのだった。

 

通学のためのリュックを背負い、トントンと調子よく階段を降りていく。昇降口に向かう途中で、階段の踊り場に人の塊ができていた。

話し込む女の子たちの横をすり抜けると、その先にもやたら女の子たちが戯れていて、何度も行く手を遮られてしまう。

彼女たちはおしゃべりに夢中で、なんとなく聞こえてくるのは男の人の話題だった。

 

「誰を待ってんだろうね?」

「昨日の今日って何!? びっくりするわ!」

「私、素通りしてまた戻って来ちゃった! バッチリ顔見てきたけど、やっぱり爽やか! 羨ましいよね! 誰なんだろう!?」

 

彼女たちの口ぶりから察するに、ここの生徒を迎えに来た人がいるらしい。

 

(大丈夫なのかな?)

(そういうのって目立つよね)

(でも、昨日の今日って一体何のことだろう?)

(もしかして、昨日も来てた人なのかな?)

(そんなに熱心に迎えにきてたら、先生たちだってさすがに気づいてそうだけど…)

 

うちの学校はとりたてて指導が厳しいわけじゃないけど、放課後の行動が目に余る場合には、父兄や近所の大人たちが苦情を寄せることもあった。それでも実際に指導される生徒はそう多くはない。問題を起こす生徒はいつも決まって同じだった。今回のことが問題になるのかどうかは先生たちが決めることだから、私が心配しても仕方のないことだ。

 

(年上の彼氏に迎えに来てもらうなんて、勇気がある子だなぁ)

 

誰かの彼氏だとすっかり決め込んでいる私は、他人事のように思いながら駐輪場へと歩いていく。

それでも女の子たちの噂が気になって何気なく門の方を窺い見ると、校門付近で話し込んでいる翔太くんの姿があった。

 

(あれ? 駐輪場で待ち合わせのはずじゃ…)

 

翔太くんのほうから待ち合わせ場所を指定してきたはずなのに、どうしてそこで待っていてくれないんだろう。これも幼馴染みの気安さってやつなんだろうか。

とにかく、私を待たずに行ってしまったことにムッとする。

 

(普段はこんなことしないのに)

 

翔太くんが自分から約束を破るような人ではないということを、幼い頃からの仲良しである私にはよくわかっていた。

 

(何か理由があるのかもね)

(話してる相手も顔見知りみたいだし)

 

そんなことにいちいち腹を立てても仕方ないと思い、後輪につけた鍵を外しハンドルをきって自転車を動かした。

通学用の通路をたどり、翔太くんのいる場所まで自転車を押しながら移動をする。彼は話に夢中らしく、まったく気づいていなかった。

 

「もう! 翔太くん! 黙って行かないでよね!」

 

プイッと頬を膨らませて彼の背中に抗議をすると、私の存在をすっかり忘れていたらしい翔太くんは、不意打ちを食らったみたいに「わぁっ!?」と叫んで目をまん丸くしている。

 

「なんだ星か。びっくりするじゃん。」

「なんだ、じゃないよ。置いてかれたかと思ったでしょ。」

 

部活を休んでまで一緒に帰りたいと言ってくれた翔太くんは、一体どこへ行ってしまったんだろう。せっかく感動したのに。

 

「ごめん。沖田さんとバッタリ会ったから。」

 

翔太くんに言われてその人を窺い見ると、昨日お世話になったばかりの救命士の人が申し訳なさそうに立っている。

 

(変なの)

(どうして救命士さんがこんなところにいるんだろう?)

(もしかして、職員室に用事があったのかな?)

 

まさかこの救命士の人が、うちの生徒の誰かとつき合っているんだろうか。だとすれば、けっこう問題のような気がする。

そう思ったら背中が急に寒くなった。

 

(そういえばこの人、どうして私の名前を知ってたんだろう?)

(知り合いの妹に似てたってごまかしてたけど、そんな偶然みたいな話信じられないよ)

(やっぱり私が覚えていないだけで、この人は私のことを知ってるのかな?)

 

どうして名前を知っているのか聞いてみたい気もしたけれど、それは昨日のうちに済ませた話題のような気がして尋ねる勇気が持てなかった。もしそれをほじくり返したら、知ってはいけないことを知ってしまいそうな気もする。

 

「あ…えっと、勉強ご苦労様でした。」

「昨日はご迷惑おかけしました。せっかくの講習だったのに、受けられなくて残念です。」

 

発作を起こした私は、翔太くんの機転のおかげも合ってなんとか症状を落ち着かせることができたんだけど、講習のセッティングを行う役目をまっとうできずに講習まで休むはめになってしまった。学校行事はどれも楽しくて休んだことがなかったから、保健室で目を閉じながら残念に思ったことが今でも思い出されるくらいだ。

 

「あれから体調はどうですか? ちょっと気になったもので。」

 

患者さんの術後を心配するような顔をされ、なんとなく照れくさいようなむずがゆいような、そんな気持ちになった。

まさか自分を心配してわざわざ様子を見に来てくれたなんてことはないだろうけど、心から心配してくれているのは声と表情からもすぐに窺い知ることができた。

 

「はい。おかげさまで、すっかり元通りです。」

「それはよかった。」

 

ふわりと微笑む目尻がやさしげに細められていく。大人の男の人なのに、どこか少年のような面影を残した人。たしかに爽やかでかっこいい人だ。

 

「これから帰るんですか?」

「はい。」

「結城くんも一緒に?」

「はい。」

 

「はい。」としか言えないでいると、翔太くんは私の代わりに会話をつなげようと必死になっていた。どっちかというとそんなに口がうまいほうではない翔太くんは、せっかく来てくれた救命士さんに悪いと思ったのか、たいして弾まない会話なのに終わらせようとはしなかった。

 

「そうなんです。たまたま今日は部活を休むことができたんで。沖田さんは?」

「私ですか? 今日は非番なんです。いつもはこんなふうに出歩いたりはしないんだけど…」

「星を心配してくれたんですね? すっごいいい人だよな。そう思うだろ?」

「えっ!?」

 

不自然なほど相手の行為を褒める翔太くんに、私は違和感しか感じなかった。たしかにいい人なのかもしれないけど、そこまで褒めるほどのことなんだろうか。ちょっと強引すぎると思う。

 

「星を心配してわざわざ学校まで来てくれたんじゃないか。もっとちゃんとお礼を言わなきゃだろ?」

 

(どうしてそんなに強引なんだろう?)

 

相手に思いっきり見えるようにして、しきりに肘を突いてくるのはなぜなんだろう。自分でも改めてお礼を言おうとは思ったけれど、それは翔太くんに急かされてでもしなければならないことなんだろうか。

だいたい今日の翔太くんは変だ。突然一緒に帰りたいと言ってみたり、自分から誘っておきながら約束を破りかけたり、お礼を言うのを強要したり。何かが変だとは思うのだけど、私だけ知らされていない何かのような気がしてなんだか不快だった。

 

「そんな…別にいいんですよ。私が好きでやっていることなので。」

「はぁ…ありがとうございます。」

 

困ったように笑われても、私だってどうしていいのかわからない。思わず隣の翔太くんを睨むと、「なんだよ」という顔をされてしまった。

 

「…なんだか逆に迷惑だったみたいですね。気を悪くされたのなら謝ります。すみません。」

 

(私が悪者みたいになってるけど…)

 

「そんなことはないんですけど…こちらこそすみませんでした。」

 

気まずさにこちらも謝るしかなかったけど、お互いに頭を下げ謝る格好が滑稽だった。翔太くんはこんなことをさせたいがために、この人を引き止めていたのだろうか。

ぺこぺこと下げた頭をふと戻せば、いつの間にか救命士の沖田さんは無言で私を凝視していた。さっきのやさしそうな目とは違い、私に訴えかけるように寂しそうだ。

 

(…すっごい見られてる)

 

こういうときに限って誰も言葉を発しない不思議。翔太くんは何を考えたのか、急にスマホをとりだしてメールを打ち始めた。私はどうしていいのかわからなくなって視線を足下に移すと、寂しそうな視線から逃れるようにぎゅっと瞼を閉じた。

印象的な目。瞼を閉じてもそれはリアルに浮かんでくる。脳裏に一度焼き付いてしまったあの目は、きっとしばらく忘れることができないだろう。

 

??どうしてそんな目で見るの?

 

そう尋ねることができたなら、私はその目を忘れられたのかもしれない。

私をじっと見つめる瞳は、他の誰かを重ねているようにも見える。その人は一体誰なんだろう。家族だろうか。恋人だろうか。それとも、失った誰かだろうか。

 

(なんか複雑…)

 

自分の知らない誰かの代わりになるなんて、そんなことできるわけがない。第一、そんな役割を頼まれたとしてもお断りだった。事情なんてわからない。だけど、その目が私にわずかな期待を寄せていることを私はなんとなしに気づいてしまったのだ。そして、翔太くんは真相をわかったうえで、私をこの人に近づけさせたんだろう。

 

(だとすれば、翔太くんにも関係あることなんだろうな)

 

いくら気心が知れているとはいえ、翔太くんはおいそれと面倒事に巻き込んだりしない人間だ。筋の通ったことしか認めない主義でもある。これまでの行動でデタラメだったことなどひとつもなかったし、そこにはいつも彼なりの理屈が通っていたものだ。

 

(だったら、なんで前もって教えてくれなかったんだろう?)

 

それすらもちゃんとした意味があるのかもしれないと思った。前置きがないということは、自力で答えに辿り着けという意味だろう。強引で意地悪な方法だと思ったけれど、このままうやむやにすれば気になって眠れそうになかった。

 

「それじゃ、二人とも気をつけてお帰りください。私の用事は済みましたから、これで…」

 

最初に沈黙を打ち破ったのは救命士さんだった。私たちを置いたまま立ち去りそうになって、スマホから慌てて顔を上げた翔太くんが手を伸ばす。その拍子にスタンドを立ててあったはずの自転車が、勢いよく地面へと叩きつけられてしまった。倒れた衝撃で車輪がくるくると回転している。勢いよく伸ばされた翔太くんの腕が、自転車のどこかにぶつかって倒れたらしい。

翔太くんは軽く腕を押さえながらしかめっ面をしていた。ガチャンというその音に驚いた救命士さんは、しばらく動きを忘れたようにその場に立ち尽くしていたけれど、やがて複雑そうな顔色を浮かべながら私たちのいる場所まで戻ってきてくれた。呼び止めるために無頓着だったとはいえ、少し派手がすぎたように思う。

 

「怪我はないですか?」

「はい。ちょっとぶつかったくらいで、たいしたことはありません。」

「もう、びっくりしましたよ。肝が冷えた。」

 

救命士の沖田さんはそう言いながら、しゃがみ込んだまま私を見上げていた。気が気じゃなかったと言いたげに、私の無事を確かめるみたいにじっとこっちを見つめている。言葉では遠慮がちに話すけれど、彼の瞳は遠慮知らずだ。そのギャップに私はどぎまぎとさせられる。

 

(なんかもうどうしていいのかわからないよ)

 

もしかしたら沖田さんは、自分の知らない私を知っているのかもしれないと思った。もしそうだとしたら、私はそれを知りたいとも思う。でも、一体何を始めたらいいんだろう。

私は彼のことを知らない。名前だって昨日覚えたばかりだし、救命士だということ以外には何も知らないのだ。このまま近づいていって知ろうとすることは、果たして自分にとって本当に正しいことなんだろうか。

 

「驚かせてすみませんでした。よかったら途中まで一緒に帰りませんか? ただそれを言いたかっただけなんだけど、失敗しました。」

 

注意散漫のせいで自転車を倒してしまったことを恥じたのか、翔太くんは情けないというような顔で笑っていた。反射神経も良く普段から要領のいい彼からすると、こんな些細な失敗でも恥ずかしいのかもしれないと思った。

 

「ええ。いいですよ。彼女さえ嫌じゃなければ。」

「嫌なわけがない。そうだろう? 星。」

 

翔太くんも沖田さんも同時にこっちを向いて、まるで示し合わせたかのように期待のこもった目をしていた。

そんなふうに迫られたら、嫌だなんて言えるわけがない。同意せざるをえない私は、渋々と頷く。

 

(翔太くんてば、ホント強引なんだから)

(この状況で嫌だなんて言えるはずないよ)

 

ほっとしたように表情を緩める沖田さんを見ていたら、たかが一緒に帰るくらいのことで躊躇してしまった自分がとても薄情な人間のように思えてきた。もしかしたら帰り道で謎が解けるのかもしれないのに、私は今一歩踏み出すことの怖さみたいなものを感じていた。

 

「それじゃあ、行きましょう。」

 

翔太くんの号令のもと歩き出した私たちはまっすぐ帰るわけでもなく、途中で寄り道をし、お茶をすることになってしまったのだった。

説明
艶が〜るを元にした長編です。ここらで文章がますます劣化します。
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タグ
艶が〜る,沖田総司,結城翔太,現代,長編

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